命改変プログラム

ファーストなサイコロ

曇天が空を塞ぐ



 僕達はようやく祠の鍵である五つのお札を手に入れる事が出来た。なんかもの凄く疲れた感じがする。まさかここでこんなに時間を取るとは思って無かったんだ。
 だけどまあ、結果オーライ。鍵はなんだかんだで手に入ったし、ここからが本番だぜ。変態との戦いなんて前哨戦だ。まあ随分振り回されたけど、ここからだ。


「娘っ子達。またきておくれ! 絶対絶対また来ておくれじゃ!」
「誰が来るか!!」


 どうせ変態な事しかされないもんな。セラが完全拒絶するのも当然だよ。だけど変態はめげずにシルクちゃんにも声をかけるよ。


「優しい方の娘っ子は来てくれるじゃろ? 儂と良いことしようじゃ! きっと気持ちよくしてやるぞ」
「え? え? 気持ちいいって……そんな……私だってそんな事されるなら無理です!」


 シルクちゃんはそう言って駆け足で出口へいち早く逃げていく。全くこれ以上シルクちゃんにセクハラするなよな。シルクちゃんはやっぱり純情なんだぞ。


「変態さんダメだよ! シルクちゃんを泣かせたらダメ! クリエ許さないよ!」
「むひょひょ、ならお嬢ちゃんが爺の相手をしておくれ。大丈夫、儂が手取り足取りいろんな事を教えて――ばぎゃ!?」


 僕は変態の後頭部をおもくそブッ叩く。おいおい、子供に何言ってるんだこの変態。お巡りさんに引き渡した方が絶対にいいよ。


「何するんじゃ!?」
「何するんじゃ!? じゃねーよ。お前何を子供にいってんだ? 許されると思うなよ」


 僕は指の骨をゴキバキ鳴らしながら脅しをかける。だってクリエに手を出そうとか、変態エロ爺じゃすまないからな。


「あははははは、スオウに怒られてる~。変態さんなんだかエッチだもんね。お姉ちゃん達にはわかるけど、クリエはまだまだ子供だよ。
 それにクリエはスオウが居るから変態さんはいらなんだもん」


 そう言ってクリエは勢いよく僕の足に飛びついてくる。てか、クリエの中ではコイツの名前変態で固まってるな。まあ実際そうだし、全然問題は無いけどクリエの奴は変態を正しく理解してその言葉を使ってるのだろうか?
 ただ僕達が「変態変態」と呼んでたから、名前としてただ変態と呼んでるのか……


「スオウスオウ!」


 僕の名前を呼びながら頬をすり寄せるクリエ。こういう時はなんだかやけにクリエが愛らしく見えるな。まあ小さいし。変態は別に変態さんと呼ばせといていいか。


「ふふふ、クリエちゃんと言ったかな。女の子とはその時その時で輝いてれば年齢なんて関係ないのじゃよ。年をとったからと言って枯れ果てては意味がないのじゃ。
 女の子の輝きは年齢でも経験でも無いのじゃよ。今この時を楽しんで生きてるか……その点では君も十分魅力的じゃ! 勿論めんこい娘っ子二人も最高じゃ!」


 自分の変な理論を熱く語る変態。それで一体どうなるとコイツは思ってるんだ? 実際クリエはよくわかってないみたいだよ。顎に指を一本添えて「う~んとね」としてる。僕もそうだしな。実際良くわからん。
 まあ楽しんでる生きてる子が輝くのは実際当たり前だし。何となくで生きてる奴はそんなキラキラ出来ないよ。それにLROは夢を見る場所。輝きを取り戻す場所みたいなものだしな。輝きを忘れた大人がもう一度輝いたりしてるはずだよ。
 社会を知らない僕とか子供は、きっと自分に何が出来たり、どこまでやれたりするのか……そしてリアルでは味わえない刺激を求めて輝くのだ。
 てなわけで、LROに居る人たちはきっとみんな輝いてると思うよ。


「う~んクリエも輝いてるのかな?」
「輝いておる! 儂の目には狂いはない!!」


 力強くそう言い切った変態はクリエに向かって親指を立てる。そんな変態の様を見て、クリエは弾ける様な笑顔と共に嬉しそうにこう言うよ。


「うん!!」


 なんか良い話っぽく締めようとしてると感じるのは僕だけか? 変態の癖に……


「ちょっとさっさと行くわよ。こんな変態と同じ空気なんて一秒でも長く吸いたくないわ」


 セラがそう言ってメイド服のスカートを翻して階段を上がってく。するとそんなセラの声に反応してクリエがセラの後を嬉しそうに追っていくよ。


「セラちゃんセラちゃん、クリエ輝いてるって!!」
「はいはい良かったわね」


 階段を上がってるセラに後ろから特攻をかましたクリエ。だけどそれを別段気にした風もなく、流しながら上がってくセラ。
 相変わらず感情の差が激しいな。クリエは一人で盛り上がってるのわかってない。まあクリエはあの態度がツンデレだと思ってるから全然気にしてないのだ。
 さて僕も行くかな。そう思って歩き出すと、後ろから変態の声が。


「のう若人よ。あの小さな子をよろしく頼むのじゃ。あの子はきっと大変じゃろうて……」
「アンタ……クリエの境遇わかってるのか?」


 初対面の筈だろ。クリエはサン・ジェルクから出たこと無い筈だ。それこそ僕達と出会うまではさ。だからこの変態がクリエの事情を知ってるはずがない……筈なんだけど。


「お主儂を誰だと思っておるのじゃ。あの子の事は儂も勿論聞いとるよ。寧ろあの子が発見されて一番最初に連れてこられたのがここじゃしな。
 まああの子は覚えてないじゃろうが……そのとき、儂はあの子に宿る力を感じたよ。どうやらあの時懸念してた事が、起こりだしてる様じゃな。
 サン・ジェルク側では無いお主等があの子をここに連れてきてそう思った。きっとあの元老院共は昔から何一つかわっとらんのじゃろうな。
 やれやれ、警告はしておいたんじゃがな」


 おいおい、なんか変態が深刻そうな話を降ってきたぞ。女の子達も上に行ったから、興奮できる物がなくなって思考が落ち着いたのかも知れないな。
 てか、そう言えばコイツずっと昔からこの場所にいるんだよな。しかも昔の教皇な訳だし、確かに真っ先に頼るには値する――のかな? 


「アンタはクリエが神の力を宿してるって知って、奴らになんてアドバイスしたんだよ。警告って?」
「それはほれ、大切に育てないと大変な事になるぞよ――とな」


 アバウトだな。てか、それはアドバイスとは言えないぞ。そんなの誰もがわかってる筈だったろ。きっとそんな言葉誰も求めてなかったと思う。


「アンタにちょっとでも期待した僕がバカだった。結局アンタにもクリエの存在はわかんないのか? どうして神の力をあんな子がその身に宿してるのか? しかもその力が二人の神の力である事とかさ」


 重要なのはそこだろ。大切に育てろとかじゃなくて、原因とかだよ。昔の奴の知恵を貸して欲しいんだ。何か機密めいた物は持ってないのかよ。


「二人の神の力……まあ確かにそれはなかなかに難しく謎な問題じゃな。あの子には親もいないし、発見された日以前の記憶もないようじゃしな。
 もしかしたら本物の神の化身がモブリの姿を借りて降りてきてるかもしれんぞ」
「そうだとしたら、二人の神の力を持ってるのはおかしいだろ」


 どっちかの神だとしたら、持ってる力はそのどっちか一方の力の筈だろ。


「それならばこの世界は実際、シスカ神とテトラ神の両方の力が織り合わさって出来てるから、あの子は実は世界の化身という見方も出来るかもしれんな」
「アンタ……真面目に考えてるのか?」


 なんかさっきから冗談にしか聞こえないんだけど。そもそも神とかいう言葉を頻繁に出してる辺りが既に冗談っぽい訳だけど……そこは実際しょうがない。
 けど変態の奴はなんか面白がって言ってるもん。実際コイツの本気具合が僕にはわからない。


「いや~実際儂にもあの子の事はわからんわ! それにほれ、あの子の事は今を生きてるお主達に任せると決めておるんでな。真面目になど考えてはおらん。
 ただ大事に育てろと言ったのは、あの子も将来が楽しみじゃからじゃ!」
「この変態が……」


 なんかすっげぇ時間を無駄にした感じがする。結局真面目になんか最初から話してなかったのかよ。


「かっははは、いつまでもこの世を去った者に頼ってどうするのじゃ。世界とは続く限り受け継がれて行く物じゃ。だから今を救うのは今を生きる物でなくてはならん。
 そうせんと、お主達は胸を張って次の世代に世界を引き渡せぬじゃろ? 大丈夫じゃよ。お主等があの子を大切に思い。ちゃんと見て聞いて、起こる出来事を乗り越えていければ、その意味はきっといずれ知れる筈じゃ。
 だから倒れるで無いぞ少年。お主の輝きは他の物とは少し違うように見えるでな」


 最後の言葉は良くわかんなかったけど、なんだか多少だけど背中を押される言葉だった。いつものノリで喋ってた癖に、言葉は今までで一番マトモだったよ。
 僕たちは知らず知らずにこの世界の今を託されてる訳ね。このLROという世界に居る誰もがみんな。それはきっとリアルも同じ。
 出口の方からクリエが僕がついてきてない事に気づいて戻ってくる。階段をテトテトと降りきる所で足を引っかけて転ぶ。僕はそんなクリエを見て笑いを堪えながら近づくよ。


「大丈夫か?」
「むむー! スオウのせいなんだから! 抱っこ!!」


 クリエは僕に向かって両手を伸ばす。僕は「はいはい」と良いながらクリエを抱えた。そして仙人変態モブリへと向き直ってこう言った。


「倒れたりしないさ。だからここで見てろ。受け継がれてきたこの世界で、今度は僕たちが何を成せるのか」
「どう言うこと?」


 クリエが僕の腕の中でそんな事を聞いてくる。どういう事なのか自分にもわからん。だけど、今はあの変態にこう言いたくなったんだ。


「そうじゃな、まずは聖獣をお主等が倒せるかが問題じゃな」


 なんか冗談めかしてそう言われた。なんかやたらコイツもテトラも聖獣を持ち上げるよな。そんなに強敵なのか?


「大丈夫だよ! スオウ達ならチャチャっとやっつけれるもん!!」


 抱えられてるクリエが両手を振り回して息まいてる。おいおい戦わない奴が言ってくれるな。まあ弱気に成ってられないか……


「その通り、そんなもんチャチャッと倒して見せるさ」


 僕もついにはそう宣言して、この場所から出る。するとみんなが呆れた様な顔して待ってたよ。


「アンタ良くもあんな事言えたわね。聖獣がどれだけ強いかもわかってないのに、全く……」
「本当にいつも自信だけはある奴だな。根拠はないが」
「ははは、だけど弱気よりは良いさ。何だって自信は大切だ」
「でもっすねテッケンさん、自信と調子に乗る事は違うっすよ。スオウ君はもっと自分の命がやばいって事を自覚するべきっす」
「大丈夫ですよノウイ君。スオウ君は絶対に私とピクが死なせません!! それはこのパーティーのヒーラーである私の使命です!!」


 セラも鍛冶屋もテッケンさんもノウイもシルクちゃんも、みんなそれぞれの形で心配はしてくれてるんだよね。


「クリエもスオウの事を心配してるからね。えへへ~」
「抜かせ、お前に心配されるほど落ちぶれちゃ無いっての」


 僕は抱えてるクリエの頭を軽くコツンとしてやるよ。でも叩かれたのにクリエの奴はまだ笑ってる。やけに嬉しそうにさ。


「不気味な奴だな全く」
「だってクリエは嬉しいもん。こんなスオウと一緒に居れる事、みんなと一緒に居れること、いっぱいいっぱい楽しいから嬉しい!
 楽しくてお腹が一杯だよ。きっと大丈夫って思える。みんなが居ればきっと大丈夫だよ!!」


 クリエの言葉がこの場に響く。僕たちはそれぞれの顔を見回した。みんななんかクリエの言葉を微笑ましく受け取ってるよ。
 実際、確かにこのメンバーなら何だって出来る気はするよ。後アギトが居たら完璧だったな。みんな頼りになる。何百万人と居るプレイヤーの中で、このメンバーに出会えて集まってる、その事が僕の一番の幸運なのかも知れない。そりゃあ強い人達はまだまだ幾らだって居るんだろうけど、僕はこのメンバーで良かったと、そう思えるよ。
 なんだかメンバー全員で変な沈黙が訪れてる。すると部外者って言うのも失礼だけど、一番付き合い短く仲間とも言えるのか微妙なリルフィンが割ってはいる。


「何やってる貴様等、ここからが本番だぞ。気を緩めてる暇など無い。それは聖獣を打ち倒した後にしろ」


 そう言ってリルフィンはローブを翻して表側へ。神壇を回り、この部屋の出口の方へと向かう。僕達も気を引き締めてその後を追うよ。神壇の前へ出るとき、僕はそこに奉られてるテトラの像を流し見る。
 この像へと顕現したテトラ。実はまだこれを通して見てたりするんじゃ無かろうか? そう思って僕は口だけ動かしてこう言った。


『最後まで期待して見てろよテトラ』


 僕達は進む、目指すべき戦場へ向かって、自分達の可能性を信じて。






【封印の祠一】


 足の甲まで浸かる薄い緑の水で辺り一面を覆われた空間。空は丸く下の水と同じ色で染まってる。そんな中に聖獣と呼ばれてるそのモンスターは居る。
 それは石膏の様な体をした人型のモンスターだ。女性の体に鎧と盾を装備し、顔には額から刺が一本飛び出した仮面を被ってる。
 だけど一番の特徴はそこじゃない。一番の特徴はその髪だ。そのモンスターの体で一番動くのがその髪……さっきから蛇みたいにウジャウジャと蠢いてる。――というか、明らかに奴の髪は蛇だった。
 そしてその蛇が信じられない位に強力な攻撃をかましてくる。
 蛇の瞳が光り放たれる閃光。視界を極端に奪われつつも僕達はこの攻撃を絶対にかわさないといけない……出ないと……


「ぐっ……」


 避け損ねた。体が急に重くなって一歩も動けない――というか、もう一歩も踏み出せない状態だ。僕はバランスを崩してその場に倒れる。
 緑の水が勢い良く弾けた。動かない足を見ると、聖獣と同じ色になってカチンコチンだ。つまりは石膏の様にされてる。
 あの蛇の攻撃は放った光に触れた全てを石化させる。そんな蛇が髪の毛の様に蠢いてそれぞれからそんな攻撃をしてくるんだ。
 僕達は近づくことさえ出来ずに、既にテッケンさんと鍛冶屋をやられてる。
 部分石化だから僕はまだ戦闘不能と見なされてないけど、全身を覆う完全石化は戦闘不能と同じ。ヒーラーに回復して貰うしか手だてはない。
 それか自身で戦闘不能を認めて、戦線を離脱するか――その場合はこういう特殊な戦場の場合は外に弾かれる。この戦闘が決着するまでは中に戻る事は出来ない。
 だからこそ、テッケンさんも鍛冶屋もまだ石化した状態のままここに居るけど……実際、回復を行う暇なんて無い。


「スオウ君!!」


 パシャパシャと水を弾いてシルクちゃんがこちらに向かってくる。そして素早くピクを呼んでストック魔法を発動仕掛けたときに再び閃光が僕達の視界を奪う。
 バシャン!! と何かが水に落ちる様な音が響いて、飛沫が顔に掛かる。目を開くとそこには石化したピクの姿があった。


「はっ! シルクちゃ――」


 視線をそちらに向けたとき、その姿もグラリとバランスを崩して水へと倒れる。さっきよりも大量の水しぶきが僕へと掛かる。
 だけど僕は瞬きすらしなかった。水が目に入ってもその姿から目を離す事が出来ない。


「な……んだよこれ……なんだよこれ……なんだよこれ!!」


 僕は歯を喰い締めてセラ・シルフィグに力を込める。セラ・シルフィングは僕の意志を理解してその刀身に青い雷撃を放ち出す。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 僕は水に腰をつけたまま片方のセラ・シルフィングを振り抜いた。水面を青い雷撃が走る。そして聖獣へと炸裂した。白い煙が上がり聖獣の姿が見えなくなる。
 だけど直ぐにその攻撃が無駄だとわかる。いや、僕はわかってた。だけど一矢報いる事をしない訳にはいかないじゃないか!


「くそったれ……」


 聖獣はその手に持った盾で僕の雷撃を防いでる。そして次の瞬間、僕の放った筈の攻撃がその盾から放たれるんだ。


「ぐああああああああああ!!」


 体中がビリビリする。石化の攻撃と攻撃を吸収して返す盾……こんなの……僕は水面に視界の半分を浸してそんな弱気に捕らわれようとしてる。
 すると聖獣が盾を横に退けてこちらを見据えてるのが分かる。これは次の一撃で僕も石化されちゃうな。動く事も出来ないし……実際石化の場合は自分自身どうなるんだろう?
 今までは斬られたり貫かれたりして体にダメージが残っていったけど、実際石化ってピンとこない。別に痛い訳じゃないしな。
 ショック死するって事は無さそうな……って何を僕はもう諦めモードなんだよ。ついさっきまでの威勢はどこにいったんだ。
 まだ僕はやられてない。なら、可能性がゼロって訳じゃ無い!!
 閃光が視界を奪う。だけど僕は関係無しに、反対側で帯電してた雷撃を放った。だけどどうやら視界が奪われてたせいで振り抜きがおかしかったのか、直ぐ目の前で水柱があがってしまった。
 だけどどうやらおかげで光は僕まで届かなかったらしい。怪我の功名と行う奴か……何とか命は繋げれた。だけどピンチは変わらない。水柱の向こうの聖獣は一ミリもステータス減ってないしな。


「ん?」


 そう思ってると、こちらに向いてる蛇の一体がボロっと頭から崩れて落ちた。どういう事だ? 僕何かやったっけ? そう思ってると、他の蛇どもがこちらを向くのが見えた。ヤバい、怒ってらっしゃるぞ。僕は逃げようとするけど、足も動かないし、水も邪魔くさい。
 無数の瞳が光を集めてる。二度も偶然は続かない。そして視界を奪う光が弾ける。


「ぬあ!?」


 目を閉じて次ぎ開けたら、何故か空中に居る僕。一体何がどうしたって言うんだ? ピンチに陥って僕の中に眠ってた潜在的な能力が目覚めたとでも言うのか?


「何呆けてるっすか!? しっかりしてくださいっすスオウ君!!」
「ノウイか……何だ……」
「何故にガックリ!? 助けたんすよこっちは!」


 はは、悪い悪い。ついね。自分の隠された飛行能力が遂に目覚めたと思ったから、なんか普通にノウイに助けられてた事に拍子抜けしただけだよ。


「――とっ」


 下で再び光る聖獣を確認して、ミラージュコロイドで一瞬に」して今度は地面へ。これは凄いな。流石避けるだけは一級品だぜ。


「凄いなノウイは。助かったよ」
「いやいや何、自分にはこれしか出来ないっすからね。既にミラージュコロイドは展開してるから、自分が守って――」


 その瞬間どこから来たか分からない光がノウイを襲った。石化したノウイは、地面に倒れる。一体どうして? そう思ってて僕は気付いた。まさか……ミラージュコロイドの鏡が聖獣の光を反射して? なんて事だよ。
 最大の武器で墓穴を掘ったなノウイ。てかどんどん味方がやられていく。あと残ってるのはセラとリルフィンだけだ。
 二人とも僕より善戦してるけど、やっぱりあの盾に全てを防がれてる。


「ああもう!!」


 鬱陶しくなったセラは大量の聖典を投入して、物量で押し切ろうとする。全方向からの一斉射撃。これなら行けるかも知れない。あの盾にだって限界はあるし、全包囲を覆える物でもなく、盾を使ってる間は攻撃出来ない。
 この間に二人は僕の元に近づいてくる。そして僕の前に立つとこう言った。


「スオウ……あんたは今の内に離脱しなさい。この状況で奴を倒すのは不可能だから、せめてアンタは生きてここから出て!!」
「セラ……」


 セラの言葉に僕は衝撃を受ける。なんでお前がそんな事を……いや、そんなの決まってる。僕達はいがみ合ってても仲間だから。


「それが良いな。貴様はここで死ぬべきじゃない」
「何いってるの? アンタもさっさと行きなさいよ!」
「私もか!?」


 驚愕してるリルフィンをセラがおもいっきりひっぱたく。小気味良い音がこの空間に響いたけど、実際聖典の激しい攻撃の渦の中にその音は消えた。


「当たり前でしょ。アンタの命もこの世界に生きてる限り有限よ。それにそこの役立たずは一人じゃ出口までも行けないわよ。だからお願い、アンタが連れてってやって。
 私がそのための時間を稼ぐ」
「お前……」
「……やれるのか?」


 僕とリルフィンはセラの背中にそれぞれ声をかける。


「そんなのわかんないわ。だけど他に誰が居るのよ。テッケンさんもノウイ鍛冶屋もシルク様も……みんなみんなやられてる。
 そのみんなの思いはね、アンタを今ここで殺させない事だと私は思ってる。だから、この私が体を張ろうって言ってやってるの。
 大丈夫……これは貸しにしといてやるわ」


 その瞬間、聖典の今までの攻撃が反転した様に跳ね返って来た。上から下へ降り注いでた攻撃が下から上へ、眩しい程に炸裂する。
 聖典が次々に落ちていく。だけどセラはもう片側に残してた聖典を展開させて、振り返らずにこういう。


「行きなさい……早く!!」
「済まない……」


 リルフィンが僕を抱えて走り出す。遠ざかる背中を見ながら僕はずっと叫んでた。だけど結局セラは一度も振り返らずに、たった一人で聖獣へと向かっていく。
 残った聖典はたったの三機……それでも彼女に迷いは見えない。僕は歯を噛みしめて叫ぶのをやめた。
 生き残るんだ。命を繋げれば、次がある。情けなくて仕方ないけど……今の僕にはセラの心意気に縋るしか出来なかった。



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