命改変プログラム
帰ってきたら
「……ウ。ス……ウ!」
「うん……」
なんだかユサユサされてるような……遠くから聞き覚えのある声が呼んでる様な……
「こらぁ! 起きなさいスオウ!!」
「うお!? ――ってクリエか……」
耳元で大きな声を出しやがって、思わず飛び起きたじゃないか。それになんか頭がガンガンするし気分が最悪。
「だってだってスオウ全然起きないから、クリエに感謝して欲しいくらいだよ」
「あのな……ずっと起きなかったのはお前で、僕に感謝しなきゃいけないのも実際お前……あれ? お前目覚めてる? 幻覚じゃない?」
僕はクリエの頭に手を置いてグリグリ左右に振ってみる。おお、ちゃんと触れるぞ。いや、まあ担いで来たのは僕なんだから当然と言えば当然か? でもこうやってちゃんと動く様は実際箱庭以来見てないからさ、もしかして僕の幻覚かと……頭痛いし、あり得るかなと。
「あうーちょー、なにするのスオウ! クリエはクリエは本物だよ! 幻覚とかじゃないよ! クリエは世界で一人! クリエなんだから!」
「意味は分からんけど、実体っぽいな」
てか、早速勢いで訳分からん事呟いてるし、確かにクリエだな。なんか随分久しぶりにコイツを感じたって思うな。
「ムゥー! だからクリエはクリエだよ。スオウこそ本物なのか怪しいよ」
「は? 何言ってるんだ? お前をここまで運んだのも、目覚めないお前をこうやって元気にしたのも僕だっての。罰当たりなガキだな本当に」
僕は更に腕を大きく回して、クリエをグリングリンしてやる。「アウーアウー」唸る様が面白い。そう思ってると、僕の腕を振り払って怒りだした。
「んもーーーー!! やっぱり怪しい! スオウはクリエの奴隷なんだからこんな事しないもん。だからアンタみたいなイジワルはクリエ嫌いです!!
本物のスオウを出しやがれ!!」
「おいおい、女の子が出しやがれとかは止めた方が良いぞ。可愛くない。てか、僕は僕だしな。そもそも誰がいつお前の奴隷になったんだよ。そんなスオウは知らんな」
少なくとも僕が知ってるスオウはそんな約束してないと思う……てか、奴隷とか良く知ってるな。誰だよそんな言葉教えた奴は。
「むむむ……知らないってやっぱり私の知ってるスオウじゃないんだね。本物はどこ?」
「いや、本物は僕だぞクリエ。良いか? さっきの言葉の意味は僕はお前の奴隷になった覚えはないから、そんなスオウは存在しないと言ったんだ。分かるか?」
「ほえ?」
クリエは僕の言葉の半分も出来てない顔を向けてるよ。まさにバカっぽい顔だ。そう言えばコイツバカだったな。難しすぎたか。
「もう! そんな事でクリエの事惑わそうとしても無理だからね! スオウがスオウなら、スオウの証拠を見せてみてよ!」
スオウスオウとウルサい奴だな。僕がスオウだって何故にわからん。そもそも自分を証明する術なんか……ああ、そうだ。
「ほら、これでどうだ!」
「これは!?」
ズガーーンと衝撃を受けた顔をするクリエ。僕が見せたのは腕に広がる呪いの模様だよ。これを受けてるのは、LRO広しといえどもきっと僕だけだろうからね。なんか思わぬ所で役に立った……のか? まあ取り合えずこれで信じてくれるだろう。
「そんなにスオウはその模様広がってなかったよ。偽物だね」
キラーンとして「やったぜ」みたい目を光らせてそう言ったクリエ。いや、お前やっぱりバカだろ、と僕は思ったよ。
「教えてやろうかクリエ? お前は箱庭から一緒に出たと思ってるだろうけど、周りよく見ろよ。ここは既にサン・ジェルクじゃない。
お前はさ、しばらくずっと眠ってたんだ。だから時間もそれなりに経ってる。この模様が広がってるのはそのせいだ」
僕の言葉に目をパチクリと瞬かせるクリエ。必死に今の僕の言葉を頭の中で理解しようとしてるみたいだ。
「えっと……模様が広がるって、スオウはそんなバカな事言わないよ」
「えええええええええ!?」
だよ。ビックリだ。まさかクリエにバカって言われる日がくるなんて……
「あれ? この模様の事言ってなかったっけ?」
「見たことはあるけど、ちゃんとスオウは教えてくれなかったよ。だからさも当然の様にそれを見せつけるバカは、逆にとっても怪しいよね。
それに模様が広がるなんて墓穴も良いところだよ! クリエの目は誤魔化せなんだからこの偽物!!」
「し、しまったあああああ!!」
バカに論破されちゃったよ。しかも子供に。なんだか僕の心が砕けそうだ。くっそ、バカな子供もなかなか侮れないじゃないか。そっか……ちゃんとこの模様の事話して無かったっけ?
まあよくよく考えれば、「これは呪いで、後少しで僕は死ぬかも知れない」とは子供に言えないよな。クリエは僕を頼ってくれてたし、尚更だ。
うう~~ん、だけどこうなったら逆にちゃんと言わないと信じて貰えそうにないよね。完全に僕の事偽物だと思いこんだみたいだし……
「――って、僕は本物だ。今の『しまった』は無しな。無し。お前の推理に乗ってやっただけだから」
「見苦しいぞ偽物! この名探偵クリエちゃんの目は誤魔化せないんだから!!」
おいおい、自分で名探偵言っちゃってるよ。ノリノリだな。全く、しばらく眠ってたから忘れてたけど、そう言えば面倒なガキだったなクリエって。
「たく、しょうがないからお前には真実を教えてやるよ。お前には言いたくなかった本当の真実って奴だ。心して聞けよクリエ」
「はいはい、今更何を言ったって無駄だろうけど、名探偵クリエちゃんは寛大な心の持ち主だから聞いてあげるよ。ホラホラ、言ってみ」
ムカってした。なんかムカッってさ。ふふ、名探偵? これを聞いてもそう言ってられるのか見物だな。この真実はお前には余りにも重く、残酷だ!
「実はこの腕の模様は呪いなんだ。邪神テトラに受けた呪い。この模様が僕の全身を包む時、僕は死ぬらしい。だからお前には言わなかった。言えなかったんだ。
これが……真実だ。すまないな、子供のお前には言えなかったんだ」
「………………」
どうやら言葉も出ないらしい。まあ無理もない。ショックだよな。そうで無いといけない事だ。社の周りを囲む枝がザワザワと波打ってるよ。
ほんと、何で風もないのにこの枝は揺れてるんだろうか? 不気味でならないよ。さて、これで信じて貰えただろうし、早速二人で戻ろう。ふふ、あのローレの奴の悔しがる姿が目に浮かぶ様だぜ。
まあ輪郭しか見てないけどね。僕は手を差し出して、歩き出す事を促す。だけどその時だ。ペシっと僕の手は弾かれた。
「なっ……何故!?」
「何故も何も、その話はどう考えても信じれないよ。クリエもテトラは知ってるけど、実在するなんて聞いたこと無いもん。そもそもとっても古い物語の神様だし。
今の話を信じろって言う方が無理かも」
なんてこった……確かに言われてみれば言葉だけじゃ今の話を信じろと言うのは無理かも知れない。プレイヤーならまだともかく、この世界で生きてるクリエには厳しい。あれ? もしかして僕ってこのクリエよりバカなんじゃないか? そんな衝撃の事実に気づいちゃいそうだ。やばい、どうにかして目を逸らさないと立ち直れないぞ。
僕がそう思ってると、更に追い打ちをかける様にこう言ってくるクリエ。
「そもそも神様とか――ププ、痛すぎるよね♪♪」
ズガーーーーン!! だよ。笑われた。自分よりも超ちっちゃい存在に心の底から笑われた!! 僕は膝から崩れ落ちるて頭を垂れるよ。僕のプライドは砕け散った。
「あっははーー、クリエちゃん大勝利♪ さぁ早く本物のスオウをだしなさい!」
「いや……だから僕が本物なんだよ」
「もう、往生際が悪い! 良いから早くスオウを――」
「いやいや、だから僕は正真正銘の……いや、実はもうスオウとは名乗れないのかも知れないな僕は……バカな子供の筈のクリエに負けたし」
スオウと言う名前に負けてる存在となってしまった訳だ。改名しないともうダメかも知れない。だけどよくよく考えたら自由度の高いLROだけど、名前はそう簡単に変えれないんだっけ? どうだったかな?
「――えっと……まさか本当にスオウなの? 私の知ってる?」
「ああ、だから何度もそう言ってるだろ」
「マジで?」
「マジマジ。もう忘れたのかよ。良く見ろ、どう見ても僕の筈だ」
そう言うと、まじまじと見てくるクリエ。なんか臭いとかまでクンクンしてるし、おいおいちょっと恥ずかしいぞ。まあ、もう無駄な張り合いするわけにも行かないし、心が砕けた僕はクリエを受け入れてるけどね。
「スオウの臭いがする!」
「そんなに臭うのか? それは流石にちょっとショックなんだけど……」
汗臭さとか、LROなんだから補正してる筈だと思うけど。だって女の子ってどんなに汚れてたって良い匂いするぞ。それこそ変な臭いをつけられない限り。それか肥だめにでも落ちない限りはな。
「ねえちょっとギュッてしてみて。そうしたらもっと確実に分かるから」
「ん……」
僕は気恥ずかしかったけど、両手を差し出してるクリエを優しく包み込んでやった。すると何を納得したのかわかんないけど、クリエはこう言ったよ。
「うん、スオウだね」
「何をお前を感じたんだ?」
「えへへ~」
ニコニコ顔のクリエが上機嫌になってる。たく臭うんじゃ無かったのだろうか。まあ納得してくれたんなら良いけどね。
「よし、じゃあ戻ろうぜ、みんな待ってるしな」
「みんな?」
「みんなはみんなだよ。シルクちゃんやテッケンさん。セラにノウイに鍛冶屋だよ。お前だって知ってるだろ。もう忘れたとか言うなよ」
僕がみんなの名前を出すと、クリエは横向いて「ああ~」とか呟いてる。本当に覚えてるのかコイツ? まあ顔を見れば自然と分かるよな。そんなもんだ。
「失礼だねスオウは。クリエちゃんと覚えてるよ。だってお世話になったし、私シルクお姉ちゃん好きだよ」
なんか一番優しくしてくれた人の名前を出した感はあるけど、まあ納得できるかな。シルクちゃんは優しいもん。それにいつもニコニコほわほわしてる感じだから子供にも確かに好かれそうではあるよな。
「まあシルクちゃんは当然だよな。じゃあセラとかはどうなんだよ? お姉ちゃんもう一人いたろ?」
僕がそう言うと、何を思い出したのか知らないけど、あからさまに顔を逸らすクリエ。えぇ!? どうしたんだ一体?
「……おい」
「セラお姉ちゃんは良いんじゃないかなアレで……なんだか私がスオウを振り回してると、敵意をビンビン感じるけど」
なんだそれ。そんな敵意のせいで苦手に思ってるってことかよ。たくセラも子供に何を向けてるんだ。まあだけど、よく考えるとあいつ僕とノウイ以外の外面だけは良いんだよね。
そんなセラがあからさまに敵意なんて向けるかな?
「気のせいじゃないのか? あいつ普段からギラギラした目してるから、そう感じただけとか?」
「ううん、クリエには分かるもん。女の直感あるもん。あれは絶対に敵意だった。それにいつも私を見下してるし!」
それはお前の身長上仕方ない事なんだけど。寧ろこのLROでお前を見上げる奴の方が希だよ。てか女の勘って、まだまだガキの癖に何を言ってるのか。
「はいはい、まあしょうがないよ。アイツ僕にも良く敵意向けてくるし、だからこう考えろ。
セラは実は恥ずかしがり屋のツンデレちゃんなのだ。ツンツンしてる部分は本当は本音を隠すための鎧。だから僕たちはその裏を知っとかなきゃいけないって事」
「ツンデレって何?」
おお、なんだか一般人的な疑問が帰ってきた。今時ツンデレも知らんとは、やれやれ公用語だぞ。
「ツンデレってのは普段ツンツンと素っ気ない態度や辛く厳しく当たってても、実は心の底では好き好き大好き言ってる奴の事を言うんだよ。
そんな好き好き大好きが時々デレッて出るときがある。だからツンデレ。分かったか」
「う~ん、じゃあ本当はセラお姉ちゃんはスオウの事好きなの?」
「う……」
僕の体が硬直したよ。確かにツンデレ理論で考えればそういう事になるんだろうけど……だけどリアルにそれが当てはまる人間が早々いるかな~と考えるとそうでもなさそうだよね。
嫌いな奴には嫌いな態度を取るのは当然だし、それでもつき合えるのが大人って感じ? まあだけど学校生活でも嫌いな奴はいるわけだし、そこは社交性の問題か。
セラのツンデレ説はヒドい扱い受けてた僕が、そう思えば我慢できると思えた時に考えたある意味妄想だしな。実際ここでセラが僕の事を大好きなんだぜ! とは言えないよ。何かの拍子にこいつが口を滑らせると、マジで殺されかねないし……さてどうしたものか。
「まあ好きって言っても色々あるしな。アイツと僕は今、頑張って友達になるための信頼関係を築いてる途中だから、ツンデレが出やすいんだよ」
自分で言ってて「なんだそれ」って思ったけど、もう押し通すしかない。
「ふ~ん、でも友達ってなろうと思ってなるものじゃないよね。いつの間にか友達が正解だよスオウ」
「なんかそれ、お前には言われたくない。てか、成長していくと、それだけじゃダメな時があるんだよ。友達を作るにも努力が必要って言うかさ……だから互いに頑張って、今は少しずつだけど改善してるんだぞ」
そうそう、何とか最近は暴言を吐かなくなってきたし、前よりは接しやすくなってると思う。やっぱり我慢を続けるよりも、ぶつかる事って大切だよね。
「ツンツンデレデレか……でも普通、嫌いって分かった時に一緒に行動しないような気がするけど」
「僕たちはやむを得なかったんだよ。色々とその時大変でさ。お互いの利害が一致したし、やらなきゃいけないことも互いにあって、だから僕たちはお互いを利用してたんだな。
その薄い関係改善を今計ってるんだよ」
なんだか順序を間違った感があるな、こうやって話してみるとさ。だからこそ僕達は互いを傷つけあってたのか。
「ねぇねぇ、スオウとセラお姉ちゃんはそれで良いけど、クリエにツンツンするのはじゃあ何でなの? 何もやろうとしてないよ」
「それはアレだろ。きっとアイツはああ言う性格だけど実は可愛い物好きだったりするんだよ。だからちっちゃくてヌイグルミみたいなお前が実は気になってるじゃないか? ほら、メイド服とか来てる奴だしさ」
完全に僕の勝手なイメージだけどな。だけどクリエは納得してくれたみたいだ。
「そうなんだ。確かに恥ずかし気もなく、メイド服着てるもんね」
にこっと笑ったその顔はとっても無邪気で愛らしい。だけどなんか、一瞬寒気がしたのは何でだろう。この純真無垢な少女の言葉の奥に黒い物を感じたから?
「だけどここでスオウにクリエちゃんから友達を作る上で最も大切な事をアドバイスしてあげる」
「うん? なんだいきなり?」
なんか話がこうホップしたな。てか、友達いない奴にどんなアドバイスが出来るんだよ。頭の中の妖精さんは希望してないんですけど。
「ふふふ、大切な事は一つだけだよスオウ。信頼関係とかツンデレとかじゃなく、スオウが本気で友達になりたいって思う気持ち! それがあればきっと誰とでも友達になれるの!」
大きく腕を伸ばして元気いっぱいにそういったクリエ。実際何の変哲もない、当たり前の事だけど……そうだなそれが一番大事かもね。僕はクリエの頭を今度は優しく撫で撫でするよ。
「おう、そうだな。大丈夫僕はちゃんと友達になりたいって思ってるよ。アイツ凄いしな。尊敬だってしてるんだぞ。だけどこの事は絶対にセラには言うなよ。
バカにされそうだからな」
「うん!」
なんだか幸せそうなオーラを放って、目を細めてるクリエ。そんなに撫で撫でが気持ちいいのか? ただ撫でてるだけなんだけどな。
「さて、本当にそろそろ行くぞ。今度こそ手を取ってくれるだろ?」
僕はそういって立ち上がり、クリエに手を差し出すよ。すると今度は迷わずそんな僕の手に、クリエの小さな手が重なる。そしていつもの元気な声で「うん!」と言った。
僕はクリエを今度は前で抱えて社を後に。すると待っててくれたモブリがこちらに気付いて丁寧にお辞儀をしてくれる。
流石出来たメイド……というか仲居かな。
「お疲れさまです。ご無事でなにより……クリエ様もお目覚めになられたんですね」
「ええ、おかげさまで。実際半信半疑だったけど、ローレには感謝してます」
僕がそういうと、仲居さんは誇らしげにこういう。
「当然です。ローレ様は素晴らしい人です。ふざけてる所も多々ありますが、そんな所も含めて私達はあの方を慕ってるんですよ」
本当に嬉しそうにそう言うから、ローレはやっぱりなかなかに凄い奴なんだと改めて思った。やっぱり自分で自分の事を「スゲー」というより、誰かから聞く方が重みがあるよね。
だけどホント……こんなに慕われてるのにあの性格は残念の極みだよね。ふざけてる所も多々? 僕には百パーセントふざけた所しかない奴だと感じたけどね。だからこそあの社の事だってなんだか信じれなかったしな。
まあ結果オーライだったけど。
「ねぇねぇローレって誰?」
僕の腕から興味津々にそんな言葉を紡ぐクリエ。
「ローレってのはここリア・レーゼの姫御子様だよ。とっても偉いんだぞ。立場だけはな」
「立場だけとは心外ですね。とっても立派な方です。クリエ様にはあの方の素晴らしさをとくとくと説いて差し上げますよ」
僕の言葉がちょっと気に入らなかったのか、仲居モブリにそう言われた。あはは……まあ何故か僕にじゃなく、クリエに説くのは意味が良くわからんけど、良いんじゃいかな?
僕は聞きたくない。元来た道を下りながら、僕達がそんな会話をしてると、間に挟まれたクリエが違うところに食いつくよ。
「そんなのヤ~。そんな事よりも今リア・レーゼって言った? クリエ、サン・ジェルクの外に居るの?」
「まあそうだな。僕達が連れ出した」
「外!? ホントに!」
クリエは僕の腕の中で暴れ出す。そして腕から飛び出して階段に降り立つと、勢い良く駆けだした。
「おい、ちょっと待て!」
僕はそういいながらクリエを追いかける。
「お二人とも何をしてるんですか? 主は待ってるんですよ」
そう言いながら仲居モブリも渋々僕達の後を追いかけて来た。鳥居が幾重も続く階段を下り、途中でアトリエに続く道も素通りして世界樹の大きな傘の一番下部分へ。そこでクリエは思わず立ち止まったよ。
「ふぁあ!」
そんな感嘆の声を漏らしてクリエは空中回廊ではしゃぎまくるよ。まあわからなくも無いけどね。実際この光景を目の当たりにしたらテンションおかしくなる。
「凄い凄い!! お星様がとっても近いよ!!」
そう言ってクルクル回りながら周りの星に手を伸ばすクリエ。まあ届くわけもないけど、だけど地上よりはずっと星に近い場所だよな。願い事が届きそうな距離というか……さ。実際さっきまでは世界樹の枝が邪魔だったからこんなパノラマ風景にはなってなかったもんな。
森を歩いてて夜だから暗いのかな~と思うくらいだったろう。だけど実際の場所を知ると、こうもテンションが変わるんだ。
なんだか心温まる気持ちでそんなクリエを眺めてたけど、アイツハシャぎ過ぎて端っこの方に近づきすぎたみたいだ。
突如足を踏み外して僕達の視界からその姿が消えた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「きゃああああああああああああああ!!!」
僕と仲居モブリさんは大絶叫してダッシュする。死んだろ……これは死んだ!! と思ったら、なんとか間一髪でクリエの手が床を握り締めてるのを発見した。僕は安堵して息を吐く。そしてクリエの手を取るために腕を伸ばすよ。
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