命改変プログラム

ファーストなサイコロ

星の声を聞く者



 引き戸を開けて中へ入ると、なんだか甘い香りが鼻を擽ってきた。そして同じ格好同じ姿の小さなモブリ達が、旅館の仲居さんみたいにかしづいた状態で「いらっしゃいませ」と言ってくる。
 てか、実際外に建てられてた看板みたいなアトリエって感じでもなければ、かしづきの人たちが居るような旅館って感じでもないんだよね。
 玄関だけを見るならば……これは相当に普通っぽい。ちょっとこじんまりとした玄関に、靴箱とかあって、普通に花瓶には花が活けてあったりさ、どうみても普通だよ。ただ違和感を覚えるのは緩やかに曲がってかなり奥の方まで続いてる廊下だろうか。なんだか先が見えないような……玄関にあってないぞ。
 僕がそんな感想を抱いてる横で、女子二人がまだはしゃいでる。


「うあ~ここがアトリエ。思ってたよりも普通だけど、奥にはきっと大量の服とかがあるのかしら? う~~ん見てみたい!」
「セラちゃんセラちゃん。私思ったんだけど、このモブリの人達の衣装ってもしかして……」


 セラとシルクちゃんが狭い玄関でテンション高くそんな言葉を交わして、かしづいてるモブリへと視線を向けてる。何かを期待してるかの様なその目。そんな視線を向けられたモブリの一番前の人が顔を上げて、二人の期待に応える様な事を言ってくれたよ。


「お嬢様方はお目が高い。期待通り、この給仕服は姫御子様が私達の為に用意してくれた物です」
「やっぱり! だってだって、凄く素敵だもの!」


 シルクちゃんは喜々としてそう言ってる。そしてセラも「これが……これが……」とか良いながら震える手を伸ばそうとしたり引っ込めたり。
 きっと触りたいんだろうね。だけど流石のセラも躊躇ってる。やっぱり幻と言われるブランドらしいからな。そりゃあ女の子にとっては躊躇わざる得ないのかも。僕には良く分からないけど、取りあえず女の子って『ブランド』って物が大好きだもんね。やれやれだよ。


「いいからささっと上がらせて貰おうぜ。ここで悶えても意味ないだろ。奥にはもっと一杯そりゃああるんじゃね? その幻のブランドの物がさ。なんてたってアトリエなんだからな」


 僕がそう言うと、女子二人の視線がこちらに。そして分かってないみたいに言われたよ。


「アンタにはホントガッカリね。目の前に既にそれがあるんなら目が行くに決まってるじゃない。それにね、こういう着なれてからの物の方が味があったりするのよ」
「そうですよスオウ君。一杯ズラーと並んでる様を見るのも良いですけど、こうやってきちんと着用されてる姿ってのも色々と参考になるんですよ。
 と、言うか珍しいです」


 まあ、幻言うくらいだから、その装備を身につけてる人事態が少ないんだろうね。だから日用的に着こなしてる姿にも興味が沸くと。だけどパッと見位じゃ、何がそのブランドの特徴なのか実際わかんないけど……ブランドロゴが全面に主張してるわけじゃないじゃん。
 リアルのどっかのブランドみたいにロゴが模様になってる……とかでもないし、実際至ってシンプルな仲居服? 色とりどりの着物に、フリルの付いたエプロンを合わせただけって感じにしか見えない僕の目はおかしいのか?


「ふふ、だけど可愛いな~とかは思えますよね? 最初はそう言うところから入っていけば良いと思うんですファッションって。超可愛くないですか?」


 目を輝かせながら「どうどう?」と押してくるシルクちゃんも珍しい。


「確かに可愛いとは思うよ」
「そうですよね」


 そう言ってホワァ~ンとトロケそうな瞳でため息を付くシルクちゃん。僕は「そこまでなのか!?」って思ったよ。いや、確かに確実に可愛いよ。だって元々愛らしいモブリが愛らしい格好してるんだもん。当然じゃね? だけどそれを言ったら怒られそうだから、素直に二人に同意しておく。
 てか、シルクちゃんやセラで想像しても確かに、なかなかに良いかもね。シルクちゃんは無条件でピンク色がいいな、セラはまあ、赤か紫位で。高飛車ってるからな。ツンデレ仲居をやってくれるなら、見てみたいよね。そんなセラを。


「アンタ、何嫌らしい顔でこっちを見てるわけ? あ~やだやだ、男はどうせ女の服なんて露出が多ければ何だっていいんだよって感じ何でしょう?
 言っとくけど、私達は男に媚びる為に胸元をあけたり、短いスカートを履いてる訳じゃないのよ。勘違いしないでくれる?」
「は? じゃあ何の為にあんな恥ずかしい格好を女はするわけ?」


 おいおい、まさか全く男を意識してないなんて言わせないぞ。夏のこの時期には、目のやり場に困る位の露出の奴がそこら中に居るんだ。あんなの誘ってるとしか思えない。


「単純にその格好が可愛いと思うから。トレンドだったりするからよ。確かに完全に男を意識してないなんて言えないかもだけど、ファッションなんて異性の気を引くか、完璧な自己満足かのどっちかしかないのよ。
 だから私達は誰にでも見せたいとか、色目を使ってる訳じゃない。本当にエッチな目で舐め回したいのなら、そう言う目的の娘にしてよねって事」
「それが分かれば苦労なんてしないんだけど……だから女って短いスカートでも中を見られたら怒るわけ? あんな常時開封の恐れがあるのに、それならズボンか下にスパッツでも履いとけよって思う」
「それじゃあファッションとして納得出来ない物に成るじゃない。バカなのアンタ?」 


 くっ……バカはどっちだよ。どう考えてもそれって、女側の自分勝手な都合じゃん。それに世の男共は振り回されっぱなしだよ。僕達男からすれば、それだけ短いスカートなんだから、見られるのも許容範囲内なんだろうなって事だ。
 それなのに「アンタ達に見せる為じゃないのよ!」って言われても……理不尽じゃね。


「まあでも納得できない気持ちも分かります。だけど女の子はきっと男の子よりも自分の見た目って物に気を使ってるんです。
 だからそこを察してくれると嬉しいなって……」
「察するって言っても、見て良い女の子と見たらダメな女の子ってパッと見じゃわかんないしな……」


 僕が思わずそう呟くと、なんだか女子二人が僕から一歩後ずさったような。


「何々? どうしたの?」
「スオウ君は見て良い女の子が良いんですね……」
「ちょっと口を開かないでくれる。この変態……」


 どうしてだよ!! 二人の視線が冷たいよ。だって見ていい子を探せって言ったじゃん。てか、セラは別に良いけど、シルクちゃんに変な印象を持たれるのは不味い。てか、イヤだ。


「違うんだよシルクちゃん! 今のはもしもの時、目が行った時に見て良い女の子なら、無駄に不快な思いをさせずにすむな~って言う配慮をだね……」


 僕が必死にフォローを入れてると、横からこんな言葉が聞こえてくる。


「もう良いじゃないっすかスオウ君。男なら、ケチケチする女より自分から見せてくれる懐の深い女の方が良いって言っちゃってくださいっすよ。よ! 男の中の男!」
「そうそう、下手な言い訳よりも、自分が変態だと宣言した方がある意味これからのつき合いが楽になるかもだぞ。気軽にスカートめくりとかでセラとスキンシップ計れる様になるかもだぞ」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいい!!!!!?? ちょっと何言っちゃってんのコイツ等? ノウイも鍛冶屋もバカなの? 何で攻撃してくるんだよ。
 ノウイが言ったような娘は実際僕好みじゃないし。そもそも男の中の男ってバカにしてるとしか思えない。それに鍛冶屋のスキンシップの方法を僕が取ったら確実に殺されます。


「スオウ君……」
「アンタって……まさかそこまでのHENTAI……」
「いやいや、僕じゃないからな! 言ってるの僕じゃないし認めない! くっそ……こうなったら最後の良心テッケンさんに頼るしか……テッケンさんは僕がHENTAIじゃないって信じてくれますよね!?」


 僕達の視線が一斉に小さなモブリへと集まる。すると俯いてたテッケンさんが、顔を上げて満面の笑みでこう言ったよ。


「まあ、スオウ君がHENTAIかどうかは僕には分からないけど……これだけは確実に言える。全ての男はきっとこう思ってる。
 薄手の女の子はサイコーだって事さ!」


 キランって思わず歯が光って見えた。まさかテッケンさんがそんな事を言うと思ってなかったから、みんなの世界が一瞬止まったよ。てか……全部を持っていったな。どんだけ良い笑顔で真理を言ってんだよこの人は。
 まあだけど、否定する要素は無いよな。だってそれが真実だから。


「スオウ君……」


 そう言ってテッケンさんがその小さな手を僕に向けてくる。僕は……いや、僕とノウイと鍛冶屋はそんなテッケンさんの行動にあわせてそれぞれ腕をだす。
 そして拳をみんなで合わせて、心の中できっと同じ事を呟いた。


「「「異議なし」」」


 ってね。




「あの~そろそろ案内させてもらって宜しいですか? というか、それはなんの儀式で?」
「済みません皆さん。バカな男共は放っておきましょう。危険ですから。シルク様も近づかない方が良いですよ」
「あ……はははは」


 シルクちゃんの乾いた笑い声が空しく聞こえてたけど、こればっかりは変えられない事実。そうこれこそが真理なんだよ。もう、何の話してたのか訳が分からない。全ては一時の変なノリがこの状況を作り出しました。


「お前達を主に会わせて良いのか不安に成ってきたな」
「ふん、そんな事言って、本当はお前だって『異議なし』って心の中で言ってたんだろ?」
「ふざけるな。貴様達の話は今一わからん。理解できん」


 そう言って奴は靴を脱いで一足先に玄関に上がるよ。なんだか話を振られるのがイヤみたい。いや、それとも流石に待ちくたびれただけ? だけどこいつも男だし、わからない事はないと思うんだよね。
 僕たちはリアルでその光景を想像してた訳だけど、LROにだって四季はあるんだし、そこら辺を考えるとわからない訳がないだろ。


「簡単だよ。お前の大好きな姫御子様が露出の多い服を着ている所を想像すれば良い」


 って、良く考えたら姫御子様ってモブリなんだっけ? それじゃあ意味ないよな。あんなまん丸体形じゃ欲情なんて出来ないよ。別にボン・キュ・ボンであれとは望まないけどさ、人型してないときついよね。
 そう思ってたけど、僕の言葉を受けた奴はなにやら止まってる。想像でもしてるのかな?


「主の……ブッ!!」
「!! お前まさか、モブリでもいけるのか?」


 ビックリした! いきなり奴が鼻を押さえ出すんだもん。幾ら好きだからってモブリでそうなれるか? スゴいなこいつ。


「これは違う、貴様達の様な浅ましく嫌らしい感情を主に向けるなどありえん!」


 力強くそう言う奴。だけど残念な事に説得力が皆無だ。その鼻を押さえてる手は何だよ。鼻血でもドクドクと流してるんじゃね~の? 
 僕がそんな事を疑いつつ奴に近づくと、奴は顔を見られないように体をくねらせる。


「おうおう、どうしたんだよ? 見せたくないって事は何か不都合があるって事だろ。認めろよ。自分が大切なご主人様相手に欲情するHENTAIだって事を」
「わ……私は……」


 何故か戦闘以外で奴を追い込めてる僕。頭まで抱えだした奴は、かなりの自己嫌悪に陥ってる様子だ。うん……てか別に味方に成るかもしれない奴を追いつめてどうするって事だよな。しょうがない、からかうのもここら辺にしておくか。


「おい、ちょっとおちつ――」


 僕がそう言おうとしたとき、何ともアグレッシブな使用人モブリが長い棒で奴の鳩尾をおもいっきり突いたよ。それはもうエグい程に。


「ぐほっ!? ――くっ、貴様等……何のつもりだ?」
「何、混乱してらっしゃた様なのでちょっとした刺激と共にこちら側への道を開いただけですよ。だけどリルフィン様も、なかなかに男性なのですね」


 そう言われてクスクスと笑われる奴もとい『リルフィン』はなんだか口をカチカチと鳴らしてる。恥ずかしがってるのか、それとも怒ってるのか微妙な表現だな。


「くっ……行くぞ!! 貴様達も仕事をしろ!」


 全てを誤魔化すように声を荒くして廊下を進み出したリルフィン。きっと居たたまれなくてさっさとこの場を離れたいんだろうな。モブリのみなさんは相変わらずクスクスしてるけど、左右に分かれ腰を下ろして受け入れ態勢万全に頭を下げる。


「どうぞ皆様。奥で我らが姫御子さまがお待ちです」


 僕たちも軽く頭を下げつつ、靴を脱いで廊下に上がる。なんだかちょっと違和感あるよな。LROでは基本靴を脱ぐなんて事はあんまりしないもん。宿屋とかだって欧米スタイルだし。まあ、日本人としてはこれはこれで良いけどね。
 僕たちはリルフィンの後を急いで追うよ。だけど途中で女子二人が居ないことに気づいた。まさかもう迷子? とか思ったけど、まだ一本道だ。振り返るとなにやらモブリの人たちと話してる二人の姿が。


「セラ君にシルクちゃん! 何やってるんだい? 早くしないと彼は待ってくれないよ」


 テッケンさんが二人にそう声を掛けて、二人は駆け足で僕たちの所まで来る。何やってたんだ?


「後でもっとじっくり見せて貰おうかなって思って、お願いしてたんです。こんな機会ないですからね」


 ふ~ん、そんなに良かったのかね? どうせならシルクちゃんがあの服に身を包んでる姿を見てみたいけどね。きっとすっごく似合うと思う。
 そんな淡い願望を抱きつつ僕たちは再びリルフィンの後を追いかける。どうやらこの建物は扉とかなくて、中は全部障子が部屋を区切ってる様だ。
 サン・ジェルクもそうだったけどさ、やっぱりこの国『ノーヴィス』は日本を意識して作ってあるよな。そんな事を思いながら進んでると、階段が。そこを上って更に進むとまた階段。僕たちはそんな感じで五回は階段上がった気がする。


「なんだか良く登るな。まさかこの建物、外観が見えなかったら気づかないだけで、城みたいになってたりしてな」
「まさかそんな……ちょっと大きめに作った日本家屋なだけっすよ。だって入り口しょぼかったじゃないっすか」


 しょぼいって……ここの奴が居るのに堂々と言うなよ。だけど大きめって日本家屋を大きくしたのが城だろ。一緒じゃん。まあ大きくしただけって訳じゃないだろけど、それに合わせて見栄えと堅牢さを与えたのが城か。
 でも基本僕の中での日本家屋って古い中で言うと長屋とかなんだよね。こんなに上るのは実際城以外ないじゃん。そうこうしてるうちに、更に階段が。そこには今までと違う雰囲気が……と、言うか外にあったみずぼらしい看板と同じ感じの物が立ってる。なになに……


『ここから上は私の部屋。ノータッチミー』


 なんだか姫御子様ってバカなんじゃなかろうかという疑いが僕の中で強まってくよ。だってこの字がなんか……バカっぽい。


「リルフィン、ただいまご所望の奴らを連れて参りました!」


 階段下から、上へ向かってそう呼びかける。どうやら無断で入っちゃいけないらしい。まあ女の子の部屋だもんな。そこは色々とあるんだろう。僕たちが大人しく返事を待ってると、いささか不機嫌な声が返ってくる。


「あ~なんか遅くて会う気なくなっちゃったかも~。めんどいな~。とりあえずあがっても良いけど、お茶菓子位、持ってきてるんでしょうね?」
「ああ?」


 何がお茶菓子だ。ちょっとイラッときたぞ。そんなの持ってこれる訳ないってわかってるよな? まあ待たせたのは悪かったけど、大部分はそっちの予定通り何じゃないのかよ。


「あわわ、どうしましょう。リルフィンさん、お土産屋はどこでしょうか?」


 慌てて買いに行く気満々のシルクちゃん。もう、この子は本当に素直過ぎだよ。


「大丈夫だ。主は色々と人をからかうのがお好きな方だからな。本気で言ってはないさ。それよりもこれ以上待たせて本気で不機嫌に成る方が問題だ」


 そう言ってリルフィンは階段を上がってく。僕達はその言葉を信じてついてく事に。上に上がると、そこは沢山の色とりどりの布が天井からアーチ状に垂れてて、そんな布のせいか、天井にあるんだろう光源の光がいろんな色でこの部屋全体を照らしてる。
 隅っこの方へ目をやると、沢山のタンスと、それに収まらなかった服やアクセサリーが一杯目に付く。思ったけど、これならこの部屋の下にあの玄関先の看板もってこいよ。それが正しいだろ。
 どうみてもここがアトリエだろ。そんな感想抱きながら部屋を物色してると、不意にコツンと何かが額に当たった。


「いてっ……何だこれ? 石?」
「ふん、私の部屋を何舐め回す様な目で見ておるのだ。このイヤラシイ鬼畜めが!! いや、鬼畜共目が!!」


 最初は僕だけだったのに、わざわざ言い直して全員入れやがった。てか、いきなり小石ぶつけるわ、その言いぐさだわ、やっぱりバカだろ姫御子って。どこにいやがる。


「誰が鬼畜共だ! それに舐め回してもいないっての、被害妄想も良いとこだ。やっぱり文字を見たときから思ってたけど、頭弱いんじゃないのかアンタ?」
「んな!? このリア・レーゼを支える星詠みの巫女に向かってなんと言う言いぐさ! 面白そうな奴だって聞いたけど、とんだ生意気野郎ね! 自分の立場って物がわかってないの? 頭弱いのはどっちよ!
 見ただけで分かるわ。アンタバカそうじゃない! 人の事言えるか!」
「あんだってぇえええええ!? ならアンタの姿も見せて見ろよ! どっちがバカ面してるかケリつけてやるぞ!!」


 なぜだか見えない姫御子と言い合いしてる。だって思ってた通りの様で、思ってたよりもヒドい様な……てか、いきなり石をぶつける奴に無礼もあるか!
 どうせふんぞり返って高飛車な奴なんだろ。


「上等じゃない! どっちかバカ面か言っとくけど、一目瞭然よ!! 私の神々しさにその腐った目を潰してやるわ。ちょっと待ってなさい!!」
「うわああうわああああ!! 主よそれは待ってください!! 冷静に! 一度冷静に!! 貴様も主を焚き付けるな!」
「? 何でそんなに慌ててるんだよ。まさか本当にそいつの神々しさで目がつぶれるとか? あり得ないぞ」


 バカバカしい。けど、その必死ぶりはなんだか意外で案外面白い奴なんだなってわかったよ。リルフィンへの新しい印象だ。
 ここ数時間でいろんな面を見せてくれた。


「あ~言ったな。私の神々しさを侮るなよ!!」
「主よ! だからそれは行けません!!」


 そう言って慌ててリルフィンは駆けだした。そして布が床まで垂れてる所に回り込んで行くと、なにやらドタバタとした音が響く。なるほど、あそこに居たのか。


「ちょっとフィンフィンアンタ主に逆らう気?」
「逆らう訳ではありません! ただ冷静になって欲しいだけです! アナタはこの街を……そしてその立場を背負ってるんです!」


 なんだか苦労してるみたいだな。そんなことを思ってると、いつの間にか騒がしい音は消えていた。そしてリルフィンが再び姿を表す。なんだかローブに一杯引っ張られたような跡が残ってるな。
 ギロリ――とまさに鬼気とした表情で僕を睨むリルフィン。確かに迷惑掛けたとは思うけど……だってアイツがね……そもそも何で姿見せないんだよ? 今更隠す事じゃないだろ。シルクちゃんとかテッケンさんとかは見たことあるんだろ?


「ええ、まあそうですね」


 なんだか歯切れの悪い言い方。公に口外したらいけない事にでも成ってるのか? そんな事を思ってると、再びあの女の声が響く。


「ふん、わかったわよ。私は代表だから大人な対応取れちゃうもんね。ふふ、じゃあ早速、本題にでも移ろうか?」


 そう言って姫御子の方からパチンと音が鳴った。すると天井に張られてる布がゆっくりと降りてくる。そしてその中には二つの小さな体がくるまってた。

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