命改変プログラム
サン・ジェルクの影
牢から出され僕達は手錠までされて薄暗い通路を歩きます。周りにはサン・ジェルクと格好は同じだけど、色違いの服に身を包んだモブリ達。
僧兵……と呼んでも良いのだろうか? 迷う所だな。
「なあ、どこに連れていくんだ?」
僕は近くに居るモブリにそう聞くけど、返事は帰ってこない。まさに「黙って歩け」と言わんばかりの態度だ。
「ちゃんと密書を渡したんだし、私達が願う人の所へ案内してくれるわよ」
「それなら良いんだけどな」
セラは余裕かましてそんな事を言うけど、僕は結構不安だよ。もしかして裁判所とかに送られたらどうするんだよ。組み上げられたシナリオのままに罪人になって送り返されたら悲惨だよ。
これまでの苦労が水の泡だ。そんな事が無いとは言えないよね。だけどまあ、誰も暴れずに従ってるし、ここは信じるしかないのかな? 歩きながらでも万が一の脱走の為のルートを探しておくさ。
キョロキョロとね。だけどさっきからなんだかやけに複雑に移動してる気が……そもそも僕達を閉じ込めてるこの場所がどこかわかんないよな。窓一つもないし……地下とかなのか? ある意味ダンジョンっぽい牢獄だよ。
まさか脱走を防ぐためにこんな複雑に成ってるのか? 確か入れられる時はそんなに歩いた記憶がないんだけど……今はもうその時の倍は歩いてる気がする。
「なんかここってこんなに広かったか? そんな印象無かったんだけど?」
「確かにやけに歩くね。もしかしたら入るときはそうでもないけど、出るときはちゃんとした手順があるんじゃないのか? ここも歴史の長い街だし、いろんな仕掛けがあっておかしくないよ」
やっぱりそう言う事か。テッケンさんの説明に納得。脱走対策でもあるんだろうな。どうりで僕たちを監視する役目のモブリが一人も居なかった訳だよ。
脱走なんてそもそも出来ないから、そんなの必要無かったって事かよ。
僕が舌打ちしてると、ようやく行き詰まりらしい所へたどり着いた。そこは通路よりも少しだけ広くなった丸形の空間で、床には魔法陣が描かれてる。おお、なんだこれ?
「転移魔法陣ね。外へはこれで出るんだ? 最初に入った場所へは出ないって事かしら?」
「そうみたいだね。と、言うか、僕たちがまず出た扉が最初に僕達が通った扉だと思うんだよ。出る時は、あの扉がこっちに繋がってるって事じゃないのかな?
だから脱出に転移魔法を使う」
「まあそう考える方が妥当ですね」
セラとテッケンさんがなんか二人で語り合ってるよ。用はこれが転送用の魔法陣って事だろ。やっとでこのジメジメで停滞した空気の中から脱出出来る訳だ。薄暗かったし、やっとで外を拝めるとなると、ちょっとテンションが上がるな。
まあ手錠されて連行されてる辺り、テンション上げてる場合でも無いけどね。取り合えず僕達を全員一緒に魔法陣の中へ押し込むモブリ達。そして床の魔法陣に光が走ったと思ったら、次の瞬間、やけに高い場所へと僕達は現れてた。
なんだか空中に突き出した様なそんな場所だ。てか……これって世界樹の枝の一本の先端部分じゃね? なんて危ない場所に転送先を設定してるんだよ。
まあちゃんとちっちゃい社みたいな感じになってるし、それなりに十分な広さがある場所だけど……周りの壁がねーよ! 屋根はあるけど、吹きさらし状態。さっきから風が僕を死地へと押し出しそうな強さで吹いてるよ。モブリのみなさんは危なそう。大丈夫なのか? そう思って周りを確認すると、なんだかみなさん普通です。まるで風を感じてない様な……まさか体が小さい分、上手く風をながしてるとか?
いや……それにしてはさっきからテッケンさんが「アバババブブ」と風に必死に耐えてるな。何か対策をしてるって事か?
「ちょ!? なによここ!! まさか死刑場って訳じゃないわよね? どこからでも飛び降りてOKとか言わないわよね!?」
もの凄くワサワサと靡いてるスカートを必死に押さえながらそんな風に叫ぶセラ。なるほど、その発想は無かったわ。てか……んな訳ないよね?
「いや、ここはそんな場所じゃない――と、ブババババ――思う! だって……この場所が続く社は――本殿みたいだし――あばばばば」
「本殿? てか大丈夫ですかテッケンさん?」
今にもこの強風に飛ばされちゃいそうだよ。僕は周りのモブリに訴えかける。
「おい、お前たちが平然としてるのって何か特殊な事をしてるからだろ? だったらこの人にも頼む。このままじゃ飛ばされる!」
両手塞がってるんだぞ。今は脚力で耐えてるけど、このままじゃマジで風に飛ばされかねないって。スキルだって封じられてるのに落ちたら責任取れるのか? てか、マジで死刑場って訳じゃないよな? テッケンさんは違うって言ってたけど、完全無視で動き出す気配が無いモブリ達を見てると、実際飛ばされるのを待ってるんじゃないかと思える。
「テッケンさん、私が風避けに成り――って、きゃあああ!!」
シルクちゃんはテッケンさんの為にと思い、動き出したのにあの子の華奢な体じゃ誰かの風避けまでするのは無理みたいだ。
「シルク!!」
テッケンさんは必死にシルクちゃんの方を見てる。だけど動けない。風に押されてるシルクちゃんはフラフラとこの空間の端の方へ押されてる。
おいおいやばくないかあれ!? シルクちゃんに繋がれてるピクが必死に羽をバタ付かせてるけど、ここら辺は気流が乱れてるのか、上手く飛べてない。てかさっきから風の方向が定まってない様な感じもするし、だから一度フラツいたら、態勢を立て直すのが難しくなるって訳か。
僕達も下手に動いたら……でもこのままじゃシルクちゃんが! 流石にやばいかなと思うけど、もうシルクちゃんを助けるにはこれしかないかも知れない!
僕は意を決して床を蹴ってシルクちゃんの方へ走り出す。その瞬間横風やらがいきなり足を持って行こうとしたけど、何とか踏ん張って僕はシルクちゃんへ飛びつく。
「スオウ君――きゃああああ!?」
「うあああああああああああ!?」
僕達はそんな声を出してその場に倒れ込む。
「イツツ……大丈夫シルクちゃん? 落ちなくてよか――」
「あわわわわわ……」
押し倒して声を掛けると、なんだか真っ赤っかに成ってるシルクちゃん。えっとね……誤解がない様に言っとくと、僕は助ける為に動いたのであって……この状況を作り出したかった訳じゃ――
「何やってるのよこの変態!! シルク様から離れなさい! てか、時と場所位考えなさいよ!」
「だから、そう言う事を考えてこんな事をやった訳じゃねーよ! 落ちそうで、腕も使えないから、押し倒すしか無かったんだ! 変な誤解してるんじゃない!!」
全く、幾らシルクちゃんを最高に可愛いと僕が思ってるとしても、そんな不純な動機全快で押し倒すかよ。ちゃんと場所も雰囲気も考慮します。
「不純な動機がない? ならアンタのその手は何よ!? どどどどどこに触れてると思ってるわけ!?」
「どこってそりゃあ、オッパイだな!」
僕が堂々とそう言うと、下に居るシルクちゃんの顔がボンッと弾けた。いや、自分でも何言ってるんだろうと思うけど、だってなんか開き直らないと言えなく無い? 実はずっと気づいてたんだよ。押し倒した時から「あっ、これやっべ……」とおもってたんだ。
「何開き直ってんのよ! 殺すわよ!」
僕が必死に導き出した答えに憤慨してるセラ。鬼の形相と言うか女の敵みたいな目で睨まれてるよ。くっ……相変わらず凶暴な奴だ。だけど僕はあくまで開き直って清々しく行くと決めたんだ。それがある意味、シルクちゃんの為かなと。
僕は状態を起こして、柔らかく暖かな感触のそこから腕を上げる。実際ちょっと心残りだけど、茹で上がっちゃったシルクちゃんを見てたらこれ以上置いとく訳にも行かないだろう。
それにこれはあくまで事故だし。欲望を表に出すわけには行かない。
「ごめんシルクちゃん。だけど無事で良かったよ」
僕は爽やかにそう言ってシルクちゃんから退く。まるで何事も無く目的だけを果たしたように、颯爽と。そう気にしてなんか僕はない。だから君も気にしないで戦法だよ。実際僕の勝手な願望だけど、意識して「あわわ、違うんだ~」とか下手な言い訳を始めると大抵、良い方向に収束しない気がするから、僕はこの手法をとります。
きっとこれまでの経験が生きてきたんだと思う。
「あっ……えっと……ありがとうスオウ君。それと……あんまり胸なくてごめんなさい」
茹で上がってたシルクちゃんが、顔も真っ赤にしながらもなんとかそんな言葉を口にしてくれた。ほらね、僕が思ったとおり、気にしないアピールの方が双方のダメージが少なくて済むんだよ。良かった良かった。
折角落ちずに済んだのに、他のダメージ負ったら損だもんね。
「胸がないって、僕的にはシルクちゃん位がベストな大きさで柔らかさだから問題ないよ!」
調子に乗ってそんな事を言ってしまった。シルクちゃんは再び顔を真っ赤にして、「ありがとうございます」って言ってくれた。
何かを間違った気がするような……爽やかな顔は維持してるけど、自分のプレイボーイみたいな言葉に、顔から火が出そうなのは僕もです。
「くっ……この変態……」
歯を喰い締めてセラがそんな事を言ってる。実際これだけ風が強くなかったら、ブン殴られてたかも知れないな。良かったような……良くないような。てか、セラは僕がちゃんとシルクちゃんを助けたって所を評価しろよな。
胸を触ったのはあくまで事故だっつうの。まあ女の子にとっての衝撃としてはどっちも大きいんだろうけど、胸を触るかも知れないからって命を無くす状況を見逃して良いのか? って事に成るだろ。
実際そんな事まで考えて体は動かさないんだよ。てか、それを気にして行動が一歩遅れて良いのかと。命と尊厳、どっちを取るんだ。
「女の子の体はね……宝石よりも価値があるのよ」
「命はその上の価値があるだろ。それに悪かった成っては思ってる。早く感触を忘れる様に努力するさ」
善処だけは試みるさ。だけどついつい自分の手を見つめて微妙に動かしてしまうな。
「アンタ……忘れる気無いでしょ?」
なんか路傍の石を見るような乾いた視線でセラが僕を見てるよ。僕は女の敵かよ。今のは……その……ついだよ。つい。
セラがしつこいから、今のシーンが頭から出て行かなくてつい。フラッシュバックと同時にこう……手を動かしちゃった訳だ。
僕達が言い合いをしてると、一際更に強い風が吹く。木々の葉が大きくガサガサと揺れて、木から離されたそれはピンポイントでテッケンさんの顔へ直撃。
「ブッ!? ――って、あ!」
葉っぱが顔に当たった時、思わず力が抜けたのか、テッケンさんの体が風に持って行かれる。モブリのテッケンさんは小さくて軽い。人のままの僕達さえも、体を持って行かれそう風だ。小さな体のテッケンさんなんて用意に持ち上げてしまいやがった。
「うわうわああああああああああ!!」
「テッケンさ――ぐっ!」
助けに行こうにも風が強すぎる。僕達も自分たちの体を支えるので精一杯。テッケンさんはこの枝の先の社部分からあっと言う間に消えてしまう。そして声までも遠くなった。
「そんな……テッケンさん! テッケンさん! テッケンさああああああん!!」
僕の隣で床に必死にへばりつくシルクちゃんがその小さな口を精一杯広げて名前を叫ぶ。だけど返ってくる反応はなくて……僕達は一気に暗い雰囲気に。
僕達が声を発せないで居ると、少しずつ弱まってきた風の音の中に、僅かに聞こえる声を見つけた。なんだかかなり遠くで叫ぶ声だ。これはもしかしなくても……かなり下の方へ既に落ちちゃってるって事じゃ。
他のみんなにもきっと聞こえてる。だけどどうする事も……みんな俯く以外に何も出来な――あれ?
「ぅぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁあぁあぁぁあああぁああぁあああああああああああああ!!」
落ちて行ってると思ってたテッケンさん。だけどその声が次第に近く成ってるような。
「下じゃない。上? これなら!」
僕は低い態勢のまま、強い風を利用してテッケンさんが飛ばされた方へ一気に滑る。そして屋根を支える四隅の柱の一つにしがみついて何とか外を見ようとする。だけど外に顔を出して見て初めて気づいた。
ここ横からだけじゃなく、下からももの凄い風が吹き上げてるよ。実際顔を出すのもキツいくらいの風。きっとこの風で、重力に従うはずのテッケンさんの体を逆方向に持ち上げられた訳だ。
「自分も!」
そう言ってノウイが別の柱へへばりつく。そして必死に顔を除かせてテッケンさんの名前を叫ぶ。だけどその姿を確認する事が出来ない。
「くっ……声は聞こえるのに姿が見えないって、それだけ高いのか? それとも風に流されてるのか? ぬぐぐぐぐぐ――ぬあ!」
ダメだこれは……外に顔を出しておけるのは十秒位が限界。とてもジックリ上を確認出来ない。下から吹き上げる風に、油断したら体を引きずり込まれそうなんだ。しかも手錠のせいでしっかり固定出来ないし、全てがもどかしい。
このままじゃテッケンさんが地面に叩きつけられるって言うのに……何も出来ないじゃないか!!
「ちょっとアンタ達! どうにかしなさいよ! 幾ら私たちが罪人だからって、このまま放っておくの!?」
「お願いします! テッケンさんを助けてください!!」
中の女子二人はまだ魔法陣から動いてないモブリ達に、必死に助けを求めてる。だけどやっぱりNPCは無反応。なんでここまで無視を貫き通すんだ?
LROのNPCは普段無駄な位しゃべるだろ。そりゃあ特定の言葉しか言えない奴もいるけど……これは幾ら何でも不自然。どうなってんだ?
「くっ――こっちでも確認出来ないぞ!」
そう言ったのはいつの間にか反対側の柱へへばりついてる鍛冶屋。くそ……一体どこに……そう思ってると、不意に今まで聞こえてたテッケンさんの叫び声が消えた? 風にかき消されたって訳じゃない。
不意にプツリと聞こえなくなった。僕たちはそれぞれ互いの顔を見るよ。まさかとは思うけど……最悪の想像が僕たちの脳裏には浮かぶ。
「遅かったって事ですか?」
シルクちゃんが震える声でそんな言葉を紡ぐ。僕たちは誰も何もいえないよ。だって……もうそれしか考えられない。いつの間にかここを過ぎてて、そして地面に……この高さで、両腕とスキルを封じられた状態じゃ、幾らテッケンさんでも助かったとは思えない。
「アンタ達……一体どういうつもりなのよ……私たち全員やっぱりここで殺す気なの!?」
そう言ってセラが手近なモブリを掴み上げる。その怒り良く分かる。いつもなら止める所だけど、今ばかりはやっちまえ! と思った。
だけど流石にこういう事には反応するのか、周りのモブリが詠唱を始めると、僕たちの腕を縛ってる細い光の輪が反応した。
そして何故か全員に襲いかかる高圧電流。この場に一斉に断末魔の叫びがあがった。
「……っ、エグい事しやがる……」
「絶対に殺す……後で絶対に……」
床に倒れて、体から煙を上げながら何とかそんな声を出す僕とセラ。こんな仕掛けまでしてあるなんて……これはもう本当に僕たちを殺す気としか思えない。だってどう考えても話を聞いてくれそうに無いじゃん。
てか、形式上僕たちを捕まえてるだけなんて見方は全く出来なくなった。
「これ……流石におかしくないっすか?」
「確かにね……この街でいきなりここまでされる理由なんて無いわ」
みんなもこの仕打ちには納得いかない様子。当然といえば当然だけどね。でも……それじゃあこいつらは本当に僕たちを殺す気なのか?
「アンタ達、何者よ? 実はサン・ジェルク側の奴何じゃないの?」
「なるほど……確かにそれなら、僕たちを殺そうとする理由も分かるかも」
てか、それ以外納得できない。同じモブリの国だし、仲が悪いからと行って、関係を絶ってる訳じゃないんだろう。それなら、ここにだってサン・ジェルク側の奴がいてしかり。
だけどこのモブリ達は何もいわない。
「何も……喋らないか。さっきから不自然に口を閉ざしてると思ったが……それは俺達に確証を持たせない為か。自分達が例えサン・ジェルク側だとしても、俺達にはそれを確かめる術はない。
それなら口を閉ざして答えを与えない方がいい。もしかしたらリア・レーゼの意志である可能性を残せるからな。それなら、俺達は下手に動けない」
なるほどな。下手に口を開かないのも、下手に自分達から僕達を殺そうとしないのも、その可能性を残して起きたいからか。鍛冶屋の言葉は信憑性がある気がする。
実際リア・レーゼに僕達を殺す理由はまだ無い。それなのにこいつらが僕達をここから突き落とす様な行動に出たら、それはサン・ジェルク側の奴だと言ってる様な物。
だからこそ何もしなくても僕達を殺せそうなこの場所へって事ね。だけど実際、あの本殿のせいで実は迎えを待ってる状態とも言えるという……こいつらがどっちか決めかねる状況を作り出してる訳だ。
だけどこれまでの行動で、こいつらはどう考えても黒に限りなく近い灰色だ。けど、完全な黒には出来ない。まさに思惑どおりかよ。
もしもこいつらが本当にリア・レーゼ側の奴らで、ただのNPCだからとしての行動しかやってないのに、僕達が反撃でもしてしまうと、それは自分達からこの街を敵に回す事。
「ここまで黒いのに……自分達からじゃ何も出来ないんすか!?」
ノウイが床に突っ伏してる状態で悔しそうにそう言う。悔しいけどそう言う事だ。僕達には何も出来ない。期待できる事があるとすれば、こいつらが本当にリア・レーゼ側で、さっさと迎えが来る。
それならこれ以上の葛藤は無いだろう。だけどその場合、僕達にはテッケンさんを殺された恨みがこの街に向かう事になるけどね。これからが心配な状態だ。
こいつらがサン・ジェルク側なら、異常に気付いたリア・レーゼ側の対応待ち。実際僕達をどこかへ連れていくのは上からの命令の筈だと思う。
だけどそれにこいつらが割り込んでこんな事をしてるんだとしたら、リア・レーゼ側が気付かない訳がないだろう。それならきっと助けか何かがきっと……そのどちらかを待つしかない。
「本当にうざったいわね」
セラの腕がピクピクしてる。こいつらを殴りたくて仕方ない様子。実際僕もそうだけど……まだ出来ない。ここはこいつらが黒であることを願うしかない。そうすれば後でボコれるかも知れないからね。
だけどそんな余裕も無い感じかも。さっきの電撃で僕の体は痺れた状態になってる。運が悪いことにまさかの状態異常だ。
もしかしたら、やっぱり昨日のリアルでの無理が祟ったのかも。幾ら若いからって流石にあれだけ無理して、一日寝たら全快とは行かないか。
ダメージってのは知らない部分に蓄積されて行くものだよな。
「うお……おおおお!」
すると再び一際強い風が! 僕は足をじたばたして床を踏んづけようとするけどうまく行かない。やばい……やけに滑りが良い床だから尻を付いてても流される。
この滑りの良さをさっきは利用したけど、今は大ピンチ!!
「スオウ君、柱に捕まるっすよ!」
「そう……したいのは山々なんだけど……体が麻痺してる」
「麻痺!? こんな時に何やってるんすか!?」
うるさい。僕だって好きで麻痺状態な訳じゃないよ。足が社の外へ出る。その瞬間、下から吹き上げる風に体が持って行かれ――
「スオウ君!!」
――ガシっと柔らかな感触が僕の手を取る。それはもっとも意外な小さく柔らかな華奢な手。だけど誰よりも暖かな手。
それはシルクちゃんだ。
「テッケンさんの次はスオウ君なんて……私はイヤです!! 今度は絶対に助けて見せます!!」
そう言うシルクちゃんは両手で僕の腕を掴み両足で必死に踏ん張ってる状態。だけど下から吹き上げる風の強さは異常だ。
下に落ちずに上へ飛ばそうとしてるんだからな。
「つっ……あっ……くぅ!!」
「シルク様!!」
辛そうなシルクちゃんの姿を見て、セラが動く。だけどその時だ。一度暴挙に出たセラだからなのか、NPCが反応した。
僕達に付けられた腕輪が一斉に光る。そして再びあの高圧電流が体を走る。
「「「うあああああああああああああ!!」」」
「「きゃああああああああああああ!!」」
響く断末魔の叫びと共に、僕の体が空へと昇る。今ので僕とシルクちゃんの腕は離れた。ここまでなのか……そう思った。だけどその時、僕の体が不自然に上昇中に止まった。なんだ?
「ふん、私やあのバトルシップからも逃れた貴様達が随分とやられてるじゃないか」
そんな声が剛風の中聞こえた。この声……最近聞いた様な……僕は必死に視線をさまわよせてその声の主を捜す。すると、見つけた。社の屋根の上に、ボロいコートに身を包む怪しい奴がいる。しかもそいつはテッケンさんを肩に乗せてるじゃないか!?
どういう事だ? これもどうやって僕を捕まえてるのかわかんないし……本当に謎な奴。
「まあいい、それより勝手に死ぬなよ。おまえ達を姫御子様がご所望だ。だからまずはそれを邪魔する奴らを潰そうか」
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