命改変プログラム

ファーストなサイコロ

私に出来る事を精一杯



 久しぶりの外で、私は久しぶりのプチ冒険中です。ヒマワリから本をさりげなく盗んだ仮面の人たち。その行方を追跡中。
 やっぱりこう言うのは、女の子でも胸がワクワクするよね。それに今回は今までと違って、私活躍してます。今日という日はセツリちゃんが一皮剥けた記念すべき日に成る事でしょう。


 私が心でそんな決定を密かにしながら、この街に居るNPCの視線を辿り、犯人を追いつめます。私達は取り合えず、女の人の方を追うことにしたのです。
 その人の消え去った方向のNPCの視線を覗き見て、その人の行動の追跡。ちょっと警察みたいな事をやってます。
 犯人を追いつめるデカみたいな。ふふ、昔から一度はやってみたかったシチュエーションだよ。


「楽しそうねせっちゃん」
「だってだって、私も役に立ててる。必要とされるって初めてで、なんか嬉しいもん!」


 私は張り切ってNPCが見た映像を取り出すよ。これが今の私に出来ること。LROへ少しは干渉できる私の役立つ能力。
 まあ、まだ全然使いこなせてないんだけど……それでも、過去の映像を出す程度の事は慣れて来たかな。


「セツリ様は偉いです! てか、僕達にとっては絶対に必要だからね。そこら辺、自信を持ってていいんだよ!」
「あんたがそれを言うな! てか、少しは反省しときなさい」


 ヒマワリが元気一杯にそう言ったら、シクラに突っ込まれてるよ。あはは……ヒマワリは本当に直ぐ調子に乗っちゃうんだから。全然学習しないね。私達がやってるのはヒマワリのフォローだって事を忘れちゃダメだよ。
 まあある意味、ヒマワリのおかげで私は久しぶりの外の世界へこれてる訳だけどね。そこだけは感謝してるよ。


「シクラはそろそろ僕を許してくれたっていいと思うんだけど……」
「ふざけないで。本が戻るまでは許さないし、戻ったとしても罰は与えるわよ」
「ええ!? そんなの聞いてないよ!」


 罰と聞いて動揺しまくりのヒマワリ。まあヒマワリには悪いけど当然かなとは思う。だってなかなか大事になってるしね。
 ここに来るまではヒマワリを見つけて捕まえてそれで解決と思ってた事が、それだけじゃダメになってるもん。予想以上の労力使ってるよヒマ。


「取り合えず今日の晩ご飯は抜きね。大食いのアンタには良い罰でしょ?」
「そんな殺生な! 餓死しちゃうよ! 僕餓死しちゃうよ!」
「うるさいわね。罰なんだから苦しまないと意味ないでしょ。その位やらないとヒマは反省しないだろうし。それに一晩ご飯抜いたからって死ぬ訳ないでしょ。
 てか、そもそも私達には食べるなんて行為必要ないし。形式でとってるだけよアレは」


 へぇ~そうだったんだ。私に付き合ってって事かな?


「食べることが必要ないなら、なんで朝昼晩ってちゃんと食事してるの?」
「せっちゃんが寂しい思いをしないようにってのもあるけど、姉妹が揃う時間を作るためかな。それに食べなくても大丈夫なのは事実だけど、お腹は減るのよね。
 だから一応取るようにはしてるってだけ」


 ああそっか、プレイヤーのみんなもお腹は減るって言ってたし、食事を食べて満腹感を得られるんなら、やっぱりその逆もあるんだよね。
 そこら辺はシクラたちも同じって訳か。


「一応じゃないよ! 僕は本当に死んじゃうと思う! その自信がある! だからその罰の撤回を要求しちゃうかも!」


 力強くそう告げるヒマワリ。まあこの子、城の中でも常に食べ物持ち歩いてたし、確かに死ぬ程イヤな罰なんだろうね。効果的だ。


「それこそ丁度良いじゃない。本当に死んだら、墓前にたこ焼きを供えてあげるわよ☆」
「わ~い――って! 全然嬉しくない! 僕たち姉妹だよ! それでいいのシクラ!?」


 ヒマワリは必死に食い下がる。まあ死んだ後にたこ焼き供えられても食べれないもんね。だけどシクラは既にヒマワリの事を姉妹として扱ってないのだ。


「可愛い方の妹が残るのなら良いわね別に☆」


 あっさり存在を切られてるヒマワリ。シクラはホントヒイちゃんの事が好きだよね。向こうはそうでもないのに、良く絡んでるし。
 実際、シクラの次に早く目覚めたのがヒイちゃんだからかな? 残りのヒマワリ達が目覚めたのって実際、アルテミナスが大変になる少し前って聞いたし、それまでは二人で色々とやってたらしいから当然と言えば当然かも。
 だってみんな姉妹だけど、お互いに会うのは目覚めてからが初めてって言ってたしね。知識だけがある赤ちゃんみたいな感じだってシクラが言ってたよ。目覚めた直後はね。


「うぬぬぬ~~」


 うめき声を上げながらプルプルと震え出すヒマワリ。また泣いちゃうのかな? とか思ってのぞき込むと、ヒマワリに腕をガシッと捕まれた。


「え? え?」
「セツリ様! こうなったらあの本を僕が大活躍して取り戻すしか無いよ! そうしないと帳消しになんて出来ない! あの仮面の奴らはどこ!? 懲らしめてやる!」


 ヒマワリがすっごく近くまで顔を寄せてきてそんな事を叫ぶ。まあ確かに逃げ出して奪われた事を帳消しに出来る位の大活躍が出来ればそれはそれで万々歳だとは思うけど……ついさっきまでの態度は何だったのか。
 沢山食べ物奢ってもらって良い人って言ってたのに――手のひら返しだね。まあ向こうは元々が騙す目的だったみたいだし、実際このヒマワリの反応の方が正しいのかな。
 だけど実際、あの仮面の人たちもあそこまで買わされるまで付き合わなくても良かったと思うんだよね。最初の方でヒマワリはあの人たちに本を預けてたし、その時点で別れればあんな尋常じゃない程の出費をしないでも済んだはずなのに、一応ヒマワリの気が済むまで付き合ってる辺りは、もしかして罪悪感から来る罪滅ぼし的な物なのかな~とも思う。
 それともただ単に、夢中にさせる度合いは大きい方が良いから、多少の出費を我慢しても、気付かれるのが遅くなるように付き合ったのかな?
 シクラの読みではこういう事を日常的にやってるプロらしいし、後者が強いのかな? そしたらまあ、やっぱりヒマワリのこの反応は正しいかな。


「まあ活躍出来るかはヒマ次第だけど、私も頑張ってみるよ」
「その意気ですセツリ様!」


 気合いが入ってきたヒマワリに触発されて私もやる気がもっともっと上がるよ。よーし、次はあのNPCを当たろう。仮面が逃げた方向からすると、あのNPCの視界にも入ってる可能性は高い。
 てかいつまで仮面を装着したまま何だろう。そろそろ素顔を拝みたいよ。逆に目立つしね。そう思いながら、私達の追跡は続きます。


 そしてたどり着いたのは私達がさっき部屋を取った宿屋。近くのNPCの視界には確かに仮面女がこの宿に入っていく姿が映ってたし、その直ぐ後に仮面男も合流してたから間違いない。


「まさかこことはね。それに時間を見る限り、私達がここを利用する少し前じゃない」
「そうだね。丁度朝市でヒマと遭遇した位かも」
「そんな事よりも早く中へ行こうよ! そして奴らを見つけてつまみ出すんだ!」


 気合いが入りまくったヒマワリは拳を握りしめ力強くそう言ってる。だけど冷静なシクラがそんなヒマワリにストップをかけるよ。


「まあ待ちなさいヒマ。ここがアジトは訳無いわ。それに今もまだここに居るとは思えないじゃない」
「どうして? だってここに二人して入って行ったよ」
「そうだけど、考えてもみなさい。私達がここで何をやったか。あの時派手にやったせいで私達の部屋にはプレイヤーが来たでしょ? その時、もしかしたら奴らも居たかも知れない。その時まではね。そして私たちの姿を見てたとしたら?
 私とせっちゃんの事は知らなくても、ついさっき自分達がカモにした子の姿はアンタじゃないから忘れないだろう仮面野郎どもは、こう思うでしょうよ。『おいおい同じ宿になんか居れるかよ』ってね」


 まあ確かに十分考えられるかも知れないね。それにあんな騒いでてヒマワリが痛めつけられるって所をみたら、私達がその本を取り返しに来たと思ってもおかしくないかも。
 そうなると確かに、この宿にまだ居るとは考えられない。だけど……


「でも入って今の時間までで、仮面の二人組が出ていった形跡はないけどなぁ」
「ほらほら、それならまだ奴らはここにいるんだよ! ふふ、全くバカな奴らだぜ」


 なんだか渋めな顔してそんな台詞を吐くヒマワリ。きっと仮面の人たちもヒマワリだけには言われたくないと思うよ。


「何をバカがバカな事言ってるのよ。そんなの簡単。奴らはここであの仮面を外して、素顔で出ていったのよ。ただそれだけ」
「「ああ~」」


 なるほど。名推理だね。流石シクラ。どうりで仮面を探しても見つからない筈だよ。


「でも、じゃあどうするの? 仮面の中の素顔を知らないと、これ以上追跡出来ないよ」
「そこら辺は大丈夫よ。奴らがこの宿をちゃんと利用しててくれればね」


 どう言うこと? だけどシクラは自信満々だし、きっと大丈夫なんだろう。


「そう、私が大丈夫と言うときは大丈夫。信じていいよ。取り合えず宿の中に入ろっか。用があるのは中に居るNPC。そこで奴らの素顔がわかるはず☆」


 そう言ったシクラは颯爽と歩を進めて宿屋へと入ってく。私達はそんなシクラに付いてくばかり。う~んやっぱり憧れちゃう何かをシクラは放ってると思う。時々私にはキラキラ見えちゃうもん。
 やっぱりシクラは頼もしいよね。


 カランカランと言う音がドアに取り付けてあったベルから鳴り、カウンターに居るNPCがやる気ない声で「いらっしゃいませ」と言った。
 さっきも来たけど、あんまり繁盛してない店だからか、それともこんな態度だから繁盛してないとか知らないけど、その対応はどうだろうか? だよ。
 まあただのNPCに、仕様以上の物を求めるべきじゃないよね。


「ねぇねぇシクラ。思ったんだけど、私が権限を使わなくても、シクラはNPCに自我を目覚めさせる事が出来るんだよね。
 それなら、自我を目覚めさせて教えて貰う事も出来るよね?」


 忘れてたけど、シクラにはそんな特殊な能力? みたいなのがあるんだよね。それによって今のLROは前とは違う形に少しずつなってるとか。


「まあそうだけど、それだと映像が観れないわ。顔を確認する事が大事でしょ? それにまだ、全てのNPCに自我を持たせるのは危険。
 プレイヤーが大量に居る今の状況じゃ、LROのシステムに負荷が大きすぎるもの。それはせっちゃんの存在のリスクになる」


 私の存在のリスク? 良くわかんないけど、大量にプレイヤーが溢れてる今の状況で、同じく大量に居るNPCに自我が目覚めるって事は、それだけLROが処理するデータ量も倍々位に増えるって事なのかな?
 実際私は、機械に全然強く無いから、容量とかから良くわかんないけど、余裕がある方が良いってのはわかる。良く昔に、お兄ちゃんが機械には余裕が必要だって言ってたしね。
 ようは、今それをしたら流石のLROでも余裕って物が無くなるかもって事だよね。その影響で私がどうなるかがシクラは心配なんだ。


「そっか……うん。じゃあ私頑張っちゃうよ!」


 私を大切に思ってくれる子達に無駄に心配かけたくないし。私でもやれる事があるならやっちゃうさ! 


「じゃあ今度は、そのカウンターに居るNPCの視覚情報と、この宿屋の宿泊リストを出して。それであの仮面の中身が分かるわ」
「わかった!」


 私はさっそくNPCの名前を確認。そして再びウインドウを出す。左手はウインドウに埋めて、右手でカウンターに置いてある宿泊名簿をタッチ。
 黒い宿泊名簿の上に現れた別窓。そこには間取りと部屋番号と宿泊状況が観れる用になってる。なるほど、これで空いてる部屋を選んでお金を精算するシステムなんだね。
 宿泊名簿なのに、宿泊名簿って無いけど、LROではこういうシステムなんだろう。初めて知ったよ。今までチェックインなんて自分でやったこと無かったもん。
 私の経験値が三ぐらいプラスされた気がする。LROはレベルとか無いけど。気持ちの問題。私は少しずつ社会性を手に入れて行ってるね。
 私はそんな事を思いながら右手をその現れた別窓に添える。そして意識を集中すると、別窓の表示が切り替わり、そこにはここ数時間でこの宿を利用したプレイヤーの一覧が表示される。


「これでいいのかな?」
「流石せっちゃん。上出来だよ☆」


 シクラは私の頭を撫で撫でしてくれる。やった、誉められちゃったよ。


「うう……セツリ様ばっかり……」


 物欲しそうな目で不満気にそう呟くヒマワリ。そりゃあヒマワリは怒られてばっかりだからね。気持ちは分からなくもないけど……


「誉めて欲しいのなら、それなりの働きをしなさい。てか、褒めるなんて今の所あり得ないけどね。ヒマの評価は今は-20位は行ってるから、まずはそれを取り戻しなさい」
「-20って! 幾ら何でもマイナス過ぎだよシクラ!」


 自分の評価の悪さに抗議するヒマワリ。まあ確かに基準はわからないけど、-20は結構酷く感じるね。


「妥当でしょ。それだけの罪を背負ってると知りなさい」
「そんな~」


 一蹴されたヒマワリはそこらの椅子にドガッと腰掛ける。あらら、幾らスパッツだからってそんなに足を広げるのはどうかと思うよ。
 大きく仰け反ってるから、服がめくれておへそも見えてるし、ここはお城じゃないんだよ。人の目ってのを気にしてほしい。女の子なんだからね。


「ヒマのガサツさなんてどうでも良いわ。それよりもこの名簿に載ってる時間と、視覚情報の映像を照合しよう」
「そうだね。今は細かい事は後回しだね。教育は後からでも出来るし、仮面の人たちを逃がす訳にはいかないもん」


 私は別ウインドウにNPCの視覚映像を出します。外でここに入ったのを見たNPCの時間等辺だよね。チェックインしたとしたら。
 時間を併せて、画面からカランカランと同じ音が聞こえる。NPCの視線が動いてドアの方へ。すると丁度怪しい仮面の二人組が入ってきた。何か話してるみたい。


『ちょっとどう言うこと? なんで街中で合流するのよ?』
『この街から出れなくなってるんだから仕方ないだろ。取り合えずこの街での収穫は十分だ。取り合えず様子見をするぞ』


 そんな会話。街から出れない? それって……


「もしかしてシクラが張った結界に阻まれたのかな?」
「そうかも知れないわね。思わぬ所で役に立ってたって事か。流石私☆」


 自画自賛してるシクラ。どう考えてもたまたまで偶然だけどね。それにこの男の方がもう少し遅く外に出ようとしてたら、結界は消えてたかも知れない。
 そう思ってると、宿屋の窓から迸る閃光が。


『きゃ!? ちょっと何よ? 晴れてるのに雷?』
『何か起こってるんじゃないのか? なんだかイヤな予感がするんだよな。街から出れないってそもそもおかしいだろ』
『何? あんたビビってる訳? 大丈夫よ。野次馬根性を出して余計な行動をしなければバレやしないわ。例え何が起こってようと、宿屋の一室でひっそりとしてればほとぼりは冷めてるわよ』
『そう願うけどな』


 どうやらこの二人は女の方が主導権を握ってる感じなのかな? なんか男の人の方はこき使われてそうだね。そんな話をしながら仮面の二人組はカウンターへ。
 私と同じ操作をして部屋を決定。どうやら私達が取った部屋の隣だね。あの時も居たのかな? そしたら私達かなり間抜けだよね。
 簡単な操作と支払いをカードで済ませて部屋へと向かう二人。ここから先は完全なプライベート空間で、NPCはいないからね。観ることは出来ない。
 だけど十分、今のチェックインの時間を照らし合わせれば、彼らの名前も分かるよ。


「これが名前だね」
「ふざけた名前ね。だけど男の方は良い勘してると思うわ。自分達の未来を予知してる。私達に手を出してただ済む訳無いってね」
「怖いよシクラ……」


 黒いオーラが見える。まあ私もただで済ますつもりはないけど……シクラとか存在を消しちゃいそうじゃん。私が出来る事とシクラの出来ることは違うから、それを考えるとブルっと体が震えるよ。


「それにしても、どうやらこの二人私達だけから本を盗んだだけじゃないようね。会話から察するにスキルか何かでいろんな人からアイテムをかすめ取ってるみたい」
「そうだね。戦利品とか言ってたもんね。だけどそんなスキルあるの?」


 町中で気付かれずにアイテム欄からアイテムをかすめ取るなんて出来るのかな?


「出来ない事はないわよ。だけど確かアイテム欄を参照して盗むのを決めるとかは無理よね。基本ランダムだろうし。ヒマはどう見てもアホそうなのが溢れ出てたから堂々と盗まれたのね」


 私達二人は揃ってふてってるヒマワリに視線を向けます。ヒマワリは椅子の背をこちらに向けて、もたれ掛かって「ま~だ?」とか言ってる。
 自分のせいだという自覚がこの子にはまだ足りないらしいよ。私達は二人揃ってため息を出して、ウインドウの時間を進める事に。名前は分かってるから、今度はチェックアウトの時間に合わせれば良いんだよね。
 きっとその時には仮面を外してる筈。やっとで素顔を知ることが出来るんだね。そうして画面が一度暗くなって再びNPCの視覚情報が表示されると、なにやら慌ただしい映像が映し出された。


「これって丁度私達が暴れてた時間ね。やっぱり居たのか……不覚だわ。こんな事ならやっぱりさっさと法の書に細工しとくんだった」


 盗んだ犯人と交差してた事に後悔を隠しきれないシクラ。まあだけどしょうがないよ。目をギラつかせながらシクラは「こいつらか」とか言ってる。
 画面には慌てて駆けてきた二人組の男女がNPCの前を駆けて出ていった。別にチェックアウトとか自動なんだね。だけど大丈夫一時停止出来るから。
 仮面を外した二人は……まあ普通でした。普通に周りにとけ込めるよねって感じ。男の人はスレイプルで女の人はそのまま人みたい。
 せめてもの特徴は、やけに鞄やバックを提げてる所かな?


「アイテムの収納数を増やすための物ね。あれだけの物を盗んでるって事でしょう。あの中にきっと法の書も……取り合えず顔も分かったし、今度こそ追いつめるわよ!」
「うん!」


 顔と名前が分かればこっちの物! 後は一気に広範囲の検索をかけちゃうもんね。少しずつ慣れて来たから、今度もきっと大丈夫。
 私が見つけてみせます。こんな所で躓いてられないからね。私は目を瞑り意識をLROと溶け込ませます。これはまるで限りがない水の中。膨大な情報と精密なシステムで出来上がった海なのです。
 押し寄せては返る波の一つ一つに、理解できないコードの数々。煩わしいからそういう分からないのは押し退けて、一気に自分の命令をこの海に叩きつけてやるんです。
 すると浮かび上がってる来る選りすぐられた情報の数々。だけどそれでもまだ完璧じゃない。私が求めるのはたった一つの確実な情報。
 彼ら二人の現在の位置情報だよ。沢山の小魚が、私の周りから離れてく。それを食べに大きな魚が来て、更に大きな魚を呼び込む。私のイメージの検索はそんな感じ。
 大きな魚は私の餌に釣られてきた情報です。私が振れると私の何倍もある大きな魚は、キラキラと消えて私の中に。うん……これだ。


「見つけた」


 目を開いた私はそう呟く。そして二人の居場所を伝えます。


「あの二人は船の上。定期船に乗ってるみたい」
「分かったわ。逃げ場のない場所で好都合よ! ヒマ! 名誉挽回のチャンスよ! 盗人を追い詰めて、法の書を取り返すわよ!!」
「アイアイサーーー!!」


 勢いの良い返事と共に、椅子をひっくり返しながら立ち上がるヒマワリ。今度こそ追い詰めた。船の上なら安全なんて言う考えはこの二人の前には通用しない。

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