命改変プログラム

ファーストなサイコロ

ドタバタな日



 大きく息を吸うと香ばしい臭いがそこかしこから漂ってきてる。朝食を抜いた私のお腹にはなかなか刺激が強い香りが一杯。
 女の子なのに思わず涎を垂らしそうです。私はそんなキャラじゃないんだけど……でもやっぱりLROでも食べないとやっていけないんだよ。
 港町っぽいこの場所は、陽気な音楽がかかり、大きな通り一面に出店がビッシリと連なってる状態。何なんだろう? 昔テレビで見た朝市って奴かな? 海の近くだけあって、新鮮な魚が目立つけど、色取り取りの果物や野菜なんかもとっても多い。
 だけどやっぱり私の嗅覚を擽るのは、この香ばしい臭いだね。所々のお店は店頭で商品を焼いたり、生物だけじゃない調理品を作ったりしてるのか、鼻だけじゃなく、ジュウジュウと言う耳までも刺激する音が届くんだ。


「うわっはぁ! スゴいねシクラ!」


 私はそう言って、朝市の喧噪に飛び込んだ。NPCも一杯だけど、プレイヤーも同じくらい居そうな程の人の多さ。私的には普通にゲームとしてLROをやってる人達が、こんなただの食材とかに興味あるのかなって感じ。だって別に私以外の人達はここで食事してもお腹が膨れる訳じゃ……無いんだっけ?
 満腹感は味わえるんだったかな? でもその為だけにアイテム欄を食材で埋めるのもどうか思うけど。


「ねぇねぇシクラ。ここにプレイヤーが一杯な理由って何? みんなダイエット目的?」


 確か前にスオウからそんな事を聞いた気がする。LROで得られる満腹感を利用しての過度なダイエット。とっても危険だって。それなら今直ぐにでも皆さんに注意を促した方が――


「ダイエットって、ここでの食事はただの食事じゃないんだよせっちゃん。まあ向こうでだって実際食事はいろんな役目や付加効果を与えてるんだと思うけど、ただ見えないだけ。
 だけどLROではそれを分かりやすくしてるの。まあようは、食事効果ってのがあるのよ」
「食事効果? それの為にこんなにプレイヤーが集まるの?」


 私とシクラは並んで朝市を徘徊しながら、会話を続けるよ。


「食事効果を侮っちゃダメだよせっちゃん。戦闘を有利に進める為にも、勝利を掴む為にも、食事って物を重視するプレイヤーは多いわ。
 後は採掘とか生成とかのいわゆる職人系も重視してるわよ」


 ほへ~そうなんだ。私はそんな事考えて食事したことなかったな。どれもこれも大抵私の口に入る物は美味しかったし。重要なのは味だけって正直思ってました。


「別にせっちゃんはそれで良いと思うな☆ だってどうせ戦闘しないし、せっちゃんはお姫様だからね」


 そう言ってキラキラ輝く月光色の髪を海風に靡かせるシクラ。その仕草や光景をみてると、実際どっちがお姫様?って感じだよ。どちらかと言うとシクラの方が『姫』って印象強いと思う。


「ん? どうしたのせっちゃん? しょうがないから歩きながらでも食べれる物でも買おっか?」
「うん!」


 私は元気良くそう返事した。なんだか姫っぽいとかそんなのどうでもよくなった。だって私からじゃ言いだしづらかったんだもん。朝食を犠牲にするのを選択したのは私だし……実際さっさとヒマワリを探すんだろうと思ってたしね。
 そしてついでに言うと私は銭無しです。お金と言う物を持ったことがこの方ありません。向こうでも財布なんか持ってなかったし、こっちでも戦闘したことの無い私には、お金が入ってくる事は無かったのです。
 そんな私は買って貰うって事しかわからない。だからこのシクラの発言は待ってましたと言わんばかりです。


「ねぇねぇ、アイスも良い? アイスも良い?」
「アイスはメインを食べ終わってからにした方がいいわ。溶けちゃうじゃない。服汚れちゃうわよ」
「は~い」


 確かにそこら辺はシクラの言うとおりだね。後から買った方が楽しみが取っておけるから良いかな。それにダメって言わなかったし、これは買ってくれるって事だよね。
 なんだか今日のシクラは優しい。実際私を外に連れ出したくれた事もそうだし、どうしたんだろう? まあ何はともあれ、この機会を逃すわけには行かない。一杯シクラに甘えるんだ。
 シクラ達は無条件で私を好きで居てくれる。だから私も好きだよって示してあげるの。


「はむはむモグモグ」
「どう? おいしい?」


 口に買ったばかりの料理を放る私を見て、シクラが嬉しそうにそんな事を聞いてくる。私は「美味しい」と返してさらに目に付いた食べ物を指さして「ふぁえもー!(あれもー!)」と言う。


「そんなに一杯食べたらアイス入らなく成っちゃうよ。程々にしときなさい」


 流石に調子に乗りすぎたか、ストップを掛けられた。だけど流石にちゃんとわかってる。勢いでアレも欲しいと思ったけど、お腹的には私の小さな胃にはこの二つでも結構ギリギリかも。アイスの分の余裕は欲しい所だよね。
 まあ女の子はいざと成ったら別腹だけど。


「ねぇねぇ、そう言えば私が食べてるこれにも何か食事効果があるのかな?」


 私はなんとはなしにそんな疑問をシクラに問う。だって食事効果って全ての食事あるんだよね? だったら今私が取ってるこれにも当然何かしらの効果があってもおかしくない。


「もちろんあるわよ。買うときの表示に付加効果が書いてあった筈だけど? まあだけどそんなファーストフードでどこでも買える料理の付加効果はそんなに期待出来ないかな。
 食事の効果はその完成品で決まってる訳じゃないのよ。それぞれの食材で現れやすい効果ってのがあるし、料理人はどんな効果を与えたいかを考えて食材を吟味して料理を作る。
 だからそうね……その効果は購買意欲アップの為のテンション割高位じゃない?」
「はめられたって事だね!」


 なんてあざとい商売をしてるんだこの町の人達は! どうりで幾ら久しぶりの町でもテンションがおかしいと思った。


「テンション高いのは最初からだった気がするけど?」
「常になの! 下がらなくなったって事。 所で、シクラは食べないの?」


 私はふとそんな事を聞いてみる。だって誰かが食べてたらちょっとは欲しく成っちゃうものだよね。どうせシクラは有り余る位のお金を握ってるんだし、買えないわけ無いよ。


「私は朝食取ったし、それに――」
「それに?」
「――私にはあんまり似合わないじゃない。イカ焼きと丸焼きの魚をパンに挟んだホットドックモドキは」


 太陽が負けちゃそうな笑顔でそう言ったシクラ……なんだかちょとみとれてしまったけど、よくよく考えたら失礼だよね?
 確かにホットドックモドキの方は魚の顔がパンからはみ出てちょっとグロいけど……味は抜群だよ。この和風ソースが絶妙な爽やかさを与えてくれる。
 きっとこれは大根下ろしとかを加えて作ってあると思う。辛みが少ない大根下ろしね。辛いのは苦手だから、私はこっちの方が好き。


「味は否定しないよ。ただ私には合ってないなってだけ。そこいらのギャルって気品じゃないでないでしょ私って☆」


 流石はシクラ。凄い自信だね。羨ましい位の心の強さ。私もそんな事を平気でいえれば……ううん、もっと自分に自信を持てたら良いんだけど……


「そうだね。シクラは漂わせてる物が違うよね。さっきから視線が凄いし。私はこんな物を食べれちゃう位の気品だよ」


 ショボーンと肩を落とす私。まあこんな物って言い方悪いけどね。ちゃんと美味しいんだし、そこは保証するけど、この肩を落としてるのは自分を卑下してだよ。
 するとそんな私をにいきなり抱きついてくるシクラ。


「ちょっ!? 何々!?」
「何言ってるのかなせっちゃんは。本当にこんなくぁわいい容姿しといてさ。私たちがせっちゃんを大好きだから可愛い言ってる訳じゃないんだよ。
 せっちゃんは間違いなく美人。それは私達が保証してあげる☆ 周りの男共だって、せっちゃんが可愛らしくイカ焼きをぱくついてる様で悶えてのよ」
「ええ~そうかな?」


 それはそれで嫌な様な……確かに私もチラチラと視線を感じては居たけど、それはシクラへの視線が流れてるんだろうと思ってた。私にも向いてたのかな?
 でもそれでもあんまり自分の容姿とは思えないかも。今日はファッションがんばってるしね。そっちかも知れないよ。


「本当にせっちゃんは……ちょっと謙虚過ぎだよ。まあLROには偽った美女が多いのも事実だけど、せっちゃんは素でこれなんだから、もっと自信もって良いんだよ」
「そう言ってギュウっと強く抱きしめられる。なんだか周りから「おお!」みたいな声が聞こえるし、恥ずかしいよシクラ。


「まあようは、せっちゃんは最高って事☆」
「……もう」


 私から離れてそう言うシクラ。なんだかこっちの顔が火照っちゃうよ。そんな事思ってくれてるのシクラ達だけだよ。


「うは~うっめぇ!」


 私達が百合百合して注目を集めてるなかを華麗にスルーする一つの影。その声はとっても聞き覚えのある声で、その手に持った食べ物の量が尋常じゃない事を私は見逃さなかった。
 今のきっと間違いないヒマ――と私が思った瞬間、シクラは大きくその名前を叫んだ。


「ヒマ! 見つけたわよアンタ!」


 ザワワと周囲がビックリしてるのがわかる。だけどそんな事全然気にしないシクラは、声だけを聞いて持ってた食べ物全て落としたヒマワリに近づこうとする。


「あ……わ……シク……ラ」
「大人しくしてなさいよヒマ。逃げるとロクな事にならない――って、ちょっと聞きなさいよ!」


 逃げた。ヒマワリ速攻で逃げた。もうそう決めてるとしか思えない判断の速さ。本当に怒られるのが嫌なんだね。


「あ~あ、もったいない」


 私はヒマワリが落とした大量の食べ物を見つめます。これはこの朝市に出展してるお店をほぼコンプリートしてるんじゃないかと思う量だ。
 まあ良く食べる子ではあるけど、凄いね。良く買えたね。あほの子なのに。


「せっちゃん何やってるの? 追うわよ! あのバカ、私から逃げられるとでも思ってるのかしら?」


 そう言ってシクラは私の手を引いて走り出します。だけど私は最後まで残った食べ物が気になるよ。


「あれってどうなるのかな?」
「もう、せっちゃんもそんなにお腹が減ってたの? 大丈夫、あれはただのデータと化すわよ」
「消えてなくなるって事?」
「そう言う事」


 まあ人だって戦闘不能に成ると消えてゲートクリスタルまで戻されるんだし、そう言う物だよね。私達は朝市で賑わう人混みをかき分けながらヒマワリを追います。追い……ます?
 よくよく見たら既にヒマワリの姿は無いんだけど……


「これって本当にヒマを追ってるの? てか追えてるの?」
「大丈夫。姉妹の私にはわかるから! ここに来たのだって偶然じゃないの。分かってたから来たのよ☆」


 そう言って余裕を見せるシクラ。姉妹だから分かるか。それは性格とかを良く理解してるから? それとも実はヒマワリに発信機でも付けてるとか……シクラならやりそうだよね。
 まあとにかく、闇雲に走らされてる訳じゃないのなら、いいかな。もの凄く運動不足の私は既に一杯一杯なんだよ。これで見失うとか既に嫌に成りそう。
 心臓バクバクで、肺に空気が足りない。朝市を抜けて、市街に出たくらいの所で限界来た。


「ハァハァハァハァハァハァハァ」


 運動って大変だ。私がしみじみそんな事を思ってると、シクラがそんな私の様子を見て、こう言った。


「せっちゃんは実際そんなシステムを越えれると思うけど。もっと自分を理解して、そしてこのLROと言うシステムを理解しようか? 
 そうすればそんなに苦しまなくて済むよきっと。だってこの世界で誰よりも愛されてるのはせっちゃんの筈なんだから☆」


 うう……そんな事良いから取り合えず飲み物を。喉がパッサパサで、唾液さえ出ないよ。やっぱりだけど、全然私運動とか向いてない。
 当然と言えば当然だけど、ちょっとショックだよ。どこまで言ってもこんな自分なのかなって……


「はい、せっちゃん」


 私がまた一人で鬱に成りかけてると、シクラがぴとっと頬に瓶ジュースを当ててくれる。あれれ? シクラはずっと私の側に居たはずだけど、一体どうやって買ってきたんだろう? 
 取り合えず受け取るけどね。


「ありがとう――んくっ、んくっ……はぁ、生き返った」
「せっちゃんはまだ自分って言う存在を、悪いイメージのまま固定してるから、スペックが自分が思い描くままなんだよ。
 自分が自分の事を一番良く理解してるからこそ、今のせっちゃんはLRO中で最弱なの」


 最弱って……そこら辺はもう少しオブラートに包んでくれても良いんじゃないかな? 傷ついちゃうよ私。普通の子よりも繊細なんだから。


「十分甘く言ってると思うけど。別に強く成って欲しい訳じゃないしね。私達がどんな障害からでもせっちゃんを守るから☆
 ただ、世界を変えた後の事を考えると、もう少し体力とかを付けといた方が良いってだけ。冒険したいんでしょ?」
「うん……そう。やってみたい」


 そうなんだよね。私は世界を変えて、私だけの世界で大冒険をする予定なのです。確かにそれを考えると、今の私は貧弱過ぎるかなっては思う。


「それならホラ、城で教えたことを少しづつ実践してみようよ。そのために勉強してるんだからね。私達はせっちゃんの為に成らない事はやらないよ☆」
「うん、なんとか頑張ってみる!」


 私は瓶の中のジュースを飲み干して元気良くそう言った。そうだよね。シクラ達が私の為に成らない事をしないのも、私を一番に考えてくれてるのも自分が一番知ってるもん。
 だからそんなシクラ達にも答えたい気持ちがある。


「よ~し、もっと頑張ってヒマを捕まえてみせるからね」


 取り合えずジュースで体力回復したし、もうちょっと頑張れそう。


「じゃあ早速せっちゃんお願い」
「何を?」


 いきなり何を丸投げされたのか私わかんないんだけど。


「ヒマの探索。この街からは出れない筈だから、ちょっと実戦ぽくやってみようかなって。まあ予想外だったけど、これを使わない手も無いわ。
 せっちゃんの勉強にもなってヒマも追いつめれる。一石二鳥でしょ☆」


 本当に良い笑顔でシクラは怖いことを言っちゃうよ。まあ確かに一石二鳥なのは確実だね。ヒマワリには悪いけど、いつまでも逃げ続ける訳にもいかないしね。普通にあの子野宿とかしそうで危険だし。
 心配だから早く戻って来て欲しい。勿論ちゃんとシクラには私もフォロー入れるしね。それに私が何か出きるなら、やってみたい事でもあるよ。


「ヒマがこの街から出れないってのは何でなの?」


 素朴な疑問を私はぶつけてみる。


「あの子がここに居るって分かった時点で、街を囲む様に結界張っておいたから。だってそうでもしないとヒマのスペックじゃ速攻遠くに行かれるわ」


 まあ確かに、あの子スピードは純粋なそれだけど、一番ではあるもんね。シクラも早いけど、種類が違うって言ってた。シクラは確か空間支配を利用した点移動とかどうとか? 私には難しくて分からなかったよ。
 まあでも取り合えず、姉妹の仲で一番早いのはヒマワリなのです。だから逃走を阻む為に結界を張ったって訳だね。
 どうりでここに入ってから、随分のんびりしてるなと思った。閉じこめてるから急ぐ必要ないって判断してたんだね。


「それよりも、出来そう?」
「やってみる」


 私は胸に手を当てて二・三回深呼吸を繰り返す。こうやって何かを任される事って初めてだから緊張しちゃうな。失敗したらどうしようとか……まあシクラ達が私を嫌いになるなんて考えられない事だけどね。
 だけどガッカリはさせたくないなぁ、とは思う。だって期待してくれてるって事だもんね。シクラだって同じ様な事出来る筈で、自分でやれば数秒もかからないだろうに、それでも私へやらせてくれるのは、私の理解や成長をみたいから。頑張ってみよう。私は、こんな私を大好きで居てくれてるシクラ達が大好きだからね。


「てい!」


 私はそう言って左腕を振るって自分専用のウインドウを表す。実際この時点で私のウインドウは普通とは違うらしい。スオウ達はそれに気付いてなかったらしいけど、私のウインドウには裏の機能があるのだ。
 今現れてるのはなんの変哲もないトップ画面。全身の装備状況と、各種設定へのリンク、そして右上にはログアウトが有るはずの空欄。
 私はその空欄を長押しします。するとなんの変哲もなかったトップ画面が真っ白な白紙へと早変わり。私はそこに腕を置く。すると画面に波紋が広がり、私の腕を僅かに吸い込む。ヒンヤリとした感触が気持ちいい。


「集中ねせっちゃん。大丈夫、せっちゃんにはその権限がある。それこそ私達以上の自由が約束されてるわ☆ この世界で、貴女に出来ない事はない……それほどだから、自信を持って」
「うん……」


 私の意識がウインドウの奥へ奥へ引っ張られる感覚。だけどそれじゃあダメだってシクラに言われた。私は引っ張られるんじゃなく、引っ張り出す側で居られる筈だって。だから私が行くんじゃなく、そっちが来なさい。
 私の求める物を与えないさい!!


 真っ白な画面に浮かぶ波紋が大きくなり、ピチャピチャという音が鳴る度に、周りに小窓が現れては消えていく。馴れてないからか、いらない情報が一杯あがってくる。その度に窓が開くんだけど、直ぐに消す。その繰り返し。


「せっちゃん、LROの情報は膨大。その中から一つの情報を導き出すのは大変。自分なりのやり方を見つけるしかないわ。
 それには集中。大丈夫、せっちゃんならきっと出来るから」


 そう言って私の両肩に手を添えて、そっと体を寄せてくれるシクラ。暖かい。安心できる。大量の情報で脳がパンクしそうだったけど、なんだか落ち着けた。


(私が求める物を、私だけが抜き取る。必要なのはこの街のどこかに居るヒマワリの情報。教えなさい、その位置を)


 ウインドウの向こうに消えた手で取捨選択する。その中に入ってきた一つの映像。それこそが私の求めてる物だった。


「来た! ヒマワリの場所、それは……あそこだよ!」


 私はウインドウから手を引きだして、指さす。それはこの街で一番高い建物の屋根――っと言うか、十字架の先端。この街で一番高い建物が大きな教会って事だね。


「上出来よせっちゃん。良い子良い子してあげようか?」
「そんな事より早く捕まえないとだよ!」


 どう考えても力を使って脱出しようとしてるよ。私の指摘にシクラはちょっと不満気。だけど直ぐに気を取り直してこう言った。


「そうね。幾らアホと言っても結界の弱点くらいは見抜いてそうだし、少し急ごうかな」


 そう言ってシクラは私をお姫様だっこする。そしてそのまま跳躍して屋根に上がり、教会目指して一直線。だけどその直後、空にロケットの様な煙が昇った。あれはきっとヒマワリだよ。
 グングン昇る煙は、ある一定の高度で結界にぶつかったのか、この街全体がビリビリバリと光に包まれる。結界はヒマワリを出すまいと必死で、ヒマワリは命の危険を感じてるからまた必死に結界にぶつかってるんだろう。大丈夫なのかな? 弱点がどうとか言ってたけど……破られたらヒマワリはあっと言う間に遠くへ言っちゃうよ。


「ちょ~とおいたが過ぎるわよヒマ!」


 そう呟いたシクラが一気に加速――と思ったら、次の瞬間には何故かヒマワリの目の前に現れた私達。その光景に驚いたヒマワリは「げっ!?」とか言った。


「鬼ごっこはおしまい☆」


 パチンと指を鳴らすシクラ。するとその瞬間、結界が守るだけじゃなくヒマワリへと襲いだした。その堅かった体をしならせてヒマワリを包み込み拘束する。

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