命改変プログラム

ファーストなサイコロ

風を切る船



 空に輝く多数の魔法陣の光。それらは全て、ある一人を押さえる為に用意されたもの。シルクちゃんの周到な準備と、ピクとの心通わせた連携の賜物が、得体の知れない奴を封じる手段へとなりえたんだ。
 朝日よりも少しの間だけ強く輝いた魔法の光は、奴の体を覆い、そして頑丈な入れ物と化した。しかもコンパクトなサイズにも成ったという何とも便利な魔法だったよ。
 奴の体に現れた魔法陣が体を縮め、そしてその体を包むクリスタルの入れ物を形作って、空にあった魔法陣は消えていった。
 今や奴は手のひらサイズに収まるクリスタルの中の住人と化している。ゴウゴウという飛空挺の内部から響く様なそんな音と、直接に吹き付ける風の中、甲板に無惨に転がるソレを、降りてきたシルクちゃんが拾い上げた。


「成功してよかったです」


 そう言った彼女はちょっと気恥ずかしげに微笑んだ。もっと威張ったって良いのに、謙虚なんだからね。だけどそこがシルクちゃんの良いところだよ。
 まあシルクちゃんが自分をなかなか誉めないから、周りの僕達が誉めて上げなきゃだな。


「スゴいよシルクちゃん! 流石LRO一の魔法使い! よっ! 天下一!」
「そっそんな、私はまだまだですよ。それに天下一なんて狙ってませんし……女の子何ですよ。なんだかちょっとおかしくない無いですかそれ?」


 頬を熟れたリンゴみたいに染めて上目遣いで、目をしばたかせながらシルクちゃんは言う。う~ん別におかしくないと思うけど。
 今や女性も天下を狙う時代だよ。女性社長とか普通だし、実際もう男尊女劣なんか無いに等しいんだし、シルクちゃんがLROでの地位を確立させたって全然おかしくない。


「そうでしょうか? 力強そうで野蛮なイメージは持たれないですか?」
「シルクちゃん見て、力強く野蛮なんてきっと誰も、一瞬たりとも思わないと思うよ」
「そう……かな?」


 コテンてな感じで首を折るシルクちゃん。おいおいおいおいおいおいおい、さっきから感じてたけど、これはやばいだろ。別に言わなくても伝わってるかなって思ってたけど、これは言っておこう。うん、とりあえず。この子超可愛い。
 実際さっきからの一連の会話の中の仕草で何回男心をときめかせれば気が済むんだこの子って位だよ。奴と対峙してたときよりも、胸がドキドキだぜ。
 とりあえずこれ以上二人で会話してると胸が張り裂けそうだから、僕はピクの方を向いて話を振る。


「ピクもご苦労さん。てか、言ってくれれば良いのに。まさかシルクちゃんに利用される日が来るなんて思っても無かったよ」
「済みません、だけど詳しく話せる状況じゃ無かったですし、この人は鍛冶屋君にさほど意識を向けてなかったから、案外簡単に取り戻せるんじゃないかって。
 それにそうなった後に彼を安全な場所まで運んで貰うには私じゃ非力だから、スオウ君に押しつけた訳です。ごめんなさい」


 なるほど、色々とあの状況下でシルクちゃんは見てたんだね。


「鍛冶屋が一緒だったら、不味かったって事? その魔法にはさ」


 僕はピクの顎をサワサワしながら気になってる事を聞いた。


「はい。あのままだと、鍛冶屋君もこの中に閉じこめなくちゃいけなくなりそうでした。それは流石に不味いですから」
「ふ~ん。だってよ。良かったな鍛冶屋。お前今頃アイツと密着してあの狭いクリスタルの中だったかも知れないぞ」


 僕が意地悪くそう言って話を振ってやったにも関わらず、反応が返ってこない。鍛冶屋ならひねくれた言葉を返してもおかしくはないんだけどな。そう思って視線を向けると、なんだかかなりぐったりしてる。
 そう言えば鍛冶屋にはかなり無理させてたんだっけ? 僕達が甲板に上がるために複数のプレイヤーの相手を一人でしてくれてたし、その途中であの変な奴の乱入があったりしたんだろう。
 それはかなりハードな出来事だったと予想出来る。それによく見たらかなりHP減ってるしな。倒されて無いだけで、実際瀕死状態だ。
 そんな鍛冶屋の状態を見たシルクちゃんはすぐさまこう言うよ。


「大変。今すぐ回復させますね!」


 シルクちゃんの足下に浮かび上がる魔法陣。それに反応するように、僕の肩に居たピクも飛び立つ。そして鍛冶屋の周りをクルクルしだす。
 ピクの翼からキラキラした粒子が舞い散ってる。そして放たれるシルクちゃんの回復魔法。すると瞬く間に回復する鍛冶屋。
 HPが一瞬で九割方戻ったし、表面にあった傷も消えた。うん、改めてこうやって見ると、やっぱりスゴいなシルクちゃんの魔法は。やっぱりピクのあの行動にも意味あるんだろうな。


「ん……」
「おい、大丈夫か鍛冶屋?」
「傷もHPも回復したはずですよ」


 僕達の声を受けて僅かに動き出した鍛冶屋。ダルそうな声と共に体の調子を確かめるみたいに、腕を回して足を踏みしめる。


「おお、なんだか入った時よりも体が軽いぞ」
「それは何よりです」


 鍛冶屋の言葉ににっこり笑ってそう返すシルクちゃん。なんて良い子なんだろう。


「今の回復魔法ってここまで回復する奴だったか? やはりピクがその効果を高めてたりするのか?」
「そうですね。ピクが傍に居てくれると、どうやら魔法全体の出力が上がるみたいです。魔法での攻撃に防御、後は回復……その他諸々。頼りになる子です」


 そう言ってシルクちゃんは腕を空に差し出す。するとそこにピクが優雅に降り立つんだ。なんて絵になる光景。てか、やっぱりピクは色々と凄い機能盛り沢山じゃね? 
 ストック魔法に主の魔法の底上げまで……普及したらソロでもかなり戦いが楽になりそうだな。まあ流石にピククラスのサポートモンスターはそう簡単に手に入りそうにはないけど。
 いつかは僕も自分のサポートモンスター持ちたいよな。ピク見てるとマジで思う。シルクちゃんの言葉を聞いた鍛冶屋はなんだかブツブツ言いだして、そしてその視線がシルクちゃんの持ってるクリスタルに止まる。
 桜色したひし形のクリスタルの中には奴が後ろ手に縛られた状態で入ってる。勿論手を縛ってるのは縄とかじゃなく、この場合は魔法陣だ。


「この魔法は……封印術の一種か? シルク……お前『ディスピランサー』だったのか?」


 うん? なんか聞きなれない言葉が耳に入ったような?


「え? ディス……なんだって?」
「『ディスピランサー』だ。封印魔法を扱ったりその解除が出来る魔導師の事をLROではそう呼ぶ。封印魔法や、その解除は所属してる国に実力を認められた魔導師しか、出来ないと聞いたが、まさか実在してたとはな」


 なんだか感心した目でシルクちゃんを見る鍛冶屋。そんなに凄いのか? そのディスなんとかは。正直ピンとこないよ。素直にシルクちゃんスッゲーーの方が分かりやすい。


「あはは、まあ単なる称号ですからね。それに私以外にだってそれなりにいますよ。ただ単にそんなに使う機会がないし、言いふらす物でもないのであまり知られてないだけですよ。
 ヒーラーかソーサラーをずっとやってると、自然とそんなミッションが入ってくるってだけです」


 う~ん、僕には良くわからないけど、そんな物なんだな。まあシルクちゃんの事だからどうせ謙遜なんだろうけど。鍛冶屋の反応見る限り結構凄そうだし。
 僕はこっそりと事実を鍛冶屋に確認してみる事に。


「どうなんだ? シルクちゃんの説明どうりなのか?」
「ふざけるな。確かに他にも居るだろうが、このLROの中でも両手で数える程しかいない筈だぞ。確かにミッションは結構発生してるようだが、それを乗り越えたって話は殆ど聞かない。
 それにな、それぞれの国がわざわざ認めて、称号をやるほどって事に注目しろ」


 どう言うことだ? 国が保護してるとか? 大切だから。


「封印術とかはいざという時の切り札になり得るだろ。今回もそうだが、LROの歴史を紐解けば『ディスピランサー』は様々な時代で活躍してる。
 そして解除もまた重要なんだよ。LROには貴重なアイテムが眠ってるからな。それを集めたりも国はしてる。貴重なアイテムほど当然強力で、強い封印が掛けられてたりするのが殆ど。
 そう言うのは同じ『ディスピランサー』でないと回収出来ないんだよ」


 へぇ~案外危険な任務をシルクちゃんはこなしてたんだね。まあ確かに今の話を聞けば、シルクちゃんの凄さが良く理解出来たかも。『ディスピランサー』ね。
 ちょっとこの称号の名前はシルクちゃんにはあってない。そう思うのは僕だけか? てかきっと、それはきっと論点違うんだろうなって思うから口には出さないでおこう。


「で、そいつもシルクちゃんが見事に封印したって訳だよね? 下で僕とシルクちゃんがはめられたあの拘束魔法とは種類違うんだ?」
「ええ、そうですね。あれよりは数十倍強力なので、彼が頑張って抜け出すのは実質不可能ですよ。封印術は実際、戦闘じゃ殆ど使えないんですけど、ピクのおかげでやりやすくはなりましたね」


 ここでもピク。まさにピク様々だね。憎い奴だぜ全く。本当にさ、ピクのストック魔法とかを使えば、出来ることが色々と増えた感じだよね。ピク自身、居るだけでシルクちゃんの力を底上げしてくれる訳だし。
 まあだけど、なんてたって絵になるのが一番だけどね。シルクちゃんに寄り添うピクの絵は、本当に最高に美しい。


「所で、そいつどうするんだ? 持ち歩くのも危険じゃないか?」
「そうですか? だけどいつまでもここに封印して置くわけにもいかないですよ。リア・レーゼに着いたらちゃんと解くつもりですし、持ってないと」


 鍛冶屋の警戒したような言葉にそう返すシルクちゃん。まあ確かにただ乗り合わせて、自分の正義を貫こうとした奴をずっとこのままにしとく訳にもいかないか。
 これは緊急の処置みたいな物だからね。リア・レーゼに着きさえすれば確かに解放しても良いとは思う。その時はなるべく距離あけて、解放したら速攻で逃げた方がいいだろうけどね。


「解放するのか? 危険すぎると俺は思うけどな。武器も無しにあの強さ。せめて何かこいつの秘密を吐かしてからの方が良いんじゃないか?
 次もぶつかる時が来るかもしれないし」


 用心深い鍛冶屋はクリスタルに収まってる奴を見据えてそう言う。確かに鍛冶屋の言い分もわかるけど……別に悪い奴って気がしないんだよね。どっちかっていうとそれは僕達だし。


「甘いなスオウ。お前はもっとシビアに成るべきだ。お前のHPが魂一個分ならなおの事、どこかで躓く事なんか出来ないだろ。
 次にぶつかる時はこの手は使えない。倒しに掛かるとき、こいつの技の秘密を知ってるのとそうでないのとで勝敗は分かれるぞ。
 負けることが許されないのなら、もっと貪欲になれ。お前には助けなくちゃいけない奴らが居るんだろ」
「それは……確かにそうだけど……」


 鍛冶屋のもっともな言葉が胸に刺さる。言いたいことも、伝えたい事もわかる。理解できる。次の為に繋げる情報を引き出しておくのは確かに重要。
 こいつとはぶつかりそうだしね。その時にもしも負けたら……ここで何もしなかった事を後悔するのかも知れない。


「死んでから後悔しても遅いんだぞ」


 イヤな事をズバリと言う奴だな全く。折角の気持ちの良い風が台無しだ。


「でも、私はスオウ君の気持ち少し分かりますよ。スオウ君は優しいから、次なんて考えてないんですよね? それにこの人は、私達に立ち塞がったからといって、元老院とかと同じ悪じゃない。
 私たちに向けた言葉はどれも真っ直ぐでした。だからですよね?」


 シルクちゃんが僕を見てニコリとしてくれる。ああ~ホント良い子だね。まさにその通り。シルクちゃんは流石だよ。


「それが甘いと言うんだよ。明らかな悪党一味以外と戦う場合は、向こうにだって正義と理由があるだろう。それを考慮して遠慮なんてしてたら、自分の思いなんて通せない。
 正義に立ちはだかるのは別の正義。アルテミナスでもそれは学んだだろう。ガイエンだって自分の正義を貫こうとしてた奴だった。アルテミナスの為にな」


 確かに……手段はどうあれ……色恋沙汰がどうあれ、確かにそうだったな。アルテミナスの為ってのは、ガイエンにもアイリにも譲れない思いがあったはずだ。
 正義に立ちはだかるのは別の正義ね。上手いこと言うじゃないか鍛冶屋の分際で。


「分かったのなら、情報を引き出せ。今後の保険の為にもな」
「そうだな。言いたいことは分かった。でも……それはしなくていいよ」
「――なっ!? お前は何も分かってないじゃないか!」


 僕の言葉にオーバーリアクションで喰い掛かってくる鍛冶屋。お前そんなキャラだったっけ? 基本武器以外はどうでも良いがお前のキャラだろ。


「お前は貴重なセラ・シルフィングの使い手だからな。居なくなってもらっちゃ困る。この世界の武器がどこまでたどり着くのか、俺は見届けたいんだ!
 だからお前に死なれちゃ困るんだよ」


 案外酷い事言ってないかコイツ? やっぱり武器で、僕の事はどうでもいいのかよ。


「武器の為にお前の存在が必要だと言ってるだろ?」
「それじゃあ結局、セラ・シルフィングが一番じゃないか! 武器を振れる奴なら誰だって良いんじゃないのかそれ?」


 僕は不満タラタラでそう言ってやる。だけど鍛冶屋は深いため息と共にこう言った。


「お前は何も分かってないな。お前じゃないと意味はない。武器だって使い手を選ぶんだからな。俺はそう思ってる。
 セラ・シルフィングに出会えたのもお前のおかげだろ。だからお前の心配もしてるさ」
「うぬぬ……まっ、そう言う事にしといてやるよ」


 そういう奴だってわかってるしな。そもそもセラ・シルフィングの前のシルフィングって鍛冶屋からタダで貰ってたしな。
 感謝こそすれ、文句言う筋合いはないか。


「それよりも、どうしてそいつの力を吐かせないって事だ。今度はこっちに納得する説明をして貰おうか」


 そう言って鍛冶屋が強く奴を睨む。小さなクリスタルの中に封じられた奴は、別段焦ってる感じでもないし、落ちついてる様な雰囲気。
 流石にこれは出れないと諦めてるって事だろうか? まあ取り合えず、僕も囚われの奴を視界に納めながら、その理由を口に出す。


「確かにまたぶつかった時を考えると、鍛冶屋の言うとおりだと思うけど、やっぱり乗り気になれない。言われたんだよな。自分の思いを通すだけで満足するのは自分だけって。
 そして思った。他に道がないから、強制的な力の行使は僕達の勝手な都合。僧兵とか末端でも関わりのある奴らを倒すのは別に良いけどさ、普通の一般人を巻き込んで、しょうがないなんて言えないのは確かだろ。
 僕達がこれしかないと思ってやってきた事は本当にこれだけだったのか? もっと上手いやり方があったかも知れないじゃん。
 それか、それを作らないとコイツみたいな正しい奴には立ち塞がれる。けどそれって、あんまり悪い気もしないんだよな。
 だからこそ次は、正々堂々とやり合いたいとも思うだろ」


 僕の言葉に、意外な所から言葉が返される。


「くく……それが出来るのなら、苦労なんてしないだろ。こちらもその位わかってるさ。だが、許容は出来なかったと言うだけだ。
 次があるのなら、確実に倒す。その言葉を後悔する事になるぞ」


 フードのしたの口がつり上がってるのが見て取れる。


「上等だよ」


 僕も口元をあげて余裕の笑みを見せつつそう言ってやる。


「結局お前は戦闘狂って事か」


 二人の間にそんな声がポツリと届く。誰が戦闘狂だよ。前にも同じ様な事言われたけど、そこは断固否定するね。僕は好き好んで戦闘やってる訳ない。
 だって死ぬんだぞ。出来れば命のやりとりなんてそうそうしたくないっての。


「そんな言葉とは裏腹に、お前はいつだって戦地に飛び込んでるじゃないか。本当は命の掛け合いにハラハラドキドキしてる口だろ?」
「ふざけるな。僕はそんなにMッ気ない。痛いの嫌だし、死ぬのはもっと嫌だ」
「大丈夫です! 私が居る限り、スオウ君がどんなに大怪我したって絶対に治して見せます! HPさえ残ってれば!」


 力強くそう言ってくれたシルクちゃん。だけどなんかあんまり嬉しくない様な。だってなんかシルクちゃんも僕が戦闘狂の部分否定してくれてない。
 そう思われてるのかな?


「だけど実際、スオウ君の言ったことは難しいですよ。新しい道を自分たちで作る。関わりのある人以外に迷惑を掛けない道……実際それは不可能です」


 ズッパシとシルクちゃんに言われちゃったよ。まあ自分でも前に思って机上の空論とか言ったわけで分かってた事だけど。
 誰かに言われると結構重いよ。


「それはそうだけど、目指す事が大事じゃん。正しいことを否定する事から入りたくないし。別に迷惑を掛けない訳じゃなく、理解されたい訳だよ」
「それも相当難しい。情報ってのは、必ずしも正しい事が伝えられる訳じゃない。特に親玉が国の重鎮クラスと成ると尚更だ」


 うう……またしても正論を。なんだよ、なんだよ、そんない否定しなくても良いじゃん。


「取り合えずコイツの個人情報なんていらないし、僕はコイツの様な奴らも納得出来る方法を見つける。そもそも戦う理由なんてないんだからな」


 僕は頬を膨らませてふてくされ気味に畳みかけたよ。取り合えずそういうことで!


「まあスオウ君がそれで良いなら私は良いですよ。ねっ鍛冶屋君?」
「まっ、結局それがお前だからな。後悔しても泣き言は聞かんぞ」
「言わないし」


 取り合えずシルクちゃんも鍛冶屋も納得してくれて良かった良かった。さて次の問題は……


「取り合えずどうやって操舵室に上がるかだな」
「階段この人の攻撃で無くなっちゃいましたからね」


 ホントホントなんて事してくれたんだ、この野郎。あそこにはクリエとミセス・アンダーソンが居るんだぞ。


「ん?」


 なんだか周りのプロペラの回転が緩慢に成ってないか? それに風が最初よりもだいぶ緩やかと言うか……


「おい艦長! 全速力って言っただろ! スピード緩めるな!」


 僕は操舵室に向かってそんな檄を飛ばす。だけど返事はない。一体どうしたんだ? やっぱり間近で脅さないと……ってそういう事を仕方ないと思ってやってたのが駄目だったんだっけ。
 有言実行しないとな。


「ちょっと鍛冶屋、肩貸して」
「ん? ああ」


 僕は鍛冶屋の肩を借りて操舵室の扉に手を掛ける。そのまま扉を開けて、中へ滑り込んだ。二人はどうやら無事みたいだな。艦長は舵を握ったままそこに居るし、ここはおかしな程変わりないな。
 さて、脅すのはやめたからどうするか。取り合えず謝った方がいいよな。


「あの、脅迫とかしてすみません。色々と切羽詰まってて、あの方法しかないなんて思ってました。だけどそれじゃ駄目だと気づきました。
 ちゃんと理由を話します。だからそれから判断して頂けませんか?」


 僕の言葉に艦長は反応しない。やっぱりあんな事した奴の言葉なんて信用ないよな。


「今更何を! 犯罪者の言葉なんて嘘偽りだらけだろ!」


 魔法陣で縛られた僧兵が余計な事を口走りやがる。


「黙ってろこの悪党一味! ただ従うだけじゃなく何が国の為か本当に考えた事あるのかお前は!? 末端だからって関係ないと思うなよ!」


 僧兵は今のところ敵なんで、こういう扱い。問題は艦長でこの人には分かってほしいことが一杯なんだ。だけどそんな思いは遅かった。艦長はぽつりとこう言うよ。


「確かに今更だ。そしてもう遅い。君達はアレから逃げられると思うのか?」


 その瞬間、飛空挺を追い越す二つの影。もの凄い風と衝撃波。そして舞い散る青い羽根。それはメタリックに輝く機体。あれがバトルシップ!?

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