命改変プログラム

ファーストなサイコロ

仲間がいるから



 吹きつける朝の風。リアルとは違う、それなりに優しい日差し。今日も空は青く輝いて、LROはいつも通りに美しい。眼下に広がる広大な大地は、リアルと何も変わらない雄大さだ。
 ――とまぁ、そんな風景描写をするほどに余裕なんてないわけだけどね。実際周りの気持ち良さに反して、僕が立つこの飛空挺の上は、これ以上ないくらいに気不味い空気。
 いや、気不味いってよりも、ピリピリしてる。肌を刺す様な敵意が充満してる。深呼吸とかを意識的にやると、きっと気持ちいい空気が堪能出来るだろうけどさ、流石にそんな事を出来る雰囲気じゃない。
 呼吸を繰り返すのもちょっと苦しい感じなんだ。少し肺が圧迫されてるようなさ……そんな胸苦しさがある。そこまで暑くないのに汗が流れ落ちるし、僕はどうやらこの目の前の奴にビビってるのかもしれないな。
 裾やらさきっぽがギザギザにくたびれた感じのローブに身を包んだフードで顔まで隠してる怪しい奴。実際そのギザギザはファッションなのか、それともただ単に長く使用した結果なのか……ちょっと気になる所だよ。
 てか、よく見るとあの身を覆い隠してるローブは、黒ってだけじゃない色が見えるな。よく見るとだけど、僕の視力ならわかる。
 あのローブ、黒と同系統の色で何か模様みたいなのが刺繍してある。何か意味があるのかな? それともただのデザイン?


「どうした? 仲間がやられたから、早速逃げる算段か? だがどこへ? ここは空の上。逃げ場なんてどこへもないぞ!」


 何かが来る。そう感じた僕はとっさに横へ体を移動させる。するとその瞬間、床の板が耳に不快感を残す音と共にボロボロになった。
 それは今までの現象と一緒だ。でもただ違うのは今度のは、僕が居た場所にその現象が現れてるって事か。今までは手前くらいで起こってたんだけど、今度のは確実に僕が居た場所まで届いてる。
 これはどういう事なんだ? 今までは僕を直接狙ってなかったからって事か? なんにせよ、いくら目を凝らしても正体が分からない攻撃だ。一体何をどうしてこんな事になってるんだよ。
 取りあえず僕は動くことに。動いてないと狙い撃ちされちゃうからな。ベコバキとイヤな音を立てながら甲板が脆くなっていく。これ以上壊して欲しくないんだけど。もしもまた落ちたらどうするんだよ。
 僕のそんな心配を余所に、奴は攻撃の手を緩める事はない。


「どうしたどうした? さっきまで元気に振り回してたその剣は飾りか? 諦めたのなら、大人しく倒されろ。それがこの世界の引いてはお前達自身の為だ」
「何が、僕達の為だ!!」


 僕は奴の適当な感じの諭す様な言葉に、カチンときたよ。だから一歩を踏み込んで、もう一度雷撃を奴へと放った。青い雷が奴へと向かう。
 だけどやっぱりたどり着く前に何かにかき消される。そして足下に弾ける衝撃。


「つっ!?」


 やっぱり今までと同じだな。僕は腕で顔を覆いながらガードしつつ、隙間から奴を見据える。
 アイツはやっぱり動いてない。武器らしき物も持ってない、それなのに攻撃は防がれて、さらには攻撃されるってどういう事だよ? 


「貴様達の愚かな行いの粛正。それはお前達の為だろう。罪を放置はしておけない。それは犯人の為にもなんだよ」
「何も知らない癖に、知った風に語るなよ。確かにこれは罪かもしれない。だけど僕達に誰かを傷つける意志はない!
 何もしないでくれるのなら、それでいいんだ! 僕達はリア・レーゼに行きたいだけだ!」


 僕は必死に訴えてみる。だってこんな得体の知れない奴と戦闘なんてやってる場合じゃ……


「詭弁だな。現に貴様等は艦長をその武器で脅しただろう? 警備の僧兵をその剣で薙ぎ倒しただろう? お前達は既に他人を傷つけてる。それの罪深さに気付くんだな」
「くっ……」


 正論突かれた。確かに言ってた事は矛盾してたかもしれないな。僕達は既に酷いことをやってる……か。ハイジャックとして割り切ってたけど、事情を知らない奴からしたらそれは悪。
 いや、事情を知ってたとしても言われる事は同じなのかもしれない。僕達は結局、目的の為に手段を選んじゃないんだから。
 本当に誰にも迷惑を掛けずにやるのなら、目的の為の手段を作って行かなきゃいけないのかも……だけどそれは、リアルで言われる所の綺麗事とか、机上の空論とかなのかも。
 けれど僕達が選択したこの方法だって、罪深いのは知ってるさ。何も知らない癖になんて、押しつけがましい事この上ないよな。
 それに自分達の都合でなんだって通せるのなら、そこにはモラルや倫理は無いのかもしれない。何も知らない癖に……それは僕達にとっては「クリエの願い」その為だけど、そんな事で秩序を乱して良いのなら、これほど使い勝手の良い言葉もない。
 遊ぶ金が無いことに困ってる奴らだって、ある意味「何も知らない癖に」とはいえるしな。それを言うとなんかちょっと深刻で、自分が正しい事をやってるみたいな気になれる。
 けれどそれは、奴の言うとおりの自己中心的な詭弁だよ。


「だけど、誰かを想う心は正義じゃないですか!」


 僕が逡巡してると、空から聞こえたそんな声。それはシルクちゃんの声だ。奴の攻撃でヤられた筈――とは思って無かったけど、無事で何より。
 シルクちゃんはピクと共に、空から奴目指して落ちてきてる。そして自身の杖を奴へと向けて、詠唱してた魔法を放つ。放ったのかな? 魔法陣が現れたのは見えたけど、その攻撃がどこに向かったのかわからなかった。
 だけどその次の瞬間、奴の悲痛な叫びがこの場に響く。


「うぐおおおおお!?」


 そんな叫びの最中、シルクちゃんが優雅にタトンとという音を出して甲板に着地。腕も治ってるみたいだし、ちゃんと回復出来て良かったよ。
 僕がそんな事を思ってると、シルクちゃんは片膝を付いて倒れてる奴に向かってこう言った。


「どうですか自分の攻撃の味は? 貴方のその攻撃、どうやってるのかわからないので、貴方を包み込む感じの障壁を張ったんです」
「なるほど……そういう事か」


 そう呟きながら奴は再び立ち上がる。


「だが、さっきの一撃で既に私の周りの障壁は消えてる筈だ!」


 嫌な予感がした。僕はとっさに飛び出して、シルクちゃん達の前でセラ・シルフィングをクロスさせて構える。するとその瞬間に、もの凄い衝撃が襲ってきた。
 それは上半身だけじゃない。下半身にも傷を付ける衝撃だ。服が破れ、皮を裂く。血が僅かばかり出血した感覚。だけどなんとか耐えれたよ。


「良い判断だ」


 そんなお褒めの言葉を頂いた。別に嬉しくないけどな。


「ありがとうスオウ君。助かりました」
「いえいえ、それよりも無事で何よりですよ」
「ピクのおかげです。この子の鋭敏な危機察知能力がなかったら私はきっとやられてました」


 なるほど、ピクめお手柄だな。そう言えば最初にドアに手を掛けようとしたときも、ピクのおかげで助かったんだっけ。ピクの危機察知能力は一級品だな。


「スオウ君、怪我してますよ。治さないと――きゃ!?」


 僕はシルクちゃんの手を引いて、無理矢理走り出した。その瞬間、僕達の居た場所の板が無惨に弾ける。敵を前に、回復魔法の詠唱を待ってる暇はないよ。


「それはそうですけど、スオウ君って血がリアルに出るから、私としては一刻も早く治さないとって思っちゃうんです」
「はは、それはまあありがたいような、迷惑な奴ですみませんみたいな……」


 実際この位の血なら直ぐに止まるだろうし、リアルにだって影響は無いだろ。だけどシルクちゃんの気持ちは分かるかも……普通LROはHP見ながら回復とかやるわけだけど、それってもしかしたら過度な回復魔法連発の抑制でもあったのかも。
 だって血なんかみたら、確かにヒーラーは直ぐにでも治そうとしてしまいそうだもん。今のシルクちゃんみたいにさ。てか人間血を見たらそんな意識が自然と働く。ある種の危険信号みたいな物だからかな?


「ヒーラーの性ですよね。スオウ君は常に血みどろだけど、一向に馴れません。というか、そんな姿を見る度に、私が治してあげないと、と強く思います」


 なんだか知らない間に、僕はシルクちゃんに無言のプレッシャーを与えてたみたいだな。ほんと申し訳ない。常に血みどろで。
 そしてまたも血みどろに成りそうな展開だもん。流石に嫌に成ってくるよな。


「誰かを想う心は正義。確かにそうだが、誰かの為で誰かを傷つける。迷惑をかける。そんな行為が容認される訳じゃない。
 自分が正しいと思うことだけをやっても、それで満足するのは自分だけだ」


 見えない力が床を壊して、そして床に転がるプレイヤー達を殺していく。これは自分達が正しいと思うことだけを貫こうとした結果だとでも言いたいのかこいつ。
 僕達の我が他人を殺す――そう言うことかよ。僕達が乗り合わせなかったら、確かにこんな凄惨な事にはなり得なかっただろうけど、ここまでやるのは僕達じゃなくこいつの我でもあると思うけど……周りでオブジェクト化して消えていくプレイヤー達。
 そんな光が甲板には溢れてた。


「スオウ君、このままじゃ!」
「わかってます。どうにかしないと……でも、アイツの力は未だ未知数ですよ」


 僕達は甲板を走りながらそんな会話をする。横目でチラリと奴の様子を伺いながら、繰り出される謎の力を交わし続ける。
 このままじゃ甲板に放り出されたプレイヤーは全滅してしまう。実際僕を狙った奴らだから僕が助ける義理も無いけど、奴に自分達のワガママのせいとか言われっぱなしなのはちょっと腹が立つよな。
 僕達は確かに自分達の都合でいろんな人たちに迷惑を掛けて来たのかも知れない。あの舟を貸し出してくれたモブリには確かに悪い事をしたと思う。舟二隻も壊したし、忘れちゃいけない事だよな。
 だけど、いろんな物を犠牲にしても、僕達を助けてくれる人達だっていたんだ。そして託してくれた人も……幾ら責められたって、そんな思いがある限り、自分勝手と言われようが、なんと思われようが、僕達は止まるわけにはいかないよ。


「スオウ君、私に考えがあります。力がわからなくても、方向は一つで、今まで同時にその力が出てないのなら、数を有効に使いましょう。
 次の攻撃と同時に煙幕を張ります。視界を奪っての多方面攻撃です!」
「なるほど。よしやってみよう!」


 僕はシルクちゃんの意見に賛同した。そして奴の攻撃が床にあたったと同時にシルクちゃんが用意してた魔法を発動。一瞬にして甲板は煙で包まれる。
 ここで僕達は反撃に転じた。逃げるばかりだったけど、それだけで済むと思ってるなよクソ野郎。言いたいこと言いまくりやがって、幾ら正しいとわかってても、自分達が世間から見たら間違ってるとしても、僕達がハイそうですかって止まるわけにはいかないんだよ!
 小さな子が、小さな願いを託してくれた。それを叶えてあげたっていいじゃないか!! 煙幕の中を僕は走る。奴だけじゃなく、僕達にとっても視界不良だけど、奴は動いて無かったし、その位置は大体わかってるから問題ない。
 僕はセラ・シルフィングに纏わせた雷撃を続けざまに放つ。きっと別方向からはピクやシルクちゃんも攻撃してる筈。これなら誰かの攻撃は確実に届く筈だ。そして三つの方向からの攻撃に逃げ場は無い。
 雷撃が直撃したような音と共に、煙幕の白い煙じゃなく、爆発の黒っぽい煙が混じり出す。これは当たったと見て良いのか? 僕は足を止めずに一気に突っ込んで見るよ。そしてセラ・シルフィングを凪いで邪魔になった煙を追い払う。
 するとそこには無惨な姿をした鍛冶屋の姿が!


「なっ!? 一体誰がこんな事を……」


 酷い。酷すぎる。まるで雷に当てられたように所々から焦げた煙が上がってるじゃないか! するとどこからともなくこんな声が――


「人のせいにするなよ。それはお前の攻撃のせいだ」
「ぐっ……」


 わかってた事をはっきり言われてしまったな。奴のせいにしようと思ったのに――って、あの野郎操舵室の屋根にちゃっかり避難してやがる。


「煙幕程度で私を倒せるとでも思ったか? 自分達まで見えなくなったら、条件は一緒だろう? 無駄な努力だったな。仲間まで傷つけて、ご苦労なこった」


 くっ、なんかボロクソ言われてしまった。僕は束を握りしめつつ、奴の発言を巻き返す策を考える。だけどそこで気付いた。そう言えばピクやシルクちゃんの攻撃の後が見えない。鍛冶屋は焦げ付いてる程度だし、実際奴が壊した程度の損傷しか周りに無いぞ。
 じゃあ、あの発言は一体……さっきの煙幕の狙いは実は違ったのか? そんな事を思ってると、奴の後方の空から小さく見える複数の炎。それらが奴へと向かって来てるのが見えた。
 奴は気付いてないようだな――このままこっちに意識をやっててくれれば……と思ったら何故か振り向いてもいないのに途中で炎が何かにぶつかったかのように成って爆発。
 おいおい、障壁でも張ってるのかアイツ? それとも後ろに目があるとか? 完全に今のは気付いて無かったような気がしたけど……


「その程度で」


 そんな呟きと共に、こっちにも及ぶ攻撃。僕は鍛冶屋を担いで、一端離れる事に。するとさらに空から炎の雨が降り注ぐ。ピクの姿は見えないのに攻撃だけは来るとか、そんな上空に居るのか? だけどやっぱりどれもこれも得体の知れない力で奴にまでは届かない。
 くっそ、一体どうやって攻撃してるんだあの野郎? これは魔法なのか? それとも何かの武器の特性なのか……それすらもわからないなんて……手の打ちようがない。
 空に炎の滓の様な黒い煙が何個も残ってる。だけどそれでも続く攻撃。でもやっぱり攻撃が届く事はなさそうだ。
 幾ら数で攻めても単調過ぎる。それに距離も取り過ぎて逆に勢いって物が無くなってる。反撃を食らわない為何だろうけど、これじゃあいつまで経っても当たる気がしない。
 だけど今なら、一気に近づいて斬りつけられるかも知れない。そんな思いが沸き立つ。いつまでも距離を取っての攻撃じゃアイツの得体の知れない力の前には無意味だ。
 なら接近戦に持ち込む方が良いかも知れない。丁度意識は上空に行ってるし、今ならやれる気がする。僕は足に力を込めて一気に飛び出そうと考える。
 だけどその時、虫の息の鍛冶屋の声が聞こえた。


「待て……今は……ダメだ」
「どういう事だ? ある意味今しかチャンスはないだろ」


 アイツは空から降り注ぐ炎を撃退するので意識がいっぱいだぞ。


「本当に……そうか? アイツがどこを見てるのか……わかって言ってるのかよ?」
「どう言うことだ鍛冶屋?」


 なにが言いたいのかよくわからないぞ。もしかしてアイツの力の正体にでも気付いてるのか? それならさっさと言え。死活問題だぞ。


「別に力の正体は分からん。だがな……奴に死角は多分無いぞ」
「死角がない?」


 どういう事だよ一体? 人の目は二個までしかついてないぞ。その時点で死角は出来るだろ。テッケンさんの千里眼だって死角が無い訳じゃないし、実際そんなことあり得ないだろ。
 それこそ実際一番死角を無くせてるのは、聖典使用時のセラ位だろ。アイツ聖典それぞれから見える映像を全部処理出来るらしいからな。どういう頭の構造をしてるんだか。
 しかも最大二十機位だろ。それを使えば死角なんてほぼ無いと思う。でもアイツはそんな大層な物どこにもない。ボロボロのローブにその身一つ。死角無いとかもそうだけど、それだけであの攻撃を防いでるってのも尋常じゃないんだ。


「奴はあれだけのプレイヤーも意図もたやすく倒した。油断もあっただろうが、それだけじゃ説明出来ないだろ。それにあっと言う間の出来事だったんだ。
 奴は強い。それは確実だ。下手に動かない方がいい」


 珍しい鍛冶屋の殊勝な言葉。ここは受け取っといた方が良いのかも知れない。でも、相手が強いからって引くことも出来ないのが現状だ。奴も言ったけど、ここは空の上。海以上に逃げ場なんてないんだ。
 僕たちが生き残るには、奴を倒す以外道はないのが現状。でも確かに今の状態で突っ込むのは無謀か? だけど突っ込まないと見えない物もあるわけで……さてどうするか?


「シルクとピクが動いてるんだろ? アイツが何の策も無しにあんな無駄な攻撃を続けさせると思うか? アイツはお前よりもベテランだ。そしてヒーラーとしての腕も良い。何かを狙ってる筈だ。
 結構したたか何じゃないか?」


 したたかって、シルクちゃんはとっても可愛い女の子ってだけで僕的には良いんだけど。まあでも確かに、それだけじゃいのも確かだよな。適当な事をやる子じゃないし、させるタイプでも無い。
 じゃああの無駄に思える炎の攻撃も意味があるって事か?


「少なくとも俺にはそう思える。お前は俺を回収するための駒だったんだろ」
「確かにそれはあるかもな」


 何も言われて無かった僕は突っ込んだだけだったもんな。煙幕を張った時点で、シルクちゃんは奴の行動を予想してたのかも知れない。実際奴に攻撃するので鍛冶屋の存在はネックだったしな。それを上手く回収させて、何かを狙ってるって事か。
 空には防がれた炎の分だけの黒煙が広がってる。しかも丁度丸い感じにだ。なんだかあまりにも綺麗な円を描いてるな。そしてその円の中心が丁度奴……これってやっぱりなにかの狙いがありそうだな。


「ん?」


 奴のいぶかしむ様な声。空に出来た黒い円を見つめてた僕もそれに気づく。黒煙の中に何かある。風に流される黒煙の中から出てきたのは、無数の魔法陣。それが降ってきた炎の数だけあるような感じ。
 それはかなり壮観な光景だ。


「これはっ……」
「ただ魔法を撃っても貴方に届かないでしょうから細工をさせてもらいました!」
「あの攻撃すべてがこの為の準備と言うわけか!」


 上空のかなり高い位置に現れたシルクちゃんとピク。そんな彼女に向かって初めて、感情を表す様にその腕を向けた奴。


「無駄です! 私の魔法は既に完成してます! そしてこれは貴方を倒す為のものじゃない!」


 そんなシルクちゃんの力強い言葉と共に、空に無数の魔法陣で描かれた円が光輝く。するとその光に同調するように、同じ色の魔法陣が奴の伸ばした腕から、体の至る所に現れては消える様な事を繰り返した。


「何をシルクちゃんは狙ってるんだ?」
「多分捕縛の魔法か何かだろう。一撃で倒す事は出来ない……ならこの一撃で一番有効な方法は、リア・レーゼに着くまで奴を無力化させること。
 それを実行する意味では、捕縛するのは一番現実的だろ」
「確かに……」


 でもそれはシルクちゃん程のヒーラーじゃないと実行出来ない事だよな。どうやって倒すかだけを考えてた僕と違って、ちゃんと出来る事を彼女は考えてた訳だ。流石シルクちゃん。全面的に応援するよ!


「いっけえええええ!! シルクちゃん! ファイトだ!!」


 僕は声を張り上げてそう言った。無力な自分には出来ない事を仲間に頼る。別に悪い事じゃないだろ。それにこれはきっと、彼女にしか出来ない事だ。テッケンさんでもセラでも無く、誰かを守りたいって思うシルクちゃんだから、取れる唯一の策。
 奴はどうやら無数の魔法陣に向かって攻撃をしてる様だけど、それはまさに無意味。重なりあった複数の魔法陣を一気に消すことは奴にも不可能。


「これ以上は暴れないで! 大人しくしてて貰います!!」


 一際輝く魔法陣。そして奴という存在そのものへ降り注ぐ。

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