命改変プログラム
アイツの狙い
はてさて、実は家に付いてからも実際はなかなか慌ただしい時間が続いたよ。どうにかして世話を焼こうとする日鞠がいろいろと策を抗するから、気が休まらない。
着替えを手伝おうとしたり。どうにかして一緒に風呂に付いて来ようとしたり。ホントもう厄介。説き伏せるのに苦労した。
「私は全然やましい気持ちなんか無いよ。純粋にスオウを心配して、提案してるの。溺れたりしたらどうするの?」
溺れるか。自分ちの風呂だぞ。何年の付き合いだと思ってる。目を瞑ってたって……ってのは流石に無理だけど、大げさに日鞠は捉えすぎだ。
「そんなこと無いよ。それが油断なの。慢心なのよ! お風呂はね、幾ら長く付き合ったってスオウを気遣ってくれる訳じゃない。
勝手知ったるそのおごりが思いもよらぬ事故を引き起こすの。お風呂場で亡くなる人は毎年結構居るんだよ。お風呂場は家の中のデッドホールだよ」
「デッドホールって……」
たく、またどっから得たのか知らない知識を振りかざしてきやがって。日鞠は自分の為なら、理を曲げる奴だからな。まあ用は口が上手い訳だ。
大抵の人は「あれ?」と感じる間もなく、こいつの滅茶苦茶な理論に論破されてたりする。だけど僕は違うぞ。幼なじみだからな。
そう易々とアイデンティティーを崩されるか。こんなの幾ら言葉を重ねても、結論だけをしっかりと持ち続けてれば、全然OKな筈だ。
そう、ようは日鞠と一緒にお風呂とかあり得ない。それが絶対の理。一緒にお風呂とか……学校の奴らに知られたら、絶対に脅迫文とかが届きそうだもん。
学校中からハブられそう。それにその事実だけで、僕は日鞠に弱み握られる事になるし……そんなの絶対にイヤだ。そりゃあちょっとは淡い期待をしないわけでも無いけど、後々の事を考えるとリスクがデカい。
てか色々と言ってるけど、実際は全て言い訳かもな。日鞠と一緒に風呂とか……単純に僕が耐えられるか!
「本当に危ないんだよ。スオウ自分で立っとくのも辛いでしょ? 一人でお風呂になんか行かせられないよ。溺死しちゃうよ。それか足を滑らせて浴槽に頭をぶつけて、血がドクドク出て死んじゃうよ」
「イヤな想像させるなよ」
「そう言う事もあり得るって事。特に今のスオウの状態なら、普段の三割り増しで起こり得る。今言ったのを組み合わせた事が起きるかもよ。
風呂場に入る、足を滑らせる、顔から浴槽にドッパァァアン!! チ~~~ンってね」
チ~~~ンって、どれだけ悪い想像膨らませてるんだこいつは。そんな事起こり得るか。
「起こり得ないとは分からないよ!」
「そんな事考え出したらキリがないって言ってるんだ。それは車に弾かれる確率が無くならないから、外には出ないでって言ってるような物だぞ。
この世界にゼロパーセントなんてあり得ない。どんな時だって何かをやるときはリスクがある。大なり小なりな。絶対に安全なんて、普段からどこにもないだろ。
でもこうやって僕達は生きてきたんだし、少しは信頼しろ」
僕がそう言うと、日鞠は抱えてる僕の着替えやタオルにちょっとだけ力を込めたかの用に見えた。そしてポツリとこういう。
「信頼は、誰よりもしてるよ。でもいつだってスオウが居なくなっちゃうかも知れないなんて考えたくない。スオウは危なっかしいの。自分じゃ気付いてないだろうけど、スオウはそんなに強く、この世界と繋がってないもん。
だから私がいつだって傍で手を握っててないとダメなの!」
「日鞠……」
眉根を寄せて垂れて、泣きそうな顔。これは昔から、どうしても譲れない場面なんかでよく日鞠がする顔だ。そうだった。二人っきりの時、昔はもっと日鞠は良く泣く奴だった。
いつも笑って良く泣いて、いつだって僕はこの顔されたら、日鞠側に折れてたっけ。世界と強く繋がってないか。昔からそんな事を思ってきたんだろうかコイツは。だからこうやってずっと僕の傍に居てくれる訳か? 幸せ者だな僕はさ。
僕はソファからなんとか立ち上がって、日鞠の頭に手を伸ばす。艶やかな黒髪が柔らかく、そして適度に冷たい感触が肌に伝わる。
「スオウ……分かってくれた?」
そんな事を小さな口を開いて呟く日鞠。まあ分かったと言えば分かったさ。だけどもうあの頃みたいにただ振り回される小さな子供じゃない。
かわし方だってちゃんと身につけてる。だから言ってやろう――
「あのさ日鞠……お前……」
「うん」
「鼻血が出てるぞ」
「うん? えぇ!?」
驚愕の声と共に日鞠は自身の鼻の下に手を当てる。そして顔が見る見る赤くなって「あわっこれはその……ね。違うんだよ」とか言ってる。違うって何がだよ。
「お前は一体何を想像してたんだよ」
「だ、だから違うってば!!」
日鞠はテッシュ箱をテーブルから強奪して、キッチンの方へ。なんだかその後ろ姿に笑いがこみ上げてくるな。な~にやってんだかアイツは。僕はアイツが落とした着替えとタオルを拾い上げる。そしてその背中にこう言ってやるよ。
「んじゃ、僕は風呂に行ってくる。出るまでには鼻血止めとけよ」
「ああ! ちょっまっ――」
慌てる日鞠。僕は更に続けてこう言うよ。
「言い忘れたけどさ日鞠。僕は結構この世界に繋がってるよ。繋がっていたいと思ってる。それはお前が居るから……」
最後まで言えない自分がいる。最後ら辺は結構モゴモゴした。
「ふぇ……?」
理解したのかしてないのか判らない顔でそう呟く日鞠。僕はさっさと扉を閉めて風呂へ急ぐ。その後にリビングの方から「☆△◎×~~~~~!!」と、意味不明な叫びが聞こえた。
どう受け取ったのかは知らないけど、まあこれで風呂場に突撃してくる事はないだろう。今回は僕の勝ちだな。
そしてようやく風呂。実際傷口にお湯が染みて超痛い。まあだけどそれは最初だけ、一気に浴槽に体を沈めれば、痛みの感覚なんて直ぐにどっかにいってしまう。
やっぱり日本人は風呂だよね。疲れがお湯によって溶かされていってる気がする。まさに極楽。このままここで眠っちゃいそうな感じ。
そんな事を考えてると、風呂場の向こうから声を掛けられる。
「ねえスオウ」
「うお!? は、入って来るなよ!」
僕は擦りガラスの向こうにいる日鞠にそう釘を指す。だけどよくよく考えれば、アイツが入ってくるなら、いきなり来そうだったな。
あんな一歩手前で、大人しくしてるのは意外だ。擦りガラスに手を当てて、こちらを求めるようで壁に阻まれてるみたいなさ。
「安心して良いよ。入らないから。だってこんな状態じゃ一緒にお風呂とか無理……だけど心配だから、ここに居てもいい?」
こんな状態ってなんだ? 良く分からないけど、そこで我慢できるのならありがたいよ。僕は「好きにしろ」って言ってやる。
「うん、ありがと」
そう言って日鞠は擦りガラスに背中をつけて座り込む。そしてずっと大人しかった。なんだか不気味な位。途中でポツポツ口を開くから、それに一言二言僕が反応して会話は終わる。
そんな奇妙な時間がゆっくりと流れて、僕は擦りガラスの扉を開ける。
「どうしたんだよお前は。さっきから?」
「きゃ! わっ、スオウそんな格好で……大胆」
そう言って手で目を隠した――――と思ったらばっちり指の感覚を開けてる日鞠。やっぱりいつも通りのコイツだな。
「お前まだこの程度で興奮するのかよ? こんなの良く盗撮してるだろ」
僕は腰に手を当ててそう言ってやる。体も大分楽になったし、心なしか口の動きがいい感じだな。てか既に盗撮に馴れてる僕って一体……
「カメラ越しと、肉眼で見るのは違うよ! スオウだって湯上がり女子は三割増しで可愛く見えるでしょ? それと同じ!」
なるほど、確かにそれはわかるな。湯上がりの女の子って妙に色っぽく見えるよな。火照った肌に、水分を含んでつやつやした髪とか、もうたまらないね。その現象が女の子側でも起きるって事か。
でも僕、そんな良い体してないけどね。標準よりも痩せてる方だし、まあそのおかげで筋肉は浮きやすいかもだけど。マッチョでも細マッチョでもない。ま、部活やってない怠惰な体だよね。
一応LROを買う資金の為に肉体労働系でバイトしてたから、まだ今はマシな方かな。てか、日鞠がカメラ仕掛けるせいで、こっちはあんまり恥ずかしい体を見せたくないから、無駄に筋トレとかやっちゃうんだよ。
幾ら幼なじみでも日鞠は女子だし、ガリッガリでいるわけにいかないよ。まあだからこれくらいは余裕。まさに慣れって恐ろしい。
「取り合えず出てけよ。着替えられないだろ。それに何も起こらなくて安心したろ?」
「う……ん……でもやっぱりもう少しだけ目に焼けつけとく!」
バタン――と僕は日鞠を押し出して扉を閉めた。ドンドンと扉を叩く音は無視の方向で。
それから夕食を二人で取って、二人で並んで食器を洗って、そして日鞠を玄関まで見送った。まあここら辺はいつもと大差ないよ。けど最後にこう釘を刺されたな。
「LROは今日は禁止ね。まあまだ復旧してないなら、それで良いけど、復旧してても絶対に入らないこと!
もしも明日の朝、私が起こしに来てLROやってたら……」
「やってたら?」
そう聞き返したら、日鞠は☆が飛び出しそうな位にバッチ~~ンとウインクを決めてこう言った。
「キスしちゃうぞ」
「はは、了解」
もうそう言うしかない。だってキスって……こいつならやりかねないよな。
「また明日ねスオウ!」
「うん、また明日」
そう言って日鞠は玄関の外へ。元気一杯に直ぐ隣の自分の家へと帰ってく。
「ふう……」
僕は一つそんな息を吐く。そして廊下を見つめた。テレビの音だけが空しく響いてるな。いつもいつも思うけど、一人になると途端に広く感じるんだよなこの家。
アイツがいると無駄に賑やかだから忘れるけど、居なくなるとその瞬間強く感じる。空しいのか寂しいのか……とにかくやっぱり僕は日鞠に依存してるんだよね。
僕は絆創膏とかを張られたほっぺを掻き掻きそう思ってた。取り合えずテレビを消して自分の部屋へ。入れなくても一応確認はしとかないとだろ。
ヘルメットみたいな形のリーフィアを装着して、電源ON。すると目の前に多彩なネットワークが広がるよ。そして受信してるメールが何通かあった。
まず最初にみたのはLRO側からの謝罪文と復旧のご案内。それを見る限り、どうやら明日の朝にはサービスが開始されるらしい。明日の朝なんて丁度良いじゃないか。
実際、今既に復旧してたら、ずっとソワソワと気が気じゃなかっただろうからね。朝からなら、今はそこら辺諦めがつく。
それにしても結構早かったな。もう少しかかったらどうしようと思ってたけど、制作側が頑張ってくれたんだろうか。
まあ良くやってくれたよね。グッジョブだ。僕達には時間無いから、そう待ってられなかったもん。そう言えば落ちた理由もそれなりに書いてあるな。
「過度なシステム圧迫が起こったのが原因か。そのシステムの圧迫をしたのが何かまでは書いてないな。復旧はしたけど、解決したとも書いてないし、大丈夫なのかなこれ?」
まあちょっと心配でも結局朝一番位に入るんだと思うけどね。その為にも今日は体を休める事が大事だろう。残りのメールを確認して、とっとと寝よう。
「え~と、次のはセラからか。何々――」
『復旧したけどあの状態だったからどうなってるのか不安でしょ? 一人で独断専行で入らないで。
時間を合わせて一斉にダイブするから。一応今は朝八時丁度って事になってるけど、不都合なら返信しなさい。言っとくけど、返信が無い場合は了承と受け取るからね。以上』
なるほどみんなで一斉にか……確かにそれが良いのかも。まあ一応一段落ついてた所だったけど、何がどうなるのかはまだわからないしな。あそこだって本当に安全かはわかんない。
それならみんな一斉に入った方が良いってのは納得だ。てか、以上とか女の子が使うか? どこの軍人だよ。なんか報告文みたいだな。
なんか僕たちの関係を表してるみたいな感じ。まあいいけど……さて残るは後二通。
「これは」
僕は残り二通の内の一通に視線が釘付けになる。いや実際二通とも釘付けになる要素はあるけど、まずは脳が理解しやすい方へ止まったと言うべきかな。
なんかタイトルからもうそいつの痛々しさが現れてる感じ。
タイトル『この世界を超越した存在より。同士ゴールデンボールへ送る』
誰だか丸分かり何ですけど。てか、LROのアドレスの方に送るとは……こっちに送信者の名前が出てないって事は僕はやっぱりアイツとは知り合ってないんじゃないか?
なのにどうして向こうは僕の事をさも当然の様に知ってる風で近づいたんだ。 どういう事だおい? あの登場の仕方は実は知り合ってます的な感じだっただろ?
まあ向こうが僕を知ってる事はあり得るかも知れない。自分じゃそんなに実感無いけど、僕たちはそれなりに有名みたいなんだよね。
だけど知ってるからってあんな知り合いみたいな態度で接してくる物だろうか? なんだかアイツの事が良くわかんなくなったな。
いや、元々そこまで理解もしてないけど……なんか怪しさ倍増した感じ。取り合えずメールを開いて内容確認。
『驚いた無限の蔵? 実はこのメールの主は私! メーカーオブエデン事メカブでした!! まあ取り合えず知り合えたって事でフレンドリストに入れておいてね。
言っとくけど、私をフレンドに登録出来る事は、もの凄い事なんだからな! その名誉を噛みしめろよ! 無限の蔵は同じインフィニットアート所持者としてそこら辺の人間よりは私に近づく事を許してあげるわ。
あっ! それと、今日はもう寝なさいよ。これ以上無理したら許さないから! 三秒で寝なさい!』
「コイツはもうどうなりたいのかわかんないな」
自分を主張したいのか僕を心配してるのか……まあきっと両方なんだろうな。今日は世話になったし、取り合えず簡単な文章でも返しておくか。てか、セラとメカブ……同一と思ってたけど、やっぱり違うのかな? でも一人に一つのアカウントって訳でも無いらしいし……でもそれならどうして別の人物に成るのかそれが分かんなくなるか。
やっぱりここは無理矢理はめ込むんじゃなく、素直に別人と考えた方が良さそうだな。
「これで良しと。さて後は一通だけなんだけど」
僕は残り一通に手を伸ばしてその装丁をいぶかしげに見つめる。今の僕はリーフィア装着で半仮想空間に居るような物。
メールは今立体化して見えていて。それぞれ浮いてるんだ。クルクルと回りながらね。それは掴むことも出来て表面には差出人の情報が記されてる。
メールの装丁は封筒やら便箋やら女の子がラブレターに使いそうな可愛いデザインの物まで自由に選べる訳だけど……このメールはどこかオカシい。
なんか形は普通のメールの絵文字に使われる一般的な形なんだけど、色が汚い赤色してる。まるで血で汚れてる……みたいなさ。
そして表面に記されてる文字のフォントが何故か切り抜きの文字だ。これってどう考えても脅迫に使う奴だよね?
誰かに恨みを買う覚えなんてLROじゃないけど。それに無闇やたらにメールは送れないだろ。誰だこんなイタズラする奴は。
考えられる中では第一候補がアギトだな。第二候補はセラ。後は……居ないな。メカブもやりそうだけど、続けざまって考えにくい。てか、それならセラもか。
僕はちょっと躊躇いつつもそのメールの封を切る。するとその瞬間パン!! っとメール事態が弾けた。驚く声を上げる僕。そしてそこに陽気な笑い声が響いてきた。
「あはははははは、や~~い引っかかった☆ スオウのバカバ~~カ」
なんか聞いただけで琴線触れる声。そして今日は特にいっぱい聞いた声だ。考えたくないけど、これはどう考えてもアイツ。
そしてその考え通り、弾けたメールの位置にはそいつが小さな姿で僕をなじってた。
「シクラか……お前?」
「そっ、私は完全無欠の超絶美少女シクラちゃんだよ☆ 見て分かんない? 私という存在に釘付けになったその目はきっともう使い物に成らないからね。仕方ない」
「誰が成るか。誰が」
釘付けとかあり得ない。お前を張り付けにならしてやりたいけどな。
「あっはは~~☆ それはスオウには無理かな。私今やスオウの数十倍強いもん。元が数倍だったけど、今や数十倍だよ。イクシード3使っても勝てないよ」
「そんなのどうやって計ってるんだよ。どうせお前の勝手な判断基準だろ? ふざけた事抜かすな。てか、なんでまだこんな所に居るんだよ。LROは復旧してるんだろ。
さっさと帰れよ」
胸くそ悪い事を言う為にまだ居たってのか? まあこいつならその位しそうではあるけど。てかなんでこんなに小さいんだ。二頭身キャラに成ってるぞ。
「勝手な判断じゃないよ。私とぶつかったあの時がスオウの全力全快でしょ? だからまああの時のままならって事だよ☆
で、帰らないのは今日は色々と楽しめた事へのお礼とまあもう一つ」
もう一つ? お礼も超胡散臭いけど、そっちの方が気になるな。シクラは小さな体を空中でテクテク動かしてる。なんか無闇に可愛いな。
いや、女の子としてじゃないよ。いくらコイツが美人だからって敵にはそんな事思わない。今、可愛いと思ったのはあくまで小動物的にって意味だ。
「お前……さっき十倍強くなったって言ったよな? どうやったらそんなに短期間で変われるんだよ? いつも通りの反則技か?」
まあもう一つの事も気になるけど、こっちだって十分聞き捨て成らないから、聞いてみた。十倍とか洒落に成ってないし。こっちに取っちゃ死活問題だ。
「反則技って言うか、エージング期間が終了した感じ? 今までは全員揃ってなかったし、慣らしだったの。派手に動いて無かったでしょ?
だけど役者も姉妹も出揃ったし、それにコード集めも無闇やたらに張り切ってる奴がいるからそのおかげかな☆ 良いこと教えてあげよっかスオウ?
私たちはね、誰かのコードを奪うことでより完全な形に近づく事が出来る。そのプレイヤーのLROでの経験と技術、それらを奪うことが出来るからね」
「……はは、それは随分悪役らしいスキルだな」
強がってそんな風に言っては見たものの、実際内心では「ありえねーーーー!!」と叫んでた。だってそれは反則過ぎだろ。前からコードがどうとか言ってたけど、そう言う事かよ。
「ふふふ、絶望した? だったら叫んで良いよ。『絶望したーー!』ってね」
「うるさい、そんなパロディやるかよ」
既に使い果たされてるだろそれ。
「まあそれもそうだね。さてと、衝撃の事実も教えて上げたし、見返り貰わないとね。今日の勝利の代償」
「そう言えばお前が豚の饅頭だったな」
「あれ? 気づいたんだ。流石スオウ。そっ、私のカリスマ性を持ってすれば人心掌握と誘導なんてチョロいよね☆
てな訳で、報酬は貰ってくよスオウ」
「報酬?」
僕が疑問に思ってると、シクラが翳した手に何かが現れる。それは本。頑丈な鎖で縛られた、真っ黒な本だ。
「それは『法の書』か!? 何しやがる!」
それは創造のアイテム。最後に手に入れたイベントアイテムだ。
「言ったよね? 報酬だって。これは正当な対価だよ。創造のアイテムはマザーシステムへの一端に干渉出来る。でも私にはそれで十分。
この法の書を使って、マザーを創造し直してあげるの。楽しいでしょ☆ じゃあねスオウ。お疲れ様~~」
そう言ってシクラの奴は消えていく。あいつはやっぱり意味のない事なんてしなかったって訳だ。どうにかしないと、だけどまだLROには入れない。
着替えを手伝おうとしたり。どうにかして一緒に風呂に付いて来ようとしたり。ホントもう厄介。説き伏せるのに苦労した。
「私は全然やましい気持ちなんか無いよ。純粋にスオウを心配して、提案してるの。溺れたりしたらどうするの?」
溺れるか。自分ちの風呂だぞ。何年の付き合いだと思ってる。目を瞑ってたって……ってのは流石に無理だけど、大げさに日鞠は捉えすぎだ。
「そんなこと無いよ。それが油断なの。慢心なのよ! お風呂はね、幾ら長く付き合ったってスオウを気遣ってくれる訳じゃない。
勝手知ったるそのおごりが思いもよらぬ事故を引き起こすの。お風呂場で亡くなる人は毎年結構居るんだよ。お風呂場は家の中のデッドホールだよ」
「デッドホールって……」
たく、またどっから得たのか知らない知識を振りかざしてきやがって。日鞠は自分の為なら、理を曲げる奴だからな。まあ用は口が上手い訳だ。
大抵の人は「あれ?」と感じる間もなく、こいつの滅茶苦茶な理論に論破されてたりする。だけど僕は違うぞ。幼なじみだからな。
そう易々とアイデンティティーを崩されるか。こんなの幾ら言葉を重ねても、結論だけをしっかりと持ち続けてれば、全然OKな筈だ。
そう、ようは日鞠と一緒にお風呂とかあり得ない。それが絶対の理。一緒にお風呂とか……学校の奴らに知られたら、絶対に脅迫文とかが届きそうだもん。
学校中からハブられそう。それにその事実だけで、僕は日鞠に弱み握られる事になるし……そんなの絶対にイヤだ。そりゃあちょっとは淡い期待をしないわけでも無いけど、後々の事を考えるとリスクがデカい。
てか色々と言ってるけど、実際は全て言い訳かもな。日鞠と一緒に風呂とか……単純に僕が耐えられるか!
「本当に危ないんだよ。スオウ自分で立っとくのも辛いでしょ? 一人でお風呂になんか行かせられないよ。溺死しちゃうよ。それか足を滑らせて浴槽に頭をぶつけて、血がドクドク出て死んじゃうよ」
「イヤな想像させるなよ」
「そう言う事もあり得るって事。特に今のスオウの状態なら、普段の三割り増しで起こり得る。今言ったのを組み合わせた事が起きるかもよ。
風呂場に入る、足を滑らせる、顔から浴槽にドッパァァアン!! チ~~~ンってね」
チ~~~ンって、どれだけ悪い想像膨らませてるんだこいつは。そんな事起こり得るか。
「起こり得ないとは分からないよ!」
「そんな事考え出したらキリがないって言ってるんだ。それは車に弾かれる確率が無くならないから、外には出ないでって言ってるような物だぞ。
この世界にゼロパーセントなんてあり得ない。どんな時だって何かをやるときはリスクがある。大なり小なりな。絶対に安全なんて、普段からどこにもないだろ。
でもこうやって僕達は生きてきたんだし、少しは信頼しろ」
僕がそう言うと、日鞠は抱えてる僕の着替えやタオルにちょっとだけ力を込めたかの用に見えた。そしてポツリとこういう。
「信頼は、誰よりもしてるよ。でもいつだってスオウが居なくなっちゃうかも知れないなんて考えたくない。スオウは危なっかしいの。自分じゃ気付いてないだろうけど、スオウはそんなに強く、この世界と繋がってないもん。
だから私がいつだって傍で手を握っててないとダメなの!」
「日鞠……」
眉根を寄せて垂れて、泣きそうな顔。これは昔から、どうしても譲れない場面なんかでよく日鞠がする顔だ。そうだった。二人っきりの時、昔はもっと日鞠は良く泣く奴だった。
いつも笑って良く泣いて、いつだって僕はこの顔されたら、日鞠側に折れてたっけ。世界と強く繋がってないか。昔からそんな事を思ってきたんだろうかコイツは。だからこうやってずっと僕の傍に居てくれる訳か? 幸せ者だな僕はさ。
僕はソファからなんとか立ち上がって、日鞠の頭に手を伸ばす。艶やかな黒髪が柔らかく、そして適度に冷たい感触が肌に伝わる。
「スオウ……分かってくれた?」
そんな事を小さな口を開いて呟く日鞠。まあ分かったと言えば分かったさ。だけどもうあの頃みたいにただ振り回される小さな子供じゃない。
かわし方だってちゃんと身につけてる。だから言ってやろう――
「あのさ日鞠……お前……」
「うん」
「鼻血が出てるぞ」
「うん? えぇ!?」
驚愕の声と共に日鞠は自身の鼻の下に手を当てる。そして顔が見る見る赤くなって「あわっこれはその……ね。違うんだよ」とか言ってる。違うって何がだよ。
「お前は一体何を想像してたんだよ」
「だ、だから違うってば!!」
日鞠はテッシュ箱をテーブルから強奪して、キッチンの方へ。なんだかその後ろ姿に笑いがこみ上げてくるな。な~にやってんだかアイツは。僕はアイツが落とした着替えとタオルを拾い上げる。そしてその背中にこう言ってやるよ。
「んじゃ、僕は風呂に行ってくる。出るまでには鼻血止めとけよ」
「ああ! ちょっまっ――」
慌てる日鞠。僕は更に続けてこう言うよ。
「言い忘れたけどさ日鞠。僕は結構この世界に繋がってるよ。繋がっていたいと思ってる。それはお前が居るから……」
最後まで言えない自分がいる。最後ら辺は結構モゴモゴした。
「ふぇ……?」
理解したのかしてないのか判らない顔でそう呟く日鞠。僕はさっさと扉を閉めて風呂へ急ぐ。その後にリビングの方から「☆△◎×~~~~~!!」と、意味不明な叫びが聞こえた。
どう受け取ったのかは知らないけど、まあこれで風呂場に突撃してくる事はないだろう。今回は僕の勝ちだな。
そしてようやく風呂。実際傷口にお湯が染みて超痛い。まあだけどそれは最初だけ、一気に浴槽に体を沈めれば、痛みの感覚なんて直ぐにどっかにいってしまう。
やっぱり日本人は風呂だよね。疲れがお湯によって溶かされていってる気がする。まさに極楽。このままここで眠っちゃいそうな感じ。
そんな事を考えてると、風呂場の向こうから声を掛けられる。
「ねえスオウ」
「うお!? は、入って来るなよ!」
僕は擦りガラスの向こうにいる日鞠にそう釘を指す。だけどよくよく考えれば、アイツが入ってくるなら、いきなり来そうだったな。
あんな一歩手前で、大人しくしてるのは意外だ。擦りガラスに手を当てて、こちらを求めるようで壁に阻まれてるみたいなさ。
「安心して良いよ。入らないから。だってこんな状態じゃ一緒にお風呂とか無理……だけど心配だから、ここに居てもいい?」
こんな状態ってなんだ? 良く分からないけど、そこで我慢できるのならありがたいよ。僕は「好きにしろ」って言ってやる。
「うん、ありがと」
そう言って日鞠は擦りガラスに背中をつけて座り込む。そしてずっと大人しかった。なんだか不気味な位。途中でポツポツ口を開くから、それに一言二言僕が反応して会話は終わる。
そんな奇妙な時間がゆっくりと流れて、僕は擦りガラスの扉を開ける。
「どうしたんだよお前は。さっきから?」
「きゃ! わっ、スオウそんな格好で……大胆」
そう言って手で目を隠した――――と思ったらばっちり指の感覚を開けてる日鞠。やっぱりいつも通りのコイツだな。
「お前まだこの程度で興奮するのかよ? こんなの良く盗撮してるだろ」
僕は腰に手を当ててそう言ってやる。体も大分楽になったし、心なしか口の動きがいい感じだな。てか既に盗撮に馴れてる僕って一体……
「カメラ越しと、肉眼で見るのは違うよ! スオウだって湯上がり女子は三割増しで可愛く見えるでしょ? それと同じ!」
なるほど、確かにそれはわかるな。湯上がりの女の子って妙に色っぽく見えるよな。火照った肌に、水分を含んでつやつやした髪とか、もうたまらないね。その現象が女の子側でも起きるって事か。
でも僕、そんな良い体してないけどね。標準よりも痩せてる方だし、まあそのおかげで筋肉は浮きやすいかもだけど。マッチョでも細マッチョでもない。ま、部活やってない怠惰な体だよね。
一応LROを買う資金の為に肉体労働系でバイトしてたから、まだ今はマシな方かな。てか、日鞠がカメラ仕掛けるせいで、こっちはあんまり恥ずかしい体を見せたくないから、無駄に筋トレとかやっちゃうんだよ。
幾ら幼なじみでも日鞠は女子だし、ガリッガリでいるわけにいかないよ。まあだからこれくらいは余裕。まさに慣れって恐ろしい。
「取り合えず出てけよ。着替えられないだろ。それに何も起こらなくて安心したろ?」
「う……ん……でもやっぱりもう少しだけ目に焼けつけとく!」
バタン――と僕は日鞠を押し出して扉を閉めた。ドンドンと扉を叩く音は無視の方向で。
それから夕食を二人で取って、二人で並んで食器を洗って、そして日鞠を玄関まで見送った。まあここら辺はいつもと大差ないよ。けど最後にこう釘を刺されたな。
「LROは今日は禁止ね。まあまだ復旧してないなら、それで良いけど、復旧してても絶対に入らないこと!
もしも明日の朝、私が起こしに来てLROやってたら……」
「やってたら?」
そう聞き返したら、日鞠は☆が飛び出しそうな位にバッチ~~ンとウインクを決めてこう言った。
「キスしちゃうぞ」
「はは、了解」
もうそう言うしかない。だってキスって……こいつならやりかねないよな。
「また明日ねスオウ!」
「うん、また明日」
そう言って日鞠は玄関の外へ。元気一杯に直ぐ隣の自分の家へと帰ってく。
「ふう……」
僕は一つそんな息を吐く。そして廊下を見つめた。テレビの音だけが空しく響いてるな。いつもいつも思うけど、一人になると途端に広く感じるんだよなこの家。
アイツがいると無駄に賑やかだから忘れるけど、居なくなるとその瞬間強く感じる。空しいのか寂しいのか……とにかくやっぱり僕は日鞠に依存してるんだよね。
僕は絆創膏とかを張られたほっぺを掻き掻きそう思ってた。取り合えずテレビを消して自分の部屋へ。入れなくても一応確認はしとかないとだろ。
ヘルメットみたいな形のリーフィアを装着して、電源ON。すると目の前に多彩なネットワークが広がるよ。そして受信してるメールが何通かあった。
まず最初にみたのはLRO側からの謝罪文と復旧のご案内。それを見る限り、どうやら明日の朝にはサービスが開始されるらしい。明日の朝なんて丁度良いじゃないか。
実際、今既に復旧してたら、ずっとソワソワと気が気じゃなかっただろうからね。朝からなら、今はそこら辺諦めがつく。
それにしても結構早かったな。もう少しかかったらどうしようと思ってたけど、制作側が頑張ってくれたんだろうか。
まあ良くやってくれたよね。グッジョブだ。僕達には時間無いから、そう待ってられなかったもん。そう言えば落ちた理由もそれなりに書いてあるな。
「過度なシステム圧迫が起こったのが原因か。そのシステムの圧迫をしたのが何かまでは書いてないな。復旧はしたけど、解決したとも書いてないし、大丈夫なのかなこれ?」
まあちょっと心配でも結局朝一番位に入るんだと思うけどね。その為にも今日は体を休める事が大事だろう。残りのメールを確認して、とっとと寝よう。
「え~と、次のはセラからか。何々――」
『復旧したけどあの状態だったからどうなってるのか不安でしょ? 一人で独断専行で入らないで。
時間を合わせて一斉にダイブするから。一応今は朝八時丁度って事になってるけど、不都合なら返信しなさい。言っとくけど、返信が無い場合は了承と受け取るからね。以上』
なるほどみんなで一斉にか……確かにそれが良いのかも。まあ一応一段落ついてた所だったけど、何がどうなるのかはまだわからないしな。あそこだって本当に安全かはわかんない。
それならみんな一斉に入った方が良いってのは納得だ。てか、以上とか女の子が使うか? どこの軍人だよ。なんか報告文みたいだな。
なんか僕たちの関係を表してるみたいな感じ。まあいいけど……さて残るは後二通。
「これは」
僕は残り二通の内の一通に視線が釘付けになる。いや実際二通とも釘付けになる要素はあるけど、まずは脳が理解しやすい方へ止まったと言うべきかな。
なんかタイトルからもうそいつの痛々しさが現れてる感じ。
タイトル『この世界を超越した存在より。同士ゴールデンボールへ送る』
誰だか丸分かり何ですけど。てか、LROのアドレスの方に送るとは……こっちに送信者の名前が出てないって事は僕はやっぱりアイツとは知り合ってないんじゃないか?
なのにどうして向こうは僕の事をさも当然の様に知ってる風で近づいたんだ。 どういう事だおい? あの登場の仕方は実は知り合ってます的な感じだっただろ?
まあ向こうが僕を知ってる事はあり得るかも知れない。自分じゃそんなに実感無いけど、僕たちはそれなりに有名みたいなんだよね。
だけど知ってるからってあんな知り合いみたいな態度で接してくる物だろうか? なんだかアイツの事が良くわかんなくなったな。
いや、元々そこまで理解もしてないけど……なんか怪しさ倍増した感じ。取り合えずメールを開いて内容確認。
『驚いた無限の蔵? 実はこのメールの主は私! メーカーオブエデン事メカブでした!! まあ取り合えず知り合えたって事でフレンドリストに入れておいてね。
言っとくけど、私をフレンドに登録出来る事は、もの凄い事なんだからな! その名誉を噛みしめろよ! 無限の蔵は同じインフィニットアート所持者としてそこら辺の人間よりは私に近づく事を許してあげるわ。
あっ! それと、今日はもう寝なさいよ。これ以上無理したら許さないから! 三秒で寝なさい!』
「コイツはもうどうなりたいのかわかんないな」
自分を主張したいのか僕を心配してるのか……まあきっと両方なんだろうな。今日は世話になったし、取り合えず簡単な文章でも返しておくか。てか、セラとメカブ……同一と思ってたけど、やっぱり違うのかな? でも一人に一つのアカウントって訳でも無いらしいし……でもそれならどうして別の人物に成るのかそれが分かんなくなるか。
やっぱりここは無理矢理はめ込むんじゃなく、素直に別人と考えた方が良さそうだな。
「これで良しと。さて後は一通だけなんだけど」
僕は残り一通に手を伸ばしてその装丁をいぶかしげに見つめる。今の僕はリーフィア装着で半仮想空間に居るような物。
メールは今立体化して見えていて。それぞれ浮いてるんだ。クルクルと回りながらね。それは掴むことも出来て表面には差出人の情報が記されてる。
メールの装丁は封筒やら便箋やら女の子がラブレターに使いそうな可愛いデザインの物まで自由に選べる訳だけど……このメールはどこかオカシい。
なんか形は普通のメールの絵文字に使われる一般的な形なんだけど、色が汚い赤色してる。まるで血で汚れてる……みたいなさ。
そして表面に記されてる文字のフォントが何故か切り抜きの文字だ。これってどう考えても脅迫に使う奴だよね?
誰かに恨みを買う覚えなんてLROじゃないけど。それに無闇やたらにメールは送れないだろ。誰だこんなイタズラする奴は。
考えられる中では第一候補がアギトだな。第二候補はセラ。後は……居ないな。メカブもやりそうだけど、続けざまって考えにくい。てか、それならセラもか。
僕はちょっと躊躇いつつもそのメールの封を切る。するとその瞬間パン!! っとメール事態が弾けた。驚く声を上げる僕。そしてそこに陽気な笑い声が響いてきた。
「あはははははは、や~~い引っかかった☆ スオウのバカバ~~カ」
なんか聞いただけで琴線触れる声。そして今日は特にいっぱい聞いた声だ。考えたくないけど、これはどう考えてもアイツ。
そしてその考え通り、弾けたメールの位置にはそいつが小さな姿で僕をなじってた。
「シクラか……お前?」
「そっ、私は完全無欠の超絶美少女シクラちゃんだよ☆ 見て分かんない? 私という存在に釘付けになったその目はきっともう使い物に成らないからね。仕方ない」
「誰が成るか。誰が」
釘付けとかあり得ない。お前を張り付けにならしてやりたいけどな。
「あっはは~~☆ それはスオウには無理かな。私今やスオウの数十倍強いもん。元が数倍だったけど、今や数十倍だよ。イクシード3使っても勝てないよ」
「そんなのどうやって計ってるんだよ。どうせお前の勝手な判断基準だろ? ふざけた事抜かすな。てか、なんでまだこんな所に居るんだよ。LROは復旧してるんだろ。
さっさと帰れよ」
胸くそ悪い事を言う為にまだ居たってのか? まあこいつならその位しそうではあるけど。てかなんでこんなに小さいんだ。二頭身キャラに成ってるぞ。
「勝手な判断じゃないよ。私とぶつかったあの時がスオウの全力全快でしょ? だからまああの時のままならって事だよ☆
で、帰らないのは今日は色々と楽しめた事へのお礼とまあもう一つ」
もう一つ? お礼も超胡散臭いけど、そっちの方が気になるな。シクラは小さな体を空中でテクテク動かしてる。なんか無闇に可愛いな。
いや、女の子としてじゃないよ。いくらコイツが美人だからって敵にはそんな事思わない。今、可愛いと思ったのはあくまで小動物的にって意味だ。
「お前……さっき十倍強くなったって言ったよな? どうやったらそんなに短期間で変われるんだよ? いつも通りの反則技か?」
まあもう一つの事も気になるけど、こっちだって十分聞き捨て成らないから、聞いてみた。十倍とか洒落に成ってないし。こっちに取っちゃ死活問題だ。
「反則技って言うか、エージング期間が終了した感じ? 今までは全員揃ってなかったし、慣らしだったの。派手に動いて無かったでしょ?
だけど役者も姉妹も出揃ったし、それにコード集めも無闇やたらに張り切ってる奴がいるからそのおかげかな☆ 良いこと教えてあげよっかスオウ?
私たちはね、誰かのコードを奪うことでより完全な形に近づく事が出来る。そのプレイヤーのLROでの経験と技術、それらを奪うことが出来るからね」
「……はは、それは随分悪役らしいスキルだな」
強がってそんな風に言っては見たものの、実際内心では「ありえねーーーー!!」と叫んでた。だってそれは反則過ぎだろ。前からコードがどうとか言ってたけど、そう言う事かよ。
「ふふふ、絶望した? だったら叫んで良いよ。『絶望したーー!』ってね」
「うるさい、そんなパロディやるかよ」
既に使い果たされてるだろそれ。
「まあそれもそうだね。さてと、衝撃の事実も教えて上げたし、見返り貰わないとね。今日の勝利の代償」
「そう言えばお前が豚の饅頭だったな」
「あれ? 気づいたんだ。流石スオウ。そっ、私のカリスマ性を持ってすれば人心掌握と誘導なんてチョロいよね☆
てな訳で、報酬は貰ってくよスオウ」
「報酬?」
僕が疑問に思ってると、シクラが翳した手に何かが現れる。それは本。頑丈な鎖で縛られた、真っ黒な本だ。
「それは『法の書』か!? 何しやがる!」
それは創造のアイテム。最後に手に入れたイベントアイテムだ。
「言ったよね? 報酬だって。これは正当な対価だよ。創造のアイテムはマザーシステムへの一端に干渉出来る。でも私にはそれで十分。
この法の書を使って、マザーを創造し直してあげるの。楽しいでしょ☆ じゃあねスオウ。お疲れ様~~」
そう言ってシクラの奴は消えていく。あいつはやっぱり意味のない事なんてしなかったって訳だ。どうにかしないと、だけどまだLROには入れない。
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