命改変プログラム

ファーストなサイコロ

無力な高校生

 地面から僅かに聞こえるプルルという音。僕は急かす様に早く早く! と念じてる。バレてない内に助けを求める。それしか今の僕には出来そうもない。
 実際僕だけなら、どうにだってなって構わない。このチンピラ共が僕の息の根を止めるとも思えないし、アイテムだって絶対に必要って物じゃない。
 それよりも優先される事が出来たのなら、投げ出す事なんか厭わない。今までやってきた努力とか、垂らした汗は無駄になるけど、イベントはそれ自体を楽しむ物だろう。それならとうに僕は果たしてる。
 最初は秋徒と愛さんの三人で、その後メカブと知り合って、それなりに楽しかった。イベントを僕は満喫してた。それはきっとメカブだってそうだって思いたい。
 アイテムが手に入らなかったら、メカブは怒るかな……けど、アイテムが手に入らない程度の事は「残念だったね」程度で済むけどさ、殴られたり蹴られたりは流石にそんな軽く受け流せる物じゃない。
 それにメカブは女の子だし、こんな所で傷物にはしたくない。しちゃいけないだろ。楽しかった時間まで不意にしちゃう様な事を……させてたまるかよ。
 お腹の辺りでプルルプルルと鳴り続けるコール音。喧噪の中だから、気づかれないとは思うけど、僕の心臓は飛び出そうな程に高鳴っていた。


「おらお連れの彼女が良いことされちゃうかも知れないぞ。ちゃんと見てろよ」
「お前等!!」


 歯を悔い締めて睨み付ける僕の顔を、もう一度地面に叩きつける。背中を陣取られてるから、何も出来ない。地面に黒く濁る染みがつく。
 血が変色してドス黒くなってるのか、それともこれはアスファルトの色でも混じったのか……どっちにしろ、痛いことに変わりはない。


「そんなエロい足を大胆に見せつけて、ヤって欲しいんじゃないか?」


 そんな勘に触る声と共に、一人のチンピラがメカブに迫るのが見える。これまでとは違う嫌な汗が額を伝う。こんなの……絶対にダメだ!!


「どけぇええええええ! くそ野郎!!」


 目一杯の力を込めて上に乗ってる奴ごと立ち上がる気満々だった。だけど、心に反して体が思ったように動いてくれない。力を精一杯入れてる筈なのに、自分の体はチンピラを数十センチさえ持ち上げる事が出来ない。


「まだまだ元気じゃねぇか! おらおらどうした? もっと力入れないと、あの女が大変な事になるぞ」


 そう言って、僕の背中で僅かに腰を浮かして落とす行為を繰り返しやがるチンピラ。ドスンドスンとのし掛かる男の体重が腹の中の物を逆流させそうだ。そんな中、視界の先では、卑猥な手の動きで迫る野郎が、メカブのむき出しの足に触れてる。
 それはもう、おぞましい光景だ。


「やめてよ! 触るな!!」


 眉根を寄せて、キツく瞼を閉じてるメカブが震える声でそう言ってる。足で蹴ろうにも、あの服じゃ足をあげた途端にパンツ丸見えだから抵抗も出来ないようだ。
 もう一人のチンピラに肩を押さえつけられて、ろくに腕も振り回せない状態。


「そんなダッサいメガネなんてしてるなよ。結構可愛い顔してるだろお前」


 そう言って、メカブの黒縁メガネに手をかけようとするチンピラ。そんな奴に抵抗してるのか、必死に顔を俯けてるけど、それは殆ど意味なかった。メカブの眼鏡は取られてその素顔が露わになる。
 けど実際必死に目を閉じてるから、取る前との違いはわからないけど、それだけ眼鏡は外してほしく無かった……そんな感じがする。
 取った眼鏡を無造作に放るチンピラ。カシャンカシャンと言う音を追う様に視線を動かすメカブ。そんな横顔に浅黒く肌荒れ気味の顔が近づいてやがる。


「やめっ!!」


 そんな声を出したとき、重なるように腹の所から「はいもしもしこちら~」とかいう野太い声が聞こえた。ようやくか……とか思ったけど、やけにその声が大きかったせいか背中に乗ってた奴に気付かれた。


「おい、なんだ今の声?」


 そんなチンピラのいぶかしむ声と、「あの~どちら様でしょうか?」と言う電話越しの声が重なる。もうごまかしは聞かない。完全にこっちを睨んでるし、ここで電話を切られる位なら、なんとか緊急事態ってだけでも知らせたい。


「おい! ちょっと体をあげろ! この野郎!!」


 髪を無造作に引っ張られる。だけど、火傷しそうな程に熱されたアスファルトを必死に握力だけで掴んで抵抗。
 握力は別なのか、まだ少しは抵抗出来る力が残ってたみたい。暑いけど、そんな事言ってられない。


「いたずらかしら?」


 そんな声が聞こえて僕は慌てて声を出す。


「スオウ! スオウです!!」
「ん? あれ? 今何か聞こえたような? あの~もう一度お願いします」


 なんてこった、ちゃんと届いてない。もう一度……そう思ってると、僕の指は遂に地面から放される。頭の皮膚が引っ張られる感覚と共に体が反られて、隠してたスマホが露わになる。


「こんな物を隠し持ってたとはな。助けでも呼ぼうとしてんのか? けどな、俺達は数十人は居るんだよ。お前達が誰を呼ぼうと、この状況を覆せるわけないないだろ!」


 そう言ってスマホを地面から持ち上げるチンピラ。数十人……確かに一人仲間が増えたからってどうにか出来る数じゃないのかも知れない。けど……あの人ならそれが出来そうだと思ったんだ。


「あの~それは私に言ってるのでしょうか? ちょっと意味が分かりかねます」


 そんな困惑の声がスマホから漏れてくる。するとチンピラはニヤニヤムカつく笑みを見せながら舌を出して、スマホを耳に当てる。


「すっみませ~ん。これは間違い電話です。気にしないでくださぁ~い!」


 ふざけた口調でそう言うチンピラ。マジで殴り倒したい。ちらりとメカブの方へ視線を動かすと、足をサワサワしてる奴と、舌を出して頬でも舐めそうな勢いの変態が見えた。
 それは幾らなんでも犯罪だ。くっそ、このまま切られたらそれこそここで終わり。メカブを守ってやることも出来ずに終わりなんて……それはダメだ。
 元々僕と関わりさえしなければあんな嫌な思いせずに済んだんだし、アイツだけはちゃんと守らないと。


「間違い電話ですか。では失礼します」


 そんな声が僕にも聞こえた。だけど、まだ繋がってる筈だ。まだプープー言ってない。僕は出来るだけ首を伸ばして背中側のチンピラに近づく。そして恥や外聞なんて物を捨ててこう叫んだ。


「僕だ! スオウだ!! エマージェンシーなんだよ!!」
「ちっ」


 その途端チンピラ自信が通話を切った。プープーと言う空しい音がスマホから響く。届いたかどうかわからない。切る直前だったし、耳に当ててなかったら、僕の必死の叫びは届いてないかも知れない。まずエマージェンシーって……自分でもなんだそれって思うけど、彼女にはそれが一番だと思った。
 僕の不安をあざ笑うかの様に、スマホを地面に捨てるチンピラ。それは実際自分の腕が届く範囲……だけどそれを許すことはしないだろう。
 けど……どっちにしてもあの電話でもしもあの人がちゃんとメッセージを受け取って、ここに駆けつけてくれるとしても、時間はかかる。その間にメカブがこれ以上酷い事されちゃ意味ないんだ。
 どうにかしてもう一頑張りしないといけない。けど……今の僕にはこの背中の奴を退かす力さえ残ってないんだ。でもだからって諦めきれない、卑猥な舌が迫るメカブを見捨てれるか。


 今日初めて会ったけどさ、僕とアイツの関係はもうただの通りすがりでも赤の他人でもない……周りの野次馬共が同情するような視線を向けてて何もしないでも、僕がそうであっちゃいけない。
 力を入れる。何度も何度も……全身の筋肉に言い聞かせる。


「まだやる気か? 諦めろよ。大人しくしてればそれでいいんだよ。逆に抵抗するから、お前達は酷い目に遭うんだ」
「ふっざけんなよ……メカブはもう抵抗なんてしてない。それでもあんな事! 黙って見とく訳にはいかない。アイテムとかどうでもいい。
 今はただただ、お前達が憎たらしいんだよ!!」


 僕は裏拳をチンピラに向かって打つ。だけどそれは簡単に受け止められた。この態勢でどんな攻撃が来るかくらいは予測してたんみたいだ。
 そしてそのまま取った腕を逆に絡めて、間接技を決められた。なんて情けないんだよ僕は。


「はは、結構な事じゃねーか! あの女もお前も、見せしめだよ。バカな気を起こす奴がいないようにな」


 地面に押しつけられた頬が焼ける。見せしめなんてそんなの……僕だけにしとけよ。


「それにしても……あの体はエロいよな。俺も後で堪能したいな。お前を押さえつけてるのなんてマジで失敗だ」
「なら、さっさと放せよ」
「それは無理だな。お前には気を付けろと言われてる。まあこのままこんな場所で押さえとく訳にもいかないし、ロープで縛ってどっかに叩き込んでやるよ。
 このイベントが終わるまでな」


 何、んな事勝手に決めてんだ。


「それで、僕とアイツは同じ所に閉じこめておくんだろうな?」
「さあ、それはどうだろうな? 男じゃ遊べないけど、女なら出来る事一杯あるし、ホテルとかでも……何だお前? 目の前で犯して欲しいのか? 良い趣味してるな」
「ふざっけんなよ!!」


 目を見開いて瞳孔を真っ赤にたぎらせる気持ちでこの腐ったチンピラを睨み付ける。今の僕にはこれが精一杯。実際何で眼力で人が倒せないだって、本気で思う。
 こいつらを殺したい気持ちをこの目に込めてるのに、このチンピラ共は、そんな僕の反応を楽しんでる節がある。こいつら……冗談で済まない遊びがあることを知らないのか? 
 それとも、バックがついてるから、何やったって良いとか思ってるじゃないだろうな。マジでふざけやがって……そんな風に思ってると不意に「ダッサイねスオウ☆」とかいう声が聞こえた。
 そんな声にハッとして声のした方へ視線を向ける。するとそこには微妙な距離にあるメカブのスマホが見えた。さっき僕が電話する為に使った奴。
 僕の携帯から、ブリームスを伝ってこっちに移動してきたのかシクラの奴? 僕はチラリと上にのし掛かるチンピラを見る。


「大丈夫、気付いてないよ。あの痛い子がちょっと気の毒になってる様に意識奪われてるみたいだからね☆ まあそれだけスオウが雑魚認識されてるって事だけど」
「うるさい……良いから何とか……」


 僕は全部言う前に言葉を噤んだ。僕も自分がつくづく都合の良い奴だと思ったから。だってシクラは敵なんだよ。それをお互いにわかってる。なのに、そんな奴に期待とかするなんて……それはおかしいだろ。
 ちょっと協力しあったからって、僕たちは馴れ合った訳じゃない。だけどそんな僕の気持ちを察したのか、言葉が途切れた僕の変わりにシクラは紡ぐ。


「なんとかしてあげよっか? ヘタレッピーなスオウちゃん☆」


 思わぬ提案。こいつが自分から協力的なんて……なんか裏があるんじゃないのかと疑いたくなる。けど実際、その言葉が思わぬ程に、胸に染みたのも事実。ヘタレッピーの所は除外してね。
 けど、それもやっぱ事実か。


「お前は……それでいいのかよ?」


 なんか我ながらおかしな事を言ってると思った。普通に今直ぐにでもお願いするべきなのかも。けど、そんな素直な態度を取ると逆に面白味が減ったとか、感じそうなのがコイツでもあるんだよな。
 そもそも期待してるけど、信じてはないしなその言葉。


「スオウは何もわかっちゃないね。敵の……ううんライバルの思いって奴をわかってない。私はただ、こんなつまらない連中に負けて欲しくないだけ。
 君をぶっ潰すのは私だからね☆」
「なるほどな」


 なんかそれはホントしっくり来る答えだった気がする。なんかライバル言われた事がちょっと嬉しい気さえした。こんな状況なのにだ。
 それはやっぱりシクラでもさ、こっち側に居てくれる奴が一人でも居るって事が大きかったのかも。たった二人で、絶望的な状況で、周りに人は一杯でも向けられる瞳には同情とかそんなのしかなかったから、一歩を踏み出したのがシクラでも、余裕が無くなってた心には大きな安心感をくれた。
 それにコイツが厄介でも頼れる奴ってのは僕が一番知ってるからな……ライバルとして。


「どうするんだ?」
「まあ私は直接手出し出来ないから間接的な事に成っちゃうけど……取り合えず耳を塞いでてねスオウ☆」


 そんなシクラの言葉に「何するんだ?」なんて言葉は野暮だと悟った僕は、直ぐに片耳を地面に押しつけて、もう一方を空いてる手で塞いだ。
 その瞬間、スマホから響いた音は頭をかき乱すような音。大音響で変な甲高い音がこれでもかって言うくらいに響く。
 耳を塞いでても、頭がクラクラしてしまう程の音。周りの人達がバタバタと地面に腰を落としてく。この音で平衡感覚がおかしく成ってるのかも……地面に元から倒れてる僕でさえ、ちょっと自分がどこにいるのかわからなくなる感覚に陥ってるもん。
 スマホから鳴り響く音は十数秒続いて、不意に止んだ。辺りはなんだか騒然というか……阿鼻叫喚と言うか……そんな惨状に成ってる。誰もが耳を押さえてうずくまってる態勢。
 関係無い人達には悪かったけど、でもこれでメカブの所にいける。僕は上にのし掛かったまま耳を押さえて震えてるチンピラから這い出て、スマホを拾い上げてメカブの元へ急ぐ。
 コイツ等が復活する前に、メカブを安全な場所に連れて行かないと。


「くっ……」


 だけど想像以上に体は限界にきてるみたい。あのチンピラの拘束を解けなかった時点で感じてたけど、全身が鉛みたいに重い。
 足下もフラツくし……いや、これはさっきの音の影響か。これじゃあもう一度立ち向かうとかはやめた方がいいかも知れない。
 取り合えずまずは、メカブを安全な所へ。それを第一に考えよう。


「大丈夫かメカブ?」


 僕はそう声を掛けながらメカブを揺する。すると赤くなった瞳を僅かに開けて、その瞳が僕を捉える。


「無限……の蔵……一体何だったのさっきの音?」


 そんな声を出しつつ頭を振るメカブ。どうやら大丈夫そうだな。


「さあな、どっかのスピーカーがブッ壊れたんじゃないか? それよりもさっさとこの場を離れるぞ。どう考えてもこっちが不利だ」
「何、それじゃあ無限の蔵はアイテム諦めるの? こんなのに渡しても良いって言うの? アイテムの価値をお金でしか判断できない奴らよ!?」


 僕の言葉に食ってかかってくるメカブ。それはそうだけど……けどアイテムよりも大事な物がある。


「何よ大事な物って? 今日なんの為にこんな暑い中頑張って来たの? 私たちだけじゃないよ。ここに倒れてる人達だって、頑張ってた筈だよ。
 それなのに、人と金を使って……ここまで最低の事をしちゃう奴らにみすみすやるなんて、そんなの煮え湯を飲まされる事の方がまだマシだわ!!」


 そこまで言い切るかコイツ。さっきまで泣き顔だったくせに……


「あれは女の子としての普通の反応よ。こんなキモい連中に触られてたかと思うと、今からでも涙が出てくるわ」


 そう言ってメカブは自分の足に倒れてるチンピラをゲシゲシ蹴って自由を取り戻す。まあいつのもメカブに戻ったのは良いけど、でもやっぱりここまでだよ。


「どうして? 無限の蔵らしくない! こんな奴ら、恐れる程の奴らじゃないわよ。一泡吹かせないと、ますます調子に乗るわ。
 コイツ等は徒党を組まないと何も出来ないくせに、それに味を占めると、何だって出来るって勘違いするバカなのよ。その勘違いに上限なんてないんだから!」
「それはそうかもだけど……けどダメだ」
「なんで!!」


 僕にメカブが眉をつり上げて問いつめて来る。コイツ本当に分かってないのか? 僕はメカブの腕を取り強引に引き寄せた。鼻先が付くくらいの至近距離で言ってやる。


「お前が心配だからだよ! お前を守る自信が僕には無いから……だから、これ以上無茶はやれない。僕のワガママで誰かが泣く様なんて見たくないんだよ」


 僕はハッキリとそう言った。我ながら随分格好悪い事を堂々と宣言したと思う。けど、ここで逃げなきゃメカブはもっと酷い目に遭わせられるかも知れない。
 そして僕はそんなメカブを助け出す自信が今はないんだよ。今はもうどうにか成るなんて、安易な気持ちじゃいられない。
 このチンピラどもは迷わず殴る蹴るをしやがった。それはアイテムを求める限り、コイツ等とのそんな抗争が続くって事だ。
 僕がそれをやり続ければ、結局メカブだって狙われる。だって、僕達の事はコイツ等に知られてるんだからな。だからダメなんだ。無理なんだよ。今回はたまたまなんとか成ったけど……本当にダメかも知れないと思ったんだ。


「あんな事されかかって、お前だって怖かっただろ。実際冗談で済ませられない事だった。これ以上やったら、僕よりもお前の方がどうなるかわかんない。
 自分の事よりも、お前が傷つく方が心配なんだよ!」
「ス……オウ」


 鼻先の三寸の距離で目を見開くメカブ。黒縁メガネの下の顔は初めて見る物だ。案外まつげ長い、目もメガネを付けてた時よりも若干大きく感じる。それはレンズの影響かな。
 黒目も大きく見えるかも。てか全体的にあのメガネが大きすぎたせいか、顔が小さく見えるかも。なるほど、案外可愛い顔してるかも知れない。
 そんな的外れな事を思ってると、メカブは視線を下に流してこう言った。


「そうなんだ……私が心配。ここはリアルだし、無限の蔵にも限界はあるよね。しょうがないか……ここでリタイア。
 私は荷物とかに成りたくないし、それにやっぱりそんな危険は犯せないよね。てかこんな事を考えなくちゃいけない時点で、もうゲームじゃない。
 誰もが楽しめるイベントじゃ無くなっちゃってる」
「……そうだな」


 遊びじゃなかった。いつからか? 最初から? それともコイツ等と僕達が邂逅したのがいけなかったのかな。暴力同士のぶつかりあいなんて……LROの中だけで十分なんだよ。
 それをリアルにまで持ち出したら、笑顔でなんていられない。楽しむなんて論外だろ。こんなの間違ってる。間違っちゃったんだと思う。
 でも今の僕にはそれを否定出来る力がなくて……逃げ出す事しか出来ない。幻滅されたかな? けどそれでも納得はしてくれたみたいだし、よかったよ。
 僕はメカブの手を引いて歩き出す。そう言えばスマホ……とか思ったけど、徐々に立ち上がる奴らも出てきたし、厄介な奴らが復活する前に、この場を立ち去るのが良いと思った。
 バカラさんや所長やジェロワさんには悪いけど、ゴメンとしか言いようがない。僕はまだまだ弱かった。誰一人満足に守れない一介の高校生……その現実を知ったんだ。乗り越えれると思ったけど、それはLROで調子づいてたのかも知れない。
 特別とかなんとか言われて頼られたりもちょっとして、そんな自分はLROの中の『スオウ』だったのに……こっっちの僕と勘違いしてたんだ。


 僕達は歩き出す。この場所を離れる為に。けどその時、メカブの足が無骨な野郎の手によって捕まれた。


「おいおい、勝手に終わらせるなよ。楽しみはこれからだろ?」


 そう言ってメカブをひきづる様に押し倒すチンピラ。こいつ等、手を引くんなら何もしないんじゃないのかよ。


「はっはは! お前にはもう用はねーよ! けど、この子はまだ味わい足りないんだ!!」
「こんの野――がっ!?」


 後ろから頭に響く衝撃……コイツ等また後ろから……膝が地面に付く。けどまだ意識はある。このままじゃダメだ。今度こそ本当にメカブが……僕はメカブに多い被さる様に彼女を包む。
 今の僕は彼女の盾にしかなれないんだ。

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