命改変プログラム

ファーストなサイコロ

本物と偽物の隔たり



「楽しみだな。逆の展開になるとは思わなかったが、これはこれでいい。張り合いが出て」
「アンタ……いや、アイテムを手にするのは僕たちだ」


 向けられたその眼差しに、僕はいろんな事を飲み込んでそう言った。ここまで来たんだ、今更何を言うことがあるよ。
 こいつは別のルートを辿って向こう側についたって事だろ。無数のルート、選択者分の物語。全員が主役。それがLROだろ。
 自分たちの物語を紡ぐ事が出来る圧倒的なボリューム。LRO本体自体は、ボリュームなんて言葉じゃ済みそうもないけど、まあそう言うことだろ。
 僕たちはそれぞれの物語で常に、他人と競うことがある。そう言う事だ。だから別に驚くことでもない。まだ他に、別のルートでこの位置まで来てる奴がいたっておかしくないしな。
 ようは誰にも負けない……その気持ちがあれば良いんだろ。


「はは、良い気概だ。だが、もしも手にしたときは前に言ったことも覚えておけ。まあ無駄になるだろうがな。そろそろ怖じ気づけ一般人」


 頭をビカビカに光らせてとうとう脅しに来たのかこのハゲは? けど実際んな怖いと思わない。それは僕が慣れたって訳じゃなく、このハゲの場合は見た目はそんなに怖くない。
 どうみても危なさを隠してるし、ハゲは実際年相応で別にだし、サングラス微妙に合ってないし、いうなればそこらのオッサンと大差ない。メタボ気味だしな。


「そんな分かりきったこと言うなよオッサン。僕達は手にしたアイテムを金に換える気は無い。こっちの奴はともかく僕は全然な」


 僕が隣のメカブを指してそう言うと、メカブの奴は不本意みたいな表情をした。だけど何も文句を言わないのは、一回買収されてるからだろう。こいつの懐には、奴らの黒そうな金が混じってる。


「まっ、こっちも悪い事言わないからそろそろこのイベントから退場しろよ社会の害悪。こっちは純粋にイベントをやってるんだ」
「俺たちもイベントを楽しんでるさ。言っただろう。この真剣さがその証。お遊び気分なんて邪魔なだけ。俺達は本気の本気だよ。
 だから何が何でもアイテムは手に入れる。それを邪魔するって言うなら、容赦なく踏みつぶさせて貰う」


 そう言って背中を向ける。人混みの向こう側へ消え去ろうとするその背中はやけに自信に満ちてるな。ここまで僕達を追いかける形で出遅れてた癖に。
 それに何が本気だよ。お前たちの本気はイベントへの取り組み具合じゃなく、金だろ。このイベントでしか手に入らないらしい三つのレアアイテム。それで金を稼ぐのが目的。そんな黒い目的が迷惑だって言ってんだよ。


「あのハゲはああ言う事を言いたい年頃なのかしら? そう言う役所を満喫してるの?」


 おいおい、身も蓋もない事いうなよメカブ。そう言う事言われると、途端にあの丸い背中が悲しく見えるじゃないか。


「お前な……あれはあのハゲの優しさか甘さかだろ。変な教示をヤクザの癖に持ってる奴なんだろ」


 きっとね。自分が貫く信念って奴をあれはきっと持ってるよ。だからこそ、完全に嫌いって訳でも無いしな。
 そう言えば今回は取り巻きの二人が居なかったな。金髪とモヒカンの二人。遂に捨てられた……とかは考えられないから、何か役割でも与えられてたか?
 そんな事を考えてその背中を見てると奴が戻ったのはあのクズ所長の所。まあそうだろうけど、そのまま中へと一緒に消えていった。
 そしていつの間にかジェロワさんは僕達の所まで戻ってきてた。


『お待たせしました。あはは、あんまり見ないでください。その……これは何でも無いんですよ。ちょっとトラブっただけ。
 メイクを直したかったんですけど、この顔じゃそれをしても意味ないですよね』


 そう言って強がって見せる辺りにちょっと胸が熱くなる。なんか無駄にボロボロ具合が演出されてるな。


『それとも十分くらい待ってくれますか?』


 それは冗談なのかどうなのか……ここで「突っ込みを入れる」とかの選択肢が出てくるから訳分からん。でもここで突っ込んでやらなきゃこのボケ(と思われる)が不憫だ。
 きっと頑張ってるんだろうしな。けど考えたら、何も良いことなんか無かったよな。情報は手に入らず、理不尽にぼこられて、突っ込んで貰わないとやってられないよな。
 ボケは流されるのが一番辛いらしいし。だから僕は突っ込みを入れるをタッチした。
 画面に『十分なんて待ってられるか。気にするな、随分女前があがってるよ』とか出た。何だよ女前って。男前とは言うけど女前なんて言わないだろ。


『あ……はっははははは、メイクも顔も崩れたこんな顔で女前上げちゃってもね。うん、でも……頑張ったかいはあったのかなそれなら』


 そう言ってジェロワさんは何かを取り出した。どうやら彼女が言った頑張ったってのは、あの言葉や行動だけじゃなかったみたい。
 その結果に手にしたこれが頑張った証。それは小さな棒状のクリスタル。ジェロワさんがそれを振ると、振った軌跡に文字が浮かぶ。


『私が持ちだそうとした情報。ぶつかった時に取り返してたんです。ふふ、今頃あのバカが嘆いてる姿が目に浮かぶわ』


 この時のジェロワさんは本当に良い笑顔してた。でも確かに天晴れだ。良くやった! そう思う。僕がそっちにいたら思わず抱きしめてやっても良いくらい。
 そっかだからあんな無茶な事を……


「ほらね、女は強いでしょ? 男に使われるだけじゃないのよ」
「はは、確かに」


 だから弱いなんて思ってない。でもホント、ジェロワさんは頑張ってくれた。僕達は早速情報を確認――しようとしたけど、どうやら直接は見れないらしい。


『今までの事と、これからの事を分析出来る場所は無いからしら? 第一も動き出す様だし、急いだ方がいいわ』


 ボロボロなのにやけにやる気一杯なジェロワさん。ここで第四研究所を紹介する項目が出てくる。確かにあそこがそう言う事をやるにはベストだろう。


『第四研究所か……この際選り好みはしてられないわね。わかりました。そこに行きましょう』


 そう言って彼女は消えた。多分第四研究所に行ったんだろう。こっちはリアルで歩かなきゃいかないのに、ズルいな全く。
 てか今日だけでどんだけあの廃れたビルに行ってるんだよ僕ら。普通にアキバに買い物に来た程度じゃ絶対に目にも留まらない場所なのに……既に道順まで覚えてしまったじゃないか。
 今日が終われば絶対に使わない知識だな。


「ほらもう一頑張りよ無限の蔵。私たちも第四研究所に行きましょう」
「だな」


 僕はメカブに促されて足を動かし出す。なんかずっと痺れた様な痛みがあるけど、気にしない。これだけ歩いて走ってをやってればね。
 でもそろそろ終わりが見えてるし、本当に後一頑張り。もうやるしかないって感じだ。そんなことを思って歩き出すと、ずっと隠れてたシクラがひょこっと姿を現した。


「まさかあそこまで彼女がボコられてたのに何もしないなんてね。ちょっと意外。私は準備万端に待ってたのに☆」


 なんだこいつ、画面の見えないところでスタンバってたのか? 随分僕と言う人間をわかってるじゃないか。てかそれに協力する気だったのが驚きだ。どうせ駄々をこねるだろうから、ツツいて言うことを聞かせようと思ってた。
 それが今の状況では最高のシクラに対する手段だからね。でもわざわざ協力的だったなんて、どういう風の吹き回しだ?


「別にそろそろ身を隠してるのも面倒になったからってだけ。衝撃的にあの子に私を見せるのも面白そうじゃない☆」
「やっぱそう言う事か」


 ジェロワさんに同情したとかそんなのは皆無かよ。まあ分かってたけど。


「何々? 私に善意で協力させたかった? まさかそんなのあり得ない☆ だって私、あの光景見て声を押し殺すのに必死だったもん。お腹が捻れちゃうかもとか思ったわ」
「マジ最低だなお前」


 いや、最低なのは分かってたけども……僕の想定を遙かに越える鬼畜だったことに残念だよ。こいつは確かにハチャメチャでセツリの事以外、世界さえどうでも良いと思ってる奴だけど、けどそれだって思いやりだと思ってた。
 でもセツリ以外にはそんな感情すら働かないか。


「最低って言うか、私からしたら彼女の自業自得でしょ。バカな男に引っかかる女がバカなのよ。そもそも男なんて信用ならない物じゃない。
 綺麗でも無いし、良い匂いにだってしない。てか臭いしムサいし。結局せっちゃんの様な美少女が最高だと思うのに分かってないよね世界って☆」
「お前の基準で世界を計るなよ。人は男女で愛し合う物なんだよ。だからお前も十分異常だ。そう言う風に作られてるとしても、お前には心があるんだろ? 考えられるんだろ? もっと見識でも広めろ」


 美少女最高って……まあそこは否定しないけど。こいつの考えは偏り過ぎ。こいつって言うかこいつと同じ存在の姉妹がと思うけど。
 よくよく考えたら、シクラと柊以外はまだ遠目で見た程度だな。考えないようにしてたんだ……あんなのがまだ四人位とかマジ最悪だからな。


「ふふん、見識って常時世界と繋がってる私よりも知識豊富な存在なんて神くらいしかいないと思うけど。まあいたらだけどね? あれ、それじゃあ私ってもしかして神……」


 なんかアホな事口走り始めたな。お遊びモードに入ってるなこいつ。真面目に考える気無い。まあ言葉程度で、こいつらの意識が変わる訳もないのも分かってるけどね。


「お前が神なわけない。結局は人から生まれたんだからな」
「蛙の子は蛙? けど鳶が鷹を生むっても言うよね☆」
「人と神じゃ次元が違う。同じ世界に生きちゃいないだろ」


 そう言うとシクラはククっと笑ってこういう。


「それなら私とスオウだって同じ世界に生きてないよ。それに人間以外の動物からしたら、全ての生き物がその生き物の世界で生きてるのよ。
 神なんて者が居るとしたら、上からその世界を破壊でも創造でも出来るなら何でも良いんじゃないかな☆」


 こいつ……何言って……画面の中に陰りが落ちる。その月光色の髪の彩度が落ちて、白い肌に黒い影が鮮明に見えた。


「私はねスオウ。セッちゃんをあの世界の神にしたいの」


 神……それは余りにも抽象的過ぎて実際上手く受け止められない。けどこいつらがやろうとしてること、それを考えたら分からなくもない。


 そんな会話をしてる内に、僕達は第四研究所前に居た。そして入り口を見上げるようにしてジェロワさんの姿がある。僕はその背中に触れる。


『ここが第四研究所……想像以上ね。こんな所でまともな研究が出来るとは思えないわ』


 かなりボロクソに言われてる。まあだけど同感かも。てか実際、ここの奴らは何か研究っぽい事をやってるのかどうかすら怪しいしね。てかまた屋上まで上らないといけないのかな? 面倒なんだけど。
 そんな事を思ってると、外に居た爺が大きな声で所長を呼んでくれたよ。ようやく二回目の仕事をしてくれたなじいさん。
 この人最初に話しかけたときからずっと外に居るけど、イベントに関わってきたのはたった二回なんだよね。必要なのか? って思う。
 そんな事を思ってると『ご苦労だった戦士フィフティィィンよ!!』とか言うやけにテンション高めな声が聞こえてきた。


『ななな何、この人? なんか痛いわ……見てるだけで!』


 所長の声を聞いて震える声を出したジェロワさん。うん、しょうがないね。第一の所長はクズだったけどさ、第四の自称所長は痛いんだよ。中二病全快なんだよ。てか戦士フィフティンって……そっちの呼び方の方が自分的に格好いい事に気づいたのだろうか? 
 無限の蔵も相当だけど、戦士フィフティィィン!! と延ばれるのも恥ずかしい。


『収穫は……あったようだな。そちらの三十路の方は?』
『ブン殴って良いかしらコイツ』


 そうなるよね。階段から降りて来た所長は彼女を見て邂逅一番意そう言った。どんだけ失礼なんだよこの所長。人として大人としてなってないよ! きっと中二の時点で成長が止まったんだろうな。
 だけど観察眼は素晴らしい。一発でジェロワさんを三十路と見抜くとは……僕はタッチ一つでこれまでの説明を終えた。


『なるほど、概ね目的は達したわけか。ご苦労だったな戦士フィフティィィン。では早速我がラボでこれまでの情報の解析と第一研究所の奴らを出し抜く方法を探ろうではないか!』


 そう言って背中を向けて階段を上がろうとする所長。けどピタリと止まってこちらを……と言うかジェロワさんを見る。


『ああそうだ。やる気はあるんだよな三十路?』
『み……三十路って言うな!! 当然でしょ! 私はあいつ等の高い鼻をへし折るんだからね』
『よし! それならばお前を我がラボメンの一員に迎えよう! その復習に燃えるタギるような瞳! マッドサイエンティストの才能があるようだ』


 戦士じゃなくラボメンね。それはジェロワさんが研究者だからかな? でもマッドサイエンティストの才能って何だよ。
 てか屋上以外にここで入れる所なんかあったかな? 変な店に入るのはヤなんだけど。


『私はそんなのになる気はない。それよりも変な肩書きばかり増やさないで名前覚えないさい。私はジェロワ。それにゆっくりと考察に時間を費やす暇はないわ。
 既に第一の連中は動き出してる。ラボにこもるだけじゃ勝てないわ』
『くっ……あまつさえ栄光あるラボメンへの入隊を断るとは。くっくく、孤独であることがマッドサイエンティストの有るべき姿だと? その考えは天晴れだ』


 おい、この所長後半聞いてなかっただろ。なる気はないの所しかピックアップしてないぞ。


『何バカな事を言ってるのこの人? 良いからどうするかを早急に決めないとダメなのよ。バカなマッドサイエンティストなんて痛いだけよ』


 おお、ジェロワさんが最初会ったときみたいに冷たい感じになってるぞ。てか、所長を見る目が相当冷たい。そんな視線に直接当てられて、所長はちょっとたじろぐ。


『ふっふふは、マッドサイエンティストはいつだって痛く見られる。それに万事抜かりはない。用は物事を並列して処理すればいいだけの事だろう。だから我らは戦士と協力関係を結んでる! 
 そう世界を支配するための前進。悪の戦士達とな!!』
「無限の蔵って悪の戦士だったのね」


 変な設定が追加されていく気がする。初耳なんですけど。悪なんてバカラさんも思ってないだろ。画面の中のジェロワさんも僕に変な視線向けてるし。
 変な事言うなよな。てか僕を巻き込むな。そんな折り、所長の近くにウインドウが現れる。


『どうした?』
『所長、バカラさんから連絡ですよ。どうやら第一の奴らが研究所から仰々しい実験道具を持ち出してるみたいです』


 画面内に居るのは頼りないハッカーだな。てかあれから今度は第一を見張ってたのかなあの人。なんとも働き者だ。
 仰々しい装置か……それでブリームスに隠されたアイテムを刺激するのだろうか? ジェロワさんなら何か知ってるんじゃ? 


『仰々しい……きっとアレね。でも確かアレは、そもそも不良品だったような。ああそっか、向こうも自分たちの実験でアイテムを刺激出来る事に気付いたのね。それでアレの再利用方を思いついた。けど実行しようとするなんて……私が反抗したのがよっぽど気に入らなかったのねあの人』
 そう言って静かに微笑むジェロワさん。うっわ、その笑みは実にマッドサイエンティストみたいだ。危険な香りを漂わせてる笑み。
 喚くだけの自称マッドサイエンティストとはやっぱ違うな。本物の研究者だからかな?


『ふふ、良い顔だ。で、その装置とやらを使うとどうなる?』


 そんな問いに、ジェロワさんは影を落としてこう答える。


『最悪、ブリームスの住民集団失踪』
『なっ!?』


 ガタタンと階段を踏み外す所長。やっぱ色々とこの人脆いな。強がってるだけなのは間違いない。すると僕の横でメカブが何か考える様な仕草してる。手を顎に当ててブツブツと「集団失踪ってまさか……」とか言ってるよ。
 何か引っかかる事でも有るのだろうか?


「どうしたんだよ? いよいよって感じに成ってきただろ」
「まあそれはそうだけど……ねぇ無限の蔵。LRO自体でこの街がどういう扱いか知ってる?」


 突然何を言い出すんだコイツ。確か秋徒か愛さんがこのブリームスって街は、昔に滅んだとかなんとか聞いた筈だけど。


「そうね。LROの歴史ではそう成ってる。ブリームスはとっくの昔に滅んだ幻の街。でもその名残りたいな物はLRO自体にも有るのよね。
 今じゃ遺跡に成ってるんだけど」
「へぇ~そうなんだ」


 それは初耳。てか僕ってまだまだLROを一周もしてないから知らない所なんて一杯だ。けどやっぱりそれがどうしたって事だよな。このイベントは別にLRO自体に関係あるミッションとかじゃないだろ。
 完全に独立したイベントってな位置付けな筈だ。幻の街にいけるよ! 的なタレコミだったじゃん。


「それはそうだけど……けど本当に何もLRO自体に関連してないのかなって思う。だってこれはLROのイベントよ」


 そんな事いわれても……が正直な意見。けどそれだけ気になる事が有るって事か? LRO本体に関わる事でもあると? まあLRO自体ならそれこそ何が起こったっておかしくないけどさ、ここはリアルなんだよ。そしてリアルを基盤してる以上限界ってのが有るわけだ。


「話自体にリアルもLROも関係ないわよ。やり方が変わるだけでしょ。ブリームスはね、ある日突然滅んだのよ。この街に居た全員が消えて」
「おい、それって……」


 僕も階段に立ってたら足を踏み外してたかもしれない位にちょっと驚いた。だって……え? それってマジ?


「まあLROでもハッキリとした理由が分かってないってのよ。遺跡に成ってるって言ったじゃない。そこは老朽化以外で崩れてる建物は無いらしいのよね。
 普通ならそんな突然街一つが滅ぶなんて、自然災害かLROならモンスターの襲撃。そうなる訳だけど、どっちにしたって建物自体も無事じゃ済まない筈じゃない。
 けど遺跡にはそんな傷跡は無い。だから集団失踪。ある日突然、この街の人が消えたって事に成ってるのよ」


 なんだかメカブの声がやけに耳に残る。きっと考えられる事が有るからで、それは多分メカブの言いたい事だろうから……何だろう。
 つまりこういう事だろ。


「お前はこのイベントが過去にブリームスで起きた事を再現しようとしてる――そう思ってるって事か」
「ちょっと違う。これは私達の行動で変えられる未来の選択肢なんじゃないのかな?」


 未来の選択肢? どういう事だ。また電波か? とも思ったけど、メカブは至って真剣なご様子。コホンと咳払いを一つして僕の目を見据えてこう言った。


「再現って言うよりは、私達の行動でそれを変えられるんじゃないかってことよ。このままいったら、ブリームスに居る人たちは集団失踪に成るかも知れない。
 それこそ歴史通りに。けど今私達はここに居て、秋葉原と言う街を通してブリームスに干渉してる。私達がこの小さな画面からのぞき込む世界は過去のブリームス。
 だとしたら、やっぱり歴史は同じ様に収束するんでしょう。でもじゃあなんで制作側はこんなイベントを? このイベントの始まり前にはね。こんな噂が有ったわ」
「噂?」


 僕の疑問符が浮かんだ顔にメカブは目を輝かせて、指を一本立てる。


「ブリームスという街をLROに取り戻す為のイベント――そう言う噂。眉唾の話で、ネタでしか無かった話題だけど、どうやらそうでも無いと思わない無限の蔵?」


 そう言われると……確かに僕達にはそれが出来るのかも知れないと考えれる。入道雲が太陽を隠して照りつけていた日差しを遮る。けど、メカブの言葉に陰は落ちない。メカブは人通りの少ない錆びれた路地で、立てた指を空に伸ばして暑さをました声を上げる。


「私達はこの街をLROの未来へと繋げる架け橋になる!」



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