命改変プログラム
道に転がる路傍の石
「ちょ……何よあんた達……変な所触るな!!」
やっぱり上も下も対して変わらない暑さに一瞬クラッときかけてたけど、目の前にはそんな事言ってられない状況が見える。
「暴れんな! 大人しくしてろやこのアマ!」
そんな事を言って強面……というかチンピラ風の男三人がメカブを強引にどっかに連れて行こうとしてる。
えっえ何これ? 目の前で起こってる事をイマイチ上手く理解できない。一瞬マジで幻覚か何かかな~って思ったもん。
僕がちょっといきなりなりの事態に付いていけてない間にも、メカブは必死に抵抗してた。腕を振り回したり、頭を振り乱したり、だけど相手は不健康そうに見えても男三人、女の子のメカブが一人でどうにか出来る訳もない。
「アンタ達これ以上触ってみなさい! その魂を抜き取って永遠に地獄の竈につき落としてやるんだから!! 百回死ね百回死ね百回死ね百回死ね百回死ね百回死ね百回死ね百回死ねぇええええ!!」
呪詛の言葉を呟き始めたメカブ。百回死ねとか、マジ呪えそうだな。その形相が怖いよ。だけど実際はうっすらと瞳に涙が見えてたりしてるんだ。
そりゃそうだよな。いきなり男に囲まれて、無理矢理どっかに引っ張られそうなんだ……怖くないわけない。電波な事を垂れ流す痛い子であっても、メカブは女の子なんだよ。
これは突然現れた陽炎なんかじゃない。僕は頭にそう言い聞かせて、現実感を引き戻す。すると真っ白に見えてた風景も喧噪も何もかもがリアルに見えるじゃないか。
てか周りのオタク共は見事にスルーしてやがるな。見ず知らずの女の子をチンピラから助けるなんて、ハードル高いのはわかるけど、誰も何もしないってのは腹立たしい物がある。
別に期待もしてないし、勝てとは言わない。けど、アンタ達それで良いのかって思う。まあこれがリアル。特殊な力も無いし腕力が物を言う現実。
魔法使いにクラスチェンジ出来てない人間は見て見ぬ振りするスキルだけを伸ばしてく。
それでも僕は、望む物があったんだ。リアルじゃ幻想だと分かってても……
「スオウ! スオウ! 早く助けないよ!!」
僕はその声を聞いて考えるのをやめて走り出す。だってあのメカブが名前を呼んだ? それだけ怖がってるって事だろう。別にちょっと嬉しくなったわけじゃないぞ。
相手は三人……今のこの体力ギリギリ……体に疲労蓄積状態でやるには分が悪い。けどやらない訳には行かない。
なんだかんだ言っても、ここまで一緒にやってきた仲間だし、もう友達だと勝手に思ってる。実際リアルで喧嘩なんて経験は殆ど無いんだけど、やっぱり迷わずに走れるのはLROのおかげだろう。
(大丈夫。やれるさ。ヤクザみたいな奴とも張り合ったんだ。こんなチンピラ風情の奴らに臆する事なんか無い!)
僕は心の中でそう言い聞かせて、チンピラ共に迫る。
「ははっ一人で俺たち三人とやる気か?」
僕が迫ってる事に気付いたチンピラの一人が、そう言って前へ出てくる。それに続いてもう一人も下品な声を漏らしながら、その後ろに。
まあメカブを押さえとかないといけない奴が一人必要だから、当然こうなるか。一番前に居る奴はボクシングでもやってたのか、脇を締めて、フットワークを始める。後ろの奴は足癖の悪さをアピールしてるのか、ポケットに手を入れて、足を地面でグリグリ。
チンピラ共からは負ける事なんかないというような、余裕が見える。上等だな。その汚らしい顔をもっと汚くしてやるよ!!
僕はただまっすぐに突っ込んで一番前のボクサータイプの奴に拳を向ける。相手は僕が至近距離に迫っても余裕を崩さない。ボクシングやってたから、いかにも素人の拳は見え見えだ――とか言わんばかりの表情。フットワークで軽く交わして腹に一発入れてやるよ、という所まで顔に出てた。
そして実際、僕もそれを警戒した筈だった……んだけど。
「プギャ!!?」
変な声が目の前で聞こえた。拳に骨と骨とがぶつかった衝撃と痛みが走る。そしてそれはまさに、クリーンヒットを感じさせる手応え。
僕はそのまま体を捻らせて拳に更に力を加えて撃ち抜いた。体が大きく仰け反りそのままアスファルトを滑るチンピラA。あの余裕はどういう事だったんだよ……と胸の中で呟いた。
そしてそんな光景を見て、足癖の悪そうなチンピラBとメカブを押さえてるチンピラCが少し動揺してる。もしかしてだけど、やっぱりこうなる事が予想外だったのか?
まあそれは本人が一番予想外だっただろうけどな。本当に余裕かましてたもん。
(僕のパンチが予想以上に速かった……って事か?)
何となくそんな分析をしてみる。LROではスピードと手数の多さを武器にしてるからね。でもここはリアル、人のスピードなんてたかが知れてる筈だけど……
「ちょ……調子にのんなよクソ餓鬼!!」
そう言ってチンピラBが血相を変えて僕に迫る。足をアピールするだけあって、ハイキックを楽々こなせる位に柔軟さはあるようだ。まあ当たりはしないけど。
(だけどこいつ……根本的に間違ってるよな)
チンピラBの足技を交わしつつ僕はそう思う。だってまず、何故に手をポケットに入れるのかわからん。それってこっちにメリットあるじゃん。
拳での攻撃を視野に入れる必要がなくなるって事は、それだけ相手は攻撃の選択肢が減るって事で、こっちは相手の行動を読みやすくなるって事だろ。
てか最悪、足だけに注意してればこの通り当たらないし、別にトリッキーな訳でもない。一応足だけの攻撃を考えて、連携技っぽく見せるために、回転入れて、技の隙間を無くしてるっぽいけど……いかんせんバリエーションが少なすぎる。
ハイキックした後には中途半端なローキックが関の山だし、どうやらローからハイに繋げれることは出来ないみたいだ。
言ってやろうか? こいつ端からみたら、変なダンス踊ってる様にしか見えないだろ。チンピラBを雑魚と認識した僕は、落ち着いて対処する事に。
全然当たらない事への苛立ちが増してるチンピラBは、ますます大き蹴りしかしなくなってるから動きが読みやすい。
「こんの! ちょこまかとおおお!!」
(ここだな)
勢い込んで再び踏み込んで足を上げようとするチンピラB。僕はその踏み込んだ足を上から踏みつけて勢いを殺して、どてっ腹に肘を食らわせた。
「グプっ……俺の足を交い潜るなんて……」
そんな声が死に際に聞こえたから、僕はこう言ってやる。余裕をたっぷり見せつけてね。
「アンタの足技は凄くもなんともないよ。そんな極めてもない物に執着して選択肢を削るから雑魚なんだよ」
「く……そ……野郎がぁ……」
そう言って地面にうずくまるチンピラB。ちっちゃなプライドが傷ついちゃったかな? Aを殴った時に想像以上に拳が痛かったから、肘打ちにしたけどそれがかなり有効だったみたいだな。
こっちは痛くないし。まあそれは今回狙った場所が腹だからだろうけど。でもやっぱりこっちも痛いのは勘弁だから、痛くない様に倒す術を考えながら次はやるかな。そう思いながら、僕は最後のチンピラCへと視線を向ける。
「スオウ甘いわ! こいつら殺して!」
「お前な……そんな事したら僕はブタ箱行きだぞ。それに殺すなんて出来るわけない」
さっきまで目に涙溜めてた癖に、状況がよくなるとみるや、目を輝かせて死刑判決だしてやがるよこの女。まだ解放されてないのに、そんな事言って大丈夫なのかよとか思うね。
「おい……お前! あんまり調子に乗るなよ。この女がどうなっても良いのか? ああ!?」
ほら、案の定メカブを盾に使ってきたよ。首を絞められて苦しそうに「うっ……」となるメカブ。だけどさっきから足下はゲシゲシとチンピラCの足を蹴りまくりだ。
さてどうするか。別に一気に詰め寄っても良いんだけど、こいつにはぶっ飛ばす前に聞いておきたい事がある。
「なあ、アンタ等はなんでそいつを狙った? メカブが電波で痛くてウザいのは良く分かるけど、だからって誘拐はやりすぎだ。犯罪だよそれは。
お前等は随分頭悪そうだけど、冗談でしたじゃすまねーぞ」
「ちょっ……アンタそれはどういう事よ。助ける気あるの? 悪口じゃない」
なんか目の前から文句が流れてくるけど、そこは気にせずにいきたい所。だって何でこんな事をするのかは知っておきたいからね。
「良いからメカブは黙ってろ。ちゃんと助けるからさ」
「うぅ……」
そう僕が言うと、案外素直に大人しくなったメカブ。なんか悔しそうな表情してるのは、よくわかんないけど、これで話が進むだろう。
「で、何でそいつを浚おうとした?」
「くはっ、そんなのは簡単だ。お前が邪魔そうだったから。レアアイテムを手にするのは俺達『ドグレインファミリー』なんだよ!!」
ドグレイン……その名前は聞き覚えがあるぞ。確かハゲ共が名乗った犯罪者集団だった様な気がする。て事はこいつらはあのハゲの差し金?
「あのハゲ、こういう事はしない奴だと思ってたけど、やっぱその程度の奴だったって事か」
少しはさああ言う奴らの中にもまともな奴が居るんだ――って思ってたのに、裏切られた気分だよ。まあ元々、ヤクザとかやってる相手に何かを期待する方が間違い。
それは分かってた筈だけど、女の子を浚おうなんて……それは流石にアウトだろ。ヤクザだってブタ箱行きだぞ。
なんだかいつの間にか僕達の周りには小さな人だかりが出来てる。みんなテンションが上がってるのは、きっと天敵みたいなチンピラ共がボカスカやられて行くのが嬉しいんだろうね。
声援が周りから掛かるもん。目立たない路地での対峙。僅かに集った人垣の中心で僕はチンピラCを見据える。
「いっとくが、あの人が命じたのはお前達の監視だけだ。あの人は温いからな。ただの監視って……目障りな奴らは潰しとくのが確実なのに、ホントつまんねぇ人だよアレは」
アレって……ちょっとヒドいぞこいつ。どうやらファミリー内でもあのハゲを慕ってるバカと、慕ってないバカが居るようだ。
てか、監視ね……まさか監視されてたとは驚きだ。それじゃこっちがハゲどもを監視してた時も逆に僕達もその状況下にあったって事か?
なんてこっただよ。
「僕達を監視って、まあ確かにそれはつまんない役目だよな。それだけの評価をされてた事が驚きだけど」
「ホント、最初はふざけんなって感じだったぜ。さっさとぶっ潰して野郎かと思った。けどテメェ等は何かを掴んだ様じゃねぇか。泳がせて置くのも良いかもと思ったぜ」
チンピラCがちょっと余裕を取り戻しつつあるな。メカブを人質に取ってる事で、安心感が生まれてるのかも。タバコか何かのヤニにやられた汚い歯を見せて唇を舐めたりする仕草がキモい。
至近距離でそんなものが見えるメカブはめっちゃ嫌そう。さっきからこっちに『さっさと助けなさいよ』的な視線が飛んできてるよ。だけどまだ聞きたいことがあるから、もうしばらく我慢して貰う事に。
「で、泳がせてた癖にここに来て手段を変えたのは何でだよ? こっちが先にアイテムを手にするかもとか考えたのか?」
「テメェ等の進み方は異常なんだよ。アキバ中に散らばった中で正しいNPCを見つける……それにこっちが苦戦してる間にホイホイ進むからだ。
これ以上泳がせて置いても危険なだけ。それならいっそ、女から情報だけ頂いてテメェはフルボッコの方向だったんだよ!」
チンピラCは勢い込んでそう言った。そんなに僕をフルボッコにしたいのか……そこまで嫌われる覚えは(僕の視線は倒れたチンピラABへ)――あるかも知れないな。
けどそれって逆恨みじゃね? メカブを強引に浚おうとしてたのはこいつら何だし、ここでのされる覚悟位してて当然だろ。
ほんとチンピラって自分達の思い通り行かない事を誰かのせいにしないと気が済まないんだな。バカじゃねーのって思う。自分達が間違ってる事にも気付かないなんて、救いようが無いな。
まあホントはこいつらだって分かってると思う。だけどそれを認めたらチンピラでも居られないんだろう。グレて群れて強くなった気で居られる……そんな幻に浸る哀れな奴ら。
「なあ、おまえ等はまだここまで来てないって事だよな? 何がんなに大変なんだ?」
僕はバカにしたようにそう言ってやる。だって次の相手を示してくれてるじゃん。
「何がだと? 流行りアイテムを渡す相手で次に話しかける相手が違う。その時の情報は無いに等しいだろうが! 何体のNPCがここには居ると思ってんだお前! 俺たちの様な下っ端はな、このクソ暑い中かけずり回る羽目になってんだよ」
もううんざり。そんな感じが確かにチンピラCからは感じれた。なるほどね、だからこそそんな下っ端仲間の苦労を思ってのこの行動か。
僕たちがあっさりと前へと進んでるから、何か重大な情報があるかも――いや、ある筈だとこいつ等は考えてこんなバカな事を。
非常識しか行動原理が無いのかこいつらは。まあその判断もあながち間違っちゃいないけどね。重大な情報があると言うか……色々と反則的な奴がこっちに付いてるってだけだ。
そう言えば最初はシクラの後を付いていく形で、次のNPCを探したんだったな。このチンピラが言うには、最初が肝心って事らしい。
案外役にたってんじゃん。
「いいから情報よこせ。さもないとこの女がもっと苦しがる事になるぞ」
そう言ってメカブの首に回してる腕を更に閉め出すチンピラC。なんて外道。女の子にんな事するとは、男として最低だな。
僕なんて理不尽に殴られたり光線受けたりしても、手は出さなかったぞ。
「んぐっ……ス……オウ……」
苦しがるメカブ。その姿を見るとここまでだな――そう思った。十分な情報は手に入ったし、こいつらの身勝手な事情なんて実際クソ食らえだ。
「わーったよ。情報だろ? ほら、目を凝らしてよく見ろ」
そう言って僕はスマホを奴の方に向ける。その中にはシクラが居る……かも知れないね。だから目を凝らして見ろよ。
「おい、もっと良く見せろ。こっち来い。そこに秘密があるんだよな?」
「勿論」
僕は屈託の無い笑顔でそう返す。すると少しの間の後、チンピラCは訝しむ様にこう言った。
「……やっぱくんなテメェは。スマホだけこっちに投げろ。お前は動くなよ!」
何故そうなる? 僕の満面の笑みはいつだって日鞠に「もっとそうやって笑えば良いのに」って言われる程に好感色なのに。失礼な奴だな。
「おら、さっさと投げろ!」
「んっく……」
更に強く首を絞めて、メカブの足がつま先立ちにまでさせられた。周りからは僕を急かす様な声と、チンピラに文句を言う声とが聞こえる。てか文句よりも僕を責める声が多いのが気に食わない。
こっちは色々と考えてるんだ。外野は黙ってろ。
「どうするのよ?」
そんな声が見えない画面から聞こえる。別にあんまり深刻そうでもないけど、それは別に僕も同じだ。どうするってそんなの決まりきってるからね。
「ブン殴る。あとついでにメカブも助ける。だからちょっと我慢してろ」
「我慢?」
シクラの疑問の声。だけどそれには答えずに、更にその向こう側の奴にこう言った。
「んじゃ、ちゃんと受け止めろよ」
腕を軽く降ってスマホを投げる動作を見せる。そのまま軽く投げるかと思わせておいて――僕はワザと空高く、スマホを投げた。
「あーーーーしまったぁーーーー(棒)」
「おまっ、どこに投げて――っつ、眩しっ」
太陽に重なるように消えたスマホを追うために目を細めたチンピラC。この瞬間、奴の視線はあの強烈な日光にやれて真っ白になったはずだ。
視線も僕やメカブから離れてる。まんまと釣られやがって、まさに狙い通り。僕はこの瞬間に地面を力強く蹴った。
「ス……オウ!」
「っ!? テメェ!!」
あのバカ。メカブが僕の名前を呼んだせいで奴の視線がこっちに戻って来たじゃないか。だけど既に止まれない。このままやるしかない。
先手は撃ったし、十分だ!!
「返して貰うぞ。そいつは僕の仲間だからな!」
だけど不意をつかれた癖に、自分を守る事だけにかけては執念深いのがチンピラ。奴はメカブをあからさまに全面に押し出して盾に使って来る。
けれどただの壁の盾なんて交わせばいいだけ。僕は体を傾かせて、横っ腹に拳をたたき込む。
「ぐっはぁ!?」
ゴリッとした骨の感覚。乱れる息がこの近さならわかる。だけどこれだけじゃダメだ。まだメカブは解放されてないし、まだまだ続けざまにいかなきゃ!
まずはメカブを解放させる。だから今度は息が苦しくて堪らない所に、肘を強引に割り込ませる。メカブとチンピラCの間に割って入る形で。喉を狙って肘を苦しげなその場所へぶつけた。
「がっ!! ぜぁ……ぜぁ……ヒアアアア!!」
風切り音の様な音が口から漏れるチンピラC。たまらず腕がダランと力無く落ちた。その瞬間僕は、背中からメカブを押して取り合えず僕たちから離す。
パカパカと気の抜ける様な音が響いてメカブが解放された。これで――とちょっと気が抜けた瞬間に、頭に響く鈍い音。それと痛み。顔面が陥没したような感覚が襲う。
「いっ――――――――つぅぅ!!」
「ちょ……うしに乗るなよガキ!!」
頭突きされた。そう気づくのに一瞬掛かった。気の緩みもあるけど、こいつの執念にびっくりだよ。絶対に息苦しい筈なのに一発入れないと気が済まないとか、なかなかやるじゃないか。
「調子に乗ってるのはお前等だろ? 悪ぶれば何でも出来るとか、そんな勘違いははた迷惑なんだよ!!」
僕は鼻から出る血を強引に拭って、もう一発決めようとしてるチンピラの額に、額をぶつける。再び脳を揺さぶる衝撃が訪れるけど、口に鉄の味が広がる位に歯を食い絞めて弾き返す。
そして星が舞ってるチンピラCの顔面を掴んで、足を払うと同時に地面へと叩きつけた。肺から一気に空気が抜けたのか、ビクンビクンと痙攣するチンピラ君。だけどなんとかまだ意識はあるみたいだ。
「ああ、そうそう最後にもう一つ聞きたい事があったんだ。なあ、お前等って地道にやり方見つけたわけ? 僕たちはNPCを繋いで行くやり方はネットに上げてない筈だけど」
僕は顔面を押さえつけながらチンピラに話を振る。だけどしばらく奴は何もいわない。てか、言えない感じだった。でも少し呼吸が出来る用になると、教えてくれたよ。
「ネットに……上がってたんだよ。NPC同士の繋がりが鍵だってなんとか……な」
「ネットね。それはサイトか? 掲示板か?」
「SNSだ。イベントの情報をバンバン上げてる奴がいてな」
それって……まさか……僕の脳裏には自分達も知ってるスレが思い浮かぶ。独自に法則を見つけたって事だろうか? 僕達は沢山挙げられるレスのなかで、その法則性に独自に気付いた訳だけど、それをサイトに上げてはない。でも僕たちだけが気づくってのもありえないか。まあ一度確認しといた方がいいかも知れないな。
聞きたい事も全部聞けたし、そろそろ楽にしてやろう。
「ふ~ん、じゃあまっ、ここらで退場してろ」
「ぐっはぁ!!」
僕はチンピラCの腹を両の膝でおもいっきり潰した。一回ジャンプしてドスってな感じで。汚い声と共に、チンピラCもこれで沈黙した。
「ふう、成敗完了だな」
「もうちょっと早く助けなさいよ。なんだか首の所痒いし……てかアンタスマホはどうするのよ」
スマホね、スマホ。確か囮に使って投げたんだったな。そこら辺に落ちてると思うけど……壊れてないよね? もしも壊れてたら今までの苦労が水の泡。案外メカブの事を自分でも意識してないレベルで助けたかったんだなって気付いた。
後先考えにずにスマホを手放すなんて……僕がそう思ってキョロキョロしてると、ザワザワとしてる人混みの中から、不意に手が上がった。
「お探し物はこれかな?」
そんな声と共に示された手の中には、今日の空と良く似た碧の色をした胴体。そしてちょっと不釣り合いな変な生き物のシール。
それは同じ日にスマホを買った幼馴染に「お揃いだね」とか言って付けられたシールだ。見間違う筈のない物。それが碧色の胴体の中で、日差しを受けて浮いていた。
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