命改変プログラム

ファーストなサイコロ

不特定多数の使いよう



「おまった~」
「おせぇよ!」


 ようやく店から出てきた癖に、随分軽いノリのメカブ。その手にはこの店の紙袋を抱えてる……なんか二個も。まあそれでも掛かり過ぎな感じは否めない。
 なにやってたんだこいつ? 実は袋は三つあって、一袋をたいらげて出てきたとか?


「何よ。てかちょっと遅くなったら位でそんな風にいうこと無いじゃない」
「この炎天下の下で待たされる気分を一度知っても、お前は同じ事が言えるのか?」


 ふてくされたメカブに、僕はそう伝える。マジで辛いんだぞ。立っとくだけで汗がコボレてくるんだからな。


「なら文句は太陽にでもいいなさいよ」
「また無茶苦茶な事を言い放つなお前は……」


 太陽に何言っても聞いてくれるわけないじゃん。てか、僕たち人間は……というか、世界は太陽のおかげで生きてられるんだから、感謝してもし足りない位だろ。
 一年の内のこの時期だけやたら暑くされたって、文句なんて言えないっつうの。


「たく、もういいから行くぞ」
「いくってどこによ? 私は何がわかったかも聞いてないわよ」


 そう言えば何も言ってなかったっけ? 食うことに夢中ぽかったあの時は、頭使ってなさそうだったんだもんメカブの奴。


「じゃあ歩きながら教えてやる。取りあえずあの路地へ戻るぞ」


 そう言って僕達はあの宝箱の浮いてる場所へ。






「ちょっ……何これ?」


 そんな驚きの声がメカブから漏れる。まあ無理も無い。だって最初来たときと違って、今この場所には人がメッチャ居る。


「どっかのバカがネット上でこの宝箱の存在をバラしたんだよ。なんか『この宝箱の謎解きに協力してください』とか何とかいってさ。
 それから一気にレスが増えてたから……まあこうなるよな」


 けど、これだけの内の何人が真面目にこの宝箱を取ろうとしてるのか……実際一目見たいだけの奴も多そうだ。中には肩車したりして、どうにか触れてみようと試みてる人たちも居るけど、そこに書き込んだ奴が、ただ触れるだけじゃ意味ないっても書いてたけどな。
 自分で確かめてみないと気が済まない人もまあ居るだろうな。


「うわ、ホントだ。誰よこのバカ。競争率が高くなるだけって気づかないの? どこのどいつかわからないけど、余計な事をしてくれるわね」


 ネットで検索でもかけたのか、その書き込みを確認しながらメカブが言う。やっぱり二個もスマホを持ってると便利そうだよな、こういう時。
 一個じゃリアルタイムで確認出来ないもん。


「てか、無限の蔵はこの書き込みを見つけたから外に出たの? あのメールは何だったのよ?」
「メール?」


 ああ、シクラがデフォッてる時に届いたあれね。


「あれはその、お願いした友達からだ。それにこの事が書いてあったんだよ。僕のメールを受け取ってネットを見てたら、丁度見つけたとかだろ」
「なるほどね。それで焦る様にしてここまで来たと」
「まっ、そう言う事だ」


 でもここまで賑わってるとは思ってなかった。やっぱ誰でも、レアアイテムが欲しいんだね。当然と言えば当然だけどさ。
 まあチャレンジするのを止める事は出来ない。これでにわかに夢を見る奴らまで参戦か。競争率が随分跳ね上がるな。


「てか、ホント誰があげたのかしら……この書き込みって私達が知ってる事、殆ど書いてあるわよ。あのハゲ達なんじゃない?」
「それは無いだろ。向こうからしたら、元から僕達とじゃ勝負にならないとか思ってたんだぞ。わざわざライバルを増やす理由なんて無い。
 まあ、もしかしたらハゲの連中の誰かが裏切ったとか? それなら考えられるけどな」


 あんまりあり得ないと思うけど……そのくらい考えないとこの書き込みをした奴の情報はちょっと説明がつかない。こっちは苦労したんだぞ。そこまでの情報を集めるのに。
 それなのに、ここに集まってる連中は苦労せずに僕達と同じ地点からのスタートなんて……理不尽だろ。マジでこの情報を流した奴を恨みたい。


「まあ確かにあのハゲ達が流すメリットは無いわよね。でもこれはある意味私達にとってはいいことかもよ」
「良いこと? ネットで公開されてるから情報は入るけど、それは僕達だけにじゃないぞ」


 きっと今までの比じゃない位、情報は集まるだろうけど、変な考察や論争まであって余計なんだよね。まあそんなに攻略情報が欲しかったら、そっち系のサイトに行けって事だろうけど、今この瞬間に行われてるイベントだし、確かにこういうやり方しか無かったのかも。
 どんどん増えていく書き込みを見ながら、メカブも何か指を動かし始める。そして同時にこう言った。


「そうだけど、バレちゃったら仕方ないわよ。それに最後に勝のは情報を活かした者だけ。何だって使いよう何だから、もっと盛り上げるわ」


 盛り上げる? 何する気だアイツ? 僕は後ろからメカブのスマホをのぞき込む。どうやらこいつ、その掲示板に書き込みやってるみたいだな。盛り上げるってのは、煽るって事なんだろう。ようはこの人達を良いように使おうって事らしい。


「女って恐ろしいな……」
「これくらいいいじゃない。みんな楽しんでやってるんだし。あのハゲ共とは違うわよ。それに元がネット上の誰かの為に始まった事でしょ。ネットってのは使いようなのよ無限の蔵。
 この手のひらに無限の情報が集まってるんだからね。でもそれはただの情報。どう使うかは私達次第。そんなのわかっててみんな投稿してるんだから、誰も文句は言わないわ」


 そう言う物なのかな? ハゲ共と違うのは納得だけど、みんなが応援してるのは僕達じゃなくて、その掲示板を作った人だろ。
 僕達はその横からかっさらおうとしてるんだよ。けど、それも僕達だけじゃないってのもわかるけどね。情報公開するってのは確かに、たった一人の為とは言わないよな。
 そもそも、ここに情報を書き込んでる人達だって、その見返りかどうかはわからないけど、他の人の情報に期待してるんだろうし。
 誰もが誰も、お互い様って訳かも。


「それにそもそも、あのままやってて勝てた? あのハゲ共を出し抜けた? 向こうが舎弟を駆使して来るのなら、こっちはネットの不特定多数で勝負よ」


 そう呟くメカブの目はなんだか怖いぞ。それに文字を打つスピードが異常だ。


『みんな~私からの情報を聴いて。なんとなんと、このイベントがヤクザの食い物になろうとしてるんだよ。(シクシク) 私達の夢と希望を叶えるLROをそんな奴らに蹂躙してていいわけ? いいえ! それは断じて否よ!
 私達はヤクザなんかにLROの貴重な財産を奪われる訳には行かない! そうじゃない!?』


 そんな書き込みが綴られてネット上に投稿される。するとすぐさま反応が。


『なんだって! そう言えば今日はやけにアキバに怖い人達が多いと……』


 確かにハゲもチンピラも今日は多いけど、別の意味ではあんた等も十分怖いけどね。僕が呆れてる間にもブリっ子したメカブの書き込みに面白い様に反応を示す掲示板の住人たち。


『確かにそんな奴らにLROを犯されたくない!! 俺達のLROだぞ。出てけ出てけ!』
『それが事実だとするなら、放ってはおけませんな』
『うにゃー合戦だにゃ! アキバもLROも我らで守り通すにゃ!』


 なんかいろんな意味で盛り上がって来たな。やっぱり明確に敵を示すと、団結力が違ってくるよ。ガチでは立ち向かえない所もきっと大きいんだろうな。明らかにああいう怖い人たちに虐げられて来てそうだもんな。
 ネット上なら、その辺を気にしないでも文句を言える。リアルで出会したら、ヘコヘコするか目が合わない様にするとかしかないけど、実は裏でテメェ等の妨害をしてるんだって優越感を味わえる。


「まあ私に掛かればこんなもんね」
『エデン様が奴らに喧嘩を売られてると!?』
『にゃにゃにゃ……そんなの許せないにゃ!!』
『まさか俺たちが知らない時からずっと戦い続けて……くっ』
『『『エデン様ああああああああああああ!!』』』


 なんか知らない間に掲示板を乗っ取ってないかこいつ? ちなみにエデンってのは投稿のさいに使ったハンドルネームね。メーカーオブエデンだからエデンなんだろう。よくよく考えたら、確かにそっちの方がメジャーな気がするな。
 でも僕はもうメカブが呼び慣れちゃったよ。


「たく、僕達までここに参加するわけかこれじゃ?」
「情報を貰うんならこっちも提供しなきゃ、それこそ卑怯でしょ? けど私達の情報はもう全部開示されちゃったし、これくらいしかないじゃない。
 それに良い方に転がったでしょ? これでハゲ共は姑息な嫌がらせを受ける事になるでしょう」


 良い顔して笑ってるよメカブの奴。てか、ネット上のブリッ子ぶりがハンパないなこいつ。そしてそれに踊らされて、盛り上がりを加熱させてるんだから、ますますメカブは笑いが止まらなくなるという……ね。


「あの痛い子もなかなかやるわね☆」


 変な所を認めてライバル意識を目覚めさせようとしてるシクラ。感心してる所悪いけど、ちょっと気になる事がある。


「おいシクラ。お前ならこの掲示板を立てた奴を調べられるんじゃないのか?」
「そんな事してどうするの? 意味ないことでしょ☆」


 うぬ……なんか一蹴された。確かに意味はないかもしれないけど……ちょっと気になったんだ。だって僕達が得た情報のほぼ全部が漏れてる。
 まあ大部分はハゲからシクラが盗んだ奴だけどさ。


「メカブも言ってたけど、裏切りでもあったんでしょ。それで誰かが半殺し位にあったって、それはスオウが気にする事じゃないよ☆」
「まあそれはそうなんだけど……」


 そこまでは流石に気にしない。でも気になってるのは本当にそのヤクザの下っ端連中の謀反なのかなって事。ここで反乱する意味なくない?
 でもこれだけの情報を持ってるのは、僕達以外ならきっとハゲサイドしか居ないはず。もしかしたら、他の団体での参加者……って可能性もあるにはあるけど、知ってることがここまで同じとなるとどうだろうって感じだ。


「スオウが教えた事をアギト達が公開したんじゃない?」
「んな訳あるか。秋徒達はそんな事しないっての」


 ありえない事を勝手に言うなよな。秋徒も愛さんも、そんな人じゃ無いってのは僕が良く知ってる。それに公開するにしても無断なんて絶対にしないよ。
 そんな事を疑う位なら、チンピラどもに確定させるわ。どうせ薄い杯の絆だろ。僕からしたら、ヤクザとチンピラの繋がりなんてその程度にしか思えないもん。映画とかドラマのあれは過剰演出だろ?
 絶対にハゲとあの金髪とモヒカンの方が珍しいと思うんだよね。いや、それか懐柔しやすいのかも知れないな。チンピラは。
 まあどっちにしても僕達側の誰かがそんな事するわけ――


「ホントホント、私が言うのも何だけど、愛――は馴染み無いからアイリで行くけど、あの子はそんな事する子じゃないよね☆」


 僕のスマホを支える手が震えてしまう……目の前に居る、画面の中のこの存在……


(こいつならやりそう!!)


 スッゲーそう思ったよ。だってシクラだよ。こいつは笑顔の裏に何を隠してたって不思議じゃない。てか、こいつなら片手間で出来るだろ。だけどここで「お前じゃないよな?」とか聴いたって簡単にはぐらかせられてしまうのは目に見えてる。さてどうするか……


「おいシクラ。お前でもこういう事って出来るよな? それも簡単に。だって超高性能だもんな」
 これは上手い! と自分で自分を誉めたくなった。さあどうするシクラ? お前ならそんな事朝飯前の筈(多分で勝手な印象だ)。でもここで謙虚に出るなんてシクラじゃないから、僕には疑う余地が残る訳だ。


「ふふ、当然ね☆ 私ってば超高性能だもん。こんなの息を吹きかけるだけで出来ちゃうわ」
 アッケラカンとそう言われてしまった。余りにも自信満々だから逆にやってなさそうじゃないか。もっとこう「まっ、出来るには出来るけど~」位なら怪しかったんだけどな。 僕がスマホを微妙を顔をして見つめてると、隣のメカブが二台ある内の一大のスマホをこちらに向ける。


「ほら、無限の蔵は何スマホとにらめっこしてるわけ? 続々と情報あがってるわよ。さっさと分析しなさい」
「お前もやれよ……」


 さっきの店では食事中って事で許してやったけど、ここからはそんな甘えは無しだぞ。栄養補給もしたんだし、十分頭は使えるだろ。するとメカブの奴は両腕に抱えてる紙袋を見せつける様にして――


「早く食べないと、この暑さにやられちゃうじゃない」


 ――とか、言いやがる。


「デザートなんだから、片手間でくっとけば良いじゃん。頭の半分をこっちに使ってろ」
「ええ~~無限の蔵は女の子のスイーツに対する感情を全く理解してないわね。嘆かわしい……」


 そう言って呆れる様に深いため息をつくメカブ。え? なんで僕が呆れられてんの? 訳が分からん。何がスイーツに対する感情だ。そんなもん知りたくも無い。


「スイーツに対するお前の思いとかどうでも良いから、取りあえずちゃんと頭使え。全部こっちに投げるなよな」
「だからそう言うのは私苦手って言ったじゃない。それにね、スイーツに失礼だとか思わないわけ?」


 失礼って何が……だよ。そりゃあどっかの高級なスイーツならちゃんと味わいたいのも理解出来るけどさ、お前が今抱えてるのは、安物だろ。そもそも片手間で食べれる様にしてある物だろ。ファーストフードって。
 僕の頭が痛く成ってきた所で、スマホから声が。


「電波な彼女にそんな普通に攻めてたって無理よ。扱いが成ってないぞスオウ☆ メカブはそんな攻め方を期待しちゃいない。ご主人様失格だよ」
「誰がご主人だ。どんなプレイを僕達はやってんだよ」


 小声でシクラに反論する僕。だって攻められたくてやってる訳じゃないだろあのキャラは。マジでそれなら勘弁だ。面倒臭い。


「取りあえずお前が上手く出来るんならバトンタッチで」
「スオウはバトンを口にくわえて走るタイプだったのかな? そのバトンは口で受け取ったほうがいい?」
 意味不明な事を言って、画面のなかで唇を尖らせるシクラ。僕は呆れがちに言葉を紡ぐ。


「そんな奇抜な事して走る奴に僕が見えるか? おかしなボケは良いからさっさとやれよ」
「ハ~~イ☆」


 てな訳で選手交代。僕はまた口パクで恥ずかしい演技をしなくちゃいけないみたいだ。では早速。


「ちょっと無限の蔵、さっきからどこの誰とヒソヒソやってるわけ?」
「ふっ、何お前の無能さを嘆いてただけだ。天寿が持ち腐れだとな」
「なっ!?」


 目元がピクッとひきつるメカブ。分かりやすい奴だ。


「ちょっとそれは頂けないわね無限の蔵。世界の監視者として、この世の過去も未来も見通すこの天寿が私には宝の持ち腐れだとでも言うの?」
「まさにその通りだな。世界の監視者様は随分と小さい様じゃないか。スイーツ食べながら考えごとも出来ないなんて……そんなの一種類の声で売ってる声優と同じだよ」


 え~とそれはどういう事なんだ? 得意気に言ってる感じは出してるけど、良くわからんぞ。


「むむ……て……天寿には使用制限があるし、この目に宿ってる限り、大量のエントロピーを吸収して消化してるから、私には常に頭に栄養が足りない状態が……それを簡単に補ってくれるのは、だからスイーツな訳で、これだけは絶対に避けられない事なのよ」
「設定の付け足しは禁止でお願いしま~~す」
「設定じゃないもん!」


 メカブが怒った。てか、シクラの奴、今までノリノリで乗ってた癖に、ここに来て突き放して来たな。これで大丈夫なのか?
 僕はどうせおだててやらせるんだろ? とか思ってたんだけど、シクラの戦略は違うみたいだな。


「うぬぬ……まさか無限の蔵程度の人間にここまでバカにされるなんて……」


 メカブは気付いてないかも知れないけど、悔しさのあまり、胸に抱いた紙袋が潰れんとしてるぞ。その放漫な胸と腕の力で紙袋の中のスイーツは繊維の分裂を始めてる筈だ。


「こうなったらアンタのインフィニットアートがその程度って教えてあげるわ。天寿こそがこの世の全てを見透かせる。その生意気な口は今日までよ!
 これからはきっと様付けで私の事呼びたく成るわよ」
「はは、さあてそれはどうかなメカブ。お前の天寿は確かに凄いんだろう。それは僕のインフィニットアートが震えてるからわかるさ。
 けど、全てを見通してる筈なのに、お前は大切な事を見逃してる」
「大切なこと?」


 僕が喋ってる様なシクラの言葉に、眉をピクリと反応させるメカブ。そんな目で睨まれてもな……僕が言ってるようでその言葉は僕のじゃないから、返せないよ。
 まあここでタジタジ成るわけには行かないから、シクラの言葉に合わせたまま、口元を上げて得意気に成ってる顔をしてるけどね。


「そう大切な事。でもこれは僕が言うことじゃない。世界の監視者であるお前はそれを自分で見いださなければいけないのだよ」
「なっ!? まさかそれが私の第二の冒険の目的……幾星霜の年月を経て人の心の一番大事な部分を、私はどこかへ置き忘れてたとでも言うの?」


 僕はお前の一番大切な部分は常識だと思うけどな。第二の冒険の前に道徳でも学んでおいた方がいいだろ。


「ふ……良かったな新たな生きる意味が出来て。お前はこれから新たなメカブに成るんだよ。いや戻るのか? まあどっちにしろ、それはきっと大切な目的だ」
「そうね……私は長い長い孤独の時間と、先を見通してのこの世界の終焉を知ってるが為、いつしか全てがどうでも良く成ってたのかも知れないわ。
 それじゃあいけないのにね。天寿が見せる未来は一つじゃない事も、私だけは良く知ってると言うのに……」


 う~んやっぱりこいつらの電波な会話は恥ずかしい。僕はまだ良いけど、メカブなんてこれが地なんだから痛すぎる。
 これだけの人が居るのに、よくもまあ気にせずに電波を垂れ流し続けられる物だ。所々から視線がこっちに向いてるぞ。


「後悔はまだ早い。さあ冒険の手始めにこのイベントをクリアしようぜ」
「そうね。まさかこんなイベントが私の運命の特異点に成ろうとは……そこまでは天寿でも見通せなかったわ」


 そう言ってニコリと微笑むメカブ。素直な笑顔が黒縁眼鏡の奥で咲いた。まあようやくだよ。ようやくここからイベントへ戻れる――


「食べる?」


 ――とか思ってたら、潰れた紙袋からそんな事を言って、アップルパイを取り出すメカブ。


「えっと……」


 何そのちょっと照れた様な顔は……もしかしてこの行為は友達と認めてくれた……とか、仲間意識を共有できたお礼とかかな?
 なんかここで受け取らないと、メカブに悪い様な気がしてくる。


「じゃあありがたく」


 僕は中身が少し飛び出してるアップルパイを受け取ってシャクっと口に含む。リンゴの甘みと酸味、そして周りを包むパイの生地とが心地よく口の中へと広がった。
 そして目の前ではやる気を見せてるメカブが、同じアップルパイを口に放り込みながらスマホを眺めてる。


「う~し、やるぞーー!」


 どうやら、本当に言い方がダメだったみたいだな。けど、こいつ、ある意味結構単純なのかも……とか思う。


「やっぱりバカは扱いやすいわね」
「お前はやっぱり悪女だよな」


 サラッと酷いことを言ったシクラに僕は思った事を口にする。マジでこいつ怖いよ。あれだけノリノリでやってた癖に、内心では「この電波バカ女――プププ」とか思ってたんだろ。恐ろしい。


「おっおおっおお! ちょっと無限の。少し見ない間に凄い事に成ってるわよ」


 そう言ってスマホをこちらに向けるメカブ。見てみると、スレがもの凄い勢いで伸びてるな。どうやらみなさんがんばってくれてるみたいだ。
 やっぱり数の強みは凄いな。不特定多数がこれだけ集まれるのもネットのおかげだね。


「確かにこれは……良い感じじゃん。これならハゲ共を出し抜けそうだ」
「さあて、そろそろ反撃開始と行こうじゃない!!」
 

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