命改変プログラム

ファーストなサイコロ

不幸が理由じゃない



 何か空気が違う様な……そんな感じを少しだけ受けてた。周りには人が一杯なのに、その場所だけ、忘れされた様に空気が止まってるからさ……ちょっとだけ異様に感じてもおかしくはないだろ。
 まあだけど……


「別に何があるわけでも無いな」


 入り口付近から携帯を奥に翳して見てみても、宝箱があるわけでもない。なんか「エラー」の文字が中央に出てるくらいだ。


「うぬぅぅぅ、何よこれええ!!」


 って声が携帯から聞こえるけど無視しておこう。こっちからじゃどうにも出来ないしね。シクラの奴はブリームスの壁をガツガツ蹴ってる。アイツから見たら、僕達は壁をすり抜けた様なものなのかな?


「奥に行くわよ。途中に何か出るかもしれないわ」
「ああ」


 僕はメカブの言葉に頷いて、歩を進める。確かに入り口はただの入り口なだけかもしれないからな。中央付近に行ったら、何かが起こる……かもしれない。
 ザッザッザ――――ペタペタペタ。
 ザッザッザ――――ペタペタペタ。
 ザッザッザ――――ペタペタペタ。
 生唾を飲み込んでみたりして、期待に胸を膨らませてた僕らだったけど……気づいたら通りの先まで来てるじゃないか。


「これはハズレって事か?」
「そうかもね」


 その場でガックリと肩を落とす僕。くっそーてな感じだよ。


「こういう事だってある。寧ろこういう事の方が多いわよ。肩を落としてないで次に行くわよ次」


 メカブの野郎はサバサバしてるな。突き抜けた電波女な癖して、サバサバしてる。てか、なんか慰められたのかな僕?
 まあ確かにいちいち肩を落としてる訳にも行かない訳だけど……流石に歩いたり走ったりをこの炎天下の下繰り返すのはきついんだよ。
 想像以上に体力を減らす。しかもただでさえ、僕の体調は万全じゃないし……メカブはそこら辺の事知らないからな。


「何やってるの早くしなさいよ」
「はいは――ん?」


 何個かあったこれと同じ様な道。そこへ行こうとすると、僕達が通ってきた道のスタート地点の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ここっすよゲンさん! 今度こそ何かあるはずです!」
「逆にここにも何もなかったら、制作側をぶっ飛ばしましょうぜ!」


 頭の悪そうな会話……これはもしかして……僕はそう思い後ろを振り返る。するとそこにはいかにもな三人が居た。簡単に言うと、ハゲと金髪とモヒカンだ。
 いつの時代にタイムスリップした不良だよといいたいメンツだな。まあただの不良ならまだマシなんだけど……あのボス格のハゲの人は完全に裏の社会の人っぽいからやっかいなんだよな。
 後の金髪とモヒカンはどうみてもただのチンピラみたいだけど……使いっパシリなんだろうな。てか、なんでこう僕の居るところにアイツ等は現れる?


「どうしたの?」


 そういってメカブの奴も同じ方向を見る。


「うっわ……あれはいつの時代の遺物よ。まだ生き残りが居たなんてビックリ」
「生き残りっていうか……まだ普通にあの手の連中はいるだろ。お前はその目で何を見てきたんだよ」


 天寿眼なる大層な物を持ってたんじゃないのか? 都合の良いところばかり見てきたんだろどうせ。


「私の目は不要な物は写さないのよ。あれはだって不要でしょう。無用でしょ? 存在価値皆無でしょ? だから天寿は間引いたのよ」


 僕も大概だけど、こいつもかなりあの手の連中をきらってんな。


「まあだけど、世界に光があれば陰は必然的に存在出来るんだから、この世界構造はおかしいと思わない?」


 世界構造ね……いつだって話のスケールがメカブは違うな。一体どこに目を向けてるの? てかこいつは何がしたいのやら。


「世界構造ね……僕にはそんなデカい事はわかんないけど、光だって闇がないと対比出来ないのもわかるんだよね。結局の所、最初から最後まで恵まれてた奴って、それを幸せとは思えないまま逝くんじゃないかなって。不幸を知るから、今の幸せを実感できたりするじゃん。
 まあだからって、奴らを必要悪とはいう気にはならないけどな」


 結局やってることは弱者の淘汰……そして普通の人達の足を引っ張る様な事ばかり。そして悪を気取ってて、社会に背中を向けておいて、ちゃかり権力者には媚びへつらうんだから意地汚いよな。


「人が人である限りって奴ね……進化も息詰まってるわね」
「何の事?」


 たく、メカブの奴の話は飛びすぎてて付いていけない。いつのまに進化とか行っちゃった訳? そんな会話をしながら見てたからか、向こうもどうやらこちらの存在に気づいたみたいだ。


「「テメェは!!」」


 金髪とモヒカンが同時にそう叫んだ。そしてこちらに来ようとするものだから、逃げようとしたら、ハゲの人がそれを制した。


「やめろテメェ等。今はそれどころじゃねえだろ」
「「へっへい!」」


 ハゲの一声で、思いとどまるチンピラ二人。それにしてもあのハゲの人は、まさに本物……と言った感じだな。あのチンピラ二人とは醸し出してる雰囲気が違うよ。
 てか、今初めて声を出した様な気が……


「なあそこのアンちゃん。これで会うのは三度目か? ここらで一つはっきりさせておこうじゃねえか」


 そう言いながら進み出るハゲ。そしてグラサンを少し傾けて、その奥の小さくつぶらな瞳でこっちを睨む様に見据える……


「なんかあんまり怖くないわね……」
「おいおい、それは言っちゃダメだろ。きっとアレでも頑張って凄んでるんだよ。顔のパーツはどうしようもないんだから、きっとあの人も苦労してんだよ」


 僕達は思わずコソコソとそう話し合う。だって……あの目はないよ。つぶらすぎ。絶対的にサングラスからあの目を覗かせてはダメだろう。
 なんで見せたんだよ。


「おい聞いてるのか!? 俺の目がそんなにおかしいか?」
「「はい」」


 僕とメカブは声を揃えてそう言った。するとハゲの人はズドーンと肩を落とした。なんだ、やっぱり気にしてたんだな。


「テメェ等なんて事を言ってくれてんだゴラアア!! ゲンさんはヤッベエエエんだぞ!! つぶらな瞳を舐めてると海に沈まされるぞ!! ああ!!!」


 たく、いつの時代の決めゼリフだよって事を金髪の方が言った。海に沈めるとか、今やドラマの中のヤクザだって言わないよ。


「てか、そんなに気にしてるのなら整形でもすればいいじゃない。そんな高そうな時計や貴金属を身につけてるのなら、整形くらい簡単に出来るじゃない」
「バッ……バッカヤロオオオオ!! 親に貰った顔に傷つける事を良しとしない、誇り高き日本男児なんだよゲンさんは!!」


 おいおい、その理由はどうなんだろうかって感じだぞ。てかメカブもスパッと言うな。良い度胸をしてる。なんか会話をしてるとちょっとイメージが違ってくるなこいつら。
 底辺は底辺でも、バカの底辺だったか。


「ならサングラスは極力取らないように心がけろよ」
「テメェに言われる事じゃねぇよ!!」
「ゲンさん。やっぱりこいつは締めましょう! こんだけバカにされて黙ってる訳には行かないじゃないですか!」


 たく、やっぱりそう言う流れに行くんだなこいつらは。上手く行かないとすぐに手を出そうとするんだからな。全く……そこら辺が底辺に落ちる要素だと何でわからないかな?


「やめねぇかおまえ等。カタギには早々手を出すもんじゃねえ!」
「で……でもゲンさんがバカにされたのに黙ってなんか!!」
「そうっすよ! あいつらゲンさんの瞳がつぶらだったからって拍子抜けしたような顔しやがって! 確かにゲンさんの瞳はつぶらで愛らしく顔や声と全然あってねえけど……それがゲンさんなんだよ!!」


 おいおい、どっちがバカにしてんの? 君たちも絶対に最初、バカにしてたよね? 流石にこれは怒られるんじゃ……と思ってみてたけど、ゲンさん言われるハゲの人は、サングラスを掛け直してこう言った。


「ふ……誰がなんと言おうといいんだよ。俺はなこの顔に感謝してんだぜ。全然合ってなくてもなんでもな。なんせこれは俺の存在証明だ。
 これでおまえ等は俺の事を知っててくれてる。案外悪いことでもないじゃあねーか。もっとこうデッカく構えてこうぜ」
「「ゲ……ゲンさああああああん!!」」


 同時に叫んだ二人はやっぱりバカっぽかった。まあ確かにゲンさんはなかなか人間的に出来た人っぽいけど……こうなぜか締まらないんだよね。
 何でだろう……ああ、あのつぶらな瞳が僕の頭に焼き付いたせいだな。どうりであの人の仕草や言葉だけで、笑いがこみ上げてくるはずだ。
 バカ二人は感激してるけどさ、こっちは腹を押さえるのに大変なんだけど。


「何だろう……あれを見てると私の天寿眼が悲鳴を上げてる気がするわ。腐りそう」
「そこまで言うか……」


 メカブは厳しいな。一応危ない系の人達なんだからそこら辺は自重しとこうぜ。


「テメェ等、ゲンさんに感謝してろよ! 普通ならボッコボコにしてやる所なんだからな。へへ、どうっすかこれ? ちゃんと出来てますかね」
「おう、上出来だ」


 なんか嬉しそうにあちらはやってるけど、こっちは何が? だよ。てか別に何もあのバカは変わってないだろ。手を出さない俺ってスゲーとか思ってんのかな? 余裕を持って見逃せる俺ってカッケーとか感じてんの?
 ハゲの言った大きくあろうぜってそう言う事じゃないと思うけど……まあハゲも無駄だとわかってるから、アレで誉めてんだろ。
 でもそれじゃあ、勘違いが永遠に増してくだけ……みたいな気がするけどね。上の奴なら、そこら辺もっとちゃんと教育しろよといいたいけど、きっとそう言う関係でもないんだろうな。


 結局はただの上下関係。このチンピラは使いッパシリ以上でも以下でもないんだろう。案外皮肉な物だよね。ああいうバカって、そう言う上下関係とか誰かの言いなりになるのがイヤで、グレてイキガってる筈なのに、社会の裏の方がよっぽど縦社会になってる現実。
 リアルはどこまで行っても理不尽が横行してる。まあ、あんな奴らには理不尽こそがお似合いだと思うけど。そして結局はそれだって自分が選んだ道。
 そこしかなかったなんて言い訳は通用しない。


「所で俺はお前に聞かなければいけない事があるんだが……いいか?」


 聞いておきたいこと? それが最初に言ってたはっきりさせたい事でもあるのかな? てかようやくだな。周りのチンピラが邪魔すぎる。


「別にどうぞ」


 たく一体、なんだってんだよ。この善良な一般市民である僕にはこいつらと関わりになるキッカケなんて――


「あの空き缶を投げたのはテメェか?」


 ――あったあああ!! そう言えば全ての始まりはそこからだったね。これはどうしたものか……素直に答えるべきなんだろうか?
 なんかチンピラどもがスッゲェ顔を作って睨んでるんだけど……


「無限の蔵、そんな事してたんだ。やるわね」


 で、なんでメカブの方には感嘆されるわけ? まだ確認もしてないじゃないか。こいつには既に、僕はそういうことをしてもおかしくない奴だと思われてるのか?


「どうなんだい兄ちゃん? 別に違うなら違うでいいさ。だけどもしもアレが兄ちゃんなら……ちゃんとやらないといけない事があるんじゃないか?」


 ハゲが煙草に火をつけながら、そんな事を言ってる。別に言ってる事事態に間違いなんてないけど……この手の連中にそんな諭される言い方されるとムカつくよな。


「まあ兄ちゃんが言わないなら、やましいことがあると受け取るが良いのかい? 一緒に居た二人にも聞く必要が出てくるかもな?」


 む……このハゲ、それは脅しか? てかやっぱり秋徒と愛さんの事は知られてたか。向こうにいかれるのは不味いよな。
 きっとラブラブなデートをしてるだろうし、そこに水は差したくない。こいつらじゃ最悪の水になりそうだしな。ここはしょうがないから、こっちで問題は片づけといてやろう。
 僕は舐められないように真っ直ぐに奴らを見据えて、いささか尊大に声を張ってこう言った。


「はっ、別にやましいことなんか微塵もないな。アレは確かに僕だけど、事故だったんだからな」
「事故だと!? ふざけんなよテメェ! そんな言い訳が通用するとでも思ってんのか? あぁあああ?」


 僕の言葉を聞いてモヒカンがやけに下を巻いて威嚇してくる。殴る理由が出来たみたいに嬉しそうだな。するとハゲの人が、大きく煙草を吸って、そして数秒をかけて吐いた。
 灰色した煙が、空気に溶けるように消えていく。


「そうかい、やっぱり兄ちゃんか。まあ事故ならしょうがないな。ああしょうがない……だが、自分に非があると分かってるんなら、一応やるべき事があるんじゃねぇんか? 人としてよ?
 学校ではそんな事も教えてくれないのか?」


 お前等にだけは言われたくねえ、と心から叫ぶけど流石にこれを直接声に出すわけには行かない。全面戦争になりかねんしな。
 まあ確かに間違っちゃいないよ。事故でも僕は謝るべきなんだろう。でもこいつらがそれで済ますか? って事が問題だろ。
 こいつらは人の弱みを握ったらそこから絞れるだけ絞ろうとする人種じゃん。弱みを見せたら負けみたいなさ……それにどうせ、謝った次は誠意を見せろとか言うんじゃね? 自分たちがその意味を知りもしないくせに。
 さてさて、どうしたものか……向こうが腐った正論を使うのなら、こっちは屁理屈で対抗でもするかな。


「人としてね。そんな事を両腕から入れ墨が覗く様な奴に言われても。それにあの時謝れなかったのにはそっちにも非があると僕は思うね」
「んっだとテメェ!! 調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「ほら、それだよ。それ」


 僕はいきり立つ金髪とモヒカンをそれぞれ指さす。


「そもそも謝れば許されるってのは、常識側で過ごしてる人用だ。あんたらにそれが適用されるのか? それは論外だろ。勝手なイメージだけど、暴力と金で全てを解決したがるのがあんたらだ」
「まあ、ある意味間違ってはいないだろうよ。で、金もない自分たちは逃げるしかなったと? そんな俺達には、謝る必要もそもそもないと? それはこっちからしたら、一番腹立たしい言葉だな」


 おお、なんかハゲまでもいきり立って来たぞ。これは不味い展開かもしれん。どうにかして丁度良い感じの所でこの問題は落としたいんだけど……そう思ってると隣のメカブが電波的な会話で場をややこしくしやがる。


「低脳で低辺な貴方たちの安いプライドなんて、誰も食らいはしないから安心なさい。それに無限の蔵が大人しくしてる内に去った方がいいわ。
 なんてたって、彼はその身に二つのインフィニットアートを宿す者。底辺の更に最下層のゴキブリみたいな貴方たちじゃやり合うだけ無駄よ」


 おいおい、何とんでもないこと言ってんのこの人。痛いだけじゃなく、危ないよ。そんな事を言われたら、その手の人達じゃなくても切れるって! 落とし所かなくなっちゃうよ。


「あんの野郎! もう我慢できねぇ! やっちゃいましょうゲンさん。あれだけ言われて、黙っとける訳ないっすよ!」
「まあそうだな……これだけ言われて黙っとくとの男の名折れかもしれねぇ。なあそこの奇抜な格好のお嬢さん。そう言う君は、言えるだけ立派な人間な訳かい」


 ハゲが煙草を携帯灰皿に押しつけながら、メカブにそう言った。てか、携帯灰皿を持ち歩くヤクザって……いや、そこに文句はないけどね。


「少なくともアンタ達よりは誰にも迷惑掛けてない分、立派だわ」


 即答でそう答えたメカブ。こっちも良くそんな事が言えるなって感じだよ。僕はスッゲェ迷惑を被ってんだけど。自分の言動を一から見直して欲しいものだ。
 そんな事を思ってるとハゲは携帯灰皿をポケットに戻しながらこう言った。


「迷惑か……俺達がどうしてこんな風に落ちたか分かるかお前達に?」
「そんな理由に興味なんてないわね。そこまで落ちる奴らなんて大体理由は同じで根性も同じ。バカが傷を舐めあって、責任を誰かのせいにしてたからでしょ」


 そこまで言うか。こいつは怖い物がないのかな? 気の短いヤクザ連中になら、既に頭か腹に風穴が空いててもおかしくない暴言言っちゃってるよ。


「くははは、お嬢さんは手厳しいな。まあ確かにそれがないとは言わない。けど、社会ってのはお前さん達じゃ考えられない程、理不尽であるときがある。
 俺はここまで落ちる奴らは全員愛が足りないと思ってるんだ」
「は、愛?」


 その顔で何言ってんの? みたいな事までメカブの奴は含んだ顔してたぞ。まあ僕も「え?」ってなったけどね。


「親の愛情を知らず、周りの愛にも恵まれなかった奴らが落ちてくる。そしてそこまで追いつめるのはいつだって、お前達の様な奴らだよ。こっちからしたらな。
 さっきそっちの奴が、俺達の様な奴らには謝る必要がない無いと言った。それはどんな理不尽だって、俺達は晒されても文句を言うなって事か?
 理不尽を繰り返してきたのは俺達じゃない。いつだって社会とそれに乗ることかししてこなかった普通を求めるお前達だ。
 この二人だって、誰かが手を差し伸べれば、もっと別の道を歩けたかも知れない」
「ゲンさん……そんな! 俺達は貴方に出会えて本当によかったと思ってるんすよ!」
「ああその通りっす! だからそんな事、言わないでください!」


 またも汗くさい奴らの妙な関係が目の前で繰り広げられてる。こっちはこっち、あっちはあっちで、それぞれ言い分はあるみたいだね。


「確かにアンタ達だから、謝らなくても良いってのは訂正するよ。事故だとしても、悪かったことは悪かった。ご免なさい」
「ちょ! 無限の蔵!」


 僕が頭を下げた事に納得行ってない様なメカブ。だけど落とし所はもうここしかない。これ以上グチャグチャになったら、流石に手が出てくるよ。


「ほう、なかなか物わかりが良いんだな。もっとこう生意気だと思ったけどな。その若さでなかなか賢い」


 はっ……別に誉められたくもない。それに別にそっちの言い分の全部を認めた訳でもない。だから僕は、顔を上げてこう言った。


「そりゃあどうも。だけど、やっぱり貴方たちは知っておくべきです。自分達がそうされても仕方ない事をやってるって。だって貴方たちはもうとっくに、虐げられる側じゃない。
 それに……どんな理屈を述べたって、過去に何があったからって、それで他人を傷つけて良い理由には成らない」
「はっ! 知ったような事を! テメェに俺達の何が分かるってんだよ!?」


 モヒカン野郎が、唾を吐きながらそういってきた。まあ確かにそう言いたくなるよな。でも……僕にはそれが言える。言う権利がある。


「分かるさ。いっとくけど、自分達が世界で一番可哀想なんて妄想は捨てろよ。周りに目を向ければ、愛情が足りなくたって、不幸だからって、それを理由にして全てを諦める様な奴ばっかじゃない」


 まあ、色々と言ったけど、結局僕は、こいつらが大嫌い。それはきっと変わんない。僕の言ったことは綺麗事何だろうけど……でも僕はその綺麗事のほうがよっぽど好きだよ。
 自分はこんな底辺にいきたくなんかないしね。それにムカつくんだよ。不幸だからって他人を不幸にしたいほど落ちぶれて、情けなくないのかよ。


「誰もが全てに耐えられる程強くはねぇんだよ。そんなつまはじきを世間は助けちゃくれない」
「ならアンタが正しく導けば良かったんだ。それをしないのなら、アンタは結局ドブ溜の住人だよ」


 思わずコボレた言葉に、張り詰めてた空気が解けるどころか勢いよく弾けた。

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