命改変プログラム

ファーストなサイコロ

重なり合う街



 時間はあれから二時間程度経ち、太陽がより高く昇り殺人的な日差しが力を増してる。大雑多な町並みを通り抜ける大量の車と、そして大量の人人人が周囲の暑さをより高めてると思う。
 流れる汗はとめどないし、どうにかして街全体を涼しく出来る発明を期待したい今日この頃だよ。そう言えば、僕達はあれから移動して、アキバに来てます。
 世界一の電気街全体を使ってのイベントなのです。


「こんな中、野外でのイベントって……殺したいのか主催者の奴ら……」


 どうせならもっとふさわしい季節があるじゃん。何も今、この季節にやるべき事じゃないと思う。外に気持ちよく出れる秋か春を希望したいね。


「大丈夫ですかスオウ君? 体辛いんじゃ無いんです? いきなり診察された程だし、無理は良くないですよ」


 そう言ってくれるのは清楚なお嬢様風美人の愛さんだ。愛さんもこの暑さの中、歩き回ってるから、流石にきつそうだけど、頑張ってるよ。てか、白い日傘が良く似合う。流石お嬢様。
 すると今度はその隣から、暑苦しい声が飛んでくる。


「たく、イベントは常に進行中だって言うのに情けない奴だな。暑い暑い思ってるから暑いんだよ。暑さを凌ぐ目的を持て。
 このイベントで手には入るアイテムが、なんかの役に立つかも知れないだろ」
「はっ、んな事言ったって暑い物は暑いんだよ。――ん、ありがとう」


 秋徒に文句を言ってると愛さんがさっき自販機で買ったスポーツドリンクを分けてくれた。やっぱり運動をしてるときには、これが染みるね。こう浸透してるって感じ?
 僕は自身のHPである体力をちょっぴり回復させた。だけどそこで秋徒の奴が据わった目をして、暑苦しい体を寄せてきた。


「うわっちょ――離れろよお前」
「おい、今何した? 何したか言ってみろよスオウ?」


 はあ? なんでキレてんの秋徒の奴。今の行動のどこに問題が……僕は口頭で言ってやるよ。


「別にちょっと冷たい物を分けて貰っただけだろ」
「そ・れ・が、大問題なんだよこっちには!」


 うお、耳元でデカい声を出すなよな。折角回復した体力が無くなるじゃないか。


「どうしたの秋君? あっ、スオウ君にはそれ良かったら全部差し上げます。やっぱりなんだか、飲みきれなくて」
「そっか、じゃあありがたく」


 三百五十ミリリットルの缶も飲み干せないなんて、年上だけど可愛い人だ。まあ愛さんには缶ジュースよりも、お洒落なカフェの方が万倍似合いそうだもんな。
 それに比べて、その彼氏がガサツな奴なんだから……なんか秋徒と愛さんの二人は、色々と交わらない部分も多そうだな。
 僕が二人のこれからに不安を抱きながら、再び缶に口を付ける。すると秋徒が「あああ!」とか叫んだ。それに超ガン見されてる……


「なんだよ。そんなに欲しかったのか?」
「違う……いや、違わないけど……お前はその缶の価値に気づいてないのかよ」


 缶の価値って……どんだけ悔しそうなんだよこいつ。歯ぎしりまでしちゃって……なんか悪かったかなとか、ちょっと思っちゃうな。そしてどうやらそう思ったのは僕だけじゃないみたいだな。
 愛さんもそんな秋徒の様子に心を痛めたみたいだった。


「あの、秋君にも買ってあげますよ」
「新品じゃ意味ないんだ!」
「ええ!?」


 驚きを隠さずに表す愛さん。なんか可愛いね。てか、新品じゃ意味ないって……


「何、お前は僕の飲みかけじゃないと満足出来ないってのか……」


 それは戦々恐々とした事実だよ。これからの友人関係を考え直すべき時期なのかもな。まさか秋徒にそんな特殊な趣味があったなんて……


「なるほど、だからお前は地域清掃の時、空き缶ばっかり拾ってたのか……」
「何の事だよ! お前の飲みかけにも、他人の飲みかけにも興味なんてない! 俺が欲しかったのは、愛の飲みかけたその缶だけだ!」


 力一杯に、大通りでそんな宣言を言い放つ秋徒。周りの目を気にしないその豪気はまさに男だったよ。まあそこまで言われちゃ仕方ない。


「ほらよ。たく、そこまで言われちゃな。てかさっさと言えよ」


 僕は爽やかな笑顔で缶を差し出す。


「それは最早お前の飲みかけだろうが!」


 おお、完全に拒否られた。ちょっと流石にショックだよ。僕はその心意気を称えようと思っただけなのに。てか、学校じゃ回し飲み位普通にやってるのに……これが受け取れないってどういう了見だ。
 そんなに彼女の飲みかけが良かったのか? この変態が!


「お前だって日鞠が他の男子に、飲みかけのジュースとかを渡すのはイヤだろう。それと同じだ。別に異常じゃないんだよ。
 寧ろ大切に思ってるから……てか、普通彼氏の目の前ので彼女から貰った物に手を付けるか!?」
「まあ、日鞠の事は置いといて……少し位は悪かったって思ってやろうか?」
「なんで上から目線なんだよ!」


 ああもう、秋徒は敏感に反応しすぎだよ。そんなんじゃ愛さんが浸かった後のお風呂にお父さんが入ってもダメそうじゃないか。


「間接キス程度で騒ぐなよ。別に口と口が触れ合った訳じゃないぞ」
「お前……そんな程度で済むと思うなよ」


 なんだか秋徒から変な圧力が……何これ? 嫉妬のエネルギーでも溢れ出てんのか? 僕達が言い合いしてる外では、愛さんが頬を染めてちょっと恥ずかし気にしてる。
 彼女こそ、そんな事気にしてなかったみたいだな。まあ男女の間では間接キスだって一大イベント? なのは何となくわかるけど……秋徒がスルーしておけば、何の問題も無かったことだよ。
 別に誰も気にしてなかったんだからね。


「想像しろ!」
「想像?」


 何を言い出すんだこいつ?


「その缶にはな、愛さんの唇が付いたんだよ」
「だろうな。だから間接キスなんだし」
「あのピンク色してツヤツヤした、綺麗な唇がだぞ。唾液だってきっとそこには……もしかしたら一度舌を浸かってペロッとかやってたかも知れない……」


 凄い想像力だね秋徒。そう言うことはあんまり考えない方が良いんじゃないかな? 普通に飲んだだけど思いこんで置けよ。自分の為に。
 てかそんな風に言われると……こっちもちょっと想像しちゃう。僕は視線を愛さんの方へ向けた。そこには秋徒を赤い顔で見つめる愛さんが……なんだか細い指で唇なぞってるけど、それがエロく見えるな。
 しかも改めて唇に注視すると、確かに秋徒が言った様に、良い唇してらっしゃる。まるで花の蕾の様だよ。唇……唾液……舌か……僕は手に持つ缶を見つめた。言われれば確かに間接キスも見過ごせないかもね。


 でもそれを同姓に置き換えると吐き気がしてくるな。普段から秋徒と、唾液を混ぜてたと思うとこれからは回し飲みなんて出来ない。
 可愛い女の子だから許せる事じゃん。


「ペロッとやったの?」
「やってません!」


 一応確認してみた僕。ちょっと残念な気持ちになったよ。


「ようやくその缶の価値がわかったようだな」
「ああ、確かに間接キスは最高だってわかったよ。だけどこれは既に僕のだもんね」


 そう言って一気に僕は中身を喉へと流し込む。きっとこの中身にだって多少は愛さんの唾液が含まれてる筈だ。はっは悔しがれ秋徒。


「ほら、後一滴くらいなら残ってるかもよ。それとも飲み口をペロペロしたいか?」
「死ね! クソ野郎!」


 そう言って秋徒は僕が差し出した空き缶を腕で弾いた。するとすっぽ抜けた缶が宙に舞う。缶を追って空を仰ぐと、強力な日差しが目を刺した。


「うおっ眩しい」


 目を細めて缶を追おうとしたけど、だめだこりゃ。そう思った瞬間、どこかからか「イテ!」と言う声が聞こえた。
 まさかあの缶が当たったのだろうか? 運の悪い奴も居たものだ。


「くぉらああ! 誰じゃこんなもん投げ捨てた奴ぁあ!」


 なんかすっげえ怒ってらっしゃる。しかもこの季節には羨ましい位に頭が涼しそうな人だな。てか、なんか随分ジャラジャラとした貴金属を身につけた奴だな。
 しかも露わにしてる二の腕付近には入れ墨っぽいのも見える。ヤクザかあれ? 迷惑の代名詞、社会の屑、悪の象徴みたいな奴ら。
 両サイドには下っ端みたいなヤンキー風の奴もいるな。どうやら缶が当たったのは、あの三人の中では一番偉い奴みたいだ。


「どどうしましょう。迷惑かけてしまったみたいです。謝らないと」


 そう言って奴らの方へ行こうとする愛さん。まあそれは人としては立派な事だけどさ、ああ言う連中には謝るような態度を見せた方が負けなんだ。
 調子に乗るからな。だからここは愛さんにストップをかけるが正解。


「ちょっと待って。それはやめた方がいいですよ。愛さんは知らないかも知れないですけど、世界には暴力を躊躇わずに……てかそれを仕事にしてるような連中が居るんですよ。
 そんな奴らに常識なんて必要ないし、誠意なんて見せた所で受け取らない。連中は疑うことと裏切る事と、自分の事と人の不幸が大好きだからです。
 やられたら倍返しが常識の連中だし、愛さんが出ていくと何をされるかわかったものじゃないです」
「でも……悪いのは私たちですよ」


 う~ん真剣に愛さんは悪いと思ってらっしゃる様だ。あんな連中、僕は年中理不尽で良いから死に尽くせって思ってるけどね。
 あんな奴らだけに掛かる伝染病とか流行れば良いのに。僕の周りの人の人生には一ミリとも交差して欲しくない連中だよ。だから愛さんもこんなのに関わるべきじゃない。寧ろ愛さんだからこそとも言える。


「考え方を変えましょうよ。あれは天罰なんですよ」
「天罰ですか?」
「ええ、あいつらはきっとこれまで沢山の人を傷つけて、騙して来たはずです。あんな腕からはみ出すような入れ墨を入れてる奴は、九割方はそんな連中ですよ。
 だから天罰が落ちたんだと思いましょう。良い気味でざまあみろと思って良いんです」
「そう言うものなの秋君?」


 最後には秋徒に同意を求める愛さん。秋徒だってあんなのに関わり会いたくないだろうから、直ぐに「勿論」と言ったよ。
 まあ幸い、向こうはこの人混みで、こっちには気付いてないみたいだし、今の内に静かに退散するのが得策だな。僕達はただの人混みと同化してその場を離れる事に。だけど、ここで無駄なドジっ子ぶりを愛さんが発揮した。


「ふぎゅっ!!」


 そんな声が聞こえたと思ったら愛さんは何故か道路に突っ伏してるじゃないか! 何故に!? だよ。ヒールのせいか? すぐさま秋徒が彼女の無事を確認する。


「大丈夫?」
「あっはい。いつもの事なので」


 いつもの事って……どれだけ良く転ぶの? まあ大事無かったのなら良いけど、ある意味見事なこけっぷりだっただよ。
 てか、不味いな。愛さんが転けた事でこっちも注目されてるよ。そして何故か、こういう時の悪い予感ってのは良く当たったりする。


「おめぇ等かあああああ!?」


 ほら来た。どんだけ語尾を延ばせば気が済むんだこいつ等? チンピラ風の下っ端がこちらに歩いてくるぞ。


(目を付けられたぞ。どうするスオウ?)
(どうって……そうだな。逃げるか? それともぶっ倒す?)


 秋徒と視線を交わして意志疎通をする僕ら。周りには人が一杯な割には、みなさん野次馬でしかないからね。危険が及ぶのなら、真っ先に逃げ出すんだろう。たく、誰かいたいけな子供を助けようと言う大人はいないのかよ。
 まあ、しょうがないともわかってるけどさ。あんな人種には生涯関わりたくないもんな。


(お前な。ぶっ倒すっていくら何でもそれは不味いだろ。勝っても負けても不味い)
(……確かにな)


 ああ言う奴らは、直ぐに仲間を呼んだりするからな。それに黙ってボコられるのも論外だ。でもここで逃げても、僕達はアキバから出れないしな。
 さあどっちにする……逃げるか、倒すか?


(倒せるのかよ? 逃げた方が絶対に良いって。俺達はまだ体力には自信有るだろ。あいつら絶対に内蔵が弱ってる。そんな顔してる)
(まあ確かに。不健康な髪の色に、どれだけ体に穴開けてるんだよって感じのバカだよな。負ける気もしないけど、逃げても確かに追いつかれる心配なんてないのかもな。この暑さだし、直ぐに諦めるか)


 あいつらだってこの暑さの中、走り回りたくなんかないだろう。


(そう言うことだ。ここはリアルなんだし、そもそも喧嘩なんかしたら、警察が飛んでくるぞ。それにお前にあんまり無茶はさせられないしな)
(わかったよ。確かに休んどけってあの医者からも言われてるしな。それにまだ警察のお世話には成りたくない)


 僕は手に持ってた携帯のカメラ側を奴らに向ける。


「ああ!? 何撮ろうしてんだテメェ!!」


 うるさい奴ら。腐った様な顔と声……不愉快極まりないな。これが同じ人間なんだから、悲しくなるよ。てか、全然ビビってない自分がいるな。
 普通ならガクガクと震えるもの何だろうけど……LROで命を賭けておっかない敵と戦ってる僕には、こいつらがどうしても雑魚にしか見えない。
 プレッシャーとか全然ないしな。見た目と、声のデカさで畏怖を先行させようとしてるのかも知れないけど……はっきり言って小物感の方が先行してるよ。


「あれ?」


 僕は画面の中に写る奴らを見てそんな声を出した。これって……


「どうしたスオウ?」
「……いや、何でもない。走れ二人とも!!」


 僕はそう言ってシャッターを押す。それと同時に、フラッシュがたかれて、チンピラ二人の目を潰す。そして一気にもうダッシュ。念の為、僕は秋徒達とは反対方向へ走る。
 連絡手段は有るし、問題ないだろ。


「「くっそ……あのガキ! 待ちやがれやああああ」」


 チンピラ二人は更に沸点を上げたようだ。逃げたことで犯人が僕らだと確信したか? それともただバカにされた様な行動にプッチンきたのかな?
 まあどちらにせよ、待てと言われて待つバカはいないっての。僕は人混みの中をノンストップで駆け抜ける。人と人の間を風の様に抜けれる。
 なんだか自分でもびっくりだけど、少し集中したら視野が広く成ったような……そんな感じだ。どういう人の流れか、どう走れば良いかそれが分かる。
 キレたチンピラ共のせいで後ろの方は何気に騒がしく成って、人の流れも複雑だけどこの程度なら余裕だ。追いつかれる気がしない。少し振り向いたら、既にチンピラ共は人混みに飲まれてた。
 こりゃ余裕だな。僕は背中を向けて見えない位の所までひとまず退散だ。




「はぁはぁはぁ……やっぱりこの暑さの中走るのは堪えるな」


 せっかく体力を回復させたのに、その分を使っちゃたよ。それにしても……思ってたけど今日はやけに人が多い気がする。
 まあ歩行者天国とかやってる街だし、元から人は一杯だろうけど、今日は特に……しかもこの暑さで外で携帯翳してる人一杯。
 つまりは誰も彼もが、このイベントの参加者ってことだろう。今、この街を携帯通して見ると、違う景色が写る。確か設定ではLRO事態ではもう滅んだとかされてる街の姿。
 昔は繁栄してたらしいその街の名前は『ブリームス』それをここに投射してる。スマホのアプリ機能を使ってね。情報を大量にやりとり出来るスマートフォンだから出来る事なんだろうね。


 僕も息を整えて、携帯を翳す。そこには立ち並ぶビルに重なる様に、違う建物が写るんだ。なんだかそれは異様な光景。
 最初は何度も、携帯から目線をズラして無いことを確認しちゃった位だよ。有る意味リアルをLROとして体験出来るのはなかなか良い試みだとは思う。
 でも画面を翳すって逆戻りした感も有るけどね。LROは色々と進みすぎてるからかもだけど……とにかく僕達は、今日はこの秋葉原――もとい『ブリームス』と言う幻の街を探索する権利を有してるのだ。
 あんなチンピラに構ってる暇なんてないよな。


「まあ、探索して宝を発見する程度なんだけど……早いもの勝ちらしいからな」


 さて、息も整えたし僕も宝探しを再会するか。チンピラも追ってこない様だしな。


「ああそうだ。秋徒達が無事か一応確認しておくか」


 向こうに行ってないとも限らないしな。まあもろに顔を晒した僕とは違って、秋徒達は奴らにあんまり見られてないから大丈夫だとは思うけどね。
 一端アプリを終了させて、僕は秋徒へ電話をかける。すると直ぐに秋徒はでた。


『おい無事か? なんで同じ方向に来ないんだよ。心配するだろ』
「念の為だよ。念のため。こっちに奴らの気を引かせたんだ。まあそっちも無事な様で何よりだよ。てか、三人で揃って行動してても限界有るし、ここから別行動で行こうぜ。
 秋徒は愛さんと探索してろよ。こっちはこっちで勝手にやるからさ」


 まあここまではしょうがなかったけどさ、僕だって気を使えるんだよ。


『はあ? お前何勝手な事を……だから別にそんな事今日は望んでなんか……』
「別にそう言う事じゃないっての。ただ単に確率の問題だ。折角イベントに参加してるのに、一個もアイテム持ち帰れないんじゃ意味ないだろ。
 だから別行動しようって訳」


 これも実際は口実だけど、こう言っておけば秋徒も文句は言うまい。
『あの、それなら私たちも別れた方が良いんではないでしょうか?』


 電話の向こうから違う声が……愛さんも僕達の会話を聞いてたらしいな。でもそれはちょっと不味いよね。何より意味ないし。


「それはダメですよ。愛さんはこの街は不慣れだろうし、なんだか危なっかしいし、秋徒にリードして貰ってください。じゃないと安心できません。
 まあ秋徒がどれだけエスコート出来るかは期待出来ないすけど、我慢してくださいね」
『そんな、我慢だなんて……』


 愛さんの声がすこしだけ上擦った様に聞こえた。想像したのかな? 


『おいスオウ、変な事言うなよな。それに本当に良いのか? 倒れたりしないだろうな? 本当は無理してるとかは無しだぞ』
「大丈夫だっての」


 それに有る意味、無理をさせたのはお前達だよ。こんな炎天下の下連れ出してくれちゃってさ。まあ、あのまま帰ってもやること無かったから良いんだけど。
 それにこんなイベントの存在を知ったら参加しないわけには行かないよな。そもそもLROがサーバーダウンしなきゃ、存在も知らずに終わってた所だろうし。
 この『ブリームス』に散らばってるアイテムは、古代の物でどれも貴重らしいしね。そんなのが歩き回るだけで手に入るなら、この位安いもんだ。
 それに……不安要素はまだ残ってるしね。


「それよりも一応は気をつけておけよ。まあ僕を狙ってるとは思うけど、見つけた側を襲いそうな雰囲気だったし、愛さんを一人にするなよ」
『それならお前だって一人は危ないだろ?』
「全然。それにあんな奴等の妨害でアイテムを諦めるとかイヤだしな。僕の場合、一人の方がやりやすい。お前は大切な彼女を守ってれば良いんだよ。
 じゃあ、何か有ったら連絡な。そゆことで」
『あっおいスオウ!』


 僕はピッと通話を切った。まあこれで二人きり……向こうは向こうで、宜しくやってくれれば良いよ。こっちはこっちで、役に立ちそうなアイテムを求める事にするさ。
 僕は再びアプリを立ち上げて携帯を前方に翳す。すると画面がなんか真っ暗な様な……でも直ぐに復活した。何だったんだ今の?
 まあ初めての試みだし、多少の不具合は目を瞑るさ。さてイベント終了は午後四時だから、後三時間はある。ここからが本番って事で気合いを入れて行くかな。
 リアルの街の上に上書きされたような電子の街を、僕は冒険するんだ。なかなかに楽しく成ってきた。

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