命改変プログラム
神様の落し物
「はい?」
耳を疑う宣言。てか、何行ったか良く分からなかったな。それはきっと周りのみんなも同じだろう。僕達の無反応が予想外だったのか、盆栽モブリのその人は、黒い怪しい服を颯爽と脱ぎ去って、もう一度こう言った。
「だ・か・ら、良く聞き賜え。私こそが、世界最大宗派シスカ教の現教皇『ノエイン・バーン・エクスタルド』なのだよ」
「「「………………」」」
やっぱり固まる僕ら。教皇ね教皇。その位、僕だって知ってるっての。たしかそう、あれだよあれ。教皇って言うとやっぱりえ~と……
「敵の親玉じゃねーか!!」
結論だな。僕はおもいっきり叫んじゃったよ。
「教皇……様? 本当に?」
人を疑う事を知らなさそうなシルクちゃんまで、首を傾げてるじゃないか。教皇ってマジなのか? 僕達はテッケンさんに視線を送る。
「え~と……一斉に見られても困るかもだよ。教皇が存在してるのは知られてたけど……今までミッションとかでもその姿が出たことは無かったからね」
「フフン。君達は今、貴重な体験をしているよ」
テッケンさんの言葉の後に、盆栽モブリがしたり顔でそんな事を言う。まあ確かに、貴重な体験ではあるのかも知れないな。でも最近は名前だけ知られてるってのが多かったし、残念だけど今更だ。
「貴方が本当に教皇様だとして……何であんな所で盆栽抱えて走ってたんですか?」
そこが教皇という立場上信じられないんだけど……買いに行かせれる部下なんて一杯居るだろうに。てか、黒いコートの下も別段教皇らしくない。せいぜい宝石が一杯詰まった十字架を首から下げてる程度。部屋の端の方に教皇の服と帽子みたいなのがあるけど、それを着てもこの人が教皇かどうか疑いそうだ。
「それはあれですよ。私は今盆栽にハマってましてね。それに盆栽の目利きも女性と同じ、自ら足を向けないと出会えない美しさがあるのですよ。
ああ、そうだ! 早くこの子を植え変えて上げないと!」
教皇様はそう言って、抱えてた松を植え変える為に奥へ。教皇の部屋と聞いては、下手に物色する事も出来ないから、僕達も一応後に付いて行くことに。
てか、よく考えたらこの部屋って和風なのに土足で良いんだろうか? まあ何も言われないし、良いんだろうけど……これが教皇様の部屋か。
なんだか和式で豪奢ってあんまりイメージ沸かないけど……これがそうなんだろうと思うよ。屏風とかあるし、部屋の中心部分が何故か一段高くなって畳みに成ってる。そこには金の囲炉裏が備え付けられてるし、後は端っこの方に品良く花が一杯に飾ってある。
花瓶じゃなく、生け花ね。後は水彩画っぽい縦軸とかかな。そう言えば盆栽が一つも無いけどハマってるんじゃ無いのか? って感じだ。
僕達は教皇様の後に続いて、隣の部屋へ。だけど襖を開けると、その部屋が前者の部屋と随分変わっててびっくりだ。
「うわぁ……」
思わずそう口に出しちゃったよ。だって何だよこの部屋。てか、何個盆栽を育てる気なんだこの人って位、鉢がひしめく様においてある。右側に大量の鉢、左側には土かなあれは? それも山積……なんか既に土臭い様な気さえするな。
何この人? 隠居してんのか? そう思わざる得ないんだけど……鉢に松を植えていく作業をしてる姿とか、どっかの老人だよ。
本当に教皇か疑わしく成ってくる(いや、それはもとからか)。なんて言うかイメージがさ……まあ教皇のイメージなんてローマ教皇位しかないんだけど……
「うん、よし! 完璧だ」
そう言って泥だけの手で顔を拭うもんだから、泥の線が顔に付いてしまってる教皇。おいおい威厳もクソもあったものじゃないな。
「取り合えず、ここで待っておいておくれ」
そう盆栽に話しかける教皇様。おいおい危ないよこの人。そしてようやくこちら側を向く。
「すまないね、お待たせしてしてしまって。お茶も出さずにお客様を放っておくなんて、とんだ失態だよ」
泥の付いた顔で軽く笑う教皇様。別にそんな事は……てか、教皇自らがお茶を入れる気か?
なんかハードルが高いぞ。僕は一応遠慮気味こう言う。
「えっと、別に気にしなく良いですよ。取り合えずクリエや、ミセス・アンダーソンは畳の方で横にしてますけど……勝手な事しちゃいましたか?」
「いやいや、良いんですよ別に。それに直ぐに布団も用意しましょう。畳で寝かせるよりも良いだろうし……私達もゆっくりと話し合う必要があるでしょう?」
話し合いか……確かにそれは望む所だ。この人が本当に教皇なら、聞きたいことが山ほどある。
僕達は元の部屋へ戻って囲炉裏を囲んだ。流石に畳へは土足で上がらなかったよ。靴をみんな脱いで、それぞれの態勢で囲炉裏の周りに腰掛ける。
教皇様はお茶だけじゃなく座布団も用意してくれた。そして最初にそこに寝かせてた二人は、寝室の方へ移動させた。勿論布団もやっぱり教皇様が出してくれたよ。
マジでなんか庶民的……というか、身の回りを世話してくれる人が一人くらい居ないのだろうか? って感じだ。
まあだけどそんな事に気を回しても、本人がそれで楽しそうにやってるなら問題なんてないんだよな。
だから本題へと入ろう。ついでに座った位置は、僕の対面に教皇、その両サイドは余裕を持って開けておいて、僕の左からシルクちゃんとセラ、そして右にはテッケンさんと鍛冶屋ノウイが囲炉裏を囲んでる。
まずはみんなでお茶を一啜り……なんだか改まると教皇って感じがプレッシャーにもなるな。するとまず、教皇様自ら声を出した。
「そうだね、まずはお礼と謝罪を。ミセス・アンダーソンを元老院から守ってくれてありがとう。それと、我らの数々の比例を詫びよう。
すまない……まだまだ迷惑掛けるだろうけど、ここでひとまず謝っておきます」
そう言って教皇様は頭を下げる。シスカ教の実質トップがこんなに簡単に頭を下げるとはな。なんだか僕的には複雑な気持ちだ。
この人は敵って訳じゃなさそうだ……だけど、それは元老院側と考えが違うってだけなんだよな。つまりは味方でもない。
「良いですよ……迷惑なんて思ってない。少なくとも僕は、勝手に首を突っ込んだんですし、それに約束してますから。クリエを願う場所へ連れていくって」
「願う場所ですか……」
そう言って更にお茶をもう一啜りする教皇様。
「そう言えば、貴方もクリエをずっと箱庭に閉じこめておこうとしてたんですっけ? アンダーソンに聞きましたよ。それは聖院の総意だったって。
元老院程じゃないにしても……貴方も結局は敵なんですか?」
「ちょっ! スオウ君いきなり何を!」
テッケンさんが跳ね上がるようにそう言った。まあテッケンさんだけじゃなかったみたいだけど、僕は目の前の教皇を見据えてこう言った。
「別に良いじゃないですか。どのみち指名手配犯なんだし、気遣って言いたい事も聞きたいことも聞けないんじゃ意味ないです。
それに聖院の総意を決めるお方の言葉を拝聴したいじゃないですか」
結構無礼な事を言ったかな。でもこれで捕まったり衛兵を呼ばれたりするとはあんまり思わなかった。だってそうしたら、この人もちょっとは不味いのかな~ってね。
いやまあ、どうにだって出来るのかもしれないけど……でもここしかない。ミセス・アンダーソンがああなった今、真実を知るにはここしかさ。
「総意……ですか。残念ながら私一人の考えが聖院を動かす訳ではありませんよ。私はまだ若く、未熟ですからね。お飾りみたいな物です。
実質、聖院を動かしてるのは元老院の十八人。私は民衆に向けての体の良い看板ですよ」
「だけど貴方は教皇だ。その言葉が一切合切通らない訳ない。貴方はどう思ってるんですか? クリエの事、どうしたいんですか?」
自分を卑下してる教皇に僕は言葉で攻める。何も出来ないなんて、そんな事言わせるか。信じてたんじゃないのかよ。ミセス・アンダーソンはそんなアンタの側に着いてた筈だろ。
「確かに何も出来ない……訳はないでしょう。私を慕ってくれる人達も聖院内には居ますね。ミセス・アンダーソンがその最たる人でした。
クリューエルの事は……そうですね。正直に言えば、外に出したくはありません。こちらはこちらで箱庭の代替品を用意してた訳ですし。ミセス・アンダーソンの犠牲を無駄にしないためにもそれで――」
「それは聞き入れられない相談だ」
僕は間髪入れずにそう言った。だけどこの人が本気を出して周りに命じれば、防ぐ事なんか出来ないのかも知れないな。けどそんな事はどうやらしないみたいだ。
「でしょうね。だけどやっぱり聖院としては、この世界の信徒に入らぬ不安は与えたくは無いのですけどね」
入らぬ不安か……もうそろそろ、本当に知っておかないといけない事だよな。クリエの事……クリエの秘密。本人も知らなかったけど、僕は知っておきたい。
もう無関係じゃ入られないし……ここまでやったんなら、その権利位あるだろう。だから僕は思いを込めて、口を動かした。
「貴方達聖院が隠したがってるクリエの秘密……それって一体何なんですか?」
僕の言葉に場が静まる様な感じがした。ゴクッと誰かが喉を鳴らす。みんなもその答えを知りたがってるって事だろう。僕は真っ直ぐに教皇を見据えるよ。
そんな僕の視線を真っ向から受け止めて、彼は臆さずに口を開く。
「君達には確かに知る権利があるでしょう。クリューエルは……あの子は、二人の神の力を宿した子なんですよ」
「神の力?」
え? あれ? どういう事だっけ? 僕だけじゃなくテッケンさんやシルクちゃん、周りのみんなもざわめいてるけど、まだ要領が掴めてない。
「神の力と言うか、二人の神の血というか……だからこそあの子は二人の神の特性を併せ持っているんでしょう」
なんだか教皇の話にビックリし過ぎて、ちょっと着いてけてないぞ。ええっとそれってつまりは――
「クリエは神様の子供って訳?」
「子供と言うよりは子孫と考えるべきでしょうね。創世歴前に生まれて今に至るわけには無いですから」
まあ確かに。そしたら有に何百歳か何千歳は越えてる事に成っちゃうしな。子孫か……でもやっぱり簡単に鵜呑み出来ないよな。
だって二人の神ってシスカとテトラだよな……そしたら絶対におかしい事がある。それはテトラはモブリじゃ無かったって事。
確かシスカだってモブリじゃないはず。それなのにクリエが子孫って、突然変異でも起きないと無理だよな。
「子孫と言っても彼女の親はどこにも確認されてませんよ。彼女を残して逝ってしまったのか、そもそも親なんていないのか……」
「親がいないって、それこそあり得ないだろ。クリエをなんだと思ってるんだアンタ達は?」
僕がそう言うと、教皇様はクリエが寝てる寝室の方へ目をやった。釣られて僕もそちら側に視線を動かすけど、次の瞬間には再びお茶を啜って喉を潤してやがる。
「特殊な存在と言う者はこの世に幾つか存在します。クリューエルもその一つなのかも知れない。だけど神の力を持っている事は事実ですから、聖院は神の子孫と考えてる訳ですよ。まあその事実がこちらにとっても不味いんですが」
教皇は最後部分で口を濁らした。特殊な存在……それって一体何なんだろう? まるで生き物じゃないみたいな……神と言う力の塊がクリエみたいな……なんかそんな感じがしてちょっと不愉快だな。
でも、なにかが頭に引っかかる。
「ちょっと待てよ。どうしてクリエにそんな力があるってわかる? 確かにあいつは世界中のいろんな物と話せたりするみたいだけど、僕が知ってる力なんてそんな物だ。
あいつが神の力なんて大層な物を振るった所なんか見たこと無い」
そうなんだ。なんで神の力があるなんて断言出来る? アイツはちょっと変わってるけど、きっと同年代の子供とそんなに変わらないと思う。
僕が見た中ではだけどさ。その程度だからこそ、話を聞いても実感が沸かない。みんなだってそうだと思う。
「そうですね。クリエちゃんと神様の力ってなんだか実感がわかないです。どれだけ自分が危険に成っても、そんな力は出ませんでしたし……」
「確かに普段は普通の子でしょう。だけど過去にあるんですよ。クリューエルがその力を発揮させた事が。それに印もありますしね」
シルクちゃんの言葉に続けて教皇様がそう紡ぐ。印? それに力を発揮させたって……一体どういう事なんだろう。
「一体何が、クリエが何したって言うんですか?」
聖院はつまりはその出来事と、印とやらのせいでクリエを危険視してるって事だろう。教皇様は今度は、僕達の中で唯一のモブリであるテッケンさんに視線を向けてこう言った。
「貴方は同族だから知っていますかね? ノーヴィス領の南端……そこに『除夜の森』と呼ばれる森があることを?」
そんな質問を受けてテッケンさんは首を縦に振る。
「勿論です。除夜の森は神聖な禊ぎに使われる古代の森と伺ってます。あそこは創世の時代からの産物とか……」
「ええ、まさしくその通りです。あそこの木々はどれもこれも樹齢が桁違いの物ばかり。創世の時代から生きてきた力強さをその身に宿しています。
聖院があの子に出会ったのはその森なんですよ」
二人はわかるみたいだけど、僕達はイメージ出来ないな。いや、他のみんなは一回位そこに行ったことあるんだろうけど、僕は皆無だから困る。するとそう思ってたのが伝わったのか、それともこういうイベントなのか知らないけど、教皇様は囲炉裏をどこからともなく表した杖で小突いた。
すると金の囲炉裏に光の筋が走って、天井から吊されてる棒を駆け上がって天井に染み渡る。すると何やら天井でガチャガチャ成ってるような……上を見てると一回消えた光が再び、柱を通って金の棒を伝い、囲炉裏へと帰ってきた。
そしてその瞬間、金の囲炉裏の周辺に透明な輪が現れる。
「これは?」
「たまたま記録されてた映像ですよ。百聞は一見にしかずと言いますからね」
なんか普通にそう言ったけど……この映像も実際機密情報とかじゃ無いのだろうか。随分あっさり持って来たな。まあ僕にはありがたいけどさ。
古いからなのか、それとも何か別の原因があるのかはわからないけど、なかなか映像が表示されない。ガガガガと言う砂嵐が続いて、少しづつ声が漏れ聞こえてくる。そしてようやく映し出された映像は、結構荒い物だった。
まあ映像があるだけでもありがたいし、文句は言うまいよ。映像の中は確かに森っぽい。でも木がやたらにでかいな。想像してたのの十倍は幹が太いよ。周りがモブリだらけだからかも知れないけど、滅茶苦茶デカく見える。木だけじゃないな、草とかもト○ロの傘に成りそうな程大きい。
そして奥の一際太い木の傍で、何かをこの映像のモブリ達はやってるらしいな。
「これはある禊ぎの儀式なんですよ。この木々の中でも一際大きい幹をしてるのが奥に見えるでしょう。しめ縄が巻かれているそれが、かつての神木です」
「かつて?」
教皇の意味深めいた発言に首を傾げる僕。すると横からセラがこんな事を言った。
「ここって除夜の森なんですよね? 結構前に一度だけ行った事あるけど……神木なんてあったっけ? まあちょっとしたクエストのアイテム取りの為だったから、隅々まで見たわけじゃないけど、確かどこかで行けなくなってた様な?」
行けなく成ってたってどういう事かわからないんだけど。でもなんとなく想像は出来るかも。これから見られるであろうクリエに宿る神の力……それにかつてと呼ばれた神木。さらには行けなくなってる場所がある。そんな情報が想起させる出来事は、大抵良い物じゃない。
画面の中では和服の袖を伸ばした様な服を着て、踊り回ってるモブリが多数見える。そしてその先には、祈りを捧げる一人のモブリが居る。巫女か何かの役目の人だろうな。頭に盛った様な被り物が特徴的な衣装を着てる。
そして更にその周りには杖を持った今と変わらない格好をした僧兵の人たち。
なんだか随分と行業とした禊ぎの議だ。てか何に対して禊ぎってんだろう。やっぱり神様とかなのかな? そんな事を思ってると、画面には白い光が現れだした。
必死の祈りが届いてる賜なのかなこれも? するとそんな中、巫女の役目のモブリが立ち上がって、前方に捧げてた杖を取る。そしてその杖を掲げると、杖の先の球体……その周りを囲んでるギザギザした部分が中へ入ったり出たりを繰り返す。そしてそこには現れ出した白い光が集まっていく。
するとその時、一緒に画面を見てるテッケンさんが何かに気付いた様にこう言った。
「あれ? あの杖ってもしかして……」
杖? 杖がどうかしたのかな? それよりも僕は、いつクリエが登場するのか目を光らせてるんでだけど。なかなか現れないじゃないか。
そうこうしてるうちに禊ぎは進んでいく。杖に集まった光が何かの形を成していく様にも見えるけど……曖昧過ぎて良くわからないな。
しかもなんだか次第に白い光が黒く成ってく様な……それに伴って周りの人たちの反応が明らかにやばそうに成ってる。
映像からも伝わる動揺する空気。杖を掲げてる巫女のモブリ自体も困惑してる。白い光が汚れを帯びていく様に黒へと変わると、その姿は何ともいえない悪魔の様な様相に成った。悪魔と言うか、化け物かな。曖昧な黒い光の化け物。
そして画面は静まりかえる。その巫女が丸飲みされたから……きっとその場に居た誰もが思考停止したんだろう。ここに居たらきっと僕だって止まったよ。
だって何の躊躇も躊躇いも無く、バクリと行きやがった。きっと巫女さんは飲み込まれる瞬間まで、それを理解なんてしてなかっただろう。
実際に悲鳴なんて聞こえなかった。いや、声に成らない声は上げてた表情だったけど……声まで出力出来なかったみたいだったな。
てか既に、画面はとってもやばい事に。グロテスク映像に成ってるぞ。
「おい、何なんだこれ? 何の儀式やってたんだよ?」
何見せてくれてるんだって位の映像だ。巫女さんを丸飲みにした化け物は、自身を形作った杖を中へ取り込み、周りに居たモブリを次々と食って言ってる。
それに僧兵が応戦してるけど、敵はかなり強い様だ。既に数十人は餌食に成ったぞ。映像はすっかり乱れまくってる。
「これは酷い惨状ですね……ですが今は流してください。そろそろですから。画像が乱れてますから、しっかり目を凝らしててくださいね」
「流してって……」
流せる物ならこの惨状の映像は流したいよ。でも見とかなくちゃ行けないのなら、そんな事出来なくて……シルクちゃんなんて指の隙間から辛うじて覗き込んでる形だし……こうなったら早くその場面に!
まだか……まだなのかクリエ!
断末魔の叫びが響きわたってる。巨木の幹や地面の草には飛び散った血がベッタリと付いては流れてる。てか誰がこの映像を撮ったかわからないけど、さっきからまともに写ってないな。
ありがたいのかそうじゃないのか微妙だけど、上や下や左右に揺れたりの中で、不意に見覚えるのある姿が一瞬見えた様な気がした。
だけど本当に一瞬だった。僕以外に誰か気付いただろうか? すると画面からその一瞬を裏付ける声が聞こえる。
「おい、子供が居るぞ!」
「なんでこんな所に子供が!? くっそ!」
そんな声を受けてか、画面がそこをくり抜くように捉える。そこには震えてる小さなモブリの姿が一つ。こんな深い森の中には不釣り合いな薄手の肌着一枚を血で汚てる。
怪我してる訳じゃないだろう。きっとあれは食われた人達の血……声を出した僧兵はクリエへと向かって走り出してる。
けど震えてるクリエの背中がなんだか光ってる様な? 丸まってる背中には二つの紋様の様な物が……
「来るよ。神の裁きが」
画面を見つめる教皇がそんな言葉を紡いだ瞬間、二つの紋様からそれぞれ違う翼が生えた。白と黒の紋様を拡張した翼。それを危険視したのか化け物もクリエへと迫る。
だけどクリエの叫びが上がると同時に、周囲に走った強烈な閃光が全てを飲み込んだ。いや消し飛ばしたのか? 画面も全て光で覆われて、そして映像は終わってた。
「生きてたのは彼女だけ、そして残ったのはあの杖だけだったよ」
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