命改変プログラム

ファーストなサイコロ

救出完了?



 激しい音が聞こえてた。だけどそれは遠くの様で、僕にはちょっと関係無いかなとか、うつろう頭で思ってた。だけど次第にあれ? って思い始める。
 だってその遠くの音・声には聞き覚えのある物が含まれてる。冷たい地面の感覚が次第にはっきりしてく中で、僕はそんな音と声に意識を向ける。


「ちょっちょっと! いつまでこいつらと戦わないといけないんすか? 流石にそろそろヤバくないっすか!?」
「うるさいわねノウイ。あのバカも起きてない。あの子だって助けてない。こんな状況で逃げれる訳ないでしょ! そもそも逃げ道だってこの聖院の奴等が握ってるわよ。いいから戦闘で役に立たないアンタは、これがどういう事なのか必死に情報を集めなさい!」
「りょ……了解っす!」


 ん……すっすウルサいこの言葉使い、それにこのきつめの口調……どう考えてもあの二人だよなこれ? 僕の意識がそれを認識すると、体の感覚が少しだけど戻った様な。


「それにしても――だよ。彼らはどうして今更、ここまで侵攻してくるんだろうか? 元老院の一人が自らここまで……目的はやっぱりクリエ様?」
「まあ十中八九そうだろうな。だが数パーセントの可能性で、そこにスオウと同じように倒れてるオバサンが目的かもしれん」


 この二人は先の二人よりも簡単。もっと前からの知り合いだから。でも、おば……さん? 僕の耳に届いたそんな言葉。僕の指がピクリと動く。


「確かにその可能性は否定出来ないね。これは僕達の先を行ってたのはミセス・アンダーソンだと考えた方がいいって事だよね。彼女の目的もやっぱりクリエ様かな」
「そうとしか考えられないだろう。まああのガキをどうしようとしたのかは分からないがな。だが、あれが箱庭だとするなら……行動を起こしたくなる気持ちも分かるがな」


 あれが? どういう事なんだ? その言葉の意味を知りたくて、僕は体中に意識を集中する。次第にだけど、血が巡っていく感覚がある。瞼もきっと緩んで来てる。


「あれが箱庭なら、私達は滑稽かもですね。だけど笑う事なんか出来ない。だってあれは、私達と同じってだけですから」


 澄んだ声の主が沈痛そうに響く。優しい彼女は何を見てるんだろう。クリエがそこに居るんだよな? 居なかったら困る。僕は託されたんだから。
 肺が息を求めて深く呼吸を繰り返す。すると頭もどんどんはっきりとしてくる。瞼を開けると、まだボヤケてる視界に、人の影が見えた。
 大きい影が四つ世話しなく動いてる。それがきっとみんなだろう。鉄拳さんは敵のモブリに混じってるからよく分からない。空中に浮いてるっぽいのがきっとピクだな。


「全く、いい加減にしてくださいませんか? 不法侵入に屋荒らしですか? ここは我々の所有物なのだから、さっさと消えなさい猿共。うざったいんですよ!!」


 届いたそんな声に、僕の鼓動は大きく反応した。知り合いとかじゃないけど……この声は忘れない。忘れられる訳がない。これは箱庭で通信越しに居た奴の声! 
 ボヤケてた視界も次第に鮮明に成っていく。僕はそいつを捜そうと視線を声の方へ向けたけど、僧兵共の杖が邪魔だ。そんな中ふと前を見ると、そこには……


「それは出来ません! それに貴方が言う所有物には、もしかしてクリエちゃんも入ってるんじゃ無いんですか?」
「クリエ? ああ、クリューエル様の事ですね。ククハハハハ、当然でしょう。あれは我ら聖院が持つ所有物ですよ!!」


 ドクン!! と大きく体に熱い物が巡る。目の前の物を見て、奴の腐った言葉を聞いて、どうしようもなく体が熱い。頭にはミセス・アンダーソンの最後の姿と、シスターの願いが流れてた。


「物だなんて! 彼女はちゃんと生きて――」
「我らが生かしてやってただけです! その負債を今から賄おうと言うだけですよ! さあ、さっさと奴らを打ち崩せえええ!!」


 シルクちゃんの言葉を遮るように、奴が号令を掛ける。その瞬間大量の攻撃が降り注いだ。そしてそれは否応無く、僕をも襲う。そこかしこで起きる衝撃に、巻き起こった粉塵。動けなかった僕はもろにその衝撃を受けた。


(けど……丁度良い……ああ、これで)


 僕は床に倒れ伏したまま、ある言葉を紡ぐ。その瞬間巻き起こった四本の風のウネリ。それらは動く度に近くの物から片っ端にぶち壊していく。そして部屋中に響きわたるアラーム音の中、僕は静かに立ち上がる。その背に、風のうねりをに背負って。


「スオウ……君?」


 シルクちゃんのいぶかしむ様なそんな言葉も仕方ない。今の僕は少しおかしいかも知れない。何かが……きっと頭のねじの一本位ぶっ飛んでる。
 僕はシルクちゃんの声には応えずに、背中の風で部屋中を荒らす。計器や機械、そして意味も分からない魔法陣を潰していく。


「やっやめろ! それ以上ここを壊すな!! 箱庭の換えは幾らでも効くが、ここはそうはいかんのだぞ!! 貴様弁償出来るのか!? 
 ええい! 奴に攻撃を集中させろ!!」


 そんな言葉と共に、僕へ向けて僧兵の杖に集まった光が放たれる。だけどそんな物、振り返る事も無く四つの風のうねりが防いでくれる。
 そして更にけたたましく成ったアラーム音と大量に宙に出現した警告の文字。すると目の前の卵形の容器の下側が小さく丸形にいくつも開いて、そこから中の黄色掛かった水を排出しだす。
 この国にはえらく不釣り合いに見える機械仕掛けの仕組み。そんな物が、この卵型の容器の周りには一杯だった。だけどそれでもやっぱり魔法の国なんだろう。
 水を排出し終わった容器は、中心で魔法陣を展開させたと思ったら、中に入れられてたクリエをどこも開ける事無く外へと出した。
 なんだか容器を通り抜けた感じだ。僕は外に出されたクリエを受け止めて、そして白い星が刀身を回ってる状態のセラ・シルフィングを横に凪いだ。
 すると次の瞬間、その容器と周りの機械も、同時に爆発炎上する。後ろでは誰かが絶叫する声が聞こえた様な気もしたけど(これでいい……)そう思った。


「きっさまああああ!! よくもよくも! 異教の猿の分際で!! 神への冒涜も甚だしい行いだ!!」


 クリエを抱えて振り返ると、ようやく奴の顔が見れた。腐った顔、汚れた顔してやがる。愛らしい筈のモブリの容姿を見事に歪める表情だ。
 僕は堅く目を閉じるクリエへと視線を落とす。そして紡いだ。


「神なんて……こんな子供にこんな事をする奴等を許す神なんていらない。お前達が信じる神と、シスターやミセス・アンダーソンが信じた神は本当に一緒かよ?
 言っとくけどな、神の名を語れば全てがまかり通るなんて訳ねーんだぞ」
「くははは! それこそお笑い草の言葉だな! あんな奴よりも我らはもっと近くで神の教えを受けたのだよ。いわば我らの行いは神の行い。そしてその物がやられる事は、全て我らが神の為!
 間違ってる事など一つもない。我らの行いは他全ての信徒を救えるが、その物が野に放たれると、他の信徒が迷うのだよ! 
 だからこそ我らが管理しなければ行けない。殺さないんだ。慈悲深いと思ってもらいたいなあ!!」


 不愉快な言葉に、僕はかみ合わせた歯に力を込める。僕は抱えたクリエをそっと地面に、ミセス・アンダーソンの隣に寝かせる。
 どういう事なんだろう? 僕達は箱庭という場所に飛ばされてた……って訳じゃないんだろうか? でも最後には一緒に居なかった筈のミセス・アンダーソンがここにいて、クリエはクリエで変な容器に入ってた。
 これって一体……いや、今はまずあのクズを取り合えずブチ殺したい感が強くて、上手く頭が働かないな。僕はクリエを置くと再び奴の方を向く。


「あんな所に閉じこめる……それはきっと生き地獄と変わりない。クリエは案外楽しそうにやってたみたいだけど、それでもあいつの願いが消える訳じゃない。
 それをお前達が奪っていい権利がどこにある? 神にでも成った気で居るのかよ!?」


 宗教上どれだけ偉くったって、子供の夢や願いを奪う事を許される筈がない。宗教が何の為にあるのか……それがわかってたら、こんな事するはず無い。
 だからこそ、こいつらは腐ってる訳だ。


「神では無い! だが、神に常人よりも近づいてるのが我らだよ。 神の声を聞き、神の教えを広める事で選ばれた我らは特別。
 そして特別だからこそ、神の名を守る義務がある! これはその範囲だとどうしてわからん!? いいや、わかる筈もないか! 貴様等は所詮、外者だからな!! こんな奴に、何を託してあの目障りな婆は逝ったのやら。
 傑作だったよ。あの婆が死にゆく様は!!」


 その瞬間、背中の風が激しくいきり立つのがわかった。きっと僕の感情を受け取ってる。僕は今、猛烈に頭に来てるから。


「貴様だけは……お前だけは絶対に許さねぇ!!」


 僕は地面を蹴って飛び出した。風のうねりが高速で僕を運ぶ。こんな距離なら、一蹴りで間合いを詰められる。だけど邪魔なのが二十人程の僧兵の盾。
 その一番後ろにあの野郎が居るんだ。


「はっは! 迎え打ってや――」


 途中で途切れた言葉。それもそうだろう、こんな薄い壁が、命を削るイクシード3の前で意味を成すとでも思ったのか?
「お前の様な口先だけの奴とは違うんだ。背負う物も、託された物も! お前等の都合の良い信仰心が、このセラ・シルフィングに込められた思いに勝てるかよ!!」
「――ひっひぃ!!」


 奴の所までの距離ををまさに刹那の如く駆け抜けた。二十程のモブリの壁を紙切れの様に吹き飛ばして、奴の脳天めがけて振りおろされたセラ・シルフィング。
 だけど奴に届く直前で魔法に阻まれた。障壁って奴だろう。だけどそれも、既に亀裂が入り始めてる。


「よっ……よした方がいいぞ。私に手を出すことがどっどういう事かわかってるのか? 指名手配されるぞ。シスカ教の全信徒が黙ってない!」


 震えながら、そんなくだらない事を口ずさむ。今更な事を言うもんだから、なんというつまらなさだよ。だから僕は冷めた目でこう紡いでやる。


「あっそ……それが遺言で良いんだよな?」
「――ひっ! 助けてくれ……私は神の為に……神の教えに従っただけで……」


 僕の一言に怯えたこいつは、今自分で何を言ったか理解してるのだろうか。自分の今までの言葉を否定する事を言ってるよ。


「縋ってたんじゃないのかよ。そんな神様に今度は全部を押しつけるのか? 誇りを胸に死ねず、信じた物の為に命もお前は賭けられない。
 ミセス・アンダーソンやシスターは違ったよ!」


 更に力を込める。イクシード3は止まらない。背中から延びる四本の風のうなりが、激しく動き、部屋全体を荒れ狂う様に蹂躙する。
 至る所で爆発が起き、そんな僕へみんなが声を掛ける。


「スオウ君! これ以上はここが持たないよ!」
「そうよちょっと周りの事も考えないさい!!」


 そんな言葉は聞こえてたけど、僕は耳を傾けようとはしなかった。ただこの目の前の奴が憎くて、許せなくて、だから僕はこいつをブチ殺す事だけを考えてた。


「アンダーソンは最後まで誇りを胸に、自分が信じた神を誇って託してくれたんだ! シスターは戦えもしないのに、それでも大切な奴の為に体を張った。
 そんな勇気を……自分を犠牲に出来る心を! お前の様なクズに侮辱されてたまるかよ!!」
「ううああああああああああああああああっ」


 障壁を打ち砕き、叩き込まれるセラ・シルフィング。だけど運がいいのか悪いのか、奴が腰を抜かしたせいでギリギリで届かなかった。
 だけど床は砕かれ、その破片が奴に刺さり一撃で逝けなかった苦しみを味わう羽目に……良い気味だ。のたうち回る奴に僕は更に一歩を歩んで、セラ・シルフィングが届かないなんて事を無くす。


「や……やめろ……違うんだ。そうだ……何が望みだ? 金か? 名誉か? 今なら……この事は水に流してやるぞ」


 ガチガチと歯を鳴らしながらそんな事を言う元老院の一人。虫酸が走るとはきっとこのことだろう。こいつの言葉の一つ一つに、僕を苛つかせる力がある。
 僕はそんなクズにセラ・シルフィングを向けてこう言った。


「本気でそんな事言ってるのか?」
「ひっ! くっ……アンダーソンはともかく、どうしてあんな存在の為に、ここまで出来るのか理解できないな……あれが自分を犠牲にしてとか言ったな?
 あのシスターに命なんて無い。あれは世話と監視役を兼ねて作った箱庭と同じ存在だ。元々、廃棄する予定の存在だったよ!!  うはははっははははは! 
 どうだね、命が無い存在だったんだからそんなに気を使わなくても君は良かったんだ! 少しは楽になっただろう。私は人殺しは一人しかしてない。処刑には早すぎるぞ」


 何言ってるんだこいつ? 追いつめられ過ぎて頭がおかしく成ったのかも知れない。シスターが命が無い存在だったとしても、こいつを僕が殺したい事に変わりなんて無いのに。
 奴に向けた切っ先を、振り上げる。今度こそ外さない用にしなくちゃいけないよな。セラ・シルフィングの刀身を回る星が次第に早さを増していく。不規則に回るそれが刀身全体を覆うと、そこには白く輝く、一回り大きな流星の剣が姿を現す。
 だけどその時、口の中に鉄の味が広がって来た。けれどそれでも……ここで止める気なんて僕にはない。


「シスターに命が例え無かったとしても、僕は確かにあの人の心を感じた。クリエを助けたいって、救いたいって気持ち……あの人は自分の事も全部分かってて、だからこそ僕達の為に、自分を犠牲にしたんだ。
 少しはお前等も、そういう『心』を見習えよ!」


 僕は目一杯の力を込めてセラ・シルフィングを叩きつける。今のセラ・シルフィングには生半端な障壁なんて紙切れ同然だろう。
 一撃で終わらせてやる。


「やめっ――――助けて……」
「縋るなら、お前達の都合の良い神様に祈ってみろ!!」


 セラ・シルフィングが奴の脳天から一気に下の地面までを突き抜ける。瓦礫に埋もれた死体が、オブジェクト化して消えていく。


「はぁはぁはぁ……」


 あんなクズをやったところで、何かが戻って来るわけじゃない。目を覚ますときっと、クリエは変わらず悲しむだけだろう。
 けどそれでも……許せなかった。腐った元老院の連中……それにどうしようも無くふがいなかった自分がだ。八つ当たりに近かったのか知れないな。
 正当にぶちのめせる奴が丁度目の前にいたから……全ての怒りや、やるせなさをぶつけたんだ。荒い息を吐きながら僕はこう呟く。


「僕も……似たようなクズかもな。何も出来なくて……誰かを殺した……同じだ、僕だって」
「スオウ君……」


 腕からセラ・シルフィングが落ちる。それと同時に、背中から生える風のウネリも唐突に消えた。だけど口に広がる鉄の味は増して、一度僕はそれを吐き捨てる。


「げはっ、がはっ!」


 一撃だって受けちゃいないのにこの吐血……イクシード3はやっぱり代償が大きすぎるかも。確かに圧倒的だったけど……これじゃあ元気でいられない。
 救いたいし守りたいけど、誰かが犠牲に成ったりしたら、やっぱり後味悪いからな。


「スオウ君、今回復するからじっとしててね」


 そう言ってシルクちゃんが回復魔法を詠唱してくれる。でもどういう訳か分からないけど、HPは回復しても体事態が良くなった感じはあんまりしない。
 これがイクシード3の代償って所なのかも。リアル事態にも及ぶ影響だから、HPだけの回復じゃどうしようもないとか。
 これはログアウトしたら病院に行かないといけないかも知れない。


「あの……あんまり効いてないですか?」


 僕の苦しげな表情を見て、シルクちゃんが不安気にそう尋ねて来た。ピクもシルクちゃんの肩で首を傾げてるし、ここで心配させるのも悪いよな。だから僕は笑顔を作ってこう言うよ。


「いや、そんなこと無い。だいぶ楽に成ったしね。ありがとう」


 そんな僕の言葉にホッと胸をなで下ろすシルクちゃん。やっぱりこの子は見てるだけで安心するな。戻って来たって感じがする。


「スオウ……アンタ本当に大丈夫なの? なんだかさっきはその……怖かったわよ」
「ん?」


 少し離れた所でそう呟いたのはセラだ。こいつでもその姿を見たらちょっとは安心する。けど、セラの顔は芳しく無い。怖かったか……セラが言ってるのは体の事じゃなく、心の方なんだな。確かにさっきの僕は、人殺しの顔をしてたのかも知れない。
 それしか考えて無かったし……でも、そんなの悟られたくないから、ちょっとおどけた感じでこう言った。


「セラが僕に脅えるなんて貴重だな。はは……大丈夫。でもちょっとやりすぎたかな」
「ちょっと所じゃないわよ。アンタ自分が何やったか分かってるの?」


 何やったか……僕的には悪者を叩き潰しただけな感じだけど? セラはあきれた様に溜息を付いた。そしてキッとする鋭い視線。これなら大丈夫と思ってくれたって事だろう。だって心配してる顔じゃないもん。


「相手は元老院の一人よ。ノーヴィス全体を敵に回したと考えても良いくらいの奴なのよ! どうするのよこれから」
「どうするって……」


 そんなの決まってるだろう。僕は床に横たわってるクリエを見つめる。


「目的は果たしたんだ。クリエを取り戻す事が出来た。僕はそれでいい」
「それで良いってねアンタ……」


 僕の言葉に呆れてるセラ。するとそこでテッケンさんが入ってきた。


「確かにこれからを考えると、スオウ君のやったことは痛いけど、クリエ様を助けるって決めた時からそれは覚悟の上だった事だよ。
 取り合えず、今は二人を連れてここを脱出しよう」
「ですね、流石テッケンさんは分かってる」


 まだ言い足らなそうなセラだけど、ここはグッと押さえ込んだみたいだった。ここにこれ以上長居して良いことなんかなさそうだからな。
 僕はセラ・シルフィングを鞘へと納めて、クリエの元へ。クリエはまだ堅く目を閉じたままだ。本当に箱庭から戻ってこれてるんだよな? ちょっと不安になる。


「てか、結局箱庭って何だったんだ?」


 そもそもそれが謎だ。僕達はどこから戻って来たんだろう?


「僕達がここに来たとき、既にスオウ君は倒れてた。幾ら呼びかけても反応しなかったし、それにミセス・アンダーソンも倒れてたから僕達はビックリしたよ。
 二人は箱庭へ行ってたんだよね?」


 テッケンさんの言葉に僕は頷く。そう言えばミセス・アンダーソンも何か言ってたな。僕だから入れたとか何とか。そしてシスターは箱庭で生み出された存在……それって……


「箱庭というのは、LRO内のLROみたいな物だったんじゃないのかな? 意識を箱庭という空間に閉じこめてたんだ。それってなんだか皮肉めいてるね。
 LROに進んで飛び込んでる僕達への警告とか」


 確かにそんな感じがしないわけもない。LRO内のLRO。縮小版って感じだったけど、二人が暮らすには十分……ってあれ? 二人……だったっけ? 何か忘れてるような。
 クリエにシスター……そう言えばシスターは最後にこう言って無かっただろうか? 【可哀想な彼女達】――――達って何だ? クリエを抱えて僕はその重さを確認する。まだ居るんだろうか? 誰かが。


「スオウ君?」


 クリエを抱えたままの僕に、テッケンさんが呟く。僕はそんな彼に、目を開けないクリエを見つめたままこう言った。


「LROは夢を僕達にくれてる。大変だけど、いろんな物を気付かせてくれてる。だけど箱庭は違います。クリエを閉じこめて、夢を奪った。許さなかった場所です。
 だから違うんだと思います。LROと箱庭は、作った根本の理由が全然違う」


 そんな言葉を紡いだ僕は、否定……したかったんだと思う。僕達が夢見る事と、穏やかだけど、夢を奪う為のあの場所を、僕は同じになんてしたくなかった。


「ああ、きっとそうだね」


 そう言ってくれたテッケンさん。爆発音がまだまだ続くこの場所は、既に限界が近い――とか思ってる側から周りの壁が崩れていく。それと同時に大量の水が流れ込む。どうやらまだ一息吐くには早そうだ。

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