命改変プログラム

ファーストなサイコロ

幻想の刺客



 これは吹きすさぶなんてレベルじゃない。荒れ狂う風が僕達の歩みを阻害して、その風のせいで弾丸みたいに肌を打ちつけて来る雨に、目も開けられない状況だ。
 まあそれは、十字架の加護の中に居るクリエ達には関係無さそうだけども、道を造らないといけない僕には、最悪の状況だ。


 最初の一撃で強引に包囲網を突破した訳だけど、走りながら追いついてくるモンスターを切り伏せながら、ミセス・アンダーソン達に付いて行かないといけないのは結構難しい。
 気を抜くと、この嵐の中に一人置いて行かれそうな、そんな状況。有る意味、十字架が光ってくれてて助かる。そうじゃないと速攻で見失ったかも知れない。
 てか、有る程度近づいてくれなきゃ敵も見えないんだからやりづらい。この狼みたいな奴等、爆発するから、一定の距離開けてじゃないとぶっ殺せもしない。
 なんだかとことん不利な状況だよ。山の中でゴーゴーと唸る風の音。それから地面や木々を打ち抜かんまでの雨の弾丸。そしてさらにはモンスターの爆発音。
 うるさすぎて耳を閉じたい。


「きゃああああ!!」


 するとその時、前方からクリエの悲鳴が。しまった、前の方へ回られたみたいだ。耳を放棄しなくて良かった。こんな状況でも、女の子の悲鳴ってのは良く通る物らしい。
 僕は先に居るクリエ達の所へ。そこには飛びかかって来るモンスターをミセス・アンダーソンの指示でかわしてるモブリ三人がいたよ。


「大丈夫か!?」
「アンタね……ちゃんと任務をこなしなさいよ! 減点するわよ!」
「悪かったな。こっちだって精一杯やってるんだ!」


 てかいつから減点方式で採点されてたんだよ。それに減点する前に、状況を考慮してほしいね。自分的にはこの最悪な状況下で良くやってると思う。
 まあ取りあえずは、この追いついて来た奴等をぶっ潰さないとだな。僕は周りを走って伺ってる奴に、イクシードのうねりを向ける。けれども、それは当たらず緩くなった地面を大きく抉った。


「――ちっ」
「スオウ! 左側に来てるよ!」


 舌打ちしてると、クリエの声が入ってきた。とっさに左側のうねりをそちら側に向けて、飛びかかって来たモンスターを今度こそ真っ二つに。だけど同時に至近距離での爆発に巻き込まれてしまう。
 爆発の熱さと痛さが一瞬体を包むけど、その次の瞬間には弾丸みたいな雨の激しさと冷たさが襲いかかって来るから、もう痛みの感覚的に、爆発なんて気にしてられなかった。
 ある意味一瞬だけでも、暖かくなるからオーケーかな? とも思えるけど、ちょっと苦しくもあるし、何よりHPが削られるからやっぱ無しだな。
 てかさ――さっきから気付いてたんだけど……


「スオウ! 大丈夫!?」
「大丈夫さ、このくらい」


 クリエの心配する言葉にそう返す僕。泣き言は言ってられないか。


「来てるわよ! 三方向から同時にアンタに向かってる!」


 ミセス・アンダーソンの言葉に、雨が滴る目を細めて見ると確かに三方向に僅かな赤い光が見える。僕はそのモンスターの目の光に向かって両腕でセラ・シルフィングを振るう。
 連動して刀身に渦を成して巻いてるうねりが、奴等へと向かう訳だけど……敵の動きが良いのか、僕の狙いが悪いのか、うねりはまたも地面を抉り、大きな泥の水柱を上げる。
 そしてその間に奴等は一気にこちらへと迫ってくる。


「くっそ!」


 赤い目を狂気で染めて、大きく口を開けて飛びかかって来るモンスター。まずは左から来る一匹を、しょうがないから足蹴にして撃退。すると今度は右からギリギリまで近づいて、真下から喉元狙って飛びかかって来やがる敵を、後ろに引いて避ける。
 すると不発した奴の後ろから交差して、迫ってた最後の一体が大口開けて目の前に迫る。僕は体をなんとか強引にねじ曲げそれを回避。


 けれどその時だった。奴等の攻撃をかわしきって、今度はこっちの番だとセラ・シルフィングに力を込めた時、ダダダダダと言う四足歩行の駆ける音は、すぐ後ろに迫ってた。
 そして背中にのし掛かる体重と共に、肩胛骨から肩口にかけて肉を喰い破られる様な痛みが走る。


「づっあぁ!! こっの……おおおおお!!」


 僕は背中に張り付いた狼をセラ・シルフィングで突き刺す。すると背中の狼は爆発して、僕はぬかるんだ地面を体全体で滑る羽目に。
 そして倒れてる今がチャンスとばかりに、さっきかわした三体の狼が飛びかかって来る。


「調子に乗るな!!」


 僕はそう言うと、セラ・シルフィングを横に一線。風のうなりが、並んでた三体を纏めて爆発させる。


「せめて三メートルくらいか」


 僕はそう呟いて、立ち上がる。HPは今ので四分の一位は減った。いけるんだろうかこのままで……弱音なんか吐く気は無いけど……ちょっと漠然とした不安が募るな。


「スオウ、大丈夫? クリエが痛いの痛いの飛んでけー! してあげようか?」
「はは、まあまだ、それほどじゃねーよ」


 僕はクリエの気遣いを優しく却下してやった。まあそんなんで治る訳でも無いしね。それに今は、一秒でも立ち止まってる時間が惜しい。
 するとその時、再び空の怒号の様な雷鳴が響く。一瞬真っ白になって、その後に続く音の巨大さと言ったら、これを越える物は無いんじゃないかと思える程の大音量。
 それは落雷だ。


「またどこかに落ちたな」
「うう~雷怖い……」


 ブルブルしてるクリエの手をシスターが優しく握る。それで少しは怖さも和らぐことだろう。てか、さっきから落雷が頻発してるのが気になる。
 もしかして元老院の連中は、落雷でここを焼け野原にでもする気なのかも知れないな。箱庭はすでに別の所へも用意してるみたいだし、ここはいらないから取り合えず焼いておこう的な感覚か。


「急ぎましょう!」


 僕はそう促して、先を急ぐ。ミセス・アンダーソンが言うには、一番元老院共の力が届きにくい場所……つまりはこの箱庭の一番端を目指してる訳だけど……そこに出口があるって言うよりは、そこで作る感じだと言っていた。
 きっとこのおばさんは、転送魔法でも設置してくれるんだろう。箱庭は特殊な場所らしいから、特別な手順でしか入れ無かったし、出るときもきっとそうなんだろう。
 だけど僕たちがでる場所は正規の出口が無いから、ここを管理してる元老院の力が一番薄いであろう場所でって事かな。
 まあ今は、無事に端までいけるかが問題な訳だけど。すると走りながら、ミセス・アンダーソンがこんな事を言う。


「貴方のその特殊な力。確かに強力ですが、自然の影響を強く受けてないですか? いいえ、この今の環境がその力とはあってない……そう思えます」
「それは……まあ、否定はしないよ」


 確かにさっきからイクシードの調子が悪い。いや、調子が悪いって言うか、風のうねりだけあってこの暴風の中じゃお互いがぶつかりあって上手く操作できない感じだ。
 いつもなら五十メートル先くらいはまでは正確にぶち抜けるんだけど、今は三メートル先までが限界って……てかそもそも、この暴風でうねりを形成しておく事事態が難しいみたいだ。
 だから長い距離には伸ばせないし、風と風だから影響しあって狙いがズレる。最初、あのお菓子の家から飛び出した瞬間はまだ良かったんだけど、時間が経つに連れて、確実に天候は悪化、それに伴ってうねりも不安定に成っていってる様だ。


「いけるの? そんな状況で?」
「行くさ。行くしかないだろ。それにこの位じゃ、僕の相棒は挫けない」


 そう言って僕は、セラ・シルフィングの柄に力を込める。そう、いつだってこいつに頼ってきた。そして応えてくれたんだ。
 僕の道はいつだってこいつと共に開いて来た。だからこそ、大丈夫だって思えるんだ。


「この山を越えれば、脱出出来るんだよな?」
「ええ、確かこの山の反対側の麓が箱庭という範囲です。その筈よねシスター?」
「え? ……はっはい。その筈ですアンダーソン様」


 なんだかシスターはちょっと元気無さそうな……って、この状況で元気一杯って方がおかしいのか。家とか滅茶苦茶にされてたし、しょうがないよな。
 だけど命あっての物種って思って貰わなくちゃ。家はまた建てれるし、何よりもこの人にはクリエの傍に居てほしい。


「うえぇ~この山を越えるの? それまで走りっぱなしなんて無理だよ~」
「頑張れクリエ、いつもみたいに脳天気に笑ってれば直ぐにつくさ」
「脳天気って何よスオウ!! いつもいつもクリエの事バカにして!! クリエはいつだって一生懸命なだけだもん!!
 ねえシスター。言ってやってよこの分からず屋に!」


 クリエの無茶な振りにシスターは苦笑いを漏らす。てか、この人は人見知りなのか僕にはまず話しかけてこないな。時々目が合うけど、ぎこちない笑みと、会釈をされるだけだ。
 まあこっちも何を喋れば良いのかわからないんだけど。のんびりゆっくりあの家で出来たのなら、いろいろとクリエの事を聞く事も出来たんだけど、そんな状況じゃないからな。


 そうこうしてる内に、再び周りに敵の影が見えてきた。突破して来ただけだし、元老院の奴らが自由に出せるんなら、幾ら倒したって意味は無さそうだ。
 でもさ、よくよく考えたら――


「くっそ、元々モブリの短足じゃ四足歩行の狼から逃げれるわけないじゃん。体も向こうが大きいし、今更気付いちゃったよ」


 って事だ。思わず頭を抱えたくなる真実。だけどそれを言った瞬間、同じ方向から二つの鋭い視線が飛んできてた。


「「今なんて言ったのかなスオウ?(言ったの貴方?)」」


 クリエとミセス・アンダーソンから、地鳴りの様な雰囲気が伝わる。ゴゴゴゴゴと、何かスッゲー怒ってる? そう言えば短足な事、おばさんは気にしてたな。クリエもそうだったとは知らなかったけど。


「え~と、ほら足の問題だけじゃなく、体事態小さいしそれを考えると逃げるのは不利かな~って」


 僕は取り合えず、体全体の問題にしてみました。するとミセス・アンダーソンが勢い込んでこういう。


「ふざけないで! 確かに私たちは小さいわ。貴方たちに比べたら格段にね。でも! それは恥じゃいのよ! 私達モブリこそが最も女神の愛を受けた種族!
 この姿形こそが我らの誇りよ!!」


 ペットな感覚だったんじゃない? とか一瞬思ったけど、流石にそれは口には出さなかったよ。その発言は全てのモブリに失礼だしね。僕はその考えは引っ込めてまともな事を言うことに。


「わかったよ。でも誇りは良いけど、現にこのままじゃ何回だって追いつかれるぞ」


 既に数十体の敵がこちらを伺ってそうだし。流石に今のイクシードじゃ、全てを捌く事なんか出来ない。だってさっきだってたった数体で、あの体たらく。
 この雨と風の影響は正直痛すぎる。


「それは……仕方ないです。私達は元から肉体派では無いし、それに貴方が敵をちゃんと倒せば問題無いことでしょう。
 私達の体型のせいにしないで頂戴」
「――ぐっ。確かにモブリとして、その体型が仕方ないのはまあ、諦めるしかないよな。イクシードがまともなら、ここまで切羽詰まる事もないと思うし……」


 問題を押しつけられた様に感じるけど、実際僕は悔しいからね。僕だってモブリの体型を問題に出すのは今更だって分かってたさ。
 事実だろうけど、仕方のない事だ。それよりもイクシード責められちゃね。僕の自信の大きさは殆どこれだから、イクシードが上手く機能しないと成ると、相対的に不安って物が胸に広がりやすくなる。
 まあだけど……僕は結局、こいつとどこまでも一緒に行かなきゃ何だよな。ミセス・アンダーソンはやることやってくれてるんだし、迎撃が僕の仕事なんだ。
 土砂降りがなんだ……暴風がなんだ……落雷がなんだ……それでもやるしかないんだよ。


「分かったよ。誰かのせいなんてする前に、僕はやってやる。弱音なんて、今吐く事じゃないしな!」
「そう言う事よ。血反吐吐いても守りなさい。それが貴方の役目よ」
「了~解!」


 力強く踏み込む足。弾ける水が貯まった地面。だけど雨の音がうるさすぎて、水を踏んだ程度の音は届かない。すると次の瞬間、一斉に赤い瞳がこちらに迫る。
 敵の足音も聞こえないから、この視界不良の中での目印は、殆どあの目位。動き出した赤い瞳は六体位は居るだろうか? 
 てか、後の奴ら……雨に紛れる様に消えやがった。波状攻撃でも仕掛ける気か? そんな脳があるようには見えなかったけど……周りにまだ居る筈の奴らが、ここで引く理由はないからな。


(取り合えず)


 僕はイクシード2を元のイクシードに下げる。そして意識的に力って奴を風主体から雷主体へ。出来るかどうかは分からないけど、これに賭けてみるしかない。


「うおおおおおおおおおおおおおお!! 守ってみせる! 必ずだ!!」


 そう絶対に! その叫びと共に、雨の中を駆ける赤い瞳にうねりを向ける。イクシードだから風のうねりが消える事はないけど、今回は意識してるだけあってその渦巻く風の中に、青い雷撃が普段よりも若干多めに混在してる……筈だ。スパークの音が大きいと思う。
 だけどそんな違いに気付くのは本人くらい。モンスターは情報を共有してるのかどうか知らないけど、僕が攻撃を向けたってのに、真っ直ぐ進んで来やがるじゃないか。多分さっきと同じように、この暴風に影響されてまともに狙いが付けられないと思われてるんだろう。


 まさしくその通りなんだけど……頼む!! 僕は祈りを込めてうねりを見守る。雷撃を普段よりも込めたうねり。だからって風の影響を受けにくく成るなんて理屈は無いのかも知れないけど……出来ることと言ったらこの位しか無いんだ。
 クリエ達を守りきって、自分も生き残ってここから脱出するには、今のままじゃ厳しい。だからこそ、わざわざイクシードの段階を一段下げてまで、雷撃が風と共に強く併発してたただのイクシードに戻したんだ。
 すると何かを察知したのか、直前でモンスターは斜め横にかわすように避けた。


(避けた!? 避けたって事は!!)


 僕は真っ直ぐに向けてたうねりの軌道をモンスターが避けた方向へと向ける。そしてそんなうねりは、見事にモンスターを引き裂いて爆発させる事が出来た。


「今のが大体六メートル位か……爆風が押し寄せるけど、三メートルで爆発させる事しか出来ないより、かなりマシだ。単純にさっきまでよりも射程が二倍には成ったな。
 よし、これなら!!」
  僕は勢いづいて、迫り来てた奴らをクリエ達に届かせる前に葬り去る。やっぱりイクシードを一つ下げたのは正解だな。
 イクシードは段階を上げる毎に、確かに強く強力には成ってるけど、その性質はどうしても風に偏ってた。イクシード3なんて、もう風しか力は出てなかったしな。一番両方を効率良く併せ持ってるのがただのイクシードだ。


「雷撃の方を意識的に強めれば、僅かだけど暴風の影響を軽減出来る。うん、よし! 感覚が良い感じに成ってきたぞ」


 一撃で爆発してしまう敵が相手なら、六メートルで十分だ。それに結局、ある程度近づいてなきゃ、目の光だって見えないんだしな。
 遠くに伸ばす事が出来ない時に、遠くが見えても歯がゆいだけ。ある意味今は、この程度が丁度良――


「――――いっ!?」


 後ろからの不意の衝撃。両足に走る鋭い痛み。HPバーが減り、数字が僅かに減少した。僕の命の残量が!! 


「どわ!」


 バシャンと大きな音を立てて、地面に倒れ込む僕。いきなり足を強引に止められた感覚……振り返るとそこには狼に良く似たモンスターが、僕の両足を左右に一体ずつで喰わえてやがる。
 それはまさに完璧な不意打ちだった。


「スオウ!!」


 心配するようなクリエの声が前から聞こえる。流石にこれにはミセス・アンダーソンも自身の力を使って動こうとしてた様だけど、それよりも奴らは速かった。
 迅速かつ的確に、まずは僕を潰す気の様だ。転んでる僕へめがけて、姿を消してた残りの奴ら全部が降り注ぐ様に飛び出して来やがる。


「くっそ!!」


 降り注ぐのは、もう十分この雨で間に合ってるってんだよ! 僕はセラ・シルフィングで最初に飛びかかって来た奴の牙を防ぐ。だけどそれも付け焼き刃だった。
 次々と落ちてくるモンスターの圧力だけで潰されそうだ。しかもその後直ぐに、獲物を漁る様に人の体を食い始めるんだから、溜まったものじゃない。
 流石にこれはヤバい……HPがみるみる減っていく。早く脱出しないと……僕は両方のセラ・シルフィングに力を込める。
 するとバチバチと放たれる雷激のスパークが、強くなる。


「雷放!!」


 その瞬間、青い雷撃が膨れ上がって、モンスターどもを押し退ける――と言うか爆発の連鎖だった。雷放はセラ・シルフィング自身から放たれる雷撃を一斉に放出するスキル。
 そのスキルは自分的にはナイス判断だったと思うけど……


「つぅ~~、かなり持っていかれたな」


 連鎖して起こった近距離での爆発で、かなりHPが失われた。具体的に言うと、既にレッドゾーンまで減ってしまった。
 あのまま食われるよりはマシだと思うけど……これはかなり不味い状況だ。回復薬もあるにはあるけど、心許ないのは確かだし……行けるのか? このまま進んで。


「スオウ! 速く回復しないと危ないよ!」
「わかってる」


 クリエに促されて、僕は右手を二本立てて振ってウインドウを呼び出す。だけどそうこうしてる間にも、まだまだモンスターはいるわけで、さっきのに味をしめたらしい奴らが執拗に足下を狙って来やがる。


「なんていう煩わしさ、二度も同じ手に引っかかるか!」


 と言いつつも、ウインドウを出したままじゃ反撃もおぼつかない。けど、次から次へと襲ってくる敵のせいで、なかなか取り出せないしで大変だ。
 それにどんどん増えてる様な……しかもタイミングを互いに計ってるように動き出すから余計に……すると流石にヤバいと思ったのか、ミセス・アンダーソンが守護を解いて、十字架をこちらに向けてくれた。


「速く回復しなさい!!」
「助かる!」


 十字架が数本僕の周りに落ちて、敵の攻めを僅かに止めた。その隙にアイテム欄から回復薬を取り出して口に含む。これでなんとかレッドゾーンからは脱出出来た。
 だけどその時だ。


「クリエ! 危ない!!」


 そんな声が僕の耳に届いた。視線を声の方へ向けると、守護を解かれたクリエ達の元へ一体のモンスターがその後ろから迫ってる。
 クリエも今気づいた様だし、それはミセス・アンダーソンも同じ。たった一人それに気付いてたのはシスターだ。
彼女はだからこそ、モンスターの前に飛び出した。
 大きく手を開いて、クリエを庇う様に立ち塞がる。だけどモンスターは構わずに突っ込んだ。鋭い爪が彼女を裂く。モブリの小さな体は、狼の突進力に耐えきれずに宙へと浮いた。
 そして一緒に飛んでるモンスターと共に、クリエを飛び越えた先にシスターは落ちる。そこでさらに、モンスターは彼女の体に突き刺してる爪を、食い込ませる様に動かした。


「うっ……あぁああ!!」


 痛々しいそんな声が鼓膜をふるわせる。やられたと思った。これはどう考えても計画的……それに嵌められた。クリエがよろめいて倒れそうになる。
 それをアンダーソンが支えるけど、クリエの焦点はただ一点で固定されてる。


「シ……シスタアアアアアアアアアアアアアア!!」


 クリエの叫びが、どんな傷よりも深く響く。僕は自分のふがいなさを喰い締めながら地面を蹴った。

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