命改変プログラム

ファーストなサイコロ

絆の道



 シルクちゃんのそんな宣言が、この薄暗いダンジョンに響く。それは僕達が色々と考え出して出た結論。シルクちゃんの言葉に異論を唱える奴はいない。
 ここは通り方を知ってる奴だけが箱庭までいける道。それは多分、間違っちゃいないと思う。トラップなんて元から必要無かった訳だ。
 いや、言う成れば今の状況こそ、僕達はトラップに掛かった様な物なのかも。


「確かにシルク様の言うことは理解できます。私達はゲームだって事を常に意識し過ぎてたのかも知れません。ここにはちゃんと生きてる人達が居るのに、そこら辺を無視してた訳ですね」


 セラがそんな風に、シルクちゃんの後に続く。でもそれはしょうがない事だと思うけど……だって僕達プレイヤーは世界に割り込んで来てる様なものだよ。
 それにゲームだって事を忘れない様にするのも大切だからな。そうしないと、戻れなくなる人とかいそうじゃん。
 僕みたいに落とされるんじゃなく、自分の意志で留まり続けるとかが起こり得そうだもん。そしてそれは起こってないとも言えないしな。


「あれ? でもちょっと待ってくださいっす。元老院かミセス・アンダーソンがここの目的意識を変えた……それはいいっすよ。
 だけどそれが解ったところで何の解決にも成って無くないっすか? だってそれって、ようは意図的に扉に鍵が掛けられたも同じじゃないっすか!?」


 なんとか会話に付いてきてたノウイ。だけど、確かに言われて見ればその通りだな。これを行ったのが誰か解った所で、だから出口が現れる訳でも無い。
 無駄とは言わないけど、僕達の状況は変わりはしないな。


「まあそうだよな。システム異常じゃなく、誰かが都合悪くなったから、ただ鍵を掛けただけって成ると、ここに居る僕達じゃそれを開く手段がない。
 だってそれって、選択券がNPCの方にも有るような物だ。自分たちにとって、不都合な事が起きないようにするのは普通だけど、それをNPCがやるって成るとどのクエストだって途端に攻略が難しく成るぞ」
「そうですね……意思を感じる行いです。重要なNPCは元から人工知能が高いけど、これは確かにやり過ぎなのかも。
 自我の目覚め……最近そう言うのが多いから、これもその影響かも知れませんね」


 そう言えばそうだったな。シルクちゃんの言葉で思い出したけど、シクラとかがNPCの自我を目覚めさせていってたんだ。
 それがどこまで及んでるのかは実際全然解らないけど、自我に目覚めての自己防衛とかの反応でこれをしたのなら、なんとも人らしい行動じゃん。


「そうなるとやっぱり抜け道とかを作っとく訳はないね。システム異常よりはマシとか言ったけど、どうやらそれよりも厄介みたいだ。
 有る意味これはゲームとして成立してない事に成るし……攻略できる様に成ってるのがゲームなんだからね。けれど今の僕達の状況には、それがもう感じれない」


 まさにテッケンさんの言うとおりだな。みんなの顔に暗雲が見える。知恵を出し合って得た一つの結論は、別の何か……期待できてた筈の物を奪った感じだ。
 文字通りに、僕達を纖滅する場所に今は成ってるって事か。そこら中から聞こえる無数の足音。それらがいつ僕達とはち合うか……気が休まる暇もなく、更に希望も無いって……どんな絶望的状況だよ。
 これで通常に動作してると運営側は言うんだからたまった物じゃないな。


「けど……どうして今だったんでしょう?」


 ぽつりと呟いたセラのそんな一言。どうして今? そんなの決まってるだろ。


「それは僕達をクリエに会わせたく無いからだろ? だからこそ、こうやって纖滅モードに移行してる訳だし……向こうにとっては僕達は邪魔だろ」


 元老院とかミセス・アンダーソンはクリエにあんまり関わってほしくなさそうだったからな。だけどセラは顎に手を置いて、考える素振りをしながらこう紡ぐ。


「それはそうだけど……でもちょっとおかしくない? あのボスクラスの敵、倒されてた。箱庭にいくたびにあれを倒すわけ? ちょっと面倒でしょそれは。
 もっと安全な通り方があってしかるべきとは思わない?」
「言われてみればそうだけど……」


 確かに毎回あんなのを相手にはしてられないよな。でもそれだと、僕達のやってた事は何だったんだ?


「私達のやってた事は、それこそゲームとして用意された攻略方法だったんじゃ無いの? 元老院やミセス・アンダーソンはもっと安全にここを通れる」
「けど、じゃああの倒されてた奴はどういう事だよ?」


 安全な行き方がちゃんと有るなら、ゲームとしての道なんて使わないだろ。だけどそれが一足先に使われてた。それが意味することは一体?


「考えられることは一つに、別のプレイヤーが先に進んだ。まあだけどこれは殆どあり得ないわ。だって私達以外にこの状況を知ってるプレイヤーは居ないはずだもの。
 それなら二つ目が重要よ。それを使わざる得なくなったって事じゃないの? 元老院かミセス・アンダーソンのどちらかが」
「仲間割れって事っすか?」


 素早く間に入ってきたノウイ。でもそう言う事になる――――いや、なんかそれも違うな。僕は今まで見た強制イベントや、二人で交わした会話を思い浮かべる。


「仲間……なんて物じゃないだろ。あいつ等の関係はさ。元から対立してたし……腹のさぐり合いとかしてそうだったし、利害が一致してたからこそ、クリエの事では手を取り合ってたってだけの感じで……」


 そこまで紡ぐと、いやな想像が更に膨らんだ。もしもこの通りなら、僕達だけじゃなくクリエだって危ないような。
 すると僕の想像を見透かす様に、セラの奴が言葉を紡ぐ。


「利害にズレが生じてきたのかもね。一体どっちが動き出したのかしら?」


 セラの言葉がイヤな感じに胸にのし掛かる。この状況で不安要素を増やしやがって……


「とにかく……今はどうやってここを抜けるかだ。そして抜けた先は箱庭……そうでなくちゃ意味はない」


 僕はそう言い聞かせるようにして一歩を踏み出す。するとその時、少し先を飛んでたピクがけたたましく鳴き出した。


「敵!?」
「これは多いです! ピクの後にみんな続いてください!」


 そう言って真っ先に走り出すシルクちゃん。それに僕達は続く。どうやらピクが敵のいない方向へ先導してくれるみたいだ。


「はぁはぁはぁ……」


 しばらく走って息も切れ切れ。なんとか敵と出会わずに済んだ。


「全く、一体どれだけ――」
「ピーー!!」
「――またかよ!?」


 ようやく一息つけるかと思いきや、もう一度ピクが鳴いた。そのせいで僕達は再び、この入り組んだダンジョンを駆け回る事に……マジで一体どれだけの数のアンデットがここにとき放たれてるんだろう。
 それからも五分もしないうちに、ピクが鳴くから僕達はずっと走り続けてた。おかげで敵とは遭遇しないけど、でも僕達は思ってた。
 これは徐々に追いつめられてるって。きっと奴らは、このダンジョンに満遍なく広がりつつある。そうなると最後には逃げることも出来なくなる。
 結局は八方塞がりだ。袋の鼠状態ともいえる。


「やばいっすよ。どんどんピクの鳴く感覚が短く成って来てる気がするっす。追いつめられてるんすよ!」
「確かにそうだね。でも打って出た所で何の策もないんじゃ……」


 アタフタしてるノウイと違って、テッケンさんは苦い顔をしながらも必死に何かを考えようとしてるのが解る。


「まだ何か……何かある気がするんだけど」


 それが出てこない……良くわかるよ。僕もそんな感じだ。まだ諦めるには早い何かがあるような……見落としてる事がある気が頭の隅に引っかかってるんだよな。
 そうこうしてる間にも、アンデットの手はこのダンジョン全体に迫りつつあるし……そうなったら考える暇なんて無くなるだろう。あれだけの数を相手にしてたら、頭を使う暇もなくなるだろう。
 どうにかして今のうちに、希望って奴を見つけておきたい。


「はぁ~なんでこんな事に……クリエちゃんも良くこんな所から一人で出れたっすよね」


 ん? 今なんて言ったノウイの奴? カコンと、出来物が落ちた様な……クリエがここから……


「それだ!!」
「なにっすか突然!? かかか肩を揺さぶらないで欲しいっす」
「お前は何も考えてない無いようで、時々良いことを言うよノウイ!!」


 僕はグワングワンとノウイを揺さぶる。ノウイのゴマの様な目が次第に渦を巻いていくよ。でも止められない程に、興奮してたんだ。


「ちょっ……一体どうしたって言うのよ?」
「クリエだよクリエ! アイツはここから出てるんだ。たった一人で……しかもアイツがここのちゃんとした通り方を知ってると思うか?」
「「あっ!」」


 僕の言葉に二人の美少女が重なる声を出す。そしてすっかり忘れてた鍛冶屋がここで、僕の言いたい事を口頭で伝えてくれる。


「つまりは、あのガキが使った道がこのダンジョンにはあるって事か」
「ああ! そしてそれはミセス・アンダーソンは勿論、元老院だって知らない筈の物だろ。なら、今もどこかに存在してておかしくない!!
 それはきっと箱庭にだって続いてる!」


 希望が、光が見えた気がした。まだやれる……諦めるには早い。アイツが一人で出来たことを、僕達が六人も集まって出来ない筈なんて無いだろ。


「でもだよスオウ君。一度逃げられた道を残しておくだろうか? 修正されててもおかしくはないよ」
「確かにそうかも知れません。でも何となくある気がします!」
「何となくってアンタ……」


 テッケンさんの指摘に僕が言った言葉に対して、セラが呆れた様にそう言葉を発した。だけど信じないと動けないだろ。
 それにただ何となくなんて言ってる訳でもないんだ。


「まあ聞けよセラ。確かに普通は逃げられた道をそのままなんて事にはしないだろうけど、クリエが逃げ出してからまだ二日位しか経ってない。
 ミセス・アンダーソンならともかく、元老院の爺共がそんな早く仕事をするとも思えないだろ」
「アンダーソンがやってたらどうするのよ」


 まあごもっともな返しだな。でもそれにも僕は返せるぜ。


「それは無い! クリエが逃げ出した時、不手際とか言ってただろ。つまりは箱庭とかの管理とかは元老院がやってたんじゃないのか?
 ミセス・アンダーソンって個人よりも元老院って集団の方が力ありそうだし、多分そうだと思うんだよ。それに今のこの処置だって、道ごと潰してしまえば何の問題も無いって安易な考えなのかも知れない。
 こういう道を作れるのなら、新しくまた作れば良いだけだしな。ようは廃棄物の処理に僕達は巻き込まれた様な物だろ。
 それなら道はまだきっとある」


 僕ははっきりとそう答える。予想だけど、自信だけはみなぎらせた。それに実際、ある気はするんだ。本当に。僅かに見えた希望の光。それをここで逃せられない。
 自信って奴は、根拠は無くても必要な時があるんだ。そういうのに良く振り回せれてきた僕にとっては、それが良くわかる。


「でも、クリエちゃんはどうやってここから出たんでしょうか? あの子は戦闘だって出来ないですよね? そして元老院やミセス・アンダーソンが使う道も知ってる訳ない……となると、一体全体どうやって?」


 シルクちゃんがそう紡いで頭を抱える。まあ確かにそれはそうだな。そこは頭を抱える所だ。クリエは子供で、戦闘力なんて僕が知ってる限り皆無だよ。
 でもアイツには本人も知らない秘密があるようだし、その気になれば戦えるとか……いや、無理っぽいな。一緒にいるときも戦おうとは一回もしなかったし。そんな力があるのなら、あの村で処刑されそうになったとき、使わない訳はないだろう。
 クリエ基準で考えるとして、確かにそこが一番の悩み所だな。


「僕達に出来る事が出来ないクリエが出来ること……」


 それがきっと鍵なんだろう。アイツにだけ許された何か……それが導いたとしか思えないし。そうなるとアイツとの会話を色々思い出す事が必要か……う~ん。


「アンタが一番あの子と長く居たんだから何かあるでしょ? あの子の特別な所、見てるんじゃない? 思い出しなさい」
「そう言われてもな……アイツ基本おかしい奴だったし」


 うるさくて、チョロチョロして、そしてなんかちょっと僕の事良いように扱ってた様な……するとその時、再びピクが敵の接近を報せる。


「ピーピー」
「また敵か……敵だよな? 喋れればいっそ分かりやすいのに」


 ピーピーじゃ実際本当にそう言いたいのかわからないじゃん。今までの経験で推測するしかないし、絶対とは言えないよな。
 でもシルクちゃんはピクが言ってる事を間違えない。まるでピーピーじゃなくてちゃんと言葉が聞こえてる様な感じ……彼女の耳にはどういう風にピクの言葉が聞こえてるのか謎だ。
 僕は走りながら後ろ姿のシルクちゃんにジーと視線を送ってしまう。


「ちょっとスオウ」
「うん?」


 声を掛けられてそっちに視線を送った瞬間。プスっと目潰しされた。


「ぬああああああああ!! 何しやがる!! 酷すぎるぞセラ!!」


 超痛い超痛い! 目とか防御力皆無何だぞ。そこを攻撃するなんてどれだけ鬼畜なんだよこいつ。


「アンタがシルク様に変な視線を向けてるのが悪いのよ。いやらしい……みんなアンタの言葉を信じて道を考えてるんだから、アンタがそんなじゃダメなの。次は潰すわよ」
「もう潰してるよ!」


 うう……だけど今回はいつもの理不尽な感じじゃないのか。セラなりの理由がそこにはあった。だけど別にいやらしい視線をシルクちゃんに向けてた訳じゃないっての。
 潰された目をゴシゴシ擦る僕。すると後ろで騒いでるのに気付いたシルクちゃんがこちらを向いた。


「いやらしい目で見てたんですか?」
「違うから! 決してそんな目はしてない!!」


 ちょっと頬を赤く染めるシルクちゃんがそう言う。ほら、セラのせいで誤解された。僕は考えてた事をそのまま伝えたよ。


「ああ、ピクの言葉ですか? どう聞こえてるかって多分スオウ君達と同じですよ。ピーピー聞こえてます。でも何でしょう……私にはそれでもピクが言いたい事が解ります。
 それも一番身近で触れ合ってるからじゃないでしょうか?」
「そう言うものかな……」
「そうですよ。リアルでだって犬や猫の言いたい事が長く飼ってるとなんとなく分かる様に成るあれです。友達や家族に成れれば、言葉として聞こえる物なんですよ」


 なるほどね。シルクちゃんじゃなかったら、そんなの気のせいだろと言い返す所だけど、シルクちゃんが言うならそうなのかも知れないな。
 僕はペットとか飼った事無いから分からないけどさ。家族や友達に成ると……か。以心伝心って奴かな。


(ん? そう言えばクリエも友達がどうとか言ってたな)
「スオウ君! 前見て前!」


 慌てた様なシルクちゃんの声。考え込んでた思考を戻して、視線を上げるとそこには紫色した光が視界一杯に飛び込んでくる。


「ぬおぉ!?」


 ギリギリで首を傾けてそれを避けた。これはどう考えても敵側の攻撃……ピクの誘導で進んでたから出会す事はないと思ってたけど、どうやら予想よりも早くこの空間が埋まりつつあるようだ。
 頬から垂れる熱く赤い液体……でもこのヒリヒリ感が、戦闘って事を僕に嫌でも意識させてくれる。


「かなり通路も埋まって来てるみたいだな」
「そろそろ撃って出ないと逃げ回るだけじゃ、僕達はここから出れない。何か思い出さないのかいスオウ君?」


 僕たちは前方に現れたアンデット共とにらみ合いながら、そんな会話を交わしてる。てかみんなとっさに通路の脇に避難してるし……僕だけが危なかったみたいだな。
 でも危ない目にあっても考えてた価値はあったかも知れない。テッケンさんの求める物を僕は思いだした。けど直ぐに次弾を充填した敵が、さっきの攻撃を繰り出してくる。
 しょうがないから、目の前の敵を倒すのと並列して言葉を紡ごう。敵の攻撃を防いで、シルクちゃんの詠唱の時間を稼がないとだからな。


「思い出しましたよテッケンさん! クリエは友達が居るって言ってました。それは普通の目に見える友達じゃなく、なんだかそこら中に居るとか何とか不思議な事を!」
「なんだいそれは? 本当なのかい?」


 僕とテッケンさんは敵へ突っ込んで、接近戦を仕掛ける。奴らの腕を砕き、体を切り裂く。だけどそれじゃあ死なないんだよなアンデットは。けど、攻める!!


「本当です。僕も最初は電波な奴かと思ったけど、アイツは多分、周りのオブジェクトとか自然とかから情報を読み取れるんじゃ無いでしょうか。
 それかそれらを声として受け取れる。アイツは世界が友達とか言ってたし、その声に導かれたとしか考えられません!」


 そう、それがアイツが見せた特殊な事。これしかないと思える能力だろ。


「なるほど……世界の声を聞けるんだね。確かにそれなら……でも、それを僕達が受信する事は出来ない。どうするんだい?」
「それは……」


 どうしようか? 耳を澄ました所でそれが聞こえる分けないし……すると待ちに待ったシルクちゃんの魔法が炸裂して、周りのアンデットを消滅させていく。
 そしてそんな魔法の影響で僅かに輝いてるシルクちゃんがこう紡ぐ。


「それなら、ピクにクリエちゃんの臭いを辿って貰いましょう。そんなに人が出入りしてないのなら、まだ臭いはあるはずです。
 ピクは一度会った人の臭いをデータとして記憶してますから」
「なるほど、それは便利だね。それで行こう!」


 アイツが辿った道は必ず出口へと続いてる筈だ。けどピクはなんと機能が豊富な奴。スゴいよ全く。僕達はピクの鼻を頼りに再びダンジョン内を走り出す。
 もう敵に出会すとか関係ない。今の優先順位はクリエの足跡を辿る事が一番。敵は倒して進むに変更だ。


 しばらく走ると、僕達は壁にハマってた。分岐もないただの行き止まり。後ろからは大量のアンデット共が迫りつつある。これはヤバい。


「本当にここで良いわけ?」
「ピクは間違ってない筈です。何か無いですか?」


 そんなシルクちゃんの言葉を信じて僕達は壁をペタペタと触り確かめ、目が棒になるほど周りを見る。でも別に何も無い。


「おいおいヤバいぞ。射程に入った。攻撃が一斉に来るぞ」


 確かに後ろを見ると、紫の光が集いだしある。ここでクリエは何を聞いたんだ? 何を何を何を……


「他に何かないの? あの子がアンタの前でした特別な事!?」


 特別な事……セラの言葉に僕の頭はあの月夜の湖を思い出す。


「歌……」


 そうだ、もう一つあった。するとその時、僕達とアンデットの間に一つの人影が見えた。
 それは……


「クリエ」


 僕のそう紡いだ言葉にみんなが辺りを見回すけど、みんなの視点がクリエに止まる事はない。どうやら僕にしかその姿は見えてない様……そしてやっぱりこれまでと同じようにクリエは何かを紡いでる。
 ぼくはその口の動きを必死に追った。


「『幾億の星が~流れ落ちるその時~私はその星の一つに~なれているのだろうか。一人で輝く星になんて~成りたくはな~いよ~。孤独は罪で、それが罰。紡いだ声はどこへ行くの~』


 辿々しく紡がれる歌……不思議な事に、聞いたこと無い旋律まで僕は紡いでた。これも以心伝心って奴か。するとその時、行き止まりの壁に変な模様が浮かび出す。これは……見たことある!


「ノウイ! 球体を出せ!」
「え? は、はいっす!」


 その時、クリエを貫いて光が迫る。消えていくクリエは元気に笑ってた。希望を抱ける、そんな笑顔だ。

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