命改変プログラム

ファーストなサイコロ

閉ざされた箱の中で

「おいおい、何だよこれ……洒落に成ってねーぞ」


 僕は思わずそんな声を漏らす。いや、これは実際信じられない。てか、理解できないぞ。一体全体どういう事だ? ウインドウに現れたおかしな通知を見て、困惑してるのは僕だけじゃない。


「なっ……こんな事って……目的意識変更要請? これじゃあ、このダンジョンは事実上攻略出来なくなったも同然じゃないか」
「そんな! それじゃあ私達の今までの努力は何だったんですか? それに纖滅って……とてもイヤな予感しかしません」


 テッケンさんとシルクちゃんも当然ながら動揺してる。実際こんな通知そのものが、間違いだと思いたい位だよな。
 攻略出来ないダンジョンなんてあって良いはず無いだろ。これはちゃんとした仕様なのか? でも進めなくなる仕様なんて、ある意味もう反則としか思えない。


「シルク様、奇遇ですね。私はあの大量の敵が怪しいと踏んでますよ。ふ……ふふふ、ここまでやらせといて攻略不可? 取りあえずあいつ等全部倒せば、システム覆りますかね?」


 なんかセラだけがシステムに対して切れてるぞ。喧嘩売ろうとしてるじゃん。でも流石に無謀だ。このだたっ広い空間の端から端までを不気味に行進してくるモンスターの数は圧倒的。
 それこそ反則なまでの多さだ。これはまさに通知通りに、攻略させる気が無いとしか思えないふざけた数。奴らの不気味な灯りを光らせる目は僕達を既に捕らえてるし……ここにいつまでもいるのはやばいかも……けど、どこに逃げたって出口なんて用意さえしてないんだよな。


「奴ら何かを構えだしてるぞ。そろそろ一斉に攻撃がきそうだ。どうする? 逃げるか……それとも玉砕覚悟で突っ込むか?」
「に、逃げるのも突っ込むのも無謀っす!! このダンジョンには逃げる場所なんて無いっすし、あの数を相手にすれば確実に全滅っすよ!!
 システムが断言してるんすよ! これってどうやったって、自分たちはここで死ねって事じゃないっすか!」


 険しい顔つきでモンスターを睨む鍛冶屋は、まだ戦意を失って無いようだけど、ノウイは既に諦めモードに入ってるな。べそかいた様な顔してるよ。
 具体的には点な目が、今はバツ印に成ってる。なんて分かりやすい奴。けど……実際ノウイが言ったことがシステムの言ってる事……なんだろうな。


 ここから先は行くことを許さない……だから死んでくれ。そう言ってる様な物だ。まあ普通はノウイみたく成るんだろうし……システム側の事はしょうがない……とか思えるかも知れないけど……実際僕だけはそうは行かないぞ。
 いくらLROと言うシステムのご命令でも、安易に受け入れられない事がある。そもそも僕はそんな都合良く死ねる体してないんだ。


 この通知は絶対に僕以外を想定して言ってると思う。普通にLROをプレイしてるプレイヤーに向かって、死なんてそんなに受け入れがたい物じゃない……と言う前提の元の通知。
 それにいっその事の思い切ってのこの通知がプレイヤーの戦意を喪失させる物って感じもする。それで死を促すみたいなさ……


「このまま理不尽には死ねない。僕は攻略出来ないダンジョンなんて認めてやらねえ!!」


 そう言って僕は通知をゴミ箱へ送ってやった。そして見据えるのは迫り来る大量の敵敵敵。それは勝てる見込みなんて零と同じかも知れない。
 けど、こんな……こんな終わり方は認めたくない。いけた筈だ。やれた筈だ。それを勝手に奪い取る権利がシステムにあるって言うのか!? 
 それにやっぱり、僕はそう簡単に死ねないんだよ。攻略させないから死を選べなんて受け入れられないな。更に言えば、この先で待ってる奴の事も放っておく事なんて出来ないし。


「スオウ君、やる気だね。いや……それは当然か。こんな通知、君が受け入れられる筈もないしね。…………微力ながら僕もあがいてみようかな」


 そう言ってテッケンさんも前を見据えて気合いを入れる。そうこなくっちゃな。


「私は、元からこうする気よ。別にアンタの為じゃないから。そもそも途中まで広げてた穴を、いきなり閉じるのが気に食わない。
 不味いからって……それが何よ。こんな理不尽に、私は屈したりはしない!」


 セラは勝てないなんて思ってなさそうな気迫があるな。まあそれだけの戦意を保ってくれるのなら頼もしいけどね。


「まあ、最後までつき合いはしてやるさ。なんかどうもきな臭いしな」
「そうですね。面倒臭がる割には鍛冶屋さんはきっとそう言ってくれると思ってました。今更ここでなんて素直に引ける筈ありません。
 それにダンジョンの仕様の変更……これはやっぱりどう考えてもおかしいです」


 おかしいのは分かってる。僕からしたらLROがおかしく無い方が珍しい位だよ。けどシルクちゃん達が言ってるのは、LROそのものって訳でも無いのかも知れない。


「ちょちょ、皆さんやる気っすね。これって正式な通知っすよ。確かに自分も納得なんて出来ないっすけど……」


 一人躊躇ってるノウイ。だけどそれがきっと普通なんだろう。でも、既に躊躇ってる時間は終了の様だ。不気味な行進音を響かせてた敵がその動きを止めて、手にする杖を一斉に掲げだした。
 全部モブリサイズの敵だから、デカい杖を掲げて、ようやく僕達の胸位の位置かなと思える。そんな杖が不気味な光を放ちだし……そして一斉に飛んできた。
 空間全体から迫る大量過ぎる不気味な光。けど、その光は幾ら集まってもこの空間を照らす事はない様だ。


「ちょっ! タンマを宣言したいっす!!」
「そんなの聞き入れる訳ないだろ! 止めたきゃ倒すしかない!! てか、モブリだからアンデットでも魔法主体の攻撃って訳か」


 なんてやっかいな。遠距離からなぶり殺しにする気らしいな。今はなんとか避けれてるけど、こんなのいつまでも避け続けられる数じゃない。こっちも打ってでないと……


「スオウ君、彼らはモブリであるアンデット……それを活かす形らしい。なら……魔法に徳化したモブリの弱点を突こう! 接近戦だ。いけるよね?」


 テッケンさんが降り続く光の雨の中、僕へ向かってそう言ってくれる。僕は当然こう言うよ。


「当然です!!」


 その言葉と同時に、僕とテッケンさんは飛び出した。そしてどうやら、それに続いて鍛冶屋とセラもついてくる。僕達は不気味な光をかわし、そして打ち落としながら敵モブリへ突っ込む。


「「「うおおおらあああああああああああ!!!!」」」


 僕とテッケンさん二陣の奮迅が敵のどてっ腹に風穴をあける。そんな僕達を狙う敵を、後から続いた鍛冶屋とセラがフォローしてくれる。
 見事な連携で、最初の一手は上手く行ったな。そしてこれだけの密集地帯なら、奴らもそう易々とは撃ってこれない――


「うん?」


 ドビュンと、僕の頬を何かが掠めた。いや……既に何かなんて言い方は必要ないか。どう考えてもさっきの怪しい光だ。
 それが前にあった別の奴の杖を粉砕して、死角から飛び込んで来たんだ。


「おいおい……マジか――よ!?」


 近さと容赦なさが半端無い。更には視界を遮る物が近さでうざったいせいで、避けきら――――無い!!


「づあああああああ!!」
「鍛冶屋!」


 最初に吹っ飛ばされたのは大鎚を振り回す事も出来なかった鍛冶屋。大量の光を受けて、後方へ鍛冶屋は飛んでいく。そしてそんな鍛冶屋を狙う様に、更に光が飛んでいく。


「くっそ……」


 助けなきゃ……でも、こっちはこっちで自分のを防ぐので精一杯だ。このままじゃ鍛冶屋はやられる。


「やらせはしない!!」


 するとそんな声と共に、テッケンさんが動いた。小さな影が、まるで続く様に動き出したかと思うと、全ての光を避けて瞬く間に鍛冶屋の前に駆けつける。
 そして四人に分かれたテッケンさんが、降り注ぐ光を打ち落とし始めた。


「シルク! 今の内だ!!」
「はい!」


 そしてそんな言葉と共に、控えてたシルクちゃんを呼んで、回復をして貰う。何とかこれで……そう思ってると、足に光が当たる。


「っつ!? ――油断した」


 体が揺らぐ。足が後方へ流れて、このままじゃ地面に倒れ伏してしまう。そうなったら、一気に光が降り注ぐ事になるだろう。
 僕は地面に片手をつく。だけどそこで踏ん張らないで、横へ体を流した。すると直後に元居た場所に降り注ぐ光の雨。なんて危ないんだ。
 けどその直後には方向修正して来る攻撃。だけどこの一瞬で十分だ。僕は真っ先に修正された光を切り伏せてその場を飛んだ。そして空中でも二対の険で光を切って、地面に降り立つ。
 なんとか……だな。でも一息付く暇もない。


「こいつら……」


 セラもそんな事呟いてる。頑張ってるけど、徐々に押されてるのは僕と同じの様だ。まさか接近戦を仕掛けて、こっちが不利になるとはな。
 近いせいで逆に避けづらいんだ。奴らは味方も関係なしだしな。きっとアンデットの特性故にだろう。奴らは死なない。HPがない。
 それこそ殺すにはシルクちゃんの魔法が必要なんだけど……この数の差だ。シルクちゃんの回復魔法を攻撃に回す余裕がない。本当なら僕達が接近戦で引きつけてる間に……とか思ってたんだけど、鍛冶屋の奴が予定よりも早く吹っ飛ばされるから、そっちにシルクちゃんは回ってる。


「おいおい、随分辛そうじゃんかセラ」
「アンタこそ、さっきは随分危なそうだったわよ」
「うっせえ、あれはワザとだ」
「どんなワザとよ。じゃあこれは私演技だから」
「なら余裕の演技も期待したい所だけど……」
「うるさい」


 僕とセラは互いにジリジリと下がって行ってた。実際喋ってる余裕なんてないんだけど……文句でも綴ってなきゃやってられない状況だ。てかお互いに強がってるから「こいつより先にやられるか」って意識が働いてると思う。
 どんどん僕達は追いつめられてる。前に出てきた筈なのに、既に半分位押し戻さてるし……更に言えば、これから前へも行けない。
 多分これ以上前に居こうとすれば、避けられなくなる。それが分かるんだ。鍛冶屋の二の舞になると不味い。さっきはテッケンさんの獅子奮迅ぶりの活躍でなんとか総崩れしないですんだけど、既にミシミシという亀裂が聞こえてる気は確実にする。


「二人ともまだまだ元気みたいだね」


 敵の攻撃に押されながら、鍛冶屋が回復を受けてる場所に次第に僕達も押されつつある中、そんな鍛冶屋やシルクちゃんを守る用に奮闘してるテッケンさんが、なんだか嫌味っぽい事を……
 だから僕も一番息づかいが荒くなってる彼に、こう返してやる。


「当然ですね。あれれ、テッケンさんはそんな余裕も無い感じですか?」
「それを言っちゃ可哀想よスオウ。彼は若く見えるけど、ただ小さいだけなのだからね。十代のフレッシュさを、二十歳超えた人達に求めるのは酷なのよ」


 おいおい、相変わらずセラはバッサリ行くな。オブラートに包むって事を知らないよなコイツ。僕達は本気でテッケンさんを凹ませる気は無いんだぞ。
 てか、そうなったらこっちが困る。これはちょっと相手を刺激してのテンションアップのテッケンさんの気遣いなのに……下手したらズドーーンと気持ちが落ちるわ!
 僕が内心でセラを責めてると、案外マジで悔しそうにテッケンさんはこう言った。


「は……はははははは、逆に二人を心配を掛けてしまった様だね。僕はまだまだ、おじさんには成っちゃいないから安心してくれ。
 こんなの屁でもない」


 そう言って分身共々更に動きにキレが戻った。若さには負けたくないのか? てか、笑い声が怖かったよ。なんか随分野太く力強かったし……でも、心配は杞憂で何よりだ。これならまだ持つだろう。だけど……


「それはとっても心強いんですけど、この状況は思いだけで切り抜けられますか?」


 僕達は一カ所に押し戻された。そしてそこに向かって一斉の連続攻撃。僕達はこれ以上下がる事も、ましてや、張り付けにされた様な今の状況じゃ、前に出ることもかなわない。
 僕とセラそしてテッケンさんは、後ろで回復を受けてる鍛冶屋と、それを行ってるシルクちゃん二人を守る為に、向かい来る紫色した怪しげな光を落としまくる。
 ある意味今は、避ける事さえ封じられた感じだ。


「それでも、切り抜けないとだろ? 僕達はクリエ様の元まで行かなくちゃ行けないんだ。まあ正確には、君を届けれれば良いとは思うけどね」
「どっちにしたってアンタは死ねないでしょ!? 余計な事を考えてないで、生きる事だけを想像してなさいよ。
 どんな状況だって、それを簡単に受け入れられないのはアンタなんだからね」


 テッケンさんとセラは、それぞれの考えを力強く言ってくれたよ。二人とも、降り注ぐ攻撃に臆さずにちゃんと立ち向かいながら……何とも頼もしい。
 僕達の周りは跳ね返し続けてる敵の攻撃を受けて、どんどん穴が大量に空いてきてる。
 でも……一向に攻撃が止む気配すらない。幾ら攻撃を防げても、こっちも反撃に転じれ無い今の状況じゃ、僕達にとっては消耗戦でしかない。


 確かに僕は死ねないけどさ……このままじゃ遅いか早いかの違いだよ。今の状況じゃ、確実に僕達は押しつぶされる。
 幾ら気にしない風にしてたって、この数の差だけじゃない、あの通知にだって僕達は動揺してるんだからな。


「――っつ!」


 幾ら落としたかもわからなくなる紫の光。絶え間無く向き合わされるその光が、次第に重く成ってきてる様な気がする。
 一個一個への反応も少しずつ遅れが出始める。それは僕だけじゃない。セラもテッケンさんも、実際はかなり疲労が貯まって来てる。
 このままじゃヤバい……押しつぶされるのも時間の問題だ。すると後方へいつの間にか居なかったノウイが姿を現した。
 ミラージュコロイド? 一体何をやってたんだ。てか、戦闘中はその存在が薄く成るから忘れてた。


「シルク様、やっぱりここにはどこにも出口らしいものなかったっす。てか、ここが一番やばそうっすね。お三方頑張って!」


 頑張ってるわ!! もうこっちは必死で後ろのシルクちゃんとかを守ってるつうの。なんかノウイの奴に言われたら、苛立ちが先に訪れたよ。
 てか、知らない間にミラージュコロイドを使って、この広い空間を捜索してた訳か。確かにそれにはノウイは適任だな。
 でも、その結果はちょっと芳しく無いよな……出口はやっぱりどこにもないって事みたいだし。


「そうですか。ありがとうございますノウイさん。取りあえず、ミラージュコロイドを階下にまで伸ばしてくれませんか?」
「良いですけど、何する気っすか? ここに出口があった筈なんすよ?」


 確かに……でもあったはずの出口はもう閉じられたんだろ。後ろで交わされる会話がとっても気になるけど……僕たちはその会話に混ざれ無い。僕たち三人が気を抜けば、その瞬間にパーティー全滅に成りかねないからね。
 僕は前に集中しながらも、二人の会話をなんとか聞こうと耳を傾ける。


「それはもう使えません。そう宣言されましたし――って、今はそんな事、悠長に喋ってる場合じゃないですよ。取りあえず宜しくお願いします」
「は、はいっす」


 なんだかシルクちゃんは何かをする様子だな。取りあえずこの状況を切り抜けられるのなら、それに縋りたい気分だ。


「皆さん聞いてください!」


 凛とした声でそう発するシルクちゃん。だけどその時、一際強い光がこの薄暗い空間に灯った。何十人かの攻撃を合わせた様な代物。
 大きく成ったその紫の光がまがまがしく迫ってくる。


「くっそ! 手が足りな――」


 光は直ぐそこだ。これが直撃すれば間違いなくヤバい。でもセラもテッケンさんもましてや僕も一杯一杯で、止めれる奴が誰も居ない。するとその時、僕達の間を影が抜けた。


「どっせえええええいいいいいいいい!!」


 振りかぶられた大槌。それは直撃するはずだった攻撃を直前で敵の方へ打ち返しやがった。おいおい、こんな事一体誰が? って決まってる。
 シルクちゃんはヒーラーだし、ノウイは論外。なら後は一人しかいないよな。


「待たせたなおまえ等。真打ちはここからだ!」


 そんな事を言いながら大槌を肩に構え直すのは鍛冶屋だ。どうやら回復出来た様だな。随分待たせてくれたよ全く。
 鍛冶屋に跳ね返された光は、そのまま敵へ突っ込んだ様で、一時的に攻撃が止んだ。そしてそこを見逃さずにシルクちゃんが声を出す。


「鍛冶屋さんには悪いけど、一時幕引きです! 今の内に急いでミラージュコロイドで離脱しましょう!」
「そうだね。ここは一端退こう」


 シルクちゃんの言葉に真っ先にテッケンさんが賛同した。そして僕達も依存はない。だってまたあの状況に成ったら、今度こそ危ない。退ける時に退くことも勇気だよ。


「おおい! 敵前逃亡か貴様等!?」
「うるさい、お前も急がないと蜂の巣にされるぞ! 鈍いんだからな!」


 だからこそ真っ先に攻撃食らったんだ。その事を忘れるな。鍛冶屋はこの中でなら平均的な攻撃力は一番だろうけど、その分スピードが落ちる。
 それじゃあ奴らの攻撃は防げないんだ。


「あんな奴らに俺の武器が遅れを取るなど……」


 なんかブツブツ言ってると、後ろから再び攻撃が再会された。慌ててこちらに走ってくる鍛冶屋。僕は手を伸ばしてその手を取ってやる。


「よし! 良いぞノウイ!」
「了解っす!!」


 僕達はミラージュコロイドによって一気に階下へと逃げ去った。




「ぜぇはぁぜぇはぁ……」


 流石にあれだけの敵の相手はきつい。でもここで気を抜くわけには行かない。どうせ追ってくるんだろうからな。


「どうする? 逃げ道なんて無いよ。それに今はもう、ここも殆ど一本道だし……」
 これじゃあ直ぐに僕達は袋の鼠だ。通路はそんな広さじゃ無いから、一斉攻撃には限度があるだろうけど、あの数だ……倒しきれるか。ましてや、倒すことに意味があるのかも疑問だよ。
 あいつ等を倒したって、出口が現れるなんて期待していいのかどうか。


「そうですね。今の状況は私たちにとって不利過ぎます。一回離脱しましたけど、それから策があった訳でもないですし……でも、取り合えずこういうのはどうでしょう?」
「どう言うの?」


 僕は息を整えながら、その言葉を返す。すると階上の方から、早くも奴らの攻撃が降ってくるじゃないか。


「早いですね。取り合えず、この先の球体をハメた所まで走りましょう!」


 そう言ってシルクちゃんはピク共々走り出す。僕達もそれに続かない訳には行かない。そしてたどり着いたのは、僕達が一番苦戦したパズルをした場所だ。
 ここまで余計な道なんて無い……僕達が正解以外の道は潰したからね。


「だけど今は、その正解じゃ無い道が必要だと思いませんか?」


 シルクちゃんはおもむろに球体をハメた台座へ手を突っ込む。まさかそういう事か!?


「シルクちゃんそれは!」
「わかってます。これは今までの努力を無駄にすること。だけど一本道じゃ、私たちは追いつめられるだけです!!」


 強く断言するシルクちゃん。それは……確かにそうだ。彼女は、最初僕達が憤る程に広かった場所へ戻す事で、可能性って奴を広げようとしてるんだ。
 そして彼女の細腕が、穴から球体を引っこ抜く。すると一瞬だけ一際強く光ったと思うと、周りの壁にこの球体と同じ模様が現れて、そして消えた。
 それと同時に大きな揺れと共に、塞がれてた通路が姿を現した。僕達はきっと複雑な思いと表情をしてただろう。だけどそんな中、シルクちゃんは、手に残った球体を見つめてこう言った。


「私は諦めてません。絶対にここから死なずに出て見せます。だからそのために、足掻きましょう。それが私達らしいじゃないですか」


 フワリと咲くその笑顔が、僕達の心を固めてくれる。そうだな……それが僕達らしい。

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