命改変プログラム

ファーストなサイコロ

重く苦しき悪魔の裁き



 小さな村に、モンスターの断末魔が木霊する。だけど切っても切っても、沸いて出るみたいにモンスターは絶えない。
 四方八方から迫り来るモンスター共を相手にしながら、僕達は村の出口を目指してた。


「たく、いくら倒しても切りがない!」
「どうやら、倒した傍から回復されて行ってるみたいだね」
「回復って……一体どこから?」


 周りを見渡しても、魔法を唱えてる様なモブリの姿は無いんだけど……でも確かに、さっきから全然減った気がしないからな。
 それになんだか誘導されてるような……自然とモンスターの層が厚い方は避けてるんだけど、それだと一向に村から出れない。
 このままじゃ体力を無駄に使ってる様なものだ。


「お兄ちゃん……声が……苦しくて痛い声が聞こえるよ」
「クリエ……」


 僕の首に腕を回して、背中を陣取ってるクリエがそんな震えた声を出す。なんだかさっきから苦しそうなんだよな。
 どうやらあのモンスター達の声が変な影響を与えてるみたいだけど……どういう事なんだろう? そもそも村の中をモンスターがばっこする時点でおかしいんだけど、確かにこのモンスター共はどこか操られてる……そんな感じだ。


「心配するなよ。大丈夫、直ぐにこんな場所からは離れてやるから、もうちょっとだけ我慢してろ」
「……うん」


 僕は背中のクリエにそう言って、前を向く。鍛冶屋とテッケンさんがそれぞれの武器で、モンスターを凪ぎ払ってるけど、確かに奴らは消えはしてない。厄介だな。
 半月が照らす空の下、闇夜に浮かぶ赤い瞳は絶え間無く僕達に迫り来る。




「はぁはぁはぁ……ここは」


 僕達が誘導された場所は、一際大きな建物がある場所だった。多分村長の家か何かだろう。道を照らすように光り花が点在してたけど、一際離れた場所にあるから、後ろを向いてもそこにはモンスターと、道を照らしてた光花しか見えない。
 ある意味、ここが村の際深部なのでは無いだろうか? 村から出るはずが、上手い具合にやられた訳だ。


「やっぱりどこかで無理をしても厚い部分を突破するべきだったね」
「確かにな。ここはあの村長の家か……」


 テッケンさんと鍛冶屋が周囲に警戒しつつそう言った。周りには大量のモンスターが、狂った赤い目を輝かせて、獲物を狙ってる。


「襲って来ませんね。追いこんだからでしょうか?」
「どうだろう? ジリジリ迫って来やがって逆にやりづらいんだけど」


 さっきから妙に大人しく成りやがって、逆に不気味だよ。僕達を少しずつ建物の方へ追いやってるみたいなさ。


(追いやってる?)


 なんか引っかかる、このモンスター共の行動。こいつらがここに僕達を追いやったのには理由がある訳だよな。てか、こいつらはそもそも野生の本能の行動じゃない。
 こいつらを操って、ここに追いやった奴の意図が有るはずじゃないか? しかもその張本人は分かりやすい。僕達がここに居ることで示されてると思う。
 村から一際離れた場所。建物と建物の間にぽっかりと空いた空間……意図があってここに追いやられたのだとしたら、奴らは何を狙う?
 それは多分……僕達の捕獲。そしてモブリが得意とするのは、魔法だ。
 ジリジリと迫り来るモンスター達に、後ずさるしかない僕達。すると、村長の家も後ろに迫りつつある時、ピクが勢い良く鳴いた。


「ピーーーーーー!!」


 てな感じでさ。多分それは警告だったんだ。ピクの感知精度は一級品だからな。でもいきなり鳴かれても僕たちは分からないわけで……踏みしめた地面に、魔法陣が展開されて僕たちはその意味を知った。


「っつ――罠!?」
「きっと捕縛用の魔法だ! 散るんだみんな!!」


 テッケンさんの言葉で、僕たちは一斉にその場から飛び退いた。だけどどうやら、罠は一つじゃなかったようだ。飛び退いた先でも魔法が発動する。
 周囲に巻き起こる爆発の衝撃で、僕の体は飛ばされる。


「づあああああ!!」
「きゃああああああああ!!」


 背中の重みが無くなったと思ったら、クリエが先に地面に倒れてるじゃないか!


「クリエ!」
「う……ん、大丈夫……生きてるよ」


 そう言って、クリエは自分の体を起こそうとする。だけどそこで何か違和感を感じたようだった。


「あれ? ……重い」


 重いって、あの一瞬で体重は増えたりしないだろう――とか思ってたけど、僕も自分の体を起きあがらせようとして気づいた。いや感じた。そう重いって。


「なんだこれ? 確かになんか体が重い……」


 周りを見てみると、テッケンさん達も同じ様な格好をしてた。どうやら、あのトラップは爆発と一緒に、それに巻き込まれた敵に、重さを加算する様だ。
 なんて嫌らしい魔法だ。あの爺は性根が腐ってるな。最初からいけ好かなかったけど、ここまでとは。一気に捕まえるんじゃなく、徐々に弱らせて行く気なんて……姿も見えないけど、どうせ弱りきったタイミングで出てくる気なんだろう。
 丁度直ぐ後ろには奴の家があるんだしな。


「くっ……」


 僕は口元に垂れる血を拭い立ち上がる。まだ動けない程じゃない。少し体がズーンと重くダルいだけだ。でもトラップはまだまだ有るんだろうし、迂闊には動けないな。
 それにあの爆発を貰う度に体が重くなったら流石にヤバい。逃げ仰せる為には、ここが勝負時かも……


「大丈夫かみんな?」
「何とか……まだやれるよ」
「ああ、このくらいなら」
「私も、まだ大丈夫です!」


 みんなまだ大丈夫そうで良かった。でも流石にシルクちゃんは後二回もくらえば動けなく成りそうだな。クリエは既に限界っぽいし。
 やっぱりこういうのは、男と女の筋力の違いとか出てくる。なんとか動ける内に手を打たないと。


「こうなったらスキルを一斉に使って突破したほうが良さそうですね。幸い、あのモンスター共は数だけで、そんなに強いって訳でもないし」
「確かに……それが良いかもしれない。こうなったら、モンスターは気にせずに出口を目指そう。ここでにらみ合いを続ける訳には行かないからね」


 僕の意見にテッケンさんは乗ってくれた。そして鍛冶屋もシルクちゃんも頷いてくれる。決まりだな。モンスター共をけちらして進むか。
 そうと決まれば一気にイクシードで行くのが得策だろう。だけどそう決まって、動こうとしたまさにその時だった。




「「「悪魔を逃がすなぁーーーーーー!!」」」




 そんな声がモンスターの後ろ側で響いた。そして光が舞い上がる。それは無数の炎だった。どうやら家に引きこもった筈の村人達の一斉攻撃らしい。
 いやいや、これはヤバいって!! 無数の炎は僕たちの周りに容赦なく落ちる。衝撃と爆風と熱気が一斉に体を襲う。僕はイクシードよりも、クリエを守る事を優先した。
 着弾の寸前に、クリエを庇う様に抱きしめる。


「お兄ちゃん!」
「良いから舌噛まないように黙ってろ!」


 爆発で飛ばされた先で、爆発が起こる。そんな事が続いた。それは村人による攻撃と、罠として設置してあった爆発がきっと入り乱れてたんだろう。
 耳がおかしく成ったような状態の中、ただ僕はクリエを守ることに必死だった。そしてようやく爆発が収まると、僕はチカチカする目を開けて自分の体の状態を確認する。


(やっべ……全然動かない)


 それが結論だった。もうほんと、全く動かない。きっと爆発のダメージと、罠の特性にやられたな。


「お兄ちゃん……」


 心配そうな目を向けるクリエ。まあこいつが無事だっただけ良しとするか。まあまだ全然守れたとは言えないけど。ここでもう一度捕まると、確実に処刑されるだろうしな。
 それが今直ぐ行われたっておかしくない。だって一度逃げ出したんだ。中央への言い訳もなんだって出きるだろう。
 このままじゃ猶予もなくお陀仏……それだけは回避したい。でも僕の体は既に動かない……他のみんなはどうなんだろう?


 僕はそう思って、一縷の望みを思い、周囲に視線を巡らせる。爆発続きで随分と凸凹に成ってしまった地面。そこにはテッケンさんに鍛冶屋、シルクちゃんの横たわった姿があった。
 流石にあの容赦のない猛攻は、誰も防ぎきれなかったって事か。


「テッケンさん……鍛冶屋……シルクちゃん……」
「くっ……無念だよ。指先一つ動かせない……」
「絶対絶命……俺の鎚も改良の余地が有るな」
「うう……済みません。紙一重で障壁が間に合わなくて……」


 みんな精一杯やってくれたようだけど、上手くは行かなかったようだ。まあいつだって、自分達に都合の良いように物語が運ぶなんてあり得ない。
 だけどこれは……あまりにも悔しいだろう。これだけ息巻いて「助ける」と言ったのに、こんな所でノックダウンなんてさ。


「ん……そう言えば……ピクは?」


 シルクちゃんは見えるけど、ピクは倒れてない。アイツは飛べるから爆発に巻き込まれてないのか?


「ピクは空に居ます……どうにかして隙を見て、ストック魔法を使えれば……まだどうにか出来るんですけど……だけど確実じゃありません。
 この手の魔法がイベント専用の物なら、リカバリーが効かないかも……あの縄は同じ魔法があったけど、これは私も知らないんです」


 そうなんだ、イベントってそんな事も起こり得るのか? それじゃあ僕達はどのみち助からない様な……それならもっと確実な事にピクは使わせて貰った方が……
 そうピクなら、子供の一人くらい運べる筈だ。


「ねえシルクちゃん、ピクにクリエを運ばせる事は出来ないかな?」
「そ……それって……」
「僕達はプレイヤーだよ。殺されたって本当に死ぬ訳じゃない。ミッション失敗するだけ……だろ?」


 するとテッケンさんが横から割ってきた。


「僕達は確かにそうだけど、君は違うだろ! どんどん君はLROに深く入り込んでる。この前入院したばかりだ。次は病院じゃなく、墓に入ることに成るかも知れないんだよ」
「はは……冗談きっついですよテッケンさん」


 墓って……流石にそれはちょっとね。テッケンさんが言うと冗談に聞こえないじゃないか。


「冗談で済むなんて君だって思っちゃいないだろう。命の重さは誰よりも分かってる」
「だからこそ……でしょう。こいつにとってこの命は一つですよ。ただのプログラムでシステムかも知れない。殺されても、ミッション前に戻るだけなのかも知れない。
 けど、それで僕が終わりたくない。だって、無くせ無いじゃん。そんな都合良く、僕達の頭は出来てないし、今ここにいるこいつを、僕は連れていってやるって約束したんです」


 僕は胸の中にいるクリエを強く抱く。体はあまり動かないから、心で。本当にこれがただのゲームなら……クリエがただのNPCに思えるのなら、ここまでなんてしてない。
 でも、違うんだ。クリエは違う。この無邪気なお子様には感情が確かに有るよ。僕はそれを感じてる。だからこそ、ここで諦めて全てを無かったことにして、前の状態に戻らせるなんてイヤなんだ。


「お兄ちゃん……クリエは……クリエは……イヤだよそんなの! 一人なんてしないで!!」


 胸の中からそんな声が聞こえた。大きな瞳には、ガラにも無く雨粒の様な水滴が貯まってた。でもクリエは必死に我慢してる。そして僕も、こんな所でこいつを泣かせたくなんか無いんだ。
 しょうがない、その案は却下するしかないか。


「心配するな。全部お兄ちゃんに任せとけ」


 そう言って僕は歯を食い締める。


「んがああああああああっ……ああああ!」


 動かない手に足に力を込める。クリエを庇う態勢のまま、体を少しずつあげていく。四肢にありったけの、いやありったけ以上の思いと力を込めて。


「ぐああああああああああああああ……」


 自分の体がこんなにも重いと感じた事はない。でも……まだ僕の体は動く……動くんだ。もっと、これよりも怖く恐ろしい状態を僕は知ってるよ。
 暗いところにただ落ちていく様な……そんな死の感覚を。あれに比べれば、動く事を実感できる今は、それほどじゃねえ。


「ま、まさかまだ動けるのか?」
「やっぱり悪魔……悪魔なのよ……」


 モンスター共の後ろにたむろってる村人連中から、そんな声が漏れてた。悪魔ね……こんな事しといて一体どっちが悪魔なんだか……こいつらはきっと、信仰の為なら子供にだってその魔法を向けるんだろう。


 大儀の為に? 神の為に? ふざけるなと言いたい。そんな事が許されるかよ。いや、そんな事を許す神なら、こっちから僕的には願い下げた。
 直接見てるんなら、空の向こうで胡座をかいてる野郎の指図じゃなく、自分で考えろよ。


 何とか四つん這い程度には体を起こせた。だけどそれだけで顔から無数の水滴が地面に落ちる。一体僕に加算された重さはどれほどなのだろう?
 けど、それを考えたらこれ以上動けなくなりそうだからやめた。腕の先にはセラ・シルフィングがある。僕は相棒に語りかける様に言った。


「まだ……いけるよな?」


 そんな言葉にセラ・シルフィングが何か明確な意志を示す訳はない。だけどこればっかりはさ……僕もクリエと同じように分かるんだ。
 それはずっと一緒に戦ってきたからだろう。僕には分かる。セラ・シルフィングが「まだ行ける」そう言ってくれてるってさ。
 僕は口元に笑みを浮かべて、その柄を握りしめた。するとそれに答える様に刀身に風が集まってきた。そしてそれは瞬く間に風のうねりへと変貌する。


「スオウ君……」
「スオウ……お前……」


 テッケンさんと鍛冶屋の驚く様な声が聞こえた。二人も頑張ってるんだろうけど、それこそ普通はシステムに縛られてる筈だ。
 有る意味僕は、LROに深く浸かってる分、無理を通せてるのかも知れないな。それだけリスクも高いけど、だけど無理も無茶も、通さないといけない場面でそれが出来るなら、後悔しなくていいだろう。


「ここは、なんとしても切り抜けます!」


 僕はそう言ってセラ・シルフィングをその場で振るう。風のうねりが地面を這ってまっすぐに進んだ。狼みたいなモンスター数体を串刺しにする風のうねり。そして反対側は横に凪いだ。
 風のうねりに斬り裂かれて、オブジェクト化して消えていくモンスター。


(通じてる?)


 そんな様子が見て取れた。逃げてるときは、幾ら攻撃してダメージを与えても、完全に倒せる事は無かったのに、今はたった一撃でやれた。
 どういう事か分からないけど、これはチャンスだろう。風のうねりがモンスターの壁を越えて、自分達の直ぐ脇を掠めた事で、村人連中は慌てふためいてるしな。
 ここを逃す訳には行かない!!


「うがあああああああああ!!」


 思い切って一歩を踏み出した僕。その一歩は恐ろしく重く、地面がズンと揺れる程だった。だけどこれで、真っ直ぐに前を向ける。


「なな何やってる、あの悪魔を今直ぐ食い殺せ!!」


 そんな村人の言葉で、周りを囲んでたモンスターが動き出す。食べていいと言われたからか、モンスターどもは盛大に涎を垂らしてやがる。だけど!
 風の鋭い音が一瞬響く。それだけで奴らはオブジェクト化して消えていく。絶え間無いそんな光が、この村に月明かりや光花とは違う光を与えてた。
 迎え打つだけで一撃で済ませれるのなら、この場から動かなくても事足りた。せめて向きを変えるだけ。それに合わせて、風のうねりは踊るように舞ってくれる。
 僕を中心として回転する風のうねりは、次第に他の風にも影響を与えてく。それはモンスターどもの動きを奪い、そして斬り裂く。一種の竜巻が出来上がってた。


「これで――最後だ!!」


 掲げたセラ・シルフィングの先には数体のモンスターが空に打ち上げられてた。そしてそいつ等も青い光と共に、体が崩れさって消えていく。


「はぁはぁ……」


 僕は気が抜けそうな心に必死に鞭を打って気持ちを保たせる。だってまだ終わりじゃない。雑魚を葬っただけだ。後は村人達に村長もいる。
 戦わなくて済むならそれが一番だけど……でもここで僕が倒れたら、おしまいと分かる。でも今は、村人達も動揺してる。手負いの僕が、あれだけのモンスターを葬ったものだから、畏怖してる。
 だからこれを利用しない手は無いだろう。僕は息を必死に整えてから、高圧的に睨みを効かせる。すると案の定ジリッと後ずさりする村人達。


「退けよお前等。今ならここから出ていく……それだけにしといてやる。でもそれを阻むって言うんなら、どうなっても知らないぞ」


 精一杯悪役っぽく言ってみた。実際はただのはったりだ。僕以外は既に動けないし、僕だって一歩踏むだけで息が切れる位だ。
 でもそれでも……このはったりを通さなくちゃ行けない。そうしないとここで殺されるだろうから。僕は視線に全力で「退け退け退け退け」と込めまくった。場の雰囲気は少しずつだけど僕の方に来てるはずだ。異様だった雰囲気を、更なる異様で覆いだしてる。
 でもその時だった。後ろの方から何かを叩きつける様な音と共に、僕にのし掛かる重量が更に増加されて、思わず片膝を地面に付いた。
 そして村中に届きそうな怒声が飛んだ。


「狼狽えるでないのじゃ!! 奴の言葉ははったりよ。既に虫の息にすぎん。悪魔を外に出す訳にはいかん。悪魔は我らの手で葬らなければなのじゃ。
 それが神の意向で、世界の為じゃ!!」


 そんな言葉と共に、後ろの建物から現れたのは爺のモブリ。やっぱりこいつが村長か。せっかく行けそうだった雰囲気が奴によって塗り変えられた。
 村長の出現は村人達の迷いを取り去ったみたいだ。彼らは小さな体で大きな杖を構えて、僕達の前に立ちふさがる。


「……何が世界の為だ」
「悪魔はここで死すべきなのじゃよ。一に世界は代えられん」


 こいつらの世界には数えられない一が多すぎるんだろうな。どうしてそんなたった一つも、世界とは思えないのか……同じ命だろうに……生きる権利は平等じゃないのかよ。
 僕は圧し掛かる重圧の中で、風のうねりを村長へと向ける。


「ふざっ……けるなよ! 悪魔悪魔って……こいつが悪魔なんてものに見えるのか? お前等と同じモブリだろ! お前等が守るべき子供だろーが!!
 それを悪魔だと決めつける事しか出来ないのなら……お前等の信じる神様なんて……僕にとってはクソくらえだ」
「ふん、後から出てきた猿の分際が。貴様等人は、シスカ様の恵みが一番薄い。だからこそ、そんな事を言うのじゃよ!」


 僕の風は村長まで届かなかった。奴の周りにはどうやらシールドが張ってあるみたいだ。そして言葉の終わりと共に奴も杖を掲げた。そしてその頭上には圧縮された炎が集い出す。村人全てから放たれる炎が、村長の掲げた杖の先に集ってく。
 それはまるで……小さな太陽だ。


「悪魔にふさわしい滅し方を与えようぞ!!」
「――っつ、ダメージがヒドい……それに……」


 みんなは動けないんだ。どうにかして防がないと。


「シルクちゃん、転移魔法で全員を飛ばす事は?」
「確かにストックにそれもあるけど、でも全員は無理です。クリエちゃんはNPCだもの」


 ああ、そっか確かにその通りだ。くっそ、結局体を張るしかないか。でも相性が悪い。風と炎……こうなったらイクシードをもう一段階あげるしか……って条件が整ってないか。
 まさに絶体絶命。吹き上げる熱気が肌を焦がす。そして村長はその太陽をこちらに放った。小さかった太陽が一気に膨らむ。そして僕達全員を巻き込んで燃え盛る――――かと思ったその瞬間、空から黄金の光が降ってきた。
 それが膨らんだ太陽を消し去り、地面を抉り湖の月を切り裂いた。そしてこの場に響くは、聞き覚えのある声だ。


「そこまでです! 彼らの身柄は私アンダーソンが預かります!」


 月明かりに照らされて見えるのは、空に浮かぶ巨大な船だった。

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