命改変プログラム

ファーストなサイコロ

鳥かごと繋がれた獣



「お兄ちゃん……お兄ちゃん!!」
「んあ?」


 ゆさゆさと小さな振動が連続的に続き、耳を擽るような声に僕の意識は引き戻された。視界がぼやける中、何とか目を細めて焦点を合わせると、そこにはクリエが居た。
 まあ声からしてわかってたけど……ん?


「あれ? 動けないぞ」
「お兄ちゃん縛られたままだから」


 本当だ……何故かクリエは縄が解かれてるのに、僕の腕と足には例の魔法の縄が括られてる。それに……周りを見てみるとなんと手狭な事か。
 牢屋というか、これは鳥かごだな。しかもなんか高台に括られてるっぽい。視界が高いもん。あらかた状況を確認して、改めてクリエに向き直る。
 そして沸いてくる不満を言った。


「なんでお前だけ自由なんだよ。理不尽だな」
「それはクリエが可愛いからじゃないかな!」


 自信満々に無い胸を反らすクリエ。可愛い自分で言ったよコイツ。僕はそこを流して返してやる。


「まあお前が子供だからだな」
「可愛いからだってばーーーー!!」


 クリエは大層不満がってバンバン飛び跳ねる。すると宙吊り状態の鳥かごはグワングワン揺れて危ない危ない。


「ちょ! おま! あばれんな!」
「あわっ――たた、アタッ!」


 僕の言葉空しく、クリエは自身が引き起こした揺れで足を滑らせて転がった。そして鉄格子に頭ぶつけてやんのププ。


「たく、だから言ったろ『危ない』って。言うこと聞かないからそうなるんだよ」
「うう~、今笑ったよねお兄ちゃん?」
「へ? なんの事だか?」


 なにぃ!? 声には出してなかった筈なのに、なんで気付いてるんだコイツ。でもここはお兄ちゃんの威厳の為にシラを切り通すぜ。


「ふ~んそっか……クリエの事を笑うお兄ちゃんにはお仕置きだね」
「はっ、お前に何が出来るって……」


 僕の言葉は最後まで続かなかった。何故なら、僕を見下ろすクリエが、やけに自信満々だったからだ。そして口元をつり上げてこんな事を言う。


「お兄ちゃん……手足が縛られてちゃ、色々と不自由だよね。そう例えば、踏ん張ることも出来なくて!!」


 キラリ~~~ンとクリエの目が光った気がした。するとクリエはがっしりと両手で鉄格子を掴むと、鳥かごの端の方で力強く体を揺らし始める。
 次第に少しづつ速度が上がっていく鳥かご。コイツ、ブランコの用量で立ちこぎみたいにやってるな。全身をバネの様に使ってるんだ。
 すると勢いに釣られて、僕の体が次第に動き出した。マジで踏ん張る事が出来ないから、慣性の法則に従うしかない。


「クリエ、覚えてろよ!!」
「あっはは! こっちの台詞だよーー!! あーっははははは!!」


 心底楽しそうに鳥かごを揺らし続けるクリエ。その度に僕の体は鉄格子に容赦なくぶつけられる。なんて悪女っぽい笑い……コイツは将来とんでもない悪女に成るのかも知れない。
 将来があるのかは知らないけどさ。取り合えずこのままじゃ僕の将来が無くなりそう……鉄格子ってやっぱ痛いんだ。まあだからってHPは減らないけどさ。


 クリエにおちょくられるなんて屈辱だ。こんなバカッぽいお子様にいいようにしてやられるとは……これもあの老人のせいだな。
 ここから抜け出したら、真っ先に寿命を終わらせにいってやろう。僕が痛みの中でそんな決意をしていると、どこかからか知ってる声が聞こえてきた。


「楽しそうだねスオウ君……」


 それはテッケンさんだ。心なしか彼には珍しく、冷めた声だった。僕は必死に否定するよ。


「これが――ぐわっ! たのし――づっ! そうに――むぎゃ! 見えますか!?」


 クリエの奴、揺らす事に夢中に成ってんじゃねーか!! これだからバカな子供は! 僕の惨状に苦笑いを返すテッケンさん。彼はこの鳥かごが吊されてる建物の中央部分、多分監視の為の小屋がある所に立ってた。
 まあ様はこの鳥かごは一つじゃないんだよね。見たところ同じタイプの物があと三つ。僕達のを入れて四つある。その四つの中心部分はしっかりとした建物でそこに彼は居るわけ。


「テッケンさん、不味いです! 変に目立っちゃってます!」


 そんな声と共に小屋から顔を出したのはシルクちゃんだ。それなら多分中には鍛冶屋も居るんだろうな。監視の人達をどうにかしたのかな? するとシルクちゃんの言葉を受けたテッケンさんが僕達に、こう言った。


「だ、そうだよ二人とも。お楽しみの所悪いけど、ちょっと静かにしてくれないかい?」
「それはあのバカな子供に言ってください!!」


  僕は必死に夢中で鳥かごを揺らし続けるクリエの存在を訴える。確かに僕達は騒ぎすぎかも知れないけどさ、これもそれもみんなあのバカのせいなんだ。牢屋であろうこんなところで高笑いしてちゃ、それは注目されるわ。なんてったってここ高いし、クリエのバカな笑い声は村中に届いてるんじゃ無いだろうか。


「はは……」


 テッケンさんは僕の言葉を受け取っても、乾いた笑い声を漏らすだけだった。テッケンさんは基本優しいからな、子供にがつんとは言えないのかも知れない。たく、しょうがない。ここはお兄ちゃんとしてガツンと言ってやろう。


「おい! やめろクリエ! 死にたくないんだろうが!」
「当然だよ!!」


 そう言うと漕ぐのはやめてくれたクリエ。「死」って言うワードが効いたらしい。だけど相当な勢いだったから、なかなか鳥かご事態は止まらない。そうやってる間にも事態は進んでるようだ。


「テッケンさん! 急がないと気付かれちゃいます」
「いや、既に穏便には逃げれなそうだよシルクちゃん。悪いけど、鍛冶屋君と二人で時間を稼いで居てくれ。僕は一刻も早く二人を解放するよ!」
「わかりました!」


 そう言うとシルクちゃんは頭を室内へ引っ込めた。多分上がってくる階段は室内にあるんだろう。そして当のテッッケンさんは、こちらに向いたかと思うと、一気に飛び乗ってきた。
 鉄格子に張り付く形だ。するとその衝撃でもう一度鉄格子へぶつかる僕。


「ブベ!!」
「ご、ごめんスオウ君。だけど今は急がないといけない。取り合えずここを今すぐ開けるよ」


 散々な僕……テッケンさんはなにやら、鉄格子の鍵をどうにかしようとしてるらしい。てか、どうにか出来る物なのかな? こういうイベント事って勝手に逃げれるの? 
 色々と疑問はあるんだけど、流石のテッケンさんはピッキングも早かった。


「いや、これは鍵のおかげだよ」
「鍵なんですか!?」
「ああ、だってそこに看守がいたからね。気絶させると同時にちょっと拝借だよ」


 おお、テッケンさんが悪い子になってる。まあ僕達の為だけど。


「だ、誰なの?」
「ああ、心配ないよクリエ。僕の仲間だからな。言ったろ」


 なんだか妙に警戒してるクリエ。そそくさと、僕の方へ近づいて来て、服を掴んだ。何、クリエって人見知りするタイプなの?
 全然そうは見えないんだけど。てかキャラが違うだろ。テッケンさんがモブリだから警戒してるのか? 普通は同じ種族だからこそ――ってものだろうけど、クリエは今逃亡中だからかな。


「お初にお目にかかりますクリューエル様。自分の名はテッケン。どうかお見知りおきを」


 自分よりも更に小さなクリエにも深く頭を下げるテッケンさん。流石この人はかっこいいぜ。僕ならこんなバカっぽい奴にはそこまで下げないよ。
 クリエはそんな丁寧な自己紹介に、自分が上だと判断したのか、ちょっと不遜にこう言った。


「ま、まあなかなか見所あるみたいだね。お兄ちゃんと違ってクリエを小馬鹿にしてない所は好印象!
 だけど様付けはやめて。それじゃ友達っぽく無いもん。だからクリエね。クリエでいいよ」


 やっぱ小馬鹿にしてる所は感づかれてるみたいだな。まあ今更だからどうでも良いけど。それでも懐いてきてるしな。
 テッケンさんは明らかにクリエの下にランク付けされたのに、別段気にせずに爽やかにこう答える。


「了解ですクリエ。これで友達ですね」


 スッと手を出すテッケンさん。すると明らかにおっかなびっくりな感じでその手に自分の手を重ねるクリエ。少しだけ力を込めて互いに握り、そして放す。そして鉄拳さんは僕の縄を切るために、小刀を抜いた。
 するとその時、僕はクリエのおかしな行動を見たよ。何故か手を繋いだ手のひらをジッと見つめて、ウヘヘと不気味に肩を揺らしてる。やっぱりクリエってなんか変だよな。すると僕の方へやってきて耳元にこそこそと喋りかける。


「えへへ~ほらほら、手を繋いじゃったんだよ。友達の証だね。クリエは三位レベルが上がったよきっと」
「なんのレベルだよ……」


 相変わらず訳の分からない事を言う奴だ。だけど嬉し過ぎて僕の言葉は耳から脳まで届いてないみたいだ。ずっとニコニコしてるもん。
 するとそこでテッケンさんが僕に言う。


「ダメだね。やっぱり物理的には切れないみたいだ。シルクちゃんに頼るしかない。済まないけど、落として良いかい?」
「ええ!? ちょっとそれはどうでしょうか!」


 いくらテッケンさんの言うことでもそれは承諾しかねるよ。落としていいって、良くないし! ここ結構高いよ! 死にはしなくても僕は通常よりもリアルに痛みが来るんだからね。それは断固拒否したい。だって痛いのは出来るだけ避けたい。


「大丈夫だよ。勿論手は打つ。それに流石に僕の体格じゃ二人一度には運べないからね。スオウ君は彼女を一人置いて行くか、置いて行かれるかの方がいいのかい?」
「う……それは」


 確かにこの状態で一人になるのは色々不安だ。それはクリエを置いてくのもそうだよな。これしか同時に助け出す手はないって事か……テッケンさんもモブリだから小さいんだよな。するとクリエがテッケンさんにこう言うじゃないか。


「あ、あの! お兄ちゃんを置いてくか、落とすかなんてそんなのどっちも――」
「クリエ……」


 心配気に聞こえるその言葉。まさかそんな風に言ってくれるなんて……お兄ちゃん嬉しいじゃないか。ちぇ……まあしょうがないか、だってクリエは小さいし、なんだかんだ言って、僕もクリエが同じくらい心配だからな。
 ここはお兄ちゃんが人肌脱ぐしかない……


「――とっても面白そうです! 大丈夫、お兄ちゃん頑丈だし、悪運も強そうだもん!!」
「ぶっ殺すぞ! クソ餓鬼!!」


 なに、さり気に助ける選択肢を投げ出してるんだ!! 恐ろしい事ばかり推奨してんじゃねーぞ! くっそ……クリエはこんな奴だった。
 お兄ちゃんお兄ちゃん言って慕って来てても、実は面白がってるだけだろこいつ。なんか利用されて遊ばれてる気しかしねーよ。


「はは、まあまあ落ち着いてスオウ君。大丈夫、僕を信じてくれ」
「テッケンさん……やっぱり僕の味方は貴方とシルクちゃんだけです……」
「大袈裟だよ。アギト君も今はセラ君もいるじゃないか」


 はは、それこそ大袈裟っすよ。アギトはまあ一応否定はしないけど、セラは味方とは思えないね。あいつにはいつ背中を刺されてもおかしくないと僕は思ってるよ。
 僕がそんな事を内心で呟いてると、テッケンさんは例のセラに渡された機械で小屋の方のシルクちゃんと連絡を取ってる用だった。
 そして――――遂に脱出の時だ。


「先にスオウ君を落としてからその後に僕達は続くよ。クリエは僕が責任持って守るから、安心してくれ」
「……頼みます」
「なにかな、その変な気を感じる目は?」


 後ろから刺さるクリエの声。こいつやっぱり妙に感が鋭いな。実は怪我の一つ位しろと念じてたんだ。それも見透かされた。


「別に、あんまりテッケンさんに迷惑かけるなよって言いたかっただけだ」
「わかってるも~ん!」


 まあだけど本心は認めない限り、クリエの感ってだけで終わりだ。てな訳で僕は認めなかった。体の言い事を言っておいた。


「よし、じゃあ行くよ二人とも!!」


 そう言って、テッケンさんが僕を開け放たれたドアに向かって蹴り落とす。信じてるとは言え、やっぱり不安だよ。だって手足使えないし、ただ僕は落ちるだけ。
 この位の高さじゃ直ぐに地面に挨拶する事に――――と思ったけど、それはなんとか回避された。
 蹴り落とされた瞬間、直ぐにシルクちゃんは対応してくれたからだ。


「ピク!!」


 そんな声が聞こえたと思ったら、僕は空中に浮いてたよ。どうやら桜色の小竜が、僕が落ちてくるのを待ちかまえてたみたいだ。
 たく、それならそうと言ってほしかった。超ドキドキしてたんだからな。




 僕がピクに運ばれて、小屋の外側の所に着くと、そこには既にテッケンさんとクリエが居た。流石テッケンさんは仕事が速い。


「お~いお~い」


 そんな風にこっちに呼びかけてたクリエが、僕がそこに下ろされるなりこう言った。


「えへへ~、クリエの勝ちだね。クリエの方が早く着いたもん」
「別に、そんな勝負してねーよ」


 そもそも勝負になんてならないだろう。だって僕はまともに動けないんだし。それにクリエだって別に何もしてないはず。
 随分他力本願の勝負だよ。勝ったって嬉しいかそれ? 


「ピーー!!」


 その時、ピクが羽を羽ばたかせて飛んだ。そして僕の周りをクルクル回ってる。なんだかご主人様を呼んでるみたいな光景だな。
 そしてそんな事を思ってると、やっぱりシルクちゃんが来てくれた。


「大丈夫ですか?」
「うん、まあなんとか。ピクのおかげだよ」
「それはよかったです。今直ぐ縄を解きます」


 そう言ってシルクちゃんは呪文の詠唱に入った。


「僕は鍛冶屋君の加勢に言ってくる。ここは任せたよシルクちゃん」


 そんなテッケンさんの言葉にコクリと頷くシルクちゃん。そして次の瞬間、放たれた光が僕の腕と足の縄へとやってくると、砕け散る様にその存在が無くなった。


「おお、やった!!」
「これで大丈夫ですね」


 少し頭を傾けてニッコリと微笑むシルクちゃん。うん、なんて可愛いんだ。しかも頼りになるんだから、この子は本当に素晴らしいよね。
 僕はお礼を言って立ち上がる。僕達もテッケンさん達に加勢して道を作った方がいいだろうからね。でもその時、この場に変な声が響いたよ。


「うあぁ~~~!」
「おいクリエ、何惚けた声出してるんだよ? ちょっとは緊張感持てよな」


 僕はそんな事をクリエに言ったけど、どうやらあいつはお得意の「聞き流す」ってスキルを発動してる様だった。まあ要するには無視だよ無視。
 僕を無視してクリエはシルクちゃんへ飛びかかる勢いで迫ったんだ。


「ねえお姉さん!! その子お姉さんのペット? 凄い凄い凄い!! その子とっても綺麗で可愛い!! いいないいないいなぁーー!」


 どうやらクリエはピクに興味津々な様だ。まあ確かにピクは珍しいよな。この村のタマネギみたいな奴にも興奮してたし……それに興奮出来るなら、ピクならその数倍は確かにいけるよ。


「ありがとう。え~とクリエちゃんでいいのかな? 私はシルクだよ。で、この子はピク。ペットって言うか、私の大切な友達かな?」
「ん~~~~~~~~!!」


 そんなシルクちゃんの自己紹介に、クリエは口元を波みたいにして、ジタバタと腕を振ってた。何? どういう反応なんだあれ?
 たく、余りにも奇怪な反応をするものだから、シルクちゃんが困惑して、僕に視線を投げかけてるじゃないか。でも僕はため息混じりに、肩を竦める位しか出来ないよ。


「ペットじゃなく友達!! うん、お姉さん素敵だね! クリエもねクリエもね……え~と、その子とお友達になりたいな!! いいかな? いいかな?」


 クリエは期待混じりにシルクちゃんにそんな事を懇願する。どうやらさっきの謎の反応は、シルクちゃんの言葉に感動してたみたいだな。お友達って部分がよかったんだろう。
 当然シルクちゃんはクリエのそんな無邪気な言葉を無碍にするわけもない。なんてたって優しいからな。僕の知り合いの中でも一番彼女は優しい。
 だから優しい声で、目線をあわせてこういってくれる。


「勿論。ピクもきっと喜んでくれます」


 シルクちゃんの突き出した腕に止まるピク。クリエとピクが向き合う形になってる。そしてクリエが、ワクワクを押さえきれないみたいな表情で、ピクに手を伸ばす。


「よ、よろしくねピク。クリエはクリエって言うんだよ。お友達になってくれると嬉しいな」


 ピクの頭を撫で撫でするクリエ。それを静かに受け入れてくれるピク。そしてそんな言葉に反応するように、一言だけ「ピーー」と鳴いた。
 それがどういう意味を持ってるのかは僕にはわからない。けどクリエにはそれが了承ってな風に受け取れた様だ。


「ありがとう!」


 と元気一杯に言って、ピクに抱きつくクリエ。モフモフの羽は気持ちよさそうだけど、胴体の方は案外堅いんだよピクって。
 だけどクリエはそんな事気にしない。幸せそうにぐりぐりしてる。


「ごめんねシルクちゃん」
「何がですか? ピクにもお友達が出来て良かったですよ。それよりも、これからです」
「だな」


 僕とシルクちゃんがそんな事を言ってると、小屋の方からテッケンさんと鍛冶屋が姿を現した。あれもう終わったのかな? なんて楽天的な事を考えてると、訝しげな感じでテッケンさんがこう言った。


「おかしい、村人達がここから離れていく」
「終わったって事ですか?」
「いや、何か違う感じだよ。寧ろ、向こうも本気になった……みたいな」


 本気か……それは厄介だな。すると鍛冶屋が僕とクリエに目をやって、ため息一つこう言った。


「お前達もいつまでも遊んでる場合じゃないぞ。奴らはまだ余力を残してた、何か仕掛けて来る気だ」


 大きな鎚の汚れを取りながら鍛冶屋は文句を垂れる。別に僕達は遊んでた訳じゃないっての。そう見えたのは、色々と起きる事がハチャメチャだったからだ。


「む~おじさん嫌い」
「おじ!?」


 いきなりのクリエのそんな第一声に、度肝を抜かれた様な鍛冶屋。はは、良い気味だ。


「はは、そう言ってやるなよクリエ。鍛冶屋のおじさんは気難しいだよ。職人気質だからな」
「クリエはクリエは、もっと柔らかくなった方が良いって思うの。アドバイスだよおじさん。そうしないと友達出来ないよ」


 何故か友達が居ない奴に講釈される鍛冶屋。苛ついてるのが目に見える様だ。


「おいスオウ、お前も今おじさん言ったな? ちょっと後で面かせ」


 おお、怒りの矛先が僕に向けられた。それになんだそのチンピラ風な物言いは。そんなにおじさんってワードがイヤだったんだろうか?
 まあ確かに、言われて寛容に受け入れられる年齢でもないのかな? 実際鍛冶屋が何歳かなんて知らないけど、おじさんでは無いんだろう。


「お兄ちゃんに酷いことしていいのはクリエだけだよ!」


 僕を庇う様にそう言ってくれるクリエ。いや、まあ庇ってるのかは微妙だけどな。


「おい、僕はそんな事をお前にだって許した覚えはない!」


 断固拒否する僕。振り回されるのはこの際仕方ないって思ってやるけど、作意的な物まで寛容に受け入れたい訳じゃない。


「むーお兄ちゃんも大概頑固――」


 頬を膨らませて文句を垂れてたクリエが、後の言葉を言わないまま、唐突に周りに目を向けた。


「どうした?」


 僕はクリエのそんな様子が気になった。すると下の方へ目を向けたまま、クリエは重く口を動かした。


「声が聞こえる。苦しい声、痛い声……心を鎖で繋がれたそんな声。たくさんたくさん集まって来てる」


 クリエのその言葉に、僕とテッケンさんは身を身を乗り出して下を見る。すると仄かな花の明かりの中に、赤い光がいくつもあるのが見えた。


「あれはまさか……モンスター? でも、ここは村ですよね?」
「そうだけど……何が起きてもおかしくない……それがLROだよ」
「それはそうですけど……」


 いろんな設定があるじゃん。それは危ういバランスでも成り立ってないといけないと思うんだけど。まあ多分、あのモンスターどもがここに現れられる理由はあるんだろけどさ……取り合えず、結構やばそうな数だ。


「急いでここから降りよう。このままじゃ囲まれてしまう!」


 僕達はそんなテッケンさんの言葉で、一斉に階段を駆け降りる。だけど下に着いたときには、既に周りは敵で一杯だった。


「くそ……」
「お兄ちゃん……あのモンスター何か変だよ。苦しそう」


 苦しそう? 相変わらずおかしな事を……今はモンスターの容態の心配なんてしてられない。それに――


「寧ろそれは好都合だ!!」

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