命改変プログラム

ファーストなサイコロ

オーバー・ザ・フィーチャー!!



「何のよアレ!」


 セラの驚きの声が、青い空へと響く。まあ無理も無いね。だってどんだけ引き連れてきてんだよって話だよ。二十体位居るぜあれ。
 トレインにしてもやりすぎだ。


「アレはヤバいな……助けないとさ」


 僕はそう言って、セラ・シルフィングに手をかける。だけどセラは、そんな彼を華麗に無視しようとしてた。


「何言ってんのアンタ。相手になんかしてられないわ。自業自得よあんなの。私達は急いでるんだからね!」
「けどさ、自業自得って一概に言えるか? 僕達のせいでもあるじゃん」


 僕達が彼をアルテミナスまで案内すると申し出れば、彼はあんな事には成らなかった筈だ。そもそも嘘ついて一人で行かせた訳だし、僕達にだって責任あるだろ。
 けどセラは言い放つ。


「アンタは何でもかんでも自分と結びつけたがる様だけど、あんなのこれから幾度と無く出くわすかも知れない光景よ。
 それにLROやってるんだから、一回や二回はああなるものなの。誰だって、ああいう体験を経てLROに馴染んでいくのよ。
 それに一杯触れ合えてるじゃないモンスターと」
「トラウマに成るレベルでな!」


 何しみじみ語ってんだよ。セラの奴は、さっさとアルテミナスに戻りたいから、適当言ってるだけだろ。そりゃあ、トレインとかずっとやってれば何回かはやるだろうけどさ、それを救って貰えるかどうかって大切な事じゃないか?


 それが目の前に知り合いがいたら尚更だよ。しかもまだ初めて間もない頃なら、LROの印象とかを決めかねないじゃん。
 もしもここで僕達が素知らぬ顔で彼を見捨てたら、彼のLROの印象は悪くなるだろう。それってなんか嫌な事だ。


「もう、なんなのよ。そんなに誰にでも良い格好したいわけ? 言っとくけどね、人一人ではそんなに沢山の人は助けれないわよ。
 欲張ったら、本当に大切なもの落っことすし、逃すかもしれないんだから」
「うぐっ……」


 セラはズイっと体を僕に寄せてそう言った。良い格好したいだけなのかな僕は。人一人がそんなに沢山の人を救えないなんて知ってるよ。
 そんなの僕は良く知ってる。だから今はこの両手で、掴みたい奴を追ってるんだ。


「ニ兎を追う奴は一兎も取れないってか?」
「その通りよ。それに良い洗礼じゃない。LROなりの挨拶みたいなものよあれは」


 適当ぶっこきやがって……かなり荒っぽい挨拶だなおい。あんなの受けたら、逆にもうここには来れなく成りそうだっての。
 画面の向こうの分身がボコられてる訳じゃないんだぞ。今まさに、彼と言う一人の人間が、目の前でモンスターに追われてるんだ。


 画面の向こうなら、いくら殴られても痛くないし、追われたって恐怖は感じない……だけどLROは違うだろ。殴られればそれなりに痛いし、痛いからこそ恐怖する。
 それはリアルとあんまり変わらない。まあ痛みなんて衝撃の割には蚊に刺された程度だけどさ。彼がマトモな状態ならだけど……まあそれは問題無いはずだ。
 僕とかとは違うんだから。でも普通にモンスターを怖がってた人だから、あれはきついよ絶対に。


「いい加減にしとけよセラ。助け合いだろLROはさ。初心者を無償で助けるのが玄人だろうが」


 それは暗黙の了解みたいな物だった筈じゃないのか。そんな事をアギトが言ってた気がするぞ。


「それは余裕のある時よ。でも今はそうじゃないの。一刻も早くアルテミナスに戻って、これからどうするかって事を決めないといけないのよ。
 あいつらは結局倒せて無いんだし、いつまた動き出すかわからないのよ」
「そんな事、わかってるよ」
「なら、第一目標を忘れずに頭に置いときなさいよ」


 セラは道を外れて行こうとしてる。確かに第一目標は大事だよ。それの為に僕は命懸けてるさ。忘れる分けないだろ。
 でも、あの人を助ける事がその妨げに成るとは思わない。寧ろその逆だろ。ニ兎を追う奴は、確かにニ兎とも逃すかも知れない……けれどそもそも、ニ兎を追わない奴は二つを手に出来るかも知れない可能性を捨ててる訳だ。


 まあ欲張っちゃいけないって事を言いたいことわざ何だろうけど、誰かを助ける為に、目の前の誰かを犠牲にする様な事、僕はしたくない。
 そこは欲張りたいじゃないか。僕はセラとは逆に、今いる道を真っ直ぐに進み出る。


「ちょっと、何する気よ? 聞いてなかったの私の話」
「聞いてたよ。だけどさセラ、あんな物を傷害に入れてたら、シクラ達なんて乗り越えられる訳ないじゃん。あんなもん、ただの片手間で片づけられる――そうだろ?」


 僕は右を抜いて、続いて左のセラ・シルフィングを抜き去りながらそう言った。二本の剣の青い刀身が、降り注ぐ光を反射してる。
 すると後ろから「はあ」というため息が聞こえた気がした。


「アンタって、そうやっていろんな事を抱え込む質なのね。アギト様の言ってた事がわかってきたわ。周りの迷惑も考えなさいよ」
「はは、まあ一応考えてやってるつもりだけどね。僕は付き合ってくれる奴にしか言わないよ」
「つつつつ、付き合ってって――」


 なんだか言葉が連なるセラ。後ろを向くと、ガチャガチャと金色の物体をなにやら動かしてる。いや、組み立てようとしてるのか? でも上手く行ってない様な……珍しい、あれって確か変幻自在な武器で、セラなら一瞬で組み立てれる筈だろうにさ。
 でも武器を出してるって事は手伝ってくれる気に成ったって事だろうか?


「大丈夫かお前?」
「な、何の事よ! しょうがないから付き合ってあげる。アンタを死なせる訳には行かないしね。感謝しなさいよ」


 なんだか無理矢理怒ってるセラ。こういう感じは、別に腹が立たないな。何故だろう? 寧ろ微笑ましく感じる。だから余裕を持ってこう言った。


「はいはい、頼りにしてるよ」
「ひれ伏しなさいよ!」
「そこまで求めてるのかよ!!」


 お前の感謝はハードルが高すぎるんだ! 僕の心のゆとりを返せよ。一瞬の気の緩みが、セラの前だと命取りだな。


「全く、男はこれだから……その口と体は何の為にあるのよ。思いは言葉と態度で示しなさいよね」


 セラは折角組み立てた武器を何度も分解してはまた組み立ててる。手元も見ずに、よくもまあそんな芸当が出来る物だ。
 それこそ体で覚えてるって事だろうか? てか、今の言葉は何の愚痴だよ。アレか? 熟年夫婦の思いのすれ違いとかでよく聞く奴。


 夫は「好きなのなんて口に出さなくてもわかってるだろう」てな感じだけども妻は「それでも言って欲しいのよ」みたいな……男と女の感覚の違いか?
 まあなんかセラの言ってたのとは違う気もするけど、よくわからない。元々が命令口調だからさ、態度で示す感謝がひれ伏す行為って、なんだか奴隷気分じゃね?
 嫌だよそんなの。求めないでほしいよなそんなこと。


「示しても僕は、お前の奴隷には成らないからな!」
「何の事よ? それよりもやるんなら急いだ方がいいわよ。あれじゃ長くは持たないわ」
「確かに……」


 よく見てみると、彼のHPはどんどん削られて行ってる。今や風前の灯火だ。どうやら背中側を滅多打ちにされてるご様子。
 あれじゃ、ここまで持たないな。元から駆け寄る予定だったけど、急いだ方が良さそうだ。僕達は岩を蹴って猛然と彼の方へ迫る。


 するとその時、後ろにいるモンスターの一体(蔦人間みたいな奴)がそのニョロニョロとした腕を伸ばすのが見えた。
 ヤバい、あれが当たったら彼は息を引き取るかも知れないぞ。でも僕の剣はまだ届く範囲じゃない。動き出しが遅かったんだ。


 迷わずに行ってればこんな事には……そう思ったとき。僕の後方から何かが前の方へと飛んでいった。クルクルと回るそれは、黄金色した大きな手裏剣。
 それが彼の後ろから迫ってた蔦を、弧を描いて斬り裂いた。


「急ぎなさいよ。直ぐに他の奴らが襲うわよ」
「わかってるっての!」


 僕は一気に、その人とすれ違ってモンスターの群に飛び込んだ。二本の剣で周りのモンスター共を見境なく切りつける。
 とにかくまずはターゲットをこっちに向けるのが先決だ。だから浅くてもいいから、攻撃を入れて僕にターゲットを固定させる。


 バカなモンスター共は直ぐにこっちに振り向いてくれるよ。まあ元々、あの人は逃げてるだけだったろうし、攻撃してくる奴に狙いを変えるのは当然なんだけどね。


「よし、このまま一気に――」


 僕はすかさず切り替えして、斬り続けて行こうとした。だけどその時、重い荷重が加わったんだ。


「ああ、ありがとう!!」
「――ってちょ! 邪魔ですよ! 離れてくさい!」


 それはすれ違った筈の彼だった。なに抱きついて来てるんだよ。男に抱きしめられてもなんにもこれっぽちも嬉しくない。
 寧ろ気持ち悪い。てか、なんで離れたところにいないんだよ。僕にくっつくなよな。なんの為にターゲットを僕に移したと思ってるんだ!
 これじゃあ意味ないよ!


「うわーうわー! 攻撃が来てるよ来てる!!」
「うるさいし、避けづらい!」


 てかマジでヤバいってこれ。何で大人一人を背負って動かなくちゃいけないんだ。やりづらいったらないよもう。


「遊んでないでちゃんと働きなさいよスオウ!」
「これが遊んでる様に見えるのかよ! 必死だっつうの!」


 なんだこれ? 僕には味方がいないのか? 寧ろこの状態で複数のモンスターの攻撃を避け続けてる事を褒めて欲しい位だったよ。
 敵の攻撃を貰う訳にはいかない。僕は他の一般的な人達とはズレてるからな。血なんて、出来れば見せたくない。知られたくない。
 どうして? とか言われて、巻き込みたくない。だから僕は避ける避ける。


「スゴいね君」


 僕に張り付いたその人が、感心するようにそう言った。だけど有り難くない。だってこの人がこんな事しなかったら、僕はもっと楽に動けるからね!


「どうも……あのすみませんけど、ブン投げても良いですか?」
「へ? うあああああああああ――――ガハッ!」


 ガスンって音と共に、彼は岩に叩きつけられた。僕がおもいっきり引き剥がしたからね。でも我慢出来なかったんだ。
 それにこれも彼の為さ。危ないから……僕の所はさ。


「最低ねアンタ」
「お前に言われたかねーよ!」


 正確にはセラにだけは言われたくない。だっていつも僕に暴言吐き続けやがって、いつかそれが原因で僕が追いつめられたどうするんだ。
 体の傷より、心の傷の方が直りが遅いんだぞ。


「あっそ、なら身軽に成ったんだし、さっさと片づけるわよ。片手間――何でしょ?」
「当然!」


 敵の数は数十体、それに対して僕たちは二人。でも負ける気なんてしない。色々と強敵を相手にしてきたんだ。今更そこら辺の雑魚共に遅れは取らないよ。
 セラもやっぱ聖典使わなくても強いし、僕も身軽に成れば、敵の攻撃が入る前に切りつけれる。数は手数で上回るさ。それが二刀流だ。


 セラが言ってた、このフィールドの岩から手が生えた様なモンスターもいる。腰まであるデカいヤドカリや、この岩礁地帯には似合わない緑々した蔦人間と球根みたいな変なモンスター……それらをバッタバッタと僕らは倒してく。


「なんか、似合わない奴らもいるな」
「この先のフィールドの奴らでしょ。関係ないわ、同じ雑魚よ」


 まさに悪魔の様な奴だ。切り捨てた。そしてモンスター共も笑いながら切り捨てて行ってる。まあ確かに雑魚だし、別に他の場所の奴らが混ざってたって関係はないけどさ。
 僕たちはこいつらを倒すだけだ。


「ん?」


 そんな時、僕はちょっと変な奴を見つけた。それは緑々してる筈の蔦人間……の筈何だけど、なんだか緑くない。枯れ掛かってるのか茶色いと言うか白っぽいと言うか……それに髭生えてね?
 全身皺皺だし、さっきから体が震えてるだけで明らかに攻撃してない。なんなんだあれ? あれも敵で良いのかな?
 僕にだけ見えてる蔦人間の背後霊とかじゃないよな?


「おい……あれって……」


 僕は恐る恐るセラにその存在の是非を確認してみる。


「何よ? こっちは忙しいんだから、そっちはそっちで何とかしてよね!」


 怒られた。ちょっとした確認だったのに、何だよその態度。もうちょっと僕に優しく成れないのかセラの奴は。少し気になるから聞いてみただけなのに。
 LROには僕よりセラの方が断然長いし、知識も深いだろうと思っての配慮だったのに無駄だったな。てか、その震えがムカついて来たわ!


 なんで僕が怒られなきゃいけないんだ。変なモンスターとか特殊な奴だったらどうしようとか、そんなのどうでもいいや。 
 老人っぽいけど、ここは倒させて貰う!


 セラ・シルフィングを流れる様に動かして、僕はその蔦老人を切りつけた。感触は確かにあった――って事はやっぱりちゃんとしたモンスターだったわけだ。
 一回切りつけただけでボロボロに崩れ落ちて行ったのは不気味だったけど、まあこれで全部を倒した筈だ。


「ふう」
「まあ、こんな物ね」


 二人して一息付く僕ら。そこに喚起に震える様な声が入った。


「すすすす凄い!! お二人とも強いんで――」


 途切れた言葉。そして僕たちも同時にあることに気づいた。


「何だこれ?」
「鎖!?」


 セラが言うとおり全身に鎖が巻き付いてる。でもその理由がわからない。いつこんな仕掛けを受けた? てか、倒しきった後に発動するなんておかしくないか?
 しかも三人全員になんて……どういう対象なんだよ。地面から沸きだした様な鎖。それぞれの足下には、魔法陣が浮かんできてる。
 するとセラが何かを呟いてるのが聞こえてきた。


「鎖……魔法陣……まさかこれって強制転送? それって……ちょっとアンタ! さっき何か言いかけてたわよね? 何だったの!」


 ええ、今更凄い剣幕でセラが僕に迫る。それってさっきのあのご老体の事か? 


「何だったって、モンスターの中に蔦人間みたいなの居ただろ? その中に枯れ果てた老人タイプがいたんだよ。だから特殊なモンスターなのかなって」
「それの名前覚えてる? 後ろの方にゲートって付いてたんじゃない?」


 名前? そこまではよく見てなかったな。でもセラがここまで言うって事は、それがきっと重要なんだろう。確かあの蔦老人の名前は……


「ゲートか……ファトラ・オールド=ゲートって感じだったかも」
「このバカ!!」
「何がだよ!?」


 思い出してやったのに何という言いぐさ。感謝こそすれ、罵倒を受ける筋合いがわからない。だけどよく見ると、セラは切れてるっていうか震えてる?


「悪い事教えてあげる。アンタの倒したそれ……トラップモンスターよ!!」
「何だそれ!?」


 聞いたこともない。いや、知らない方がおかしいのかな? 僕はどうも普通にやってたら培っていく筈の知識が不足してるらしいからな。
 てかどんどん、足下の魔法陣の光が強くなってる気がするんだけど。


「どどおど、どうなるんですか僕達――」
「「あっ」」


 離れた所で叫んでた彼が光に包まれ魔法陣へと吸い込まれる様に消え去った。今更ながら、イヤな予感がしてきたよ。


「あのさ、さっき強制転送とか行ってたよな? ちなみにどこへ飛ばされる訳?」
 するとセラは、怒ってるんだけど無理矢理笑顔を作ってこう言った。
「暗黒大陸よ!」


 その瞬間、僕達も光に包まれ魔法陣へと吸い込まれる。僕の「そんなバカなああああ」って言葉が、きっと魔法陣が消えるまで殺風景な岩だらけの場所に響いてた筈だ。




「ぐえっ!」
「きゃあ!」


 二人同時にそんな声を出して地面にベチャって落ちる。ベチャってのは地面がぬかるんでたせいだよ。てかドロドロだななんか。


「だ、大丈夫ですか? 僕達どこに飛ばされたんでしょうか? とっても不気味なんですけど……」


 そう言ったのは先に飛ばされてた彼だ。彼にこの事実を伝えるのはどうなのだろうか? 僕だって全然知らないけどさ、街の外のモンスターを怖がる彼に、ここのモンスターはハードルが高すぎるだろう。
 事実は曖昧にして、なぁなぁで気分を楽にしておいた方が良いのでは――


「どこって、暗黒大陸。魔王とかがいる魔物共の総本山よここは」
「お前って奴は、やっぱり悪魔だな!」


 僕の思いを一瞬にして無にしやがって。誰でもがセラみたく神経図太くないんだからな。


「何よ、なんだか失礼な事を思ってない? それに事実を隠してどうするのよ。マップを見れば直ぐにわかるんだし、意味ないわ。
 それよりも、自分の心配しなさいよ」
「は? 僕の心配?」


 何言ってんのこいつ? 言っとくけど、そうそうやられるなんて思っちゃいないぞ。


「アンタって本当に何も知らないのね。その自信がいつまで続くか見物――」
「待ってくださいよ! 暗黒大陸って……何で? 本当ですかそれ!?」


 途中で割ってきたのは彼だ。まあ一番不安だろうし仕方ない事。でも明らかにセラは邪魔そうな顔してる。そして僕を指さしてこう言った。


「本当、嘘だと思うなら地図見てみれば?」


 そう言われて、彼は恐る恐る地図を出した。そしてうなだれた辺りから察するにマジらしい。まあ確かに暗黒大陸にふさわしい感じはヒシヒシと伝わってくるよ。
 黒い筆強引に塗りつぶした様な黒い空。不気味な成長を遂げてる植物達。どこからともなく、変な声は聞こえるし、地面は空が写ってるからなのか、黒い水がそこかしこから沸いてる様だ。


 光源は太陽じゃなく、周りをフワフワと漂うカブトムシサイズの虫が光ってる。幻想的とも言えるけど、やっぱり虫じゃ気持ち悪いな。
 落ちてきそうな空だし、気持ちが自然と沈みそうな場所だ。


「何でこんな事に……」


 彼がそんな事をポツリと呟くと、セラが僕を指さした。


「それはあのバカのせいよ」
「はあ? あんなの知らないし、それにちゃんと僕はお前に聞いただろ。それを無視したのはセラなんだから、僕だけに責任はないね」


 最もの言い分だぜ。僕はちゃんと確認したっての。


「そのくらい知っときなさいよ。何ヶ月やってるのよアンタ」
「まだ一ヶ月もやってないけど」
「嘘!?」


 嘘じゃねーよ。なんでそんな事で嘘付くんだ。てか、アンフィリティクエストから始まったんだからわかるだろ。


「一ヶ月も経ってないんだ。随分濃くLROをやってるわね」
「それは自分でも思うよ。マジで」


 ここ数週間で色々ありすぎだもん。一年くらい平気で経ってても良さそうな感じだ。時々自分でも思うしな、まだこんなもんかよって。


「てか、二人とも冷静ですね! 暗黒大陸ですよ!? これからどうするんですか? どうやって帰るんですか?」
「どうやってって……どうやってだセラ?」


 僕は何も知らないぞ。


「普通には出れないわよ。地続きには出れない入れない、それが暗黒大陸なの。だからアンタが倒した様な特殊なモンスターが居るんだし、後は案内人ね。
 でも……行きはともかく、出るって事はよく考えると私も知らないかも。一年経った今でも、ここは殆ど未開だし……地図だって大雑把な最初のしかないしね」
「「最悪だああ!!」」


 僕と彼の二人の声が初めてシンクロした瞬間だった。その時、ガサッと何かが顔を出す。それは三メートルはあろうかと言う、巨大なゴリラ? 顔二つあるバージョンだった。


 そんなゴリラと僕らは目があった。涎がコボレ、黒い水へ波紋を広げる。「食われる!」と僕らは悟ったね。腹の底から震え上がる様な感覚が体を襲う。
 黒い空の下、それは過酷な冒険の幕開けだった。

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