命改変プログラム

ファーストなサイコロ

静かな時

 騒いでた看護士二人の目を交いくぐり、病室の外に出たのは良いけど、僕はちょっと後悔してた。まず、体痛い。一歩踏み出す毎に全身ズキズキする。
 どう考えてもこれじゃあ走るなんて出来ないな。どうしても壁に設置してある手すりを頼ってしまう。初めて手すりの役割を実感したよ。


 そして後悔する理由の二つ目は、僕は同じ時期に入院したという人の名前を知らない。だってLROでは本名を使ってる人なんてそうそういない。だからアイツも本名じゃないと思うんだよな。アギト達曰く、アイツはリアルはリアル、ゲームはゲームで完全に分けてたらしいし、そんな奴が本名を使うわけがない。


 どうしようか……この病院かなり広いんだよな。まあでも、今僕がいる病棟に絞り込めそうではあるんだけど……だって――――


「全然人居ないな」


 ――――広い廊下に患者は勿論、看護士も医師も誰もいないし、病室の数の割に、そこにはさっきから全く、プレートに名前がない。あながちさっきの不真面目そうな看護士さんの言った事も間違いじゃないよな。
 これは不祥事だし、僕達の事を隠そうとしてるのも事実なんだ。体外的に考えると、悪い事を確かにやってるのかも。


 もしも本当にと言うアイツが、ここに運ばれてしまってるのなら、それはフルダイブシステムの安全性が今一度問われる問題だ。
 そうなれば最悪、サービス停止になるかも知れない。いや、本当はもうそうすべきなのかも……今やLROは誰にとっても安全では無くなった……そう考えた方がいい。
 アイツまでそうなったのなら、後何人同じ様な事が起きるか分からないんだ。


「はぁはぁ……むぎゃ!!」


 考え事しながら歩いてたら、急に力が抜けて床に倒れてしまった。意識しないと歩くのすら難しいとは……僕もかなりだな。


「たく……これじゃあ、一個の病室見つける前に体力が無くなりそうだ……てか、これって病室を抜け出す理由があったかな?」


 自分の行動を否定する発言が口から出てきた。いや、良く考えたら、佐々木さんとかに聞けば済んだんじゃ無いのか? って思えてくるわけだよ。
 まあ会わせてくれるかは分からないけど、教えてくれるとは思うんだ。しかもさっきの看護士さん二人ってさ、僕の病室に来てた所だと思うんだよね。


 だって、こんな誰も居ない病棟で目指すとしたら、セツリ&当夜さんの病室か、二日前に入院した僕ともう一人しかいない。
 僕達の事を外に漏らしたくない会社側が、他の患者を入れてるとも思えないし。


 長年ここはセツリと当夜さん専用みたいな物だったんだろう。だからこそ、あの二人が僕の病室を目指してたのはかなり確率高い。
 そうなると色々不味そうなんだよな。まず騒がれると困るし。今となっては、僕の行動は浅はかとしか言いようがないな。


「でも……気になったんだ」


 自分の行動の言い訳を呟いた、誰も聞いちゃいない。ただその時は、この目で確かめたいと思ったんだ。それにまさか、ここまでダメージが酷いとは思わなかった。


「どうしよう……」


 このまま闇雲に探せるとも思えない状態だ。それに無駄に心配をかけるのもどうかと思う。聞けば済むのなら、それに越したことはないよな。
 でも……なんだか遅かったような気がするんだよ。佐々木さん達。もしかしてそっち側に行ってるとか……まあ大変なんだろう事は想像付く。


 あれだけの事が会ったんだ、リアルでもいろんな事をやってたんだろう。僕をここに入院させたのはあの人達らしいからな。
 静寂の中、僕は何とか立とうとするけど、足が震えてうまく行かない。まるでLROで受けた分のダメージが来てるかのよう。
 いや、それなら動ける訳も無いんだけどさ。


「はあぁ」


 僕は仕方ないので、壁に背をもたれて座り込む。自分自身の体って、案外ひ弱な物だ。この場合は脆いって言った方が良いのかな? 
 現実で精神論ばっかり持ち込んでたら、案外ポックリと逝っちゃうかも知れない。自力で戻りたかったけど、それはどうやら難しいそうだ。


 しょうがないから、ここでさっきの看護士さん達が来るのを待つかな。病室に行って居なかったら探すだろ。そんなにここは離れてないし。きっと直ぐに見つけてくれるよ。
 この際、怒られる事は仕方ないと思うとしよう。まあ焦らなくても、切羽詰まってる訳でも無いんだし……


「あれ? アイツって生きてるんだよな?」


 不意にそんな考えが沸いてきた。もしかして、本当に僕が確かめたかったのはそれか? いや……でも、そんな……余りの最悪なケースだよそれは。
 今まで意識不明とかだとしか考えて無かったけどさ……それは実はあり得る事だろう。死に怯えて、僕だって戦って来たはずなんだから。


 アイツはLROで確かに消された。全てを奪われて。それがどういう意味か、僕達は理解してたからこそ、あれだけ怒ったんだ。
 ならアイツは……看護士の人達は運ばれて来たって言ってたけどさ、その後の事は言ってなかった。


「……っつ」


 僕の不安は加速する。
 死んだなんてそんなのは絶対にイヤだ。LROから死人を出すなんて……そんな事になったら、終わりだろ。


「こうなったら、這い蹲ってでも見つけださないと気が済まないな」


 思考が再び元の位置に戻ってきてしまった。だけどこればっかりは、人伝をあてになんか出来ない。その可能性があるのなら、自分で確かめないと。
 この病棟のどこかに居る筈なら……尚更。見つかる間だけでもだ。


 僕は再び、足に力を込める。手すりを使ってどうにか立ち上がる。だけどくまなく探すなんてちょっと無理っぽいな。どこか検討を付けないと……名前が分からないのは大丈夫だろう。
 この病棟なら、他に患者なんて居ないんだからさ。名前が書いてあればそれだけで事足りる。けど病室の位置の目星は全然ダメだな。


 元々構造に詳しい訳じゃない。通いなれてる訳でもない。しょうがないから、見つかって連れ戻されるまでは闇雲にあがいてみよう。
 僕は諦めるより、そっちの方が好きなんだ。誰かさんのせいでそういう人間にされたよ。ぶつぶつ文句は言いながらも、出来る事はやるさ。


 取り合えず……円形状に成ってた筈だから、歩くかな。一周出来ればある程度の部屋は見たことになる。
 ゆっくり、ゆっくりと取り合えず歩き出す。うう……なんてリアルの体は不便なんだろうと感じる。LROならここまで情けなく成ったりしないのに。これがリアルの痛さで、本当の傷って奴か。


 忘れちゃいけない事……なんだよな。そうこうして進んでると、セツリの病室の前に来た。ここでアイツは眠ってる……その姿はきっと変わりないんだろうけど……胸が苦しいよ。
 だってセツリは、もう傍にはいない。ここで眠ってても、僕を待っては居ないんだ。
 そんな風に思ってドアを見つめてると、不意に擦りガラスに人影が映って、スィィーと扉が開かれた。


「えっ……」
「あっ……」


 僕と彼女の目が合う。なんだかお互い、気まずい雰囲気が流れた。




 **
 僕達は何を喋り出せば良いのかお互いに分からず、ただお互いを見つめてその場で固まってた。多分どっちも、「どうして?」とかが頭に浮かんでたんだと思う。だってここは基本一般人は入れない筈だから。
 しかもこの病室から、医者か看護士以外が出てくるなんて……もしかして佐々木さん達の会社の人? とか思ったけど、なんだか雰囲気違う。


 まあ全員を知ってるわけじゃないけど、あのLRO開発陣の雰囲気じゃないって事だ。ノリの効いたスーツに、艶めかしいおみ足が伸びてて、だけどどこか無邪気さを感じる様な顔に、眼鏡で知的さアップを図ってるような……キャリアウーマンな感じなんだけど「無理してない?」って思う何かを放ってるよ。


 まあようやくすると、美人のお姉さんに変わりは無いんだけど。その美人のお姉さんは、肩から卸してるバックの他に、片手には花束を持ってる。黄色い花だ。何だか見たことがあるような……視線を自然と閉まりゆくドアの向こうに向けると、病室の中に同じ花が花瓶に生けられてるのが見えた。
 ああそうか、見たことあるわけだ。それなら納得。この病室には毎回あの花が生けられてたんだ。看護士さんたちが変えてると思ってたけど、そうじゃなかったって事か。


「君……」
「貴女は……」


 ようやく出てきた言葉がぶつかった。おいおい、気まずさが倍増じゃないか。だけどここで気まずさに負けるわけにはいかない。


「あの……どうぞ」


 必死に声を絞りだして、僕は会話を促した。すると美人のお姉さんは、一瞬何かを考える様に視線を逃がして、意外な事を口に出す。


「君って……スオウ君だよね?」
「はい……って、ええ? 何で?」


 いつから僕は、初対面の美人のお姉さんに名前を知られる程の有名人に成ったんだ? 思わず肯定したけどさ、マジびっくり。
 するとお姉さんはいきなり僕の方へ駆けて来て。手を握られた。その行為に僕は傷口が開くかと思ったよ。そしてその勢いのまま、美人のお姉さんはこう言った。


「見ず知らずの人にこんな事言われて困ると思うけど、でも言わせて。当夜をお願い! どうか助けて!」


 そう言った彼女は、年下の高校生に真摯に頭を下げた。本当もう、真剣な眼差し。だけどさ、僕はなんといえる? なんと答える? 分からない。
 真剣さが伝わる分、扱いに困ると言うか……どういう対応をすればいいんだ?


「えっ……あ……」


 頭が火照る。良い香りが頭をフラフラさせる。いや、違うかも。お姉さんのせいじゃなくて……これってもしや、限界?


「ちょっと? 大丈夫?」
「はは……だいじょう――――」


 お姉さんの心配する声が聞こえる。僕は必死に言葉を紡ごうとするけど、それは最後まで続かなかった。足から……いや、体中から力が抜ける。ズルズルと壁に背を持たれて崩れ行く。世界が回るように見えだして、そして僕の意識は闇に沈む。




「ん……」


 なんだか暖かい。それに柔らかい。どこだここ? あの世か? 


「あ、起きた?」


 どこかからそんな声が聞こえてくる。閉じてた瞳を開くと、歩き出したときよりも高く上った太陽からの日差しが眩しかった。
 目を細めて少しすると、目が馴れて来てようやく声の主が見えてきた。


「美人の……お姉さん」


 そこに居たのはさっき会ったばかりのその人だ。僕のそんな漏らした言葉を聞いて、お姉さんはカラっと笑って大人の余裕を見せてくれる。


「ははっ、美人のお姉さんなんだ私って。ありがとう。その評価はとても嬉しいよ」


 撫で撫でと僕はされるがままに頭を撫でられる。そこで気付いたよ、口に出してた事を。恥ずかしい。初対面の人に何いってんの?
 恥ずかしくなって顔を背ける――と、そこで僕はもう一つの事に気付く。僕は今、その美人のお姉さんに膝枕して貰ってる状態だったらしい。


 そして顔を横に向けたことで、そのおみ足が頭から頬に柔らかさを伝えて来て、しかもその視線の先がやばい。この人のスーツのスカート、短かったからさ……なんと言うか、見えそうだ。
 見えてはいないけど、スカートの中に続く太股がやばい。一高校生には刺激が強すぎる。またぶっ倒れるかも。だけどさ――目が離せないんだ。どうしてだろう。
 すると上から声がかかったよ。


「ちょっと君。お姉さんに甘えるのは良いけど、どこを凝視してるのかしら?」
「すんまっせん! てっえええええええ!!」


 勢い良く跳ね起きた。と同時に全身に痛みが舞い戻ってきた。思わず座ってたソファ? と言うか腰掛けみたいな四人掛けみたいな椅子から転げ落ちた。
 うう、これは天罰か? でもまだ見えてなかったのに。ピクピクと体を痙攣させてる僕に、お姉さんがスカートを押さえつつ、窘めて来た。


「もう、まあ高校生の男の子ならしょうがないって事は分かるけど、自制しなさい。君だって、自分のパンツを知りたがってる獣が、そこら中に居るなんてイヤでしょう?
 女の子はね、日々そういう戦いをしてるんだから、真摯になさい。それがとっても嬉しいんだから」
「……はあ」


 僕は普段から、女の子のパンツを狙った事は無いけど・・そりゃ見えたときは「おお!」とか思うけどさ、まあそれこそ、男として仕方ないよね。
 てか元々、僕が思うに女の子の下着が悪い。ダサいのを履きたくないのも分かるけど、可愛い子が可愛い下着を履いてると、相乗効果的に増すじゃん。


 見たいって思わせるじゃん。そして男から言わせれば、その希望だけで良いわけだよ。脳内補完して補える。それは女の子からしてみたら確かに、ゾッとしそうだけどな。イヤなのも分かる。
 さっきの「自分のパンツを知りたがってる獣がそこら中に居る」ってのは気が気じゃない。吐き気がするな。だけど男って甘んじてそこに飛び込んじゃうんだ。


 僕の曖昧な返事にもだけど、大人で綺麗なお姉さんはそこら辺分かってるんだろう。特に怒ったりはしてない。むしろ良く笑ってる。


「あははは、凄い事をしようとしてるんだから、もっとなんか普通と違うのかな~って思ってたけど、拍子抜けするほどに普通の男の子だね」
「そ……それは僕が地味って事っすか?」


 なんか拍子抜けされちゃったよ。期待を裏切った感が否めない。何で僕はこんなに平凡なんだろう。まあリアルの僕なんて、こんなもんなんだけどさ。
 平凡な地味男君だよ。成績は中の上くらいだし、身長は百七十前半だし、太ってる訳でも痩せすぎてる訳でもないし、筋肉ムキムキでもないし、顔の事で褒められた事ないし……きっと通りすがりのモブキャラみたいなもんだよ僕なんて。
 いっそ髪の色でも変えれば個性が加わるかも知れない。


「別に地味って言うか……綺麗な顔してるし……というかね。私は色々LROの掲示板とか見てて、君の行動を知ったから、そう言う事が出来る人はどんなんだろうって想像を膨らませてただけ。
 君は普通で良いんだよ。てか普通で格好良いよ」
「お……お姉さまって呼んで良いですか!?」


 僕は余りの感動に、手を強く握り返したよ。なんて良い人なんだ。僕の事格好良いってさ。聞いたかおまえ等? 耳に焼き付けとけ! ヒャッホーー!! 


「お姉さまはちょっと恥ずかしいかな?」
「では、なんと?」


 僕は忍の者の様にかしづいて呼び名を求める。余りの喜びに、痛みとかのなんやらは吹き飛んでます。てか、僕のテンションの高さにお姉さんも僅かに引いてるよ。気にはしないけどさ。


「それこそ普通で良いよ。私『天道 夜々』(てんどう やや)って言うから、普通に呼んで」
「夜々様!」
「ある意味それは、初対面にしては図々しくない? 君と私の関係的にどうなの?」
「飼い主と飼い犬にはふさわしいのでは?」


 僕は思わず首をもたげたよ。


「飼ってないわよ! 何々、君は私の犬になりたいの? ……まあ、そう言うのもちょっとは良いかもって思うけどってダメダメダメ……ダメよ夜々!」


 お姉さまは一人で悶々とやってらっしゃる。自分の中の何かと戦ってるようだ。そしてビシッと指を突きつけられて、こう言われた。


「もう、前言撤回です! 君は全然普通じゃない! 子供の癖に大人をからかうのは止めなさい!!」
「えぇ~」


 顔を真っ赤にして怒られてもな。それに別にからかった訳じゃない。途中からは悪のりだ。まあ本当に嬉しかったってのもある。


「ええ~じゃない。普通に普通で天道さん! それが正しいわ」
「まあお嬢様がそう言うなら……僕達の本当の関係は周りには隠してた方が良いですもんね」
「なんかいきなり上から来られた!? 高校生の発言、飛び越えちゃったわよ君!!」


 にっこりと笑顔で肯定した僕の言葉に、お姉さまはさらに食いついた。いやはや、こんなやりとりしてると、ついさっき知り合ったばかりとは思えない打ち解けようだ。


「はあ、なんだかとっても久しぶりかも。こんなに感情を出して話したのって。もしかしてそれが狙い?」
「別に、そう言う訳じゃないですよ。ただ本当に仲良く成りたかっただけです。綺麗なお姉さんと」


 落ち着きを取り戻して行く中で、僕は再び椅子に腰掛ける。体も結構楽に成った気がするな。そして僕の言葉に天道さんは、余計な事を省いてこう言った。


「だけど、仲良く成りたかったのは私目的じゃないでしょ? 気になってるんだよね、私と当夜の関係?」
「ええまあ、あの人ってほら、あんまり友達とか作らないタイプの人ってイメージだったから……意外って言うか」
「あはは……まあ当夜は確かにそんなタイプだね」


 誰かさんの事を頭に思い浮かべる様にして、ちょっと困った顔で笑う天道さん。そんな様子を横目に見て、僕は彼女の傍らに置いてある花束へと視線を移す。実はそれもずっと気になってたんだ。


「それに、その花束……なんで二つなのかなって? だって当夜さんの所の花瓶には、新しいのが生けられてました。
 あそこから出てきたって事は、天道さんがそれを生けた筈でですよね。セツリの方はいつもなかったし、そもそも出てきた時点で持ってたって事は、そのもう一つは誰ようかなって?」


 僕は疑問を素直にぶつけた。別にここは大きな病院だし、知り合いがもう一人くらい居たっておかしくは無いだろうけどさ。
 僕的には、その花が当夜さんの所に生けられてた奴と同じって所が気にかかる。なんだかさ、僕が思うに天道さんって……当夜さんの事好きなんじゃって勝手に思うわけ。


 だって本当に心配そうだったし、他に女っ気あの人ないし。凄まじいシスコンとしか今まで思ってなかったよ。だけど突如現れた美女――そして、定期的に訪問してる様子が伺える事――それらを考えたらさ、自ずとね。


 好きでもないと、花生けになんてこないだろ? それももう数年経つんだよ。いつからそれをやってるかは知らないけど、つい最近始めた訳じゃないだろ。
 天道さんは、僕の矢継ぎ早な質問に、丁寧に少しだけ深呼吸して答えてくれた。


「君、なかなか鋭いね。そうだね、私が毎回お花を替えてるの。来る度にね。私達って実は、同じ高校のクラスメイトで部活も同じだったんだ。
 まあ私と当夜は、その前から知り合いだったんだけどね。ほら、彼って天才でしょ? その頭脳を家の親は高く買ってんだ」


 なるほど、クラスメイトか。てか高校生時代から天才は知れ渡ってたのか。本当に凄い人なんだな。う~ん部活って何してたんだろう? それもイメージ沸かない。


 聞いてみたい事は色々あるけど、『達』って何? ちょっと引っかかった。だって当夜さんと自分なら、私達って言う事かな? って思うんだ。
 なんだか二人じゃ収まらない様な……


「達って……その、二人ですか?」
「ううん、もう一人居るよ。三人で部活やってたんだ。まあ三年の半端な時期にそれも終わっちゃったけどね。それでも楽しかった。楽しかったな。
 この花は、そのもう一人のお見舞い用」


 何だか切ない顔で、声だった。


「ホント、私の周りはバカばっかり……」
「その人もここに?」
「うん、モノミーも何やってんだか。てかビックリだよ」
「モノミー?」


 誰だそれ? どんだけユニークなあだ名だよ。


「あ、え~と戸ヶ崎……でも分からないか、確かプレイヤー名はガイ……ガイ……ガイエン! 彼の事は秘密なんだけど、君は当事者みたいな物だからいいよね」


「!!」


 それは彼女の言葉が、僕の考えを確信へと変えた瞬間だ。

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