命改変プログラム

ファーストなサイコロ

流れ星に願いを

 ガキィィィィィン!! と言う音と共に、いびつで黒い大鎌が弾かれた。あさっての方向へと飛んでいく大鎌にぶつかった力。
 それは見えずとも何か分かる。いや、見えないその強大さこそがその証とでも言うのか。それを振るったアイリは、まさにこの国を担う者の体で言い放つ。


「これ以上……彼を傷つける事は許さない!!」


 カーテナは今まで以上に光っていた。まるでその気持ちに答えるように。でも……だけど、辛いことには変わりなくて、アイリの瞳からは強さと共に、弱さも共存してた。
 その瞳からはだって、涙という物が流れ出てるんだ。こんな事を避けたかった筈だった……でも避けれなかった。誰のせいでもきっと無いはずだ。仕方がないなんて言いたくは無いけど、誰もが必死にこの未来を回避しようと頑張った。


 だけど起こってしまった事実。責められるとしたら多分全員で、たった一人の加害者なんて居ないはずだ。けれど、アイリはそうは思ってないのかもしれない。
 それこそ責任って奴を感じてるのかも。カーテナという大きな力の担い手で、アルテミナスの姫だからこその責任感。


 誰もが分配しても、アイリだけは誰にもやれないんだ。彼女と対等な位置に居る奴はいないから。それは彼女が投げ出したらいけないから。
 彼女は責任を請け負って涙を流す。大切な友達……ようやく一年ぶりに位に解りあえた筈の存在。それがこんな終わり方なんてイヤだろう。


 終わり方……終わったのか? ふと僕は倒れてるガイエンに目を向ける。するとHP表示が見えない。青でも黄色でも赤でもない……というかバーすら見えない。


「ガイエン!」


 そんなガイエンに真っ先にアギトが駆け寄り、肩を揺らす。僕はなんだか、その光景……いや、行為がとても危なっかしい物に思えたよ。
 理由は分からないけど、とても僕じゃ出来ない……そんな風に思えた。やっちゃいけない感じ。


「かかっ女~俺様の邪魔するんじゃねーよ! 闇に落とすぞコラァ。今の俺様は寝起きみたいなもんで、めっちゃ無駄にテンション高くなってんだよ!」


 何訳の分からない事を言ってるんだあいつはと思う。普通寝起きはテンション低いだろ。でも……あれはまさに闇を体現したような奴って印象だな。
 静かな闇じゃない、荒れ狂った闇。光さえも吸い込もうとするブラックホールみたいな感じ。けれどアイリは、そんな闇から一歩も引かずにカーテナを構える。


「うるさいわね。ならテンション下げて永眠しときなさいよ!!」


 光の線が上から下へと流れた。その瞬間、空中に浮いていた奴は一瞬で地面へと落とされた。正確には叩き落とされた。容赦ない程の威力でだ。
 地面にきっと奴は埋まっただろう。巻き起こった粉塵のせいで確認は出来ないけど、クリーンヒットしたのは多分間違いない。
 怒りと哀しみにくれるアイリの攻撃。それはひとえに強烈だった。


「アイ……リ」


 するとそんな中、僅かに漏れ聞こえた弱々しい声。それが誰の声かなんか一目瞭然。いや、声だから一目ってのはおかしいのかな?
 まあだけど、実際それには僕は驚いた。確かに奴が攻撃をしたから生きてはいるんだろうと思ったけど、HPはそこにはないんだ。


 声を出して、まして目覚めるなんてそれはLROのシステムじゃない。じゃあ何かと問われれば答えようも無いことだけど、今思うとこれは、命の輝き立ったのかもしれない。
 蝋燭が燃えきる瞬間に、一瞬だけ大きくたぎる様な……まさにその瞬間。だって多分、ガイエンは元に戻ったんじゃないと思うんだ。


 今のガイエンには全てがない。全て搾り取られてる様な……そんな感じ。やつれてる訳でも無いけど、僕の瞳にはガイエンを示すウインドウが何一つとして見えなかった。
 だけどどうやら、アギト達はそれに気付いてない。みんなガイエンの目覚めに沸いている。ただ一人複雑そうにしてるのは、名前を呼ばれたアイリだ。
 本当なら、真っ先に飛び込んでもおかしくない彼女だけが、その場で固まってた。そんなアイリに、アギトが手を差し伸べる。


「何やってんだよアイリ。大丈夫だったんだ! まだ何も終わっちゃいない。ほら、お前を呼んでんだ」


 アイリは視線をアギトからガイエンへと移す。するとガイエンとアイリは目があったようで、二人で何か通じてた。アイリが一瞬、その拳を強く握ったのが見えたんだ。
 やっぱりアイリは、何かを知ってる。そう思う。ルベルナも何か意味深な事を言ってたし、消えてアイリが目覚めるとき、アイリはまるで誰かと話してた用に見えた。


 それを引き留めるように、アイリは黒い月に向かって手を伸ばしてたんだ。そして直後、奴は現れた。僕が考えてることはオカルトだろう。
 でも……LROでは何が起きてもおかしくない。それは一番僕が知ってる。僕の感覚の何かが言ってるんだ。「もう手遅れだ」ってさ。
 そしてそれを多分、アイリは……


「お前が……気に病む事じゃない」


 近づけないアイリに、ガイエンがそんな言葉を掛ける。今にも消え入りそうな、そんな声だ。周りはその言葉の真意に気付いてない。


 「そうそう助かったんだから」そんな声が聞こえてくる。だけど何か、そこにもどこかおかしな感じがあるのは拭えない。
 本当は、みんな分かってるのかも知れない。ただ目を逸らしてるだけ。異常な事態が続いてる。そこで楽天的になれる訳がないだろう。


 まあ今まで何とか乗り越えて来たから、今度も……と思うかもしれない可能性も捨てきれないけど、それこそ希望的観測だ。
 認めたくない事を、認めようとはしない人。それは普通なのかも知れない。見たくないことは、どこにだってある。


 だから目を逸らす事が悪いことだなんて言わない。だけど、突きつけられる事実はいつまでも見ない振りなんて出来ないと僕は思う。


「誰のせいでも無いんだよ。私が、弱かった。その弱さに……抱えた闇に……付け込まれた。だけどその闇が……無かったら良かった何ても思えない。
 それはきっと……お前達と出会えなかった事と同義だからだろう。そうなんだよきっと。でも……私はまた、お前達に迷惑を掛けてしまうな。
 いや……しまったな。支えたかったのに……救いたかったのに……済まない。だが……私は……信じてる。お前なら、お前達なら……必ずこの国を救ってくれると」


 紡がれるガイエンの言葉が進むに連れて、エルフの人達の空気が変わっていった。きっとガイエンの言葉を聞いてる内に、目を逸らす事が出来なくなったんだろう。
 だって……それはもう、死に際の言葉みたいで……まるで遺言の様な願いに聞こえた。僕達は……エルフでも無い僕達は、そこに近づく事も混ざる事も出来ない。それをしちゃいけない。


 別に今のガイエンならそんな事気にしないだろうけど、そこは彼らだけの場所であるべきだと思ったんだ。袖振りあう程度の縁しか無い僕達が、そこに混ざっても浮くだけだ。
 どう足掻いたって、どう取り繕ったって、僕達はアギト達の思い以上に何かを感じる事は出来ないのだから。


「ガイエン? お前……何言ってるんだ?」


 ガイエンを抱くアギトが震える声を必死に整えてそう言った。だけど、アギトは二番目くらいにそれを認識してる筈だ。
 だってアギトの抱えるガイエンの体はもう……もう――




 ――――――――崩れ掛けてるのだから。




 やっぱりガイエンは、全てを奴に吸われてた。取られてた。存在自体を、覚醒と共に入れ替わられたんじゃないだろうか。
 もしかしたらシステム上は、ガイエンと奴は同一なのかも。でも、それはきっとテッケンさんの分身の様にα・β・γの様な区別がない。1・2・3……と続く物でも無いんだろう。


 それは同じで、鏡の様で、世界に全く同じ存在は、存在として成り立たない。リアルでドッペルゲンガーの噂があるように、どちらかは消えなくちゃ行けない……そんな法則が見えるようだった。
 ガイエンは今まさに、LROという世界から消えている。存在を消されてる。だけどそれでも、彼は最後の言葉を紡ぐ事をやめようとはしなかった。


 もしかしたら数秒位は長くなるかも知れないその命を削ってまで、彼は願いを……思いを……そして真実を伝えようとする。


「何って……遺言だ。心底、お前にアイリは吊り合わないと思っているが、だけどまあ、それも今更だ。割り切った事だ。守れよアギト……アイリを守れ。
 私はもう、ここには居られないから、お前が最後の砦になれ。言葉に惑わされるな……自分の中の思いだけを信じてろ。
 そうすれば、きっとお前は誰にも負けない……だろうよ」
「バカ……言ってんじゃねぇ! そんなの認めるかよ! なんだ遺言って!? お前が……この程度で死ぬわけ無いだろうが!!
 いつもの勝ち気な態度はどうしたんだよ!? うざったそうに俺の存在ごと否定しろ! ……そうしないと……お前……本当に死ぬみたいじゃないか……」


 最後の方のアギトの言葉は、実際声に成ってなかった。俯いた顔から涙か鼻水か分からない物が、ドバドバ流れてた。
 周りのエルフの人達も必死に抵抗してた。目を逸らしてた事実にあらがう事をし始めたんだ。具体的には魔法で回復。


 それしかないっていう頭の回転は当然だろう。だけど結果として、その光は一片も一筋も掠りはしなかった。だってガイエンの存在は無くなっていってるんだ。
 そこに合わせるカーソルなんて無くて、存在として定義されてないガイエンは、データ上風景となんら変わらないんだ。


 そんな所に魔法を放っても、どうにも成らない。回復魔法は自然を元には戻せない。あくまでもその対象はプレイヤーであり、生き物だからだ。
 何十と言う光が重なり合っても……そこはどこかズレていて、ガイエンには届かず消えていく。ここに居るエルフノ誰もが、その瞳に涙を溜めていた。


 どうしようもないと分かって……そして誰もがガイエンの状態が普通じゃないと分かってるから、涙を流さずにはいられない。
 ガイエンは血を流す程に浸透率が高かった。だからこそ、きっとこんなおかしな消え方をしてるんだと思う。あの黒い奴の影響もあると思うけど、きっとガイエンはこのままゲートクリスタルに戻るって事はきっとない。


 もしかしたら……この目の前のガイエンの消滅と同時に最悪の事態が起こりうる可能性がある。でも……ここにいる誰一人として、それを最早止める事は出来ないんだ。
 覆水盆にかえざる。こぼれてしまった水は戻りはしない。どんなに強大な力を持ってるアイリでも、それを強引にねじ曲げる事は出来ない。


 カーテナはあくまで、ゲームとしてのアイテムで、バランス崩しと称されようが、ゲーム自体に干渉する事は出来ない。
 それが出来るのは、裏側に居る奴らだけだ。僕たちが今夜、二度も戦い続けてる奴らだけ。だけどそれは希望もくそもないのは明白だ。


 ガイエンの奴はもうこの結果を受け入れてる。それがまた、僕達に……いやアイリ達にしてみたら悔しくて溜まらないんだろう。
 泣くしかない……泣いてもどうにも成らないけど、どうしようもないからこそ、鼻を痛くしながら涙は止めどなく溢れてくるんだ。
 そんな中、再び場違いなノリの叫びが上がる。アイリが陥没させた地面からだ。


「かーっはっはぁーー!! むちゃくちゃブチ切れたぜ女!! てめぇはいたぶった後に、心まで壊してやるよ!
 くっはっは、そこのクズが手には入らなかった物を、俺様は強引に強奪に強行に手に入れてやるぜ! あらがたって無駄だ。
 俺様はお前の服をはぎ取って、その体を隅々まで犯し尽くしてやるよ。ベースと成ってる、その死にぞこないの体でなあ!!」


 腐った言葉が周囲に響いた。本当に腐った言葉だ。これほど下品で、救いようのない言葉は初めてだ。ガイエンから全てを搾り取った割にはバカな印象が強い。
 いや、奴はあくまでガイエンの闇を増幅増長させて作られた存在みたいなものだったっけ? なら闇らしいと言う事なんだろう。
 でもその言葉は、今のアイリには禁句に近い。アイリは再びカーテナを奴に向ける。


「その汚い口を今直ぐ閉じさせてあげる! そしたら……もしかしたらガイエンは救えるかも知れない!!」


 原因を滅ぼせば全てが元通りに成る……なんてそんな理屈、本当はありはしない。それはアイリだって分かってるだろう。
 生み出す事と、戻す事が同じ作業で循環出来るとは限らない。ましてや元通り何て事は、進む時間の中で決してないと僕は思う。


 今日と同じ明日が無いように、昨日と同じ自分はいない。だからって、助けれないと決めつける訳でもないけど。
 進めばいいんだよ。そしたら昨日よりも強い自分と出会えるかも知れないのと同じように、元通りじゃ無くても彼である存在を見つける事は出来るかもしれない。
 それで良いはず何だ。


 だけど奴は……黒い敵は、不適にアイリに向けてこう言った。長く気持ち悪い舌を伸ばしてだ。


「やるのかよ? 出来るのか? 言ったよな、“私”はそいつでもあるんだ――っぞおおおおおおおおおおお!!」


 奴はアイリが一瞬、迷った隙に飛び出してた。凄惨な顔を浮かべてアイリへと迫る。
 だけどそれは迫るという表現はあまり正しくは無いかも知れない。何故なら奴は、闇に溶ける様に、姿を消しては現れるからだ。


 闇に溶ける限界でもあるのか、四・五回目の出現で奴は、アイリの目前にいともたやすく登場した。闇に溶けてる間は、物理障壁(人や壁)なんかは意味ない様だ。


「「アイリ!!」」


 ガイエンとアギトが必死に体を動かそうとした。だけどガイエンはそれを出来る状態じゃなく、アギトも泣いてるせいで体が強ばってたんだろう。
 泣くのって意外と疲れるから……だから反応が遅かった。


「ひゃっはああああ!!」


 もらったあ! とでも言いたげな叫びをあげる奴。だけど僕は……僕だけは素早く、そしてイクシードの特性を使って奴とアイリの間に体を滑り込ませた。
 イクシードは風を司る。こんなのお茶のこサイサイさ。


「無茶するなよガイエン。僕はまだお前の為に涙とか流すレベルの友人じゃないけどさ。親友の不手際位、カバーする権利はあるだろ?」
「てめえ!!」


 赤い瞳が僕を射殺す様に睨んでる。でも僕は、その瞳を受け流す様にしてこういってやったよ。


「無粋な事してんじゃねーよ。お前にこいつらの邪魔はさせない。最後に……成るかも知れないんだ。僕につき合えよ闇野郎!!」


 そういって僕は奴を押し返す。するとそこで、いつの間にか高見の見物を決め込んでたシクラがいつもの調子で言う。


「さあどうしよっか? 彼は結構手強いよ☆ 生まれたてだけどもうちょっと一人で頑張れる?」
「アホな事言ってんなよ! 邪魔なんてするんじゃねぇ。アイツは俺が殺す!!」


 どうやら奴は、目の前の事しか見えない様だ。上手く食いついてくれた。でも今度は流石に、大鎌を取りにいきやがった。
 まあ僅かだけど時間は稼げるから良しとしよう。


「貴様……」


 ここまで来て、僕の事を貴様呼ばわりとは……ヤレヤレな奴だ。さっき一瞬動こうとしたせいで、一気に崩壊が進んでる癖に良い根性してるよホント。
 だけど次の言葉は予想外だった。


「すまない……」


 確かにそう聞こえた。いや、間違いなくそういった。エルフ以外を毛嫌いしてるガイエンが、素直にそういった。それは嬉しいことでもあったけど、同時にそれだけの事だと実感させられた。
 まあわかってたから、僕は飛び出したんだけど。何となく僕にはわかる。何故なら僕だって、いつこうなるかわからないからだ。


 同じ条件なんだよ、僕とガイエンは。たまたま僕は運が良くて、人に恵まれただけで一歩踏み外せば、ガイエンと同じように、僕も崩れて消えていくんだと思う。
 だから……邪魔なんてさせたくなかった。最後に成るかも知れない言葉くらい、ちゃんと言わせてあげたい。だから僕は、アイリ達の代わりに奴に挑む。
 エルフの人達は、ちゃんとその最後を見届けるべきだから。だから……


「なら、僕達も助力しよう」
「私達も手持ち無沙汰だったから丁度良いですよ。やっちゃいましょう。やっつけちゃいましょう! 実際結構私、怒ってますから」


 隣に並んできたのは、テッケンさんとシルクちゃん。その傍らにはピクもいる。そしてさらに続く様に、リルレット達、エルフ以外のみんなが続いてた。
 みんな思う事は同じらしい。


「はは、心強い……とっても」
「君を一人にはさせないさ。僕達はね」


 テッケンさんの言葉が胸に染みる。それは抜け殻だった体に力をくれる。アイリ、アギト、ガイエン達の思いで既に満タンだったけどさ、その一言はきっと、エンジン点火させる炎になった。
 僕は背中を向けたままガイエンに言うよ。同じ存在だった奴に……先に逝く奴に、僕は言う。


「すまないなんて安っぽい。忘れるなよ。これは貸しにしといてやるよ」


 そういって僕達は奴へと向かう。先頭を切って僕は風になる。後ろの方でそのとき、微かな声が聞こえた気がした。


「……すまない」


 やっぱりそんな言葉だった。






 すまない……その言葉は彼に届いただろうか? いや、きっと届いたと信じよう。ここまでしてくれる彼には、何とも味気ない一言だが、私にはこれ以上の言葉が思いつかなかった。
 いつまでたっても自分達以外を受け入れきれなかった小さな私ではあれが限界なんだ。そして彼と私の違いも何となくわかった気がした。


 私には出来ないよ。自分の為と今目の前にある大切な物以外で、簡単に命を晒すような事、愚かしくて出来ない。だが彼はそれをする……糸も投げに、そうする事が義務でもあるかの様に。それはとても危うい事だ。


 彼は本当は……本当に……“生きたい”と思ってるのだろうか? 私は本当は生きたいよ。だがそれは手遅れだ。私は存在として消滅される。上書きされたんだ。
 新たな存在に。新しいソフトが更新される様に、自分を更新……いや切り取られた? かな。だが、周りの誰もが泣くから、私は泣けないじゃないか。本当に仕方なく、しょうがない格好良い事を言うしかない。


「お前達……は強い。私が育てあげた軍隊だ。数の差に負けたりしない……胸を張れ。騎士の誇りで国を救えるのはお前達だ」


 ほらな……こうなるんだ。お前達が泣くから、私は……


「何で……何でそんな事言うの!? 言ってよ! 私達に弱音を吐いてよ! 何にも出来ないけど、頑張るから! 諦めないから……『助けて』って言ってほしい。
 私は何度も言ったから、今度は私が絶対……絶対に助けるよ! 約束するから!!」


 胸に刺さる絶対に抜けない針が見える。いつだってこの針を突き刺すのはこいつだ。私が欲しい物を持ち去って、私が目指すべきに位置に常にいる。
 本当はアギトなんかよりずっとアイリが嫌いだった。本当は、アギトと私は似てると思った。光に照らされる事を覚えた月同士。


 でも、その近さを私達は競いあったのかもしれない。無意味な戦いで、無駄な争いだった。もっと素直に私が成ってれば、誰も傷つかなくて済んだかも知れない。
 誰も悪くなんか無い。悪いのは私一人だ。弱い私が、一人で悪かったんだ。だけどアイリはまだ、そんな私を許してくれる。間違う私を誰もが許してくれる。
 これが涙を流さずにはいられようか。私は必死に声を振り絞り、情けなく叫んだ。


「助けて欲しい」


 そう願って、私は消えた。

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