命改変プログラム
巨来する空の塊
「シイちゃん、私のために出来る事をして」
そんなセツリの言葉にシクラは、いつもの陽気で快活な感じで実に気軽に答えた。
「おっけー☆ じゃあまずは、ガイエンの絶望の詰めをしなきゃだね」
シクラはそういうと、鳥の背の上で腕を天へ翳した。するとシクラの髪に光が走る。全体と言うよりはその一本一本に光の線みたいなのがチカチカとだ。
何をする気だ? そんな考えを巡らせてると、シクラの掲げた手の先から……というよりももっと上の方からキラリと光る何かが見えだした。
それはまるで流れ星の様な……だけどその姿は次第に、そして確実に大きく成っていく。しかもどうやらそれは一個じゃない。
大気圏内で燃え尽きない流れ星……それは地上に爪痕を残す隕石って奴じゃないだろうか。しかもまだ遠くの筈なのに、その赤々とした姿がここからでもはっきり分かる位に巨大と言うことは、それは爪痕何てレベルじゃ済まないだろう。
しかもそれが見る限り七・八個は落ちてきてる。どう見ても、完全に僕達の場所を目指してだ。偶然? な訳がない。どう考えてもそれは、シクラの仕業。
魔法陣も何も見えなかったけど、あの掲げた手は、隕石を呼んでる様にしか見えないよ。
「お前……何する気だ!!」
僕は思わず、聞かなくても分かる事を聞いてしまった。多分……いや絶対にそうだろうなと思う事があるんだけど、でも聞かずにはいられなかったからだ。
もしかしたらの可能性に……あり得ない可能性に、僕は縋ろうとしたのかも知れない。でも、シクラは簡単に簡潔に、そして簡素にあっけなく答えた。まるで髪をとかしながら、今日何をしよっかな? みたいな気軽さで。
「うん? 皆殺し☆」
その瞬間、最初の隕石が僕達の直ぐ横を通り過ぎていく。その大きさは考えていた物よりも更にデカい。空から飛来する炎の塊は、有に直径六・七メートルはありそうだ。あんなのが七・八個?
そんなのが地上に直撃すれば、この国どころか辺り一帯が灰に成るんじゃないか? いや、そうしようとしてるのか……シクラは笑顔で「皆殺し」と言ったじゃないか。
地上を見ると、ようやく空からの飛来物に気づいたらしいみんなが慌てふためいていた。気休めに成るかも分からない魔法障壁や、防御系の魔法を魔法使いの人達が一斉に詠唱しだしたのがここからでも分かる。
地上に灯ったいくつもの光り……それが魔法を使うとき特有の光だと分かるから。でもそれが間に合うか、間に合わないかじゃない。
防ぎきれるのか、きれないのか……その方が重要だ。でも僕には分からない。そこまで魔法に詳しくないし、出来る事は願う事だけだ。
いや……まだ、やれる事はある! 僕は頭上に向かって叫ぶ。
「セツリ! あそこにはアギトもテッケンさんもシルクちゃんだって居るんぞ!! 今直ぐ止めさせろ!!」
どうせシクラは僕が言っても止まらない。でもセツリなら違うはずだ。そう思って、見えないセツリへ言葉を発した。
でも帰ってきた言葉は、想像以上に冷たくて、考えてた限りで最悪な答え。僕は本気で、セツリを殴り飛ばしたいと思った。
「それは……悲しい事だけど、しょうがないよ。うん、しょうがない。私の為に死んでもらおう。友達だもん、そのくらいしてくれるよね」
「セツリ……おまっ!! んな事、どんな顔でほざいてるかちょっと顔見せてみろコラアアア!!」
握りしめたセラ・シルフィングに力がこもる。いっその事、この鳥を切り裂いて三人まとめて地上に落ちるのも悪くない考えだと思った。
それならシクラは、攻撃を止めざる得ないだろう。だけど僕はそれを実行出来ない。それを分かってるシクラの奴は、この鳥の背で僕を見下してた。
「くっそ……なんで……お前なんだよクー」
「あんまり生意気だと、落とすよスオウ? ねえシイちゃん」
「うんうん、だけどどうせならこの後にした方が面白い反応が見れるかもだよせっちゃん。それに見物人が一人も居なくなったらつまらないじゃない☆」
ふざけた事を抜かすシクラ。僕をこうやって生かしてるのはそういう理由か。どうにかしたい思いは強くある。でも今僕が地上に落とされた所で、最初の隕石の衝突には間に合わない。
そしてこの規模の攻撃を、どうにか出来るなんて……それほどまでに、僕はこの力を買い被ってないよ。僕が今更行ったところで、余計な手間を増やすだけだ。
なんて無力感……仲間達がピンチなのに……大ピンチなのに、僕は安全圏で何も出来ないのが悔しすぎる。
「例え……僕が一人になっても……お前達の好きにはさせない!!」
僕はそう言う事しか出来ない。そしてたった一人何て問題に成らないとわかってるこいつらは気軽に言う。
「どうぞご勝手にスオウ。私の邪魔をするのなら、もうスオウでも許さないよ」
「せっちゃんがそういうのなら、私もおもいっきり相手してあげようかな? ねえスオウ☆」
二人の言葉に僕は唾を飲み込んで答えてやる。
「上等だ……」
そうこうしてる内に、次々と僕達の周りを隕石が落ちていく。そして最初に通り過ぎた奴が、遂に地上へとぶつかった。
それはまさに爆弾でも落とされたかのような衝撃。地面と言うか世界が揺れたんじゃないかと思うほどの爆発だ。一瞬聞こえた様な様々な叫びも、その爆発音に呑まれてしまう。
ここから見える地上は、巻き起こった粉塵に包まれた。だけどそんな粉塵も、次々と地上に落ちる隕石に、穴を開けられていく。
そしてどれもかしこも、空高く昇る煙の柱を立ち上がらせてた。その惨劇という惨状は余りにも酷くて、見るに耐えない物だった。
全ての隕石が落下した地上は、まさに地獄と化してた。
いくつものクレーターが衝撃で出来て、そこには人もモンスターも混ざりあった死体がるいるいとしてる。誰一人として、そこで立ってる者は居なかったんだ。
「さあ、来るかな来るかな☆」
そんな声の見据える先、そこにはこの惨劇でも変わらないたった一人の姿があった。立ち上る青紫の光の主……それはガイエンの姿。
実際にはさ、姿その物が見える訳じゃない。でもその光が変わらずに有ると言うことは、多分ここでの唯一の生き残り何だろう。
あの光が、ガイエンを守ってくれたんだろうか? でも今のシクラの言葉……わかっててやったのかも知れない。元々ガイエンを殺す気はない連中だ。
でも絶望を見せたい……そして今まさに、ガイエンの目の前には絶望という光景が広がってしまったんだ。
「ううううあああああああああああああああああああ!!」
突如響いた叫び。それはいみじくもやはりというか、その光の中からした。そして青紫の光の表面からは、黒い影が幾本も伸びだした。
「ガイエン!! おちつ……っ!」
僕の言葉は途中で止まる。この惨状を目の当たりにして、そんな言葉を吐けるか? 僕よりもガイエンは間近で見ただろう。好きな人が……大切な友と仲間が……そして守りたかった国が……全て無くなる瞬間をだ。
それはきっと瞼を閉じる度に思い出される位の光景。絶望を与えるには十分過ぎた惨劇。言葉を止めた僕に、シクラは面白そうに言葉を突きつけて来る。
「無駄だってわかった? あはは、やっぱり絶望は彼の中に飛来しちゃったね。あの隕石群は、それも丁度運んできてくれたんだよ☆」
「運んできた? ふざけた事抜かすなよシクラ。全てはお前の計画通りだろうが!!」
そうだ……全てにおいて最悪の結果を招いたのは、シクラの計画。つまり僕達はシクラの計画を打ち破る事が出来なかったって事だ。
誰もが必死に抵抗した。だけどそれを上回る力でこいつは易々と踏みつぶしたんだ。それはまさに絶望だ。希望と言う光を踏みつぶす絶望。
それを体言した様な女が笑って言う。
「だから言ってあげたよね? 私はいつだってそれを上回ってほしいって? 私が悪いのかな? 違うよね。悪いのは弱くて脆弱なスオウ達だよ☆
私から言わせれば、守れる力も無いのなら、大切な物なんて持たなければいいんだよ」
身も蓋も無いことを、シクラはズバッと言ってのける。でもそれは……「違う!!」そう言おうとしたら、摘まれてた嘴が、唐突に放された。
すると重力と言う物に従って僕の体は、地面を目指して真っ逆様に落ちていく。
「てっめえええええええ!!」
そう叫ぶが時すでに遅い。ぐんぐんとシクラ達は小さくなる。もう魔法で助けてくれる仲間はいない。自分でどうにかしないと……幸いまだイクシードは発動中だ。
「よし!」
僕はそう呟くと、体を地面へと向ける。そして待機状態だったイクシードに命令を送る。するとその刀身に再び風のウネリが出来る。
ただのイクシードは乱舞を効率化して持続時間を伸ばした物だ。だから色々と便利な機能が何だか知らぬ間に増えてるよ。
それに違う使い方も発見したしな。僕は地上に向かってウネリを向ける。そしてそれを支えに、タタンと言う感じで、地上に無事降り立つ。
だけどその瞬間、何だかモワッとした熱気に僕の体は包まれる。
「何だこの不快感……」
明らかに温度が異常だ。でもその原因は何となくわかる。さっきの隕石のせいだろうこれは。僕が降り立ったここもクレーター。焼けてしまってるんだ、大地その物が。
だからこんなに熱気が充満してる。辺りに視線を向けると、そこは空から見るよりも酷い光景だった。思わず目を逸らしたくなる……そんな有様。
この熱気もそうだけど、この土も肉も焦がした様な臭いも実際堪らない。この光景と相まって、吐き気が常に襲って来る。
「くそっ……」
僕のそんな小さな呟きを拾ってくれる奴は誰もいない。言葉はただ空しく空気に溶けて行くだけだ。でもそれでも、残された僕は震える体を押さえつけて、目指すべき場所を見つめた。
僕がやるしかないんだ。アギトもアイリも居ないのなら、僕がやるしか……見据える先には、青紫の光を多い尽くさんばかりの黒い影が発生してる場所がある。
そして今も聞こえる絶望に打ちひしがれる者の叫び。それは痛々しくて……呪いの様で……聞いているのも辛いほどの声だった。
「どうにかしないと」
僕はガイエンの元へと走り出す。それは残された僕がやらなきゃいけない最後の足掻き。そしてシクラに対する抵抗だ。
深く窪んだクレーターを上り下り、全速力でガイエンを目指す。風を味方に付けて走る僕は、ものの数秒でガイエンの元へとたどりつく。
だけどそこは、何だか異様に不気味だった。黒い影が広がってる地面は、隕石着弾の影響を受けて無いのか元の地形のままぽっかりと無事な感じ。
でも異常にぬかるんでる。ボコボコと黒い泡が沸き立つ位に。まるでそれは、ガイエンの絶望が辺りに浸食してきてでもいるかの様な異常さだ。
本当に次から次へと……不足の事態しか起こらないな。何をどうすれば答えにたどり着くのか……全然検討もつかない。いや、答えなんて明確な物が、そもそも正解とは限らない。
でもだからって残った僕が足を止める訳には行かなくて……ずっと側にいた女の子さえ助けられない僕だけど、もう一度初めからと決めたんだ。
だからたった一人でもやれる事をやる事に迷いなんてない。ぬかるんだ地面を進み、僕は黒に染まりつつある青紫の光へとたどり着く。
近くで見てわかったけど、ガイエンの奴は地上から数メートル浮いてる様だ。その赤い目が光輝き、決して閉じようとしない。
溢れ出す涙は、目を逸らしたいと語ってるのに、それを瞳が許してないみたいだった。アイツの中に居る何かが、そうしてる。僕はそう感じた。
「ガイエン!!」
僕は近くで叫ぶ。するとその瞳が所在なさげに動いて、顔を向けずに目だけが僕を捉える。それは一瞬、引いてしまう様な動作だった。
あれも多分、“何か”の影響だ。絶望にくれてるガイエンは体の支配権を譲りつつ有るんだろう。次第に光と共にガイエンまで覆い尽くさんばりに影は溢れて来てる。
多分この影が全部を覆い尽くしたら、もう声は届かなく成るんだろう。そう思う。
「聞こえてるんだろガイエン! わかってるだろお前だって! お前が負けたらダメなんだよ! 僕が言ったって届かないかも知れないけど、お前がそれに呑まれちゃ終わりなんだ!!
だからやられんな! 誇りを見せろ!! お前はそういう奴なんだろ!!」
「誇り……あ……ぁあぁああああ……ああぁああぁぁあぁぁああああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁあああああぁぁぁあぁあ!!!」
何かのたがが外れた様な声が鳴り響く。聞こえてはいるようだけど、届いてない。線だった影が面に次第に成っていく。ダメだ……僕じゃこいつとの関係性が薄すぎる。
てか殆ど知らないし。友達の友達はまだまだ他人だ。これからが有るのなら、関わりも出来るかも知れないけど、今はまだ知り合いって域にも僕とガイエンは達してない。
僕から見ればエルフの一人でしかないし、向こうからしてもアギトが連んでる奴位にしか認識されてないだろう。
そんな薄い関係の他人が何言ったって届かない。
聞こえては居るんだろうけど……聞く耳をもてなくても仕方が無いことだ。仕方ない事では済ませれないけど、今から関係を築く時間なんてない。
それに、ガイエンにとってのアギトやアイリみたいな存在の代わりには決して成れない。そういうものの筈だ。だから誰もが、ようやく手にした関係を壊したくないと思うし、かけがえの無い事だと思える。
耳につんざく悲鳴が心を切り裂く様に痛む。一気に距離を詰める方法なんて無いのなら、言葉を重ねるしかない。安っぽくなるかも知れない、でも今の僕に出来る事はこれしかない。
「落ち着けガイエン!! シクラとかの思い通りになっていいのかよ!?」
「私が何だって?」
その時、僕を落とした鳥と共に、聞きたくない声が降ってきた。
「お前等……」
「あはは☆ もう手遅れだよ。溢れ出す絶望は、全てのコードを繋いでくれる。それは覚醒の狼煙なの」
よく理解できないシクラの言葉に、僕は首を振って反論する。
「意味わかんねーよ……でもこれだけは聞いてやる。そんな訳わからない事してアイツは……ガイエンはどうなる!?」
「そんなのどうでもいいじゃない。使い終わった駒に興味なんて無いもの☆ 君は食べ終わったお菓子の袋を大切にとっておくの?
そんな訳ないよね? それと同じだよ」
つまりシクラは……この役目が済んだガイエンはゴミでしかない、そう言ってる訳だ。
僕がきつくシクラを睨みつける。けれどシクラはいつまでもどこまでも余裕の笑みだ。自分達の勝利は既に確定してる……その確信がそこにはある。
ここに来たときからそんな感じはずっとさせてた奴だけど、僕はそれを否定出来なくなってしまったかも知れない。
だからこそ言葉が出ない。誰も居ない……何も無い。辺り一帯クレーターだ。辛うじて残ってるのはやっぱり、魔法か何かで守られてるアルテミナス城だけ。
壊された街の瓦礫も何もかもが飛ばされた場所で、その城だけが悠然と立ち続けてる。
でも……それだけだ。建物は何の力にもなってくれは……
「ん?」
その時僕はふと気づいた。目まぐるしく動くガイエンの瞳。それが何度かピタッと止まる時がある。その先に、あの城がある。
アルテミナス城……ガイエンがここですごしてた場所。あれは、あそこはそういえば、アギトとガイエンとアイリ……三人で手にした場所だった筈。
まだ、繋がってる……完全に落ちた訳じゃない。僕はその瞳を見つめてそう思った。ガイエンはまだあらがってるんだ!
「シクラ……まだだ……」
「うん?」
「まだガイエンは、絶望に呑まれてなんかいない!!」
自分に何が出来るのか何てわからない。でも取り合えず、今出来る事が有るとすればこれしかない。僕はシクラに向かってセラ・シルフィングを振るう。
アイツは傍にいるだけで迷惑だから、引き離した方がいい。だけどシクラの奴は一歩も動かず、その髪だけで風のうねりを受け止める。
「絶望に呑まれてない? でもそれも時間の問題☆ あらがうことも、まして押さえる事なんて人には出来ない。だって人は、業が深い割に脆いんだもの」
唇を指でなぞりながらそう言ったシクラ。まるで見てきた様な言いぐさだ。
「終わりよ終わり☆ この国も、この戦いも、私達が全部持っていくんだから。何一つ残さないであげる」
「そんなこと! させるかああああああ!!」
僕は何度も何度もウネリをぶつける。すると流石にうざったく成ったのか、シクラは手を差し出した。触れるだけで切り刻まれる筈のウネリへとだ。
でもそんな事には成らなかった。シクラが何かを呟きながら手を触れると、風がパンッとはじけ消えた。
「なっ!?」
「ねえスオウ。せっちゃんも言ってたけど、これ以上出しゃばったら死んじゃうよ☆ せっちゃんも今ならそれを許してくれるしね。
私が殺しちゃうかも知れない」
その瞬間、体を衝撃が貫いた。何が起きたか何かわからない。でも確実に攻撃された。体が吹っ飛び、地面を転がる。
「がはっ……」
ビチャッと地面に血が落ちる。たった一撃でこれかよ。しかも何だか今までの受けた攻撃とは何かが違う。違和感がある。
倒れ伏す僕の傍に、その時誰かが立った。シクラ? と思ったけど違う。その誰かは、御子っぽい服を着ていて、そして両腕で人二人を持っていた。
「ふふ、呑まれてないのなら、これで完璧に落としてあげる事にするわ☆ 見窄らしい死体を見れば、現実って物に気づくでしょう?」
「おま……え!!」
僕は地面を必死に踏みしめる。そして起きあがった僕は見た。アギトとアイリ……その二人を引きずる奴の姿をだ。
「サクヤ……」
一瞬その言葉に反応したけど、直ぐに前を向いて歩き出す。そう言えば忘れてた……なんて言ってる場合じゃない。
あの目は何だ? 意志っていう物がまるで感じれない瞳だった。
「何を……した? サクヤにお前等何をした!?」
「サクヤはね、私の考えに賛成してくれなかったんだ。だけど私はサクヤが大切だから、離れたくないから、こっちに来て貰ったの。
その感情に制限をかけて」
セツリが事も無げにそんな事を言った。つまりは今のサクヤには感情が無いって事だろう。そこまでセツリがさせたのか。
僕は唇を噛みしめる。あんなに自分を心配してくれた奴にまでこんな……
「サクヤ!!」
忘れたのは悪かったけど、戻ってきてほしい。そんな感情を込めて叫んだ。だけど彼女は振り返らない。そしてガイエンの絶望が広がる沼地に二人を投げ込んだ。
バシャンと言う音に反応して、ガイエンの瞳がアイリ達へと向く。向いてしまう。直視してしまう、この現状を。それはアルテミナス城だけじゃ支えきれないだろう。繋がってた糸がプッツンと切れる音がする。
「ダメだガイエン!! 見るなああああああああ!!」
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
声にも成らない叫び。その瞬間、全ての陰が光を覆い尽くし、球体状へと変わる。空中に鎮座するその物体は、黒い月だ。
遅かった……そして何も出来なかった。
「さあ、覚醒の時ね☆」
楽しげに笑うシクラ。誰もがそんな球体を見てた。でも後ろに居た僕は気づいたよ。アイリが握り絞めるカーテナ……それが僅かに輝きだした事に。
「SF」の人気作品
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