命改変プログラム

ファーストなサイコロ

分かりあえない事



 天を突く青紫した光の柱。そんな絶望の色をした光は、その姿の通りイヤな感じを僕達に与えてる。きっと昔の人達なら、今のこの光景を見て「世界の終わりじゃ」とか言いそうな感じ。
 でも世界とかはまだしも、今この瞬間……一つの国がそう成り掛けてるのは事実だ。そんな国の名前はアルテミナス。剣を掲げる騎士の国。


 エルフと呼ばれる、長身で細長の耳を持つ種族の故郷。整えられた町並みに、夜に成るとそこかしこにあるクリスタルが輝き放つ、綺麗な国だ。
 そう綺麗な国……だった。今はもう、その光景を思い出としか表せなく成ってしまってる。眼下の直ぐ横に広がるその景色は瓦礫と化してしまってるから。


 残ってるのは残骸の中、堅牢に佇むアルテミナス城だけ。だけどその姿はもの凄く寂しい。城は城でしか無くて、その周りに人々の生活感とかを体現出来るもの、すなわち城下って物がないと、城は遺跡みたいな物にしか見えない。


 リアルでなら世界遺産とかに成るんだろうけど、そんな物お呼びじゃなくて、来るわけ無い。だってここは仮想の世界LROだ。
 見える物触れれる物全て、そこには本当は存在なんてしていない……何てわけない! 僕は自分で自分の言った事を塗り返す。


 だってそれを、そうと言える訳がない。もしも僕が、いやLROを始める前の僕なら、そう言えただろう。仮想世界の事なんて……そう鼻で笑えた筈だ。
 でも……知ってしまった。もっと言えば、僕はLROという世界で、もう一つの時間を生きてしまってる。そんな僕は、この世界に存在する一人なんだ。


 LROをただの仮想で済ませられる訳ないだろ。確かにあの城は本物の土の上に乗っちゃいないだろう。城の形を作ってる煉瓦か石か知らない物も、ただのデータでしかない。
 この世界その物が、電子上で組まれた画面の向こう側である以上、それが現実だ。だけど……LROを体験してる人達は「そんなもん関係ないね!」とかきっと言う。


 そう断言できる。何故かって? それは僕もそうだからだ。この世界に降り立った瞬間、データとか仮想とか、そんなもん一気に吹き飛んだんだ。
 その感動を僕らプレイヤーはあまねく共有してる。五感の感覚が開いていくと、暖かな温もりを感じる。優しく肌を撫でた風は、一足早くその地の匂いって奴を連れてきて、目を開いた瞬間に現れたその仮想は、どんな現実にも無いリアルさを叩きつけてくれたんだ。


 別世界……いや『新世界』に来たと思ったよ。それから二時間走り回った自分はアホだと思うけど、それほどなんだ。
 それほどだから、だからみんなLROに入れ込むんだ。誰もがこうやって、自分達の国を守る為に立ち上がる事も出来るし、そんな人達に協力しようと思える僕達が居るんだ。
 素晴らしいじゃんLRO。すげーよLRO。そう思う。何が違うだろうリアルとさ……でも、僕達が帰る所は決まってる……多分それがリアルって事なんだ。




 次第に夜の空気が冷えていってる様な気がした。でもそれは寒いって言うよりは、冷たいと感じる何か。今更夜が冷え込んで来たとも思えないから、この現象の心当たりはこれしかないだろう。
 青紫色の光り……この不気味な光が、あたり一体に冷気じゃない悪寒って奴をまき散らしてる。勢い込んで大言をセツリに向かって吐いた僕だけど、この気持ちがズドーンと落ち込む様な悪寒に唾を飲んでしまった。


 てか、今の状況じゃ自分はどうしようもない。だって嘴で摘まされてるんだからな。それに無理矢理って訳にもいかないんだ……僕を摘んでるこの鳥、それが問題だ。
 ただのモンスターなら斬ることだって出来るのだけれど、こいつには僕はそれが出来ない。だってこの鳥は……


「ねえスオウ……そんな選択許されないよ。ううん、もしかしたら私以外には許されてるのかもね。神様ってクズは、私にだけは厳しいんだもん」


 僕の言葉を受けて、セツリは切なそうにそう言った。そして続けて言葉を紡ぐ。


「だからもし、その選択をスオウが完遂出来たとしたも、私はより一層の切なさに襲われる訳だよね。『何で? どうして?』は私の方なの。
 ねえ、スオウは私をどうしたいの?」
「どうしたいのってそれは……」


 僕はその言葉にどう返せばいいんだろうと一瞬迷った。直ぐに思いつく言葉はある。でもそれはセツリ考えてる言葉だろう。
 でも今更、グダグダ考えた所でどうにも成らない。僕は予想されてて、望まれて無いであろう言葉を口に出す。


「救い――」


 僕の言葉は途中で止まる。何故かと言うと、もっと良い言葉を思いついたのだ。だから考える間もなく、僕はその言葉を発した。今度こそ、痛快に。


「僕はセツリを、幸せにしたい!」


 妙案を思いついたテンションで言ったから、かなり力強く公言してしまった。でもこれは嘘偽り無い僕の思いだ。
僕はセツリに幸せに成ってほしい……というか、それを感じて欲しいんだ。


 だから必死になって追っかけてきてんだろ。予想されてたかも知れない言葉だけど、どうなんだろうか? やっぱり傷つけただろうか?
 僕は見えないその姿を見つめた。正確に言うと、見つめてる体で想像してる。でも浮かぶのは「そっか」とか言って背を向ける様なセツリの姿。


 アイツはもう選んでしまったから、結局はそうなんだろうって考えが先行してしまう。でも上から聞こえて来たのは、言葉に成ってない声だった。


「しししししししししあわあわせにににしたたたい? ってそそそれって」


 すっげー動揺しまくりのセツリである。姿が見えてなくても、今度はどういう風に成ってるのか手に取る様にわかる。きっと「あわあわ」てな感じなんだろう。てかセツリの奴は、何を動揺してるんだ? 意味が分からない。
 僕が想定してた反応と違いすぎるんだけど。


「おい、どうしたんだよセツリ? ちょっとおかしいぞ」
「おおおかしいって……だって……すすすすスオウがプププププロプロプロ……」


 プロプロプロ何なんだ? プロフェッショナル? プロフェッサー? まあ流石にまだまだそんな域に自分は到達してないと思うんだけどな。
 アホな事を考えてた僕に、セツリはそれ以上のアホな言葉を口走りやがる。


「プロポーズ!! するから!!」
「…………は?」


 何言ってんのこいつ? てかえええええええええええええ!? プロポーズって何?  あれれ何だっけ? 


「運動会の時に踊ったりする、女子と自然に触れ合える気弱な男子諸君の夢の踊り。でも絶対に気になる子の手前で曲が止まっちゃうタララッラタララ~てな感じのどっかの民謡をなぜ僕が?」
「オクラホマミキサーじゃないよ!?」


 素早く突っ込みを返してくれたセツリだ。なんか新鮮。「一文字目からと言うか、全てが違うよね」と呆れられてるよ。まあ自分でも何でそんな風に脳内回路が組まれたのかが不思議で成らない。自分の頭を本気で心配する事って結構苦しいものがある。
 でも言い訳をさせて貰うと、僕もさっきのセツリ並に動揺したって事なんだ。だってプロポーズって……ねえ。


「じゃあそのプロポーズとやらを僕が……セツリに?」
「うん」


 窄むような可愛らしい声が短い肯定の言葉を返してきた。あれれ、なんかセツリが今までで最大級に汐らしくなってる様な気がする。声の感じだけで判断ね。どうあってもその姿を見れないのが無念で成らない。
 しょうがないから気を取り直して僕はもう一言問う。


「僕まだ高校一年なんだけど……」
「そっか……じゃあ婚約だね」


 きっとこれがマンガなら、セツリの背景には今、キラキラとした少女マンガ張りの演出がされてる筈だ。だってそんな声だったよ。


「えっと……」


 なんだか、意図せずにセツリがこっち側に来そうに成ってる。会話は微妙にズレてるんだけどさ。婚約って……僕が言いたかったのはそれじゃない。


 ただそれとな~く、そんな意味はあの言葉に隠れてないよと伝えたかったんだ。そうそう、「僕はセツリを、幸せにしたい!」なんて言葉のどこに、んな表現が隠されてるんだって………………やばい、隠れる所か滅茶苦茶矢面に無いだろうかその意味が?


 改めて自分の言葉を思い返すと、あれはプロポーズじゃなきゃ何だってんだって位に思える言葉じゃないか! ヤバ過ぎるって……セツリは普通の少女よりも数倍夢抱く妄想系女子なんだ。
 もう、そう取るのが当たり前としか思えない。てか普通の女子でもそう取るよなアレは。もしも僕が、本当のプロポーズでさっきの言葉を同じトーンで口に出せたのなら拍手物だけど、多分無いよそれ。


 まじ今思うと、もう僅かでも口にするのがはばかれる。セツリは既に、鳥の背で二年後の結婚式の様子でも想像してるのか、アヘヘ~とトリップしてる声が聞こえてる。
 いや……でもこれは不味いよ。確かにセツリがこっちに来てくれるのは望んだ事だけどさ、これはいかんでしょ? 一時的には良いけど、今の言葉がそういう意味じゃないと分かったら、今度は二度と口なんて聞いてくれなさそうじゃん。


 直ぐにシクラ側へと戻るだろう。二度とあえなくなったら、チャンスすらも与えられない事になる。でも久しぶりに聞いたこんなセツリの弾けた声に、なかなか言葉を紡げない。
 どういう言葉を持ってすれば、納得出来るのかも分からない。てかここまで喜んで居るってのが、僕としてはさ……なんだか嬉しい要素もあるんだ。


 だってそれって、つまりはOKしてくれてるって事なんだよな? 一人の男として、それはありがたい。


『結婚……このまましちゃえよ。それなら簡単に目的達成だ』


 心の中から悪魔の様な囁きが聞こえる。


『いいじゃねーか、見た目は最高なんだしさ。最悪、面倒になったら口約束になんの強制力も無いって言ってやればいいんだよ。
 その時にはこことの繋がりを断ち切っとけば安全だ』


 おいおい最低だなこいつ。どこの垂らしだよ。まったく、僕はんな事微塵も考えたりせんわ。
 僕はまだまだ恋や愛に多大な幻想を抱いてるんだ。男子高校生を舐めるなよ。


『幻想に浸りつづけたいからその女、お前じゃない方を選んだんだよ』


 心の悪魔に囁かれた事がグサッと刺さる気がした。確かに全く持ってそうだけどさ……だからこそ、僕までも幻想で彼女を振り回しちゃいけないだろう。
 ちゃんと向き合って欲しいから、僕は諦め切れないんだよ。だから……言うしかない。残酷で嫌われるかも知れないけど、見せたい物は嘘じゃないから。


「セツリ……違うんだ。あの言葉は……」
「そうだよせっちゃん。勘違いなんてしちゃ駄目☆ だっってスオウがそんな意図を込める訳ない。分かってるでしょ? 幼なじみの事」


 僕が言葉を紡いでると横から割り込んで来た奴、それはシクラだ。てか完全に悪意を込めた誘導が感じれる言葉だ。何が分かってるでしょ? でそれが日鞠と繋がってんだよ。


「シクラお前!!」
「言うわけない……スオウそうなの? プロポーズじゃないの?」
「そ、それは……」


 くそ……完全にイヤな感じになってる。何て言えばいい? シクラの無駄に悪意を込めた言い方を避けつつ、傷つけない言葉。
 だけどいくら思考を巡らせても良い案は浮かばない。先手を打たれたのが痛かったんだ。先入観をセツリはシクラに植え付けられてしまってる。
 今から僕がどんな言葉を言ったところで、弄んだ感じにしかならないよ。


「せっちゃん。スオウは選んでくれなかったんだよ。こんなに可愛くて綺麗で愛らしいのにね☆ 本当に駄目な奴だよ」
「そう……だね。何夢見てたんだろう私。スオウが私にプロポーズなんてする分けないよね。だって私はスオウの一番じゃないんだもん」


 甘酸っぱい空気が、この青紫の光に引かれて行く気がした。つまりはトーンダウンだ。さっきまではそれを上回るテンションに成ってたから忘れてたけど、今状況は信じれないほどせっぱ詰まってる。


「ちがっ! セツリ! 僕は……」
「何が違うのかな? それとも結婚する気があったのかな?」


 鳥の背に立ち、僕を見下ろすシクラの顔は、やけににやついていてムカついた。この野郎……そう思うけど、言い返す言葉がでてこない。


「無駄だっんだよせっちゃん。折角助けたのに可哀想。でも安心して、イヤな事は全部もうすぐ無くなるから。幸せ一杯の世界が出来上がる。
 そこにはせっちゃんを傷つける物なんて一つも無いからね☆」
「そう……だね。私は早く、そんな世界に行きたい」


 シクラの言葉を、小さな声で肯定するセツリ。僕はその瞬間、何の考えも無しにただ子供の様に叫んだ。


「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だぁああああああ!! そんな世界に行かせるか!! 僕が行かせない!!」
「じゃあ私を幸せにしてよ!! 幸せにするって言ったじゃない!!」


 涙声でそう言い放ったセツリ。姿は見えない訳だけど、その様子が頭の中で想像できた。そして僕は、自分の迂闊な発言を後悔してしまう。
 いや、あの時はあれが一番だと思ったんだよ。妙言だっって思ったんだ。でも今となっては失言と言うか、ただの妄言だったって思わざる得ない。


 だって僕は、セツリが描く幸せなんて与えれない。そんなの悔しいけど、シクラの言うとおり一ミリも考えて無かった。
 僕はそういう意味で、セツリを幸せにしたかった訳じゃないんだ。


「お前は、僕と一緒に成れれば幸せを感じれるのか? それだけで、あれだけ嫌なリアルに戻れるのか?」
「戻れるよ。一人じゃないのなら……ずっとスオウが私を選び続けてくれるのなら、きっと戻れる。でも一人に成るって分かってる場所には戻れない。
 行きたくない……スオウは私を幸せにしてくれない」


 そうなのか? それだけでセツリは本当にこっちに来るのだろうか? 今ここで……それを言えれば……


「幸せには出来ないかも知れない。そんな自信ねーよ」
「ほらほら☆ 無責任な人間の言葉なんて信じちゃ駄目だぞ。私はせっちゃんを幸せにする自信があるね」


 胸を張ってそう自信ありげに言い放つシクラ。うるせーよ。僕の言葉は終わっちゃいないんだ。ちゃんと最後まで聞けっつーの。


「でも、それは僕一人ではって意味だよ。たった一人でいいのかよセツリ。僕は結婚は出来ないかも知れないけど、友達を与える位出来るんだ!
 それでも幸せって奴を感じれないのか?」


 そんな言葉の後に、一際冷えた風が吹いた。身震いする様なそんな風だった。そしてそんな風が静かに去った後、セツリの声が届く。


「そんなのじゃ足りないよ。私が欲しいのは百人の友達じゃなくて、たった一人で良い大切な人だもん。でもその人は、私を幸せに出来ないって言う。
 誰かに任せてほったらかしにするつもりなの」
「そんな事言ってないだろ!!」


 ほったらかしとまでは言ってない、断固として。でも、そういう風に受け取られてしまったのなら、そういう事なのか? 言葉ってのは難しい。


「言ってるよ!! 誰も何もしてくれない世界……それが私にとってのリアルだよ!! そんなの死んだって戻りたくない!!」
「お……まえ!!」


 流石にその言葉には僕はカチンと来たかも知れない。だからこっちも声をあらげて言ってやる。


「甘えるのも大概にしとけよ! 誰も何もしてくれないだって? そんな筈無いだろ!! じゃあ何でお前は今も生きてんだ!? 
 なんでお前は今ここに居る!? それはお前の為に人生掛けてくれた人が居るからだろ!! その人以外にも、今もお前を気にかけてくれてる人は居るんだよ。
 たくさんの人がお前の為に頑張ってくれてる。最後の一歩で初めの一歩くらい、自分で踏みしめろ!! それをしようともしないお前には、幸せ何て降ってこない!
 いや、幸せはそもそも掴むものだろ。特別なんかじゃない……お前にだってその両腕は、まだ残されてるだろーが!!」


 言っちゃった……まさにそんな事を直後に思った。でも、流石に限界だった。助ける事、救うことをずっと考えて来たけど、それだけじゃない何かが沸き上がったんだ。
 だけどセツリは、そんな僕の言葉を最悪の方向へ取った様だった。僅かな沈黙を破って、次に出て来た言葉がそれを語ってた。


「……何も、何も知らない癖に……嫌いキライきらい!! 大っ嫌い!! スオウ何て死ねば良いのよ!!」


 酷い奴だな全く。いきなり死ねって、手のひら返しもいいとこだ。こうなったら対抗するしかない。てかさ、ぶっちゃけ僕は怒ってるんだ。


「上等だ!! ただな、僕は簡単には死なないぞ!! それに今のままのセツリなんてこっちだって大嫌いだよ。境遇や状況に同情はしてやるよ。
 でもな、いつまでも他力本願で甘えてるなよ!!」
「同情なんて……いらないわよ!! 誰かに頼って何が悪いの!? そんな事言う時点で、スオウは私を何も分かってない!!


 簡単には死なないですって? 今ここから落としてあげよっか!!」
 それはヤバい! まだまだ結構高いんだぞここ。すると横からシクラがしたり顔してこう言った。


「駄目だよせっちゃん。その台詞は落としてから言う物だぞ☆」


 キャハってな感じのシクラのノリに本気で殺意を抱いたね。何とんでもない提案してるんだこいつ。今度からそうされたら命が幾らあっても足りないじゃないか。
 僕はギャグマンガのキャラの様なノリで回復しないんだぞ。


「ふふ、まあそれは冗談として、でも良かったよね。これで心置きなく、せっちゃんはこちら側に居れるもん。仲違いサイコー☆」


 おいおい、シクラの奴の言葉は今の状況でデリカシーなさ過ぎだ。仲違いサイコーってセツリだって傷つく言葉だからなそれ。


「そうだね……これで私は余計な事、考えなくて済む。自分の為に誰かを犠牲にすることだってきっと出来るよ」
「何……言ってるんだお前?」


 するとシクラが腕に持ってた何かを見せつける様にして、こう言った。


「それはね、こういう事だよ☆」
「っつ!?」


 それは腕だ。人間の片腕……しかも骨や肉が見えて、血がなまなましく落ちていた。誰の? そんな事が頭に浮かんで、そして直ぐに直結した。この腕・・まさか!


「アイリの腕か? そうなのか!!」


 さっきの血だまり……その原因はこれなんだ。ガイエンがこうなるのも分かる。目の前でちぎられたのだとすれば、自分の無力さや、ふがいなさでおかしく成るだろう。
 それこそ絶望するほどに。


「まだだよ。私たちが犠牲にするのはその子じゃない。いいよねスオウ。大嫌いな私が何しようと。だって私にはもう、ここしかないんだもん」


 セツリの奴が何言ってるのかよくわからない。僕も見せつけられたその腕にかなり動揺してる。でもそれでも僕にはまだ、言いたい事があったんだ。


「良いわけ無い!! そんな訳ないだろ! 確かに僕は今のお前が嫌いだけど、それでも助けるぞ!! それをここでやめるつもりなんて無いんだ!!」
「何……それ? 意味わかんないよ」


 確かにその通りかもしれない。でもこれは可能性で、維持みたいな物なんだ。


「お前がそんな考えだってのも仕方無いってのも分かるってんだ。でもそれじゃ駄目なのも事実だ! 僕はどうにかしたい! 生きてれば、その価値観を変える事はきっと出来る!
 だから僕は、お前の未来に賭けてんだ!! だから助ける事を絶対に諦めない!!」


 精一杯僕は叫ぶ。すると低く暗い声が帰ってきた。


「そんなの……私には関係ないよ」


 そしてセツリが、絶望を与える指示を出す。

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