命改変プログラム

ファーストなサイコロ

盤上の悪魔と僕等

「何だ?」


 僕はちょっと間抜けなを声を出して二人のやってる事を見てた。アイリとアギト、その絆の証とでも言うべき指輪がその手に戻り。
 今再び守るべき力をアギトは得ようとしてるんだ。アイリの手を取ったままひざまずいてるアギト。二人の足下には今までとは違うエフェクトが光ってた。


 それは魔法を使う時によく見るそれじゃない。だけどどこかで見たことある印が浮かんでるんだ。
 盾と剣のアンダークロス。その交差の上にあるクリスタル。そして二人の周りには不思議な色の光が集まってる。


 アギトとアイリは、二回目だろうから驚きはしないけど、僕は結構ドキドキだよ。大丈夫なのか? とか思っちゃう。
 僕たちじゃあさ……望まれて無いんだよ。僕達余所物はさ、あの輪の中にはどうやったって入れない物がある。種族とかそんなに気にした事は無かったけど、これだけ分かちあえる物なんだとビックリだ。


 あの団結? とかに僕達は呼ばれてない。悪魔を追いつめて行ってるエルフの戦士達……全力でぶつかり、全力で防ぐ。そこには響くだけの声じゃない何かで、きっとみんな伝えあってるよ。
 そしてみんなが同じ思を向いてるから、ハッキリと伝わってるんだと思う。僕達、アルテミナスの以外の出身者はそれが同じには決してならない。
 何故なら僕達にも故郷があって、今の彼らは皆、自分達の大切な故郷を守ろうとしながら戦ってるからだ。そこにはさ、やっぱりどうしても、埋められない何かがあるんだ。


 だから、エルフじゃない僕やシルクちゃんやリルレットやテッケンさん……後他諸々、協力してくれてた人達は結構置き去りだよ。
 まあ、置き去りと言ってもそこまで軍の後ろに居るわけでも無いけど……動けないのならそれと同じだろ。でも歯がゆいとは思わない。


 逆に良いじゃんくらいに思う。こういう感じ……ついつい知ってる奴……特に最前線で悪魔をボコッてるセラが攻撃入れると「行け! 行け そこだぁあ!!」位叫びそうだよ。
 そこはグッと堪えてるけどね。何てたって、直ぐそこでは重要な事してるし……二人の雰囲気って奴を壊したくはない。


「アルテミナスの紋章に、この儀式の意味を考えると、あれは『洗礼』かな?」


 小さなテッケンさんが、足下でテクテクしながらあの光と紋章を言ってくれた。ああなるほどね。どうりで見覚えがあると思った。
 そう言えばアルテミナス城に揺らめいてたよねアレ。魔法とは違うから、国のシンボルが現れてるのかな?


「洗礼?」


 僕は足下のテッケンさんに視線を落として聞いた。


「僕も同じ様なのを国で見たことあるよ。まあもしかしたらここではそう言わないかも知れないけど、洗礼とは特別な儀式の為の前準備だよ」


 ほほう、つまりこの場合は、アギトに力を与える為の準備をアイリはしてるって事か。それがアレ……洗礼。


「何か意味あるんだよねアレ?」


 僕の失礼な応対に、今度は自分と同じ位か少し低い位置から声が届いた。


「当たり前だよスオウ君。『洗礼』は限られた人しかやれない特殊な物なの。大体はアイリ様の様に、国事態に選ばれてバランス崩しを授かった人達です。
 『洗礼』はその紋章で包む空間を、ある特殊な場所に変えてるって言われてます」
「特殊な場所って何? シルクちゃん」
「はい、その国で最も清浄なる地……それが『洗礼』によって変えられる事なんです。だから今、あの二人が居る場所こそが、この国で最も清らかな地なんです」


 へぇ~と僕は頷くばかりだ。テッケンさんも縦に首を振ってる。どうやら知らなかったのは僕だけじゃなく、リルレットも陰で関心してたよ。
 けど清浄の地か……確かにそれは儀式場としては最適何だろう。そんな清浄の地で、二人は互いを見つめて言葉を紡ぐ。
 まずはアイリが、涙を堪えて息を整えて口を開いた。


「アイリ・アルテミナスが問います。貴方の剣は、何を貫き、何を守る剣ですか?」


 そしてそんなアイリの問いに、アギトは今までで一番だろうと思うくらいの爽やかな顔で言葉を紡ぐ。


「俺の……私の剣は、貴女とこの国に陰りをもたらす全てを貫く剣でありたい。いかな全てから、守れる剣でありたい。
 そして……この思い、この気持ち、この誓いが嘘偽りで無いことは、この地が証明してる」


 証明? どう言うこと? と僕はシルクちゃんに顔を向ける。すると直ぐに可愛らしい微笑みと共に返してくれた。うん、何回でも振りたい笑顔だ。


「あそこは清浄の地。そして権限者の言葉は絶対。清浄であるからこそ、嘘偽りやごまかしは許されない。幾ら美しい言葉を並べ連ねても、『洗礼』の場所では心を読まれるとまで言われてるの。
 そしてそんな悪い子には、命を奪う禁断の炎が身を滅ぼすって言われてます」


 コワッ……成る程、リスクも当然あるわけだ。心を読むってのはどうなんだろうと思うけど、最近の嘘発見機はスゴいらしいからその原理かも知れないな。
 LROは脳波とか計ってるだろうし、そこら変で嘘を見抜けそうだ。そうなったら、命を奪われるって事。アギトの証明は、その身でされてるって事なんだ。


 アギトは不意に、口元を綻ばせて言う。それはさっきまでの、堅苦しい儀式用の言葉じゃない。もっともっと、心を込めて、慈愛を込めた言葉。


「アイリ……もう一人になんて、絶対にさせない。前の百倍の覚悟で俺はそれを誓うよ」
「アギト……」


 堪えきれない涙が片側からこぼれて、後を追う様にもう片方からも、一筋の涙が流れ落ちる。今にも泣き崩れてしまうんじゃ無いかと思う程、アイリは危うい。
 でも、そこをアルテミナスの王という責任が支えてる。アイリは唇をキュッと噛みしめ、顔を毅然と上げた。目尻から飛ぶ涙が綺麗だった。


「良いでしょう。アギト、貴方にもう一度、力を授けます。アルテミナスの騎士の力を……さあ、受け取りなさい。
 そして……もう放さないで」


 最後の言葉……それがアイリの全て……そんな気がした。紋章の輝きが強くなる。思わず僕達は目を腕で庇う。それほどの光だった。
 近くの軍もその光に飲み込まれる様になってる。


 その時、轟く様に響いた悪魔の断末魔の叫び。勢い込んだセラ達が、一足早く倒してしまったのか? とも思ったけど、僅かに開いた瞳で見る限り悪魔はまだ健在だった。
 流石に、そう易々と倒れたりはしないらしい。今でも十分易々では無いんだけど……追いつめてはいるものの、決めの一手に欠ける感じだ。


 セラは聖典使えないしな。勿論軍の奴らだって侍従隊の他の面々だって、それぞれ決めの一手は持ってるだろうけど、HPが少なくなるに連れて激しくなる悪魔の動きに、その一撃を上手く決める事が出来なくなってるみたいだ。
 野生の獣の様な動きに研ぎ澄まされて行ってると言うかさ、あの悪魔そういう特性を持ってるんじゃないかって位に粘ってやがる。


 HPが少なくなると、普通は動きが鈍く成ったりするもんだけど、偶にそれが逆に成るモンスターが居るって聞いたことあるような気がするよ。
 特にボス系はそうかも知れない。厄介な攻撃は、HPをある程度減らした所から使ってくるみたいな設定は良くある事だ。


 でもあの悪魔の場合は、違う攻撃は別にやってない。やっぱり変わってるのは動きの部分。闇雲に暴れてただけだったのに、今は防いだり避けたりもちゃんとしてるんだ。
 しかも自分の体を上手く使ってる。羽や尻尾なんかも攻守に使われたら厄介だ。追い込まれた事で覚醒状態に入ったみたいな悪魔は……そして、厄介なというか自分の存在を脅かす力をきっと嗅覚や本能で察したんだろう。


 その危ない瞳がこちらを捉えてる。まあ、これだけ光を放ってて気付かれない訳無いけどさ。つーか、アギトにはあの力が戻ったのか?
 ナイト・オブ・ウォカーのその力。光は次第に弱まって行ってるけど、まだそれを見ることは出来ない。その時、突風がこの戦場に吹き荒れた。


「しまっ!?」


 そんなセラの声が遠くから聞こえた気がした。その方向を向くと、何と悪魔が一直線にこちらに飛んで来てた。つまりこの突風は、セラ達を足止めさせる為の足掛かりって訳だ。
 その瞬間に一気に飛んで、多分一番危険だと思われるこの場所に居る敵を破壊しに来たって事か。アギト達、光の真上に到達する悪魔。広げた羽を羽ばたかせて、前準備の様に一段高い空へあがる。そして構えるのは、闇夜に浮かぶ巨大なメイス。


「っつ!? まさか、あれを投げる気かアイツ!!」


 僕はとっさにそう悟った。単純な質量だけでも地面にめり込みそうなのに、あの悪魔の力で投げられたら爆発でも起こるんじゃないかと思えるよ。
 隕石が落ちたときに現場に現れるクレーター。あれの様にここは成るかも知れない。いや、あの悪魔はそうする気だ。


 その一撃で、確実に本能が示した敵を先滅する気。軍の人達が魔法を詠唱したりしてるけど、多分これは間に合わない。
 だって後は投げるだけなんだ。そして半端な攻撃じゃあの悪魔を止める事は出来ない。


「アギト! アイリ君! 敵の攻撃が迫ってる! 今すぐそこから離れるんだ!!」


 踏み出たテッケンさんが、光の中に居る二人へと向かって叫ぶ。でもそれが届いてるかすら、確認しようがない。今にも放たれそうなメイス……僕はセラ・シルフィングを抜き去る。
 流石にもう、グダグダ言ってる場合じゃない。そりゃあ確かに、これはアルテミナスの戦いかも知れない。少なくとも、この悪魔との一戦だけはそうしたい思いがあったのもわかってる。


 だけどさ……あのままあれを、ガイエン一人に任せる訳には行かないだろう。光の直ぐ側で、上を仰ぐアイツの顔はそれをきっと決意してる。
 でもアイツはボロボロだ。幾らいけ好かない印象しか僕は持ってないとしても、今のアイツを犠牲にする事なんて出来ないよ。


 友達の友達は結局他人かも知れない。でも……今のアイツの状況は見過ごせない。そこだけは、きっと僕と共通してるから。


「僕がイクシードでどうにかしてみます!」


 テッケンさんにそう告げて、光の方へ向かおうとする僕。だけどその時、光の中から声がした。


「よせよスオウ。お前が出る幕じゃない。守ってみせるんだ……今度こそ、絶対に!!」


 光の中から告げられたそんな言葉は、力強い声だった。自分に言い聞かせて、周りに聞かせる……そんな言葉。光が急速に、その人影に集まって行く。


「グモオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 その時、轟く雄叫びと共にメイスは投げられた。もの凄い速さで、投げたその瞬間に、ロケットブースターの様な衝撃と音が空に響く。
 空気を払いのけてでもいるのか、メイスが落下している空中には白い円が段階的に出来ている。予想以上のスピード……これはマジで、クレーターに成りかねない! 
 だけど動けなかった。いや、動いた所で間に合いはしないだろう。真っ直ぐ地上の光へと向かって落ちていくメイス。そして――――




 ――――ドオオッガアアアアアアアアン!!




  と、もの凄い衝撃と爆音が、僕達の視界と耳を奪った。それはまさに爆発だ。
 衝撃波が地面に亀裂を入れ、轟く爆音は内蔵を飛び出すかと思うほど……実際、体が小さいテッケンさんは吹き飛ばされそうだった。
 それほどの衝撃……中心はミサイルでも投下されたかの様な粉塵が立ち上ってる。


「そんな……」


 誰かのそんな声が聞こえた。多分軍の誰かだったんだろう。でも……それを想像せずにはいられない衝撃と光景だ。リアルなら、肉片一つ残さず、消されててもおかしくない。
 誰もが固唾を飲んでその一点を見つめてる。本当は見たくない奴もいるかもしれない……でも、確かめずには居られない二人がそこには居たんだ。


 いや、あの距離ならガイエンまで巻き込まれててもおかしくない。そうなると、アルテミナスはどうなるのか……それは最悪の想像だ。


「アギト……」


 僕は祈ったよ。セラ・シルフィングの柄を握る拳に、力を込めて。「守ってみせる」そう言っただろって。するとその時、リルレットが空を指して言った。


「ねえ、何あれ?」


 その意味不明な言葉に僕達は夜空を見上げる。空になんて悪魔しかいないだろうとか思いながら。


「ん?」


 だけどあれ? 確かに何かがある……てか、何かが落ちてきてる。すると今度は、前線からここまで下がってきた侍従隊が、煙を立てるほどの勢いで止まる。
 そしてセラが言ったよ。


「大丈夫。アギト様達は無事よ。何てたって、私達への加護は健在してるもの」


 そう言って示す体は、確かに淡く光ってる。それは紛れもないアイリの生存を示す物だ。ならあれは……落ちてきた何か……それは再び、深く地面を陥没させて突き刺さった。
 大きく白いその姿……それはとても見覚えのある物だ。


「あれは……メイスか!」


 間違いない。てかあれを見間違いはしない。あれだけでかい武器、そうそう無いからな。でもどうして、投げられた筈のメイスが空から落ちてくるんだ?


「…………」


 いや、そんなのは決まってる。どうやらさっきのあの衝撃は、メイスが地面を砕いた衝撃じゃ無かったようだ。考えられるのは一つだけ、アレを弾いたんだろう……アイツがさ。
 自分の武器が弾かれたのを見てか、今度は悪魔自身が素早く急降下していく。その凶悪な爪を尖らせて狙うのは、勿論煙り立ち昇る中に居る奴だろう。
 そして次の瞬間、立ち昇る煙を切り裂いた悪魔の腕が、今度こそ地面に突き刺さる。実は衝撃で割れただけだった地面が、今度こそ豪快に砕かれた。


「アギト!!」


 僕は叫ぶ。だけどその時、既にセラ達は動いてたよ。アイリとガイエンは無事だ。でもアギトの姿はない。どこに? まさか潰されてはいないだろうと思いつつ、周りに視線を凝らす。
 その時、小さな影が見えた。どこにかって? それは悪魔の直ぐ近くだ。アギトの奴、腕を伝って悪魔の眼前に迫ってた。


「これ以上、その顔を俺たちの前に見せるなああああ!」


 腕を蹴ったアギトが、光募るその武器を悪魔の顔面に向かって突き刺した。すると勢いが更に増すように、募ってた光が後ろへと放出されていく。
 推進力を得たアギトは人の速さを越えて悪魔へ迫る。だけど覚醒状態の悪魔は、危機察知も本能のままにスゴかった。


「ガアアアアアアアアアアアア!!」


 響く悪魔の断末魔の叫び。けど、HPはまだ残ってる。アギトの攻撃は当たりはした。だけど完全じゃ無い。悪魔はその巨体を僅かにズラして、直撃を避けやがった。
 でもそれでも、アギトの攻撃で奪われた物もあるから悪魔はあんな悲鳴を上げたんだ。それは片側の角と翼。アギトの攻撃をかわすために屈んだ悪魔。だけどその角と翼はかわしきれなかった。


 てか頭を下ろした事で、翼をもがれたみたいな物だ。削りきりはしなかったけど、それは十分でそしてアギトの攻撃はまだ終わってない。
 アギトの攻撃の勢いは弱まってなくて、噴出される光の帯は、空中でその軌道を表してる。大きく半円を作って戻ってくるアギト。悪魔には次こそ逃げ場はない……でも、不意打ちにも成らないけど。
 だけどそこでアギトは叫ぶ。


「セラ! みんな! 頼む!!」


 その言葉を受け取ったセラ達の行動は速かった。上に気を取られてた悪魔に、次々に足下へ攻撃が集中する。上に下にと、気を取られる悪魔。それは混乱を生み、そして油断に繋がる。優先順位を決めた時にはもう遅い。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 迫るアギトは真っ正面。それに今度は無駄に広い胸を目指して向かってきてた。下からの攻撃で、たたらを踏んでいた悪魔に次の一歩はない。


「行けーー!! アギトーー!!」


 セラに抱えられてるアイリがおもいっきり叫んだ。誰もが思ってた事をその身でアイリは実行してくれた。そして……夜空に輝く流れ星の様なアギトが、悪魔の胸を貫いた。
 一筋の光の線が、夜空で不意に途切れて現れる。その途切れた部分が悪魔何だ。まさに一瞬……アギトの攻撃は、強靱な悪魔の体を一瞬で貫通した。
 そして今度こそ、悪魔のHPは尽きた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 最後に恨みでも吐き散らすかの様に叫ぶ悪魔。だけどそれはどうやってても僕らを苦しめる事はない。そう、僕達は勝っ――


 ――その時、消えていく悪魔の向こう側から、大きな音が聞こえた。アルテミナスがある方角……この戦闘でいろいろと動き回ったせいで位置関係がおかしくなってるけど、悪魔の向こうに今はアルテミナスが見える。
 そしてその音は、アルテミナスから聞こえるんだ。そして誰かが気付く。


「光明の塔が無くなった……?」
「何?」


 地面に着地してたアギトが顔を上げる。そして僕達もそれを探した。でも……確かに見えない。あった筈の光の塔……ここからでも確か、光明の塔は見えてた筈だ。
 それが……今は見えない。どういう事だ?


「アイリ様!」
「……まさか、そんな!」


 アイリとセラが顔を青くして急いでアルテミナスを目指す。その様子はただ成らない感じで、そして僕達も胸騒ぎがしてた。


「アギト! 私達も行くぞ!」
「お……おう!」


 アギトもガイエンに促されて二人の後を追う。そして僕達もここでようやく動き出せた。周りの軍は、まだアルテミナスの外側に居るモンスター共を警戒して動けないから、僕達で確かめるしかない。
 一体何が起きたのかを。アルテミナスで輝いてた光の消失……それが何を意味するのか……その時、周りの軍からざわめきが起きる。


「おい……加護が消えていくぞ!?」


 その言葉通り、エルフを包んでた光が無くなって行ってる。そしてそれを聞いたアイリがポツリと呟く。


「なんて事を……」


 どうやら、アイリ達はこれを予測してたのかも知れない。でもこれって……考える限り最悪じゃないか? 加護はこの戦いで必要だ。まだ数で勝るオーク共が居るんだから。


「これってやっぱり、光明の塔が壊されたって事なのか? でもカーテナはアイリが持ってるじゃんか? 何で光明の塔が壊されて、加護が解けるんだ?」


 僕は軍の一団を抜けた辺りでそれを聞いた。だって加護はカーテナが掛ける物だろう? 光明の塔なんて関係無いじゃん。


「それはこの掛け方がそもそもイレギュラーだったからです。加護をあれだけの人数に余す事無く掛けるには、本来なら城の聖域で儀式を行う必要があるんです。
 その間私はその部屋から出ることも叶いません。だから今回のは多分、光明の塔の輝きがあったからこそ出来たこと……それが無くなれば当然こうなります」


 なるほど、アイリの話は尤もだ。加護だって十分反則的な技だとは思ってたけど、それなりの制約がやっぱりあったわけだ。
 てことは、それを知ってる奴が光明の塔を破壊した? はは……奴なんて言わなくても、そんなイカレた事をする奴なんて、僕が知る限りでは二人くらいだ。


 反則的な二人……アイツ等なら、やれるだろうしな。アルテミナスに近づく僕達。その時アルテミナスを囲む城壁が、大きな黒い腕に寄って押し壊された。


「「「!!」」」


 僕達は思わず足を止める。だって……こんなの信じられないだろ? だってそこはアルテミナス……この国の首都の筈だ。
 なのに何で……どうして……そんな場所からあの悪魔が姿を現すんだ!? そして再び、そんな悪魔の上から、聞こえる声。そのふざけた声が、ふざけた事を抜かした。


「遅いじゃない。おかげでこの国、落としちゃったよ☆」

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