命改変プログラム

ファーストなサイコロ

メイドの心ともしもの向こう



「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 大地に響きわたる何重もの叫び。自分達の前に戻ってきた王。その喜びに、その叫びは震えてた。そこには、今までもっと後ろの方に居た、軍の末端まで多分入ってる。
 盛り上がってるな……てか、待ち望んでたんだろう。そんな雰囲気が感じれる。


「すごい……ね」
「ああ、そうだな」


 シルクちゃんが感心したようにそう言った。僕はまあ、素直に応えたよ。確かにこれはスゴいからな。今までも、それなりの人数で戦闘をしたことはあったけど、この人数は初めて。
 てか、これだけのプレイヤーが集まってる所なんて、町中でもそうそう見れない。しかも殆ど……僕達数人を除けばエルフだしな。
 そして集う心、それは圧巻だ。光の中で、王である彼女は示す。カーテナを向け、そこに居る敵を。


「まずはあの悪魔を倒しましょう。他の敵が動く前に、厄介なアレは潰します!」


 アイリの言葉で一斉に武器を構え出す軍の人々。そしてその一番前に、僕達が見知った奴が出ていく。赤く燃え盛る様な髪のエルフ。それはアギトだ。


「なら、俺が戦陣を斬る。それが役目だからな。当然、そのつもりだったんだよな?」


 アギトが僅かに後方へ視線を向けて、アイリへとそんな言葉を掛ける。
 まあアギトにはお似合いだと思うけど。てかなんだか、アルテミナス軍でもましてやエルフでもない僕達少数は何だか出る幕が無い感じに成ってる。
 これだけ居れば、悪魔の一体位は大したことは無いだろうけどさ。でも、本当によくここまでテンションを引き上げたよな。


 実際、アイリがああやってカーテナを手に立ち上がるまでは、敗戦空気が漂ってた筈だ。僕達がそれぞれに戦ってる間、こっちでも激しい戦いがあって軍のみんなもボロボロだった。
 なのにこれだよ……実はちょっとアイリって本当にスゴいの? とか疑ってたけど、この盛り上がりの中心で堂々としてる彼女を見ると、やっぱりそれだけの事をした人だと思った。


 こんなに慕われてるなんて本当に凄いだろ。LROというゲームの筈の世界……そこで生まれて繋がった絆は、これだけの光に成ってるんだ。


「それでアギトがいいのなら。それほど頼りになる事はありませんから。みんなもそれだと心強い筈です」


 周りを見渡すと、みんな暖かい目をしてた。それが当然で、そうでなくちゃいけないみたいなさ。どうやら、みんんが待ってたのはアイリだけじゃ無いみたいだ。
 アギトもそんな周りの様子を見て、何かがこみ上げて来たのか、俯き加減になってしまう。


「アギト様……おかえりなさい」


 そう言ったのは、障壁展開の時指示を出してた奴だ。そしてその周りには、数人のエルフが集まってる。僕は全然知らないけど、アギトはどうやらそうじゃないみたいだ。
 彼らを見て、その顔には驚きとそれから、やるせなさというかそんな物が入ってた。


「お前達……じゃあ」


 アギトが向くと、その指示を出してた奴は重そうな兜を脱ぎ払う。そこから顔を出したエルフを見て、アギトはやっぱり……という顔をした。


「ずっと、待ってました。アギト様がアルテミナスから居なくなってしまったあの日からずっと……この日を待ち望んでました。
 顔を上げてくださいアギト様。山ほど言いたい文句も、何で一人で逃げ出したかの理由も、この自分達の国を救った後で聞きますよ。
 我々一同、もう一度貴方の元で戦えるのが楽しみなんです。そしてもう、守られるだけの足手まといじゃない所をお見せしますよ」


 アギトのすぐ近くに集う数人が、良い笑顔を作ってアギトに贈る。それは多分、アギトには抱えきれない程だったんだろう。
 震える肩が、拳が丸見えだ。その時、枠の外にはみ出された様な感じの僕達を見かねてか、セラが情報をくれた。


「彼らはアギト様が軍に居た頃の部下なのよ」
「ああ、そう言うことか」


 成る程ね。待ってたってのはそういう意味。アギトはアギトで、随分慕われてた様じゃん。何も言わずに消えた上司を待ち続けるなんて、普通しないよ。
 て言うか、僕はあることに気づいてしまった。


「あのさ、思ったんだけど……誰も探さなかったのか?」
「探さなかった。アイリ様がそうさせたもの。何があったかは詳しいところは私も知らないけど、アイリ様がそれを信じて決めた以上、私達が勝手にやるわけにはいかないでしょ」


 ふ~ん、随分忠義に厚い事だ。まあでも他の奴らがそうなのはまだ分かる。でもさ……セラはそうじゃないと思うんだよな。
 確かにアイリと一番親しいし、誰よりもアイリを思ってるのは知ってる。軍の中じゃそうだろ。でもそれだけが、こいつの行動原理だとは思えない。
 だから僕は聞いてみた。


「でも、探したんだろ?」
「……まあね」


 やっぱり。そうだろうと思った。でないとタイミング良すぎると思ったよ。あのイベントの後直後だったし、ガイエンがセラを寄越したのも、アギトがどこにいるか知ってると分かってたからだろ。
 何か色々繋がるな。


「でも、私は探しただけ。それ以上は何もしてないわ。それにタイミングも良かったのよ」
「どういう事だ?」
「忘れた? 私を使わせたのはガイエンなのよ。あの頃の私が、何の理由もなくアイツの指示に従うとでも?」


 やっべぇ~超思えない。そう言えば、最初アルテミナスでアイリとアギトが会ったとき……驚いてたな。アイリ自身が呼んだのならそんな事あり得ない。
 じゃあ、セラはそのタイミングなんたらでガイエンの指示を利用したって事か?


「私はね……ずっとアイリの傍に居たわ。だから分かってた。アイリは辛そうだった。ずっとずっと……LROで笑うこと何て本当に無くなってた。
 私は、私自身が怖がってたんだと思う。このままじゃ遅かれ早かれ、アイリも消えるんじゃないかって。そしたら、私が好きなこの国は無くなっちゃう。そんな危機感を感じてた。
 さっきタイミングが良かったって言ったけど、本当は悪かったのかもね」


 そんな事を言うセラは言葉を紡ぐ間、ずっとアイリを見てた。そこには、アギトの優しく見てるアイリが居て、そのアイリをセラは満足そうに見つめてる。


「だけどガイエンの不穏な動きも、侍従隊を使って分かってたしで色々と切羽詰まってる所で与えられた命令だった訳。
 自分だけじゃどうしようも出来ないって分かってた。私じゃアギト様の代わりにはどうしたって成れない。だって恋心を埋められる代改品なんてないんだもの。
 私はね……全てをなくす前に賭ける事にしたわ。手遅れに成る前に、自分が出来る事はやりたいじゃない。それに向こうがカードを先に渡してきた、使わない手は無かったわ。
 それにここ最近は、アギトの様の位置は簡単に分かってたもの。誰かさん達は、注目の的だったから」
「う……」


 そんなに目立ってたんだ僕達。こうやって第三者に言われると何だか自覚するな。まあ全プレイヤーに通知されたクエストだし、今までに無いことがオンパレードしてるから、注目されない訳がないんだろうけど……てかさっきからアイリの呼び方に様をつけてないセラ。
 気兼ねしないでいい存在にでも格上げされたのかな? いや、単に僕が対面を気にしないでいい存在なだけか。たく、どこまでも不遜なメイドだ。


「まあ、お前は勝ったんだな。その賭とやらにさ。だからこそ、アイリとアギト、そしてガイエンもこうやって一緒にいれてる。
 お手柄じゃんか」


 僕がそういうと、「あんたバカじゃん?」てな感じのいつもの返答じゃなく、首を横に振って優しく答えてくれた。


「そうかな? 確かに今のあの感じは、私が求めてたもの。でも、あの中に私の出る幕なんて無かった。アイリやアギト様がそれぞれ頑張って、他の方々の協力を得て掴み取った物よ。
 私は結局、自分の欲で動いただけだしね」


 謙遜するセラ。というか、そうしたいと感じる言葉。まあこいつは慰めも賞賛を求めて何かいないんだろうけど、僕の口は思わず動いてたよ。


「別にそれで良いと思うけど。アイリだってアギトだって、それは欲だろ。帰ってきてほしいとか傍に居たい、許されたいってのはさ。
 こうならなかった結果はifとしてあったかも知れない。でもさ、今ああやって凛々しく立ってるアイリの姿は、お前があの時動かなくちゃ、存在もしなかった姿かも知れないんだ。
 誰かに自慢しなくったって、僕は一応分かっててやるよ」
「……分かったような事を言う、そんなアンタが私は大っ嫌いよ」


 ヒド! ここで向ける言葉じゃ無いよ。やっぱり感謝を知らない腐ったメイドモドキに言葉なんて掛けるんじゃ無かった。
 でも何だろうな……気のせいかも知れないけど、いつもよりもそのトゲは優しかった……そんな気がした。言葉はあんまり変わらないけど、ニュアンスがって意味で。


 事実セラの奴は、言い終わるとそそくさとアイリ達の方へと近づいて行ったし、それが照れ隠しに見えた僕の目は腐ったのだろうか?
 そうこう話してる内に、アギトは元部下を従えて突撃する気満々だ。そしてその瞬間を、周りの誰もが固唾を飲んで見守ってる。


 唸る悪魔の声と音が前方で響いてる。それが止む雰囲気が漂ってた。それをみんな思い描いてる筈だ。アイリとアギトが目配せをする。そしてガイエンともだ。
 ジリ……と地面を踏みしめた――その時だ。


「アギト様、それは私に譲ってくれませんか?」


 そんな言葉に驚いて、アギトは飛び出す態勢のまま顔をその声の主に向ける。誰もがアギトに続いてそうしてた。そして視線の先に居るのは、やはりだけどセラ。アイツ、何出鼻を挫いてるんだ?
 誰もが納得した采配じゃないのかよ。


「何言ってるんだセラ。アギトがこの役には適任だ。お前もそれはわかってるだろう」


 呆気に取られてか、アイリとアギトが言葉を出せないからガイエンがみんなの言いたい事を言った。だけどそんな誰もが認める言い分を、セラは鼻で笑ってたたき落とす。


「ふふ、ガイエンそれでも貴方参謀なの? 確かにアギト様がこれをやることに、私以外は反対しないでしょう。だけど私は、アギト様がこのまま突っ込むのは最善だとは思えない」
「何だと?」


 鼻で笑われたからだろう、ガイエンの言葉の端には苛立ちが感じれる。だけどセラはそんなの気にしない。てか、元々嫌ってるガイエンを目に入れようとはしない。
 セラはアイリとアギトをそれぞれ見て、更に言葉を紡ぐ。


「だから、お二人の今の状況を見て気づかないのって事よ。今の二人には戻った力がある。私たちに加護が降り注いだのなら、アギト様には手に出来る力がまだある筈です。
 勿論それにはアイリ様にカーテナが戻る事が必要だったわけだけど、それをしたのは貴方でしょうにね。それを取り戻さずにアギト様が真っ先に行く事は無いと思います。
 少しだけなら、私達が十分に戦って見せますよ」


 セラの自信満々の笑みに、誰もが呑まれてた。成るほどと思ってるだろう。確かにセラの言ってる事は合理的だ。アギトには切り札とも言うべきスキルがあったんだ。
 だけどそれは、アイリの手からカーテナが離れてしまった時に同時にガイエンによって取り上げられてた物。でも、今遂にカーテナはアイリの手の内へ帰り、自身の輝きを取り戻してる。


 それなら、アギトも切り札だったそのスキルを取り戻せる……いや、アイリが与えれる筈。セラはそれだけの時間を与えたいんだ。


「そういう事か……確かにそれの方がいいかも知れないな」
「良いかも知れないじゃないのよ。死にぞこないは引っ込んでなさい」
「なっ!」


 セラの奴、ガイエンには容赦がない。アイツ組織ってのに向いてないよな絶対に。てか、ここぞとばかりに、今までの分の不満をガイエンにぶつけてないか? 


「どうですかお二人とも? 契りを今一度結ぶ事は、もう出来る筈ですよね?」


 そしてやっぱりガイエンの事は無視してるセラ。毒だけ吐いてなげっぱとは……恐ろしい奴だ。それにアギトとアイリは、セラの提案にそれぞれそわそわしてるような感じだ。
 今気づいた訳でも実際は無いと思うけど……それよりも二人でスルーしてた感じが僕にはあるな。ようやく思いを確かめあった同士なら、恥ずかしがる事なんて無いだろうに。
 いや、逆なのかな? ようやくでやっとだから、努めて二人は今までの様に振る舞ってるって事か。


「それは……そうだけど……」
「なら何を迷う必要があるんですか? それともこう言った方が、お二人ともやりやすいですか? アルテミナスの為です。
 敵はあの悪魔だけでは無いのですから。万全を期すことは、兵法の基本ですよ。この場合の万全は、出来る事はやりきるって事です。
 やれる事をやれる時にやる大切さ……それを私達は学んだ筈です。最悪のifも、最高のifも踏み出さないと始まらないけど、望む結果を得るためには惜しまぬ事が大切でしょう。その為です」
「セラ……」


 何だよアイツ、僕の言葉を借用してんじゃねーか。意外と心に響いてたって事か? まあだけどセラの言葉はアイリにもアギトにも、ちゃんと届いた事だろう。
 だけど流石にここまでもたついてたら、悪魔もそれなりに起きあがってきてた。その体にはまだ、自身が放った炎が僅かにまとわりついてるけど、戦意は満々の様だ。
 赤く光るその瞳には、お門違いな怒りが見えてるよ。


「さて、敵も立ち上がってきたし、そろそろマジで行きましょうか」
「セラ、やはりこいつだけでも全員で一斉で倒しても大丈夫なんじゃ……」


 アギトのそんな言葉に、セラはビシッと切り返す。


「甘い! 甘いですよアギト様。本当に厄介なのはこの悪魔じゃなく、あのシクラとか言う女です。ああ言う女は計算高いんですよ。
 チャンスなんて早々ありません。アギト様は半端な力で、この国を救えるとお思いで? ここまでが何とか上手く行ってるとしても、最後に笑えてないと本当の勝利じゃありません。
 アイリ様は何も無くしたくない……そう仰ってるんですよ」


 セラの言葉は今のアギトには重く響いたかも知れないな。確かに今、それを渋る理由は無いはずだ。まだ全部、全てが収まってないんだからな。
 ここでアルテミスナスを守りきり、ガイエンも解放する。それをやりきって初めて安心できるんだ。セラは警告してる。


 アイリもアギトも、そして僕達もだけどさ、既にそれぞれが大変な戦いを乗り越えたから、その安堵感に今の状況を楽観視してるみたいなさ。
 それにこれだけ仲間と呼べる人達が居るのも大きいかも知れない。確かに敵の数も多いけど、今見えてるのは悪魔だけ。


 目先だけを見据えれば、僕達は有利だろう。そんなどこかに生まれた余裕があるからこそ、アギトは渋れてる訳だ。
 でもセラはそんな事は許さない。一番冷静に、そして真っ直ぐに、先って物を見つめてる。セラの言ってること、間違いなんて一つもない。口は悪いけど・・誰も文句は付け用はない。


「何やってるアギト!! 守る為の力は、幾らあっても足りない程だ……そうだろう?」


 ガイエンのその言葉に、アギトは振り返り体をアイリへと向ける。そしてその横をセラが通り越して行く。


「少しの間頼む」
「ええ、まあこの人数ですから、心配など無用ですよ。アレが動かないのなら、倒せる筈ですから」


 短いやりとりをすれ違いざまにやる二人。う~ん、セラが何だか一番男前に見える。女なんだけどね。ていうかセラが一人で突っ込むのか? 
 勿論直ぐに軍が続くとは思うけど、流石にそれは不味いんじゃ……そう思って僕は一歩を踏み出そうとする。だけどいつ間にやら、セラの周りには同じメイド服を着たエルフが数十人位集まってる。
 てかいつのまに? 音もなく現れやがったぞあのメイド部隊。


「おいおい、アルテミナス最凶の暗殺集団が勢揃いしてるぞ」
「あ……圧巻だな」


 何だか至るところからそんな物騒な言葉が漏れ聞こえてくるんだけど……何? アイツ等ってやっぱ忍者だろ。メイドの格好した忍者だろ。
 暗殺集団って……皮被り過ぎだろあれ。そしてそんな暗殺集団の頂点にいる女が颯爽とその細い腕を突き出す。


「さてさて、そろそろ行きましょうか。お国の為、アイリ様の為に……我ら侍従隊、先陣を切らせて頂きます!!」


 その瞬間、影の様に走る侍従隊の面々。いや、アレは速い。そして自身も黄金の武器をその手に取り、向かおうとするセラ。そこへアイリが声を掛ける。


「セラ!!」


 そんなアイリへ、振り返ったセラは優しく声を掛ける。友達を励ますような言葉だ。


「アイリ様、今度は放さない様にしっかりと掴んでください。鎖を繋げとく位しとかないと、男は信用できませんよ」
「ええ!?」


 何て事言いやがるんだセラの奴。そしてそれを聞いてアギトをチラチラみて考察するアイリ。アギトは苦笑いしか出来ないよ。
 そんな様子を見て、セラはクスッと笑って走り出す。侍従隊の面々が悪魔を翻弄をする中、真っ直ぐその胸に武器を突き立てる。
 左右に刃がある形の武器。悪魔の重心が少し後ろに傾いた所で、更に反対側の刃で追い打ちを掛ける。だけどそこで照準をセラに向けて、メイスを突き立てようとする悪魔。


 けれどその時、そのメイスに鎖が絡まった。そして伸びきる前にメイド達によって固定される腕。そこに更にセラと、後他数人がそれぞれの場所で攻撃を続ける。
 アイツ等……本当に強い。てかコンビネーションが半端ない。その時、悪魔は権勢するように大声を上げる。そういえばその特殊な叫びには、補助魔法とかを打ち消す効果があったはずだけど……セラ達、はてはここに居るエルフの誰も、身に纏う輝きを失い無いはしない。
 どうやら加護は消せない様だ。


「何をやってる! 軍は部隊毎に分かれてセラ達に続け! 後衛は一定の距離には近づくな! あの悪魔に息を継ぐ暇さえ与えずに攻撃を続けろ!!」


 ガイエンの指示で、一斉に動き出すアルテミナス軍。セラ達を支援する形で、波の様に押し寄せるエルフの姿は圧巻だ。
 無数の魔法の光も、轟く声と共に一斉に空を掛けて悪魔へと襲いかかってる。そんな中、止まってる二人がいる。アイリとアギト、その二人だ。


「セラは強引です。でも、ちゃんとわかってる。それは私を思っての事だって。だけどいいのかな? これを受け取る事は……アギトがまた、責任って物を背負う事に成るんだよ」


 アイリの言葉に、僕は気づいた。アイリがそれを口にしなかったのはそういう事だったんだ。アギトが耐えかねたそれを、もう一度なんて出来なかった。
 だから……けどその時、アギトは何かを取り出した。そしてそれをアイリへと差し出す。


「俺に……もう一度その機会をくれるのなら、今度は逃げ出さない。それをこの指輪に誓う。お前が背負う物を分かちあえる男に成るよアイリ。
 受け取ってくれるか?」


 アギトの手のひらで光るそれは、いつか見た指輪。あの時のアギトの恥ずかし気な顔が思い出される。そう言えば光ってたよな、アイリの指にさ。
 それが今、新たな誓いを込められて贈られようとしてる。


「アッ……ギト……私……は」


 涙で声が詰まるアイリ。だけどその手は真っ直ぐに指輪へと向かってる。


「信じてた……よ」
「うん……待たせて悪かった。ただいま……アイリ」


 アギトはアイリの指に指輪を通す。そしてその手を取ったまま、ひざまずく。浮かび上がるアルテミナスの紋章。剣と盾のアンダークロスに支えられるクリスタルが輝き出す。

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