命改変プログラム

ファーストなサイコロ

謀略の姿



「え?」


 叩かれたアイリの手。そしてその手を叩いたのは誰でもない、ガイエン自身だった。さっきまで動くことすら出来なかったガイエン……それが今この瞬間、確かな意志の元動きやがった。
 だけどそれは本当にガイエンなのか……それともガイエンの中にいる“何か”なのかはまだ分からない。僕達は警戒しつつ、固唾を飲んでる。


「ガイエン……だよね?」


 叩かれた方の手を庇いながら、そう呟くアイリ。ガイエン……であってほしい。だけどそれならアイリの手を叩いた理由が気になる所だ。
 正直さ、ここまで色々と切羽詰まるともうやばいよ。そろそろ何から手をつければいいか分からなくなる。目の前で起きる問題が一つなんていう、都合の良いことはあり得ないのかよ。


 まあ僕の方に都合が良かった事なんてあり得ないんだけどさ。そんな思いを抱きつつ、荒い息を吐いてるガイエンの言葉を待つ。アイリに何て返すんだ?


「やめ……ろ。逃げ……いや、私を殺せ!!」
「「「!!!」」」


 その言葉には流石に誰もが驚いた。僕的にはガイエンがまだガイエンだった事にも驚きだけど、その言葉は更に三倍増しにビックリだ。


「なっ……」
「何言ってんだお前!? ヤられすぎて頭がおかしくなったかガイエン? お前だってその流れる血の意味くらい分かってるだろ!」


 アイリの声に被して叫んだのはアギト。流れ出てる血の意味か……僕はそれを誰よりも実感してるけど、発売当時からやってる人達やそれなりにLROというゲームに馴れてしまった人達にとってその実感はどうなんだろうって感じが本音だ。


 今でさえ、アイリの存在にこのアンフィリティイクエストで、そう言う事が起こり得るかもしれないって事は少しづつだけど現実味を帯びて知られて言ってる。
 だけどさ、まだまだそれが本当に起きるって実感してる人はきっと少ない。


 それが例えば、今まで『死』はこの世界にとっては取り返しの着かない事じゃないと、馴れてるとさ。余計だろ。本当にガイエンは分かってるのか? 
 きっとかなり辛くて、苦しいはずだ。だけどどこかで、そんな訳無い……そう思っててもおかしくなんてないんだ。


 けれど僕は知っている。この世界はさ、何も夢を見せてくれるだけじゃないって。僕がここで『死』って奴に馴れてないのは、ここに来て直ぐにそれがリアルと同価値位になったから。
 僕はLROの法則になれちゃいないから、HPが尽きるのには恐怖感が多大にあるけど、それはここでの普通じゃない。
 でもこればっかりは口で言っても限界がある。それに信じれないってのも分からなくはないからな。ガイエンは苦しそうに体を支えて、虚ろな目をアギトへ向ける。


「私が冗談を……言うと思うか? アギト……早くしろ……そうしないと……私は……」


 途切れ途切れになる言葉。その顔色はやっぱかなりやばい。てかどうしていきなり目を覚ましたんだろうか。心当たりはあの爆発……あれで意識が戻ったとか。だけど何か……


「おい、どうしたガイエン?」


 アギトもガイエンの傍に寄っていく。ガイエンは荒い息を吐いて、変な汗ダラダラと垂らしてる。そして支える腕が再び崩れた。
 ガイエンは傍に居たアイリの膝へと崩れ落ちる。それをある意味羨ましい……なんて思うのは不謹慎だろう。実際見た感じ、かなり状況は悪い。


 血が出るほどのシンクロ率で、それなのに回復も出来ないなんて……ガイエンの本体、リアルの体が無事なのか気懸かりだ。
 HPが残ってる限り決定的じゃないけど、それでも危なかった場面は何回かあるんだ。それを考えると気が気じゃいられない。


 僕は何とかして回復させたいから、視線でシルクちゃんに合図を送る。すると伝わったのか、シルクちゃんは小さな声で詠唱を開始する。
 だけどその時、横のセラがぽつりと言った。


「回復できるとは思えないわよ」
「それでも、どうにか通すしか無いだろ。あいつの事は僕は殆ど知らない。だけどな、取り返しの着かない事になるかも知れない……それが分かってるのに手を拱いていられるか。
 この際贅沢は言わない。少しで良いんだ。せめてレッドゾーン以上に成ってくれれば、リアルの方に影響はしないだろう」


 それは自分の経験からの言葉。まあ逆に言うと、レッドゾーンで貰う傷は危険って事だけど。でもHPがある限り、回復でどうにか成ってた……そう今までは。


「どうにかってどうやってよ?」
「取り合えずあの黒い粘液だな。あれを出してる元でも潰せれば……心当たりないのかよセラ?」
「タゼホでは黒い影をガイエンは使ってた。だけど少し質が違うみたいだし……それにガイエンが回復を拒む理由なんて……」


 そうこうしてる内に驚く事が起きる。響いたのはアギトの声だ。


「何やってるガイエン!! アイリを放せ!」


 視線を向けると倒れてた筈のガイエンがアイリの首を絞めあげてた。いや、少し違うかも知れない。正確にはガイエンはまだ、アイリの膝の上で苦しそうにしてる。
 アイリを絞め上げてるのはガイエンの左腕だ。


「なっ!? どういう事だ一体?」
「アンタが言った何か……それが動いてるんじゃないの?」


 確かにそう言われると、あの左腕の異質な動きは納得だ。何かか……自分で言っといて何だけど、的を得たいたのは確かかも知れない。
 あの腕……何だか異様だ。


「ガ……イエン……」


 か細い声がアイリの口から漏れる。ギリギリと絞めあげられてるのがここからでも分かるぞ。だけどそれでもアイリはふりほどこうとはしない。
 アイリは必死に、ガイエンに語りかけようとしてる。だけどこのままじゃ不味い。あれ攻撃判定されてるぞ。少しずつだけどアイリのHPはあの腕の食われてる。


「おいやめろ!!」


 叫ぶアギトは当然、アイリを助けようと手を伸ばす。だけどアイリを絞めあげるその腕に触れた時、溢れだした黒い何かに襲われる。


「うっつ!? なんだ!!」


 思わず手を離すアギト。また訳の分からない事かよ。これ以上ガイエンを傷つけれない僕達じゃ、アイリを助けれない。
 それにガイエンの左腕から出てきた黒い物……あの瞬間僕には見えた。腕から腕が生えたような……それにガイエンの黒い左腕が幾何学模様を表してた。
 それがどういう事かはまだ分からないけど、よく見るとガイエンの黒い肌に隠れる様にしてそれは確かにある。だけど……右腕にはそれが見えないな。


(どういうこ――)
「やめ……ろ……うるさ……い!! 私……はそんな……事!!」


 アイリの太股の上のガイエンが何やら悶絶を始めてる。頭を右腕で押さえて、誰かと喋ってるような光景だ。一見すると、どっかから電波でも受信してるのかと思うような光景だ。
 だけど今の僕達には分かる。今ガイエンが話してるそれこそが“何か”なんだろう。ガイエンの意志にとは関係なく、その何かがあの左腕を操ってるんじゃないか?


 ガイエンは苦しみながらも、必死にその何かと戦ってる様に見えた。そして、食い込んでた左腕が徐々に、アイリの細い首から離されていく。


「させ……るか!! こいつは……この女……は……」


 その時、僕の注視する瞳は捉えていたよ。ガイエンの黒い肌に隠れる様にある模様……それが左腕から首筋に広がった事をだ。
 防具の隙間から覗く僅かな隙間にそれを確認したよ。
すると、次はガイエンの喉が今までの苦しそうな声とは別室の言葉を紡ぎだしやがった。


『この女は何だ? お前を捨てた憎い女だろ?』


 ガイエンの口から漏れた言葉に、瞳を見開くアイリ。そして直後、直ぐに苦しげな声がガイエンに戻る。


「ちが……う! もう……良いんだそんな……事。私は……納得……してる!!」


 最後の言葉は力強かった。そして遂にアイリはガイエンの腕から解放される。


「ケホッコホ、ガイエン……」
「離れ……ろアイリ!! アギトオオ!!」


 力の限り叫ぶガイエン。いきなりのその声に驚く僕らだけど、どうやらアギトだけはその意図を受け取れたらしい。
 アギトはヘたり込んでるアイリを引き寄せたんだ。そして僕たちの所まで来て距離をとる。


「待ってよアギト。だってガイエンが!」
「アイツの気持ちを汲んでやれ! 今の俺達に何が出来る?」


 二人は自身の無力さを噛みしめる様に俯いた。ようやく取り戻した筈の絆……それが今、再びおかしく成りかけてる。
 自分達に出来る事が何も無いと成ると、尚更さ。シルクちゃんは既に魔法の準備万全の様だけど、このまま掛けててもきっとさっきの二の舞なんだろう。
 さてどうするか……その時、ガイエンの苦しむ様子を見かねたんだろう親衛隊が駆け寄って行く。


「ガ……ガイエン様!! 我らが力になります! 我らが、その痛みを取って見せます!!」
「やめろ! 今のそいつに近づくな!」


 僕は親衛隊の背中に声を掛けた。だけどアイツ等もガイエンを信じた奴ら。ある意味無関係な僕の言葉なんて聞きやしない。
 ガイエンの姿が親衛隊よって遮られたその瞬間、親衛隊の面々が吹き飛んだ。綺麗に扇状に飛んでいく親衛隊は地面を跳ねて転がり後方へ。
 だから言ったのに……よりも、まさか!? の方が強かった。


『くくくく、隠すなよガイエン。俺には分かる。お前の苦しみも痛みも全て! 不愉快な奴らだな。あんな雑魚、ただの駒にすぎないと言うのに、調子付きやがって。
 このまま殺してやろうか? 目障りだろうお前もな』


 それはやはり、ガイエンの口から発せられてるのに、ガイエンじゃないと思える言葉。いややっぱ違うよ。だって自分に対して自分の名前を言うか普通? うざったい女子ならあり得るけど、ガイエンにそんなイメージ無い。
 てか持ちたくない。


「目障り何か……じゃ……くっそ……引っ込めよクソ野郎……」


 強がるけど弱ってる声。こっちが確かなガイエン。ヤバいな、ややこしくてこっちも頭がどうにか成りそうだ。そして徐々に、あの変な模様はガイエンの体に広がってる。首から上は抵抗してる様だけど、あの模様右腕にも移ってる。
 目を凝らさないと分からないから、アギト達が気付いてるかは分からないけど、どうなんだろう。だけど、目の前で豹変するような態度と言葉に戸惑っていて、そこまでは誰も頭が回ってないかも。


 とにかく見にくいからな。でも……それなら、ガイエンの中に居る存在って一体何なんだろう? 本当に居るとすればだけど、ここまで見ておいて今更否定する事は結構難しい。
 自分が最初に言ったわけだし……だけど、感覚・・直感的に言っただけで、それを仮定した場合のいろんな矛盾が気になったりするわけだ。


 だってガイエンはプレイヤーである一人の人間で、その存在は一である筈だ。そこら辺はコンピューターの方がよっほど厳格だろう。
 なのに、今のガイエンはどういう事だよ。あれはガイエンなのかそうじゃないのか、とても曖昧だ。一に加わってはいけない何かが、その決まりを汚してるみたいなさ……もしもそんな存在が居るのなら、それはシクラや柊達とも根底が違うじゃん。


 何か上手くまとまらないけど……とにかくこのままじゃガイエンがガイエンとしても危ないんじゃないかって事だろう。
 曖昧なままじゃ居られない。一かゼロが明滅を繰り返す世界なら、汚れた一はゼロへとされるか、完全な汚れた一となるか、それか正しき一に戻れるかだ。


 頭を抱えて苦しむガイエン。僕が見た限り、もうかなり汚されてると思うんだ。あの模様だけじゃない……ガイエンの肌の黒さも髪の変色も、そして瞳のあの色も全てはさ、何かが原因何じゃないのか?


「なあアギト……聞いて無かったけどさ、何でアイツ黒いんだ?」
「そんな事今重要か!? もっとガイエンを救える事を考えろよ!!」


 アギトの奴、かなり動揺してるな。自分の無力さにイライラが募ってる様だ。


「ここで僕が、別にどうでも良いことを聞くと思ってるのか? アイツの事はよく知らないけど、無くしちゃいけない物は、僕は良くわかってるつもりだアギト」


 僕は真っ直ぐにアギトを見つめてそう言った。すると罰を悪そうに顔を逸らしたアギトが「そうだな、悪かった」そう言って教えてくれた。


「あれは多分、加護の影響なんだ。カーテナの加護。今もアイツの腰に刺さってる剣がそれだ。加護は仲間に能力ブースとを付加するカーテナのスキル。
 まあアイリが使ったときはあんな肌の変色とかは起こさなかったんだが、アギトが使ったときは親衛隊どもが同じ様に黒くなってた。
 だからそれが続いてるんだろ」


 なるほどね。カーテナの加護か……でもそれっておかしくないか?


「おいアギト、それは今も続いてるのか? だってカーテナは腰に刺さったままだぞ。それに使い手によって、効果のエフェクトって変わるものなのかよ?」


 その言葉にはアギトは声を詰まらせた。だけど代わりに、アイリが答えてくれたよ。


「確かにそう言う例は余りないけど、だけど絶対無いなんていえません。特に希少性の高い物に成れば成るほど、不思議な効果があったりするし……それに私は加護以外でもみました。
 効果というか、そのスキルその物が使う人に寄って変わる物をです」


 そう言うアイリは、短剣を構えて何やら思考を巡らせていたテッケンさんと、ガイエンの言動にハテナを浮かばせてるノウイに視線を向けた。
 あの二人は僕がアイリ救出を頼んだメンツだ。そこでその変貌を遂げたスキルを見たって事か? すると察しのいいテッケンさんはすぐさま何やら思い当たったらしい。


「ああ、確かに……そう言えばそうだね。自分は一回しか見てないが、確かにアギトの時とは違ってた」
「え……え~っと、あれっすよねあれ! 確かにあれは凄かったっすよね~」


 後に続いたノウイはきっとわかってないんだろう。アイリの期待に応えようと必死だけど、実はテッケンさんの話にあわせてるだけだ。アレの中身が無いんだよ。


「どういう事だアイリ?」


 急かすアギトは、早くどうにかしたい……その気持ちが見えるようだ。まあ無理もないけどな。頭を押さえて、必死に自分の中にいる何かと戦ってるガイエンは、実際見てて痛いんだ。
 そしてそれは、ガイエンを良く知ってるアギト達ならなおさらなんだ。


「ナイト・オブ・ウォーカー……あの力をガイエンから受け取った親衛隊と私達は戦った。だけどあの力は、私の知ってるソレじゃ無かったの」


 頷くテッケンさん。そしてそこでようやくノウイも思い当たったらしい。


「ぁぁ……あぁ……ああ! そうっす、そうっす! あの時俺達が見たナイト・オブ・ウォーカーはアギト様の大剣と盾じゃなくて、連結刃をした長刀の一振りでしたっす」
「うん、スキルによっては扱う人で変わる事もあるって事です」
「成るほど……」


 確かに、そう言う事もあり得るんだろう。だけどナイト・オブ・ウォーカーってそもそも形が定まってないスキルだよな? カーテナの持ち主が、選んだ騎士に与えるスキル。
 そこには元から、特定の形なんて存在してないとしたら? もしかしたら、扱う武器はランダムにでも選ばれてるんじゃないか?


 LROでの最初のクエストの様な、合う武器をチョイスするみたいな感じでだ。だけど加護は違うだろう。そう思うんだけど……


「確かに使い手によって変わるかも知れないのはわかったけど、だからってあれは変わりすぎだろ。納得出来ねーよ。
 冷静に考えろよ。誰でも使う魔法が、使い手が変わってその仕様が変わるか? せいぜい威力とかだろ。それも攻撃魔法に限ってはだ。
 補助の魔法・スキル……それらがあそこまで姿を変えるか!? 僕はどうしても思えない」
「じゃあ、何だっていうのよ」


 近くのセラから問われた言葉。僕には今、周りの視線が集中してる。その何が答えられれば、苦労なんてしないんだけど……けど言わない訳にはいかない。


「だから……そこには今アイツが必死になって戦ってる奴が出てくるんじゃねーの? 最初はカーテナの力自体を疑ってた訳だけど、話を聞く限りじゃそこは本当らしいし、そもそもそうじゃないと説明出来ない物も多すぎるのも確かだ。
 だけどガイエンの力はどこかアイリのとは違ってたってのも確かで……カーテナを使ってた……それはさ、一体誰がって僕は思い始めてる」


 ガイエンなのか? でも今の状況を見る限り、アイツは実は使われてたって感じがする。じゃあガイエンの中に居る何か? 
 それは限りなく正解に近いと思うけど、だけどもっと前を思い返せば、その何かはいつからそこに存在してたのかが疑問だよ。
 そこまできたら思い当たるのは一人しかいない。カーテナって力を使ってた……言い方を変えれば利用しようと考えた奴。


「カーテナを使ってたって……いえ、待って。その全てに答えれる奴がこの場には居るんじゃない?」


 セラも多分、僕と同じ所に行き着いた様だ。僕は頷いて上を仰いだ。星星の光が点在する夜空。決して月の様に地面を照らしてくれる程じゃない光。
 その光を不自然にくり貫いてる様な闇。そこにはあの悪魔がいる。


「どういう事セラ?」
「思い返してください。この戦いの始まりを。全ての元凶はガイエンが手に出来たカーテナという力。だけどそれを実現したのは誰ですか?
 『リア・ファル』という石を与えたのは? その女は今も高見の見物していますよ」


 ここまで言えば誰もが気付く。浮かぶ顔はさぞ憎たらしいだろう。そして誰もが僕と同じ方を見た。するとまるで待ってた様なタイミングで姿を現した全ての元凶。
 月の光の様な長すぎる髪は風になびき、ミニスカートから覗く太股は危なげさを演出してる。そして抱き枕の如く、その両腕でしっかりと抱えてる柊は……何故か真っ白に成ってた。


 多分、遊ばれまくったんだろう。心なしかそいつの肌が桃色な感じに成ってる。そして僕たちの視線に気付いたそいつはいつもの調子でこう言った。


「あれれ~? 何、そんなに女の子のいけない遊び見たかった? でもダ~メ☆ 好きな子の可愛い顔は自分だけが知っておきたいでしょ?」


 頬を押しつけて強く抱きしめる。どう見ても一方的な愛だな。だけどそんな無駄な会話をする気は無いんだ。僕は風を纏わせたセラ・シルフィングを一振りする。
 乱れた風がシクラの直ぐ横を通過して、その髪を大きくなびかせた。


「おまえ等姉妹の変態な趣味に何て付き合う気はないんだよ。答えろシクラ! お前は知ってるんだよな? ガイエンに起こってる事の全てを!!」


 するとシクラは、明らかに目の色から無駄に光ってた明かりを沈ませて言葉を紡ぐ。


「あはは☆ ねえスオウ、どうしてここにその駒を連れてきたと思う? 言っちゃうとスオウ達はヒイちゃんのご褒美で、そこの姫ちゃん達は何となく。
 ここに来る意味は、その駒だけに有ったのよ☆」


 何言い出すんだコイツ? 口調はそんなに変わってないのに、感じるプレッシャーか何かに誰も言葉を発せ無い。自分の玉座から、平民を見下ろす様にシクラは続ける。


「私は確かに全てを知ってる。概ね計画通り。その計画も、もうスオウはきいてるんだっけ? だけどこの国を滅ぼすのはね、人間を追い出したいだけじゃないの」
「ど……いう事だよ!」


 必死に絞り出す声。そんな僕の努力をせせら笑う様に、シクラは最高の笑顔で言いやがる。


「覚醒には絶望が必要だから……この国の終わった姿をそこの駒に見せるため☆」


 笑えない冗談だ。その時の想像は、きっと誰もしたくない。

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