命改変プログラム

ファーストなサイコロ

さよなら、ヒーロー



「手にしてる?」


 目の前のアギトが言ったことが私には理解できない。いいや、そもそもそんな訳がない。アギトの言ってることはアイツの勝手な妄言に過ぎないんだ。
 崩壊したタゼホの村の中で、私達は向かい合ってる。私は奴を見据えて眉根を寄せ、アギトはムカつく事に余裕が見える。


 それは明らかに今までとは違う。一年前の責任に潰されそうに成ってた時とも、今回の右往左往する様ともまるで違う。
 それは二回も地に倒れた奴とは思えない物なんだ。そしてアギトは、困惑する私を余所にその体のまま喋り続ける。


「そうお前はちゃんと掴んでるんだ! お前がカス程度にしか思って無かった繋がり……だけど本当はそれが欲しくて……そしてそれはお前の周りの、至る所に繋がってる!」


 腕を横に振るうアギト。視線を少し外すと、そこには同じ白い甲冑に身を包んだ騎士達の姿があった。数は大分減ってるが、それは見間違える筈もない親衛隊だ。
 私が選び、私が作ったんだから。駒でしか無くても、それを効率良く使うためには一人一人を知ることは重要。だからちゃんと一人一人を私は知ってる。


 間違いない……でもどうしてこいつ等は止まってる? あの炎の柱が上がったときに、決着は付いたと思わせてしまったのだろうか?


「ガイエン様……私達の夢は……」
 萎んだような声を出す、親衛隊の一人。それはまさしく敗残兵の様な覇気の無さ。だけどそれの原因は、セラ達にやられたとかじゃない。
 あの目は……私を捉えてる。その顔は、信じた物に裏切られた様に青ざめてる。


「――っつ!!」


 確かに繋がってたのかもしれない。私達は、強固にその繋がりを持ってた様だ。だけどそれはアギトが言うような、ほのぼのとしたもの何かではない。
 もっと主従がはっきりとした、絶対的な物だったんだ。だからこの繋がりは、どちらかと言うと私の理想に近い。だってそうだろう、わざわざ自分の作る物に間違ってると思う事を入れるわけない。
 自分が思う、理想を詰め込む物だろ。親衛隊の彼らとは、そんな歪んだ繋がりだ。


(だが……)


 さっきから妙にイライラする。握りしめる拳の理由が私にはよく分からない。彼らのその視線……その期待……それをまるで裏切りたく無いような……そんな気持ちが、この原因?


「な……何やってる貴様等! 敵は目の前にいるんだぞ!! 私は倒れてなどいない! 私達の夢は……まだ終わってなどいないんだ!!」


 私は必死に取り繕った。もう思わずな感じでだ。だが、結果的にはこれで良かったはず。そうアギトの妄言を蹴散らす事が出来るのなら。
 アイリへの事は認めてやる……だがな、今までの私の表面は、簡単に否定する訳にはいかない。野望も世界も、それは確かに私が望んだ事に間違い何てあるわけがない。


 自分の事は自分が良く分かってて、もっと言えば、自分を理解できるのは結局自分しかいないからだ。アギトの言葉は私を壊す……だがその槌は振り卸させない。


「「「…………」」」


 ん? 親衛隊から反応が無い。ここは仕切直しの場面。言葉に続いて叫びを上げるなどして、気持ちを少なからず奴等程度まで上げないといけない。
 なのに、誰も続く奴はいない。この程度の言葉じゃ、動揺を隠しきれなかったと言うことか? すると前方のアギトが、さっきの私の言葉の一部を伐採した。


「私達……ガイエン、今お前確かそう言ったな?」
「それが一体なんだ!」


 私は気丈に振る舞い、長剣をアギトへと向ける。そんなワンフレーズにも満たない一言……誰もが口に出すだろう。


「アイリ様! アギト様!」
「やってくれたね。ようやく親衛隊も大人しくなった」
「みなさん、怪我は大丈夫ですか? 私とピクが治しますよ」


 親衛隊と交戦してたアギトの仲間共がそちらに集っていく。戦気を無くした親衛隊に構う必要はないと判断でもしたか……それにしても、奴等はあれだけの戦力だったのに数が変わってない。
 聖典を無くしたセラ達だけだったなら、時間は掛かっても全滅位まで行ける戦力だった筈だ。なのに実際はこちらが数を減らされてる。


 加護を無くしても条件はそれ以上だった筈なのにだ。数の利があった。それを凌駕するほどの気持ちと、そして増援があったと言う事か。
 あのモブリ……私の視線はあの中で唯一、膝丈位の奴に向く。私達エルフから見たら見下すだけの存在。


 だがもしも、今の状況を作り出せたイレギュラーがあったとしたら、あのモブリ以外に考えられない。その他に加わった者なんていないんだから。
 アギトの周りに集った仲間……そう、仲間とはああ言うのを言うんだ。私は戦闘の後でも……誰もがボロボロの筈でも……それでも集うだけで笑顔を取り戻して行くアイツ等を見てそう思った。


(何もかもが違うんだ……私達と、お前達とは)


 違う……それで良いはずなのに、何故かその光景が眩しく見える。私が望んで、目指した筈の場所とは違うのに、何で羨む必要がある? 
 幾ら潰しても、人が集うアギト。なのに私はと言うと……たった一人。周りには誰もいない。


【一人、それの何が悪い? 強者はたった一人で歩むものだろう。お前は何に成りたいんだ? それは王だろ。馴れ合いも慰めも、そんな物はアイツ等の様な弱者にこそふさわしい。
 お前は違う】


 またまた頭で声が響いて来た。何なんだこれは? まるで自分の中に、何かが入るようなそんな不気味さを感じる。
 だけどそんな訳……きっとこの声は、自分の自分に対する声……そうじゃないかと思う。


(違う……)


 それで良いはず何だ。なのに何で、こんなにもきらびやかにあそこが見えるんだ。頭に響く声のせいか、頭の中に黒い渦が広がっていく気がする。
 だけどそれは……


「なあガイエン。そんな羨ましそうな顔で睨むなよ。言ったはずだぜ俺はさ……お前も掴んでるって」
「何を知った風な事をぬけぬけと! だからそれが間違いと言ってるだろアギト! どこからそんな自信が来る? 他人の事など、しょせんは分からぬと言うのにだ! 
 お前はただ……自分の考えを押しつけてるだけに過ぎない。私は違う……お前達とはちがっ――」


 言葉が切れた。それは何故か……その答えは目の前に立ちふさがってる。見慣れた白の鎧がそこにある……だから私の言葉は最後まで紡げ無かった。


「分かってます。ガイエン様はあんな奴等とは違う。それは我々とも……ずっとそう思ってました。それで良いし、そうでなければ行けない……だけどすみません。
 返せる言葉が我々には無かったんです。それでも嬉しかったから……【私達】と言ってくれた事が」


 その瞬間、同じ光がここにもあるような気がした。そんな訳無いし、あっても理想とは違うからいらない筈。だけど妙に、私には親衛隊の言葉がどこかに染みる様な気がした。


「まだ終わってません!! 私達は最後まで貴方に付いていきます! さあ、あの負け犬に分からせましょう!!」
「ガイエン様!」
「ガイエン様!!」


 口々に高鳴るそんな言葉。やっぱり……どんどんと奥の方から染みてくる。真っ黒だった自分の中の何かが、溢れるそれに浸食されていく。
 今の私は一体どんな顔をしてるのだろうか。とてもじゃないが、鏡で顔を見る気にはなれない。こんな関係を築いた気は無かった……だけどどうして、彼らは私の前に立つ?
 利用した筈だ。言いように使った筈だ……それなのに。


「お前達……まだ勝てると思うか?」


 どうして……何て聞けなかった。それは口に出してはいけない気がした。上という部分に立ってる者の責任かプライドか……それを言ったら、この言葉も大概かも知れないか。
 だけど何か聞かずにはいられなかった。いや、この行動は今まで駒としてきたこいつらにしてみれば当然かもしれない。


 だが、その意味はきっと違う。こんな風に言葉をかけられた事があったか? こんな風に、親衛隊の背中を見ることがあっただろうか? それらは全て初めてだ。
 そんな中、私の言葉に親衛隊の一人が返してきた。


「勝てるでしょう。何を迷う必要がありましょうか。我々は貴方がそう言うなら信じれますよ。だって貴方はそんな言葉を通してきた。
 そして我々は、貴方という人だからこそ、付いて行ってるんです。それは初めからそうですよ。我々は貴方だからこそ、その野望をここまで見れてる。
 惚れてるんです貴方という人に我々は。だから信じます。信じれるんです」
「くっ……」


 何も分かって無かったのは私の方……そう思った。アギトの言葉……あれはやはり正しかったのかも知れない。本人よりも他人を理解するなんて、あり得る筈ないのに……だけどアイツは、これが分かってたんだろうか。
 私がこんなにも……この親衛隊の言葉に心揺さぶられてる事を。私がこんなにも……この暖かさを心地よいと思ってる事をだ。


 いつ以来だろうか……この感じ。一年前、アギトやアイリと居たとき? それとも確かに似てる……だけどまだまだそこには及ばないかも知れない。
 でも、確実に空気は違う。張りつめた糸で統制されてた筈の親衛隊と私との関係が、今は少なくとも感じれない。こんなに彼らを近くに感じたのは初めてだ。


 この一年間、ずっと近くにいたはずなのにだ。親衛隊はただただ前を向き続けてる。そこはもしかしたら、アギト達とはやっぱり違う所。だけど私にはそれが見える様だった。
 アギトが言った繋がり……そんな物がだ。彼らの背中から伸びてる光の線。それは私の片腕の中に集まってる。そう、私はちゃんと掴んでたんだ。


 欲しかった物は……こんな物じゃない。こんな物じゃない……筈なのに……投げ捨てようとはどうしても思えない。


「私も……あの天才バカの事は言えないな」


 欲しかった物……それはこれなのか? やっぱり自分でもイマイチ分からない。だけど少しだけ、納得出来る物はあったりする。
 他者との繋がり……私はあの小学時代で本当に信じる事をしなくなった。だけど高校での出会いで、それを多分思い出した。


 あの頃は暖かく楽しい物だった。だけどそれもたった二年。早くに無くしたそれを、私はずっと追いかけてたのかも知れない。
 誰かが代われるなんて思ってない癖にさ。だけどリアルでは夢に潰れ、社会に捨てられた。そんな中で、もう二度とあんな時間は作れない……そう悟ったのかも。


 そんな時、当夜が作ったLROが発売された。そこにアイツは居なくても、真っ白な世界でなら、もう一度夢を見れて、手に出来ると思った。
 というか、もうここにしか無かった。自分を賭ける場所はさ。それにアイツが作った世界……そこはきっと、いつか三人で話した場所の筈だったからだ。


 だけど自分を変えて、パーティーを組んでも、それは一時的でしかなかった。偽物……そういう思いが心のどこかであったからだ。
 だけど少なくとも、同じエルフにはそんな抵抗感もさほど無かった。それなら何でも出来るLRO……考える事は自然と決まる。


(――ってあれ?)


 頭の回想が不意に止まる。それは掘り出した物が、いつしか埋もれてた【理由】その物だったからだ。考えた結論はエルフの統一? それが野望でその理由は手にしたかったから……あの頃の、温もりを?


「は……はは」


 思わず笑いがこぼれてしまう。何だそれ……そんな理由か? 大層な事をほざいてた割には、私は寂しかったのか。それは……自覚すると本当に、小さい……そう思う。


 与えられた者共に、何も出来なかった私が逃げ込んだ道……それがLROだった事は認めよう。だけど求めてた物まで、こんな曖昧で儚い物だったなんて。
 私の様子をみてか、アギトが再び口を開く。


「その笑いは何だ? 気付いたって事か? 自分の本心にさ」
「ガイエン! 私達だってちゃんと繋がってる……その筈だよね」


 そう言って手を伸ばしたのはアイリ。彼女は私に見えてる物が分かってる様にその手を広げて前に出す。伸びてる光の糸……それは気付くと、どうやら私の手の中にあるようだ。
 放した筈で、離されたと思ってた。だけどまだ……この手にはそれが残ってる。繋がり……リアルで出来ず、諦めた物。向こうでもここでも、いつの間にか口に出してた事は、大義名分だったのか。


 与えられた者共を倒したかったのと、この世界を自分色に染めたかったの……それらは八つ当たりと、言い訳だったと?
 いいや、そんな訳はない。今の私の手にあるこれを含めて……それらはきっと、全部が私何だろう。与えられた奴等へのひがみとも取れる執着と、LROという真っ白なキャンバスに自分の色を落としたかったのとそして……今こうやって、否定したくても出来ない繋がりを握りしめる私。


 それら全部が、私なんだ。嘘偽りは何一つ無かった。だけど一番は何だったのか……それが自分でもわからなく成ってたのかも知れない。
 幼い頃、取り戻せなかった友達だった子との繋がり……全てはそれからで……許せなかったのは与えられた奴等の理不尽だけじゃなく、壊されたそんな繋がり。
 私は手の中の光を見つめてその一つに目をやる。きちんと光、アイリとの繋がりだ。


(ん?)


 そこでふと気付く。同じ方向に伸びるもう一本の光。それがどこへ伸びてるのか……


「そう、なのかもな。アイリとの繋がりは捨て切らないな。そしてああ、気付いたさ。私の目がいかに見落としてたのかも。
 私は……手にしてたんだな。癪だが認めてやろう」
「何だそれ」


 ヒネクレた言葉しか返せない私。そんな私を見て、アギトは呆れた様に言い放った。だけどまだだ……いや、だからこそでもある。


「だから癪と言ってるだろう。それに私は結局何も諦めて何か居なかった。見苦しいな……私はいつから地べたを這って進んできたんだろう。
 お前は何で気付いた? 私の事などどうでもいいだろう?」


 私は、そんな訳ないと知りつつ言葉を投げかけた。どうでもいいなんて、このお人好しは思ってないんだろう。それはこの光が語ってる。
 アイリだけじゃない……この光はアギトとも繋がってるんだ。


「そりゃあ気付くさ。色々酷い事されたし、気に掛けなかったとでも思ってるのか? それにさ……やっぱり友達だからな。
 気付きたくない事にまで気付くさ。お前もそうだったんだろ?」


 友達と……やっぱりこいつも言うか。それがまあ聞きたかった訳だ。だけど余計な事まで言ったなこいつ。爽やかな顔でんな事言うからムカつくんだ。


「気付きたくない事か……そうだな私もずっと前にそれに気付いたよ。まあ元々、私が割り込んできた訳だし、動機も不純だ。
 それが自然で、しょうがない事だと思ったさ。だからこそ、私は私の目的に専念したんだ。だが、お前がヘタレだったから、余計な欲が生まれたよ」
「ヘタレ!? お、お前なそんな事言うか? ここは感動の場面でしめらせろや!!」


 確かにアギトの言うことも最もだ。そう言う流れも悪くは無かった。だけど……それは私達っぽくはない。それに……


「何が感動で絞めだ? まだ何も終わってなどいないぞアギト?」
「は?」
「えっ? どういう事ガイエン。だってガイエンはもう手に入れたんでしょう? だったら終わったんだよ! 私達が戦うことなんてもうないよ!」


 私の言葉に、アホな顔を返すしかしないアギトとは違い、アイリは必死にそう訴えた。でも……まだ理由はあるんだ。
 それでも止まれない理由がだ。


「いや、ある。私は確かに手にしてた。繋がりって奴を。だけどそれだけじゃない……この世界を欲しいのも、私の本当の望みだ。
 そしてそれは今や、私一人の意志では止まれない。私を支えてくれる駒が、これだけ居るのだからだ。そしてアイリ……お前の事も……ここまで来たらガムシャラに成ってやる!」
「それって……」


 私の真っ直ぐな瞳に、頬が紅潮するアイリ。確かに一度引いた手を、今度はこちらから伸ばそう。そして癪だが、並ばなければだろう。
 アドバンテージは向こうにある。だが、アギトが居なかった二人だけの時間もこちらにある。これを言えれば半々なのか……いや、そんな訳は無いだろう。


 だが、もうただ引くだけはダメなんだ。高校の時、黙って引いた。後悔はしないと思い、それでいいと悟ってた筈だった。
 でも思わない事は無かった。知っておいて位欲しかった。私はいつだって後から後から後悔してる。


 だからもう間違いたくなくて、手にした繋がりが……LROで生まれ変わった自分が言わせてくれる。


「アイリ、私にはお前が必要だ! 迷惑だろう……だが、もう無理なんだ! 私は欲張りで、諦めもやっぱり悪い。二回も好きな女を、ただ黙って取られるなんて許せるかよ!!
 だから私は、お前が欲しい!」


 月の無い夜の闇は深く広い……だけど私の心は春の蒼天よりも澄み渡ってた。人生で初めての告白。誰もがきっと驚いてた。
 だけどそんな中、一人笑ってた奴が居る。それは紛れもなくアギト。私の天敵だ。それは何だか嬉しそうに見える。


「ようやくか。色々吹っ切れたようだなガイエン? まあそれでもアイリは渡さないけどな!」
「言ってろアギト。ここまで来たのなら、私は手にするさ。欲しかったもの、夢見たもの全て! お前が私にここまで吹っ切らせたんだ。後悔してろ」


 私達はそれぞれに、興奮してる仲間を押しとどめて前に出る。そして武器をその場で合わせる。カキィンと響く金属音。


「ちょっと待ってよ二人とも! 何する気? もういいじゃない」


 慌てて入ってくるアイリ。だけどこれだけはそれぞれ譲れない。そしてアイリの言葉に今は意味ない。


「退いてろアイリ。これはお前を賭けた私達の戦いだ。私が勝てばアイリも世界も貰おう。文句は言わせん」


 そう言って私はある物をアギトに送る。それを見てアギトは目に炎を灯らせる。


「決闘か。上等だ……決着って訳だな。やらねーよ。アイリも世界も……やっと手にした繋がりだけで我慢して貰うぜガイエン!」


 崩壊するタゼホに決闘のフィールドが薄い膜で形成される。それに押されてアイリは外へ。


「ちょっと! 人を勝手に賞品にしといて何よ!!」


 そんな声が聞こえるが、もう私達の戦いは止められない。地面を蹴って同時に飛び出る。槍と長剣がぶつかり、交差し、火花を散らす。
 不思議だった……もう腕を動かすのも辛いのに、この一瞬一瞬がもっとずっと続けばいいのに……そう願ってた。そして――――




 ――――私は負けた。




 アギトの赤くたぎる炎の槍が私を貫いた。それで決着だ。地面に倒れて、だけど清々しい。今まで背負ってた物が夜へと溶けて行くようだ。


「すまん……みんな」


 涙を流す親衛隊にそう言った。だけど誰も責めはしなかったよ。そして目の前に来たアギトが手を差し出す。それを私は素直に取れる……その筈だった。
 夜の闇に、その扉が開くまでは。そしてその扉から現れるのは……


「シクラ!」
「あらら~、な~んて無様な格好。だけど良いの。君の役目は十分に果たしてくれたから☆」


 その瞬間、私以外の誰もが吹き飛んだ。そして目の前に降り立つシクラ。そして首を掴んで持ち上げられて、奴は笑う。


「あはは世界? 君にそんな器はないわ。さようなら。君は良い駒だった☆」


 その瞬間、私の胸に何かが刺さる。視界が狭まり、暗く成っていく。


「さあ、お姫様がお待ちよ」


 そんな言葉と共に、私は空に開いた扉へと誘われる。だけどその渦が招いてるのは私だけじゃない。その場の全ての物をあの扉は求めてた。

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