命改変プログラム

ファーストなサイコロ

魅かれ者の小唄

 白く光が溢れる世界に僕と桜矢当夜は居る。どこまでも続く、平坦な地平線が一応空と地上を分けてる様に見えてた。
 だけど別に空が青い訳じゃない。そもそも空……なんて呼べそうもない。地平線の先が、強く光ってそこを隔ててるってだけで、僕が居る場所は実際はその境界が見えないからだ。


 だからこその白の世界。地面に伸びる影さえ、殆ど白と言って良い。それに当夜さんが出した沢山の光の玉が僕に集って入ってきてるから、既にもう影すら無い状況かも知れない。
 どこか空しいこの世界に、今はもう響く音なんて一つもない。この人の言葉は、僕に終わりを告げていたから……「もう良いよ……」と「無駄なことは止めろ」とそう言っていた。


 実の兄で、たった二人の家族の筈じゃないのかよ。そう思いたくなって、実際そう思う。一瞬頭が空っぽになったと思ったら、さざ波の様に沢山の感情が流れてくる。だけど僕はそれを必死に押さえつけてる。


 この人はこういう人だ。願う幸せの形……それは妹の望んだ方なんだから。最後の最後……その選択を与えてたのはこの人なんだ。


 命改変プログラム……それにLROと言う世界からの解放と、永遠の現実逃避。それをちゃんと乗せていた。それはもしかたら、この人が甘えさせるしか出来なかったセツリへのたった一つの厳しさを表したものだったのかも知れない。


 だからこそ、自分でも決めたんだろう。どっちを選ぼうと、それを受け入れようと。実際、このままで良いなんて
本心で思ってる訳ないと思う。


 たった二人の家族……無くしたくなかきっとない。でもそんな葛藤はきっとずっとしてきたに違いなくて……後から現れた僕がそれを口に出すなんて烏滸がましいと思えた。
 僕が出来る事は、ここでこの人を否定する事じゃない。僕に出来る事は示す事だけだ。ただそれだけ良いと思える。だたそれだけ……僕の冒険は終わらないと信じれる。
 だから口を開こう……自分の思いを言葉に乗せて。


「アイツが……セツリがどうしよう無く弱いなんて知ってる。自分では何も出来ない……そう思ってる奴だ。そしてアンタも確かにそう思ってて、間違いなんてない。
 だけど、僕は一度だけ見た。アイツが立ち向かうところを……自分の足で立ったその瞬間を。だから僕自身は諦め切れないんだと思う」
「あの子はだから諦めてるよ。リアルに見る夢なんてもう砕けてる。そんなあの子を、君はどうしても追いかけると言うのかい?」


 静かに響く僕達の言葉。世界に溶けていく声は空しくても、実際は結構中は熱い。なんせお互いが決意や信念……悩み抜いた物をさらけ出してるんだから当然だ。無駄に怒鳴らないのは、きっと確かめあってるからだと思う。
 僕も当夜さんも、口に出すことで噛みしめてる。そして僕はもう一度静かに告げる。


「ええ、勿論」


 すると間髪入れずに言葉が飛んできた。


「そのたった一つの命を懸けてでも? 君も今回の戦いで感じた筈で理解しただろう。セツリを守るあの子達は強い。それも全員が反則的にだ。
 使い続けて来た幸運は、いつか必ず途切れる時が来る。その瞬間が迫ってきてると言ってもかい?」


 何いってんだこの人。いつから予言者になったんだ? それに幸運か……それはちょっと考え方が違うな。確かに世の中には、幸運と不幸は半々であるって言う人も居るだろう。
 良く不幸が続いた後には、幸運がやってくる……なんて迷信を口にしたがる人達も居る。だけどそんなのは捉え方の問題じゃないのか。


 誰かの幸せが他人に理解しがたい物があるように、不幸や幸運の形は決まってない。突然降ってきたそれを手のひらの上でどう感じるか……全てはそれ次第何じゃ無いだろうか。
 だって幸運と不幸はそんな簡単に割り切れる事じゃない。それは僕自身がそうだからだ。


 初めてセツリに出会った事。訳分からなくても、こんな美少女に幸先良く出会えるなんてラッキーって正直思ったさ。
 だけどその後、降り懸かって来た出来事は正直簡単には喜べる物じゃない。だけど、ちょっとワクワクもしてた。そして自分が……自分だけが助けられる存在で有ることは嬉しい事でもあったよ。


 使命感や責任、そんな重圧に押しつぶされそうになったことも有るし、最初はやっぱり【命】その抵抗は半端無かった。
 だけど幸運にも僕は出会いに恵まれてた。力も得た。困難という物が不幸なら、僕はきっと立ち向かう度に幸運を手にして来たはずだ。


 でないときっと、僕はここまで生きちゃい無い。そしてここまで来て思うことはやっぱり、僕は幸運であり不幸で、不幸でありそして幸運だったって事だ。
 だからさ、尽きる幸運なんて無くて、もしかしたら不幸はいつだって壁の様に立ちふさがるのかも知れない。それは生きてる限り、きっとそんな感じだろう。


 だけどそれは自分自身次第で、どうにでも出来る物なんだ。僕はそれを知っている。確かめて来たと言ってもいい。
 幸運か不幸を明確に分ける事は難しい……どこかからか見たら不幸でも、見方を変えれば幸運。きっと何だってそいう物だろ。


 だけど違いが有ることも僕は知ってる。尽きない幸運に胡座をかいても不幸は越えられないし、何もしなければ不幸は積み重なっていくって事だ。
 幸運は人を必要としないけど、不幸は違う。奴らはいつだって狙ってる。理不尽でも策略でも陰謀でも……そいうのは大抵知らない所で回って降って来やがるんだ。


 けれど幸運は人を必要としなから、降ってくるなんて殆どない。宝くじも買わなきゃ当たる事がないのと同じようにさ。


 そこには有っても、人を求めない幸運には手を伸ばすしか僕達にはないんだ。それをうんと頑張れば、掴める事も有るし、その課程で不幸なんて乗り越えてる場合だってある。
 そう考えると有る意味人って、幸運を追いかけて行く内に次々に不幸にぶつかる……そんな感じ捉えれる。まあだけど結局、今の僕が幸運か不幸かなんての結果は、全てが本当に終わった時に分かる事だろう。


 僕の持論では幸運は無くならない訳だし、不幸に怯える事もない。確か当夜さんが言うように、柊やシクラ達は強敵過ぎるけど、それでも止まる理由にはなりはしない。


「そのたった一つの命を懸けてでも……それでも僕は、止める訳には行かないんですよ。それがやっぱり僕の答え何です。
 今更僕が幸運か不幸かの天秤を気にして行動するとでも?」


 僕はその皺が刻まれたシャツの背中にそう答える。変わることのない意志。止まることを許されない足……それが今の僕だろう。
 全部の責任をセツリやこの人に押しつける気なんて無い。僕だって間違ったんだからな。だから僕はもう、止まれない。振り返る事すらもどかしい感じで進みたい。


「ははは……そうだな……君は今更そんな事では止まらないか。君は不幸には必ず立ち向かう術がある……それを疑いはしない人種だよ。
 だけど全ての人がそうじゃない。不幸も幸運も、平等ではなく、神様がこぼした不幸を生まれながらに抱えてしまう子はどうしたらいい?
 どんな希望を与えれば、その子にとっての幸運になり得る? あの子の不幸は大きすぎるんだ……例え幸運が起きていたとしても、それらはあの子には届かない。
 そんな世界がリアルだよ」


 紡がれる言葉は、今の僕なら何となくは分かる物だ。セツリは歩けず動けず、ずっと病院のベットの上が世界の中心……肉親はたった一人で……それは誰もが同情出来る程の不幸だろう。


 でも、そんな中でも僕は見つけてる。あの子の……セツリの幸運を。セツリやこの人は、それに気づいちゃいないらしい……どうしてこのたった二人の家族は、自分をそう低く見てるのかな。
 僕は一度息を吐き。その背中へとこう言った。


「じゃあ貴方はどうなんですか? セツリの事をこれだけ思って、人生を捧げて来た貴方は何ですか?
 僕には……セツリの兄が貴方であった事……それが何よりも強く、セツリの巨大な不幸にも負けない幸運だったんじゃ無いですか?
 リアルは確かに残酷だったけど、あの世界だって、セツリを見捨ててなんか居なかった。だって貴方という存在を、リアルはセツリに与えてくれたんだから。
 セツリは貴方の事が大好きだって言ってましたよ」


 それはきっと、あの残酷なまでのリアルで、彼女があの事故の瞬間まで生きてこれた……笑ってこれた源の筈だと僕は断言できる。
 まあ、僕が知ってるのは映像で見たあの楽園でのサクヤとの日々が一番古いから、リアルで本当にアイツが笑ってたのかなんて知らないが、あれから想像する限り、そんな暗い日々を送ってた様には感じれないと思う。
 その瞬間まで、彼女はこの人を信じてた。


「……嬉しいよ。そう取れたのなら。それだけが僕の存在価値だったんだから。だけどあの子には嫌われてしまったよ。それは君も知ってるだろう」


 確かに僕はそれを知ってる。だけど……嫌われてるかって言ったらそれは否だろう。今でもセツリは十分に、お兄ちゃんが大好きだと思う。
 あの行動は、頭に血が上った末の行動で、突発的な物だったんだと思う。それに僕には思えない。当夜さんがセツリを捨てるなんてさ。この二人はさ、もう一度ちゃんと話し合う必要性があるよ。絶対に。


「大丈夫ですよ。僕がセツリを助けて、貴方も助ける。そして話せばきっと全てが上手く回り出す。きっと!」
「はは……は、それは一度は見てみたい夢だね」


 彼の背中は震えてる。声色は、必死に何かを押し隠す様に成ってた。周囲の光がどんどん入ってきて、次第に僕の体自体が光りだしてた。
 これは何なんだろう……そう想いながらも、僕はその背中に言葉を続ける。


「夢で終わらせる気はありません。必ず実現して見せます」
「大層な自信だな。そんな保証なんて出来もしないのに……飛んだ大バカだ。いつか僕もバカと言われたが、君はその上を行ってるよ。
 好きにするが良いさ……バカは止めても聞かんと知っている。それが大バカなら尚更だろう。だが一つだけ聞かせて貰おう。
 君はどうしてそこまで出来る?」


 その言葉の時だけ、彼は椅子を引いてこちらに向いている。だけど集い過ぎた光が眩しくて、その表情を見ることは出来ない。それにどうしてそれをまたって感じだ。


「それには答えた筈ですけど?」
「あの子が一度は立ったことが有ると言う奴か? それは君の淡い希望……僅かな確率でしかない。僕はもっと根の部分が聞きたいんだよ。
 どうして君があの子を見捨てられないのか……その理由だ。人は誰しもが自分が一番大切だ。その理念を覆す何かが君にはあるのだろう?」


 見捨てられない理由……理念を覆す何か……僕は自身の手のひらを見つめる。そして細めた瞳はどこを見てるのかも分からない程にぼやけていく。
 頭の中には、いつしかの思い出が流れてた。そして浮かび上がるのはあの温もりだ。僕は開いた指を握りしめ拳を作る。その温もりを逃がさないようにして、見えないその顔を見据えた。


「昔、どうしようもなくひねくれてた子供の手を取ってくれた奴が居ます。幾ら振り払ったって次の日にはケロッとして、またそのヒネクレ者に大輪の花を咲かせた様な笑顔と共に伸ばされる手があったんです。
 どうして彼女はそうしたのか……それが何でヒネクレ者のそいつに向けられたのかはわかりません。だけど半ば二人とも、意地になりかけてた頃……ヒネクレ者は思いました。
 彼女が誘う世界は、どんな所なんだろうーーと。それは彼女が諦めなかったから芽生えた想い。いつもいつでも、笑顔の彼女が、伸ばし続けた手のひらに乗せてた夢。
 それがヒネクレ者の心を動かしたんです」


 吸い込まれていく、光の一つ一つに僕はあの日の残滓をみてた。それは長らく頭の引き出しにしまってた物。だけど何一つ、色あせずに有るものだ。
 当夜さんは黙って聞いてる。それはありがたい事だった。


「ヒネクレ者は、その子のおかげで新しい世界を知りました。でもそれも、今思えば見方が変わっただけなのかも知れない。
 だけど、それで確かにヒネクレ者は全うに生きれたんです。彼女が伸ばしてくれたから……彼女が掴んでくれたから……そしてそれは、彼女が諦めないでくれたから起きた事。
 彼女は一度掴んだ手は離しませんでした。喧嘩したときも、ふてくされた時も……最後には必ず、あの笑顔がそこにはあった。
【私が何度だって正してあげる。生きてる限り何度だって……】
 そんな風に彼女は言ってくれました」
「…………」


 静かに空気に溶けていく僕の言葉。他に音を出すものなんて無くて、それは空気の震えさえも感じれそうな程の静けさだ。
 息を付く度襲いかかるこの静寂は、決して心地よくなんか無い。寧ろ次に口を開くのを結構躊躇う。さっきはありがたいなんて言ったけど、見えないのに喋り続けるって結構痛い光景だ。


 変な想像をしてしまうんだ。まるで僕はそこにいる、もう一人の自分にこれを言い聞かせてる様なさ……それは何とも恐ろしい事なんだ。
 でも……そんな考えは今は無粋だろう。そんな事もわかってる。当夜さんは何も言わず僕の言葉を待ってるのは真剣だからだろうし、ここは絶対にそういう場面。
 微笑ましくもある残滓を受け入れて、僕は再び静寂を切り裂いた。


「僕はセツリと出会ってから、それなりに良いもの……貰ったと思ってます。大変だったけど、刺激的な毎日に、掛け替えの無い友達。出会えるその瞬間の全てが、僕に取っては真剣でした。
 正直、楽しかった。それが本音です。確かにセツリは甘えてるのかも知れない……自分の為の世界を待ってる。辛いことも悲しいことも無く、取り残されもしない世界。
 でも……それでも僕は、彼女がしてくれた様に腕を掴みに行きますよ。だって、死を迎えるまでの僅かな夢より、もっと大きい物をきっと見つけれる……そう確信出来るから。
 あの日あの時……彼女の手を取ったヒネクレ者がそうだったようにです。生きてればきっとそんな物が見えてくる。
 だって生きるって事は、それだけで価値が有ることでしょう。小難しい事なんか全部後回しにしてでもいい。強引にでも颯爽と助け出して、今度はうんと厳しく、だけどうんと優しく……沢山出来た友達の手を借りて、いろんな事を教えていけば良いだけなんです。
 それだけできっと、世界は変わったって事に出来る。生きてさえいれば、変われるチャンスは幾らだってある。だから僕は、たった一パーセントを担ってでも、アイツが選択しなかった未来を諦めない!!
 それが僕の、命を懸ける理由です」


 胸においた手が、光と成って上っていく。そしてその現象は体中から起きていた。崩れていくパズルの様に、僕の体はピースに分かれて上っていく。
 戻れるんだろうか? だけど何となくだけど大丈夫だろう……そんな気がしてた。


「あの子さえも見なかった未来に……君は命を懸けてるのか。くくく……ははははははは」


 いきなりビックリするくらいに高らかに笑い出す当夜さん。この人でもこんな風に笑うんだ……そう思う程の笑い声だった。
 だけどその時、やっぱり慣れて無いのか盛大に噎せた。「げほっ! っがっ! ゴフゴフ!!」
 てな感じに、視界が薄れてく僕にでもわかる程に苦しそうだった。だけどそのせいで前かがみ成ったからか、僕は微かにその瞳と目が合った……合った、と思う。


 上手く認識出来なかったが、多分僕は見たはずだ。人の顔に取って、目はとても重要だ。上手く認識出来なかったのは多分、その状態の当夜さんを見るのは初めてだったから。
 顔は知っている……そう思ってたけど、そこに開いた瞳があるだけで印象は変わる物だった。別段変わった目の色してるとかじゃ勿論無い。


 だけど瞳は、その人の何かを強く表してる……そう思う。きっとだから、僕は目を見張ったんだ。
 髪の毛がかかる黒い瞳……それは真っ直ぐに僕を見据えてた。


「はぁはぁ……私には結局、何も出来ないが……ありがとう。この言葉だけ贈らせてくれ。君はきっと……そのままで良いんだろうな」


 その言葉は意外な物というか何というか……少し気恥ずかしい様な気がする物だった。だけど素直に受け取ろう。認めた……とかじゃ無いのかも知れないけど、受け入れてはくれたみたいだから。
 そして自分も、口に出した助けたい理由……それに芯が通った気がしてる。だけど消えゆく自分自身にその時、不意に当夜さんがあることを言った。
 それは絶対に確認して置くべき事の様にだ。


「後悔はしないんだね? 何がどう転んでも・・歩いた先には最悪の結末しか無かったとしても」


 この人は、天才だ……だからいろんな事を考えて考えて、考え抜いてしまうのかも知れない。だけど僕は平凡な人種だからさ、先の事なんてあんまり考えないし、やると決めた事以外の事なんて考える余裕なんて無い。
 だから僕にはその質問が、余り意味が有ることの様には思えない。だってそうだろ。初めから最悪を結末に入れる奴なんていやしない。


 だけどその可能性から目を離す事もしないさ。だってそれが起きない様に、僕達は走り続けてる筈だからだ。逃げてる訳じゃない、目指してるんだ……誰もが最高の結果って物を掴むために。


 セツリはまだ、そこにのかってもいないんだよな。それはアイツの意志ではなかった……だけどそれも「今までは」だ。あの選択はそういう事だろう。
 だけど僕は知ってるから、手を差し伸べ続ける事の価値をさ。だから僕はこう言った。当然と言った感じでだ。


「当然!!」


 すると僅かに口元が上がったように見えた。そして当夜さんは再び背を向けてしまう。
「なら、もう何も言うまい。そうだな、君が言ったとおり、私にとってはそれでいい。ありがたく使わせて貰おう。あの子の為のもう一つの選択肢とでも思っているよ」


 まあ別に僕にとってもそれでいい。この人にはもう十分頼ったしな。助け出すための術を教えてくれただけでいい。
 後は僕がやることだ。消えゆく視界の中で、少しだけ力強さが加わったような背中から、ぽつりと言葉が紡がれる。
 それはきっと別れの挨拶の代わりだろう。


「死ぬなよ少年」


 だから僕も同じ様な言葉で返してやる。


「死んでんなよ天才。あんたがいなきゃ、やっぱりセツリは救われないからさ」


 そしてゆっくりと背中越しに掲げられた腕が振られた。それと同時に、この世界から僕は完全に消え去った。光の余韻……それだけを世界に残して。




「う……」


 意識が何かを伝えてくる。甘い香り……優しく吹く風のなでり、それは何だか、見に覚えがある感じだ。耳に伝わる草木の音……サラサラ、チロチロと囁く水の流れ……ああ、ここはそうだ、天国でもおかしくない場所だ。


 そう思った。だけどわかってる。ここは決して天国なんかじゃない……だけど決してリアルでもない。重い瞼を開けていくと、暖かな日差しが一瞬世界を染めてしまう。だけど直ぐに、世界はその姿を現していくんだ。
 そしてそこにはみんなが居た。その姿が僕には見える。


(戻ってきた……そう、やっぱりここはLROだ)


 みんなが目を覚ました僕を見て、思い思いの感情を出した顔に成ってる。安堵したり、喜んだり、涙したり……それを見てると僕は本当に贅沢者だなと思う。良い出会いにきっと恵まれてる。
 僅かに動く体を確認し、体を少しだけ持ち上げると何かが落ちた。それは扇? するとその扇は風に舞うように飛んでいく。
 そしてそれを掴んだのは……

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