命改変プログラム

ファーストなサイコロ

全てを押し潰す力



 繋がった手から伝わる温もり……久しぶりに触れた彼女は変わらずに暖かく、だけど昔よりも少しだけ痩せたかも知れない。
 元から華奢ではあったけど、この体には今までの苦労がかいまみえる。けど……それでも、この国に来たときに見た儚さは今はもう微塵も感じられない。


 あの時とは違って見た目はボロボロなのに、前を見据えるその瞳は強い意志が宿ってるよう。俺は前もこんな風なアイリを知っている。
 これはあの時と同じ目だ。アイリがグラウドに立ち向かうと決めた時の目。そしてカーテナをその手に取った時も同じ目をしてた。


 見た目ほどボロボロな訳じゃなないんだな……こうなったアイリは強い。繋がる手が僅かに強く握られる。さっきまで鼻を濁す様な炭や煙の臭いが充満してたのに、今は隣に立つアイリから懐かしくも良い匂いがする。


 それはいろんな事に「大丈夫」そう言ってくれてる様で安心って物が上がってくる。だから俺もその手を軽く握り返す。
 するとピクンとアイリの体が反応したのが分かった。そしてそれを噛みしめる様に目を閉じて、一瞬の間を置いて瞳を開く。
 そして向ける言葉はアイツにだ。


「ガイエン……」


 花の蕾の様な唇から紡がれるその名前。そんな声が聞こえたのか、俯いてたガイエンはようやくこちらに視線を向ける。
 白く長い髪から赤い目を覗かせてだ。


「アイリ……アギト」


 くぐもった声を出すガイエン。そしてもう一歩踏みだそうとするアイリを俺は引き留める。だってここからは俺とガイエンのケジメ。


「アギト?」
「言葉だけじゃ、アイツは今は止まらない。それにさ、これはここでつけなきゃいけない決着だ」


 俺の言葉にアイリは振り返る。


「それは、私にとってもだよ。私はここで全部を教えて貰います。私はやっぱり誰も失いたくない。わがままでも傲慢でもエゴでも、三人での道を見つけようって私は決めたの」


 三人での道ね……それは確かにアイリらしい。だけど、それは俺達のどっちかが諦めて、それでも傍に居なきゃいけない事じゃないのかな。
 そしてそれをただ受け入れる事が出来ないからアイツはああなってる……とも言えると思う。本人は気付いてるのか分からないがな。


 いや、アイツが気付いてない分けない。ただ認めたくないだけか。だって夢幻とか言ってたからな。そんな幻想に自分が囚われてるなんて認めたくないから、必死で元からあった夢を追いかけてる……そう今の俺には見える。


 けど、もしも……アイリが言うような事に成れれば、確かに一番いいのかも知れない。それでも俺達がぶつかる事は避けられないだろうけども。
 でもこの戦いの先がそんな結末であれれば良いと今は願おう。俺だって何かを失いたい訳じゃない。そしてそれはガイエンもそうだろう。
 だけどそんな思いを胸に抱いてる中、唐突にその笑い声は夜空に昇った。


「くくく……はぁーはっはっははははあ!!」


 大きく口を開けたガイエン。白い髪はその声になびき、赤い瞳は一際輝く。妖しい光を称えてだ。


「何がおかしいのガイエン?」
「おかしい……おかしいさ! 何を戻すかも分からぬ程におかしいなアイリ! 三人一緒? そんな時は既に終わりを告げている!
 お前が語るのは、いつだって夢の様に儚い明日だ」


 食いかかったアイリにガイエンはその顔のままで言葉を返した。でも最後だけは少しだけ違う感じ。だけどガイエンは何も待たずに腕を伸ばす。その黒い腕をアイリへと向けて。
 でもその時、俺はその腕の先に割り込んだ。


「だけど、俺もお前もそんなアイリの夢を未来にしてきた筈だ! そしてそれがこうやって今に成ってるのなら、儚く何か無かったんだよ。そうだろガイエン」
「アギト……お前は亡霊だ。私の前に消せど消せど現れる亡霊。けれども、その姿……もう目障り以外の何者でもない。
 次こそは、この力で跡形も無く消してやる。アギトという存在をシステムごとな!!」


 その言葉と共に放たれるカーテナの力。俺はその力から今度は逃げない。真っ直ぐに真っ正面から受け止める。


「う……っつぐおおおおおおおおおおおお!!」
「アギト! 無茶だよ。私の権限もカーテナを直接所持してるガイエンには届いてない。たった一人でカーテナに挑むなんて……」
「それでも! この力を砕けないといけないんだ! そうでなければアイツは止まらない!! それにこれ以上、アイツ相手に逃げるなんて出来るかよ!」


 槍が大きく震える。その振動が腕や肩にまで大きな負担を伝えてくる。本当に何度受けても反則的なまでの威力。これだけの力を溜も無しに、視野に入れば自由な位置に放てるんだから考えれば考える程に無茶な事をやろうとしてると思う。


 だけどさ、やらないともうこれ以上進めない。それに考えて考えて……俺はまたここにいるんだ。だから無茶を無茶と考える事さえもう辞めた。
 けれども耐えるだけで精一杯。徐々に地面を削って体が後方へ下がっていく。


「砕く? お前ごときが砕ける物なら、砕いてみろアギト!!」
「――っつ!? 左も!!」


 両腕を駆使しようとするガイエン。これは流石にやばい。動けない今の状況だと確実に当たる。そして流石に加算されれば耐えられそうもない。
 それは心一つでどうにか出来る事を完全に越えてる。俺が今対峙してるのは、一人のプレイヤーってだけの存在じゃない。


 このアルテミナスという地、その物の力を振るう奴なんだ。分かってた事……そして既に一度は敗れたその力。だけど今度ばかりはそうは行かない!
 なぜなら俺の後ろにはアイリがいる――と、思ってたらいきなり飛び出して来た。そして両腕を広げて声を出す。


「だめえぇぇ!!」
(このバカ!)


 そう思ったけどもう遅い。ガイエンの腕は振りきられる直前だ。そして大きな音と地面を伝わる振動……巻き上がる粉塵が視界を阻む。
 だけどこれって……


「アイリ!!」


 俺は粉塵の中叫んだ。これはカーテナの力が横にそれた結果だ。それならアイリは無事なはず。


「アギト大丈夫?」


 粉塵の中、帰ってきたアイリの声。思ってた事とは言え、安堵感がこみ上げる。やっぱりガイエンの奴はアイリには攻撃しないか。
 アイリに当てないように攻撃を外したんだろうからな。でも……


「お前、無茶しすぎだ! そんな服じゃ防御力だって皆無だろうし、武器も持ってないんだぞ。死ぬ気か!?」
「だって……アギトはまた一人で戦おうとしてるから……」
「一人でって、今のお前は戦えないだろ」


 粉塵のなか、お互いを確かめあって言葉をかわす。俺はアイリの言葉がいまいち分からない。アイリは戦いたくても戦えない筈だ。
 だってまさにさっき言った理由が原因で。けれどアイリは首を振る。そういうことでは無いと言う。


「違うの! そうじゃない。確かに今の私は無力です。カーテナを無くして、剣もこの手にない。きっとカーテナが一撃当たるだけで、私は潰れちゃう。
 でも置いていかないで。もう私だけ何も知らないなんてイヤなの。それに戦えなくても戦える。だって私の戦いは伝える事だから!」
「置いていくとかわかんねぇよ! それにだから、言葉じゃアイツは止まらない! 邪魔だって言ってんだ!」


 その言葉にちょっとカチンと来たのかアイリが食いかかってきた。


「分からないって、アギトは勝手にやったじゃない! そして勝手に出ていった。邪魔なんて、一人じゃ勝てないって分かってるでしょ!? 
 ガイエンは私を潰してない。それなら私は一緒に戦えるって言ってるの!」


 どういう事なんだよ? それじゃあアイリは、危機の度に前に出てくる気なのか? そんなのいつまでも通用する分けない。
 ガイエンがアイリを潰すなんて確かに考えられないが、今のアイツならやりようは幾らだって……それに本当に万が一が無いとは言えない。


 今のガイエンはどんどんその力に呑まれてる様に見える。まがまがしさが増してるみたいなさ。その時、粉塵の向こうからガイエンの声が聞こえてきた。


「二人して戦って私を倒すか? いつだってそうだ……分かってるさ。いつだってアイリはお前側にいるとな!」


 掲げられる腕が降ってきた。それは真っ直ぐに力を飛ばす使い方じゃない。俺の前にアイリがいるから、ピンポイントで力を当てられる方に切り替えて来やがった。
 俺は寸前でそれをかわすが、余波のせいで地面を転がる。


「逃げないんじゃ無かったのかアギト? 随分惨めに泥が付いてるじゃないか? だが、お前にはそれがお似合いだ!!」


 少し前に俺が言ったことをどうやら聞いてたらしいガイエンは、嫌みな事を言いやがる。それに誰が惨めだ。泥が似合う奴に成った覚えはねーよ!
 俺は走り出しながら口を開ける。


「お前こそ、その化け物染みた姿がだんだん違和感無く成ってきたぞ。ちょっとは危機感覚えてろ! そんな姿で世界征服とか実際、外に出せねーよ!
 それにな、俺は逃げたんじゃない! 向かってるんだ!絶対お前にこの槍を通してみせる!!」
「ふん、お前には理解出来ない事よ! そして届くと思うなよ! 貴様ごときの力がぁぁあああ!!」


 ドドドン!! と三連続で降り注ぐカーテナの力。再び巻き起こる粉塵の中から出てこれたのは、なかなか奇跡的な事だった。


「っつ……今のは何で切り抜けられた?」
「アギト!」


 思考を巡らせるなか聞こえた声に、またアイリが何かやったのか? そう思った。だけどアイリの心配するような顔でそれは無いと思える。
 それに何か出来る間があったとは考えにくい。ガイエンは続けざまに腕を振り下ろしてたんだ。途中で何かが出来たところで、下ろすだけの腕には余り影響も出いだろう。
 でもそれならやっぱりどうして……一度位潰されていてもおかしくない攻撃だったのに、俺はかすり傷程度で済んでいる。


「くくく……やるじゃないかアギト。だが、お前が私に勝てる可能性など、万に一つも無い事に変わりはない。私はお前に一方的に攻撃し続けられる。
 私は私のターンを永遠に支配しつづけれるんだよ!!」


 左腕に添えてた手を離し、再び腕を振り上げるガイエン。もしかしてまた連続攻撃か? 同じ様な奇跡か偶然か二度起きるとは思えない。
 どうにかしないと流石にヤバい。俺は必死にガイエンへと駆け進む。だけど間に合わない……腕を下ろすだけの動作に勝つなんて、この距離じゃとても……その時再びアイリが声を上げる。


「やめてガイエン! こんな事しなくったって掴める夢はきっとある!」
「それこそ虚言だアイリ! 私の道とお前達の道は既に分かれて、再び交わる事などありはしない! 譲れない物がお互いにあるのなら、戦って勝者を決めるしか無いんだよ!
 お前だってわかってるだろうアイリ。グラウドの時と同じだ! お前が戦うと決意したあの時とな!!」


 右腕が下ろされて、俺の後方の地面が砕ける。続けざまに左腕が下ろされて、更に近い地面が砕けた。その衝撃で背中が押される様な感覚と共に、ガイエンに近づいた。
 だけどその時には再び右腕が下ろされそうに成っている。前に進んだといえ、バランスを崩したこの状態じゃ機敏な動きが出来ない。


 それにやっぱり徐々に修正・予測をしてきてる。こうなる事まで視野に入れた攻撃なら……次は必ず当たる!!


「ふざっけんな!! ガイエン、お前のやってる事はただのわがままだろうが!!」


 前のめりに成りながら、俺は槍を投げた。勿論狙いは奴の腕だ。防がれるかも知れない……武器を手放すなんて愚の骨頂かも……だけどただ潰されるよりは、僅かでも俺らしい。
 真っ直ぐに突き進む俺の槍。だけどそれは下から伸びてきた影に上へ弾かれる。単純過ぎる攻撃とは思ったが、まさか腕を一本を使わせられないとは予想外だ。


 本当に最悪だが、一発ならまだ耐えられる気概があった。カーテナはその強すぎる威力で、ダメージの伝わり方が並の武器とは違う所がある。
 でも前に滅多打ちにあったから、最悪一撃貰っても崩れたリズムを正す隙を狙えればと思った。だが、ガイエンの奴は腕を使わずに俺の槍を防いだから、このまま力に呑まれたらそれこそ滅多打ちが来るかも知れない。
 そうなったら終わりだ。


「わがまま……それを通す事の何が悪い? ここは夢を追うLROというゲームだ! 私も楽しく過ごさせろよアギト!!」
(来る!)


 そう思った。そして覚悟を決めた。止まらなければいいんだ、力を受けても。それならば次弾をよける事は叶うかも知れない。
 だけどその時、俺とガイエンの間に何かが降ってきた。それは瓦礫? 僅かに炎の火が残ってる木片が降ってきて、その瞬間俺からはガイエンを、ガイエンからはきっと俺を遮った。


 完全に見えなくなった訳じゃない。だけどその不意の乱入者は、俺達の視線と言う物を一瞬奪う。しかしそれが、その乱入者の役目だったのかもしれない。
 赤い火の粉がその瞬間、本当に僅かに散った。それと同時に巻き起こった衝撃と凄まじい音……それは紛れもないガイエンの攻撃。


 だけどそれは本来、俺の頭上に降り注ぐ筈だったもの。まさか……と思ったとき、視線を俺の後方へズラしたガイエンが呟いた。


「アイリ! あんまりイタズラが過ぎると、お仕置きが必要になるぞ」
「言ったはずだよガイエン。私は諦めないって。あの頃……とは行かなくても、きっと一緒に歩ける。だから、私も貴方を止めたい。
 カーテナは視認した相手へ力を向けます。だからその特性と、人間の動物としての反応を利用させて貰いました」


 やはり、あの木片はアイリが投げた物だったのか。まさにベストタイミング。流石は正統な持ち主だ。カーテナの特性と人の反応ね……誰もが視認しただけでカーテナは攻撃出来るってのは分かってる。


 だからそれに動く物は目で追う反応を利用したわけだ。それにこの夜に、気になる程度光ってたのも良かったんだろう。
 一瞬でも誰しもがそれを捉えるのは押さえきれないんだ。そしてそんなアイリの機転に救われた。直撃はしなかったとは行っても、伝わってきた衝撃はすごい。
 だけど俺はそれに耐えて強引に押し通る。ここで引いたら、これまでの二の舞だ!


「うおおおおおおおおお!! ガイエン、届かせに来たぜ!!」
「何をだアギト? 拳一つで私が倒せるとでも思ってるのか?」


 近づく俺に、それでも余裕を崩さないガイエン。まあ武器無いしな。だけどそれなら! 俺は勢いよく、スライディングをかます。地面から浮いてるガイエンの真下を通って背後へ回る。


「何!?」
「俺だってなガイエン、拳一つでお前を倒せるなんて思っちゃいない!!」


 そしてそこに有ってくれるのは、ガイエンに打ち上げられた俺の槍。どうやらガイエンは落ちた所までは確認してなかったみたいだな。
 でもこっちは死活問題だから、それをしないわけ無い。勢いそのままに地面から槍を抜き取り、そのまま反転。俺はスキルを乗せた槍をガイエンに突き立てる。


「ふん!」
「でやああああああああ!!」


 黒い腕と槍がぶつかり合う。その瞬間炎がたぎった。そしてその炎はガイエンの体を焼いていく。


「カーテナは振り抜かないと力は発動しない!」


 そう、ガイエンの腕は途中で止まってる。だから俺の炎だけが奴を包み込んでるんだ。だけどそれでも、ガイエンはその赤い瞳を光らせてこう言った。


「なら、振り抜くだけだ!!」
(なっ……こいつ!)


 いきなり力が増した? 強引に振り抜こうとしてやがる。炎は今もガイエンを覆ってるのに、その影響がまるで見えない。
 どうなってるんだ? 本当に効いてるのか? そんな思いが胸中を渦巻くが、だけど今はそれよりただ押し負ける訳にはいかない。
 けれど……これは……信じられない腕力だ。


「分かるかアギト? これがただのエルフと進化した私との違いだ!」
「それでも俺は……お前の様な外見はごめんだ!!」


 進化ね、どう見ても悪魔契約とかにしか見えないが、このままじゃ結局は振り出しだ。離れたら終わりだと位思わなくちゃいけない。
 これだけの距離なら、ガイエンの絶対領域に入ってる筈だ。そこだけは自分を守る為にカーテナの力が及ばない領域……でもそれはかなり狭い。
 今でも体全体が入ってる訳じゃ無いだろう。でもここに居る事に意味がある。だから離れる訳には……けど、この力押さえきれない。
 どうすれば?


「ガイエ――!!」


 後方から何かしようとしたアイリが、ガイエンの影に絡めとられた。邪魔はさせないってか。赤い瞳が俺を真っ直ぐに見下ろしてる。今度はばかりは逸れる事は無さそう……って、その時あること思いつく。
 そうだ。どんな形でも視界を外せれば、カーテナの力に襲われる心配は無くなるんだ。攻めぎあうこの距離なら、やりようは有る。強制的なのがだ!!
 俺は一瞬力を抜いて、迫る腕を掴んで飛んだ。そして膝をその顔に入れてやる。


「ぐふっ!?」


 そしてその時、どこぞの地面が弾ける。切り抜けた! 着地した俺は、再び槍を振るう。今度は何にも邪魔されずにその黒い体を貫けた。
 それは確かな感触。前の様な影じゃない! 


(ここしかない!!)


 その思いで次々にスキルを振るう。ガイエンの体に幾十もの炎が燃え盛った。けれどその時、たぎる炎の中から黒い腕が伸びてきて俺の頭を掴んだ。
 その瞬間悪寒が全身を駆け巡る。


「おっ……まえ……どうして?」
「どうして? 教えてやろう。それは私が王だからだアギト!!」


 それはふざけた理由だ。けれど、そこには確かに炎の中で笑うガイエンが居る。まさかだが、攻撃が効かないのか? 幾ら何でも、これで無傷なんてあり得ない。
 何か有るはずだ……何か! そうでなきゃいけない。そうでなきゃ、倒せない。俺は白い炎を槍に纏わせて振りかぶる。


「LROの全てはこの脳が頼りだと知ってるかアギト? 体と言う外見は全て無い物に過ぎない。だが……ここだけはそうではない!
 全ての基盤……リアルとLROを繋いぐ強い接点。それを私のこの力で潰せば、直接脳にダメージを与えられるかも知れない!!
 なあアギト! そうだと思わないか? その場合、一体どうなるんだろうな!!」


 ガイエンの言葉に、一際鼓動が大きく跳ね上がった。まさか……そんな事……だけど、セツリやスオウを知ってる分、百パーセント無いとは思えない。
 それに今のガイエンは化け物で、カーテナはバランス崩し、この世界の規格外が揃ってる。何が起きても今やおかしくない。


「ダメェ! やめてガイエン!!」
「そこで見ておけアイリ! 王に逆らう者の末路と、そしてこれが私の王としての本当の船出に成る!!」


 赤い瞳が妖しさ増して輝き、その腕に力が伝わる。本気だ……ガイエンは本気でアギトと秋徒という存在を潰す気でいる。
 怖くて恐ろしい……もしも本当に脳にまでダメージを負ったら、俺は二度と目覚めれないかも知れない。白い炎のたぎる槍が震えてしまう。


 アイツは……こんな怖いことをやってたのか。何で……そう思ったとき、その背中が目に浮かぶ様に見える。すると不思議と、自分が奮い立つ様な感覚が沸いてきた。
 歯を食いしばり、腕にしっかりと力を込める。アイツは……スオウはもしも何て曖昧ですらない! それでも走ってやがる! 
 それなのに俺が、もしもになんか怯えてどうする! 前を見据えてこう思え、やられる前にやりゃあいい!!


「させるかぁあああああ!!」
 

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