命改変プログラム

ファーストなサイコロ

消えない証



「アイ……リ?」


 燃え盛る炎の明かりを受けて、その人影は大きく肩を揺らしてそこにいた。随分無理をしたのか、髪は振り乱れて着ていたドレスの下部分は何故か無くなってる。
 無造作に切り取られた様になってて、むき出しの足はその綺麗な脚線美を泥と土で汚してる。


 でもどうして……いや、何でテツがアイリを連れてくるんだ? 確かテツはスオウの方に付いて行った筈なのに……


「貴様の仕業か。モブリ風情に遅れを取るとは……その短い手足で一体何が出来た?」


 アイリの姿を確認したガイエンが、テツへその腕を向けて言葉を紡ぐ。そこに静かな怒りを乗せて。そして二体居たテツの、ガイエン側の奴がカーテナの力に押しつぶされる。


 だけどそれは幻影? それはテツの得意なスキルの一つだ。て、事はやっぱりこっち側が本物。俺の視線を感じたんだろうテツは、俺に笑顔を見せて勢い良く振り返ってガイエンに言葉を返す。


「見ての通りの事だよ! まあ勿論僕一人では出来ない事だったけど……彼女の勇気がこの道を開いたんだ! 向き合えよ。エルフの王に成りたい男」


 その瞬間、ガイエンが自身の唇を強く噛みしめた。垂れ流れる黒い水滴。あれは……血なのか? まさか……それじゃあガイエンもLROの深みに囚われてる?
 セツリやスオウと同じ状況・・それがどれだけ危険かアイツはわかってるのか? いや、そもそもそれを分かってるのか? 


 ガイエンの奴は自分から流れてる物に目もくれない。自分の体がおかしくなりすぎて、そんな些細な事は気にとめる事でも無いらしい。
 でも……こっちからしたらそれは――


「っつ……きっさまぁぁ!!」
「アギト君!!」


 ガイエンの叫び……そしてテツの呼びかけで俺は横に飛ぶ。その瞬間、地面が抉れる様に陥没した。それはカーテナの攻撃。
 テツの言葉に逆上したガイエンが腕を振りおろしてる。赤い瞳が怒りにたぎり、その白い髪がワナワナと戦慄いてた。アイツの性格上、他の種族……特に小さくてひ弱そうなモブリに得意げにされるのは我慢ならなかったのだろう。


「アギト! ガイエン……もう止めてよ! 何で……どうして私たちこんな事になっちゃったの?」


 離れた場所からそんな言葉を紡ぐのはアイリだ。アイリは整わない息を押し込めて、再びこちらに来ようと走り出す。


「どうして……だと!!」


 だけど、そう呟いたガイエンの一振りでそれは阻まれる。アイリに当たっちゃいないが、その直ぐ足下の地面が、俺達の場所と同じように抉れた。
 ガイエンの赤い瞳が今度はアイリに向けられてる。


「ガイエン……」
「はははは、どうして……まあそうだろうな。お前はそう言うだろう!!」


 ガイエンの腕が再び振り上げられる。ヤバいと思った。奴の視点はアイリに向いてるいる――ってことはあの攻撃はアイリの直情に降り注ぐ筈だ。
 俺は槍を構えて、その炎を槍の左右の尽きだした部分から吹き出させる。


「止めろおおガイエン!!」


 振り卸される腕に突っ込んだ俺の槍が突き刺さる。その瞬間、黒い血液が飛び散った。僅かだが苦痛に歪むガイエンの顔。だけどその瞳は直ぐにこちらに向いた。


「アギトオオオオ!!」


 もう一方の腕が真っ直ぐにこちらに向かってくる。カーテナとかそんなの関係なしに、俺を殴り付ける気だ。だけどそれでもその力は付いてくるだろう。


「っつ!」
「やらせない!」


 回避は間に合いそうに無かった。だけどテツがガイエンの腕を蹴り上げてくれる。流石は俺の知る中で一番頼りになる奴だ。
 モブリなのに「可愛い」じゃあ無く「格好良い」と思える逸材だ。俺はこの間に槍を引き抜いて更にガイエンに迫る。


「お前! 今何しようとしやがった!! アイリに何を向けた!!」


 槍を素早く左右に振ってがら空きの胴体を切り裂く。だけどさっきと感触が違う……まるで影の様で、手応えが無い。
 血も飛び散らず、槍が通った後が煙の様になってるだけ。そう言えばこいつ、自身も影に出来たんだっけ? 厄介な。


「何を? この力で押しつぶそうとしたんだよアギト!!」


 その瞬間、正面からドデカい衝撃を受けた。何とか槍で受けたが、体ごと後方へ押しやられる。


「アギト君!」
「大丈夫……テツ来るぞ!!」


 何とか着地に成功した。多分攻撃を受けた瞬間に飛んだのが逆によかったんだろう。あの力は耐えられる物じゃないからな。
 でもガイエンの傍に一人残ったテツがピンチ……と思いきや、あの小さな体と豊富なスキルが役立ってた。無数のテツにワラワラと押しよられてガイエンはやりにくそうだ。
 そういえば、カーテナの特性上あれは近接戦向きじゃないもんな。


「煩わしいゴミが! モブリ風情が飛び回れると思うなよ!!」


 そう言ったガイエンの足下が揺らめいてる。アレは……


「テツ! 離れろ!!」


 その言葉でテツ本体がガイエンの傍から素早く飛び出した。そしてその瞬間。足下から伸びてきた無数の黒い針が、その場に残ってた分身たちを串刺しにしていく。
 やっぱりアレか。テツは知らないだろうが、俺達はその力を見てるから先に動けた。きっと声を掛けなかったら、テツもあの分身と同じ状況だったろう。


「なっ……注意するべきはあの腕だけじゃないってことだね。助かったよアギト」
「いや、これで貸し借りなしなだけだろ。てか、何でお前がここに来るんだよ? 今更だけど……」


 ずっと疑問に思ってた事をここで聞いてみた。串刺しになってる沢山のテツの前で、テツ本体に言葉を掛けるってのは何だかシュールな光景だ。


 だけどそんな思いも、分身たちが消えていく事で解消される。俺達はガイエンから目を離さずに、会話を続けた。


「それはスオウ君の指示だよ。彼が親友の為には彼女の解放が必要だと言ったんだ。それでノウイ君と共に彼女の捜索と救出に向かった訳だけど……ノウイ君はその戦闘でね。
 悔しいが二人ではどうにも出来なかったよ」
「そうなのか……アイツ……自分だって大変な癖に戦力削りやがって……大丈夫なのかよ? それにそれじゃあテツ達はどうやってここまで来れたんだよ?」
「それは――」


 俺達はその瞬間、再び身構えた。何故なら、ガイエンの周りから湧き出た黒い針。それが大量に奴の周りを回りだしたからだ。
 きっと何かやる気……だから悠長に会話を続ける事は出来ない。でも、良いこと聞けたよ。スオウの奴のバカさ加減とか、他にがんばってくれた奴の事とかさ。


 向こうも向こうも大変だったって事は分かった。アイリは一体……何を決意してここに来たのかは分からないが、アイツも何かを乗り越えた事は間違いない。
 あんなボロボロのアイリは、本当に久しぶりだしな。昔はもっと良く、一緒に泥まみれになってた……そうガイエンも一緒にさ。
 黒い針はガイエンの周りを波を打って回ってる。その中からガイエンは唐突にこう言った。


「何をしてる親衛隊! アイリを確保しろ!」
「え?」


 呆けるアイリに白い甲冑が迫る。てかアイツ等、カーテナの力に巻き込まれて無かったのか。そう言えば後ろでカンカンやってた気がする。
 それならセラ達もきっと無事だろうだから良いんだけど、まさかそうきたか。ガイエンの奴、この後に及んでまだ……だけどそれだけ諦められない思いがあるって事だろう。


「ちっ、逃げろアイリ!!」


 俺はアイリの方へ駆け出そうとする。だけど俺の頭上を越えて黒い針が伸びてきた。


「アギト君!」


 その声で振り返ると無数の針が迫り来てる。どうやらガイエンの奴は俺達をアイリの所へ行かせない気の様だ。


「ガイエンッ! こんな事したって、アイリがお前の物になる訳じゃない!!」
「お前が私に上から物を言うか? いや、アイリの事に関してだけはお前はいつもそうだった。だがそんなの関係ないな!
 私が欲しいのは道具としてのアイリだ! この仮想の夢に、お前達は一体何を幻想してる!!」


 勢い良く降り注ぐ無数の針。これじゃあ、アイリの所になんて向かえない。カーテナも厄介だが、これはこれで……いや待てよ。
 ガイエンの奴は別に同時に力が使えない訳じゃないんじゃないか?
 何の為に腕が常に空いてるんだ。ガイエンを見ると、イヤな笑みを浮かべて、案の定腕を上げている。


「テツ! デカいのが来るぞ!」
「ああ、そのよう――だ!」


 俺達はその瞬間に別々の方向へ飛ぶ。何とか避けれたが、どうやら針は俺達を逃さない様だ。更にまだまだガイエンは腕を構えてる。
 これはアイリの所へ向かう場合じゃない。気を抜いたらこっちが串刺しか、押しつぶされる。だけど……それでも気になる。


 どうにかして……その思いが無いわけない。だけどそんな俺に気付いたのか、テツがこんな事を言った。


「大丈夫だよ! 彼女はそんなに弱い人じゃないだろう? それは君が一番知ってるはずだ。それにここに居るのは僕たちだけじゃない。頼りになる仲間が居るよ。だから僕達が見つめるのは彼でいい!!」


 そう言ってテツは腕を振りかぶったガイエンを見つめる。もの凄い風圧が肌に当たる中、その力の向かう方向にはセラ達が居た。
 そして粉塵とともに爆音が響く。直撃……そう思った。だけどセラ達はその粉塵の中から飛び出して親衛隊に向かってる。


 それはアイリを守る為……既にみんなは動いてくれてる。自分だけじゃない……みんながやれる事、出来る事に必死になってくれるんだ。
 なら……今の俺に出来ることは……


「ガイエン! お前の相手はこの俺だ!!」


 迫り来る黒い影の針を打ち払い。炎を纏った槍で真っ直ぐにガイエンへ向かう。すると更に影を広げ、腕を掲げるガイエンが俺に向かってこう言った。


「良いのか? 親衛隊は強いぞ! 貴様の仲間ではアイリは守りきれん!!」
「そんな事無い!! 加護も何も無くたって、セラ達は弱くなんか無い!! お前だってそれを知ってるはずだ!!
 俺を闇から引っ張り上げてくれたのはアイツ等なんだからな!
 そしてお前も親衛隊も、それを防げなかった! それが事実だろ!」


 そう、だから俺はここで走れてる。もう一度……そのチャンスを貰えたんだ。ふがいない俺に、諦めずに期待してくれたその心が、セラ達の強さの証。
 その時、同じ場所でガイエンの攻撃を避け続けるテツが俺の言葉の後に続く。その表情に妙な自身を見せてだ。


「ああ、彼らが繋いでくれたんだこの時を! それになガイエン。彼女自身の力をみくびらない事だ!」
「くくく……はぁーはっはははは!! そんな力は有りはしない! カーテナを取り上げられたアイツは平民だ。何も出来ない! 何もなせない! それが飾りの姫人形の正体よ!!」


 ガイエンの高笑いが、赤が混ざる夜の空に響いた。そして俺も、実際不安は隠せない。だってアイリは何も装備してないんだ。
 ここに来るまでに、テツから武器の一つでも渡して貰えば良いものを、本当に何しに来たんだよ。戦闘を進んでさせる気なんて無かったけど、戦場に向かうのなら最低限身を守れる装備は用意するものだろ。
 何が起きるかわからない訳だし……アイリは絶対に狙われるってわかってる事だ。


 まあ、俺が遅すぎた……ってのもあるんだろうけど、そこは弁明の余地も無いから勘弁だよ。本当はさ、もっと格好良く颯爽と騎士らしく助けたかった。
 女の子が憧れる様なシチュエーションを作ってみたかった。スオウみたいにさ。だけどどうやら俺にはそれは柄じゃないらしい。


 俺はいつだって遅すぎる。本当にどんだけ待たせるんだよって事だ。とうとうアイリをここまで来させて……情けなさ全快。
 けど……だけど……どうやったってその無事な姿に安心した俺は居るわけで、そしてアイリの目がこっちを見てるのなら、負けることは許されない。
 影の針と、両の腕から繰り出されるカーテナの力から逃れる。それだけで実際一杯一杯だが、そんな中ガイエンの高笑いにもう一度テツが冷静に言葉を返す。


「なら、彼女の力をその目で確かめてみるんだね」


 その妙な言葉。それのせいだろう、妙な間がその時広がった気がする。そして俺もガイエンも視線が自然とそこへ向く。
 乱れた髪が風に靡き、裾も破れてボロボロだけど、不思議とその佇まいに気品を残すアイリへとだ。白い甲冑を纏った親衛隊が一斉にアイリへと向かってる。


 セラ達も追いかけてるけど、足止め出来るのは後方の奴らだけで、しかも数は親衛隊の方が多い。さらには親衛隊はガイエンによって加護を受けてる。
 それによってセラたちに掛ける数は少数だ。アイリはあっと言う間に囲まれてしまう。


「ガイエン様を煩わせないで下さいアイリ様。貴方はただ籠の中に居れば良いんですよ。それが人形の役目でしょう。
 持ち主に愛でられる様にそろそろ理解しましょうよ。そうしないと大変ですよ。我々はあの方の傍らに貴方が選ばれてる事を、必ずしも快く思ってる訳じゃないんですから!」


 親衛隊の一人がアイリに向かって武器を構える。その言葉から察するに、抵抗するなら多少の攻撃は厭わない……そういう事だろう。


 だけどそれを堂々とガイエンが居る前で言うとはな。それに対して当のガイエンは何も言う気は無いらしい。つまりはアイツの言葉を容認したって事か。
 そしてそんな言葉を受けたアイリは黒く成ってる親衛隊の面々を見つめて呟いた。


「……そうなの? 私はガイエンに選ばれてるの? フッケル君……私はその言葉を信じて良いの?」


 アイリが唐突に出した誰かの名前が俺はわからない。けどその反応は直ぐに返ってきた。少し伏せた目のアイリに、僅かに苛つく様な反応がさ。


「信じて良いか……だと? いいや、どうして自分の名前を……」
「知ってます。貴方だけじゃないですよ。右隣の人がザビエル君で、その隣がナポレン君です。左側はオバッチ君で、そのまた左がクレパンさん」


 次々と名前を挙げていくアイリ。その度に、僅かな反応がここからでも見て取れた。それはつまり当たってるって事だろう。
 まさかアイツ、全て……って訳はないだろうけど、軍に入ってる人達の名前は覚えてるとか言う気か? そしてどうやらそんな考えに親衛隊も至ったようだ。


「まさか、全員の名前を覚えてるとでも?」
「はい。お飾りの私が出来た事。迷惑かけてばっかりだった私が、この国の為に出来ることはこれだけだったから。私はずっとふさぎ込んでました。
 そんな私は、頑張ってくれてる誰もに感謝してたから……だからみんなの事を、ちゃんと覚えておこうと思ったの。いつか『ありがとう』を返したかったから」


 澄み渡る様なアイリの声は、一体親衛隊のどこまで届くのか……一瞬でも沈黙したこの状態は、それがある程度は染み込んでると思っても良いのだろうか。
 それにアイリの奴は本当に……良くやるよ。アルテミナスの誰が、お前を責めるんだ。今目の前に居る奴らは、凄い極小派なんだ。


 だけどアイリは、幾ら否定されたってそれでも切り捨てるなんてしない。目の前の奴らとだって、向き合って話してる。
 けれどそれでも、やっぱりと言うべきか再び親衛隊は動き出す。


「はは……それがどうしたと? ふがいないと自覚してるのならアルテミナスのためにその位置を大人しく譲ればいい!! 
 ガイエン様なら、もっと強く強大で盤石な国を作り上げてくれる! 侵略戦の後の勢いを強引に断ち切った貴方とは違ってね!
 結局貴方はその場所が惜しいんですよ! 惨めにも居座って、国を弱らせたのは貴方なんですよ! それなのに、返すのは『ありがとう』だけ? 
 甚だ笑える思考回路をしてますよ!! お遊び……そう思わずには居られない! 高見に昇れたオモチャは手放せないものですよねアイリ様。
 たまたま選ばれただけの癖して!!」
「アイツ!!」


 腹から煮えたぎる思いが掛け上る。言わせて置けばって奴だ。それにアイリがそこに居続けたのがお遊びで、オモチャだと!?
 どんな思いでアイリが居たかなんてお前に語られたくない。その口で! その軽い言葉で!


 逃げ出した俺が言える事では無いのかも知れないが、それでも許せない事はある。俺は反転して駆け出そうとした。
 けどその時、俺の直ぐ横の地面が左右とも同時に吹き飛んだ。


「また死ぬぞアギト。良いじゃないか、確かにたまたまだろ? アイリをカーテナが選んだことは」


 両腕を降り下ろしたガイエン。脅しのつもりかよ。流石にそろそろ、この音にも衝撃にもイチイチ反応はしてられないぞ。
 それに当てるつもりなら、こいつは容赦なく当てるだろう。それをしなかったって事は、今はアイリが追いつめられてる姿を堪能でもしてるとか。


 化け物じみたその姿で、人を追いつめたいとか悪魔だなこいつ。それにガイエンも、間違った事を言った。自分でも分かってた筈の事を否定しやがった。
 俺は巻き上がる粉塵の中、振り返ってガイエンを見据える。


「たまたまだって? お前本気でそんな事言ってるのか? あの親衛隊のバカは何も知らないから別段、間違った事を言ったって流してやるよ! しょうがない事だ。知らないんだからな!
 だけどお前は違うだろう! あの日、あの場所で起こったこと全てを体感してる。だから分かる筈だ。いや、分かってる筈だろガイエン!
 あの時、カーテナがアイリを選ぶのは当然だった! あれはきっと必然だ。俺たちはそれを受け入れただろ。たまたまなんて訳ない!
 カーテナはアイリが自分自身で掴み取ったんだ!!」


 燃える様な思いで俺はそうガイエンに告げる。本当はこいつ、自分の姿や認めたくなかったこと、そんな事とかから目を逸らしてるんじゃ無いのか?
 平気そうな面をして歩いてる……それがガイエンだから……今ならあの頃は分からなかったそんなガイエンの事が分かる気がする。


 何となくだけど……アイツはもう戻れないんじゃ無いのか? 立ち止まることも、悩むことも止めた。突き進む事は自分を信じきる事でやってきたこと。
 だから……止まり方を忘れてる。
 ガイエンは大きく両腕を高らかに掲げた。そして強調するのは球体の中心に据えられたカーテナだ。


「だが! そのカーテナはここにある! 私自身の中にな! これが必然だよアギト! カーテナは私自身に力と共に溶けていく!
 この感覚……馴染みよう。カーテナも喜んでる様だとは思うだろう」


 ガイエンのそんな言葉と共に、黒い影が空へと立ち上る。その光景に親衛隊が声を上げた。


「「「おお!!」」」
「あれが我らの望んだ王! 自分の無力さがわかるでしょう? カーテナは最早貴方の手から放れたんですよ。価値のない人形をそれでも愛でようとしてくれるあの方に、早く頭を下げる事です」


 赤い夜はそれでも次第に黒が多くなって行ってる様に見える。轟々と燃えてた周りはカーテナの影響か、炎のたぎりが弱まってる。
 そんな中、僅かに照らされたアイリは首を振る。


「それは……出来ません。私はふがいない王だけど、何も出来ないと思ってたけど……教えてくれた人が居ます。私が王で居て良いと言ってくれた人。
 勇気を振り絞ってそれを伝えてくれた人。その人によると、私にはまだ沢山の思いがこの背にあるの。だから……何も投げ出しません!
 それが王の責任だから!!」


 力強い言葉。そしてアイリは片腕を前へ突き出した。


「私はアイリ・アルテミナス……それはまだこの国の王。その証を今見せます。親衛隊、貴方達を私は騎士とは認めません!」

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