命改変プログラム

ファーストなサイコロ

集う思い

 目の前で収束……そして膨張した黒い塊が、音と言う音を飲み込んでいく。そう感じた――だけど違う? ガイエンが放った黒い球体は収束して膨らんだんだ。
 それは一種の爆発とかと同じだったのかも知れない。音は飲み込まれたんじゃない、一瞬の内に吹き飛ばされたんだ。


 気付かない……気づけない程のエネルギーが俺たちの周りを僅かな静寂に変えていた。親衛隊どもの動く足音も、俺たちの叫ぶ声も、炎がはぜる音も消えている。
 有るはずの音が消えた世界はなんとも不気味だ。周りのみんなが何かを言っている……けどそれも聞こえない。向かってきた親衛隊の一人と武器がぶつかって衝撃は伝わって来る。


 けれどその音は無いんだ。何だかスゴくやりづらい。拍子抜けする感じなんだよな。でも音が消えただけで、他の全ては変わらず有るわけだから、やっぱり気が抜けない状況の筈なんだ。


(アイツ……こんな事してどういうつもりだ?)


 率直に俺はそう思う。確かにやりづらいし、調子も勢いも狂う感じが有る。でも、それがガイエンだと似合わない。だってアイツが、こんな回りくどい事をやる必要が有るのか?
 アイツならもっと派手だと思う。こんな音だけって地味過ぎるんんだ。ガイエンの所業にとってはさ。でも実際にこれはガイエンがやったこと。


 それを俺はこの目で見てる。アイツが作り出した球体が、広がってこういう事態になってるってさ。音を奪ったこの空間にどういう意味があるのか……そこには、必ずアイツが求める何かが有るはずだ。






 不思議な戦闘は続いてる。だけど音が無いことでの不協和音が俺たちには早くも出始めてた。発した筈の声、放たれる攻撃の大きさ……それらの音が無いことは、周りを知る為のピースを欠いたよな状態だ。


 それは結構煩わしい物だった。だって俺達はもう一人だって欠ける事は出来ない。だからこそいろんな気遣いや、周りを気にかけるって事が常に必要になってくる。
 けど……音ってのは取り合えず、最初に意識に届く物なんだ。その最初が奪われると、更に気を張って常に周りをみないとどうなってるのか全然分からなくなってしまう。 大きい音がどこかから聞こえれば危ないのかも知れないと思って、そっちを見るだろう。けど今はそれすらも出来ないんだ。


 『意識』……それを忘れると、いつの間にか自分一人にでもなっていそうな状況だ。音がない世界は、気合い一つも入りづらい。
 もっと殺伐としてる筈の今のこの戦闘も、味気ない物になってるよ。音がどれだけの情報量を持ってたのか今ならよく分かる。


 そして言葉の重要性も。伝わらない事と、何も伝わって来ないのは怖いことだ。意志疎通が不便でならない。開いた口は、形を変えてただパクパクと陸に上がった魚みたいになってるだけ。
 至る所でそんな状況が見られてる。それに目の前に敵も居て、危ない戦闘を繰り返してる筈なのに……おかしな感覚に時々、不意に陥る。


 それもきっと、この世界が全くの無音だからだろう。人は音がないと、どうあったって孤独を感じるのかも知れない。
 槍と剣を打ち合っていても、不意にその敵が消えるんだ。そして誰もいない空間で、俺だけがどこかへ向かって槍を打っている……そんな錯覚に陥る。


 仲間が居て敵も居るはずなのに感じる孤独……それはとても混乱する感覚だ。一人じゃないと言い聞かせても、音の一つもないと、存在って物を実感として感じれないんだ。
 だって全くの無音なんて、リアルにはあり得ないんだからな。どんなに静かに感じても、耳を澄ますば何かは必ず聞こえるだろう。


 風に揺れる木々の揺れ……虫の声……そばに誰か居るのなら、呼吸を繰り返す音とか、生きてる事を表す行動ってのは音を作る物だ。
 そして生きてる世界に音は必然的に生まれる。けどそれならここは……音の無い世界は、何も感じれない。一定以上に熱くなれない……それなのに、孤独を感じるとき一気に熱が下がってくのが分かる。


 それでもみんなこれが今俺達に起こってる現実と、言い聞かせて気を張って戦ってる。でも……元から差があった力の均衡。
 信じる者は救われるとも、気持ちだけで世界が上手く回り出すとも俺はスオウほど信じちゃいないが、それでも人と人が集まったとき、そこには蓋が出来ない気持ちが溢れ出すと思うんだ。


 そしてそんな限りの無い気持ちが、埋める差ってのもある。それを俺は知ってるし、それを使わないとそもそも俺達に勝利は吹かないんだ。
 だからこの状況はとてもまずい。良くない。気持ちが入らない戦闘は、その差が次第に顕著に出てきてしまう。そしてそれは今この瞬間も広がってる。


「くっそ……から回る。上手く連携も取れないし、このままじゃ追いつめられる一方だ。
 こいつらは、個人戦のつもりで好き勝手攻めてるみたいだし……強引なのに、加護の力でそれが出来てる」


 それに親衛隊は個別で戦ってる気で最初からいるからか、音が無いのも気にしてない風に感じる。どうやっても向こうが多いことで、こっちにとっては一体多数になるし、悪いことだけが積み重なっていく感じがする。


 視線を横に向けると、苦しそうな顔をしてるセラが何かをやっていた。それは音が無くても超分かりやすい意志表示だ。
 セラが指さす先にはガイエンが居て、その指を首の所で横にスライドさせる。その意はきっとこうだろう。


『アイツ、殺るわよ』


 もしかしたらもっとソフトな表現かも知れないが、大体有ってるだろ。目も結構危なげに怒ってる感じだし、セラとなら簡単な会話は目で出来るさ。


 意志疎通が上手く行ってるかは別にして……だけど。でも今回は間違える筈もないし、このままじゃダメだと自分でも思ってた。
 けど一人じゃこの親衛隊の壁を抜けるのは難しくてさ。別々に戦ってても親衛隊はそういう状況を利用する戦いやってるから厄介なんだ。


 協力……じゃなく、奴らの場合は仲間の行動を利用して、常に自分が止めの一撃を入れる役を狙ってる……そんな感じ。
 だからこっちにとっては嫌な所々で粋なり別方向から攻撃が来て、結果的には厄介な事になってるんだ。けど二人でやるなら、上手く出来るかも知れない。


 まあ相手する敵の数も単純に倍増だけど、物理的に一人じゃ不可能な事ってのが有るんだ。そんなジリ貧続けるくらいなら、俺は信じれる仲間と賭に出る!
 俺は親指を立ててそれをセラに示した。その意は万国共通でこうだろ。


『やったろーぜ!!』


 するとセラの口元がわずかに綻んだ。そして直ぐに行動は開始された。打ち合わせも何もない。ただセラは、自分の役割を自分で決めていた。
 もの凄い早さで組みあがった等身大の手裏剣。それをセラは対峙してる親衛隊共に向かって投げる。金色の胴体に同じ色の光を帯びて、向かい行くそれを奴らはいともたやすくかわしていく。


 そして武器を手放したセラは大ピンチだ。けれど、助けに行こうにも、こっちはこっちで対峙してる親衛隊がいるんだ。易々と背中を向けられない。


「ちっ……セラもどういうつもり何だよ」


 武器を手放すなんて自殺行為だろ。それに簡単にかわされてたし……けどそれはセラらしくない。そう考えた瞬間、セラを見ると囲まれた中でもその微笑は無くなって無かった。
 それで確信出来た。


「何かある……か」


 口に出したって声には成らないだから、俺は心の言葉をずっと口に出してる。独り言っぽいけど、それでもこう成った空間じゃ、自分だけでも自分の中で音を出しとかないと気が滅入るんだ。本当に。
 俺は小さな針の様な物だけで、親衛隊と向き合うセラから一端視線を外した。セラが武器を投げた以上、俺がここを突破するべきなんだろう。


 けど、想像以上に親衛隊は強化されてた。加護の力ははんぱなく厄介だと、向かい合って理解したよ。はっきり言って防戦一方だ。数でも力でも不利で、こんな奴らをあれだけ沢山相手にしてたセラ達の方が大変だったんじゃないかと思う。
 まさに量を取るか質を取るかの問題だったわけだ。量は数と加護の親衛隊で質はカーテナと融合したガイエン……本当にどっちもどっちだったな。


 こぼれない愚痴を思いながら、親衛隊の猛攻をしのぎ続ける。奴らは加護のおかげか、幾ら動いても息切れ一つしやがらない。
 それに比べて俺は……重い奴らの攻撃を受け止め続けるだけで体が軋むような感覚が襲うんだ。その時、先のカーテナの攻撃で壊された建物の破片を踏みつけてバランスを崩した。


「しまった!」


 傾いた重心を戻す為にバランスを取って足を踏ん張る。けどそのハプニングを親衛隊が見逃す筈もない。炎の明かりに照らされて怪しく輝く鉄の光が、俺をめがけて真っ直ぐに伸びてくる。しかも狙いは頭部……ダメージ補正がクリティカルになる場所だ。
 HPが完全じゃない今、それはどうしても避けたい。だって加護で強化された攻撃のクリティカルなんて……下手をすると最悪のことが起こりかねないと思うんだ。


 だけど俺は動けない。重心が傾いて、それを立て直そうとしたせいで、ここから更にもう一動きは人体の構造上難しい。
 眼球に迫り来る剣先。覚悟を決めて、最悪の事だけが起こらない事を、俺はただ願うしか出来ない。苦しい位に呼吸が速まってた。


 だけどその時その瞬間、攻撃が入る事を確信してた親衛隊の喚起の笑みが強ばった。そして一気に失速して俺の目の前で倒れていく。


(一体何が?)


 すると倒れ行く親衛隊の背中にある物が見えた。それはさっきセラが手放した武器……アイツの背丈程ある手裏剣。それが親衛隊の背中に刺さってるんだ。


「アイツ……」


 本当に対した奴だよまったく。そう言わざる得ない。この為か……元から狙ってたのは自分の目の前の敵じゃ無かったんだ。
 だからあんな簡単にかわされた……いや、かわさせたのか。この為に。でもそれはまだまだ早すぎた評価で低い物だったとセラはしらしめる。
 何故なら、攻撃を受けた親衛隊はその程度の一撃でやられもしないし、後の数人もまだいたからだ。そして最後のタイミングを掴んでた奴のボロに残りの奴らも動く。


 目の前にいるのは、俺と言うこいつらにとってはきっと極上の獲物。誰もが俺の首に群がってくる。でも手裏剣を受けた奴も倒れる体を支えて、一番近くで剣を再び振るおうとしてた。
 俺の束の間の安堵感は一瞬しか保たなかった。親衛隊の赤い瞳がギラついて迫る感じはピンチの証明だ。最初に突進して手裏剣を背中に受けた奴と、その直ぐ後ろから更に三人位が止めの一撃を準備してる。
 あの一瞬のロスで態勢は戻ったが、それでもこれだけのスキルを捌くのはかなり無謀だ。


「でも……それでもやるんだ! 俺はここでお前達に邪魔されて終わる訳には行かないんだよ!!」


 音に成らない叫びを発して俺はまず、一番近くの奴の攻撃を槍で受け止める。
 でもこれじゃあ今までと変わらない事の繰り返し。そう思い、他に迫る三人を見据えてどうするかを思案する。でもこの時には既に、三人は攻撃モーションに入ってた。


 今度こそ避けられも防げれもしない状況だ。するとその時、親衛隊の背中に刺さる手裏剣がその場で分解……弾けた。


「「「「!!!!」」」」


 声は聞こえはしない。何故ならここは今、無音の世界だからだ。だけど親衛隊の奴らの驚く顔は分かった。そしてそれはきっと俺もだろう。
 本当にもうダメかと思った。でもコレこそが本当のセラの狙いだったのかも。弾けた手裏剣の部品は全て細いワイヤーみたいなので繋がれた。


 そしてそれは、あたかも蜘蛛の巣の様に、向かってきた餌を絡めとったんだ。親衛隊全員を余すことなくな。手裏剣が刺さってた奴も例外無く、セラの武器は親衛隊を拘束してた。


「まさかここまで……」


 セラの凄さに自分の中で少し笑いが漏れる。蓑虫状態になった親衛隊は、それでも長く拘束出来そうも無いんだろう。急いだ方がいい。
 俺はもう一度セラに視線を移す。すると向こうはとても大変そうだった。流石に細い針だけじゃね。だけど一瞬だけ目があって、ウインクした様に見えた。


 それは「大丈夫だから」とか「行って!」とかの意味が含まれてたに違いない。数で負けてる俺達はそれぞれ複数を相手にしてた。だからこそ、俺の相手全員を捕まえる事をセラは最初から考えてたんだな。
 本当に……今度こそいいよな? 俺は視線の先のガイエンを見据えて地面を踏み込み走り出す。そして叫んだ。


「大した奴だよ!! セラ、お前は!!」


 絶対に聞こえないと分かってるから叫べる事。体全体に当たる風が次第に激しさを増していく。スピードは徐々にあがり、ガイエンに辿り付くまでにはマックスだ。
 それにしても、何だかやけにガイエンが静か……な様に感じる。音がないって意味じゃない。こいつさっきから動いて無くないか?


 あの球体を放つまでは一つ一つの動作も大げさで、うるさい位だった筈だ。何でこいつは音を無くしたんだろう? その理由と関係があるのだろうか。
 この状態の意味……それは? その時、ガイエンの黒い腕がこちらに向けられた。


(カーテナが来る!)


 そう思った。だから俺は横に飛んだ。防ぐとか受け止めるとかが馬鹿げた発想に成るほどの力だ。今の状況で、それを一発でも受ける訳にはいかない。
 地面を勢いよく転がる俺。でも何も起きない? けど数瞬遅れて、その衝撃は風を運んできた。それは壁にぶつかられた様な風だった。


「うお!! ちっ」


 止まったらダメだ。後ろも気になるけど、今は前だけ見るべき。セラが作ってくれたこのチャンスを無駄には出来ない。
 だけどガイエンはその顔に、不気味な微笑みを称えて次々と拳を突き出してくる。その一つ一つが桁外れな力だ。それに音が無いことがここで更に厄介なんだ。


 いつもならその力の大きさに音くらいする筈なのに、完全に無音で迫る力という無色透明な化け物はタイミングが計りづらい。
 それに後ろにどれだけの被害を出してのかも分からない。もしかして今まで手を出さなかったのは、親衛隊の為? とか考えていたけど、こいつのこの遠慮のない攻撃でそれは無いなと思った。


 だってわざわざ力を直進させるだなんて、俺の後方で戦ってる親衛隊を巻き込めかねない使用方法だ。カーテナならその場所にピンポイントで力を落とせるだろうに、わざわざそう使うなんて、仲間がどうなってもいいのか?


 俺はガイエンの腕の動きだけを見て、紙一重でその攻撃をかわして前へ進む。カーテナの範囲は学習済みで、振り切った時に、その力が発動されるのは分かってる。
 だから奴の腕が真っ直ぐに伸びきる少し前に、俺は重心を移動させてる。伸びきった直後の移動じゃ、カーテナの攻撃範囲からは逃れられないからな。


 ぶつかる風が、その力の強大さを物語ってる。本当は今直ぐにでも振り返って後ろを見たい。みんなが無事か確認したい……けど、それをしたら足が止まってしまうかもしれないと分かってた。
 だから俺は、必死に前だけを見つめ続ける。


「ガイエン!! これ以上……やらせるかぁ!!」


 右腕の力を避けた直後に左腕が伸びかかる。でももう目の前だ。俺は槍で地面の土を掘り返して、ガイエンの顔面にぶつけた。
 用は目潰しだ。そしてそんな原始的な攻撃は案外効果的だった。しかめっ面になるガイエン。泥を落とそうと一度顔を背けたここが大チャンスだ!!


 槍に炎が纏う。潰された目でも、そのまま腕を振るおうとするガイエン。だけどまずはその腕を切り裂き、そこから炎で焼く。これ以上、無闇やたらに被害は出せないんだ。
 そしてその勢いのまま、俺は更に踏み込んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺はそんな雄叫びをあげている。炎は更に勢いを増して、俺とガイエンを照らす出す。切り落とした腕はどうせ再生するんだろう……けど、今この一瞬では間に合わない!
 俺の槍がガイエンの胸に突き刺さる。そしてそこから勢い良く夜空に向かって火柱が一本、伸びて行く。するとその火柱が何かを突き破った。そしてその瞬間――


「くくく、アギト……やってくれたな」


 ――そんなガイエンの声が俺の耳に届いた。砕けた何かはこいつが張った、あの黒い球体の結界か。


「目潰しとは、随分小物らしい事をやるじゃないか」
「それがどうした? 卑怯だなんて言わせないぞ! それに俺は小物何だから何も問題なんてねーよ!」


 ズボッとガイエンの胸から槍を引き抜く。そして続けざまに他の場所へも槍を切りつける。自分が大物なんて思ったことなんてない。
 そうならないと置いて行かれると焦った事はあったけどな。でも、無理だった。結局俺は小物くらいが良く似合うんだ。でもそれはガイエンもそうだと思うんだけどな。


 小悪党ぐらいで止まってれば良かったんだ。でもガイエンはあらがった。そして求める夢は余りにもでかい。
 赤い炎がガイエンの体を焼いていく。今までこれほど攻撃が通っただろうかって位に入ってる。でもまだまだだ。何故か上半身は裸の筈のガイエンなのに、HPの減りは異様に悪いんだ。
 そしてそんな奇跡の様な時間は長くは続かなかった。どこかから伸びてきた黒い影……それが俺の足と腕に刺さって動きを止めた。


「っつ! 何で音を消したんだ? あれに意味はあったのか?」
「……どんな強者にも、弱る心はあるだろう。まだ私は完全ではないからな。そんな時に、世界には煩わしい音が有りすぎる……そう思っただけだ」


 それってつまり、言葉が自分を迷わせるとかそういう事なのか? だから音を消した。聞きたくない事が耳を突かない様に?
 案外答えてくれるんだな。動きを封じられて、苦し紛れに言った事だったんだが、思わぬ収穫かも知れない。ガイエンはまだ聞く耳を開けてくれてるんだからな。


「お前、それのどこがダメなんだよ! 煩わしい……そう感じるのは、お前の心を突くからだ! 俺はさっきの空間でよくわかったよ。
 共感も否定も、嬉しくも煩わしくない世界なんて、ただつまらないだけだってな!! そうだろガイエン!」


 俺は必死にガイエンが言う煩わしい音を発し続ける。だけど、眉をつり上げたガイエンはその拳を目の前で握り出す。


「思い上がるなよ小物風情が。神となる私にはお前の羽音になど耳を傾ける暇などないんだ!! 今度こそその口を閉じて、この世界から出て行け!!」


 振りかぶられる拳。その拳には黒い物が纏ってる。あんな物、この距離で食らったらヤバ過ぎる。だけどそれが分かってても、防ぐ手段はない。
 黒い影は俺の手と足をがっちりと固定してる。


(折角みんなのおかげで、もう一度立てたのに……ここまでなのか? また俺はガイエンに負けるのかよ。そんなの……そんなの……)


 迫ってくる黒い腕。この距離なら、拳は俺に到達するだろう。ならその衝撃まで加わるのか……それでも、俺は僅かでもHPが残る事を信じて歯を食いしばる。
 だけどその時、二つの小さな影が炎を突っ切って飛んできた。そして一つはそのままガイエンに攻撃。もう一つは素早く俺の拘束を解いてくれる。


「間一髪って所だな」
「テツか? なんで……」


 現れたの二人のテッケンだ。こいつは確かスオウの側だった筈じゃ?


「くっ、煩わしいゴミが!!」


 そう言ってガイエンが腕を振る。巻き上げられ大量の粉塵と陥没する地面。だけどそれが晴れたとき、更に信じられない人影がそこには居た。


「はぁはぁはぁ……アギト、良かった」

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