命改変プログラム
天扇の行方
左側に五本、右側に六本の氷が羽の様に展開してる柊。雲が分厚く掛かってる空からの僅かな光でも、それらの氷の翼は自身の内から光を生成してるかの様に僅かに淡い光を発してる。
本当に、もしもあんなスキルが存在してて、そして誰かがそれを使うところを普通に見たら、きっとその綺麗さに見取れてたと思う。
それぐらい、術者を神秘的にする力があの羽にはある。けど、今の僕たちにはそんな事許されない。何故なら、足を止めた時が自分達の最後に成ると分かってるからだ。
言葉を押し潰した羽の次弾の攻撃……それを転がりながらかわした僕だったが奴の羽は後、左右に合わせて十本残ってた。
そこから僕へめがけて打ち出される氷柱の雨も、同質量の攻撃も待ってはくれない。だからこそ、足を止めてはいけないんだ。
避けて逃げてさばいて防ぐ……結局最後の防ぐは追い込まれた結果だった。嵐の用な波状攻撃に自慢のスピードも追いつかなかった。
そして二刀流は両手に武器を持ってる分、それだけで防御が薄い。いや、例え盾を持ってたとしても、柊のあの企画外の羽を止められたと思えないか。
シルフィングで上手く受けたとはいえ、あの力に体が耐えられない……一瞬で僕の体は空中に投げ出されてた。
「っつ……」
腕が異様に熱く感じれる。でも不思議な事に、腕に目をやると霜の様な物が見えるんだ。それはシルフィングにも同様にあった。
「これって――って、ヤバ!!」
僕は考えを途中で切り上げた。何故なら地面から狙いを定めた羽が迫ってたからだ。本当に執拗に僕ばかり狙いやがって……マジでこの扇が必要みたいだな。
僕は懐にしまった扇の存在を確認しつつ、迫り来る氷の翼に体を向ける。けどここは空中……自由が利くとは言い難い場所だ。あれだけの翼をどうやってやり過ごすかも問題で、着地もある意味問題だと思う。
だって高いんだ。予想以上の高さまで上がってる。どうにかしないと、このままじゃどっちにしてもたたでは済まない。
けど……何一つ考える余裕なんて無かった。小さな僕という炎を消そうと、そのどれもが凄まじい速さで迫ってくる。
そう……死を引き連れて。
「あぁ……くっそ!」
僕は何の考えも無しに、取り合えずシルフィングに力を込める。けどその時、氷の翼が僕へと伸びてくる隙間から何かが見えた。それは地面を蠢く影――あれって……
「スオウ!!」
そんなリルレットの声がどこからか聞こえた。地面から? いや違う。もっと近い……まるですぐ横に行るような。
そしてその感覚は正しかった。リルレットは僕の直ぐ近くまで上がってきてたんだ。僕はそんなリルレットに驚く声を思わず返す。
「お前!? どうやって?」
「飛ばして貰ったの! いいからほら、手を伸ばす!」
僕は強めな口調で言われたその言葉に、ただ従うしか無い。昇ってくるリルレットと、落ちてる僕の手と手が重なる。
そしてそのまま、位置を変えて着地するのかと思いきや、何だかかなり力強くリルレットは僕の手を握ってた。ただ真っ直ぐに落ちてただけの僕の位置は、リルレットの飛んできた方へ修正された訳だから、後はちゃんと考えてあるであろう着地方法を示してくれるだけでいい。
けど僕には、この繋がった手からトキメキじゃなく、もっとイヤな感じを受けてた。
「あのさ、これからどうす――!?」
何かいきなり視界が回ってるんだけど!?
「大丈夫! ここからはちゃんと私達もやるから! だからスオウも心おきなく戦って!!」
そうリルレットが叫び終わると、僕達を繋いでた手が勢い良く離れたのを感じた。てか回された。これは遠心力を使って放られた状態だ。
「ああぁぁああああぁぁぁあぁぁあぁああああ!!」
空気が体中……主に顔に勢い良くぶつかって痛いくらいだ。冷えた空気は、体温を効果的に奪っていく。てか、いきなり何するんだリレルレットの奴!?
まさかあの羽からもっと確実に逃がしてくれた? とか一瞬思ったけど、それは大きな間違いだとその一瞬後に気付いた。
だって僕が飛ばされた方向はそんな温い場所じゃない。どうみてもさっきより間近に羽が迫ってた。まさか心置き無く戦ってってこういう事か?
なんて無茶しやがるんだ。いや、させるんだ! 僕はもうどうにかするしか無くなってた。
幸いにも、最初にたどりついてた翼は盛大に空振りだった。二回も空中で方向を変えた事が効をそうしてるのか、その後二枚の羽も僕には届かない位の場所を、空気を震わせて通過する。
でもそれだけで唾を飲み込んでしまう。うぁお、どんだけ勢いつけてんだ。羽を巻き付ける様な感じにして、ドリルっぽくなってる影響か?
何にしても、絶対に当たるわけにいかない事が分かった。
(この三発で位置が修正されてるか!)
後の七発は完全に僕をとらえてる。柊の奴もただで空振り何かしない。確実に今度は当たるだろう――でも!
「冗談でも何でも、変態って認識で終われるか!!」
僕は先の柊の言葉に反論して、迫り来る翼を剣を使って受け流した。止めるじゃなく受け流す……その行動の選択が、この瞬間の生死を左右した。
突き立てられた鋭利な先端。僕はセラ・シルフィングを構えて迫り来る氷の先端の少し横に剣を当ててその勢いを利用して前へ回転した。
そしてそのまま僕を狙ってた氷の着地する――と同時に更に二本の羽がドリルとなって僕を襲う。
(ちっ……風よ、一瞬で良いから!)
足下に小さな風のうねりを感じる。そして二本のドリルはクロスする様に僕の居た場所を通った。だけどそこで僕の歩みは止まらない。
僕はドリルがたどり着くより速く動けてた。この冷気の満ちた空間で、風は二の舞になるからあまり多様は出来ないけど、あの位ならね。
足下だけに集めた風で、僕は一瞬だけ加速したんだ。けどまだまだだ……まだまだ迫り来る羽ドリルはある。
「くっそ、一気には突っ切れな……い!?」
その瞬間、動かそうとした足が動かなかった。足下に視線を落とすと、するとそこには氷が張った靴があった。氷は足場にしてる羽事態と融合してる。
まさかあれだけで? 思わず歯噛みしてそう思う。あの風の影響で、霜が凍りにまで発展したって事? なんて事だろう……想像以上に風は諸刃の剣になってる。
「っつ……」
僕は剣の柄で足に張った氷を砕く。でもその数瞬の遅れが致命的になる。迫る羽ドリルはもう目と鼻の先。今からじゃ何とか出来て防御しかない。
でもそれは心許なさすぎる。だけどその時、頭上からアーチを描いた炎の球が降り注いで来た。そしてその炎の球は次々と迫り来る羽ドリルに当たっていく。
それは当然、目の前に迫ってたのにも命中した。でも当たった瞬間に、炎は白い煙を発して一瞬で消えた様な感じだった。
「どうなっ――つあ!?」
僕の感覚ではほんの数コンマの違いだったと思う。その程度の足止めしか出来ない援護だった。煙の中から刹那位遅れて出てきてくれたとは言え、微々過ぎる。
避ける事は完全には間に合わなかった……とは言え、これも運良く剣で受け流して、今度はこの羽に着地する。
「危なかった。やっぱりあの程度の魔法じゃ、傷一つ付かないか」
やり過ごせた羽の上、一息付く猶予位は出来た。さっきの魔法……もっと強力なのを撃ってほしかった。だって最初に僕が決めたライジングバースト……あれだけ切りつけて威力を高めた技でも、たった一枚の翼をもげれただけだった。
だからそれを考えると、今の魔法は弱すぎたんだ。
残りの前にある羽たちも止まる事無く向かってきてる。やっぱり同じように一瞬で消滅したみたいだな。
嘆いてもしょうがない……翼が駄目なら、せめて本体に直接もう一度たたき込むだけだ。幸い扇は僕が所持してるし、今の柊も万全って訳じゃないんだ。
ある意味、今しかない。それに幸いにもこの翼の先は、必ず柊に通じてる。僕は前を見据えて再び駆けだした。迫り来る羽ドリルを見て両腕に力を込める。
後何個とかもう煩わしい。それにどれもかしこも落とした訳じゃないんだ。かわした羽が戻って来ないうちに、柊までたどり着く!
吐く息が白い尾を引いて消えていく。体を動かして無くちゃ、たちまち凍えそうな程の温度に成ってそうな感じだ。あの翼もやっぱり冷気を放ってるのかもしれない。
翼の上を走りながら、次の羽に備える……けどその次が来ることは無かった。何故ならいきなり羽がドリル型から、いつもの形に変わったからだ。
そして僕よりも高いところから一斉に氷柱を今度は降らせてきた。これも立派な攻撃……だけど何で方針を変えたのか?
大量の氷柱をかわしつつ前へ進んでると、下の方が騒がしいのが聞こえてきた。
「ぬああああああああ!! いきなり広範囲攻撃かよ!」
「でもそれってつまりは、俺たちも無視されなくなったって事だろ!」
「よっしゃ! このまま何とか分散させるぞ!」
「「「おお!!」」」
そう言ってみんなは地面の柊に迫ってく。なるほど本体が攻撃されるのを無視はできないよな。でも僕も居るから、一網打尽に出来るこのスキル使ってるのか。
けれど、この氷柱には一撃でやられる……なんて怖さはあまりない。それにみんなの気概が僕にも伝わってた。
(みんな……そんな事を考えてくれたんだ)
何か嬉しくなる。冷たく寒い場所に成っちゃったけど、少し前の花が咲き誇って蒼天の空といっぱいの太陽の明かりの温もり……それらを思い出す様な感覚。
かじかんだ身体に熱が巡る様な……するとセラ・シルフィングを本当に赤い熱が覆ってる?
「行けスオウ! まだまだ自分にもみんなを手助け出来る力は残ってる! 突き進め!!」
後方から聞こえてきたそんな言葉。察するにこれは攻撃力アップの魔法。力強い感じが腕から伝わってくるんだ。
「サンキューな。ありがたく受け取った!!」
降り注ぐ氷柱が煩わしかったんだ。でもこれなら避ける必要なんてない。もっと軽く叩けるんだからな。
辺りに響く氷が砕け散る音。そしてその残滓が僕の通り道だけに残ってく。走りながら飛んで跳ねて、踊る様に二対の剣を振っていく。
最短を最速で進む為に、砕くのは確実に当たる奴だけ。後は全て無視して行く。そして……
(見えた!!)
柊は相変わらず余裕そうな顔で佇んでる。その周りには氷柱を必死に避けるみんなが居た。それだけ一杯一杯と行った感じ。だけどおかげでここまで来れた。
背中側から生えてる羽だ。柊の頭上に飛び込んで一撃……出来るか? 気づいてない……訳はなさそうだけど、今の所奴はこっちを見てない。
みんなが繋いでくれたこの場所だ。やらない訳には行かない!! 勢いそのままに、僕は高く伸びてる羽から柊の頭上に飛び降りる。
そしてその手のシルフィングは青い放電を始めてる。
「柊!!」
僕の叫びで柊はこちらを見た。けどもう遅い! 今やこいつを守る物は何もないんだ。セラ・シルフィングは止められない!
威力強化されたセラ・シルフィングが青い軌跡を描いて柊に向かいゆく。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
雷撃を帯びた二対の剣が弧を描く。完全に直撃した……筈だった。でも、感触が無い。外した? かわされた? どれも考えられない。
剣を振ったことでその場に止まってた冷気が一気に外側へ流されていく。その時、不可解なこの感覚を確かめる為に僕はそこに居る筈の柊へ目を向ける。
「――っつ!!」
湖に張る氷の地面に、勢い余ってセラ・シルフィングがめり込んだ。砕けた氷が弾かれて、視界の高さまで上がってきたり、何メートルか先まで衝撃で氷にヒビが入ってた。
そして向かうべき所を無くした雷撃は、青白い閃光をその場で周囲に放ってた。そんな全ての要素が合わさると、目の前に居たはずの柊が消えていく。
いや、違うな。僕がシルフィングを振ったその時には、既に柊は冷気と共にその身体が分かれてたんだ。そして更に衝撃が周囲に発せられた今は、もうその姿を保ってられて無い。
霞む様に冷気の中に溶けていくみたいだ。
「そう言うことか!」
僕は自身の目で見た光景で理解した。これはまさしく残像だ。してやられた。柊の奴は冷気を使って自身の残像を作ってたんだ。
でも……僕が走ってきた羽は本物。それなら本体は近くに居るはずだ。僅かに認識をズラしただけ……一体どこに……周りには霞む冷気が高い壁を作ってた。
広がっただけじゃない、僕が地面を叩いた影響で空気が弾けて上へも上がったんだ。これじゃあ影は見えても、誰かは判断できない。
「どこに――」
右へ左へ視線を動かす。自分を中心に半径三メートル位は衝撃で冷気が退いてるから、この状況でも不意打ちは防げる……かな多分。
だけどかなり心が追いつめられてる感がある。下手に動けない……この僅かな三メートルの空間が今の僕の領域でしか無いんだ。
風で一気に冷気を晴らすことも、イクシードに頼ることも出来ない僕は、この冷気が上りきって落ちてくると終わってしまう牙城に止まるしかない。
出来ると思った……もう一度、柊を追いつめる事をさ。でも甘かったようだ。飛んで日にいる夏の虫状態だ。要は誘われた。
ここはアイツのフィールドで、あいつは反則的な力を有してる……それをいつだって忘れちゃいけなかったのに、なまじ届いた事があったからこそ、望んだんだ。
白く霞む冷気が頭上に迫ってきてる。吸い込む空気が妙に冷え冷えしてる様に感じる。その時、どこかからか何かが聞こえてくる。
「か~ごめ、か~ごめ~」
それはとても懐かしい旋律を刻む歌。でも同時に、最後を知ってる分、身構える事になった。歌は白い冷気の中を回る様に、綺麗な声で聞こえてくる。
「か~ごの中の鳥は、い~つい~つ出会う、夜明けの晩に~鶴と亀が滑った~後ろの少年だぁ~れ」
歌の終わりと共に、背後に何かを感じて背筋が凍る。その感覚は信じられない程に近く、圧迫される様だった。僕は振り返らずにはいられない。
何でこんな古い遊び歌知ってるんだ――とか、今はどうでも良かった。余裕が無いんだ。だから僕はただ振り返らない。
僕は同時にシルフィングを併せた。一足先にそれに振れたシルフィングは何かの感触を確かに伝えてる。けど……それは――
「氷!?」
――斜めに切り裂いたそれは紛れもなく透明な光を放つ氷だった。しかも感じた通りかなり近い。てか鼻先が触れそうな程……音も無く忍び寄るなんて不可能だからどうやって――そう思ってたけど、まさかただの氷とは。
それにこの氷、地面から雑に生えたって感じだ。だからこそ、ここまで近くでも気付かせなかった訳か。鋭利過ぎた切れ味のせいか、振り抜いてから氷は斜めに滑り落ちようとしてる。
僕の背丈程ある氷の丁度腰の辺りが切れてる。だから半分の大きさの氷が滑っていく。その時だ。
「だって私、少年じゃないもの。少女なの……わかってるでしょスオウ」
「――っつ!? ひいら――ぎっ!!」
氷の向こう側から現れたその姿に目を見開いた。発した声が奴の行動で無骨に終わる。滑り行く氷がその身体を覗かせていったとき、柊は素早かった。
落ち行く氷を待つ事も無く、僕の頭がこの状況をどう判断するかよりも先に、彼女の氷の手が僕の胸に突き刺さる。
鋭利な爪が食い込む感触はまるで、心臓を鷲掴みにされてるような感じだ。痛みに耐える中、切られた氷は遂に落ちて砕けた。
「本当に、望んだ通りに切ってくれるんだものね。でも危ないわ……これ以上私は傷つきたくないのに」
「ぐ……あ……」
更に食い込んでくる氷の爪はもう凶器のレベルだ。皮を裂いて肉を抉ろうとしてる。傷つきたくない……ね。気付いたけど、柊のサイドの髪が斜めに揃えられてた。
これがつまりそう言う事か。柊なりの傷ついたの証みたいな物。僕の剣線はどうやら氷の後ろであぐらを掻いてた柊にも僅かに届いてたらしい。
だけどそれが柊の怒りに触れてる。俯いた柊の腕力は強くなるばかりだ。
「どうしてくれるのかしら? ねえスオウ!」
言葉の語気までもが強くなる。でもこのまましてやられる訳には行かない。幸いこの距離は、僕の方が得意な位置だ。
僕を捕まえる腕をまずは切り離す。そして一気に畳みかければ、まだ可能性はあるはずだ。僕は痛みが続く中、両の腕の感覚を確かめる。
変な汗が出て、体中が熱いけど、大丈夫……痛みを越えて腕を使え!!
「そんな事まで知るかよ!!」
僕は掴まれてる腕を狙う。するとその時、俯いてた柊が少しだけ顔を持ち上げて笑った。まるで最初からこれだけが目的だったようにだ。
「ふふ、ヒドいよスオウ。でもしょうがないからこれで勘弁してあげる!」
その瞬間、皮と肉が潰された。けれどそれでも必死に僕は歯を食いしばる。心臓はまだ動いてるんだ。HPだってまだ健在。
痛みに惑わされるな! ここで止まったら、この痛みがいつまでも先行しそうで怖くなる。だからそんな芽さえ潰して、やろうとしたことはやり遂げる。
そんな小さな積み重ねしか、僕には無いんだ。力の差は大きいんだから、何から何まで諦めずにやることが大事なんだ!
「あああぁあぁぁぁあああぁあああ!!」
生暖かい物が胸から流れてる。でも今は狙うべき奴の腕しか僕は見ていない。もう一度ぶった斬ってやる――その思いで剣は進む。
けどその時、自分の胸の辺りが光ってるのに気付いた。もっと正確には僕の胸を砕いた奴の手が光ってる。そして僕は、その時ようやく思い出したんだ。
そこに何があったかって事をさ。
「やっぱり、これがないとね。返して貰うよスオウ……私の天扇」
その瞬間、溢れる光に圧力でもあるかの様に僕は後方へ吹き飛ばされた。主の元に戻った天扇の喚起の声か何か知らないけど、これは想定上最悪のケースだ。
眩しすぎる光の奔流は、漂ってた冷気も押しやり、その身体を巡りあの羽までも伝ってる。淡く光ってたそれも、これで完成とでも言うように、嬉しそうに天扇から溢れる光を受け取ってる。
「くっ……かはっ」
距離を空けられたら、途端に胸が苦しく成ってきた。まだまだ止まれないのに……くそ。天扇まで手にしてしまったって事はまさに完璧な状態って事だ。
本当にやられたよ。
「スオウ! ――ってわっわ!! 酷い傷してる。治して貰わなきゃ!」
どうやら天扇を手にした事で攻撃が止まったらしい間に、みんなが僕の所まで走ってきてた。だけど頼もしいとかの前に、申し訳なさがこみ上げる。
だって渡しちゃいけない物を取られてしまったんだ。これで勝てる確率が、確実にまた一段減っただろう。この悔しさの中、こんな傷気にしてられない。
「ごめん、みんな。天扇を……」
僕の謝罪の言葉。だけど誰もが、聞こうとせずに前を見たり相談したり。てか僕を庇うように前へ出てないか? それに後ろでは回復魔法の詠唱も聞こえる。
これって……
「スオウ、気にする事なんかないよ。だってどっちにしろ、柊は化け物で反則のオンパレードだもん。扇一つでそんな変わんないよ。
それに扇何かより、私たちには貴方が大切なんだよ」
優しいそんな言葉が傷ついた胸に染みる様だった。けどそれも束の間……光は次第に収束し、天扇は喜びを終えて主の敵を討つ武器とかす。
パン――そんな音と共に開かれた天扇が僕らを指す。
「さあ、そろそろ決着をつけましょう」
コメント