命改変プログラム

ファーストなサイコロ

白の計略



 パン!! っと目が覚める様な音が辺りに響く。異様に大きく感じたけど、それは何のことはない柊が自身の扇子を閉じた音だ。
 けど僕は本当は、何のことはない……そんな風に捉えちゃいない。だってそれなら、『目が覚める様な』なんて音の感じ方をするわけ無いんだ。
 僕たちは知っている。その動作の意味を。でも奴の底はまだ全然見えない……だからこそ、僕達は本能できっと恐怖を感じ取ってた。


(来る!!)


 全員の視線が交差して同じ事を語ってる。柊の攻撃までの流れはみんなが知ってるから、互いを思い合っての警告。
 胸の前で再び開かれる扇子を見逃すはずがない。雪の様な欠片が舞い、白と群青に彩られた扇子の中に不釣り合いな鮮やかな何かが出てた。


「ほんと、救いようが無いわよね。大人しくオブジェに成ってれば使い道にもあったのに……そんな目を私に向けないでよ」


 そう言ってこちらに扇子を向けた柊。その瞬間、いつの間にか現れてた巨大な氷柱が、僕達に向かって放たれた。この冷気で見えなかったとはいえ、これは不覚すぎる大きさ。
 向かってくる一個一個が有に大人一人分の大きさはある。串刺しに成ると洒落に成らない感じだ。


 けど伝え合ってたのも効果があって、誰一人としてそんな直線的な攻撃には当たらない。一気にそれぞれの方向へと四散した。後衛は援護と回復が出来るギリギリの位置まで下がり、僕達前衛はそれぞれ数人で組み、別方向から柊との距離を積め出す。
 これである程度、奴が標的を選ぶのに数秒でも良いから迷いが出れば、その分僕達が近づく事が出来る。それから一気に攻め続ける。扇子を閉じる暇も再び開く隙も与えない。そう考えて僕は走ってた。


 柊の奴はどう考えても前衛って感じじゃないし、どちらかと言うと中衛タイプ。いや、もしかしたら後衛が元々の位置なのかも。
 だからこそ、今の僕達にある勝機は張り付く事だ。近場の接近戦でなら、あの動作は無駄以外の何者でもない。けど……流石に裏側の敵。そう思い通りにはいかないみたいだ。
 何度も何度の奴らはこっちの二・三手上をいきやがる。


「一発で、終わりじゃないわよ」


 柊はそう言って、扇子を回しながら左右から腕を振るう。すると続けざまにあの氷柱が冷気の向こうから射出されてくる。それはどちらをまずは潰すか何て、関係ない早さだ。


「ちっ、これじゃあ近づけない!」


 僕達は次第に横に広がる様に走ってた。それはあの大量の氷柱を避けるため。やっぱり厄介な事に、近づけばそれだけスピードが速く感じる。
 それでも救いは、それぞれで纏まった方で逆に散っているから奴の氷柱が分散されて行ってる事。奴の真横位までいければ、流石に両側を同時に攻撃は出来ないだろう。


 奴の扇子は一つだけだ。冷気でも無い限り、全体攻撃は不可能。だけどいつの間にか随分氷柱が周りにぶっささってる印象がある。そして思った。


(ここまであったか?)


 避けるのに必死でその後を見てないから何とも言えないが、無くは無かっただろう。それだけ大量の氷柱が詠唱無しで放たれてた筈だ。
 けどおかしいのは前にあることだ。今まさに走ってる前に氷柱が数本刺さってたりする。それはどう言うことだ?
不発に終わった奴とか?


 だけどここLROでそれは……これまで奴が無駄な事をしただろうか。いや、そんな事無かったんだ。あいつの行動には、きっと全てに意味がある。
 だからこれも……とことん姉妹とか言ってた割にシクラとは対照的だな。シクラの奴はノリが多分に含まれてたけど、柊の場合は自分のやるべき事だけをやってるって感じだ。


 その分、柊には隙らしい隙もない。けど遂にその時は来た。広がりきれなくなった柊の氷柱達。どっちかに背を向ける事はしたくないのか、ここで腕を降る動作事態が止まってた。
 そしてそんな隙を見逃す手はない。俺達は両サイドから一気に柊を目指した。


(今度こそ届く!)


 きっとみんながそう思ってた。僕だって例外無くその一人だ。けど、イヤな予感ってのは時たま凄い的中率を誇ったりする。


「「「うおおおおおおおおおお!!」」」


 そんな雄叫びが氷上に轟いてる。みんな一撃を入れたい気はあるんだ。散々苦労したこれまでの道のり……それを思うと、こいつはそれらをぶつけるのにはさいっこうの相手だ。
 黒幕一味の最初の一人。申し分なんて無い。けどそんな時、微かに動く唇を僕は見逃さなかった。そして同時に扇子を閉じたんだ。


(別の何かが来る)


 そう思った。聞こえた言葉の欠片を必死に繋げてその意味をくみ取ろうと頑張る。だけど実際に聞き取れたのは天扇の部分と、僅かな技名(?)だけだ。


『天扇・樹……冷……』


 わからない。でもこうなったら柊が再び扇子を広げて、腕を振る舞えに一撃少なくてもいれる! セラ・シルフィングの刀身には、待ちきれないと言わんばかりに電撃が放たれてる。
 冷気はまだこの凍った湖全体にあるんだ。メインの風は使えない。まあだからって、イクシード程の風が起こせる訳でも無いけどな。
 でも危うく全身が凍りかけたってのは精神的に結構ダメージ受けてる。それに今更だけど、氷には風より雷撃の方が効果高そうだ。






(後少し……これなら)
 あの無駄なモーション分を埋められるかもしれない。それはとても確信をもって思える事。今まで奴が閉じて開いて振る、を何度も見てきたんだ。
 だから感覚でわかる。


(行ける!!)


 てさ。けどその時、柊の奴は全くもって予想外の事をまたしやがった。その行為を目をした僕は思わず「はっ?」と声を漏らした程だ。
 緊迫した緊張感の中で、その声はおかしな程不釣り合い。けどそんな声が思わず出ちゃうほどの事をアイツはやったんだ。


 白い雪の欠片が上がってた。いや、そうじゃないのかな。本体があの欠片よりも重いから、下にあることでそう見えるだけ? 
 まあようはだな……柊の奴は自分のたった一つの武器を捨て去った。手放したんだ。ポロリと滑らせる様に自然にさ。


 だからそれが起こった瞬間、何やってるのかわからなかった。けど実際に開いた扇子は間違う事無く落ちていた。地面に向かってヒラリクルリとさ。
 どの道、あの扇子が落ちたらやばいんだろう。なら止まる道理は無い! 


「スオウ!」
「ああ! 間に合えええええ!!」


 僕とリルレットは同時に縦に剣をふった。放たれる二つの雷光は氷を砕きながら柊へと向かう。けどその二つの雷光が届くより先に、扇子は地面に落ちた。
 いや、その表現も実際には正しくない。だってもう扇子はどこにも見えないんだから。


「残念」


 そんな言葉と、含み笑いを浮かべた柊がこちらを見てた。奴は一体何をした? あの言葉はどんな技だ? 


「「うあああああああ!?」」
「きゃああああああ!!」


 その時、右斜めの位置に成っちゃってた仲間から悲鳴が上がった。あそこは後衛が陣取った場所……けどそこは異様な白い蔦? いや木によって阻まれてる。


「なんだあれ?」


 そう呟やくといつの間にか炸裂してた二つの電撃、それによって巻き起こった黒い煙の中から、柊の声がする。


「私の攻撃。アートでしょ?」


 そう言って煙から出てきた柊には傷一つどころか、その刺激的な服や体のどこにも汚れ一つ無かった。


(何一つ……届いてない)


 歯ぎしりする様な思いが沸き立つ。アートか何か知らないが、元から僕達の攻撃なんて眼中に無かったのかよ。けど一体どうやって防いだんだ?
 奴のご自慢の天扇は手元に無いはずなのに……こうなるとやりようがわからなく成るな。




「スオウ! 迷わないで! きっと大丈夫って思って今は攻撃だよ!」


 そんなリルレットの声で僕も前を向く。でも……きっと大丈夫って流石に無理を感じる。だってさっきの悲鳴は確実に後衛の人たちに何かがあったことを示してる。
 あの木がどういう攻撃かもわからないんだ。このままにしておいたらきっと不味い。誰かが欠けて勝てる様な相手じゃないんだ。


「ふふふ、随分甘い考えね。私になんて構ってたら、間に合わないわよ」


 そんな柊の言葉で僕は反転する。これ以上誰も死なせない。そう決めたんだ。


「スオウ!!」
「ごめんリルレット。だけどきっと本当に危ない!!」
「ああ~もう! これ以上無いチャンスなのに!!」


 そう言ってだだをこねたリルレットだけど、僕の後に続く足音が聞こえてる。それでも未練はあるだろうけどね。


「誰かを犠牲になんてしたくないんだ。特にこの戦いでは」
「わかってる。どうなるか、わからない物ね」
「ああ、だから――」
「――謝らないで!!」


 ごめんとまた言い掛けたのを制された。そしてリルレットは僕の隣に追いついてこう言った。


「そんな風に何回も謝られると、負けてないのに負けた気分に成っちゃう。これから、でしょ? みんなで勝つの。そのための選択よコレは。
 それに後衛がいないと心許ないしね」


 そうこれは勝つための選択。リルレットも良いこと言ってくれる。別方向から柊に向かってた班も戻ってるみたいだし、考える事は一緒だな。
 僕達は弱いから、それぞれが助け合ってここまで来たんだ。犠牲だってあった。でもそれはあれっきりでいい。




 目の前に広がるのはそれは『森』と表現するべきなのか迷うほど森に見えた。けど色は緑じゃない、全部が透明と白の森。この森の木全が湖の氷で出来てるのは明白だ。
 それもあの氷柱から派生してる。じゃああの攻撃はコレを作るための伏線?
 武器を手放してまで、ここにこんな森を作る理由は何だ? 理解できない事が多すぎる。氷の筈なのに、本物と同じ様に揺らめき、葉の音を散らせるその森が、僕にはとても不気味に見える。


「急がないの? 手遅れに成るわよ」
(――っつ、アイツ……)


 確実に誘ってる。後ろから声を掛けて来た柊は怪しすぎる。多分この森事態に何かある。でも……それでも踏み込まない訳には行かない。


「お前が何を企んでようと、僕達は絶対に負けはしない。誰一人も!!」
「あらそう。ならやって見せてよ」


 柊の奴は僕の言葉にそう軽く返した。別にどうでもいいのかよくわからない。氷上に垂れる氷のドレスを引きずって柊は僕を見つめてる。


「ああ、その両目ちゃんと開けてろよ」
「スオウ速く!!」


 僕がそんな宣告をしてる間に、リルレット達は氷の森へと踏み込んでた。恐ろしげ気もなくズカズカと。心配なのは誰もが同じか。
 一直線に最短できっと向かいたいんだろう。僕も取りあえず言いたいことは言ったし、リルレット達の後を追う様に森へ入ってく。




 そんなに広くはない筈の森。だけど密集した大樹のせいか先が見えずに、実際の広さよりも大きく感じる。それに何だかさっきから……この木、何かが通ってる? 流れてる様な気がする。
 透明だけど、向こうが見える訳じゃない白濁色。中央部分になると白さが際だってきてる。


「綺麗……だね。こんな状況じゃなきゃ、写真に収めたい位だよ」
「確かにな。氷の森なんてそうそう見れる物じゃないし、写真に収めとけば自慢できそうだ」
「でしょでしょ」


 全体からわき出てる不安な感じ。それを少しでも除ければと僕とリルレットは他愛も無い会話をしてた。まあ気が紛れるって事で楽でもあるしな。
 でも何だか余計に空気が重く成ったような……話題のチョイスが不謹慎だったか。だけど本当に外見だけなら綺麗な森なんだ。


 揺らめく透明な枝葉とか、光が屈折を繰り返して線に成って森を走ってる様とか、とても幻想的だ。柊の奴がアートとこれを表現したのが少なからずわかる。
 まあでもアートなら、感じ方は人任せにしてほしいよな。この森は絶対に主張してきそうじゃん。必ず何かある。というか、そうでなきゃおかしい位。


 その時前方を走ってた奴らが声を張り上げた。


「居たぞ!!」


 そこはこの森でそこだけぽっかりと穴が開いたような空間だった。そんな場所に後衛組が氷の葉でくるまれて蓑虫状態でぶら下がってた。
 よく見るとこの森全部の木が、それぞれを繋げてる様にも見えるな。透明で日光のはいりが良かったから気付かなかったけど、重なり合ってる部分は結構ある。


「何で蓑虫? どういう事なの?」
「さあなでも取りあえず助けるぞ」


 考察なら後で出来る。まずは救出が先決だ。みんなもそんな僕の言葉に納得してそれぞれ動いてくれる。けどその時だ。異変が起きた。
 僕達にでもこの森にでもなく、それは後衛組三人だ。微妙な震えが始まって、それから次第に何かを絞られるみたいな振動が蚤の中で起こってた。
 そして、それと同時にうめき声の様な叫びがあがり出す。


「「「うが……ああああああああああああ!!」」」


 すると三人の中から何かが出てきたのか、三つの光が葉を通して周りの木全てに流れていく。葉から枝を伝い幹へ、そうかコレがさっきも流れてた何かの正体。
 正体と言うほど何かわかった訳じゃないけど、コレ何だ。どうやら一回その何かが絞り出されると再び静かに成るみたいだ。
 でもまたきっと震え出すんだろう。あんな叫びを出す事なんだ、このままでいいはずがない。


「みんな今のうちに!」
「はい」
「おう!」


 次の震えが来る前に僕達は救出行動に移る。だけどその時、僕達は一斉に別々の方向へ視線を向けた。


「どう……した?」


 何だか歯切り悪く、そんな事を聞いてみる。するとみんな同じ事を言ったんだ。


「いや、何だか視線を感じたって言うか……」
「俺も誰かにみられてる感じがさ」
「私も変態の視線を感じたわ」


 なんか一人勘違いしてる奴が居るけど、概ねみんな一緒だ。そして僕も、何か強い視線を感じた。ねっとりと絡みつくような視線……ってそれじゃリルレットの言った事、案外間違ってないな。
 変態っぽいみられ方してる。だけどおかしな事にここには僕達と柊しか居ないはず。誰がそんな視線を出せる? それに一カ所からじゃなく複数から……誰一人同じ方向を向いてない。


 そこにあるのは半透明な木だけ。視線を浴びせる様な生物なんて陰も形もない。葉と葉がこすれる音が、僕達の周りで僅かな音となって響いてた。




「みんな今助けるからね」


 そんな事を言ってる内に所定の位置に着くリルレット。取りあえず僕達にはやれる事をやるしかない。後衛のみんなはそれなりに高い位置に吊されてる。
 だから僕達はそれぞれお互いに力を合わせるんだ。


「よし。来い、リルレット!!」
「うん!!」


 僕は吊されてるみんなの真下位に陣取って両手を丸みを付けて重ねあい、腰を落として重心を低くする。そこに離れてた位置にいたリルレットは猛スピードで突っ込んでくる。
 まあこれはリアルでも出来そうな、下の奴が走ってきた奴を高くにブン投げると言うあれだ。リアルではそんなに飛ばせられないだろうけど、ここLROではきっと後衛組のみんなまで一直線に届くはずだ。


 僕達はお互いを見つめあってタイミングを合わせてた。直ぐにでも解放したいみんなが居るんだ。失敗何て出来ないから、当然必死。
 だけどその時、僕達はお互いを見てたからそれぞれの背後に迫った物を見てた。そして同時に叫ぶ。


「スオウ!」
「リルレット!」
「「後ろ!!」」


 その瞬間、後方を確認する間もなく僕は体を降り曲げてた。リルレットは逆に上へジャンプしてた。そしてそんなお互いの頭上と足下には無骨な氷が伸びてたんだ。
 そしてその氷は僕たちが避けたことで、お互いをぶつけ合って真ん中付近で花火の様な形でパキパキと融合してた。


「なっ……くっそ!」


 やっぱり柊の奴の悪趣味な攻撃だ。ただの森な訳無いと思ったけど、何だよこれは。これじゃあまるで……氷が生きてるみたいだ。
 そう思ったとき、僕の頭上の氷が僅かに膨らんだ気がした――と思ったら鋭く伸びて来た。それも連続で。


「うあ! ちょ……何だよコレ……って、ああうざい!!」


 僕は途中で避けるのを止めて、両手のセラ・シルフィングに力を込めた。そして二刀を振り回す。新たに伸びてくる攻撃的な氷を切り裂き、そして同時に最初に僕たちを狙った太い奴もぶったぎる。
 だって元から邪魔だったんだ。


 バッカァァァンと砕け散る氷達。その白い煙の中から飛び出てくるのはリルレットだ。けどもう位置が滅茶苦茶で、それに武器を握っちゃってる。


(どうする?)


 また横やりが入れられる前に後衛組を助けたい。僕は両手に力を込めて、リルレットの着地点めがけて走り出す。武器はもうしまってられない。
 いや、寧ろセラ・シルフィングなら行けるはずだ。


「乗れリルレット!!」


 僕のそんな叫びにリルレットはすぐさま頷いてくれる。僕は途中から氷を滑りながらリルレットの方に一本の剣を平らに向けて、体はリルレットの方じゃなくリルレットが向かうべき場所の方へと向いてる。


 それは勿論、後衛組の場所の方へとだ。セラ・シルフィングは電気を纏い、準備は万端。後はただタイミングだけ。その瞬間は、僅かに腕に掛かる重みが増したまさにその時、リルレットがセラ・シルフィングへと体重を掛けた一瞬。
 その一瞬に僕は一気にセラ・シルフィングを上へ向かって振り抜いた。


「いっけえええええええ!!」


 バチン!! と電撃が弾ける音が轟いた。そして見てみるとリルレットの姿は既にかなり高くまで上がってる。そしてその下には、追いかけて止めようとしてるんだろう、氷が見える。
 けどそれが追いつけるスピードじゃない。


 一気に後衛組までたどり着いたリルレットは自身の剣の高速突きを炸裂させて、木との繋がりを断ち切った。そして落ちてくるみんなを受け止めるのはこちらの勤めだ。
 前衛組の残りでそれぞれ上手く受け止めて、僕は最後に落ちてきたリルレットを受け止め――


「ぶがぁ!?」
「あれ? ごめんねスオウ」


 ――られなった。てか不要だったみたいだ。何地面直前で華麗に回って着地を決めてるんだよ。おかげで下で腕を伸ばしてた僕の顔面を踏みつけやがって。とんだ災難だ。


「うう、まあいいよ。それよりどうなんだ?」


 僕たちは助け出した後衛組に駆け寄った。既に凍りの葉は取れて蓑虫状態では無いし、それにHPも別に変わった様子はない。表示されてるのにステータス異常も見られないし、別にどこも問題は見られなかった。
 でも問題が無いって事が、問題な気もする。おかしいだろ絶対に。じゃあ何が搾り取られてたんだ? 手放しで喜べる状況じゃない。けど――


「う……ううん」


 そんなうめき声と共に、次々と目を覚ましてくれて安心しない訳はない。


「大丈夫なのか?」
「あ、ああ。別にどこも問題はなさそう……だ」


 僕の質問に体のあちこちを見て回ってそう答える。本当に大丈夫そう。けどその時、周りの木々がおかしな動きをしてた。
 ザワザワザワザワ……そんな音がマジで聞こえるレベルでザワツいてる。そして一斉に放たれるのは、無数の氷の枝。
 それは余りに多すぎる量だ。


(剣で凪ぎ払う? 出来るか?)


 すると目覚めたばかりのヒーラーが声を出す。


「私の魔法で防ぎます。固まって!」


 そう言って詠唱を開始したヒーラー。だけどその時、いきなり詠唱自体が取り消されて、メッセージが現れた。それには信じられない事が記されてる。


『この魔法は貴方のスキル欄に存在しません』
「え?」


 呆けてるヒーラー。もう間に合わない。その瞬間、白の衝撃が大地を貫く。

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