命改変プログラム

ファーストなサイコロ

雨と共に散る



 地面の割れた場所へと流れ行く雨水。盛り上がったり凹んだり、俺を中心に周りの地面は剣を打ち付けた衝撃によってそうなってた。


「はぁはぁはぁ……」


 荒い息を吐きながら、俺はそんな地面の中心に立っている。そして地面に突き刺さった剣に貫かれてるのは奴。名前は知らない。けど生かしてはおけなかった奴。
 人とウンディーネ連合の指揮官か何かだろう。結構偉い奴だった。そいつを俺は今、しとめたんだ。
 色を失って行く奴の体。それは尽きたHPの証。これで俺の不安は少しは……と思ってた。けど、何でコイツ


「笑ってんだ……」


 満足気に口元上げやがって。そんな顔のせいで、勝った気に成れない。てかやけにアッサリしてた気もする。こいつはどんな行動をするにも保険をかけて置くタイプだと思ってたんだけどな。
 それとも予想以上に俺の力が強かったって事か? 護衛は居たわけだしな。けれどそれにしたってこの表情……見れば見るほど胸くそ悪い。


 予想が外れたにしてはおかしな顔だ。どう見ても予定通りの顔だろ。
 それともそう思わせて疑わせるのが、コイツの最後の足掻き? てか、そもそも俺は、コイツを倒してどう思いたかったんだろう。
 敵討ち……それだけだったかのだろうか。コイツの言ったこと……多分間違って無かったんだと思う。俺は怖かったんだ。


 自信があるこの力。信じて託された二人の誓い。けど俺は悉くはめられた。強いはずの力が俺のせいで弱くなってる様な気がしてた。
 だから怖かった。守りきれない事が。
 俺は剣を奴の体から抜き去る。だけどもう一度、今度はその顔へと剣を突き刺す。
 けれどその行為は何にも成らない。感触何てなくて、剣はただ奴の体を通り抜けるだけ。当然その顔を戻せるわけじゃなかった。


「ふん」


 俺は剣をもう一度引き抜いてスキルを解除する。


(これで勝てるよな)


 敵側のリーダーは討てたんだ。それはとても大きい。今はもう余計な事は考えなくていい。後はただ、残党と同じ。
 なら数を減らしつつ、シンボルの捜索をするべきだ。いや、それか全滅って手もある。取り戻したい自信があるんだ。それにはもっと敵を倒す事。






 降りしきる雨の中、俺は奴の死体に背を向ける。やれることはきっとやれた。だからもう見たくもない。


「よかったね。殺れて」


 振り返った俺に唐突に掛けられたそんな言葉。雨の中目を凝らすと、奴を見つけた時に投げ捨てたウンディーネが居た。
 この豪雨で霞む様にしか見えないけど、今更コイツを見間違える訳もない。なんか結構世話になったしな。でも何でまだ居るんだ?


 そう言えばゼブラ達を助けた時だって逃げなかった。まあそのおかげで俺は奴を倒せた訳なんだけど。コイツの目が無かったらきっと逃げられてた。
 だから一応……


「ああ、ありがとう」


 そう言った。雨の音が俺たちの間に流れる。何だかおかしな空気。今まではドタバタで言い合いみたいなのをずっとやってたから、この間が変な感じだ。
 うるさい位に喋る奴だと思ってたんだけどな。


「何だかあんまり嬉しそうじゃないね。許せなかったんでしょ? ソイツの事。ならもっと噛みしめればいいのに」


 霞む姿を見せながら、そんなことを淡々と喋るウンディーネ。やっぱり変な感じだな。


「そう見えるか? 別に嬉しくない訳じゃない。でも何だか……ただ胸がスッキリしないだけだ」
「それってソイツの顔のせい? 確かにムカつくよね」


 おいおい、それが一応な協力関係にある奴に向ける言葉か? まあコイツが奴を嫌ってるのは分かってるけど、この会話って奴に聞かれてるんじゃね?
 奴がHPを失っても消えなてないって事はそういう事だ。やられて蘇生を待つ間だってやることないから、余計に周りの会話に集中するんだよな。


 従来のゲームの様にコントローラーでピコピコやるタイプなら、蘇生を待てる時間の間の暇つぶしも色々出来るけど、フルダイブしてるLROじゃそうも行かないんだ。
 だからきっと確実に奴は聞いている。結構偉い奴にどうどうと悪口言ってる事と変わりないだ。まあ奴は言い返せない訳だけど、出会うのがこれっきりな訳じゃないだろうし、失言だよな。


 ある意味、これが原因で国際問題とかになって同盟崩れたりして。それはそれは好都合だが、いかんな楽天的過ぎる。
 奴を倒した事でこれ以上何か意地悪い事が無いと思うと、やりやすいと思ってるのかも知れないな。


「本当に……何を思ってただやられたのか。ふふ、ようやくおもいっきり動けるね」


 それは独り言の様にも聞こえた言葉。その中の不穏なワードだけは聞き逃さなかった。今確か「ようやく動ける」とか言わなかったか?


「おい、今の言葉……どう言うことだ?」


 俺は絶え間無く打ち付ける雨の中、表情に少し気を張ってそう言った。するとウンディーネは雨の中に消えていく。けれど声だけは聞こえてきた。


「あれれ、何の事だろう。私は本当にソイツが嫌いだったから、実は喜んでるんだよ」
「それじゃない」


 それはだから知ってる。わざわざそんな確認いらない。そっちが大変になる告白だろそれは。ワザと? 何だか不穏な感じが感じ取れる。
 だって何故ウンディーネは雨に紛れる? 幾ら関わったって、所詮俺達は敵同士……それが頭の隅から浮上してくる。


「さっきお前がボソッと言ったの聞こえたんだ。『動ける』って、まだやる気かよ? お前達の指揮官はもう居ないんだぞ。
 それにそっちの作戦は失敗してる。勢いは完全に俺達にある」
「ふふふ、あははは。そっか聞こえてたんだ。それは失敗失敗……ああ、でも良かった」


 良かった? 言葉が矛盾してないかコイツ。どうするか対応に迷う所だ。一気にナイト・オブ・ウォーカーを発動して雨をぶっ飛ばせばウンディーネは見つけれるだろう。
 けどそれでコイツの思惑が計れるか? 俺達は今、話してる。それが実は最も効率的な情報収集の手段はないか。下手に動くよりも、まずはこのまま会話を続けてコイツの真意を計ろう。
「良かった? 聞かれてって事か? 失敗とか言ってなかったか」


「確かにね。でも興味出てきたでしょ?」


 その言葉は完全に俺に聞かれるように言っていたと言ってる様なものだ。それに「興味」って言葉でもしかしたらと思えるこいつの真意が少し顔を出した様な気がする。
 それならコイツが姿を隠していろんな方向から声を伝える事もある推測が立つんだ。コイツが引きたいのは俺の気で、興味を持たせての会話の持続……姿を消したのは俺が無闇に動けない様にするため。
 戦闘じゃ幾ら不意を突こうと、俺とコイツの戦闘力はきっとかけ離れてるから保険もあるんだろう。それらの事から見つけた自分なりの考え……それは


(足止め)


 その言葉が頭に浮かぶ。でももしかしたらで、確証がある訳じゃない。けど、だからって思いついた可能性をただ足蹴にも出来ない訳で……さっきからのコイツの余裕っぷりも気にはなってるんだ。
 乗るか反るか……強引に突破するやり方だってある。きっとコイツは俺を止められないだろうからな。だが、まだ何かやる気なら……このまま見過ごすのもどうかと思う。
 俺は手のひらを見つめて考える。この手ある力を見つめるように。


(大丈夫。俺だから……力がこの手にはあるんだ)


 そう思い握りしめた拳。俺はウンディーネの言葉に応えてやる。


「ああ、興味があるな。何やる気だよ?」
「何やる気? そんなの当然、勝つ気に決まってるでしょ? そうでなきゃ、わざわざここまで上がって来るなんて事しないもの」


 勝つ気……か。それは当然と言えば当然だ。初めから負ける気で戦を挑む奴なんかいないだろう。俺達アルテミナスだけじゃない、それぞれの国にだって事情や思惑がある。
 特にウンディーネの様な小さいところは特に、取れる時には取っときたいだろうし、折角勝ち取った土地をみすみす返す気には成れないか。
 それじゃあ、どっちもぶつかるしかないな。


「でも意外と障害ってのは内側にあるものなの。あそこで死んでる奴とかね。私達は結局小国だもの。同盟何て結んだって協力者扱いよ。
 このフィールドだって、奴らに取られてる。けど知ってる? 占有権はその都度移せるって」
「つまりお前達は、この侵略戦で実は、俺達と同じ狙う側だったって事か」


 占有権が移せるか。まあ確かに、同盟を組んでる以上そういう処置は必要かもな。でも問題はその条件。


「まあね。私達は侵略側だったの。実は人間の敵は一国じゃなかったって事ね。占有権を得られるのは、最も多く敵を倒したプレイヤーが居る方。
 ようは活躍の度合い。ここはね私達が狙える条件が揃い踏みの場所なのよ」


 なるほど、今までの侵略でもこの話を聞く限り、全部が人間側に流れてたんだろう。けどここはウンディーネがそのポテンシャルを発揮するには十分な場所。だから俺達からの侵略戦をきっかけに占有権の奪取をウンディーネ側は画策したわけか。


「まあだから、私達の計画には奴は邪魔だったわけ。そして狙う事もこれでわかるでしょ? 本当にイヤな笑顔を作る奴だった。
 当然の様に、私達の求める大地を奪っていって……本当の敵は奴だったのよ。けど良い気味って言い難い顔。私の仲間が目の役目を放棄して、狙ってた伏兵が動いてないってのに……」
「なに?」


 てかやっぱりあれだけの戦力で逃げてた訳じゃなかったのか。けどそれじゃまた俺は何かに助けられて勝ちを拾った様な物じゃないか。
 伏兵がどのくらいの規模だったかわからないが、確実に勝てたのか自信はないな――って待てよ。それじゃ今もそこら中に居るんじゃないか伏兵?


 俺は周りを見渡す。けど雨のせいでやっぱり見えない。そしてそれは伏兵の人間も一緒で、だから目としてウンディーネが居るんだろう。
 けどウンディーネは何も言わないでこの状況をただ見てるって事か。でもそれって、俺にとってはどっちしろ敵に囲まれてる事と変わりなくないか? いや、きっと、絶対そうだ!


「ねえ、今不味いって思ってる?」
「!!」


 ウンディーネの言葉に大きく心臓が跳ねる。まさに心を見透かしたような言葉だったからだ。


「アギト……だったっけ? よく見えるよ……私には、君が苦そうな顔してるのが。でもそっちからは見えないだろうから教えてあげる。
 私の表情。えっとね……感謝の笑顔を浮かべてるよ。奴を倒してくれたこと、そして私の話に付き合ってくれたこと」


 言葉と共に聞こえていた足音。雨をパシャパシャと踏みしめるその音で位置を特定しようと試みた。だけど無理。明らかに足音が増えてるような気がする。
 これはもう、避けられない物がそこにある感じ。そして続く言葉がその思いを証明していた。


「でもね、よく考えてみて。この作戦、侵略戦に勝つことが前提なの。当たり前だよね。ここで負けたら取り替えされちゃうんだもん。
 だ・か・ら、一番の戦力である君は、ここで殺します」


 パシャン――と真後ろの、それもすぐ近くでその音が聞こえた。俺はその瞬間、スキルを発動。大剣を振り向きざまに逢わせて振るう。
 吹き飛ぶ雨の粒、風を切る音と共にそれらは起こっていた。だけど切ったのは雨だけだ。そこにプレイヤーの姿は無く、吹き飛んだ雨と共に消えていったのは水の固まりの様なお粗末な替え玉。


 あれはきっとウンディーネのスキル何だろう。けど囮まで使って別の所を向かせたって事は、別方向からの攻撃を狙ってる。
 振り切った大剣じゃ反撃はしずらい、けど左右後ろどこから来ても、攻撃を届かせない自信があ――


「戦場で見るはただ前と、倒すべき敵のみ。我らが主の為、空へと帰れ!!」
「――っつ!?」


 現れた敵は左右でも後ろでもない。真っ正面だ。けどわざわざ向かせて正面から来るなんて……でもコイツなら、武士だからな。


「スズラ!!」


 スズラはきっとウンディーネ側の偉い奴。そして武士だけあって奴とは違う。長い刀を抜いてる。それも素材は鉄とかじゃないのかも知れない。
 柄も刀身も一つの素材から出来てる感じで、何よりも巨大な魚のヒレを連想させるようなシルエット。そしてそれだけに特性はどうやら『水』らしい。
 盾で受けると同時に凄まじい水圧が刀身から噴出されて、盾ごと俺は吹き飛ばされた。


「うわっとっとっと!!」


 地面をみっともなく転げ回る事は無かったが、かなり驚きの威力だな。盾には水圧で付けられただろう傷が残ってる。
 流石は最初から倒せると豪語してただけはある。雨に混じって時々光る雷光が俺達の姿を照らしだす。一気に攻めて来るかと思ったが、そうはしないらしいな。


 微かに見えるあの姿……「やられた」という悔しさが募りつつある。やっぱり強引にでも逃げとくべきだったか?


「スズラ様。ご苦労様でした」


 そう言って雨の中、姿を表したのはあのウンディーネ。けどまさかアイツの狙いがこれだったとは予想を大きく外してくれた。
 倒れた奴が用意してた伏兵を使うとばかり思ってたけど、時間稼ぎはスズラが戻って来る為だったのか。


「よくやってくれたな本当に。危険な任務だったが、お前ならと信じていた」
「は、はい!」


 スズラに誉められて、顔を赤くしてるウンディーネ。まさかそっちの毛がある奴だったのか? けど実際ヤバいな……これ以上、敵が出てく前に逃げた方が良さそうだ。
 目的は達したし、今のウンディーネ連中とやり合うのは分が悪い。するとスズラは前へ出てきてその刀をこちらに向ける。


「ありがとうと、言うべきなのかな貴方には。アギト、アルテミナスの始まりの騎士。こと戦闘においてはスキルもあってか凄まじいが、中身はまだ子供だな。
 乗りやすく分かりやすい。だから本当に貴方は使えたな」
「最初から俺を利用する気だったってか? その後ろの奴が俺から離れなかったのもそのため……」


 俺のそんな言葉にスズラは頷く。


「その通り、我らウンディーネには特殊な通信手段がある。あの子は、その力で貴方を見張ってたんだ。この侵略戦で必ず障害になる貴方をどこで殺すか……そのために」


 んべ~と後ろで舌を出してるアイツを真っ先に叩きたい。でもアイツが逃げなかった理由はそれか。でもそれなら見つからない様にしといても、こいつらの目なら十分に出来たと思えるけど……ああそっか、俺はつまり良いように操られてたって事か。


 俺の行動に干渉するために、アイツは俺の側に居たわけだ。それに奴を倒して貰わなきゃいけなかった訳なんだろうしな。俺も随分、こき使われた物だ。
 ラッキーだと思ってた事は、思惑が乗っていた必然って訳だ。


「それで、ここで俺を殺せるって踏んだ訳だ。まんまと使われた様だが、働いた分はきっちり返して貰う。お前をここで倒せば、ほぼ勝ちは決まったような物だ!」


 物事はポジティブに考えよう。だってそうだろ。今、要はこいつだけだ。つまりはスズラを倒せば敵側は指揮官を失って烏合の衆になり果てるだろう。
 それなら勝利確定。色々とそっちも大変そうだが、そんな事に耳を傾ける気もないし……奇しくも俺達は、互いに重要な位置づけなんだ。


 俺を倒せば戦闘が楽になる程度だろうが、スズラを倒せば勝利が手に入る……これは魅力的だ。ここにもまた、危険を犯す勝ちがありそうだ。
 それに実は物足りなかったんだ。奴は『武闘派』じゃなかったらな。でもスズラは違う。こいつは強い。そしてそんな強いスズラを倒して勝利を掴めたら、俺も胸を張れる筈だ。


「私は一人じゃない。わかってると思うが、これは戦争。私も大儀の為なら、自分のやり方だって曲げられる。願うは勝利の二文字ただ一つ。
 我らウンディーネの最大限のポテンシャル。甘く見るなよ」


 その言葉と同時に、スズラが引き連れてたウンディーネ部隊が詠唱を開始した。そして向かってくるのはスズラただ一人。伏兵を使うのかと思ったら、そうじゃないのか?
 でもこれは好都合だ。この程度の人数なら、周りを全滅させてから、スズラを叩ける。
 けどそう思っていた俺は、スズラが言った事を本当に理解してなかった。甘く見てたんだ。きっと武士として忠告してくれた筈なのに。






 凄まじい剣劇の押収だった。スズラの剣は強力な水圧の水を飛ばせる事も出来て厄介だ。岩とか貫いてたし……どうりでこの盾に傷が付くわけだ。
 それにウンディーネの魔法なのか、詠唱を終える度に激しさを増す雨足……これはもう雨のレベルを超えている。まるで滝に打たれながら戦ってる様な物。


 流石にここまでになったら、俺の剣の勢いでも晴らせない。おかげで息も続きづらいし……これはヤバいと思い始めてた。
 けど、これ以上負けたく何かない俺は強引に行く。大振りを多用して一撃大きいの当てようとしてた。でも当たらない。きっとだからこそ……なのに、俺は俺がやらないとと勝手に思いこんでた。


「良い感じになってきた」


 そう呟いたスズラは俺の攻撃をかわして空へ上がる。飛んでるんじゃない。泳いでるんだ。それもなんて軽やかに……こっちは地面にまで貯まってきた水で更に動きが制限されてるってのに……空にまで上がられたら手の打ちようがない。
 水を得た魚とはきっとこの事。降り注ぐスズラの攻撃を、俺は防ぐだけで精一杯に成ってる。


「この水が耐えない土地は、我らが為にあるような物だ。加護は貴様達だけにある訳じゃないみたいだな!!」
「ぐあああああ!!」


 ガードを抜けて切られた! いや、既にガードさえも追いつかなく成ってるのかも知れない。膝が地面に付く。
 すると水が腰まで来るじゃないか。幾ら何でも貯まり過ぎだろ。あのたった数人でこれだけの魔法を? 考えられない。
 けどこれは事実で、水に足を絡め取られてしまっては続く攻撃を捌ききれない。


「自信の力を奢った結果がそれだ。人は一人では、か弱い存在でしかない物を……何を血迷った? 仲間を助けようとする君は強そうだったんだがな。
 今の君は何を背負ってる?」


 スズラの位置からは頭を狙える。一番大ダメージをたたき出せる部位だ。そこに連続で攻撃を貰うのは流石にヤバい! しかもあの威力。
 何を背負ってるって? 俺は今でもゼブラ達とアイリとアルテミナスを背負ってる筈だ。そうだろ……そうじゃないのか?
 何で……こんな奴に勝てないのかわからなくなる。迫り来る刀身を見つめてた。するとその時、声が聞こえた。


「アギト様!!」


 そしてその声の主は俺とスズラの間に飛び込んだ。それは一瞬の出来事。その瞬間、刀身がそいつに触れて、白く細長い水の線が上がった。
 それは岩をも貫く水の線だ。ろくな防御もしなかったそいつは信じられない事に、真っ二つに割れた。そしてそれと同時に色が消えていく。
 目を離せない光景……だってそれは守る為に置いて来たはずなのに、何で俺の前で割れてるんだ? 


「何……やってんだよゼブラ……」


 そんな言葉に、色褪せて行く中でゼブラの奴は言った。


「良かった……すみません。折角救ってもらったこの命、無駄にしちゃいました」


 何で、お前も笑ってる? 俺は本当は怖かったのに。こうなる事が怖かったのに……だから置いてきたのに、何でこう成るんだ!!
 水の中へ沈んでいくゼブラが痛々しくて堪らない。


「「「アギト様!!」」」


 その時更に増えた声。それはやっぱりみんなだ。全員で俺を追ってきたのか……でも、駄目だ! 来たらきっとゼブラの二の舞。けれどその目に映った俺のせいでだれ一人逃げる者はいない。

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