命改変プログラム

ファーストなサイコロ

始まった陰謀



「うおおおおおおおお!!」


 暗雲が立ちこめ、周りは激しすぎる雨で数メートル先も分からない状況だ。地面を打ち続ける雨の音に混じって、辛うじて聞こえる複数の唸り声と武器の衝突音。
 それらが今正にこの場所で激しい攻防が繰り広げられてる証。先陣を切って敵と接触した俺の部隊は予定通りだが、この天候の悪さは想定外だ。


 ここまで雨足が強いと、連絡は取りにくいし何よりも自分達の位置まで把握しづらい。先陣っていっても本隊からそう離れる訳にもいかないのに、見えないんだ。
 多分後ろに居るはず……そんな感じでしか把握できない。一直線に進んできただけだし、必ずその筈だけど流石に自信が無くなるぞ。
 取り合えず、今接触してる(多分こいつらも先陣部隊)を倒して一時後退だな。


「全員気を抜くなよ! 視界が悪いんだ。声出し合ってそれぞれを確認してろ! 深追いはするなよ!」
「「了解!!」」


 雨のカーテンの向こうから聞こえてくる声に少し安心。誰もやられちゃいないようだ。だけどその時、雨の向こうから二つの剣線が同時に俺めがけて飛び出してきた。


「うお!?」
「ナイト・オブ・ウォーカーのアギトだな!! あんたを倒せれば俺達の名も上がるってもんだ!!」
「そうそう、だから死んでくれよ!」


 同じ様な格好をした人姿の奴らの連続攻撃が俺を襲う。息の合ったコンビネーション……こいつら兄弟とかなのか? それか双子とか。
 確かに息も付かせぬコンビネーションは賞賛の域。かなり出来る方だとも思う……だけど、決定的に火力不足だ。俺のこの盾を破るにはな。


「残念だけど、それにはおよばない! てかお前達じゃ役不足なんだよ!!」


 剣を横に一線して向かってきた二人組を吹き飛ばす。二人同時だとうざいからこの瞬間に追い込んでやろう。地面を蹴って、一気に間合いを詰めて、もう一度剣を振るう。
 周りの雨も一気に弾け飛ぶほどの剛檄。だけどしとめた感覚は無い。


「こっちだぁ!!」


 そんな声と共に上から一人が現れた。でもそれは失敗だ。勝率をあげるためにも、どうせ俺の一撃を交わしたのならもう一人と合流すべきだった。
 まあもう遅いけど。
 俺の武器は何も一つじゃないんだ。この盾も、使いように寄っては立派な武器になる。だから俺は盾を回転しながら頭上の奴に食らわせる。
 でも今度は逃がさない様に、飛ばさずその勢いを利用して地面に叩きつける。


「がっは!?」
「だから言ったろ? 役不足だってな」


 突き立てた剣を俺は振り下ろす。雨に打たれながら色が落ちていく様は何だか哀れだな。だけどこれで、ご自慢のコンビネーションは使えない。


「うおおおおお!! よくも兄者を! 貴様は許さん!」
「勝負事で許さん言われても困るんだが……まあ、こういうのがやりやすいか。いいぜ、直ぐに兄貴と同じ所に送ってやるよ。
 力の差を知れ」


 遙か天空で光った閃光。そしてその直ぐ後に大音量の音が響く。思わず身が竦みそうになるほどの轟音は、近くのクリスタルに伝わったようだ。
 何だかバチバチ鳴ってる。アイリが言ってたな。アルテミナスのエネルギーは雷そのものかも知れないって。そしてそれを大地に伝えてるのが、ここのクリスタルかもとか。
 だからこその聖地。なんとしても取り返さなきゃいけない重要な場所。まあアイリの為に俺はやるさ!
 向かってくる片割れの攻撃を盾でいなして、剣で攻撃。悪くはない動きだったが、やっぱりそれは二人居て初めて生きてた物の様だ。
 一人だと平凡、そんな奴に俺はやられない。


「くっ……っつ……くっそ、これほどか……済まぬ兄者」


 防戦一方に成っていた片割れからそんな言葉が漏れていた。こっちは傷一つ付いて無いのに……こんな風なのを見てると思う。
『圧倒的』
 そんな言葉をさ。すると不意に浮かぶアイリの顔。その瞬間俺は自分が危ない考えに取り憑かれ掛けてたのに気付いた。
 やっぱりガイエンに言われた事は正しいのかも知れない。俺は何やってるんだ? こんな雑魚相手に遊んでる場合じゃないのに……これも力の誇示じゃないか。


 俺は無意識に力をこいつに見せつけてる。それにさっき思ったこと。笑える位爽快だった。アイリに信じて貰えた自分は一体、どこにいったんだ?
 情けない。
 俺は目の前の片割れ野郎を見据えて一気に動く。考えを改めて、力の誇示じゃなくアルテミナスの為に……それが正しいこの力の使い方だろ。
 アイリを守ってアルテミナスを守る。その為の力。それだけを考えて、俺は真っ直ぐに剣を突き出す。切っ先が雨を弾きながら進み、それだけじゃなく奴の防御に回った剣も突き折って体の真を貫いた。
 それが止め。


「悪いな、俺の相手はお前だけじゃないんだ」


 そう言って剣を振って、突き刺さった片割れを地面に落とす。そしてそのまま色あせていった。これでいいんだ。そう思いながら自身の感情を戒める。
 もっとちゃんとしないといけない。だって俺には……


「アギト様! ご無事ですかぁ!? 我ら全員無事です」


 バシャバシャバシャと複数の足音が俺の後ろに揃ってる。振り返るとそこにはみんなが居る。何だか良い顔してさ。そう言えばこいつらは志願性にしたんだ。
 ガイエンが俺にも部隊を作れと言ったとき、いろんな資料くれたけど面倒でさ。だから適当に向こうから来てくれる感じで楽をしたんだ。
 そして集まってくれたのがこいつらだから……てか、何で俺なんかにと思う。一人は理由知ってるけど、他は何だろうな?
 憧れとかならやっぱり恥ずかしい。だけど慕ってくれてるのは間違い無いし、こいつらにも俺のあんな一面を見せる訳にはいかない。
 だからもっとしっかりと気を持て俺!!


「よし、こっちも終わった。これから本隊と合流するぞ」
「はい!」


 俺達は走り出す。もしかしたらこれがガイエンの言ってた責任感とかなのかも知れない。俺にも慕ってくれる人たちが居るのなら、それらまとめて背負ってみようと思う。
 もう少し、大きく手を広げればこの位の人数はきっと守れるさ。そうきっと。




 幾ら拭っても雨が目に入ってくる。鳴り響く雷鳴がいつ頭上に落ちるかと思うと、幾らゲームでもゾッとするな。地面を這うように生えている蔦に足を取られない様に急ぎながら来た道を戻る。
 だけどなかなか本隊が見えない。てかそもそも来た道ってどこだっけって感じだ。雨足が強すぎて数メートル先も見えないし、上も見れない。
 だから俺は思わず聞いた。


「あのさ、こっちで良かったよな?」
「……多分?」
「もしかたら……」
「その筈?」


 思い思いの言葉が返ってくる。だけど誰も違うともあってるとも言わない。マジで迷ったとかか? 
 でも真っ直ぐに進んできただけだぞ。それで迷うなんて幾ら視界悪いからってな……それよりも、もしかしたら本隊が移動したとかかも知れない。
 だけどその場合も、何の連絡も来ずに動くなんてあり得ない事。だってこんな状況でバラケるなんて危険すぎだろ。そんのガイエンが分かってない筈無い。


 でも未だ本隊の影も形も現れない。激しく続く雨音と、暗雲に竜の如く走る稲妻が空しく感じた。本当にどういう事だよ。
 俺達はその場で立ち止まって周りに目を凝らしてみる。だけど


「何にも見えないですね」
「こちらも同じ」
「こっちも同じです」


 やっぱり道を間違えたのか? 本隊はかなりの大人数。近くにいれば直ぐにも分かりそうな物なのに、まだ見えないってこれは結構お手上げだ。
 その時、違う足音が俺達に向かってくるのが聞こえた。


「誰でしょう? まさか敵と鉢合わせとか? それだと最悪ですね」


 そんな事を言うゼブラのせいでみんなが固まって息を飲む。だってそれは冗談に聞こえない。マジで敵なら確かに最悪。
 でもよくよく聞いてみるとそんなに雨を踏む音は多くない。てか一つ分しか聞こえない。それならどうにでもなる。
 俺は一歩前に進み出て足音の主を待つ。すると雨をかきわけて一人のエルフが現れた。


「うわ!? ってああ、アギト様ですかよかったぁ」
「ああ、こっちも良かったよ」


 まさに天の助けだ。こっちはどこに行けば良いかも分からなかったからな。
 でもこいつは何だか俺達を探してたみたいだし、これで本隊と合流できるだろう。


「それじゃあ早速本隊まで連れてってくれよ。そのために来てくれたんだよな?」
「え? あ~そうですよ。勿論その通りです。ガイエン様が心配して捜索隊を動かしたんですよ」
「なるほどね。まあアイツが心配してるのは作戦への影響だろうけど……」


 きっと多分な。俺はガイエンの事分かってるつもりだからな。不本意だけど。だからこそガイエンも俺の事を分かってる。それは不愉快。


「はは、そんな事ないですよ。だって二人は戦友でしょ? 本心ですよ。捜索隊を出したのは。まあだけど今は急ぎましょう。こっちです」


 そう言って迎えに来たエルフの一人が先頭に立って俺達を誘導してくれる。これで無事に本隊と合流できるだろう。
 この雨のせいでまさか闇雲に動き回った結果、敵の本隊と出会す……なんて事から避けられただけでも良いことだ。
 てか何かやっぱり道が違ったみたいだな。そっちかよ! って言う方向に前を走る奴は向かってる。


「なあ、本隊って移動したか?」
「いえ。最初の場所のままですよ。仕方ないですよ。この雨の強さですからね。全然周り見えないし、戦ってる最中にきっと動き回って、帰る方向を見失ったんでしょう」


 確かに言われてみればそうだな。戦闘の間に動けば、幾ら真っ直ぐに来たって分からなく成るものかも知れない。この雨じゃ……それも仕方ないといえる。
 でもそれだと問題がある。それはこの侵略の勝利条件だ。


「おい、ガイエンの奴はこんな状況でどうやってシンボルを見つける気だ? これじゃあシンボルを見つけた捜索隊が戻ってこれなく成る事だってあり得るだろ。
 そうなったら意味ないし、だけど大人数を伴ってくまなく探す時間なんて無いぞ」
「そこは捜索隊の人たちには覚悟を決めて貰って、見つけ次第即刻シンボルの破壊が許可されてます。だから誰かが敵よりも早く見つけるのが理想的ですけど……」


 今この地を持ってる国のシンボルを見つけて破壊する。それがこの侵略戦の勝利条件。それはこのフィールドのどこかにある。
 広大なLROのフィールドだ。普通なら部隊を幾つもに分けて連絡取り合いながらやる事。それは常に本隊が状況を判断しながら指示を送るためだが、今はそれが難しい。
 一つ一つの部隊が孤立した状態での捜索じゃ、いざって時に助けも呼べないし……密に連絡取れないって事は、最悪見つけた直後にやられたりしたら俺達は誰も知ることが出来ない。
 もしも既に敵がシンボルを発見してても、それを知らせる事も出来ないんじゃ、戦力を削り続けてる様な物だ。ま、条件は向こうも同じだと思うが……どっちに神様がサイコロを振るかだな。
 俺は前を走る奴に、重い言葉を返す。


「理想的な事が運良く起こればな……だけど、この豪雨の時点でこっちに運は向いてないっぽいよな」
「それは……」


 俺の言葉に返す言葉がない様子。だって向こうは人とウンディーネの混成連合。この雨が既に向こうへの祝福とも取れるかも知れないからな。
 人は普通だけども、ウンディーネ族は特殊だからな。アイツ等、水のあるところでは異様に強いんだ。それに唯一、水中で息できるし。
 ウンディーネの国はそれこそ海の中にある。他の種族は攻められないから安全で外野を決め込んどけば言い物を、何でよりによって人と手を組んだのか。
 まあウンディーネも多い方じゃないから、どこに付くのが賢いかとかを考えたんだろう。アイツ等の領土は広大と言っても海だけだから、これを気に陸地にあがろうとしてるのかも。
 でもその標的がアルテミナスとは頂けないな。魚臭くなりそうじゃん。


「大丈夫ですよ。アイリ様とアギト様とガイエン様が居れば、人にも、ましてウンディーネ何て弱小な奴らには負けませんよ。
 だって奴らは水しか特性がない奴ら。今までの侵略戦でも奴らが何かしてるの何て見たことありません」


 まあ、ゼブラのそんな言葉も最も何だ。確かに今までの連合の中じゃ、ウンディーネは特にこれと言って驚異なんかじゃ無かった。
 言う成ればフツー。可もなく不可もなく、残る印象はその姿くらいだった。ウンディーネは数が少なくて、なかなか見ないから物珍しいんだよな。
 俺達エルフは長い耳だけど、奴らは飾りの様なヒラが付いていて、透き通る様な肌は常に水々しい感じ。何だか光沢があるんだ。
 それに水の中では人魚とかに成れるとも聞く。だからそれにふさわしいだけの美しさが有るんだ。まあ人の女が優しさとかを表すなら、俺達エルフの女性は凛とした力強さ、そしてウインディーネは神秘的って感じだな。


 誰にだって当てはまる事じゃないけど、大きく見たらそんな特色が有る。そしてそんな神秘的さは外見だけじゃない。
 ウンディーネって一つだけ国も離れてるし、行くのが大変だしで、ウンディーネをやってみないとわからないって事が多々ある。
 それは他の種族には大いなる謎で、余り公開もされない事。少ない種族だからこそ、結束も堅いのかも知れない。だから俺達が知らない、武器があったっておかしくないと思うんだ。
 それに人も、足手まといにしか成らない奴とは組まない筈だし……何だか不安がくすぶる感じだ。この大雨が気持ちを抑えてるのかも知れない。
 さっきからバケツをひっくり返した様な水量がのし掛かってきてるから決して比喩表現じゃ無いぞ。これじゃあある意味、ウンディーネが得意な水の中と変わらないんじゃ無いかと思うほど。


「……!! 待てよ」


 そう思った瞬間に俺の頭に引っかかりが出来た。だってそもそも、この雨の量はおかしくないか?


「どうしたんですかアギト様?」
「おい、お前等このフィールドでこんな激しい雨に打たれた事ってあるか?」


 俺はそんな質問を部隊のみんなに投げかける。すると直ぐに次々と雨の中、声が聞こえてきた。


「これほど激しいのは初めてですけど」
「だけどここって良く雨降っていますよ。それも強いのが。雷が常に起きてる場所ですからね。これだけ強い雨がたまたま降ってもおかしくないですよ」
「「だよな~」」


 みんなの意見は別におかしくは無いって事か……それは俺もそう思う。ここは普段から雨振ってるから、俺もそう思ってた。
 だけど、タイミングが良すぎな気もする。ウンディーネの事を考えてて思ったんだ。奴らは水特性に徳化してる。でもそれって確かに、ゼブラの言うようにとても限定的だ。
 器用貧乏でも人の方が対応力はずっと高い。でも、もしも奴らがその隠された力で自分のフィールドを作れるとしたら?
 相手をそこに引きずり込めるのなら、これほど有利に戦える事はないんじゃ無いか? 


「どうしたんですかアギト様? 顔色が悪いですよ。さっきの話……まさか、この雨はウンディーネ共のスキルか何かで既に我らは奴らの術中にはまってるとでも?」


 前を走る捜索隊の奴に見透かされた様に考えを突かれてしまった。すると周りからは冗談みたいな笑いが起こる。まあこれも当然。
 天候を操る程の魔法なんて聞いたこと無いからな。しかもそれを今まで目立つ活躍を何もしてないウンディーネがやるとは思えない訳だ。
 でも俺は、そう考えると不安もあるけど、何だか心が少し疼く様な気がしてくる。


(今までと同じじゃつまらない……)


 そんな思いがずっとあったから思わずそう考えてる自分がいる。このうるさすぎる雨の音の中って単調でさ、考えがいつの間にかフッした瞬間深くなるんだ。
 そしてそのせいで俺はまたこんな事を考えてしまった。


(いやいや、そういう可能性も考慮して動いた方が、いざって時の為になるって事だから!! そう絶対に!!)


 俺は首を振って今の自分の考えに正当な理由を必死に後付け。そして前の奴に言葉を返す。


「笑い事ならそれでいいんだよ。だけどもしもこの雨が敵の仕掛けた事なら……それは不味いだろ? 俺たちは必ずアルテミナスを元の在りように戻す。それがアイリの意志だ。
 どこも見捨てる訳には行かない。だからいろんな事も考えて置かなきゃだろ? 偶然か、それとも必然か……な」


 そんな俺の言葉にいち早く返してきたのは、前の奴じゃなくゼブラだった。何だか異様に興奮して迫ってくる。


「流石アギト様です! いろんな細かな所にまで気を配ってるんですね。そうやってきっとアイリ様を守ってきたんですね! 尊敬します!」
「いや……まあ、程々にな」


 やっぱりこいつはちょっと暑苦しいな。とか思ってると、周りの奴らも何だか目が輝いてるような? 
「アギト様はやっぱり凄い! 俺たちが気付かない所にまで……流石です!!」
「私たち全員尊敬してます!!」
「あ……あはははははは……」


 どうやら俺の部隊のみんなは全員同じ人種の様だ。この時初めて、人選をもっと考えて置くんだったと思った。だけど同時に、「まあいいか」っ思う気持ちもある。
 俺は何も、人の好意を斜めに扱う酷い奴じゃないからさ。こんなに好意を向けられる事がイヤな訳じゃないんだ。ただ成れてないだけ。
 だからどうしても困る気持ちが先に来るんだ。そんな俺たちを見て前を行く奴は、心なしか笑い気味にこう言った。


「くくっ、そうですね。ちゃんと自分から伝えておきますよ」
「別にアンタからで無くても、本隊ともうすぐ合流できるなら自分で伝えるぞ」


 だってこの状況でガイエンの野郎もイライラしてると思うんだ。そんな中に不覚定な情報持っていったら、まず怒りそうだからな。
 俺のせいでそんな罵声を浴びせるのは忍びない。その分俺は馴れてるし、抵抗出来る。それに重要な事は直接言いたいからな。
 負けるわけには絶対に行かないし。後二つ。ここともう一つを取り戻せば終われるんだ。そしたらアイリを責任という重圧から解放できる……その筈だ。


「そうですね。ガイエン様にもその方がいいかも知れません……」
「ああ、そうするよ」


 痛いくらいの雨の嵐。そんな中を俺達は走り続けてる。実際は声を聞き取るのも大変だから、俺達はそれなりの声を出していた。
 だけどその時、その一瞬……前を走る捜索隊の彼は何とかギリギリ聞こえる位のこえでこう言ったと思う。


「……合流出来たらだけどな」
「ん?」


 確かに俺の鼓膜はそんな言葉に震えた筈だ。聞き間違いと信じたいが、あの一瞬に感じた寒気は多分雨だけじゃない。
 そう言えばさっきから随分走ってる……本隊が動いて無いなら、これもおかしな事じゃないか? こんなに離れてる訳ない。


「おい、本隊はまではまだなのか? 流石に遠すぎだろ?」
「もうすぐですよ。もうすぐ……」


 周りのみんなはそんな言葉を疑ってもない。俺だってあの言葉を聞いてなかったらそうだろう。だけど……


「もうすぐってどれくらいだ? おい!」
「はあ、何か感づいた? でも遅い。冥途の入り口には到着しましたよ。言ったとおりに」


 その瞬間豪雨を突き破って、何かが飛んできた。これは間違いなく攻撃。ハメられた? でも何で? アイツもエルフだ。俺をハメる理由なんて……考える事、疑う事が多すぎて何を信じれば良いのかわからない。
 雷鳴轟くこの場所で、交錯してる思いは今までの様に単純じゃない様だ。

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