命改変プログラム
最後の抱擁
ガチャっと音を立てて扉のノブを回す。中に入るとそこにはアイリを含めた数人の姿が見える。それぞれ部隊を率いる隊長クラスの奴らだ。
「アギト」
そう呟いて小さく手を振るアイリ。この部屋で一段高くなってる所に設置されてる豪華な椅子に鎮座してるアイリは、やっぱりちゃんとした待遇されてるな。
まあだけど、そこの横にさも当然の様に進み行くガイエンの野郎はどうかと思うけどな。
「おいアギト。さっさと空いてる席に着け。会議を始めるぞ」
「うぐ……」
どうせなら二人でアイリの横で良いような物だろうに、ガイエンの奴はそれを許さない。でもここでそんな些細な事で言い合う訳にも行かない。
折角今はエルフ全員が一致団結してる時なんだ。余計ないざこざはアイリの為にもならないし。それに……アイリが撰んでくれたのはアイツじゃなく俺だったって自信がある。
渋々、他の面々の前を通って一個余った端の席を目指す時に再びアイリを見る。すると少し申し訳無いような顔で応えてくれたから、俺は少しだけ微笑んで別に気にしてない事を伝えるさ。
だってアイリの指には、今日も忘れずにあの指輪が光ってる。それは俺との絆の証。だから大丈夫。今は俺もアイリの為に出来る事をやるさ。
ガイエンが隣を牛耳ってもアイリの心はこっち側にあるんだからな。この騎士の力だってその証だ。
席に着くと早速ガイエンが一歩壇上から俺たちを見下ろしながら次の目標とその作戦を話始めた。まあ最近はいつもこんな感じだ。俺たちを集めるのはそれを伝える為と、最終的な調整な感じの為。
会議って言っても既に大方はガイエンが決めてる。まあでもそれがこいつの仕事か。気に入らなければ反対も出来るし、ちゃんと意見も聞くんだし正当だな。
俺たちとガイエンの間にはホログラムで浮かびあがった今度のフィールドの全体図が示されてる。どうやら次の奪還地は雷雲轟く危険地帯『バスチル雷招林』らしい。
アルテミナスの端にある、ぶっちゃけると結構どうでも良いような場所だな。林ってなってるけど実際は木とかあんまりなくて競り立ったクリスタルが、常に鳴り響く雷の避雷針となってる場所。
でも偶に漏れて来た雷が地面を直撃したりしてるから危ないんだ。それに常に雨で薄暗く、その中で戦闘って心なしかいつもより体力を奪われる気がするんだ。
HPは減らないけどさ、気持ちの問題。だけどアイリは元のアルテミナスの姿を取り戻したいから、幾ら端の危険地帯でも放っとく事は出来ないか。
まあなら異論は無いよな。でも何でまずここなんだ? 後一つ奪還地は有ってそっちは街道もある重要地だろうに。俺はその事をそれとなく聞いてみる。するとこんな事を言われた。
「お前も少しはアルテミナスの史実でも図書館で学んで見ろ」
てさ。どうやらちゃんとした理由が有りそうだな。
「何だよ、別にそこら辺はお前の役目だろ。いいから理由が有るなら教えろよ」
自分の事を棚に上げて取り合えず話を促す俺。すると何だかガイエンの奴は少し不機嫌そうな仏頂面を構えてる。何かそんなに気を悪くするような事を言ったかな?
するとガイエンの代わりに、後ろから進み出て来てくれたアイリが話してくれる。
「バスチル雷招林はね、アルテミナスその物のエネルギー供給地って言われてるの。絶え間無く降り注ぐ雷をクリスタルでエネルギーとして地面に伝えてるって、そう言われてる。
だからあそこは重要なの。アルテミナスのいわば聖地だよ」
「ふ~んなるほどな」
それは知らなかった事実だ。じゃあカーテナが扱う力の源もあそこなのか。ただの危険地帯だった訳じゃないんだな。
「そう言うことだ。あの地が再びアルテミナスに戻れば、カーテナの力も増幅するかも知れない。それは必要な事だ。だからまずはここを取り戻す。
いいか、戦陣は貴様がきれ。初めの騎士の貴様がふさわしいだろう?」
「上等だ」
それは今更な役目。散々やってきた事だ。だけどその時周りから否定的な声が出た。
「よろしいでしょうか。およばずながら、アギト様は戦闘中、多々作戦無視をされます。それは行き過ぎた無茶です。
貴方は大丈夫かも知れませんが、今は貴方を慕う多くの部下を持っている事をお忘れ無き様にお願いしたい。いいえ、貴方の場合仲間と言った方がよろしいかな。
とにかく、今度の戦闘ではくれぐれも作戦に従事して頂きたいな」
「う……」
その一人の発言で俺へ視線が集中する。まあみんながそれなりに迷惑してたのは知ってるけど・・俺にも俺の事情ってのが有るんだよ。
「でもな、その作戦無視で助けられた奴だっているし、良かった時だってある」
「それは結果論だアギト。作戦は何通りも有るんだぞ」
確かにガイエンは敵側の救援とかいろんな事を想定して何通りか作戦を立ててる。ここに入るみんなはちゃんとそれに従って戦闘してるわけで・・作戦をかき乱すのが仲間に入られたら困るのもわかる。
だけど自分の中では、あの事態でああしなければって思うんだ。そして自分なら出来ると疑わない。
「確かにそうかもしれない。結果的に良かったし、上手くいっただけかも知れない。じゃあ、目の前で作戦からはじかれたり、お前の予想外で仕方なくやられてろって言うのかよ。
それこそ、俺達は仲間だろう! 仲間が危ないなら助けるのは当然で、俺はそれが間違ってる何てどうしても思えなねえよ」
このたった数人が入ってる、それなりに広い部屋に俺の声が響きわたる。間違った事は言ってない。その確証がある。そしてその証拠に、みんなが口を噤んだ。
これからも仕方なく作戦無視をするかも知れないって言ったのに。だけどその時壇上から冷静な声が響いてきた。それは勿論ガイエンだ。
「仲間か。別に構わんが、これだけは知っておけよアギト。お前のその作戦無視の行動が、常に貴様の大事な仲間達を危険に晒す事に成ってるって事にな。
私達はもう、個じゃなく団体なんだ。一人を助ける為に全員が全滅したら本末転倒も良いところだ。切り捨てる所は切り捨てろ。
別に死ぬ訳じゃないんだよ。自分のせいで負けたと思わせるより、自分の犠牲で勝てたと思える事がLROでは出来るだろう」
「「おお」」
ガイエンの言葉の後に、そんな関心するような呻きが沸いた。俺も成る程って思えた言葉だ。もしかしたらガイエンの言ったとおりの事の様に考えられるのかも知れないな。
LROはゲームなんだから。俺達は国同士で戦争してるけど、リアルでのそれと違って戦いの後でもみんなが居る訳だ。戦闘中にやられたって、消えてなくなる訳じゃない。
何気ない顔で戻ってこれる訳だし、仲間の死さえ作戦の内に出来るのか。自分のせいで負けるのは誰だってイヤだしな。
これだけの人数が動いてると特に。それならあの時の自分の行動が、自分の犠牲が、勝利に繋がったと思える方がいいのか。
俺が自分の中でいろんな考えを巡らせてると、ガイエンが調子に乗って更に続けてくる。だけど今度の言葉は全然予想外な言葉だった。
「それに……貴様は本当に仲間の為にそれをやってたのか?」
その言葉を静かに告げられた時、胃の所が何だか重く成ったように感じた。どうしてかはわからないが、自分の中でもその言葉の意味が回ってる。
「どう言うことだよガイエン」
そして結局聞き返す事しか出来ない。容赦とか遠慮とかを知らないこいつにさ。
「だから本当に貴様はその誰かを助ける為だけに作戦無視をしてたのかって事だよアギト。本当はただの貴様の独りよがりな行動だった……何て事も有りうるんじゃないか?」
「意味……わかんねーぞお前。仲間の為じゃなかったら、何で単身で敵軍に突っ込む? 俺に自殺願望はねーぞ」
ドクンドクンと何故か妙に心臓の鼓動が聞こえてた。自分でも何だかおかしいと分かってる。俺は一体、何を恐れてるんだろう。
一体どんな言葉が突きつけられると思ってる?
するとガイエンは上から俺を見下ろしながら観察する様な目をしてる。そして直ぐ隣では、何だか心配そうに俺達を見つめるアイリの姿。
今止めた方がいいのかどうか迷ってるみたいだ。だけどやっぱりアイリが決断するより早くガイエンの口が再び動いた。今度出た言葉は絡み付く様な感じ。
「それだな……」
「は?」
「貴様のこれまでの作戦無視の行動は無茶とか無謀としか言いようが無い物ばかりだ。だが貴様は今ハッキリと自殺願望は無いと言った。
果たしてあの状況で、自分が倒されるかも知れない可能性を万に一つも入れないか? もしもそうなら、それは自分の力に絶対的な自信でも有るのか・・ただ単にバカなのか、どっちかだ。
そして少なくとも貴様はバカではない」
「…………」
何だか初めてガイエンに面と向かって誉められたかも知れない。あんまり良い気はしないけどな。そして更にガイエンは言葉を続ける。
「ならもう分かるだろう。残ってるのは一つ……貴様は自分がやられる筈はないと信じ、自分なら絶対にその仲間って奴を助けれると思ってた。
だが貴様の目的は実は、仲間じゃ無かったんじゃ無いのか? 貴様はただ単に証明したかった、自負したかっただけ……自分が手にした力の大きさって奴を。
そうじゃないのか?」
「なっ!?」
「そっ……れはあんまりですガイエン!!」
自分の驚きとアイリの怒りが重なった。だけど何でだろう。更に心臓の鼓動は早く成ってる。ドクンドクンなんて物じゃない。ドクドクと血流が体を巡ってる。
それにアイリの怒りに沸いて来る感情は嬉しさじゃく、どこか居心地が悪い感じ。これってどういう事だよ。だから俺は必死にガイエンの言葉を否定する。
「ちがっ! そんな訳……そんな訳無いだろ!! 俺はグラウドとかとは違うんだ!!」
「それは知っている。だけどなアギト。強大な力は人の心を容易に捕らえるぞ。私もアイリも貴様もそれは知ってるだろう?」
そんな言葉で浮かぶのはやっぱりグラウドの姿。あの力に取り付かれた姿……あれと今の俺が同じとでも言いたいのかコイツは。
力に心を捕らわれてるってか? そんな筈……そんな筈無い。あってたまるか。でも……あの時、作戦無視して大量の敵を相手にしてる時に俺は何を考えてた? 俺はあの時、本当に後ろに居た仲間を見ていたか……その自信が無い。
目の前の敵をただ倒して倒して、そして一人だけその場に立っている事、無事なこと……それに変な優越感を感じた?
(いや……あれは安心なんだ。仲間を助けれた事への安堵感。その筈だ)
そう自分に言い聞かせてた。そうだよな? その筈だ。その考えに間違いなんて有るわけ無い。
「ガイエンはアギトが力に捕らわれてるって言いたいの? アギトに限ってそんな事あるわけないよ!」
「落ち着いてくださいアイリ様。何も私はアギトがグラウドと同じに成ったと言ってるわけじゃないですよ。ただ最近は、何だか妙に自信有り気なコイツが気に入らないだけです。
そしてその自信がどこから来てるのかを考えるとどうしても……別に強い力を責める気なんて無いですよ。それはアルテミナスにとって必要ですから」
ガイエンはそう言ってアイリの興奮を冷まそうとする。するとガイエンの丁寧語にアイリも色々と周りの目とかを気にして冷静にこう言う。
「そう……そうですよ。アギトは必要なんですから」
そしてこちらをチラリと見て、微笑んでくれる。だけど俺はその微笑みにどう返しただろう。ちゃんと笑えたか分からない。強ばってたかも知れない。
だって……俺は……
「だがな、これだけは言わせて貰うぞ。その力はお前の物じゃない。ただの借り物だ。勘違いして浮かれるなよアギト」
「ああ、分かってるさ・・そんな事」
勘違い……してるのかな俺は。そう思いながらも、ガイエンの言葉に分かってる風に答えておいた。実際は、もっと食いつきたかったけど、俺はもしかしたら今の自分に自信が無いのかも知れない。
本当に確実に……ガイエンの言葉を否定出来ないんだ。このナイト・オブ・ウォーカーは借り物の力。カーテナによって与えられた力。もしも本当に、今までの侵略戦でやった無茶を自分の力だと言いたいなら、俺が今まで使ってきた槍でやれなければ意味は無いのか。
でもそんなのあり得ない……そう思ってる自分が居る。出来ないだろう。加護とこのスキルがなければさ。それを思うと、やっぱり俺は与えられた力に酔ってた所はある。
ヤバいな。言われるまで気づかなかった。自己嫌悪に陥りそうだ。だからもう一度俺は言う。
「分かってる」
それは自分に言い聞かせる様にしてた。
それからその問題はひと段落して当初の予定通り、俺が先陣って事はそのままになった。それから会議も終盤で、それぞれが気になる事を思い思いに言う感じに成ってた時にその話は出た。
「そう言えば、最近『レイアード』が復活したとか聞きましたよ。お三方には因縁のある所ですし、恨みだってもしかしたら買ってるかも知れません。
今更、再びそんな物を結成した意味は分かりませんが、何やら周りを嗅ぎ回ってると聞きますし、注意した方が宜しいかも知れませんよ」
「『レイアード』が? それ本当?」
「まあまだ確証では無いですが、そういう物達が城下で過激な発言をしてると聞いてます」
レイアード……その言葉にアイリは沈痛な面もちをしてる。実際、前のレイアードを潰したのはアイリみたいな物だからな。
実際は俺達三人でグラウドを倒した訳だけど、カーテナを手にして戻ったのはアイリだったから。そして頭をやられたレイアードは綺麗に消えていた訳で。
それはもう見事な位だった。アイリは俺と違ってさ、少なくとも仲間とそれなり思ってたみたいだし。事情を話そうと考えた。
だけどそれをする前に、きっと俺達を恨んだままレイアードのみんなは消えた訳で……それを何とも思わないアイリじゃない。
ずっと誤解を解きたいとか思ってた筈だ。
「あの……今のその過激な事を言う人たちの中に……グラウドは居るんですか?」
その名がアイリから出たとき、ついさっき聞いた言葉が脳裏をよぎる。グラウド……そしてガイエン。これはアイリに伝えるべき事なのか?
「いいえ。レイアードの元リーダーですよね? そいつの外見は知ってる者も多いはずですけど、まだ見たとは聞きませんね」
「じゃあ一体誰が……いえ、それなら……」
アイリはブツブツ言いながら思考の世界へ入ってく。どうせグラウドがいないならちゃんと説明出来るかも知れないとか考えてるのだろう。
だけどそこでガイエンがアイリの肩に手を置いて言う。
「大丈夫ですよアイリ様。グラウドがいないのならただの烏合の集。何を企んでるか知らないが、我らとは規模が違う。何なら捻り潰しときましょうか?」
「だ……ダメだよそんなの。あの人達だって私達が守るべき存在です。私達が傷つけたんだし……何も知らないからすれ違ってるだけです。
ちゃんと話せば分かってくれる。私達仲間だったんだから」
何かに願いを込める様なアイリの言葉。するとそれを聞いたガイエンは結構意外な事を言った。
「まあ、アイリ様がそう言うのなら。だけど念の為に護衛をつけましょう。それと出来ればその意に添える場を取り次げましょう。
それまでは会わない方がいい。変な誤解が出来るといけないですし」
「分かりました」
「アギトも、レイアードの奴らに何かされても耐えとけよ。余計な事はするな」
「ああ、だけど別にアイリに護衛が必要か? 安心は出来るけど、アルテミナス内でアイリにかなう奴なんて居ないだろう」
カーテナを持つアイリは、アルテミナスでは最強だ。それはエルフなら誰もが知ってる事だからな。いくらレイアードが過激な奴らだからって、そのアイリに直接的な事をするわけも、出来る訳もない。
それはガイエンだってわかってるだろう。
「私、そんな化け物じゃないよ」
「そうだぞ、奴らが直接的手段だけで来るとは限らない。それに安心するのならそれでいいだろう。お前は日が浅いから知らないだろうが、あいつ等はしつこいぞ」
その言葉に俺とアイリは息を飲む。不安に成ることを言いやがる奴だ。まあでもそれなら……
「アイリがいいなら、護衛もいいかもな。それにトップにはそれが普通だし」
てかそれはアイリの騎士である俺の役目ではないだろうか? でも実際はそれがなかなか出来ないんだよな。侵略戦はアルテミナスから離れるし、アイリはここから離れられない。
どっちも大切な役目だからな。
「私もガイエンも信じるよ」
「ああ、お任せを」
そう言って頭を下げるガイエン。これで大丈夫な筈なんだよな。ガイエンが実際にグラウドと会ってた確証は無いし、もしもそうだとしてもこれならアイリに何か出来る訳はないと思う。
ガイエンを信じると言ったアイリの為にも、何も起こらずにこのままこの事態が収束していけばいいんだけどな。それにはこの次と次で、確実に領地を取り戻す。
それが最前で最速の方法だ。
会議の終了後、一人で長い廊下を歩いてると、後ろから追いかけてくる足音に気づいた。振り返るとそこにはアイリの姿がある。
長いスカートを靡かせて走り難そうにしながら追いついて来た。
「何だよアイリ? 護衛をつけるって言ったそばから独走してたら世話無いぞ」
「護衛なんてまだ誰が付くかも決まってないもん! そんな事より、大丈夫?」
いきなりのそんなアイリの言葉にビックリだ。下からのぞき込む様な態勢なのもヤバいかも。それにこんな夕刻時……黄昏てる光が斜めに差し込んで何だか幻想的だ。
そして俺達が居るのは城の中。大きく長い廊下に今は二人だけ。いつも世話しなく聞こえてる足音が消えていて、特別な場所の特別な時間の様な気がして来る。
でもあんまり心臓が早く成ってるのを悟られたくないから何でも無い風に装う。
「何の事だよ」
「さっきガイエンに言われてた事だよ。アギトは力の誇示の為に作戦無視をやってるって……私はそんな事ないと思うよ。
アギトはそんなわけない……だって、ちゃんと誓ってくれたもん」
そう言って差し出された手には銀色の指輪が黄昏の光を浴びて輝いている。俺はそんな手を同じ指輪が光る手で取った。絡ませた指から伝わる温もり……それがいろんな不安を流していく様な気がする。
この暖かさを……この笑顔を……俺はいつから守りたいと思ったんだろう。誰に何を言われようと関係なんか無いんだ。
俺はただ守りたい。アイリとアイリが守りたい全部を余す事無くだ。だからそのためにどんな時だって、やっぱり見捨てるなんて事は出来ないんだよな。
それが答えで……今はいい。俺はそのために、この力を使うと誓ったんだ。
「アイリ」
「はい――きゃ!?」
彼女のストロベリーブロンドの髪が優しく浮いた。黄昏の光がそんな髪を照らしてキラキラしてる。一気に引き寄せてアイリを胸に抱く。
アイリの香りが一杯に伝わってくる。細い体を抱きしめるとその温もりが伝わって来る気がする。何回だって求めたいこの温もり……絶対に放したくない存在がここにある。
それを確認出来る。すると背中にソッと添えられる手の感触が伝わってくる。
「ありがとう。絶対に守って見せるから」
「うん……」
温もりが何倍にも感じれた。今この瞬間。俺たちはきっと同じ事を思ったと思う。
『時間よ止まれ』
てさ。
「アギト」
そう呟いて小さく手を振るアイリ。この部屋で一段高くなってる所に設置されてる豪華な椅子に鎮座してるアイリは、やっぱりちゃんとした待遇されてるな。
まあだけど、そこの横にさも当然の様に進み行くガイエンの野郎はどうかと思うけどな。
「おいアギト。さっさと空いてる席に着け。会議を始めるぞ」
「うぐ……」
どうせなら二人でアイリの横で良いような物だろうに、ガイエンの奴はそれを許さない。でもここでそんな些細な事で言い合う訳にも行かない。
折角今はエルフ全員が一致団結してる時なんだ。余計ないざこざはアイリの為にもならないし。それに……アイリが撰んでくれたのはアイツじゃなく俺だったって自信がある。
渋々、他の面々の前を通って一個余った端の席を目指す時に再びアイリを見る。すると少し申し訳無いような顔で応えてくれたから、俺は少しだけ微笑んで別に気にしてない事を伝えるさ。
だってアイリの指には、今日も忘れずにあの指輪が光ってる。それは俺との絆の証。だから大丈夫。今は俺もアイリの為に出来る事をやるさ。
ガイエンが隣を牛耳ってもアイリの心はこっち側にあるんだからな。この騎士の力だってその証だ。
席に着くと早速ガイエンが一歩壇上から俺たちを見下ろしながら次の目標とその作戦を話始めた。まあ最近はいつもこんな感じだ。俺たちを集めるのはそれを伝える為と、最終的な調整な感じの為。
会議って言っても既に大方はガイエンが決めてる。まあでもそれがこいつの仕事か。気に入らなければ反対も出来るし、ちゃんと意見も聞くんだし正当だな。
俺たちとガイエンの間にはホログラムで浮かびあがった今度のフィールドの全体図が示されてる。どうやら次の奪還地は雷雲轟く危険地帯『バスチル雷招林』らしい。
アルテミナスの端にある、ぶっちゃけると結構どうでも良いような場所だな。林ってなってるけど実際は木とかあんまりなくて競り立ったクリスタルが、常に鳴り響く雷の避雷針となってる場所。
でも偶に漏れて来た雷が地面を直撃したりしてるから危ないんだ。それに常に雨で薄暗く、その中で戦闘って心なしかいつもより体力を奪われる気がするんだ。
HPは減らないけどさ、気持ちの問題。だけどアイリは元のアルテミナスの姿を取り戻したいから、幾ら端の危険地帯でも放っとく事は出来ないか。
まあなら異論は無いよな。でも何でまずここなんだ? 後一つ奪還地は有ってそっちは街道もある重要地だろうに。俺はその事をそれとなく聞いてみる。するとこんな事を言われた。
「お前も少しはアルテミナスの史実でも図書館で学んで見ろ」
てさ。どうやらちゃんとした理由が有りそうだな。
「何だよ、別にそこら辺はお前の役目だろ。いいから理由が有るなら教えろよ」
自分の事を棚に上げて取り合えず話を促す俺。すると何だかガイエンの奴は少し不機嫌そうな仏頂面を構えてる。何かそんなに気を悪くするような事を言ったかな?
するとガイエンの代わりに、後ろから進み出て来てくれたアイリが話してくれる。
「バスチル雷招林はね、アルテミナスその物のエネルギー供給地って言われてるの。絶え間無く降り注ぐ雷をクリスタルでエネルギーとして地面に伝えてるって、そう言われてる。
だからあそこは重要なの。アルテミナスのいわば聖地だよ」
「ふ~んなるほどな」
それは知らなかった事実だ。じゃあカーテナが扱う力の源もあそこなのか。ただの危険地帯だった訳じゃないんだな。
「そう言うことだ。あの地が再びアルテミナスに戻れば、カーテナの力も増幅するかも知れない。それは必要な事だ。だからまずはここを取り戻す。
いいか、戦陣は貴様がきれ。初めの騎士の貴様がふさわしいだろう?」
「上等だ」
それは今更な役目。散々やってきた事だ。だけどその時周りから否定的な声が出た。
「よろしいでしょうか。およばずながら、アギト様は戦闘中、多々作戦無視をされます。それは行き過ぎた無茶です。
貴方は大丈夫かも知れませんが、今は貴方を慕う多くの部下を持っている事をお忘れ無き様にお願いしたい。いいえ、貴方の場合仲間と言った方がよろしいかな。
とにかく、今度の戦闘ではくれぐれも作戦に従事して頂きたいな」
「う……」
その一人の発言で俺へ視線が集中する。まあみんながそれなりに迷惑してたのは知ってるけど・・俺にも俺の事情ってのが有るんだよ。
「でもな、その作戦無視で助けられた奴だっているし、良かった時だってある」
「それは結果論だアギト。作戦は何通りも有るんだぞ」
確かにガイエンは敵側の救援とかいろんな事を想定して何通りか作戦を立ててる。ここに入るみんなはちゃんとそれに従って戦闘してるわけで・・作戦をかき乱すのが仲間に入られたら困るのもわかる。
だけど自分の中では、あの事態でああしなければって思うんだ。そして自分なら出来ると疑わない。
「確かにそうかもしれない。結果的に良かったし、上手くいっただけかも知れない。じゃあ、目の前で作戦からはじかれたり、お前の予想外で仕方なくやられてろって言うのかよ。
それこそ、俺達は仲間だろう! 仲間が危ないなら助けるのは当然で、俺はそれが間違ってる何てどうしても思えなねえよ」
このたった数人が入ってる、それなりに広い部屋に俺の声が響きわたる。間違った事は言ってない。その確証がある。そしてその証拠に、みんなが口を噤んだ。
これからも仕方なく作戦無視をするかも知れないって言ったのに。だけどその時壇上から冷静な声が響いてきた。それは勿論ガイエンだ。
「仲間か。別に構わんが、これだけは知っておけよアギト。お前のその作戦無視の行動が、常に貴様の大事な仲間達を危険に晒す事に成ってるって事にな。
私達はもう、個じゃなく団体なんだ。一人を助ける為に全員が全滅したら本末転倒も良いところだ。切り捨てる所は切り捨てろ。
別に死ぬ訳じゃないんだよ。自分のせいで負けたと思わせるより、自分の犠牲で勝てたと思える事がLROでは出来るだろう」
「「おお」」
ガイエンの言葉の後に、そんな関心するような呻きが沸いた。俺も成る程って思えた言葉だ。もしかしたらガイエンの言ったとおりの事の様に考えられるのかも知れないな。
LROはゲームなんだから。俺達は国同士で戦争してるけど、リアルでのそれと違って戦いの後でもみんなが居る訳だ。戦闘中にやられたって、消えてなくなる訳じゃない。
何気ない顔で戻ってこれる訳だし、仲間の死さえ作戦の内に出来るのか。自分のせいで負けるのは誰だってイヤだしな。
これだけの人数が動いてると特に。それならあの時の自分の行動が、自分の犠牲が、勝利に繋がったと思える方がいいのか。
俺が自分の中でいろんな考えを巡らせてると、ガイエンが調子に乗って更に続けてくる。だけど今度の言葉は全然予想外な言葉だった。
「それに……貴様は本当に仲間の為にそれをやってたのか?」
その言葉を静かに告げられた時、胃の所が何だか重く成ったように感じた。どうしてかはわからないが、自分の中でもその言葉の意味が回ってる。
「どう言うことだよガイエン」
そして結局聞き返す事しか出来ない。容赦とか遠慮とかを知らないこいつにさ。
「だから本当に貴様はその誰かを助ける為だけに作戦無視をしてたのかって事だよアギト。本当はただの貴様の独りよがりな行動だった……何て事も有りうるんじゃないか?」
「意味……わかんねーぞお前。仲間の為じゃなかったら、何で単身で敵軍に突っ込む? 俺に自殺願望はねーぞ」
ドクンドクンと何故か妙に心臓の鼓動が聞こえてた。自分でも何だかおかしいと分かってる。俺は一体、何を恐れてるんだろう。
一体どんな言葉が突きつけられると思ってる?
するとガイエンは上から俺を見下ろしながら観察する様な目をしてる。そして直ぐ隣では、何だか心配そうに俺達を見つめるアイリの姿。
今止めた方がいいのかどうか迷ってるみたいだ。だけどやっぱりアイリが決断するより早くガイエンの口が再び動いた。今度出た言葉は絡み付く様な感じ。
「それだな……」
「は?」
「貴様のこれまでの作戦無視の行動は無茶とか無謀としか言いようが無い物ばかりだ。だが貴様は今ハッキリと自殺願望は無いと言った。
果たしてあの状況で、自分が倒されるかも知れない可能性を万に一つも入れないか? もしもそうなら、それは自分の力に絶対的な自信でも有るのか・・ただ単にバカなのか、どっちかだ。
そして少なくとも貴様はバカではない」
「…………」
何だか初めてガイエンに面と向かって誉められたかも知れない。あんまり良い気はしないけどな。そして更にガイエンは言葉を続ける。
「ならもう分かるだろう。残ってるのは一つ……貴様は自分がやられる筈はないと信じ、自分なら絶対にその仲間って奴を助けれると思ってた。
だが貴様の目的は実は、仲間じゃ無かったんじゃ無いのか? 貴様はただ単に証明したかった、自負したかっただけ……自分が手にした力の大きさって奴を。
そうじゃないのか?」
「なっ!?」
「そっ……れはあんまりですガイエン!!」
自分の驚きとアイリの怒りが重なった。だけど何でだろう。更に心臓の鼓動は早く成ってる。ドクンドクンなんて物じゃない。ドクドクと血流が体を巡ってる。
それにアイリの怒りに沸いて来る感情は嬉しさじゃく、どこか居心地が悪い感じ。これってどういう事だよ。だから俺は必死にガイエンの言葉を否定する。
「ちがっ! そんな訳……そんな訳無いだろ!! 俺はグラウドとかとは違うんだ!!」
「それは知っている。だけどなアギト。強大な力は人の心を容易に捕らえるぞ。私もアイリも貴様もそれは知ってるだろう?」
そんな言葉で浮かぶのはやっぱりグラウドの姿。あの力に取り付かれた姿……あれと今の俺が同じとでも言いたいのかコイツは。
力に心を捕らわれてるってか? そんな筈……そんな筈無い。あってたまるか。でも……あの時、作戦無視して大量の敵を相手にしてる時に俺は何を考えてた? 俺はあの時、本当に後ろに居た仲間を見ていたか……その自信が無い。
目の前の敵をただ倒して倒して、そして一人だけその場に立っている事、無事なこと……それに変な優越感を感じた?
(いや……あれは安心なんだ。仲間を助けれた事への安堵感。その筈だ)
そう自分に言い聞かせてた。そうだよな? その筈だ。その考えに間違いなんて有るわけ無い。
「ガイエンはアギトが力に捕らわれてるって言いたいの? アギトに限ってそんな事あるわけないよ!」
「落ち着いてくださいアイリ様。何も私はアギトがグラウドと同じに成ったと言ってるわけじゃないですよ。ただ最近は、何だか妙に自信有り気なコイツが気に入らないだけです。
そしてその自信がどこから来てるのかを考えるとどうしても……別に強い力を責める気なんて無いですよ。それはアルテミナスにとって必要ですから」
ガイエンはそう言ってアイリの興奮を冷まそうとする。するとガイエンの丁寧語にアイリも色々と周りの目とかを気にして冷静にこう言う。
「そう……そうですよ。アギトは必要なんですから」
そしてこちらをチラリと見て、微笑んでくれる。だけど俺はその微笑みにどう返しただろう。ちゃんと笑えたか分からない。強ばってたかも知れない。
だって……俺は……
「だがな、これだけは言わせて貰うぞ。その力はお前の物じゃない。ただの借り物だ。勘違いして浮かれるなよアギト」
「ああ、分かってるさ・・そんな事」
勘違い……してるのかな俺は。そう思いながらも、ガイエンの言葉に分かってる風に答えておいた。実際は、もっと食いつきたかったけど、俺はもしかしたら今の自分に自信が無いのかも知れない。
本当に確実に……ガイエンの言葉を否定出来ないんだ。このナイト・オブ・ウォーカーは借り物の力。カーテナによって与えられた力。もしも本当に、今までの侵略戦でやった無茶を自分の力だと言いたいなら、俺が今まで使ってきた槍でやれなければ意味は無いのか。
でもそんなのあり得ない……そう思ってる自分が居る。出来ないだろう。加護とこのスキルがなければさ。それを思うと、やっぱり俺は与えられた力に酔ってた所はある。
ヤバいな。言われるまで気づかなかった。自己嫌悪に陥りそうだ。だからもう一度俺は言う。
「分かってる」
それは自分に言い聞かせる様にしてた。
それからその問題はひと段落して当初の予定通り、俺が先陣って事はそのままになった。それから会議も終盤で、それぞれが気になる事を思い思いに言う感じに成ってた時にその話は出た。
「そう言えば、最近『レイアード』が復活したとか聞きましたよ。お三方には因縁のある所ですし、恨みだってもしかしたら買ってるかも知れません。
今更、再びそんな物を結成した意味は分かりませんが、何やら周りを嗅ぎ回ってると聞きますし、注意した方が宜しいかも知れませんよ」
「『レイアード』が? それ本当?」
「まあまだ確証では無いですが、そういう物達が城下で過激な発言をしてると聞いてます」
レイアード……その言葉にアイリは沈痛な面もちをしてる。実際、前のレイアードを潰したのはアイリみたいな物だからな。
実際は俺達三人でグラウドを倒した訳だけど、カーテナを手にして戻ったのはアイリだったから。そして頭をやられたレイアードは綺麗に消えていた訳で。
それはもう見事な位だった。アイリは俺と違ってさ、少なくとも仲間とそれなり思ってたみたいだし。事情を話そうと考えた。
だけどそれをする前に、きっと俺達を恨んだままレイアードのみんなは消えた訳で……それを何とも思わないアイリじゃない。
ずっと誤解を解きたいとか思ってた筈だ。
「あの……今のその過激な事を言う人たちの中に……グラウドは居るんですか?」
その名がアイリから出たとき、ついさっき聞いた言葉が脳裏をよぎる。グラウド……そしてガイエン。これはアイリに伝えるべき事なのか?
「いいえ。レイアードの元リーダーですよね? そいつの外見は知ってる者も多いはずですけど、まだ見たとは聞きませんね」
「じゃあ一体誰が……いえ、それなら……」
アイリはブツブツ言いながら思考の世界へ入ってく。どうせグラウドがいないならちゃんと説明出来るかも知れないとか考えてるのだろう。
だけどそこでガイエンがアイリの肩に手を置いて言う。
「大丈夫ですよアイリ様。グラウドがいないのならただの烏合の集。何を企んでるか知らないが、我らとは規模が違う。何なら捻り潰しときましょうか?」
「だ……ダメだよそんなの。あの人達だって私達が守るべき存在です。私達が傷つけたんだし……何も知らないからすれ違ってるだけです。
ちゃんと話せば分かってくれる。私達仲間だったんだから」
何かに願いを込める様なアイリの言葉。するとそれを聞いたガイエンは結構意外な事を言った。
「まあ、アイリ様がそう言うのなら。だけど念の為に護衛をつけましょう。それと出来ればその意に添える場を取り次げましょう。
それまでは会わない方がいい。変な誤解が出来るといけないですし」
「分かりました」
「アギトも、レイアードの奴らに何かされても耐えとけよ。余計な事はするな」
「ああ、だけど別にアイリに護衛が必要か? 安心は出来るけど、アルテミナス内でアイリにかなう奴なんて居ないだろう」
カーテナを持つアイリは、アルテミナスでは最強だ。それはエルフなら誰もが知ってる事だからな。いくらレイアードが過激な奴らだからって、そのアイリに直接的な事をするわけも、出来る訳もない。
それはガイエンだってわかってるだろう。
「私、そんな化け物じゃないよ」
「そうだぞ、奴らが直接的手段だけで来るとは限らない。それに安心するのならそれでいいだろう。お前は日が浅いから知らないだろうが、あいつ等はしつこいぞ」
その言葉に俺とアイリは息を飲む。不安に成ることを言いやがる奴だ。まあでもそれなら……
「アイリがいいなら、護衛もいいかもな。それにトップにはそれが普通だし」
てかそれはアイリの騎士である俺の役目ではないだろうか? でも実際はそれがなかなか出来ないんだよな。侵略戦はアルテミナスから離れるし、アイリはここから離れられない。
どっちも大切な役目だからな。
「私もガイエンも信じるよ」
「ああ、お任せを」
そう言って頭を下げるガイエン。これで大丈夫な筈なんだよな。ガイエンが実際にグラウドと会ってた確証は無いし、もしもそうだとしてもこれならアイリに何か出来る訳はないと思う。
ガイエンを信じると言ったアイリの為にも、何も起こらずにこのままこの事態が収束していけばいいんだけどな。それにはこの次と次で、確実に領地を取り戻す。
それが最前で最速の方法だ。
会議の終了後、一人で長い廊下を歩いてると、後ろから追いかけてくる足音に気づいた。振り返るとそこにはアイリの姿がある。
長いスカートを靡かせて走り難そうにしながら追いついて来た。
「何だよアイリ? 護衛をつけるって言ったそばから独走してたら世話無いぞ」
「護衛なんてまだ誰が付くかも決まってないもん! そんな事より、大丈夫?」
いきなりのそんなアイリの言葉にビックリだ。下からのぞき込む様な態勢なのもヤバいかも。それにこんな夕刻時……黄昏てる光が斜めに差し込んで何だか幻想的だ。
そして俺達が居るのは城の中。大きく長い廊下に今は二人だけ。いつも世話しなく聞こえてる足音が消えていて、特別な場所の特別な時間の様な気がして来る。
でもあんまり心臓が早く成ってるのを悟られたくないから何でも無い風に装う。
「何の事だよ」
「さっきガイエンに言われてた事だよ。アギトは力の誇示の為に作戦無視をやってるって……私はそんな事ないと思うよ。
アギトはそんなわけない……だって、ちゃんと誓ってくれたもん」
そう言って差し出された手には銀色の指輪が黄昏の光を浴びて輝いている。俺はそんな手を同じ指輪が光る手で取った。絡ませた指から伝わる温もり……それがいろんな不安を流していく様な気がする。
この暖かさを……この笑顔を……俺はいつから守りたいと思ったんだろう。誰に何を言われようと関係なんか無いんだ。
俺はただ守りたい。アイリとアイリが守りたい全部を余す事無くだ。だからそのためにどんな時だって、やっぱり見捨てるなんて事は出来ないんだよな。
それが答えで……今はいい。俺はそのために、この力を使うと誓ったんだ。
「アイリ」
「はい――きゃ!?」
彼女のストロベリーブロンドの髪が優しく浮いた。黄昏の光がそんな髪を照らしてキラキラしてる。一気に引き寄せてアイリを胸に抱く。
アイリの香りが一杯に伝わってくる。細い体を抱きしめるとその温もりが伝わって来る気がする。何回だって求めたいこの温もり……絶対に放したくない存在がここにある。
それを確認出来る。すると背中にソッと添えられる手の感触が伝わってくる。
「ありがとう。絶対に守って見せるから」
「うん……」
温もりが何倍にも感じれた。今この瞬間。俺たちはきっと同じ事を思ったと思う。
『時間よ止まれ』
てさ。
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