命改変プログラム

ファーストなサイコロ

砕けた鏡と無力な私



「やばっ!? すいませんっすアイリ様!!」
「え?」


 そんな声が聞こえたと思った瞬間。私の体が宙に投げ出されていました。幾つ物鏡の破片が砕け落ちていくのと同じように、私も投げ出された勢いのまま地面を転がります。


(どうして……いきなり、こんな……)


 鈍く体中が痛む中でそんな事を考えていました。でもそれはやんごとなき事情があったはず。ノウイ君は多分何かから私を守ろうとした結果。
 そう思います。だって彼は・・彼もアルテミナスの誇り高き騎士のだから。私をアギトの所まで必ず連れていくと言ってくれた。それに自分は戦闘得意じゃ無いのに、ここまでやってくれてる彼は信じれます。


 そんな彼の行動の意味。視線を上げると、そこには月の無い分光輝く無数の星空が見えました。だけどその星空を何かが寸断してます。
 夜空を汚すそれは、悪魔がイタズラして垂れ流した夜より暗いインクの様でした。淡い影が揺れているのがそう見える。
 だけどその中にしっかりとした何かがあるのかも知れません。夜空を遮るそれは一体?


「よかったっす……アイリ様は無事な様っすね」


 その時聞こえた声はノウイ君の物でした。だけど何だか心許なくなくて、息も荒い感じです。そして私は気付きました。
 夜空を寸断してるその黒い物が、ノウイ君の体と重なっています。そして更に後方へ延びてる。それはまさかと思わずに居られません。
 ただ私が見上げる形に成ってるだけだからそう見えてて、実は位置的にはズレてる……何て事じゃない。だってじゃああの辛そうな声は……私を投げた訳は……それが繋がります。


「ノウイ……君。それって……」


 だけどそんな風に聞いてしまう自分が居ます。また私のせいで誰かが犠牲になる。そんなのがイヤだから。きっと私を抱えてなければノウイ君はあれを避けれた筈です。
 戦いなんだから甘い事は無いのかも知れません。だけどついさっきまでの任せられる状況じゃもう無くなってる。二人の自信は焦りに変わって、感じてた暖かな包容力はビリビリと破れた感じです。
 それでも二人を信じてない訳じゃない。だけどさっきまでの様に『大丈夫』そう言って脱力はしてられません。それどころか、伝わる苦戦の色が体を無理にでも縛り付ける。
 息が……今はしずらいです。


「はは、大丈夫っすよ。ちょっと油断しただけっす。穴が開いた分、軽く成ったかもっすよ」


 ノウイ君は精一杯私に心配を掛けない様な事を言います。だけどズレてるよ。穴開いてる言っちゃってるし。そんな事言われたら、心配しないわけ無いじゃないですか。


「っつ……」


 ジャリ――っと私が腕に力を込めて進んだのはほんの二センチ程度です。完全に影に浸食された箇所はもう動きません。だから立つことも出来なくて……もしかしたら、親衛隊の加護とかにこの影も反応してるのかも知れない。
 出所が同じガイエンなら共鳴とかして、活性化してもおかしくは無いのかも。だけどそれでも私は、進むことを諦めません。


 引きずってしか前へ進めなくても、自分を守ってくれた人の事を諦めるなんて……それに私は背負ったんです。この国と、この国を愛してくれた全てのエルフを!!
 幾らあの城が自分にとって牢獄で、いつしか重荷にしか成ってなかった立場だったとしても、間違って無かったんだとノウイ君は再び気付かせてくれました。
 こんな私の役に立ちたいって……感謝してるって……それなら私は彼らの思いに答える義務が有ります! この国の王女として。


「アイリ様……きちゃダメっすよ。これは……貴女の知ってるナイト・オブ・ウォーカーとは違うっす」


 夜空を寸断してるその何かはやっぱりナイト・オブウォーカーなのでしょうか? でも実際それしか考えられない。あの親衛隊の一人がそう叫んで彼のミラージュコロイドが破壊されて今に至ってるんだから。


「その申し出は受け入れられません! 私にだって有るんですよ責任が!! 私は……私を今も信じてくれてる人達を見捨てません! 
 私が守りたかったのは、この国と……貴方達何だから」


 私は少しづつ……本当に少しづつだけどノウイ君へと近づいて行きます。実際、今の私に何が出来る訳でもきっとない。
 だけどこれは意地でした。私を人形した者達への反抗の意地。私を慕ってくれる人達への放したくない意地。そんな意地で私は地を這います。
 だけどその時、大きな笑い声と共に不愉快な言葉が私に降り掛かりました。


「くはっははははは!! 無様、いや滑稽かな? 地を這うお姫様の姿なんて、バカな奴らの同情を引けそうな姿だな。
 権威の底の味はどうなんだ? 大好きなアルテミナスの味がするだろう」


 私は歯をおもいっきり食いしばりました。悔しい……だけど今の私には何も出来ない。アイツの鼻面を叩き砕きたい。それが出来ればどれだけこの気持ちが晴れるでしょうか。
 でも今は言葉にしか出来ない。一矢報いる手段がそれしか有りません。だからガチガチ震えてた顎を持ち上げて私は言います。


「権威なんて……そんなもの望んでた訳じゃない。そんな物欲しそうな目で私をみないでよ。
 ははは……無様・滑稽? 上等です。私はいつだって無様で滑稽にしか誰かを何かを助けられない。昔から……そうだったんです。
 だから痛くも痒くもないですよ。んべ~!!」


 言ってやりました。舌まで出しちゃってこれこそ権威の失墜の瞬間です。地を這うのが何ですか。そんなの今まで何度だってやってきました。
 思い出した昔の事。ほんの一年ちょっと前位だけど、その頃はよく無様で滑稽な事やってました。そしてその度にアギトに呆れられるんです。
 だって私は実力も無いのに誰かを助ける事に必死だったんです。だから沢山のモンスターに囲まれて困ってるパーティーとか、緊急コール出してる人かが居たら取り合えず絡みまくってました。


 今考えたどうしてあんな事してたのか自分でも謎ですけど、きっとその人達にLROを嫌いになって欲しく無かったんだと思います。
 まあ大抵二人して自滅してまして、稼いでたスキルポイントを不意にしちゃってアギトはうなだれるのです。だけどそれでもアギトはいつだって私の後ろから付いてきてくれました。
 一度も見捨てられる事なんて無かったんです。そしてやっぱり二人で地面に這い蹲って誰かヒーラーが通るのを文句を聞きながら待つのも好きでした。




 そんな思い出が私の根幹です。なら幾ら無様で滑稽でもそれが私だと思えるじゃないですか。恥よりも楽しい思い出がそのおかげ出来てたんです。


「恥を恥とも思わないとはな。そして品も無いとは救いようがない。軟弱だ。やはりエルフは貴様のせいで軟弱になってしまったとしか思えない。
 しかも無様で滑稽を認める貴様が俺達の頂点だと? そしてそんな権威を物欲しそうに俺が見てる? ふざけるな!!
 その場所は貴様の場所じゃないんだよ。そして勿論俺の場所でもない!! 貴様に分かるか? 俺達の悲願が!? あの人の思いの大きさに俺達はついて行ってるんだ!! 何も分かってない貴様にはやはり、真の騎士の力を見せ付けないと気が済まん!!」


 そう言って奴は腕を振り上げます。すると夜空を寸断してたその黒い物も同時に蛇のうねりの様に動いてます。


「ぐっうがあああああ!!」
「ノウイ君!!」


 そして当然それは体を貫かれてるノウイ君に影響します。断末魔の様な叫びがこの場に響きながら、彼の中からその黒い武器は出ていきました。
 その瞬間、クラっと倒れ掛けたノウイ君だけど、何とか踏ん張って私に笑顔を見せてくれます。


「大丈夫っすよアイリ様。寧ろ出ていってくれてラッキーす。串刺しにされたままじゃ気が気じゃないっすからね。それよりも……アイツのあの武器はやっかいすよ」


 そう言ってノウイ君は前を見据えます。それにつられて私も前へ視線を向けてギョッとしました。だってそれは武器と言うより、生き物に見えたから。
 無数のクリスタルが黒光りをしてる中、奴は立っています。そしてその周りをさっきの黒い物がうねりながらアイツの周りを覆ってるんです。
 それはまるで、巨大な蛇を従えているかの様な錯覚に陥る光景。あの黒い物そのものが蛇に見える。やっぱり、何度でも思ってしまう。


「あれが……本当にナイト・オブ・ウォーカーなの?」


 そんな思いは断ち切れない。だって盾も無ければ、あの武器は何? アギトは一度もあんな物使わなかった。ううん、それよりもナイト・オブ・ウォーカーはあんなにまがまがしい物じゃない。
 もっと神聖な力の筈なのに……少なくとも私達の時のはそうだった。力強くて、頼りになる感じが全身から溢れ出てた。
 だけど今目の前にいるアレからは全然別の物を感じる。荒々しくて凶暴で、獲物を狙う赤い目が二つ。背筋に冷たい感覚しか走らない。


「ああ、貴様にはわからんだろうがこれもナイト・オブ・ウォーカーだ。素晴らしい力を感じるだろう。貴様ではあり得ない力の上限。
 これが主の差と言う奴だ!!」


 カーテナはアルテミナスその物から、そして加護やこのナイト・オブ・ウォーカーはカーテナを経由してその力を与えてる。
 経由地点の要領の問題とでも奴は言いたいらしい。私は前時代の石炭で、ガイエンは今をときめくハイブリッド? 多分そんな感じ。自分で解説してて何だけど、やっぱりカチンきちゃうよそれは! それに武器の形は要領じゃ無くて、性格の問題だと私は思う。


 ガイエンもこいつも何だか戦闘好きだもん。ガイエンは口調は丁寧だけど負けず嫌いだから。そんな荒っぽい所をくみ取ってる感じだよ。
 アギトは戦いは好きだけど、自分の為だけにってなかなかやらないし、私も実は争うのは嫌いだからそこら辺がきっと防ぐ盾と時には攻める剣に出てるんだよ。




「くっ……」


 あの武器の回転とうねりでとても不規則な風がこの場所を流れてる。まるで乱気流のぶつかり合いの中に居るみたいな感じだよ。
 そして奴が掲げてた腕を振り下ろすと同時に蛇は動く。まるで乱気流の隙間を縫う様にして、もの凄いスピードで向かってきます。
 風をかいくぐり、大きな口を開けた蛇が目の前に迫ってる。


(避けれない……食べられちゃう!!)


 思わずそう思って私は目を閉じました。だけどその時、大きく響いた金属音……そして蛇の毒牙は私まで届きませんでした。でも同時に鈍く唸る様な声も聞こえます。


「づうぅ……」
「ははは!! どうした? 逃げることはもう辞めたのか!?」


 そして次々にぶつかり合う衝撃が私の肌にまで伝わってきました。でもやっぱり私は無事です。恐る恐る目を開けるとそこには緑色の髪が見えました。
 私の前に立って、剣を構えるその後ろ姿はノウイ君。逃げることしか出来ないって言ってた彼が……立ち向かってくれてます。
 地面を抉りながらでも止まらないその威力。周りにあるクリスタルを砕きながらでも縦横無尽に向かってくるその武器に彼は対峙してる。でも・・


「ぐあああああ!!」


 どうやら軌道を自由に変えられるその武器は直前で、ノウイ君の剣を避けて彼の足を刻みます。蛇の様に見えたあの武器は、鞭の様で剣で有る物。刀身が一本じゃくなく、無数の関節の様に分かれてて、しかも伸縮出来るみたいです。
 だからあんな動きを……


「はっはあ! どうした!? 逃げるしか脳が無いお前はその程度だよなあ!!」


 そう言って奴は更に腕を動かします。すると今度は地上スレスレを真っ直ぐに私に向かって刀身が迫ります。ノウイ君を動けなくして、次は私ですか。


「ア……イリ様!!」


 その時ノウイ君が横から腕をおもいっきり腕を伸ばします。そして二つの武器はぶつかって私の目の前で火花を散らしました。
 それによって蛇は軌道を変えて私の真横をすり抜けて行きます。空気をいびつに切り刻む様な音が耳元で聞こえてました。ゾッとするようなそんな音に、情けなくも私は動けません。
 だけどそんな私の前に、またゆっくりと彼は立ち上がります。


「何とか……当てられてよかったっす。逃げてたから避けるのは得意なんすけど……悔しい事にアイツが言うとおり、こっちはその程度何すよね」


 そう言って豆の様な瞳を細めるノウイ君。その時私は気づきました。彼の腕が震えてるのに。


「そうだ、早く立ち上がれ。俺が味わった屈辱分、貴様は痛めつけないと気が済まんからな!! 貴様も味わえ、自分の無力さと屈辱をな!!」


 蛇は再びウネリを伴い軌道を変えました。次の攻撃態勢に入ったようです。またどこからでも奴は攻撃出来る。そして私を狙えば、ノウイ君は絶対にそれを受け止める為に最悪体を張っちゃう。
 そして今の彼にあの攻撃に今までの様に対処するのは難しくなってます。LROは別に足を切られたからって歩けなくなる訳じゃ有りません。
 だけど戦闘中ならその分動きが鈍くなったりします。その部分が動きづらかったり、重かったり。だからこそ、部位破壊や部位狙いが成立するんです。


 そしてどう見ても今のノウイ君は動きが鈍いです。足を引きずる様に立ってます。これじゃあ、あの蛇の様な動きに対処するのは難しい。
 だけどそれでも、ノウイ君は震える腕を構えます。


「どうして……もういいですよ! 逃げてください! 責めたりなんかしないですから!!」


 私はその痛々しい背中にそう叫びました。だって……これ以上、無理させたくなんか無い。何も出来ずに見てるだけなんて辛すぎます。
 だけどノウイ君はそんな弱気な私に、その背中を向けたまま言いました。


「本当は、今直ぐにでも逃げ出したいっす。でも……今だけはそれがアイリ様の命令でも聞けないんすよ」
「何で……」
「だって、俺が逃げても何も終わらないっす。俺は今までずっと一人で逃げて来たっすよ。任務でも大概一人……それは逃げやすいからじゃ無くって、誰にも迷惑掛けない為っす。
 自分の中だけで始まってそこで終わる。俺が逃げるときはそんな時っす。だけど今はこんな小さな自分の中だけじゃ絶対に終わらない事態で、今逃げる事でもっと大切な物を無くすのが分かってるっす。
 それにアイツは俺に恨みがあるっすし、アイリ様は必要な人で、そして初めて頼ってくれる小さな友達も居るっすよ。
 ならこんな一生に一度かも知れない時なら、自分も一生に一度だけの逃げない日でもいいんじゃ無いかって思うんすよ」
「ノウイ君……」


 その時、蛇は再び牙を向きます。斜めやら、横やら地中からやでノウイ君をいたぶる様に攻撃を仕掛けてきました。
 だけどそれらを辛うじて剣で防いでいきます。何とか当てる事が出来れば、軌道は簡単に変えられる。それは相手が蛇の様に動ける利点のおかげです。
 あれだけうねるから、僅かな衝撃で軌道は変えられる。嵐の様に吹きすさぶ蛇のうねりと剣のぶつかった火花は幾度となく光っています。


「それに……もうっとくに、俺の逃げ道はドン詰まりっすよ」


 そう言って彼は笑いました。確かにミラージュコロイドも破られて、この結界内に閉じこめられた時点でどこにも逃げ場なんて無いのかも知れません。
 でもノウイ君が伝えたかった逃げ道ってそう言う事なのかな? とも思います。ここの事じゃなくて、もっとこう大きな目線で見た物の様な……だけどそれにイヤな声が答えます。蛇の様な剣を操る親衛隊。
 奴が絶え間無い攻撃を続けながら薄ら笑いを浮かべてます。


「ああ、その通りだ! 逃げ道も、逃げる手段ももう貴様には無い!! そして何も守れず死んでいけ。力がないから、逃げることしかしなかった臆病者は、この舞台に上がり続けてる資格なんてないんだよ!!」


 そう言って更に激しさを増す奴の攻撃。そしてあれは、伸びてる所全てが剣だったんです。注意するべきは迫ってくる切っ先だけじゃなかった。
 大きくうねる腹の部分も刀身何です。そしてそんなうねりはいつの間にかノウイ君を囲んでました。弾いても次から次へと迫ってた切っ先はこの為の複線。


「つ~かまえ~た!!」


 そんな不気味な声で一気に蛇はノウイ君の体に巻き付きます。それと同時に締め付け何かじゃなく、彼の体を襲ったのは切り刻みです。全身に食い込んだ刀身が、回転しながらノウイ君の体を切り刻みます。


「ぐああああああああああ!!!」


 断末魔の叫びは月の無い夜空に響きわたります。そして私にはあり得ない筈の血しぶきが見えた様な気がしました。それだけ凄惨な光景。
 そして解放されたノウイ君は糸が切れた人形の様にその場に倒れ伏しました。


「あ……ああ……」


 どうなったのか分からない。動転した私には、血みどろの彼が横たわってる様に見えて……気がおかしくなりそう。そんな……こんな事って……今まで何度だって戦闘不能状態は見てき筈なのに、こんなに死に見える物は初めてです。


「ノウイ君!!」


 その時横から現れたのはテッケンさんです。どうやらもう一人の親衛隊を突き飛ばして駆けつけてくれた様。だけど……遅いよ!!


「何で……今更……もっと早く来てくださいよ! そしたら……そしたら……」


 八つ当たりだと分かってた。それに何も出来てない、まして助けられ側の私がテッケンさんを責めるなんてお門違いです。だけど……言わずに居られない。
 無力な自分が許せないから……仕方ないじゃないですか。けれどテッケンさんは冷静でした。彼は回復役を取り出すとノウイ君の口に含ませます。そして私を見て言いました。


「落ち着いてくださいアイリ様!! 辛うじてHPはありますよ。だけど……面目ない」


 素直に頭を下げちゃうこの人は立派です。私なんかよりずっと。その時、HPを回復したノウイ君が僅かに体を起こしました。


「すみませんっすアイリ様……俺、本当に弱くて……」


 私はそんな事を言うノウイ君に俯いて首を振りました。そんな事絶対に無い。彼は弱く何て無いんだと、伝わればいいけど。


「アイリ様……俺はエルフにして良かったって思ってます。俺の大切な物はここに一杯あったっすから。こんな俺にも仲間が出来て、ちゃんと見てくれた人もいたっすよ。
 俺達エルフにとっては……間違いなくあそこが故郷何すよ。目を閉じればアルテミナスの情景と、慕われてるアイリ様が浮かぶっす。
 貴女が治めるあの国が……大好きっすよ。ずっと俺達のお姫様でいてほしいっす」
「あっ……っづ……グズ……ノウイ君」


 私は彼の腕を取ろうと腕を伸ばします。でも何だか前が霞んでよく見えない。止めどなく溢れてくる涙が止まりません。
 その時でした。
 地中から出てきた蛇の切っ先が目の前でノウイ君の胸元に突き刺さり宙に持ち上げたのは。そして何が起こったのか理解出来ない私達を余所に、蛇は更にノウイ君を振り回して空へ昇り、投げ捨てました。


 ノウイ君が落ちていく先には一際鋭く突き出たクリスタルがあって……その瞬間、ザシュっという不気味な音が脳内に響きわたります。自分の瞳が何を見てるのか認識出来ない。というかしたくない。
 無数にあっても月にも増されない星星のか弱い光が、悲しく照らすその光景。土と血が混じりあった様な風を何故か届けるこのシステムに私の頭は溶かされていく様でした。
 その時響きわたっていたのは歓喜の沸くような親衛隊の笑い声。その瞬間、私の中の黒い何かが爆発したような気がしました。
 押さえきれない、怒り怒り怒り。私の肌を黒い影が染め上げる。

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