命改変プログラム

ファーストなサイコロ

三人の力



「うぅがああああああああ!!」 


 光の中、俺は槍の残骸をグラウドの顔面へ向かって投げつける。大したダメージに何てならないだろうその攻撃。だけど人は、頭への攻撃は反射的に避けるものだ。
 そしてその一瞬が二人の攻撃を確実にする。ガイエンの長刀とアイリの剣が左右からグラウドを捉えた。重なり有った二つのスキルがグラウドの体を押し戻そうと膨れ上がっていく。


「「ああああああああああああ!!!」」


 二人の叫びが木霊する。そして深く刺さっていたグラウドの槍が俺の体から抜けていく感覚が有った。


「きさぁまぁらぁああぁぁぁぁ!!」


 グラウドの声が延びと共に遠くなる。それは左右のガイエンとアイリが武器を振り切ったから。その瞬間、グラウドの槍が俺の肉をちぎりながら抜け、持ち主と共に後ろに吹っ飛んだ。
 肉がちぎれる何て言っても、別に血が出るわけでも無いが体から異物が抜けていく感覚と、さらには回転のせいでそんな気がした。
 そして解放された俺は上手く地面に立てない。傷のせいか分からないが、膝で地面を受け止めて四つん這い状態だ。息も荒く成って、これはHP残量の問題だな。
 さっきので一気に限りなくレッドに近いイエローまで減っている。一体どれだけバカ力何だよあの野郎。最初に決闘した時よりも防具もグレードアップしてる筈なのに、一撃でこれとはな。


「アギト!」


 そんな規格外の攻撃のショックを受けてると、暖かな光が俺の傷とHPを回復してくれる。アイリが回復魔法を掛けてくれたみたいだ。


「無様だなアギト。勢い込んだ割にはその様か?」


 体の怪我が治った所でそんな言葉を掛けるのは当然ガイエンの野郎だ。今言うかそんな事……とも思ったが、今しかない気もするな。


「うるせえ。アイツの武器とスキルが想像以上にやっかいなだけだ」


 実際、グラウド自身はそんな強い何て思わない。アイツ戦い方大雑把だし。まあ全ての攻撃を一撃必殺にしようとしてるんなら納得だが……それはつまりあの武器の特性とスキルに頼ってるって事だ。
 その証拠に張り付いてる時は互角の戦いが出来た訳だしな。でも距離を取られるとやっかい。一直線に向かってくるだけなのに、何故か避けられないんだ。


「ふん、負け惜しみだな」
「ちょっとガイエン。そんな言い方無いよ!」


 アイリはガイエンの発言に怒ってくれた。だけど実際はその通り。俺が言ったことは言い訳で負け惜しみだ。そんな事分かってる。
 自分が用意したとっておきの武器も砕かれたし、その時点で俺の負けは決まってたんだ。二人が来てくれなかったら、今頃俺は戦闘不能に成ってた筈だ。


「悔しいがアイリ……ガイエンの言うとおりだ。ここで格好付けてもしょうがないよな。認めよう。俺はグラウドに二度負けた」
「殊勝な態度だな。貴様にしては珍しいが、負けた事が効いてるようだな。というかまだ言うことが有るだろう?」


 ああ!? 何て態度でかいんだコイツ。人が下手に出てれば調子づきやがって。一日に一度もお前と会話をしようとは思わないのに、何が言うことがあるだ。ねえよそんなの。


「身に覚えが無いわけ無いだろう? ついさっき貴様を助けたのは誰と誰だ?」
「うぐ……」


 そういえば言ってなかったな。二度もコイツの言うことを認める事に成るだなんて、今日は厄日だ。間違いない。


「ありがとさん」
「気持ちが入ってないな」
「うん、それは私も納得だよ」


 適当に言ったらアイリにまで突っ込まれた。別にアイリにまで適当に言った気は無いのに。「ありがとさん」はガイエン仕様だっつの。
 そんな事で揉めてたら、吹き飛んだグラウドの声がこの光に包まれた場所に響きわたった。


「チョロチョロとゴミの分際で……許さんぞ貴様等あああ!!」


 激高してるグラウドは槍に再びスキルを込める。そしてそれを受け取る機械の音がし始めた。


「アイツまだ……くそ、ヤバいな」


 こっちは三人居ると言っても俺の武器は壊されたし、何より最強を自負する奴は、カーテナを手にするまで引く気何か有るはずないか。
 周りには既に倒れたレイアードのメンバーが居るのに、グラウドは気にも止めない。自分の為に倒されたんだから、少しは気遣う優しさでも見せてやれよと思うが、奴の興味は『強さ』と言う一点だけか。


 その時、ちょっと気になることを俺は感じた。周りに倒れてるレイアードのメンバーは三人だ。それもグラウドの側近クラスって言うと、レイアードの中でも実力者揃いだった筈。
 そしてそれに立ち向かったのは数でも劣るガイエンとアイリだろ? それって……


「何か思ったけどさ。良く俺を助けに入れたな」
「うん、ガイエンがバッタバッタなぎ倒してくれたからね」
「は?」


 助けられた俺が言うのも何だかな質問だったが、それは意外だ。ガイエンがコイツ等三人をあっと言う間にアイリは倒したと言う。
 だが確か、俺とガイエンの実力って拮抗してた筈だ。そしてそれなら間違いなくあんな早さじゃ倒しきれない。弱気とかじゃなく、物理的に今の俺の実力じゃ無理なんだ。
 それに同じ数ならまだしも、二対三で余裕を持って勝てるなんて……俺は不振な目をガイエンに向ける。するとガイエンの野郎は青い髪を掻き上げて、余裕たっぷりにこう言った。


「私の成長速度を貴様と同じにするな。分進秒歩の速度で私は成長してる。亀な貴様とは違ってな。言う成れば私は兎だ」
「なら最後には俺が勝つな。良かった良かった。なまくら兎は譲ってやるよ」


 ガイエンの視線に火花が宿って飛んできた。どうやら俺が言ったことをちゃんと理解したようだな。童話「ウサギと亀」になぞらえた訳だ。
 あの物語で最後に勝利するのは亀だからな。足の速いウサギは寝過ごして勝ちを逃すんだ。そのなまくらっぷりを存分に発揮してる。


「こら! 二人とも前!!」
「「あ?」」


 アイリの言葉に火花を散らすのを止めて前方に視線を向けると、そこにはもの凄いスピードで突進してくるグラウドの姿がある。
 てか何か、溜めすぎた力が漏れてるのか通った場所が抉れてるんだけど……あれはヤバい。


「お前等全員、吹き飛ばしてやるよおおお!!」


 歓喜の表情で、槍にしがみついてるグラウドは叫んだ。コイツには仲間だった奴を倒す躊躇いも躊躇も無いようだ。まあそんな深く関わった訳じゃないが、その時期は確かにあった筈なんだけどな。
 でもそんな感慨は早すぎる。俺達は倒される訳には行かないんだ。そうアイリが宣言した。アルテミナスの為に、カーテナをコイツには渡せない! 
 だから俺達は最後の砦。けど……俺の拳に掴める武器が無い。その時いち早くグラウドの接近に気付いてたアイリが魔法を発動した。
 防御系の魔法。それもより高度な重層。張られたのは言う成れば五重のシールドだ。これで時間が稼げるか。


「こんなシールド! 泡の膜と同じだ!!」


 しかしそんな考えは甘かった。既に奴の攻撃力は壊せないはずのオブジェクトにまで刺さるほど。不可能を可能にした力。
 それを破ることが可能な普通のシールドでは防げないのは道理だ。グラウドがシールドにぶつかって止まるのは僅か二秒程度。五枚でも十秒の時間稼ぎにしかならない。


「そんな……」


 アイリの驚愕する声。それは当然だ。俺達に至っては声が出てないだけ。幾ら何でも、十秒しか持たないシールドなんてあり得ない。
 そして遂に最後の一枚が目の前で破られる。光に反射するシールドの欠片が消えきらない内に、グラウドは迫ってた。


「さっきまあああああ!!」


 そう言ってガイエンが長刀でグラウドを受け止める。だけどそう思ったのは一瞬だけ。余りのパワーに直ぐに押され出してる。


「ぬうぐううううう」
「がはは!! 丁度良い、なあガイエン!!」


 丁度良い? その言葉の意味は分からなかったが、これは不味い。ガイエンの直ぐ後ろにはアイリが居るんだ。ガイエンが一人で吹き飛ぶ分には問題ないが、今の状況でグラウドに勝つには、悔しいが俺だけじゃ無理だと証明されてしまってる。
 俺はウインドウを開いて装備品の中から武器を選択。そして現れるのは、折られたのと同じ型の槍だ。


「ガイエン! 耐えろ!!」


 俺はそう叫んでアイリを抜いて前に出る。そして帯びるは赤い光。そしてぶつかる位置は正面よりもやや斜め。それはガイエンが居るのも有るし、その方が効率良いからでもある。軌道をずらせればアイリを巻き込まなくてもすむ。


「食らえグラウド!!」


 その言葉と同時に巻き起こった大爆発。だがそれをグラウドの野郎は防ぐこともしなかった。けれど槍の先から伝わるグラウドの存在の力強さに代わりなんて無い。
 気を抜けば今度はこっちが弾かれそうな程。どういう事だ……そう思う俺の前に答えは現れる。無傷のままでさ。


「なっ!? まさかそんな……」
「ふん予備があったか。だが性能が劣るようだな。先の奴なら貫けたかもしれんが、今のお前には力不足よ! 何よりも誰かに頼っての攻撃など俺には通らん!!」
「くっそ!」


 ガイエンと俺、二人でぶつかってるのにまるで止まらねえ。それに直ぐに予備とばれたし……だけどそれは当然か。戦闘中に取り替える何て切り札か、それじゃなきゃやむなしだ。
 そして俺が後者なのは明白。この槍は先の奴と姿形は同じでもスペックに違いが有るんだ。職人が作る武器や装備には希に+1とかの数字が足されたのが出来る事がある。


 それは上級装備や上級武器と呼ばれて性能が普通に出来た物よりも良い。そして勿論値段も高い。
 だから今の武器と先の武器はそれの違いだ。今のは通常版で先のは限定版みたいな感じ。その差で俺はグラウドが出してる力の奔流の様な物を抜けなかった。
 て言うか、溢れだしてる溜め過ぎた力がシールドの様な役割をするなんて反則だ。いや、それとも攻撃指定だったのか?
 どちらにしても俺の攻撃も通らなかった。グラウドの軌道も変わってない。そして何より二人掛かりでも止まらない。


「アギト! ガイエン! 諦めないで!!」


 その時真っ正面へと突っ込んでくるアイリが叫んだ。俺とガイエンの丁度間しか攻撃する隙間が無いからといって、まさかそこに突っ込んで来るなよな。
 この中じゃダントツでアイリが攻撃力弱いんだから、それは無謀と言うものだ。だがアイリに迷いは無い。真っ直ぐに強い目でこちらを見つめてる。


「バカかお前! お前程度のパワーじゃたかが知れてる! 何の為に俺達が必死にこいつにかじり付いてるか分かってんのか!? お前にまで届かせない為だ!」


 それなのに守りたい奴が向かってきてどうすんだよって事だ。少しは稼いだ時間で避けれたはずだ。だけどアイリはそんな俺の言葉を否定する。


「アギトこそバカァ! 私だけ逃げてどうするんですか!? アギトが勝てない人に、私一人で勝てる分けないじゃない!! でも……私たち三人ならきっと勝てる! 勝てるんです!」


 元気いっぱいにそう宣言するアイリ。そして剣に添える形を取っている手に何かが集まりだしてる? 何だあれ? 魔法か?


「ふん、どうして……そう言える? 言っとくが私は力を合わせる何て死んでも出来んな……コイツとは!」


 一番長くグラウドの攻撃を受け止め続けてるガイエンが、辛そうな中そう言った。俺を睨みながらな。なら今の状況はどうなんだって言いたいが、それより早くアイリが動く。


「そんなこと無い! もうずっとやってきたよ。そして証明してきた! 私達の力は足し算じゃないって! 私に二人は見せてくれました。重なりあう力の強さを!!
 LROはゲームですけど、そんな心をちゃんと拾ってくれます! だから私たちならやれるんです!!」


 心……か。本当にどうしようもなくアイリはそう言うのが好きだな。後先考えずに誰かを助けに行くのも、その考え方のせいだろう。
 心って奴に素直に行動してる。そして確かにLROはそんな俺達の心の変化まで時に分かってる様な気もしなくはない。


 ゲームで……この世界を形作ってるのは膨大な量のプログラムなのにな。でも本当に心から望んだ時、自分でも想像できなかった力が出るときがあったりする。
 そしてそれはやっぱり誰かと居るときが多い気がするな。守りたい誰か……信じあえる誰か。
 重なりあう力……良くそんな恥ずかしいことを堂々と言えるよなアイリは。思ってても、俺は絶対に言わないな。まず認めないし、ガイエンの野郎と重なった力なんて、俺のじゃねーし! 


 そんな風に思ってると、丁度同じ事を考えてた様なガイエンと苦しい顔を見せあった。そんな余裕あるわけも無いのに、ついついアイリに乗せられたな。


「何が重なる力だ! そんなもの、脆弱な種が頼る恥ずべき力だ!! 俺達エルフはそんなんじゃない! そんな事も分からぬ貴様に、俺を倒してアルテミナスを救える訳がないだろう!
 あの国は力を象徴とする国なのだから! たった一人の最強の王が統べる国。それが俺達のエルフの国、アルテミナスになる!!」


 ここに来て更に勢いが増すグラウド。あのカートリッジシステム……どこまでもやっかいな代物だ。弾丸に何が込められてるのか知らないが、ガシャコンとロードするだけでパワーが跳ね上がるのが分かる。
 もう流石に俺達はヤバい。今にも弾かれそうな具合だ。アイリは重なる力とか言ったが、今この時協力してる俺は孤独な気がする。相手の存在なんて微塵も感じない。多分それはガイエンも同じだろう。
 お互いに俺達は感じたくない相手だからな。重なる要素何て微塵もないんだよ。一人の力には限界があって、俺達は互いにまだグラウド程の時間を要してない。


 まあ同じくらいの時間が経ったときに、俺達もコイツ並の力を手にしてるのかは分からないが、でもグラウドは一人で一人の力の壁を突き破ってる。
 それは確実だろう。だからこそ、これまで一人で挑んできた俺は勝てなかったのか。ついさっきも、そして最初に勧誘された時もだ。
 明白で歴然だった力の差って奴か。グラウドをこの武器とスキルに頼っただけの奴……なんて見方は間違い。コイツはずっとこの『猛進』に全てを掛けて限界を破った奴なんだ。
 この槍の特性とカートリッジステム。そして多重掛け出来るこのスキルを最も効果的に最大限の効力で発揮するための猛進。
 理由があってのこだわり。そして積み上げてきた経験による確かな自信。それがグラウドの強さ。


「だからそんなことは認めません! 脆弱って何ですか!? エルフもどの種族も変わりなんてしない! 私達は同じ人何ですから!!
 私は! 最強とか力とか……そんなのどうだっていい! ただエルフという種が、安らげる場所を……私達の居場所を、守りたいだけです!!」


 アイリの手から何かがこぼれてる。アレは……水? やっぱり魔法を使おうとしてるのか? でも何かがおかしい。不安定と言うか、何というか……まるで放出されないじゃないか。
 それにそのまま剣にまとわりついてる様でもある。アレと同じ様なのは武器に元々付加する用の魔法があるが、今見えてる魔法はそんな感じじゃない。
 こっちも付加するには要領を越えてる。アレは攻撃魔法何じゃないか? だけどアイリは間違ったとかでは無いようだ。そして力を込めて行き、魔法と共に剣の刃を握りしめる。


 その瞬間、一気に大きな水流がその場に溢れ出て来た。俺達には何が起きたか分からない。ただの暴発か……それとも。
 すると今度はその溢れだした水がアイリの振った剣に何故か集まっていく。それは吸収しているような、繋がってるような……とにかく何やったんだアイリの奴。
 そしてその時、アイリは自信のあるような笑みを俺とガイエンに向ける。そしてこう言った。


「やるからね! アギト、ガイエン! 完成!! 魔法混合ハイブリット 水疱『カナン』!!」


 アイリの握る剣に吸収何て言葉はぬるかった。吸収というかアレはもう同化。アイリの奴は自身の武器に、その攻撃魔法を融合させやがった。
 そしてアレは既に魔法と武器の中間地点。『カナン』とか言ったか? あんな武器はきっとLRO史上初だろう。水が剣で、剣が水で・・幾らLROでもあんな事が出来る物なのか?
 でも実際にアイリはそれを成し遂げた。そしてその武器を真っ正面から突き立てる。


「でああああああああああ!!」


 大きな声と共にカナンも加わっての三つの武器との攻めぎあいになったグラウド。そのせいで流石のグラウドも流石に勢いが殺がれてる。想像以上にあのカナンは強力な様だ。
 だけど認めたくないグラウドは更にスキルを加算する。


「ふざけるなよアイリ!! そんな力! 今ここで潰してやる!!」


 ようやく拮抗できたと思えた矢先。更に力を付けたグラウドの槍がカナンを割った。そう四方に水の剣で有るカナンは割れたんだ。


「「――なっ!?」」
「まだです!! 私達は負けるわけには行かなぁい!!」


 絶望に染まりそうになり掛けた、俺とガイエンの心をその言葉がつなぎ止める。そしてアイリのその言葉どおり、カナンは壊れた訳じゃなかった。
 それがこの武器の特性でも有るかの様に四方に割れた水は再び円を描いてアイリへ戻る。それは決して絶える事無い力の循環。そしてその円は輪の様だった。
 俺達をいつも包む輪。俺とガイエンだけじゃ感じれない重なりの力。だけどそこにアイリが入るだけで俺達は輪になって繋がれる。お互いの力を感じれる。
 そして広がる力が伝わってくるようだ。


「「「うああああああああああ!!!」」」
「――っづぅ!? こん……な、事が……有って……たまる……かああああ!!」


 グラウドが更に無茶なスキルの加算をする。だけどそれはどうみてももう限界。そしてそれでも俺達三人の重なり有った力は押し負けはしない。
 ここにアイリの事が正しかった事を証明しよう。さあ、決着の時だ!
 水の輪が力の象徴の様に、巡回する度に膨れてた。そして光を跳ね返すその輝きがついにはグラウドの体に届き、奴の体を吹き飛ばす。
 全ての力をぶつけたカナンは、いつの間にかその姿を元の剣へと戻してた。その刀身に一粒の水滴を残して。




「やった……」


 そんなアイリの呟きに俺とガイエンが同時に「ああ、やったな」って言ってしまった。ここで重なる何て最悪だ。良い所なのに邪魔するなよ。
 かなり遠くまで吹き飛んだグラウドはまだ微妙にHPが残ってるが、奴の武器はもうボロボロ。アレなら驚異にはならないだろう。
 だからこれは俺達の勝利だ。そしてそんな勝利を徐々に実感してきた最大の功労者のアイリが喜ぶのも無理はない――


「やっ……」


 ――筈、だったが様子がおかしい。アイリの体が光ってる? それもクリスタルと同じ色に。そしてひび割れた箇所から胸を貫く光が射して、何かが浮かび上がってくる。
 それは剣と言うには余りに小さく、だけどナイフよりは真っ直ぐなシルエットしてる物。そして俺達は一つだけこれと同じ様なのを知ってる。
 それは女王の腰に掛かってた飾りの様な剣。どれもが立派な中、たった一つ不似合いだって物。でもここで姿を現すそれを、俺達は認めるしかない。
 そう、きっとこれが……


「カーテナ……?」


 アイリは呟き、自身から出たそれに手を掛ける。そしてこの時初めて、光明の塔は王の帰還を報せるように、その名に恥じない光をアルテミナスという国に届けたんだ。

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