命改変プログラム
白の断絶
この神殿の門広場に大きなうなりが起きていた。それは覚悟を決めた者達の叫び。溢れ出す勇気の印かも知れない。
止められると思うなよ。貴様等プレイヤーモドキ風情に!!
「うおおおおお!!」
雄叫びと共に切り伏せたのは、自分と同じ人型の少女だった。HPが尽きた少女は蘇生待ちの時間を待たずに消えていく。淡い青のメッキが剥がれるようにして、その形が空気に溶ける。
(ごめん)
心でそう謝りながら僕は次の相手に斬り掛かる。やっぱり平気って訳にはどうしても成らない。あの考えだって確信は無いんだし……最悪は自分が人殺しをしてると思ってしまう。
そんな考えが悲しそうなあの虚空の瞳をみてると沸いてくる。だけどあのごめんは罪の意識で言ってるわけじゃない。立ち止まる為に言ってる訳じゃない。
一個一個に自分でけじめを付けてるんだ。ごめん……それは正確には「今はごめん」だ。だからおもいっきりシルフィングを振れる。
もう自分の考えは疑わない。確証なんて無くてもそう信じないと、どのみちこの器は解放されないんだ。そしてみんなが同じ思いを抱いてそれでもやってくれてる。
完全に拭えた訳じゃない不安。HPが尽きる事への恐怖を抱いてるのは同じだから……でもそんな不安がそれぞれを思い合う連携へと繋がっていた。
自分は死にたくないから、みんなを死なせたくないへ。それぞれの意識の改変は強い繋がりと成って実を結ぼうとしてる。
「づああ!!」
「ちっ、下がってろ! こいつに回復頼む!」
「はい! 今直ぐに!」
途切れない言葉の応酬は奴らには無いものだ。プログラムの通りに行動し、プログラムの通りに考える。それは一見、とても効率的の様な気がする。
それに比べて僕たちはさ……感情と言う物がその間に入ってくるんだ。怖がったり、憤ったり、戦う上ではそれは邪魔なだけの物かも知れない。
けれど僕達にはそんな感情が有るから、みんな姿形が変わっても自分何じゃ無いかって思う。僕はリアルと変わんないけどさ、みんなは自分じゃない姿を自分にしてるんだし。
「連携行くぞ! しくじるなよ!」
「「「おう!」」」
幾重もの剣線が浮かび上がってる。そしてまた一人のプレヤーモドキが姿を消していく。だけどそれに目を向ける仲間はこいつらにはいないんだ。
無表情で無機質に仲間の消え去る瞬間を付いてまで攻撃を仕掛けて来る。感情は心だから……それが無い奴等は本当に淡々と最善と思われる行動を取るんだ。
そして確かにその攻撃は実る。深々と剣は肩口を貫いた。それは最善のなせる事なのかも知れない。僕達は感情が有るが故に隙が出来きたり、躊躇う時がある。取り返しの付かない間違いだってやるかも知れない。
だけど……
「この……程度じゃ! やられねえ!!」
そう言って肩口を貫かれた奴は剣を握る。
「今だ!!」
「よっしゃあああ! 放すなよその手!!」
僕達はそのやっかいな感情のおかげで、こんなにも強く、楽しく、誰かと繋がれる。最善なんてなかなか出来なくて、効率的なシステムから見たら僕達は無駄な事を繰り返してばかりに見えてるんだろう。
でも僕達はさ、この感情や心って奴を手放そうとは思わないんだ。絶対に。
「リルレット! あそこ!」
「エイル……ごめんね」
「やっかいな奴等が勢揃いしてる。最終防衛ラインってとこだな」
扉の直ぐ前にワンパーティーを組んで待ち構えていたのはエイルを含んだ五人のプレヤーモドキ。ここにエイルを交えてる事があの柊とかいう女の底意地の悪さが感じれる。
どう考えてもエイルは周りの奴等と比べると何段階か落ちるだろう。だけどこれが、お誂え向きって奴かもな。
リルレットは沈痛なおもむきで剣を構える。幾らあれが器だけで、覚悟をしたと言っても感情と言うものは揺さぶられる。
けれど剣を卸すことはしない。そんな感情の揺れを噛みしめて僕達は自分や周りと向き合っていくんだから。そして一人で辛いことは心を繋げる事で支えれるよ。
脆くやっかいで、直ぐに周りに影響されたりもするけど、心や感情は許した相手となら重なりあうことが出来る。そしてずっと強固に、ずっと大きく広がる。
そしてそれが、システムという機械には無い人が持つ強さの源だと僕は信じるよ。
「行こうリルレット。みんなまとめて助けてやろう」
「勿論――そのつもりです!」
僕達は誰一人欠けることなくこの場に立てている。後五人……イケると言う思いがこみ上げている。数も気持ちも、既に僕らは奴等を凌駕している。
迫った槍使いの桁外れな攻撃は数で押し戻す。重なるスキルに対抗して、こちらは一死乱れぬ連携とチェーンを駆使してあの機械仕掛けの槍を打ち砕く。
脳にまで響く歌声に、無数の矢。だけどそれは数と、自分には無かった仲間の知識と力で活路を開いて貰った。一つの弓から放たれたとは思えないほどの矢は、身をていしてまで仲間が防いでくれた。
「頼むぞお前等!」
「これで決めてくれ!」
「「イッケエエエエエエ!!」」
そして僕とリルレットはエイルへと迫る。エイルじゃないとわかってるエイルに近づく毎に心が熱くたぎる気がしてた。これも感情。
みんなの思いを確かに僕達は背負ってるから。重荷? いいや違う、そしたらこんなに熱くない。これはきっと願いや、勇気とかがどんどん大きくなる感じ。嬉しいのかも知れない、けどやっぱりちょっぴりエイルには申し訳ないかな?
だけどさ、僕が謝るべきエイルはこいつじゃないから。
「後四体……スオウ!!」
「わかってる!」
前方にいるのは槍使いを抜いた奴等。その時、冷たい風が後ろから追い抜く感覚。そして次の瞬間、こちらに狙いを付けていた弓使いと歌手? 踊り子? みたいな二人が地面から生えたみたいな氷柱に飲み込まれた。
これはバッチシなタイミングでの後衛の支援。合図や目配せもいらない、後ろを選んだ彼らの思いやりという感情のなせる技だ。
全員を助ける。この言葉に偽りはない。だから僕達は全員を倒す事を決めた。倒すことで器が解放されるのは知らないけどこれもまあ、一つの覚悟だよ。
だから僕とリルレットは畳みかける様に弓使いともう一方に攻撃を加える。氷を砕き、先制を取って、魔法と直接攻撃の折り合わせで一気に畳む。
そしてその間にエイルが発動しようとしてた魔法はこちら側の更なる魔法で出る前に潰す。単純な数の差。前衛がいないと普通はこうやって、魔法を打つことも出来ない。
(後二人)
僕は前衛よりの弓使いを倒し、リルレットは後衛よりの歌い子(組み合わせた)を倒した。後はエイルとヒーラーの二人。だけどもう回復も攻撃も間に合わないだろう事は一目瞭然だ。
魔法は発動出来ないんだから。だけどそれでも僕達はやらなきゃだろう。こんな人形の様なエイルは見たくないから……解放してやろう。
けれどエイルに切りかかったのはリルレットの方。実は最初から決めていた。エイルを倒すのはリルレットだと。
『大丈夫です。私がやります。エイルは・・私が倒します』
どんな思いで友の体を倒す事を決めたんだろう。リルレッはここに居る誰よりもエイルを傷つけたくないと思ってた筈だ。
でも彼女は友達だから……とそう言った。それは本当のエイルが聞いたらガックリするのか、喜ぶのか微妙な言葉だけど、一番近くに居たからこそそれは許される事なのかも知れない。
リルレットはあの時……悪魔との決闘の時よりも強く成ってると思った。もう誰かに背中を押されなくても、自分でやるべき事を決められる。そんな強さがリルレットにはある。
辛くても、泣きそうでもさ、リルレットならやれる。それにエイルも僕にやられるより気分が良いんじゃ無いかな?
煌めく粒が宙を舞い細い体は止めどなく動いてた。そしてその細い刀身は確実にエイルへと届いている。僕はヒーラーを倒して、その光景をただ見守っていた。
手を貸す……なんて事出来ないよ。リルレットの一線一線に多分『ごめん』を込めてる。それでも止まらずにやってるんだ。僕達にはそこへ入る事なんて出来ない。
みんながみんなそんなリルレットとエイルモドキを見守っていた。そしてエイルのHPがレッドゾーンへ入った時だった。
「り……り……リルレッ……ト」
そんな言葉が立ち上がり際に聞こえたんだ。そしてそれはリルレットの動きを止めるには十分な衝撃。勿論僕達だって一瞬息が止まったよ。
だって今までプレイヤーモドキで喋る奴はあの歌い子だけだった。だけどアレはああ言うスキルってだけだったんだろうけど、今のエイルモドキは違う。
確実にリルレットって言った! 何でこのタイミングで?
「エイル? エイルはそこに居るの!?」
動揺するリルレットが震える声でそう言った。そこにいる? エイル本人が? あり得なくはないけど……それは最悪な想像だ。
だけどリルレットがそう思う事を否定するなんて出来ない。でも――
「痛い……痛いよリルレット」
――何だあれ? 棒読みだし、何より目に光が戻ってない。感情の無い、機械の目のままだ。けれどリルレットはそんな事には気付いてない。
「ごめん……ごめんねエイル」
甲高い音を立ててリルレットのレイピアが大理石に落とされる。涙を流す瞳を拭うリルレット。でも止まらない。幾ら拭っても枯れない花の様に尽きない涙は落ちてくる。けれどエイルはそんなリルレットを無機質な瞳で見上げてるだけ。
何かがおかしい……そんな思いが離れない。違和感がベッタリとあのエイルには張り付いてる。
「リル――」
「いいんだよリルレット」
僕がリルレットに声を掛けようとした時に声をかぶせてエイルが声を出した。不気味な機械仕掛けの音の声を。そしてその言葉にホッとしてるリルレットの横に落ちてるレイピアをエイルモドキは取る。
何する気だあいつ?
「エイル、ありがとう」
「ううん、全然良いんだ。それにありがとうは早いよ」
「え?」
いつの間にかあのエイルモドキの異様な空気にみんなが飲まれてた。何も出来ない……何が出来る? そしてエイルはリルレットの目の前で自身の頭にレイピアを刺して言ってのけた。
「だってまだ君は、僕を殺してくれてないじゃないか」
「っひ……」
空気が喉に引っかかった様な音を出すリルレット。そして僕達も、その余りに異常な光景に止まってた。
分からない。理解できない。一体どういう事なんだよ。冷たい空気が脳を一気に冷やしたみたいに、頭がズキズキしてた。
「エ……イル……」
もう今にも消え去りそうなか弱すぎる声が上手く使えてない喉から出てくる。リルレットの開かれた瞳はたった一点を見てる筈なのに、ここからでも分かるほどに、眼球が激しく動いてる。
アレはどうみても危ない状態だ。何かが崩壊する直前の様な――そんな感じ。
「リルレット、ほら……君がしてくれないから、僕が自分でやっちゃったよ。ほら……ほら……見てるリルレット?」
ズグズグとレイピアを更にめり込ませるエイルモドキ。すると血じゃない何か白い泡の様な物が出てきてた。それがまたグロい感じがする。
なんて事やってるんだよあの野郎。
「やめ……て……それ以上……自分を傷つけないで!」
リルレットはようやく頭の整理が出来たのか、視点が固定されてちゃんとした口調に成っていた。でもどうだろうか? 整理が付いたってより、自分を傷つけてるエイルを見て思わず止めに入った感じなのかも知れない。
整理なんて……僕達でも出来てないのに、一番衝撃が強かっただろう位置に居るリルレットが僕達よりも先に状況を飲み込むとは思えないんだ。
「ああ~痛いよ~苦しいよ~リルレット~」
頭に剣を刺したシュールな姿のエイルがそんな事を言っている。抑揚の無い声で。そして更に深くめり込むレイピアはとうとう後ろへ貫通してもオカシくはない状態だった。
血の代わりに落ちていく泡の固まり……アレで少しは救いに成ってるのか疑問に思える。その証拠にリルレットは流れ出る泡にも恐怖してるよ。
こいつは何だ? リルレットを恐怖させたいのか? それなら自分の武器で友達が死んでいく様を見せる様なこのやり方はリルレットに大きなダメージを与えてる事は間違いない。
離せない瞳に隠せない耳がエイルのあの様子をばっちりリルレットに伝えてる。それによって確実に見える、リルレットの震えが。
「痛い」も「苦しい」も何故に言う? 自分で刺しておいて助けを求めるなんてオカシいだろ。だけどそのおかしさを真っ直ぐにリルレットは受け取ってしまってる。
そしてそれをやったのが自分じゃなくても、自分の武器がソレをやってるってだけで責められた様な気に成るものかも知れない。
「だめぇ……やめて……ごめんね」
「痛い~痛すぎる~」
リルレットの悲痛な訴えは聞こえてるはずだ。なのに、エイルモドキは同じ言葉を繰り返す。そしてついには、その小さな体に付いた自身の頭をレイピアは貫通した。
細い煌めきが泡の水滴を纏って輝いてる。けれど相変わらずエイルモドキは変わらぬ顔で「あ~あ」と言っていた。
そしてその光景には耐えきれずにリルレットは顔を背けた。無理もない今まで見てただけで凄いよ。友達が自分の武器で傷つく姿をさ。
「ホラ見てよリルレット。君のレイピアが僕の頭を団子状に突き刺しちゃってるよ。リアルなら僕死んでるね。でも見てよ、まだ生きてるんだよ」
門広場に不気味なエイルモドキの声が溶けては消えていく。そしてそっぽを向くリルレットの手を唐突に取った。
「え!? 何するのエイル?」
「言ったじゃないか、君には僕を殺して貰うんだ」
そう言ってエイルモドキは掴んだリルレットの手を今しがた自分で突っ込んだ剣の場所まで持ってきた。あいつ、まさかリルレットに剣を取らせようとしてる?
けど、当然リルレットはそれを拒む。当たり前だ。
「――っひ、いや! やだ! そんな事出来ないよ! したくない!」
「そんなバカな……だって僕が喋る前まで君は僕を殺す気だったじゃないか」
「あれは……だって……こんな事とは違う。違うもん。私はエイルを……助けたかったんだもん!」
リルレットが流れる涙をまき散らしてエイルに捕まれた腕を解いた。そして顔を背けたまま手で顔を覆ってしまう。
もう何が何だか分からなくて……自分の混乱する感情を抑えきれないでいるみたいだ。リルレットの息を吸う音、吐く音、鼻を啜る音――それらが本当に痛いくらいにこの場に聞こえていた。
だけどその時、エイルモドキはその小さな体にはあわないナイフを降り卸した。言葉の暴力っていうナイフ。
今までは切りつけて浅く入ってた感じと思うほど、今度のは強く真っ直ぐにリルレットの心を突き刺す物。
「君が僕を助けるだなんて・・願った事なんか一度もない、迷惑な行為だよ」
その瞬間、聞こえていたリルレットの息遣いが消えていた。止まったように感じるこの刹那……僕の踏み込んだ足が針を回すきっかけになる。
「お前……誰がそこにいる!?」
僕は声をあらげてそう叫んだ。この状況を把握しようとしてた時間は一気にこれで吹っ飛んだ。整理してた頭は綺麗さっぱり怒りと言う感情に包まれた。
そして僕の叫びにエイルモドキは冷めた目を向けている。だけど口を開いた瞬間、そこに表情がついた。笑顔――と表現していいのか分からない不気味な顔。
目を見開いて、口元は堅く上がってる。そしてその表情を固定して喋るからこれまた不気味なんだ。
「何言ってるんだ? この姿……エイルさ自分は」
「っつ――違う! お前はエイルじゃない! 顔会わせる度に喧嘩するけどな、その位分かる。アイツは絶対にリルレットを傷つけたりしないってな!!」
「ス……オウ」
か弱いを通り越して、消え入りそうな声でリルレットは鳴いた。そしてその瞳は霞んだように生気が乏しく成ってるみたいだった。
それだけあのエイルに言われた事が効いてるって事か。でもそれは気にすることでも何でもないって教えてやろう。
あの目の前の奴は絶対に・間違いなく・エイルじゃない!
「リルレットが一番分かってるだろ! エイルがあんな事を言うはずがないって!」
「でも……私……」
「でもでも何でも、あり得ないんだ! もっと自分に自信を持てばいい。リルレットが出来ないなら僕がやるよ」
最初はリルレットの意志を尊重したけど、これは完全な予定外・イレギュラーだ。これ以上何か言われる前に倒す。セラ・シルフィングなら一撃――
「来るなよスオウ。お前嫌いだ」
――と、思って見据えた時だった。聞こえたそんな言葉の後に、周囲に降り懸かったのは重さを増した重力の壁。一体いつ詠唱を済ませてた?
「時間はお前達が突っ立ってる時間が幾らでも」
心を読まれたみたいにエイルモドキは僕を見てそう言った。この魔法は範囲系。今その範囲外には居るのは奇しくもリルレットだけ。
「みんな……」
「何で違う事を怖がるかな人間は。そうだ、ならみんなをこっち側に連れていってあげよう。それで分かって貰えるよね? 僕がエイルだって……」
「な……にを……」
地面にへばりつきながらも僕は必死に見てた。アイツ、リルレットに何する気だ?
「まずは君からだよリルレット。僕達は『友達』何だから拒否らないよね」
そう言ってエイルモドキは自身の杖をリルレットに向ける。妖しく光る杖から何かが延びて巻き付いて行くのに、リルレットは抵抗しない。
まだ、アレが本当にエイルだとでも思ってるのか!?
「エイル……私は……」
「僕達『友達』だよね」
その言葉でリルレットは自分の言葉を飲み込んだ。ダメだ……このままじゃいけない。あの巻き付いていくコードの様な物は絶対にヤバい。
でも情けないが動けない……エイル本人が使ってた時よりも強力じゃないかこれ? だけどそれでも僕は上体を少しだけ上げてコードに包まれて行くリルレットに向けて叫ぶ。
肺の中の空気を全て投げ出す位に……だってそうだろ? 僕は頼まれたんだ。本当のアイツにさ。
「違う!! エイルは友達何かで満足何かしてない。リルレット! アイツが惚れたお前は、こんな形だけの偽物に騙される奴なんかじゃない筈だろ!!
お前にとってもエイルは……そんな奴じゃないだろ!!」
空気が無くなった……重くて肺が機能しない……届いたのかな?
「今更何を言おうと、そんなの――」
不意に切れた言葉。霞む視界で捉えたのはコードの中から伸びた腕がレイピアを握る。そしてリルレットの姿がコードを押して現れてきた。
「あああああああああああああ!!」
「――な……何ぃぃい!?」
掴んだレイピアに光が芽生えていく。コードの呪縛を打ち破り、エイルモドキの頭に刺さった状態でスキルが発動する。
僕に見えたのは進んだ軌跡が頭と体を切り離した所まで。その後に頭が残っていたのかは分からない。
そしてその瞬間重さは消え去り、肺が空気を目一杯求めた。リルレットはやってくれた。自分と虚構に打ち勝った背中はとても頼もしく見える。
だけど次の瞬間それは綺麗に消え去った。何故ならその時のリルレットが余りにも取り乱してたから。顔を真っ赤にしてさ。
「あ……あのスオウ! ほ……ほほ、惚れてるって何ですか一体!?」
取り乱してるリルレットに僕はやれやれって思ったよ。
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