命改変プログラム

ファーストなサイコロ

無茶で伝わるもの

 後ろから炎が迫る。それも凄いスピードで……これは


「まさか!!」


 イクシードで僕の周りに発生している風の渦やうねり、これが原因か? 風は本来、炎をたぎらせる物。イクシードの風を飲み込む様にして炎は僕に迫ってる。
 まさか最大の切り札が裏目に出るなんて……でもここでイクシードを切ってもあの炎の勢いは止まりそうにない。そしたらどっちみち黒こげだ。
 なら――


「振り切るしかない!!」


 地面を激しく蹴ってただひたすらに前へと進む。巻き起こった風に一瞬炎は押された様に感じたが、その直後に伝わる熱気は増した様な気がする。
 多分酸素の供給で更に燃え上がったのだろう。リルレットの事も心配だけど、繋いでくれた命だ。こんな所で終われない! 大丈夫と信じてただ前へ――それが今、やるべき事だ。




 だけどイクシードの風に乗る炎は速い。風を絡め取る様に進んでくる。


(振りっ……切れない!)


 もう少しなのに、目の前にみんなが居るのに……きっともうプレイヤーモドキ共の攻撃範囲外へ出てる筈だ。だけど攻撃の余波みたいなこれは別らしい。
 立ち上る炎はどこまでも強大で、僕を飲み込むまで消えない気がする。


「くっそおおおおおおおおお!」


 炎の先端が僕の頬に舌なめずりをするようにちらつく。光源がわからない光に四方に延びてた影が今では一つの強力な光で前方に長い影を作ってた。
 そしてその影が不意にいびつに歪む。それはきっと光源が揺らめいてるから……


【捕まえた】


 そんな事を言われた気がした。そしてそれは合図。炎が僕の体を覆っていく。手から……背中から……熱気は確実に僕の体を蝕んで――


「死ぬなあああ!! スオウオオオオオオオ!!」


 ――真っ赤に包まれた視界が弾けた。炎を切り裂いて現れたのは怖がってた筈のみんなだった。もしも本当に僕やセツリと同じ状態に成ってるのだとしたら、傷一つでも怖い筈なのに……こんな炎の中に飛び込んで来るだなんて。
 始めに炎を切った三人が僕を越えて行き、開いた穴からヒーラーの一人が更に飛び込んで僕らを包むバリアを展開してくれた。
 そして再び周りは炎に包まれる。だけど業火の叫びはほんの数瞬で消えていく。だけどこの数瞬でも十分に僕のHPは削られただろう。
 まさかイクシードが裏目に出ることがあるとはな。


「助かった。ありがとうみんな。でも何で?」


 僕は当然の疑問を提示してみる。だってあれだけ嫌がってたのに、こんな危ない場面で良く行動してくれたよ。するとみんなは何だか視線をはぐらかして罰が悪そうな感じ。
 そして炎を切り開いた三人の内の一人が僕の後ろで気恥ずかしそうに呟いた。


「お前が……お前達が余りにも必死だからだな……俺達だって戦えるのに何やってんだって、そう思っちまったんだよ! てか、お前バカか! 
 マジで死ぬかも知れないんなら頼れよ! こっち見たとき泣きそうな顔でもするのかと思ったら、全然そんな事ないんだからな。
 お前は俺達の事、本当に仲間と思ってるのかよ!?」


 あらら、何だか随分と心配を掛けたみたいだ。でも、何だかこれだけ傷ついても、その言葉だけで救われた気になるよ。
 僕はみんなの顔を見回した。ついさっきまでは目を合わせようとしなかったみんなが、こっちを向いてそれぞれぎこちない笑顔をくれる。
 それはきっと全員が同じ気持ちって事なんだろう。それは本当に嬉しい事だ。僕は振り返りちゃんと思いを伝えようと思った。


「んなの当然――っつ、リルレット!!」


 振り返り様に目に入ったのはプレイヤーモドキから追われるリルレットの姿だった。だから次の瞬間、僕は後ろにいた奴とすれ違い一気に逆走をした。
 多分プレイヤーモドキの攻撃ライン外はもうすぐだ。伸ばされた手を引っ張るだけで良いと思う。だけど急がないと、リルレットもHPが半分を既に切っている。


「スオウ!!」
「手を伸ばせリルレット!」


 その言葉でとっさに伸ばされる細い腕を僕は取る。そして一気にこちら側に引き寄せる。目分量だから、このラインで実際は大丈夫なのかは微妙だが更に下がる前に追いついてた奴の槍が迫る。
 それはまさに突進。機会仕掛けの槍は使い手を逆に振り回すようにして一直線にもの凄いスピードとスキルの圧を発生させていた。
 少し前に防いだ物とは明らかに威力が違う。てか止まる様子ねえよ!


「ちっ」
「「「うおおらああああああああ!!」」」


 出来るかは分からない。だけどシルフィングで防ごうとした時、案の定後ろから助けが入った。始めに炎を斬った三人が掛かって槍を止めに掛かる。
 だけど吹き飛んだ。三人がだ。


「なっ!?」


 叫びと共に三人は後方へ吹き飛ばされ、なおも槍はこっちに向かう。


「下がれスオウ!」
「くっ」


 僕はリルレットを抱えたまま後ろへ飛ぶ。その時目の前に再びシールドが展開した。槍の方を見据えながら、これなら……そう思った。だが、機会仕掛けの槍はそのシールドさえも砕いて進む。


「ありえねえ!!」


 だが実際に目の前であり得てしまった事実。後ろ足で下がるがそれはとても比較出来ないスピードの差。迫る槍は既に目の前だ。
 三人と一つのシールドを突破した攻撃力だ。防げるとは思えないが、防がない訳には行かない。だけどその時、全員が一気にそいつに飛びかかった。


「なっ!? みんな何やって……」
「良いから、お前はさがっ――」


 途切れた言葉の原因はみんなが一斉に弾け飛んだから。僕は人の雨が降る光景を始めてみた。そしてその中を突き進む銀燭の光。


(下がらないと)


 僕はそう思って一歩……二歩と後退する。だけどそれは本当に亀の様に遅い。直ぐにあの槍が今度こそ僕達に牙を向く――筈だ。


「あれ?」


 そんな声が腕の中のリルレットから漏れた。そして同じ様な言葉は僕の頭にも浮かんでた。だって明らかに奴のスピードが落ちているから。
 直ぐに追いつかれると思った。だけど今はスローモーションに成ってるのかと思うほど、徐々に遅延していく感じ。
 そしていつしか槍からさっきまでの勢いは消えていて、使い手がその足でこっちへ向かってる。僕は後ろへ下がるのを忘れてた。
 弱々しい機械の音がこの場に響いてる。だけどそれも……ついには僕の目の前で完全に停止した。そしてこれ以上の追撃はない。
 プレイヤーモドキ共は静かにただそこに佇んでるだけだ。


「これって……」
「ああ、みんなに助けられた。みんなのおかげで僕は生きてるよ」


 僕は思わず、リルレットを解放して地面に尻餅を付いた。なんかちょっと気が抜けたな。でも本当に……みんなが頑張ってくれなかったヤバかった。
 きっと助かったのはあの三度の防衛線のおかげだ。特に三回目のあの捨て身で勢いを押さえられた。スキルが出尽くしたか、発動が止まったかで、境界線を越えての行動が出来なく成ったんだろう。


「ご苦労さんみんな」
「「「お前なああ!!」」」


 うあ、何だかみんなご立腹だぞ。まあみんなが怒るのも分かるんだけどな。でも一番早く気付いたのが自分だったから、行かなくちゃだろ?
 それにこれはちょっと読みが外れた感じなんだよ。僕は取り合えずみんなを宥める。


「まぁまぁ、後数歩位、アテが外れただけなんだ。だからゴメンって」
「そんな事じゃねーよ! お前は何でこんな無茶するんだよ! 死んでた。そのアテが外れてお前死んでたぞ!」


 うんうんと周りで頷く奴らが見える。みんな無事な様で良かったが、満場一致か? 確かにアレはヤバかったけどだってアレは……


「みんなが来てくれると信じてたんだ。だって仲間だからな」


 そう、そう言う事なんだ。あの時何も考えずに危ないHPで無謀にも走り出せたのはみんなが立ち上がった様をこの目で見てたからだ。きっとそれが一番大きい。
 笑顔を向けてそう言った僕に何だかみんな照れくさそうな感じだ。


「うん、みんな本当にありがとう。うれしいよ」


 僕に続いてリルレットもみんなに向かってそう言った。リルレットは立ってくれたみんなを見て、感極まりそうな感じだ。
 すると誰かが言った。


「しょ、しょうがねーだろ。お前達二人じゃ頼り無いし、俺達は死にたくないからこうするしかないんだよ。怖いけど、怖いなんて言ってられるかって事にはお前達のおかげで気づけたけどな」


 みんな槍の攻撃を攻撃を受けてそれなりにHPが減ってる。だけどそれでもいつもの様にしてる。この位で怯む事なんて無いって感じに。
 僕とリルレットに向けられる顔に恐怖が見えない訳じゃない、けれどみんなはそれでも立ったんだ。前を向いて。


「まあ僕も死ぬの怖いしな。でもそれでも、それ以上に救いたい奴がいるんだ」
「まあ、そいつを助ける事が俺達が助かる事にも繋がるんだから協力するさ。ただし、マジでヤバくなったら俺達どうなるか分からないからな。これだけは言っとくぞ」


 なんと潔い事を言う奴だ。これって逃げるかも知れないって言ってるよな。だけどそれは言葉だけの様な気もする。今のみんなを見てるとな。
 あんなに嫌がってたのにこうやって助けてくれた。それは恐怖に打ち勝ったって事だろう。頼りがいが増した感じだ。とってもな。


「ああ、いいよ。それでも信じてるからさ」


 みんなが立ってるなら僕だけ座って笑ってみた。すると呆れたようにみんな笑ってくれた。きっとこの瞬間、僕達の絆は深まったと僕は勝手に思ってる。






 淡い光が僕の体を包んで傷を癒していく。でもどういう訳か血糊だけは消えないんだよな。それはLROに元はない物だからかも。
 だけど一回ログアウトして戻ると綺麗に無くなってるんだ。けれど今はそんな事は出来ないし、血を拭う必要もないか。
 そう思って見据える扉の前には微動だにしないプレイヤーモドキの姿がある。そしてあの機械仕掛けの槍を持つ奴はしばらくすると消えて、扉の前の輪に戻っていた。
 あのまま硬直してくれてると助かったんだけどね。しょうがないか。


「どうすれば良いのかな……」


 前を見るリルレットはそんな事をポツリと言った。それはきっと誰もが思ってる事。どうすれば……あいつらを突破出来る? 何よりも一番のネックは倒せないって事なんだ。
 倒してしまったとき……彼らがどうなるかが分からないから。そしてもしも、最悪の事が後から分かったとき僕達はどうする事も出来ない。それが僕も後一歩を踏み出せなかった理由。
 でも、ここを突破するには誰も倒さずになんて無理な事だと思うんだ。あいつ等は強いから、反撃をしない訳には行かない。そしたらいずれは……


「僕達は行かなきゃいけない」


 それでも。そびえ立つ扉を見据えて僕は僕の思いをそのまま口にした。


「スオウ……でも! この人達は……エイルは……」
「それもわかってるけど……でもこいつらは本当にエイル達と直結してるのかな?」
「どういう事?」


 リルレットと同様に思ったみんなが僕へと視線を集中させる。停滞したようなこの白い場所で僕はモンスターモドキ共を見ながら言葉を続ける。


「あいつ等はどう見てもそのプレイヤーの姿を模してるけど、本人じゃない。どっちかって言うとNPCの様な感じが強い」
「うん、だって本当のエイルは柱にされちゃったんだもん。アレはエイルじゃない……そうだね、確かにNPCみたいではあるよ」


 決められた事、プログラムされた事しか出来なく喋れないNPC。今、目の前に佇む彼らはおそらく範囲内に入った者か扉に近づく者を無条件に攻撃するようにプログラミングされたNPC。
 だけどまあ、どっちかって言うとモンスターって言う方が近いかも知れない。僕達プレイヤーを襲うのならばそれはモンスター。
 だけど友人と同じ姿をしたアレをモンスターとは呼びたくない。だから強引でもNPCで通そう。
 そして問題はそのNPCの在り方と言うか何というかだ。


「あいつ等は思うにLRO内に保管されてるキャラ情報を元にシステムが作り出した同種のキャラじゃないのかな。全く同じのを作り出せない訳がない……だってあのシクラと柊とかいう奴らはシステムに干渉出来るんだからそれは可能だ。
 だから言う成れば今目の前に居るエイルも本当のエイルだよ。本家のシステムが形作った姿何だから。ただ違うのは中身ってだけだ。入ってるのが人かプログラムかってだけ」
「じゃあ……そのキャラって言う器をとられた『人』達はどうなったの? もしかしてあの柱の中に閉じこめられてるの?」
「一番の問題はそこなんだ。閉じこめられてるのか、そうじゃないのか分からない」


 NPCに器を取られた人達がどうなったのか? 僕は後ろに整列する柱とプレイヤーモドキを何回か見比べる。多分整列してない輪から外れた柱は元からの物、それを抜いて数えれば間違いなく同じ数の柱がある。


(折れてるのもあるけど、大丈夫だよな?)


 そう言えば先の戦いで何本かいっちゃってる。だって巨神兵と戦ってた時は知らなかったんだよ。ただのオブジェクトかと……と言うかこんな事誰にも想像出来る事じゃない。






 崩れた落ちてる柱はただの瓦礫にしか見えなく、僕らの心の焦燥を表すみたいだ。あの中の誰かだった筈の柱……そう考えるとやっぱり怖い。
 プレイヤーモドキ共を倒しても器の中に居た『人』に影響がないと分かれば何の問題もないんだけど……それにはその『人』達が柱にされた後どうなったかを知らなくちゃいけない。
 エイルでは残念だけどそれを確かめる事は出来ない。ついさっきの事だし、もしも柱の中か何か分からないがLROから出ることが出来なくなってても僕達にその報せは届かないから。


(でも……待てよ)


 不意に佇むエイル以外のプレイヤーモドキに目を向ける。そこにはいろんな種族に多種多様な武器や防具を揃えたプレイヤーモドキがいる。そして思った。


(エイル以外は今日の筈が無いんじゃないか? いや、これだけの人数昨日今日で揃うわけ……それなら、もしかして)


 僅かな希望とも思える可能性が沸いてきた気がした。何回も何回も頭の中でそれを巡らせて行けるかどうか考える。
 そして僕は笑った。「ははは」っといきなりさ。だからみんな驚いた。無茶しすぎて遂に壊れたか? とか思われたかも知れない。だけど大丈夫。この笑いは自分を誉め称えてしまって思わず出ただけさ。
 う~ん、でも何かそれも壊れたと表現出来る気がしないでもないな。


「どうしたのスオウ?」


 そんな自己評価を下してると心配そうにリルレットがこっちを見てた。僕は笑った笑顔のままリルレットにこう言った。


「いや、エイルだけじゃ無いのは僕達にはありがたい事だったかもだよリルレット」
「え? それってどういう……」


 リルレットの顔には疑問符が見えるようだ。これだけの数が居ることであの扉への道を強固にしてるんだろうけど、そのおかげで僕の考えは成り立つ筈だ。
 僕はリルレットに少し微笑んでから言葉を続ける。これはみんなにも聞いて欲しい事だからちょっと声を大きくしよう。
 まあ、音なんて僕の声しか響いて無いからみんな初めから聞いてるだろうけど、そこは気持ちの問題。


「これだけ柱にされた奴が居るって事はつまり、きっとそれなりに時間が経ってる奴もいる筈って事だよ。だからさついさっき柱に成ったばかりのエイルだけじゃ考えられない一つの可能性が考えられる」
「可能性?」


 復唱するようにそう呟くリルレットから視線を外すと、僕はみんなを見てこう言った。


「誰か聞いたこと有るか? セツリ以外で、フルダイブして戻れなくなった奴の事」
「戻れなくなるなんて……つい最近までそんな事噂にすら……」
「てかそんな事になったらネットに流れるだろうし、ニュースにだってなり得るかも……」


 口々に考え込んで呟く声が不意に同時に止まる。みんな口に出すことで気付いた筈だ。僕と同じ可能性って奴に。そしてそれはみんなの言葉に耳を傾けていたリルレットも同じだった。


「みんな無事なの……あの人達は大丈夫って事?」
「そう考えられるよ」
「じゃあ……エイルも……」
「うん、きっと無事だよ」


 その言葉を聞いたとき、リルレットは膝から力が抜けたように地面にお尻を付いた。そして俯いたまま震え出す肩に大理石が吸わない滴を光らせている。
 絞り出す様な声が静かに聞こえてきた。


「怖かった……怖かったの。エイルが戻れなく成っちゃったって……私のせいでエイルが……私が協力するなんて言ったからエイルがこんな事に成ったんだって……うぅ……」
「リルレットのせいじゃないよ」


 そう言ってそっと頭に手を置いた。そしてその頭を優しく撫でる。リルレットの髪は少し茶色が入った黒でリアルでも普通にいそうな感じ。
 だからかな? なんだか親近感が沸くよ。同じ種族だしね。それに何より、エイルがああなったのは多分に僕のせいだと思うんだ。本当に申し訳ないよ。
 自分が泣かしたような罪悪感。でもこれは嬉し泣きなんだよな。


「でも……確実に無事とはいえないよな。ただここに居る全員が知らないだけかもだし。規制されてるって線もある」


 どっかのアホがリルレットに再び不安を与える様な事を言いやがった。まあその通りなんだけどな。だからこそ「きっと」を付けたんだし。今の状況で「絶対」なんて言えねーよ。


「そう……かも知れないですよね」


 そしてそれを肯定したのは意外にもリルレットだった。泣きながら――いや、涙を拭いて今度は力強い瞳で立ち上がりこちらを見てる。


「だけど私は、スオウが言ってくれた事を信じます。きっと今はエイルが私の帰りを向こうで待っていてくれてる筈だって。
 だから私はエイルのために手土産話を持って帰らなくちゃ行けないんですよね。それにはこの戦いの勝利の話が最高です」
「ああ、それは最高だな」


 リルレットは笑顔だった。やっぱり男の笑顔より女の子の笑顔は花がある。場に漂おうとしてた不安を吹き飛ばしたよ。


「まあそうだな。もう後ろ向きなのはゴメンだしな」
「そうだな信じる事しか出来なんだよな。まさかこんなクサイ事言う日が来るとは思わなかったけど……何だか物語の中に居るって感じで良いかも」
「何言ってんだよお前。それなら『俺が全員を助け出して見せる!』 位言ってみろ」
「無理無理、アンタ達はモブキャラ何だから無理はしない方が良いわよ」


 明るい声でみんながそれぞれの不安を打ち消し有っていく様な光景だった。ここに来てようやく取り戻した笑いや楽しさ……それを感じて進むことがみんなで出来そうだ。


「じゃあ行こう! 薙ぎ倒してでも、あの扉の向こうへ!」


 僕の言葉にみんなが目的の扉を見据えた。あの向こうにセツリがいる。今再びみんなで進もう。僕が見つけた可能性は柱にされた人達がLRO内には囚われてないかもと言う推論。それはみんなの手で信じれる所まで行き、そして敵を迷わず打てる力に成った。
 多分この話があまり広まらなかったのは単なる不具合で処理されたり、柱にされた人達は同キャラでログイン不可にでもされたからだろう。向こうに戻ってるのならだけど、それはもうそう信じるとみんなで決めた。
 次々と武器を構える音とスキルの光が灯り出す。そして最後に剣を抜いたのはリルレット。細くしなやかなレイピアが軌跡を描いて引き抜かれた。華奢な刀身に込めきれない位の思いをきっと乗せて灯る光は橙。


「はい!!」


 リルレットのその返事で僕達はもう一度あの扉を目指す。

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