命改変プログラム

ファーストなサイコロ

ピンチと仲間に祝福を



「ぐっ……貴様、何をする!?」
「アアアアギト? どうしたの?」


 二人の視線と声が俺にぶつかる。この目の前のエルフは明らかに俺を睨んでるし、後ろのアイリは何だか震えた声出してるから、俺の凶暴性に引いてるのかもしれない。
 だけどアイリに引かれてもコイツは殴りたかったんだ。てか、アイリは気にしなさ過ぎだ。何だよあの態度、あの言葉。元々萎え掛けてた気持ちが枯れ果てて、そしてむかつきが一気に上昇したぞ。まあその結果がこれな訳だけどな。
 俺は振りかぶった拳を納めて、ぶっ倒れなかった蒼い髪のエルフを睨み返し言葉をぶつける。


「気に入らねえなアンタ」
「ええ!?」


 驚愕の声を絞り出して叫ぶアイリ。後ろから掛けてくる音が聞こえるが、俺は振り向こうとはしなかった。何故ならこの目の前の奴が今にも飛びかかって来そう――


「いきなりやってくれるじゃないか!!」


 ――と思ってたらそんな言葉を吐きながら、案の定蒼髪エルフは拳を振るってきた。俺はその拳を避けずに正面から受け止める。
 只の拳の割にはなかなか重い、良いパンチだった。


「アンタこそ……すかさず反撃するなんて、態度のままの中身のようだな」
「前言撤回してやろう。貴様は失格だ!」


 俺達は火花を散らす程ににらみ合っていた。受け止めた手に力を振り絞り、コイツの拳を壊そうかというくらいに力も込めてる。
 まあ壊れる事なんてあり得ないけど……なんだかダメなんだよな。こいつはムカつく。一目見た瞬間にそう感じて、そしてこいつの言葉の数々で確信した。
 多分目の前のコイツも同じ様な事を思ってる筈だろう。


「もう! アギトダメ! いきなり殴るなんて酷いことです。どうしちゃったの?」


 そう言って割って入ってくるアイリに俺達は取り合えず引きはがされた。だけどそれでも視線の火花は終わってない。俺はあいつを睨みながらアイリへ言葉を返す。


「別に、最初に言った通り気に食わないんだよ。アイリは何でそんなに普通なんだよ? この野郎の上から目線言葉聞いただろ。
 ある程度は俺だって覚悟してたけど、なんか無理だったんだ」
「確かにちょっと上からの言葉だったけど、きっと必死だったからだと思うよ。そんなにこだわることないから喧嘩は止めて」
「う……」


 そう必死にアイリから言われると、自分が子供っぽい事した気に成ってくるな。アイリが俺の殴った理由を別段気にしてないのも、それに拍車をかける原因だ。
 それはただアイリが寛大というか、優しいからだと分かってるけど、こう言うのが大人の余裕かな……とか思うんだ。実際何歳かなんて聞いた事無いから知らないけどさ。
 もしかしたら同年かも知れない。だけどそれだと余計に恥ずかしくなるから、ここは引いとくか――そう思った。だけどその時、目の前のアイツがポツリと言葉をこぼす。


「ふん、器が小さい奴だ。エルフを汚すな」


 ビキッ――そんな音が頭の辺りから聞こえた気がした。俺は分かる。これは幻聴なんかじゃない。今にも第二波を打ち卸したい。 
 だけどその衝動を今度はグッと我慢する。そしてアイリの手を取ってそのまま背中を向けてこの場から去ろうとした。


「え……え? アギト、何で帰ろうとしてるの?」


 アイリのそんな言葉に少しイラッと来てしまう自分がいる。だから少し声をあらげてしまいながらも、歩きながら後ろのアイリに説明する。


「お前だって聞いたろ、さっきのアイツの暴言。こっちが少し引いてやったらいきなり……アイリは人良すぎだ! あんな奴をまだ助けようなんてさ。
 それに俺達は失格貰ったからもう良いんだよ。後は一人で殺されるだろうよ」
「む~」


 何だか納得出来ないと言うような呻きが聞こえるけど、直接言ってこない間は大丈夫だから歩き続ける。するとその時、聞きたくも無い声があり得ない事を平然と言いやがった。


「おい貴様、失格はお前だけだ。そこの女は置いて行け。私が上手く使ってやる」
「あぁ!?」


 ガラガラガラ――これはきっと何か常識とか倫理とかの壁が崩壊する音だと思う。だってアイツ、今何て言いやがった? 


『アイリを上手く使ってやる?』


 何だその物みたいな言い方。俺は決めたよ。きっとこのLRO史上初だと思うが、モンスターと共にあの屑を打ち倒す! 
 アイリから手を離し、背中の槍を握りしめて振り返る。


「なんだ? 女が残ると聞いてお前も去るのを止めたのか? ふん、だが残念だな。私はもうお前を必要としていない。
 気品の欠片もない貴様など見てるだけで腹が立つ」
「何が腹がたつだ。うる――」


 俺は一気に来た道を飛んだ。その手にある槍は赤いエフェクトを帯びてスキルも準備万端。そして振りかぶりながら残りの言葉を言い放つ。


「――せぇぇ!!」


 爆発が起こり、その衝撃で巨大なモンスターが興奮するように吠えた。何だかさっきから何もしないと思っていたら、よく見るとあの四足歩行型のモンスター……何だか背中のマグマだまりから溶岩が溢れ出し始めてる。
 そしてそれが岩の様な体表面から下へと流れ落ちている。何かの前準備か分からないがそろそろ動き出しそうだ。
 けれども目下、俺のターゲットは目の前のクソエルフ。爆煙が晴れて行くと奴の武器だろう長い長剣が俺の槍を受けている。


「ちっ、殺し損ねたか」
「貴様、拳の次はスキルとは……節操のない獣だな! 良いだろう、今すぐエルフは辞めて貰おうか!?」


 今度は奴の長剣に淡い光が灯りだす。そして踏み込んで押し戻すと同時に三連撃の多段技が俺を襲った。銅を払い、胸を切り上げ、頭を突き刺す三連撃。しかもそれが只でさえリーチが長い長剣でその光の影響か、硬質化した光の分だけリーチが増していた。
 元が超至近距離に居たわけで、全て完璧にかわすことは出来なかった。そして最後の頭への攻撃は完璧に狙われてる。
 だから逃げずにこちらも槍を突き出して反撃を試みる。槍と長剣……普通なら槍の方がリーチは長いが今は同等。後はスピードの勝負。


「そのクソ苛つく口を今直ぐ塞いでやるよ!」
「貴様の様な奴が居るからエルフが落ちていくんだ!」


 二つの武器は交差して真っ直ぐに顔面に向かっていく。ここまで来たらどちらも引かない。俺達にはもう、目の前の奴しか見えてなかった。EXモンスターなんて完全に蚊帳の外。
 今攻撃されたら二人揃ってお陀仏でもおかしく無いが、幸か不幸か動いたのはモンスターじゃなかった。


「いい加減にしなさい!!」
「「――づあ!?」」


 何が起こったのか俺達には分からなかった。だけど気付いた時には俺達の武器は手元から消えていた。そして二つの武器は数瞬してから後方へ落ちて甲高い音を鳴らしたのは分かった。
 一歩間違えばこの空間の所々にあるマグマの噴出口に入ってそうなもの。ヒヤヒヤした所だが、その事よりももっとヒヤヒヤするのは怒ったらしいアイリの事だ。
 目を向けるとアイリは自身の細身の片手剣を肩に持っていきトントンしている。これは本当に怒ったときにアイリが良くやる動作だ。つまりはマジギレ中の証。
 それでも武器があればまだ何とか話せるんだが……さっきの一瞬で獲物は弾かれてしまった。てか、一体どうやったんだよ。一瞬で二つの武器を同時に吹き飛ばす何て信じられん。


「女! 一体何――」


 不意に蒼髪エルフの言葉が途切れた。原因は予想できるけどね。ヒントはアイリの腕が動いてる事だ。


「――ぐあ!」


 蒼髪エルフの膝が地面に付く。やっぱりアイリに斬られてたみたいだな。怒ったアイリは容赦がないから怖いんだ。それに幾ら同じエルフで、決闘も申し込んで無いって言っても強すぎる衝撃はシステムの壁を越えて伝わってくる。
 それにその現象が何故か怒った状態だと起きやすい。だからこの蒼髪もHPに影響はなくても衝撃は伝わったんだろう。


「本当に……まだそんな闘争心一杯の目で見て……それにアギトの言うとおり少し口調が荒いですよ」


 冷静なアイリの声が異様に背筋に緊張を与える。だけどその怖さを知らない蒼髪は、それでもアイリに食ってかかろうとしていた。


「くははは、凄いな女。私をひざまづかせた女はお前が初めてだ」
「そうですか。たいして興味ありません。それよりさっきから女、女って私にはちゃんとアイリという名前があるんです。分かります?」


 今のアイリも相当だが、あの状態で笑った蒼髪も相当だ。蒼髪の方は気味悪いって事だけどな。やっぱり最初から思ってたけど少しコイツおかしいと思う。
 やっぱり関わらない方が良かったと後悔してももう遅い。そして蒼髪は更に言葉を続ける。


「女……お前は今までのエルフの中で一番見込みがある」
「だから女なんて呼ばないで。アイリです!」


 再び振るわれたアイリの剣には手堅くスキルを纏ってた。そしてそれで何回も叩かれる蒼髪。流石にダメージ無くても死にそうな光景だ。
 そしてようやく止まったアイリが振り向いて言った。


「どうしましょうアギト。この人、全然分かってくれません――と言うかちょっと怖いです」
(お前もな……)


 とは流石に言えない。それにこっちを向いた事で俺は心臓の高鳴りがやまない。一応言っとくけどこれは決して良い方面のトキメイタ高鳴りではなくて、死刑宣告されるかも知れない被告の様な高鳴りだ。超苦しい。
 だってこっちを向いたって事は、こっちに話が振られそうなんだよ。


「それよりアギトもアギトです。一度暴力はダメだって言ったのに、今度は武器で直ぐまた行っちゃうんだから……私は悲しい。
 良いアギト。暴力で全てを解決しよう何て最も愚かな行為だからね。戦争がその良い例だよ! LROでは戦いが前提として出来るけど、それは暴力や喧嘩じゃないの。わかりますかアギト君?」


 発した言葉に重みもあった。納得も出来るし、理解も出来る。それに勿論、同意だって出来るさ。俺だって戦争とかは絶対反対だし、暴力も許せない。まあ喧嘩は男同士ならたまにはな……だけど。
 けれどその言葉の最中納得出来ない事があったんだ。そしてそれは今も続いてるけど……


「分かりましたかアギト君?」
「サーイエッサー!」


 喉元に剣を突き立てての説得は脅迫では無いだろうか!? 言うしかないじゃん! そう言わざる得ないだろ! まあ別にそれでも機嫌が少しでも直るのなら良いんだけどさ。
 結局悪いのは俺達だし。


「うん、アギトなら分かってくれるって思ってた」


 ようやく少しは落ち着いた感じになったアイリ。あの蒼髪をボコボコにしたのも良かったんだろう、今日は直りが早い。
 そしてアイリはようやく再び立ち上がった蒼髪にも俺と同じ同意を求める。


「ね? 貴方もそう思うよね?」
「ふん……私は戦争も何かを得るための一つの手段と考えてるがな。ここではそれが正義だろう。誰もが暴力を振るっている。
 お前はあまつさえ、モンスター狩りをスポーツとでも言う気か? 我々は既に戦争をしてるんだ。奴らとな」


 蒼髪から帰ってきた言葉はアイリの求める言葉ではなかった。だけど俺的には初めてコイツの言葉に関心が持てた。まあムカつく事に変わりはないけどな。
 でもアイリはこれじゃ許してくれない。カタカタと腕を震わせて剣を掲げようとしてる。そしてそれに気付いた蒼髪野郎は「不味い!」みたいな顔をして慌てて言い繕う。


「いや……でもだな……取り合えずソレが無駄なら私は絶対にそんな事はしない」
「……まあ、今はそれで許してあげます。だけど私は貴方がその言葉を違えるのなら、この剣を持って貴方を止めます。そう覚えててください」


 アイリの剣が溶岩とかの光じゃない何かでその時輝いた様な気がした。俺の見間違いだったかも知れない……けれど同じように蒼髪野郎もそんなアイリを見つめてる。


「覚えておく事にしよう」


 その時初めて俺は見た。蒼髪野郎のムカつかない笑顔って奴をだ。普通に笑った顔だったと思うけど、希少で思わず「あっ」と言ってしまった。
 そしてアイリと二人してニヤニヤとしてしまう。するとなんだか蒼髪野郎が照れ隠しの様に叫んだ。


「何だ貴様! 何を笑ってる!?」


 アイツ明らかに俺一人に向けて言ってると思う。だけど、今はあれが照れ隠しと分かってるからそこまでムカつかない……てかおかしい。
 意外とシャイなのかコイツ? するとアイリが大きな声で場違いな事を言いだした。


「もうー気にしなくていいよ! それより自己紹介しましょう。自己紹介。私は言ったから次はアギト! ってアギトって言っちゃ――きゃあ!!」


 言葉の途中で突如響いたアイリの悲鳴。それは余りにも唐突……突然。俺と蒼髪野郎の間に居たアイリは、その間を埋め尽くす程の火炎放射? ……違う、もっと高密度、で高温の攻撃に吹き飛ばされて行った。
 実際リアルなら「きゃあ!」なんて言う間も無く溶けてるであろう攻撃。


「アイリ!!」
「大丈……夫」


 だけどここはLRO。そう返したアイリが溶けて無くなることは無かった。けれど相当なダメージだ。単純に油断してたってのもあるだろうけど、きっと攻撃力が冗談みたいに高いんだろう。
 ここでの狩りに併せて炎耐性の防具にしてなかったらもしかしたら一撃だったかも知れない……そう思えるほど、さっきの攻撃はデタラメだ。
 何でEXモンスター程の敵が今まで何もしなかったのか。その謎はきっとこれだろう。一撃でプレイヤーを凪ぎ払えるだけの攻撃の準備をしてたんだ。そしてその恐ろしい程の為を作ってまででも放った一撃……でもどうしてそれがアイリに向いたんだ?
 LROのモンスターは強力な攻撃をするプレイヤーにターゲットを移すけど、そもそも俺もアイリも奴に攻撃なんかしてない。明らかにおかしいぞ。攻撃するなら、このムカつく蒼髪野郎の筈だ。
 だからこそ、俺もアイリもそんな事ないと油断してた。


「くっそ! どういう事だよ!」


 誰に向けたかも定かじゃない言葉。きっとアイリを守れなかった自分に言ったんだと思うが、それを受け取ったのは意外にも蒼髪野郎だった。


「貴様等敵のリサーチもせずに助けに来たのか? どうりで随分とおかしな奴等だと思った。今回だけの共同戦線だから教えてやる。今のは奴は狙って無いだけだ。
 だが漠然とプレイヤーの方へ向かって撃つ。だから基本奴との戦闘時は囲む様に戦うのが基本戦術なんだ」
「それならそうとさっさと言え! それかせめて注意を促せよこのアホ!」


 マジでなんて大事なことを今更得意気に言うんだこいつは。必殺の一撃を撃ったモンスターは岩が張り付いた様な体表面から蒸気が上がり、溢れ出ていたマグマは枯渇気味に見える。
 どうやらあの背中のマグマを打ち出したって事みたいだ。見る限りもう一発撃つには時間が掛かりそうだけど、油断は出来ない。そう思っていると、蒼髪野郎が珍しくそっちから口を開いた。


「もう一発さっきのを警戒してるのなら無駄だぞ。あれは一回の戦闘で一度切りだ」
「一度切り? そんな物を当てずっぽうなのかよ。あのモンスターは?」


 俺の問いかけに蒼髪はいつもよりも楽しそうに、何かを含んだ言い方をしやがる。


「くく、まああの攻撃はもう警戒しなくて良いってだけだがな。知らないのなら一瞬も貴様は目を逸らすなよ」
 そう言って蒼髪はモンスターを見据える。俺も疑問は尽きないが、後ろで回復を始めたアイリをチラリと見て前を見据える。
(一体何が……)


 そう思っていると、巨大なモンスターが犬の様に体を震えだし始めた。すると隣の蒼髪は言う。


「始まったな」


 だから何がだよ……そう文句を言おうと思ったら、それは直ぐに見て取れた。


 ズウゥゥン!!


 その音はモンスターの体表面の岩が取れて地面に落ちた音だ。どれだけあの岩が重かったのかその光景で想像が付く。何故なら落ちた岩は地面に真っ直ぐに埋まってるのだから。
 ここの地面も岩の様なのに、その岩を上から圧し砕いてるんだから相当だ。
 だけど俺にとっての衝撃は単純にモンスターの岩の外装が取れたこと。奴が体を震わせる度に次々とそれは落ちて行き、最初とは別のモンスターに成って行くかの様だ。
 今まで亀みたいに見えていたモンスターは、今ではすっかり俊敏な狼の様だ。それに外装は全部取れた訳じゃなく、部分部分に鎧の様に残っている。


「おい……あれって……」
「あれが奴の本当の姿。いや、第二形態とでも言った方が好みか?」
「ふざけんなよお前……」


 洒落になってねえんだよ。明らかにやばい感じがする。よくよく考えたら最近はずっと二人でやってたせいで、このクラスの奴を相手にする機会はなかった。久々に肌を刺すような緊張感が全身を包む感じだ。
 まあ、その感が既に警告発してるけどな。


『逃げろ!!』


 って。けどなんだか、どいつもこいつもそんな気無さそうなに行き満々。別に幾らこの蒼髪がやられようと良いけど、アイリもその気だからやっかいだ。
 その時、モンスターが吠えた。


「来るぞ! 武器を構えろ!」


 何だかいきなりリーダー面する蒼髪に文句を言う暇は無さそうだ。だけどそこで俺は気付いた……とんでもないことに。
「おい! 構える武器が無いぞ!」


「くっ――そうださっきアイリに……」


 それぞれが一斉に飛ばされた武器の方を見た。だがとても間に合わない。武器無しで一体俺達に何が出来る? モンスターは凄まじい爆音を鳴らして地面を蹴った。
 どっちに来る? 蒼髪か……蒼髪だろう……だけど、何か進路が中途半端だ。またしても俺達の丁度中間を狙ってる様な感じ。


「クソ野郎!! 完全にアイリを狙ってるじゃないか!!」


 もう、そうとしか思えない。何故かは分からないがあのモンスターはアイリにターゲットを固定してる……って魔法か!! 回復魔法や攻撃魔法の類は武器での直接攻撃よりもターゲットを取り易い。
 まだ回復は完全じゃない……今攻撃が直撃したらアイリは終わりだ。


「諦めろ! 私達が避けてこいつを倒せば良いだけだ!」
「バカ言ってるんじゃねぇえぇ!! あいつは絶対に俺より先には死なせない! それに俺は最後まで二人で勝つことを諦めたりしねえええ!!」


 俺はモンスターの進行方向へ飛び出した。たった一つ我が身だけで。そして次の瞬間吹き飛びそうになる体を必死に支えた。足がモゲてもおかしくない衝撃。だけど……


「うおおおおおおお、行かせるかああああああああ!!」


 踏みとどまる。踏みとどまり続けなければ行けない。けれど幾ら足が地面を削っても止まらない。自分のHPだけがみるみる減っていくのが見えている。
 無理なのか、やっぱり無茶すぎたか、そんな思いが心をよぎった。後ろのアイリが迫る。その時、俺の隣にもう一つの陰がぶつかった。
 深い海の蒼が視界にちらつく。


「お前!? 何で?」
「貴様に出来る事が、真のエルフである私に出来ない筈は無い!!」


 それはあの蒼髪野郎。用は負けず嫌いな性格か何か知らないが、これで! 赤と蒼の叫びが合わさる。そしてついには我が身二つでEXモンスターの突撃を食い止めた。


「やるじゃんか蒼髪」
「蒼髪ではない、私は『ガイエン』だ、覚えておけアギト。それにアイリ」


 それは初めて互いを認めあった瞬間……ここからが反撃開始! ――と思いきや、まだまだ俺達は全然チームですら無かったんだ。
 まあはっきり言うと、完敗したさ。それはもう木っ端微塵に。そして俺達にはイヤな悔恨が残ったとさ。

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