命改変プログラム
逃げない選択
『現領域はログアウト不可空間です』
そんなメッセージがログアウトを押した一同から流れる。これで「助かる」――そう思っていた面々はそんなメッセージを瞳に映すと同時に絶望の色が浮かぶようだった。
「な……何だよこれ!?」
「ログアウト…不可?」
「そんな……」
口々に出る覇気の無い声。そして信じられない様に何度も何度もログアウトへ手を伸ばす。だけど結果はすべて同じ……出てくる文字は寸分違わぬ機械的な物だ。
元々、それだけの覚悟が必要な場所って事か。この洞窟を観て感じた簡単には戻れそうも無い感じ……それはこういう事でもあったんだ。
確かに今考えれば、僕達のログアウトだって奴等にシステム側に握られてる訳何だよな。確か会社の人達はシステムで引っ張り上げてる――そう言っていた。
なら、それをシステム側が拒否すれば僕達は帰れなく成るのは道理。この空間は多分、奴等が無理矢理作った場所。だから僕らは罠にはまったも同然なんだ。まあそれを覚悟したはずだったけどーー直面すれば脆くも壊れる物か。
「くそ! くそ! くそおおおおおおお!」
「柱に何か成りたくないよおお」
悲劇を叫ぶ面々。崩れ去る間際の一同に僕はこう言うしかない。
「前に進もう」
だけどその言葉に反応するのはエイルを想うリルレットだけ。
「スオウ……」
「もう、それしか無いよ。仲間だろ、僕達は」
拳を握りしめて選択を迫られている面々を見据えるリルレット。その潤んだ瞳はきっと何かを期待してる筈だ。けれどみんなは首を振ってその眼差しを投げ捨てる。
「今の状況でそんな事……出来る訳がない!」
「そうだ、俺達は死にたく何か無いんだよ!」
そんな叫びが虚しく、この巨大な広い空間に響きわたった。リルレットは声を出せないしみたいで口をパクパクするだけでそれを受け止めている。
僕は反響する声が収まるのを待って柱と成ったエイルを見据えながら声をだす。
「なら余計、進むしかない。ログアウト出来ない以上、助かる為には奴等の元まで……それが唯一の手段だよ」
僕の言葉は静かに消えていく。そして上を向いて見据えるのは頂上だ。だけどそれでも決心なんてそうそう簡単に付くもじゃない。
みんなは頑なに下を向き続けてるよ。
「だからってどうなるか分からないじゃないか! 何をされるかも分からない! 向かったところで勝てる保証も無いんだぞ! 何でこんな事に……」
「俺達はただゲームをしていた筈だったのにな……」
暗い空気はなかなか取れそうに無いな。二人で行くのは無謀と悟ったから、そんな事はもうしない。でも、ここでずっと押し問答を繰り広げてる訳にも行かないんだ。
どうすればみんなの気持ちをもう一度上げられるのだろうか? だけどその時、明るい声で最悪な事に気付かれた。
「いや、待てよ。ログアウトじゃなくても、来た道を戻ればいいだけじゃん!」
「おお、そうだよな!」
イヤな感じがまんえんしだしてる。ある意味これはみんなにとっては希望と分かるけど、僕やリルレットにとっては痛い事だ。けどもう、見いだした希望にみんなの目は奪われていて、僕達の言葉が届きそうに無い。
でも実際はそこから脱出出来る可能性も確実とは考えにくい。だってわざわざログアウトを不可にしてる奴がもと来たルートを閉じてないなんて考えにくい。
元々この場所は無かったのなら、あの入り口を閉じる事だって出来る筈だろう。けれどみんなそこまで考えてなんか無いんだ。
見えた希望にすがりつくように……自身のゲームを取り戻すために彼等は下へ駆けようとする。
「待ってください! 行かないで!」
けれどその時、飛び出したのはリルレット。震える声に両手をいっぱいに広げてみんなの進路を防いでる
僕もみんなの後ろからリルレットを後押しする為に声を荒げた。
「そうだ、よく考えろ! ログアウトも出来ないのに、出入り口が残ってると思うか? 奴等は僕達を逃がす気なんてないさ」
「そんなわけ! でも例えそうだとしても行ってみないと分からないだろ! まだある可能性だってある!」
「それなら出口が無かったときはどうするんだよ? その時は今度こそ上を目指すしかないぞ」
僕のその言葉に更に行くのを萎縮するみんな。だけどこの空気もダメなんだ。目標はさっきの希望を見つけたようなテンションでの登頂。その為にもどうすれば……その時僕は気付いた。ここから見える筈の所にそれは有ったはずじゃないのかって。
「おい、どうやら覚悟を決めた方が良さそうだぞ」
「「「え?」」」
僕はその方向へと指を伸ばす。こちらを見ていたみんながその指の進路を開けるように頭を向けていく。
そしてたどり着くのはリルレット……じゃなくてその更に先。幾本もの柱の先にある――いや有った筈のその穴に向いている。そしてみんなが気付く。その事実に。
「もう既に退路はない」
「嘘だろ……」
その言葉に嘘は無かった。それはもうみんながその目で確認してる。僕達が進んできた筈の洞窟の道は、今や元からなかったかの様に跡形も無い。
遠いから実際は分かりづらいけど、ぽっかりと口を開けた穴はこの距離でも見える筈なんだ。
「なんてこった……どうすんだよこれから!」
一人が地面を打ち叩きそう声を荒げた。そして失われた希望に膝が崩れそうに成っている。でもまだ……そしてここだと僕は思った。一瞬だけ灯った光。それはまだくすぶってるかも知れない。
「進もうみんな。そしてみんな無事に脱出だ。この戦いを勝利で終わらせるんだ」
「またそれかよ。無理なんだ俺達には……お前の様に覚悟なんて出来ない」
背中で発したその言葉は弱々しくて、とても前を見れる状態じゃないと分かる。分かってる……けど、進まなきゃ誰も救われない。それは確実だ。
だから僕は有る決心をした。
「なら、みんなまとめて僕が守るよ。それなら文句ないだろ?」
「「なっ!!」」
一斉に誰もが振り返る。向けられる視線は「そんなバカな!」と言うのが見て取れる様だ。でも僕は本気で言ったよ。でなきゃ意味なんて無いじゃないか。
「お前! そんなの無理に決まってるだろ!?」
「無理でも何でも進むにはそれしかない。大丈夫、全員まとめて面倒みてやるよ」
僕は余裕たっぷりにそう言って見せた。強がり以外の何物でも無いけど、それでも余裕を見せないとみんなの不安を煽るだけだ。
だから僕はみんなの中にまだくすぶってると信じる希望をこの態度で刺激する。少しでも僕の言葉に乗ってほしいんだ。
「私も! 私もみなさんを守ります! 守ってみせます! だから行きましょう」
声を出したのはリルレット。僕の計画に乗ってくれた様だ。これで少し場の空気が変わり始める。誰だって一人は不安なんだ。だけどそれが二人なら、与える安心感が違う。もうしかしたら……そう思える。そして――
「俺たちは本当に何もしないからな……」
「ああ、充分だ。な、リルレット」
「はい、みなさんありがとうございます」
深々と頭を下げるリルレットにみんなはちょっと恐縮気味。だけどこれで僕達はみんな揃って上へ行ける。その選択が出来た。まあ、それなりの人数と言う荷物が背中に乗ったわけだけど、きっと価値があると僕もリルレットも信じてる。
だからまずは僕達が――私たちが……そう二人で思っていた。
タン……そんな音を鳴らして僕らは階段を上りきる。そして目の前に見えるのはこの神殿の入り口だろう巨大な扉。それから追い続けていた月光の様な輝きを放つ髪を持つ奴。奴は扉の両端の柱の右側に背を持たれてこちらを見ている。
そして何故か大きなため息。そして口を開いた。
「あ~あ、何だ余計なのが一杯居るよ~☆」
そう言って柱から背を離し柱の間、扉の正面へその長い髪を揺らしながら進む。
「もう、ちょっとは空気って物を読んでよね。大勢で女の子の家に押し掛けるなんて非常識だぞ☆」
今まで通りの明るい声に僕らは緊張感が抜けそうになる。言ってる事も場違い――ってやっぱりここはこいつらのホームなのだろうか? でもそれよりももっと気になってる事が僕にはある。
「アホな事言ってないで答えろ。エイルを柱に変えたのはお前か? それともやっぱりもう一人居るのか?」
僕の質問に奴は指を顎に当てて考えるふりをする。でもそれは明らかにふりなんだ。
「エイルってだぁれ? 私知~らない☆」
「ふざけるなよ。お前じゃなければもう一人の奴だ。居るだろ!? 僕は見たぞ、アレは明らかにお前より髪が短かった」
その言葉に更にニヤニヤとする奴。でも僕はそんな奴を見据えて少し考えた。そう言えば、今の奴はアギト達が見た時と髪色が違うと言っていた。
どうしてそうしたのかは謎だけど、それを考えると髪の長さを変える事も簡単に出来るのかも知れない。まさか……やっぱりこいつがエイルを? くそ、判断出来ない。その時進み出たリルレットが答えをくれる。
「幾ら笑顔で誤魔化そうとしたって無駄です。同じ女にはそんなの効きませんよ。それに私には確信があります。エイルが柱になる直前に言ったんです」
彼女の目は強い光を帯びて真っ直ぐに奴に向いている。そこには必ずエイルを助ける――そんな決意が見て取れる様だ。そしてリルレットのあの確信はそうか、確かにエイルは間際に何かを言っていたんだ。
僕や他のみんなはそれを聞き取ることは出来なかった。だけどリルレットはそうじゃ無かったんだ。確かにあの時受け取った様にリルレットは頷いていた。
「ふ~ん、それは楽しみね☆」
「ええ、エイルはこう言ったんです。『奴は一人じゃない』そう私に伝えてくれました。多分それがエイルがここで見た事だった筈です。
だからスオウが見た人は間違いなく居るはずです! その人がエイルをあんなにしたのなら……私は許しません!」
隣に立ったリルレットが自身の細身の剣を抜き去り、奴に向ける。白い光を受けて輝く刀身はきらびやかな光を発していた。
『奴は一人じゃない』確かにそれだけで複数人は確認出来る。けれど何人かとかは分からない。信じることは出来るが答えには入らない……そんな感じだ。
だけどその答えを知る奴は今目の前にいるし、解くための数式みたいなのは今のリルレットの言葉で出た気がする。
それなら後は迷わず詰め寄れる。
「だ、そうだ。そして勿論、僕だって許さない。まあ僕の場合は当然お前もだけどな」
「ふふふ、何だかそんな熱い視線を向けられるとあの子じゃ無くてもドキドキしちゃうね☆ それにそんなに身構え無くても教えてあげるのに。絶対に隠し通したい訳じゃないんだしね」
「どう言うことだよ?」
さっきまで頑なに別の物で取り繕ってた奴の言葉とは思えないぞ。そして奴は視線の先でその月光の髪を僅かに揺らし言葉を紡ぐ。
「君が私たち姉妹に会うのは必然だもの。あの子の王子様でいたいのならなおのことね☆ それにみんな興味が有るし……それにこっちだってね、許しはしないの君の事を」
「……姉妹」
一体何人姉妹? と思わず頭を巡らせた。希望は一人。当たり前だろう、こんな企画外なゲームのバクみたいな奴等がそうポンポンといたら迷惑極まり無い。それに僕が見たのは一人だし、エイルも具体的な数字を言わなかったのはその一人だけしか見てないからじゃないのか?
まあここに全員が居るとも限らない訳だけど……取り合えずは一人は確実なんだ。そう考えた矢先に、左側の柱の陰から声が聞こえた。
「何姉妹? とか考えてる? なら教えてあげようか。私『柊』とそこの『シクラ』、そして残り三人で五人姉妹なの私たち」
「ああ~ヒーちゃん私の台詞取らないでよね。と、いうかもっと派手に見せ場的な登場の用意をしてたのに、出るの早すぎ!」
「仕方ないじゃない。だって結構あのモブリしぶとかったんだもん。最後に私の存在を託してるなんてね。まあ、それよりももっと計算外なのは……」
二人はまさに姉妹の様に馴れ親しんでる感じ。と言うか姉妹に見える。出てきた女の子は『シクラ』と呼ばれた奴より二回り小さい感じ。どっちかと言うと妹系だな。
中学生位の容貌に髪はやはりシクラよりは短いけど、腰まではある長いストレート。けどこいつ『柊』だっけ? 何だか色が毛先と生え際で違う。
でも新しく毛が生えてきた様な不自然な感じじゃなく、そのままがそういう仕様の様な髪。柊は生え際は黒だけど、毛先に行くほどに艶やかな白……いや白銀へと色が変わってる。白髪とは思えない光沢だから白銀な。
そして服装は奴シクラの可愛らしさのないマント姿とは違ってタイトで鮮やかなミニスカートに鎖骨と肩を大胆に露出した感じの服。腰には大きめのベルトが意味無さ気に巻かれていて、同時に武器なのか鞭も見える。
ここまでで言ったらLROの冒険には不向きなリアル系の服装だけど、ちゃんと防御を考慮して二の腕までを包む鉄甲に、脚には銀糸とメタリックな鉱石により作り込まれた膝までをガードするブーツが見える。
アレに蹴られたらかなり痛そう……そう思える感じ。
「計算外なのは……」その先はよく聞こえなかった。もしかしたら心の中で呟いただけかも知れない。システムの裏側にいる筈のこいつらにも計算外な事――そんな事あり得るだなんて気になる事だ。
だけど今の僕たちにはもっと気にすべき一言をこの柊は言っていた。そう『あのモブリ結構しぶとかった』それはつまり――
「柊っていったっけ……今の言葉本当? アナタがエイルをあんな風にしたの?」
登場したもう一人の謎の少女に戸惑いを隠せないし、あと三人も同じような存在が居ると分かった衝撃も大きい。だけどそれを押し退けてでもリルレットには真っ先に確認するべき事があった。
籠もる様な声と、下を向く顔。そしてシクラの方を向いていた筈の切っ先は今は垂れて震えていた。
「うん、そうね。私がやったわ。それが何?」
「それっ――がっ何って!!」
リルレットの額に浮かんだ血管から血が飛び出してもおかしくない。そう思えるほどにリルレットの顔からは怒りが見えた。でも対する柊やシクラは余裕で動じる事なんかない。むしろ薄く口元を上げている様にすら見えるんだ。
「おかしな事なんか何もないじゃない。私達はいわゆる敵同士なんだから、出会ったら対峙するが道理でしょう。その結果がアレよ」
そう言って柊は柱のエイルを指さした。
「そんなこと言って、本当はヒーちゃん恥ずかしがり屋だからいきなり現れた彼にびっくりしちゃっただけだよね~☆」
「ちょとお! 違うわよそんなの!」
途端に頬を染めだした柊。だけどちょっとビックリしただけにしては随分とスゴい事をやってくれた物だ。何でわざわざ柱にする必要が有るんだよ。
それにもっと悪役風で無いと困る! だってその通りなら僕にも明らかな非があるじゃん。く……覚悟はしてたが助けた後にエイルには謝らなきゃな。
「あはは~でも結局自分のタイミングで出てきたかっただけだよね。私の演出はいつも派手だって怒るもんシーちゃん☆」
「そんなの当たり前です! それにそれに、仕方ないじゃん。シクラはいつだって演出過多だもん。私は繊細なお年頃だし……何より私達に男との接し方なんてプログラムされてない……」
そう言って柊は柱の陰へ再び入って顔を半分だけ出している。こっちを伺う瞳も女の子だけを世話しなく見てる感じ。きっと僕たち男は線にでも成ってると思う。
こうやって見ると限りなく普通に見える。だけどその存在はあのモンスター共を操るシクラと同じ存在……システムの裏側の住人。そしてそれが後三人。
考えたくもない事だ。でもこいつらの目的がセツリなら確かに僕らは必ず交わる事になる。
どっちも降りる事なんか出来ない。その時、靴の音を響かせてリルレットが一歩を踏んだ。
「そんなアナタ達の体質とか気持ちなんてどうでもいいんです。今すぐ、エイルを元に戻しなさい!」
そんな力強い声が二人の姉妹の動きを止めた。そしてこいつらは本当にコロコロ雰囲気が変わる。それは姉妹で同じらしい。柱の陰から柊が黒い笑みを浮かべてる。
「それって無理な事なの。てゆーか何で敵のお願いを聞かなくちゃいけないの? そんな道理ないじゃない。それに私はシクラ程甘くも優しくもないから……私達の大切なあの子を奪いに来たアナタ達を返す事なんかしない。
そう肝に銘じてなさい」
妖しく光る柊の目はエメラルドグリーンを宿している。だけどリルレットは動じずにその刀身にスキルの光を纏わせる。エイルを助けるにはやるしかない……そう判断したんだろう。
確かにそれしかないとは僕も思う。そう柊の奴も言ったしな。単純に考えればニ対ニ、悪い条件じゃないのかも知れない。
「なあ、ずっと聞きたかったんだけど……何でお前達はセツリを――」
「――ちょっと待って! 男は口を開かないで!!」
ええ? 男が苦手とかは聞いたけど、最初そっちから声掛けて来なかったっけ? あれは自分のタイミングだから大丈夫だったって事なのかな?
「ヒーちゃんは本当に純情だね☆ ほらちゃんと見た方がいいよ。アレがスオウ何だからね」
「アレが……私達の……」
シクラの言葉で必死な顔でこちらを凝視する柊。何だかイヤな物を無理矢理見てるみたいな感じで結構辛いんだけど。向こうが無駄に美女だから余計ね。
そして呟く言葉の最後が聞こえた。
「居場所を奪った奴」
そう言うと突然に、腰の鞭を振り回して自身の隠れる柱を壊した。大きな柱が一瞬で砕け散り、大音響と衝撃でこの聖堂が大きく揺れる。
「――っつ!?」
巻き起こる粉塵が視界を遮る。周りでも余りの衝撃に悲鳴が上がっていた。互いの無事を確認する声が上がる中、不意に前方から重厚な音が聞こえて、一筋の光が延びてきた。
そしてそこへ立つ二つの人影。それは姿が見えなくたって誰か分かる。絶対的にあの二人だろう。シクラと柊。
「おい! 何やってるんだ!?」
「ちょっと! 男が叫ばないでよ!」
聞こえてきたのは柊の声。本当に男嫌いだな。その時こちら側の影も動いた。音も無く素早く二人に迫る。
「うん、やっぱり女の子よね」
「逃がさないから、絶対に!」
聞こえてきたのはリルレットの声。一人で突っ込んむのは幾ら何でも無謀だ。それに今の声を聞く限り奇襲も失敗してる様だし、これはやばい。
そう思って僕も光の方へ駆けだした。だけどその時リルレットの悲鳴とともに衝撃が全面に伝わって地面に一緒に倒れた。
「大丈夫か……リルレット?」
「うん……ありがとうスオウ……でもあいつ等が」
晴れていく土埃の間から見えたのは僅かに開かれた正門。そこから光は出てるんだ。そしてその扉の向こうに行こうとしてるシクラの姿。
「それじゃあシーちゃん行こっか? うふ、スオウにも良いこと教えてあげる。こっちに来れたら、セツリと会えるよ。この向こうがゴールだからね☆」
「なっ――おい!!」
僕はリルレットを押し退けて走り出す。あの向こうにセツリが居る。だけどその時、続いて扉に入ろうとする柊が言う。
「私としてはもう二度と逢わせたく何かない。だからお願い、それが二人の為なの。来ないでね」
「そんな事! 今更――」
「そう言うよね。だから後はお願いするわ」
閉じていく扉に僕は腕を必死に伸ばす。だけどその時、扉までの道を誰かが塞ぐ。見覚えの在る種族の姿をした誰か達が……
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