命改変プログラム
命の重さ
「さあ、行こう」
巨神兵を倒し、白く荘厳に佇む宮殿を見つめて僕はそう言った。そしてもう、誰もそれを止めるなんて事はしない。どうやらあの白い炎は巨神兵の消滅と共に効果を無くして消えたようだし、術技を取り戻したヒーラーの活躍で一気に全快だ。
気負いも迷いも寄り道ももう十分……後はただ、目指すべき場所へ。
「はぁはぁ」
長い長い階段を僕らはひたすら上り続ける。遠くから見たらそうでも無かったけど、近くに来たらその大きさにびっくりだよ。それに遠くから見えるだけあってか、予想以上に高いんだ。
そして更に更に面倒なのがやたらと一段一段がデカい事。まるであの巨神兵に併せて作ってある様なそんな感じだ。
だから人間サイズの僕らがこの階段を上がるのはとても苦労する。まあ一人例外がいるけど。
「キャッホー! 遅いぞおまえ等!」
「あんの、クソチビ。一人じゃ上れない癖に、投げて貰うだけで先に行けるんだから楽だよなまったく」
さっきからポンポン投げられて僕達より先に行っているエイルがホントムカつく。転げ落としてやりたくなるよ。アイツ丁度良く丸いから止まらずに下まで気持ちよく落ちると思うんだ。
「くくっ」
今度アイツの所までいったら実践してやる。そう思って一人ほくそ笑む。すると突然上から声と重さが――
「ちょとスオウ! ちゃんと支えてって、きゃ!」
「ぐうぇ!」
――落ちてきた。何だか罰が当たった気分だ。女の子ってそんな柔らかく無いもんだな。スッゲー痛いよ。なんかゴツゴツしとる――って、防具付けてるからか!
リルレットは落ち方が悪い。背面から来るから防具の全面で叩かれたんだよ。せめて尻から落ちてきて欲しかった所だ。
「もうーちゃんと支えててよスオウ!」
「ごめんごめん。良いから早く退いてくれ。上の方からスッゴい殺気を感じるんだよ」
その殺気を放ってるのは見なくても分かるけど、きっとエイルだろう。するとリルレットが立ち上がりざまに言う。
「エイルを羨んでも仕方ないよスオウ。モブリじゃこの階段上がれないし、そんな時はみんなで協力しないとね。それでこそ仲間でしょ?」
「ま、それはそうだけど……アイツがあの態度を改めれば少しは僕も大人に成るよ」
何だか上の方から声が聞こえるんだ。
「スオウてめー、リルに怪我でもさせたら只じゃ済まさないぞ! てかわざとだろお前! この鬼畜が!」
何であそこまで言われなきゃいけないんだよ。理不尽過ぎるだろ。いや、思いこみが激しすぎるのか? とにかくエイルの野郎は僕に突っかかる。
つーか、あれだけあからさまに自己主張してて良いのかエイルは? 完全にリルレットにまで気持ちが伝わりそうな物だけど……
「態度を改めるって、確かにエイルにも悪いところあるけど、あんなに仲間想いで良い子なんだよ。分かってあげて」
え? リルレットの言葉に一瞬固まる。そしてマジマジと彼女を観察。もしかして……いや、もしかしなくても実はリルレットってそっち系にスッゴい疎い?
あからさまなエイルの態度に全然気付いてないし、もうそれは本人が可哀想なくらい。多分だけど、リルレット以外のみんなは気付いてる筈だ。分かってないのは当人だけ。
てか、ここまであからさまにエイルが行動するのって、自分でもそれを知ってるからか。自分の気持ちに当人のリルレットが気付かないと確信してるからあからさまに傍に居られるっていう……超切ないなソレ。
なんだか自分を罵倒してるエイルが少し良い奴に思えた瞬間だった。
「……うん、分かって上げた方がいいよね」
「そうだよ! みんな仲良しが一番だもん」
僕の言葉の真意に彼女が気付く事は無いんだろう。みんな仲良しの間は仕方ないからエイルの罵倒に付き合ってやる事にしよう。
そうして僕達はようやくエイルの居るところまでたどり着く。エイルは相変わらず、僕に悪口を言うけど今回は見逃そう。だってこの小さな背中には溢れ出す想いが詰まってるポイから。
「お前も大変だなエイル」
「はあ? 何言ってんだお前。またすぐに上へ行けるんだよ俺は。死んでろバカスオウ」
アハハハ、心の中でさえ笑えるさ。傷にさえ成らないな。こっちの方が楽しそうなネタを握ってるから。
「その事じゃねーよ。まあせいぜい目の前を走り続けろよ。彼女が気付いてくれるその日まで」
「ぶっ!? 何の事だよお前!!」
顔を赤らめてヌイグルミの様な腕を向けてくるエイル。なかなか面白い反応だ。と言うか、初めて上に立ってる気がする。あ~何か良い気分だから今回は僕が投げてやろう――全力で。
「さあ、上に行こうなエイル」
「おい、やめろ! お前何かの手なんか借りたくも……」
「何言ってんだよエイル。リルレットも言ってたろ? みんな仲良しが一番だってな。遠慮なんて水臭い、僕達仲間じゃない――かぁぁ!!」
「ぐおおおおおおお!! 覚えてろスオウォォ!! 死にやがれぇぇぇぇぇ!!」
一気に頂上まで消えていくエイルはそんな言葉を反響させる。たく、本当にいつもどうり照れ屋な奴だ。
「うわーエイル一気に頂上だね」
彼方に消えていくエイルを見てそう呟いたのはリルレット。
「まあ友達だからね。この位当然さ」
「二人ともようやく仲良くなったんだね。良かった」
「リルレットのおかげだよ」
満面の笑みの僕とリルレット。うん、みんな仲良しって良いよね。本当に。きっと消えていったあいつはそう思ってないだろうけどね。
「えへへ、そんなことないよ。さあ、早くエイルに追いつこう。一人にしとくと怒っちゃうんだ」
「おう!」
そう言って再び僕らは巨大な階段を上り出す。きっとアイツが怒るのは寂しいからだよ……リルレットが居なくて。リルレットもだけど、エイルもあのモブリの姿を利用してるから、今の様になったんじゃ無いのかと少しだけ思った。
エイルにとっては良いことも有ったけど、裏目にも出たって事なのかも知れないな。そんなことを考察しつつ、上っていると突如上の方から声が聞こえた。
「うあああああああああ!!」
と言う声。悲鳴という叫び。
「エイル!?」
リルレットが上の方へ名前を叫ぶ。だけど反応はない。上に投げたのはエイルだけだし、間違いなくアイツの悲鳴だろうけど、一体何が有ったって言うんだ?
「急ごう!」
僕はそうみんなに言ってペースを上げて上り続ける。一気に上まで上げたのは投げたのは不味かったのかも知れない。何が有るのかも分かったものじゃないのに、安易過ぎたんだ。
自分の面白がった行動のせいで仲間がやられるのは耐え難い。何としても……一刻も早く頂上へ。その時、上の方から何かが落ちてくるのが見えた。ボテ――ボテ――と階段を転がり落ちてくるそれは……
「エイル!!」
僕はその進路上に移動して転がり落ちてくるエイルを受け止めた。するとその体は異常な程に熱く成っている事に気付く。
「エイル!? どうしたの? 何でこんな事に……」
「回復魔法を!」
ヒーラーの人達の魔法が一斉にエイルを包む。だけど瞬間、何かに弾かれる様に回復魔法の光が消え去った。
「「「なっ!?」」」
この場の全員に驚愕の色が浮かび上がる。だってこんな事……システム側からのメッセージがそこには現れてるんだ。
【書き換えられたシステムにより、十秒後にオブジェクト化を開始します。尚、このシステム変更を取り消す場合は内部アクセスコードを発声してください】
意味が分からない……多分それが全員が思ったこと。こんなメッセージ、この広大なLROでみた奴なんて僕達以外にはきっと居ない筈だ。
オブジェクト化って何だよ! それからヒーラーの人達が持ちうる全ての魔法を試みる。だけど出るのは【エラー】の文字だけ。
エイルを支えている僕の腕にはどんどん熱くなっていく体温が痛いくらいに伝わってくる。何で……一体何がエイルの体に起こってるんだ?
僕は階段の頂を睨み据える。そこには何かが居る。いや、誰か……顔は見えないが、長い髪がそこで揺らめいている。
ここまで追ってきた“奴”程の長さじゃないし、見えるシルエットには大きなアホ毛も有るし別人? だけどアレがエイルを落としたのは間違いなさそうだ。
「お前! コイツに何をした!?」
そう勢いよく立ち上がり叫ぶ僕。だけどその声を聞いた頂上の謎の人物は振り返って消えていく。
「待て!」
追いかけようと思った。だけどその瞬間エイルの体を包むようにコードの渦が現れたんだ。同時に強制的に腕を払われた。
「エイル! お願い! 目を覚ましてよ!」
リルレットの必死な叫びがこの場の響く。その時、エイルの瞳が僅かに開いた。リルレットの言葉はどんな時でも聞こえるみたいだな……本当にコイツは。
だけどコードの浸食が収まった訳じゃない。元々小さなモブリの体だ。時間なんて無いのをエイルは分かってる。だから必死に唇を動かして僕らに何を伝えようとしてる。
けれど僕達には聞こえない。何て言ってるんだよエイル! でもその時、リルレットが一人頷いた。
「うん……分かったよエイル」
そう伝えたリルレットの言葉で満足そうに微笑むエイル。そして視線が僕にぶつかった。口なんて動いて無かった。だけど確かに僕には聞こえた。
その瞳から、エイルの言葉が伝わってきた。
『リルレットを守らなきゃ殺す!!』
その瞬間、全身がオブジェクトコードなる物で包まれたエイルは僕らの元から巨神兵と戦った広場へと流れていく。そしてそこの一角で一際大きな光を発すると、解放されたコードが天井と地面に伸びていき、何かを形作って行く。
「あれって、まさか……」
「そんな……こんな事って……エイル…………エイルーー!!」
広く白い空間にリルレットの叫びが木霊する。だけどそれに応えなきゃいけない奴はもう声を発することも出来ない。
何故なら……エイルはこの空間にそびえ立つ一本の白い柱へと姿を作り替えられてしまってるから。オブジェクト化……それはプレイヤーをLROの一部品に作り替える禁忌の様な反則技だった。
「な……んだよこれ!」
そんな掠れた声が誰かから漏れる。それは仕方ない事だろう。何も言わないで居るなんて出来ない事だ。だってこんな事・・柱に成ったエイルは一体どうなったって事なんだろうか? ここではない……リアルの方はどうなってるんだ? 考えたくもない想像が何度も頭をよぎる。
「おい……これ俺達もやばいんじゃないか?」
目の前で起こった出来事が集団での不の連鎖を始めていた。一人と複数の違い……集団心理……一人じゃ出来ないと思える事も誰かと一緒なら出来る気がする。複数なら勇気が湧き、いろんな事が怖くなくなったりするものだ。
だけど、それの逆も起こり得るって僕は今気付いた。勇気を、力をくれるみんなが一つの不安を倍・倍に膨らませていくんだ。
集団の不安は感染する。それもあっと言う間に。
「アレどうなったって事なんだ!? ログアウトしたって事なんだよな? でなきゃ、あり得ないし……ログアウトしてないなんて筈……」
ザワザワとどよめきはどんどん大きくなっている。広がった不安を納めるには落ち着かせるしかないけど、当の僕も頭は変わり果てたエイルの事で一杯だ。
(僕のせいで……)
そんな事を果てなく回していた。そして誰かが呟いた一言がキッカケでみんなの視線が一斉に僕へ向く。
「もしかして……ここから先は全員がスオウ君と同じ状況なのかも」
「それって、つまり死ぬかも知れないって事かよ!? 冗談じゃない! ゲームで何でそこまでしなきゃ行けないんだ!」
「そうだ! スオウには悪いけど、自分が死ぬかも知れないなら話は別だ。俺達がここまで協力できたのは、あくまでこれがゲームの延長線上だから何だよ!
ごめんだけど、自分の命を晒してまで進む気には成れない」
みんなの目から今までの光が薄れて行くのが見える。そして変わりに浸食してくるのは不安や恐怖という影だ。
「済まないスオウ。俺達は死にたくなんかない。言ったろ? 俺達はゲームのままが良いって……だから許してくれ」
「みんな……」
一人がウインドウを開く。すると次々と傍らに四角いスクリーンを出現させる。そして誰もが同じ場所を目指すように指を動かす。
転移結晶でも使うのか思った。だけどその考えは甘すぎた。みんなの指が目指すべき場所はアイテム欄なんかじゃないし、そもそも転移結晶なら一人で十分だ。
ウインドウのもっと端……そこにあるのは――『ログアウト』そんな、ここまで来て。だけどなんと言って引き留めれば良いのかなんて分からない。
本当に誰もが自分と同じリスクを背負ったのなら、僕は何も言えない――そう気付いた。そうなんだよ……今まで自分と彼らの想いは絶対的に違うと思って憤ったことも有った。
具体的にはついさっきだけど、有る意味だからこそ僕はわがままが言えてたんだ。そして今まで協力してくれてるアギトやテッケンさんやシルクちゃん……それからみんなが僕に協力してくれるのはゲームの一環として……それで良かったんだ。
というか、そうじゃなきゃ誰がわざわざ死にに行くような事をするだろうか? 現に自分達の目の前にゲームじゃない『死』が突きつけられると誰だって今の様に怖じ気付く。
そしてこっちも『死』が見える場所に引き留めてなんて置けない。だってみんなはやっぱりゲームを望んでいたんだから。そう言った。そんなみんなに僕は言えない。
『死ぬかも知れないけど、協力してください』
なんて。だってこればっかりは誰かに流されて決められる事じゃないだろう。自分で選ばなきゃ……そして納得しないと戦いの場に……本物の戦場に命を抱えて出る事なんて出来ない。
しょうがないと思った。柱に成ったエイルを見て、みんなを見て、拳を握りしめる。だけどその時、ウインドウを開きもしない一人の少女が呟いた。
「待ってください! エイルは……私の友達なんです! 一緒にこのLROを初めて、今までずっと一緒に冒険してきたんです。だから!」
リルレットの肩は激しく揺れて、大きな白い階段には水が染みて行っている。それが涙とは誰もが分かったはずだ。だけどそんなリルレットに無情な言葉が投げかけられる。
「無理だよ。だって死ぬかも知れないんだぞ! 本当の顔も名前も知らない奴の為に命までは賭けられない! 君だってそうだろ!」
「私は、エイルの本当の顔も名前も知ってます! リアルでも知り合いだもん!」
「そうなのか、でもそれは君だけだ。俺達にとってはリアルに戻れば知らない仲。繋がりなんて何もない」
確かにそうなのかも知れない。向こうの言う事も最もなのだろう。他人の為に命を懸けれる人間がこの世界にどれだけ居るだろうか。
けど……本当にそうなのか? と強く想う心が僕には有るよ。そしてそれはリルレットにも……
「仲間……じゃないですか! 一時でも、一つに纏まった仲間ですよ私たちは! それでも繋がりが一つも無いんですか!?
何百万というプレイヤーが居るLROで今日出会えた奇蹟は繋がりじゃないんですか!? 真剣にゲームをしてる割には、それじゃあ随分と薄っぺらいじゃ無いですか!!」
広い空間に叫ぶリルレットの言葉が幾つも木霊する。柱の影響か分からないけど、発せられた言葉は何回も耳に届いた気がした。
そして動きが止まったみんなと同じように、僕もリルレットの言葉でハッとした。自分は時々、妙に潔くないかって。物事を割り切る事が他人よりなのかも知れない。
だってリルレットは知っている。一人じゃどうにも出来ない事を。そして僕だって、本当は気付いてる。二人でも例えエイルを救うのは難しいかも知れないと。
絶対に諦めはしないけど、あの謎の奴は手強いだろうし、さっきエイルを柱に変えたのは多分別人……ここで戦力が減ったらセツリの救出だって危うい。
それなのにどうして僕はリルレットの様に出来ないんだろう。僕はどこかで自意識過剰なのかも。何故かこういう時、自分だけが諦めなければどうにか成ると思ってしまう。
だから引き留めようとしない。実際はそんな訳無いのに……というか、身を持って実感してるじゃないか。みんなが来てくれなかったら既に巨神兵に僕はやられてた。
だから変な理屈をこねてる場合じゃない。リルレットと同じように言わなきゃ行けないんだ。それが例え理不尽な自分勝手な事でも、一人じゃどうにも出来ないから。
『命を賭けることに成るかも知れない。だけど一緒に戦ってください』
そう言わなきゃいけない。
リルレットの激しい呼吸音が聞こえていた。みんなの顔はそれでも……いいや、それを言われたから余計に暗い物に成ってるように見える。
「そんな事を言われたって……命は何よりも重いじゃないか! そんな易々と預けられない!」
「仲間なら、立ち上がってくださいよ! 私の友達を助けるのに協力してください!」
「だから無理だ! 俺達だって出来る事なら助けたい。だけど怖いんだ! あんな柱になって……リアルもどうなったか分からない。
このままじゃ次は自分がそうなるんじゃ無いかって思うだけで怖くて何も出来ねーよ!!」
そう叫んだ一人と同じように、誰もが僕とリルレットから視線を逸らす。みんな助けたくない訳じゃない……特にエイルはみんながちゃんと知ってる。
姿も知らないセツリとはみんなにとっても重みが違うだろう。だけどそれを凌駕するほどの恐怖がみんなにはのし掛かってる。だから歯を食いしばってでも逃げることを選択したんだ。
そしてそれを責めることは自分には出来ないよ……だけど、それじゃあ困ると僕は認めた。だからお願いしなきゃ行けない。
リルレットにもう次に出る言葉は無いようだ。大粒の涙をその頬に垂れ流し続けてる。そしてそんなリルレットを見まいとみんなが一斉に再びログアウトを目指す。
「待ってくれ!!」
僕はようやくその言葉を絞り出した。そして今度は僕に視線が集まる。泣いて居るリルレットの縋るような目も見えた。
「みんなが不安に成るのも分かる。だけどそれじゃあ困るんだ! みんなが居ないと、僕達だけじゃ誰も救えない。セツリも、エイルも」
「だから俺達の命を晒せってか? てか言ったろ、怖いんだよ。こんな俺達じゃ役になんて立たない」
「例え命を晒してでも……お願いします。無茶を言ってるのも分かってるし、僕は自分の目的の為にみんなを危険に促そうとしてるって事も分かってる。
軽蔑してくれてもいい……だけどそれでも、救いたい奴が居て……僕一人じゃそれは決して叶わないからお願いします!!」
僕は深々と頭を下げた。随分と自分勝手な事を言い放って。そして次に掛かった言葉は意外な物。
「本当に、こうなってようやくお前の凄さが分かる。尊敬すら出来る姿勢だ。だけどさ……そんなお前はやっぱり眩しすぎるんだ、俺達凡人にはさ。
出来ねーよ、そんな事……許してくれ」
それからみんなの指が『ログアウト』に触れる。僕には分からない。何が凄くて、何が尊敬で、何が眩しい? 誰にだってあるだろう、無くしたくない大切な物。だからこれは当然の事……僕は欲張りで寂しがり屋だから、手にした物、集めた物、その全てを無くしたくないだけなんだ!
砂の様に流れ消え去ったとしても、もう一度砂の山から奇蹟の粒を探し出そうと思う程に。
巨神兵を倒し、白く荘厳に佇む宮殿を見つめて僕はそう言った。そしてもう、誰もそれを止めるなんて事はしない。どうやらあの白い炎は巨神兵の消滅と共に効果を無くして消えたようだし、術技を取り戻したヒーラーの活躍で一気に全快だ。
気負いも迷いも寄り道ももう十分……後はただ、目指すべき場所へ。
「はぁはぁ」
長い長い階段を僕らはひたすら上り続ける。遠くから見たらそうでも無かったけど、近くに来たらその大きさにびっくりだよ。それに遠くから見えるだけあってか、予想以上に高いんだ。
そして更に更に面倒なのがやたらと一段一段がデカい事。まるであの巨神兵に併せて作ってある様なそんな感じだ。
だから人間サイズの僕らがこの階段を上がるのはとても苦労する。まあ一人例外がいるけど。
「キャッホー! 遅いぞおまえ等!」
「あんの、クソチビ。一人じゃ上れない癖に、投げて貰うだけで先に行けるんだから楽だよなまったく」
さっきからポンポン投げられて僕達より先に行っているエイルがホントムカつく。転げ落としてやりたくなるよ。アイツ丁度良く丸いから止まらずに下まで気持ちよく落ちると思うんだ。
「くくっ」
今度アイツの所までいったら実践してやる。そう思って一人ほくそ笑む。すると突然上から声と重さが――
「ちょとスオウ! ちゃんと支えてって、きゃ!」
「ぐうぇ!」
――落ちてきた。何だか罰が当たった気分だ。女の子ってそんな柔らかく無いもんだな。スッゲー痛いよ。なんかゴツゴツしとる――って、防具付けてるからか!
リルレットは落ち方が悪い。背面から来るから防具の全面で叩かれたんだよ。せめて尻から落ちてきて欲しかった所だ。
「もうーちゃんと支えててよスオウ!」
「ごめんごめん。良いから早く退いてくれ。上の方からスッゴい殺気を感じるんだよ」
その殺気を放ってるのは見なくても分かるけど、きっとエイルだろう。するとリルレットが立ち上がりざまに言う。
「エイルを羨んでも仕方ないよスオウ。モブリじゃこの階段上がれないし、そんな時はみんなで協力しないとね。それでこそ仲間でしょ?」
「ま、それはそうだけど……アイツがあの態度を改めれば少しは僕も大人に成るよ」
何だか上の方から声が聞こえるんだ。
「スオウてめー、リルに怪我でもさせたら只じゃ済まさないぞ! てかわざとだろお前! この鬼畜が!」
何であそこまで言われなきゃいけないんだよ。理不尽過ぎるだろ。いや、思いこみが激しすぎるのか? とにかくエイルの野郎は僕に突っかかる。
つーか、あれだけあからさまに自己主張してて良いのかエイルは? 完全にリルレットにまで気持ちが伝わりそうな物だけど……
「態度を改めるって、確かにエイルにも悪いところあるけど、あんなに仲間想いで良い子なんだよ。分かってあげて」
え? リルレットの言葉に一瞬固まる。そしてマジマジと彼女を観察。もしかして……いや、もしかしなくても実はリルレットってそっち系にスッゴい疎い?
あからさまなエイルの態度に全然気付いてないし、もうそれは本人が可哀想なくらい。多分だけど、リルレット以外のみんなは気付いてる筈だ。分かってないのは当人だけ。
てか、ここまであからさまにエイルが行動するのって、自分でもそれを知ってるからか。自分の気持ちに当人のリルレットが気付かないと確信してるからあからさまに傍に居られるっていう……超切ないなソレ。
なんだか自分を罵倒してるエイルが少し良い奴に思えた瞬間だった。
「……うん、分かって上げた方がいいよね」
「そうだよ! みんな仲良しが一番だもん」
僕の言葉の真意に彼女が気付く事は無いんだろう。みんな仲良しの間は仕方ないからエイルの罵倒に付き合ってやる事にしよう。
そうして僕達はようやくエイルの居るところまでたどり着く。エイルは相変わらず、僕に悪口を言うけど今回は見逃そう。だってこの小さな背中には溢れ出す想いが詰まってるポイから。
「お前も大変だなエイル」
「はあ? 何言ってんだお前。またすぐに上へ行けるんだよ俺は。死んでろバカスオウ」
アハハハ、心の中でさえ笑えるさ。傷にさえ成らないな。こっちの方が楽しそうなネタを握ってるから。
「その事じゃねーよ。まあせいぜい目の前を走り続けろよ。彼女が気付いてくれるその日まで」
「ぶっ!? 何の事だよお前!!」
顔を赤らめてヌイグルミの様な腕を向けてくるエイル。なかなか面白い反応だ。と言うか、初めて上に立ってる気がする。あ~何か良い気分だから今回は僕が投げてやろう――全力で。
「さあ、上に行こうなエイル」
「おい、やめろ! お前何かの手なんか借りたくも……」
「何言ってんだよエイル。リルレットも言ってたろ? みんな仲良しが一番だってな。遠慮なんて水臭い、僕達仲間じゃない――かぁぁ!!」
「ぐおおおおおおお!! 覚えてろスオウォォ!! 死にやがれぇぇぇぇぇ!!」
一気に頂上まで消えていくエイルはそんな言葉を反響させる。たく、本当にいつもどうり照れ屋な奴だ。
「うわーエイル一気に頂上だね」
彼方に消えていくエイルを見てそう呟いたのはリルレット。
「まあ友達だからね。この位当然さ」
「二人ともようやく仲良くなったんだね。良かった」
「リルレットのおかげだよ」
満面の笑みの僕とリルレット。うん、みんな仲良しって良いよね。本当に。きっと消えていったあいつはそう思ってないだろうけどね。
「えへへ、そんなことないよ。さあ、早くエイルに追いつこう。一人にしとくと怒っちゃうんだ」
「おう!」
そう言って再び僕らは巨大な階段を上り出す。きっとアイツが怒るのは寂しいからだよ……リルレットが居なくて。リルレットもだけど、エイルもあのモブリの姿を利用してるから、今の様になったんじゃ無いのかと少しだけ思った。
エイルにとっては良いことも有ったけど、裏目にも出たって事なのかも知れないな。そんなことを考察しつつ、上っていると突如上の方から声が聞こえた。
「うあああああああああ!!」
と言う声。悲鳴という叫び。
「エイル!?」
リルレットが上の方へ名前を叫ぶ。だけど反応はない。上に投げたのはエイルだけだし、間違いなくアイツの悲鳴だろうけど、一体何が有ったって言うんだ?
「急ごう!」
僕はそうみんなに言ってペースを上げて上り続ける。一気に上まで上げたのは投げたのは不味かったのかも知れない。何が有るのかも分かったものじゃないのに、安易過ぎたんだ。
自分の面白がった行動のせいで仲間がやられるのは耐え難い。何としても……一刻も早く頂上へ。その時、上の方から何かが落ちてくるのが見えた。ボテ――ボテ――と階段を転がり落ちてくるそれは……
「エイル!!」
僕はその進路上に移動して転がり落ちてくるエイルを受け止めた。するとその体は異常な程に熱く成っている事に気付く。
「エイル!? どうしたの? 何でこんな事に……」
「回復魔法を!」
ヒーラーの人達の魔法が一斉にエイルを包む。だけど瞬間、何かに弾かれる様に回復魔法の光が消え去った。
「「「なっ!?」」」
この場の全員に驚愕の色が浮かび上がる。だってこんな事……システム側からのメッセージがそこには現れてるんだ。
【書き換えられたシステムにより、十秒後にオブジェクト化を開始します。尚、このシステム変更を取り消す場合は内部アクセスコードを発声してください】
意味が分からない……多分それが全員が思ったこと。こんなメッセージ、この広大なLROでみた奴なんて僕達以外にはきっと居ない筈だ。
オブジェクト化って何だよ! それからヒーラーの人達が持ちうる全ての魔法を試みる。だけど出るのは【エラー】の文字だけ。
エイルを支えている僕の腕にはどんどん熱くなっていく体温が痛いくらいに伝わってくる。何で……一体何がエイルの体に起こってるんだ?
僕は階段の頂を睨み据える。そこには何かが居る。いや、誰か……顔は見えないが、長い髪がそこで揺らめいている。
ここまで追ってきた“奴”程の長さじゃないし、見えるシルエットには大きなアホ毛も有るし別人? だけどアレがエイルを落としたのは間違いなさそうだ。
「お前! コイツに何をした!?」
そう勢いよく立ち上がり叫ぶ僕。だけどその声を聞いた頂上の謎の人物は振り返って消えていく。
「待て!」
追いかけようと思った。だけどその瞬間エイルの体を包むようにコードの渦が現れたんだ。同時に強制的に腕を払われた。
「エイル! お願い! 目を覚ましてよ!」
リルレットの必死な叫びがこの場の響く。その時、エイルの瞳が僅かに開いた。リルレットの言葉はどんな時でも聞こえるみたいだな……本当にコイツは。
だけどコードの浸食が収まった訳じゃない。元々小さなモブリの体だ。時間なんて無いのをエイルは分かってる。だから必死に唇を動かして僕らに何を伝えようとしてる。
けれど僕達には聞こえない。何て言ってるんだよエイル! でもその時、リルレットが一人頷いた。
「うん……分かったよエイル」
そう伝えたリルレットの言葉で満足そうに微笑むエイル。そして視線が僕にぶつかった。口なんて動いて無かった。だけど確かに僕には聞こえた。
その瞳から、エイルの言葉が伝わってきた。
『リルレットを守らなきゃ殺す!!』
その瞬間、全身がオブジェクトコードなる物で包まれたエイルは僕らの元から巨神兵と戦った広場へと流れていく。そしてそこの一角で一際大きな光を発すると、解放されたコードが天井と地面に伸びていき、何かを形作って行く。
「あれって、まさか……」
「そんな……こんな事って……エイル…………エイルーー!!」
広く白い空間にリルレットの叫びが木霊する。だけどそれに応えなきゃいけない奴はもう声を発することも出来ない。
何故なら……エイルはこの空間にそびえ立つ一本の白い柱へと姿を作り替えられてしまってるから。オブジェクト化……それはプレイヤーをLROの一部品に作り替える禁忌の様な反則技だった。
「な……んだよこれ!」
そんな掠れた声が誰かから漏れる。それは仕方ない事だろう。何も言わないで居るなんて出来ない事だ。だってこんな事・・柱に成ったエイルは一体どうなったって事なんだろうか? ここではない……リアルの方はどうなってるんだ? 考えたくもない想像が何度も頭をよぎる。
「おい……これ俺達もやばいんじゃないか?」
目の前で起こった出来事が集団での不の連鎖を始めていた。一人と複数の違い……集団心理……一人じゃ出来ないと思える事も誰かと一緒なら出来る気がする。複数なら勇気が湧き、いろんな事が怖くなくなったりするものだ。
だけど、それの逆も起こり得るって僕は今気付いた。勇気を、力をくれるみんなが一つの不安を倍・倍に膨らませていくんだ。
集団の不安は感染する。それもあっと言う間に。
「アレどうなったって事なんだ!? ログアウトしたって事なんだよな? でなきゃ、あり得ないし……ログアウトしてないなんて筈……」
ザワザワとどよめきはどんどん大きくなっている。広がった不安を納めるには落ち着かせるしかないけど、当の僕も頭は変わり果てたエイルの事で一杯だ。
(僕のせいで……)
そんな事を果てなく回していた。そして誰かが呟いた一言がキッカケでみんなの視線が一斉に僕へ向く。
「もしかして……ここから先は全員がスオウ君と同じ状況なのかも」
「それって、つまり死ぬかも知れないって事かよ!? 冗談じゃない! ゲームで何でそこまでしなきゃ行けないんだ!」
「そうだ! スオウには悪いけど、自分が死ぬかも知れないなら話は別だ。俺達がここまで協力できたのは、あくまでこれがゲームの延長線上だから何だよ!
ごめんだけど、自分の命を晒してまで進む気には成れない」
みんなの目から今までの光が薄れて行くのが見える。そして変わりに浸食してくるのは不安や恐怖という影だ。
「済まないスオウ。俺達は死にたくなんかない。言ったろ? 俺達はゲームのままが良いって……だから許してくれ」
「みんな……」
一人がウインドウを開く。すると次々と傍らに四角いスクリーンを出現させる。そして誰もが同じ場所を目指すように指を動かす。
転移結晶でも使うのか思った。だけどその考えは甘すぎた。みんなの指が目指すべき場所はアイテム欄なんかじゃないし、そもそも転移結晶なら一人で十分だ。
ウインドウのもっと端……そこにあるのは――『ログアウト』そんな、ここまで来て。だけどなんと言って引き留めれば良いのかなんて分からない。
本当に誰もが自分と同じリスクを背負ったのなら、僕は何も言えない――そう気付いた。そうなんだよ……今まで自分と彼らの想いは絶対的に違うと思って憤ったことも有った。
具体的にはついさっきだけど、有る意味だからこそ僕はわがままが言えてたんだ。そして今まで協力してくれてるアギトやテッケンさんやシルクちゃん……それからみんなが僕に協力してくれるのはゲームの一環として……それで良かったんだ。
というか、そうじゃなきゃ誰がわざわざ死にに行くような事をするだろうか? 現に自分達の目の前にゲームじゃない『死』が突きつけられると誰だって今の様に怖じ気付く。
そしてこっちも『死』が見える場所に引き留めてなんて置けない。だってみんなはやっぱりゲームを望んでいたんだから。そう言った。そんなみんなに僕は言えない。
『死ぬかも知れないけど、協力してください』
なんて。だってこればっかりは誰かに流されて決められる事じゃないだろう。自分で選ばなきゃ……そして納得しないと戦いの場に……本物の戦場に命を抱えて出る事なんて出来ない。
しょうがないと思った。柱に成ったエイルを見て、みんなを見て、拳を握りしめる。だけどその時、ウインドウを開きもしない一人の少女が呟いた。
「待ってください! エイルは……私の友達なんです! 一緒にこのLROを初めて、今までずっと一緒に冒険してきたんです。だから!」
リルレットの肩は激しく揺れて、大きな白い階段には水が染みて行っている。それが涙とは誰もが分かったはずだ。だけどそんなリルレットに無情な言葉が投げかけられる。
「無理だよ。だって死ぬかも知れないんだぞ! 本当の顔も名前も知らない奴の為に命までは賭けられない! 君だってそうだろ!」
「私は、エイルの本当の顔も名前も知ってます! リアルでも知り合いだもん!」
「そうなのか、でもそれは君だけだ。俺達にとってはリアルに戻れば知らない仲。繋がりなんて何もない」
確かにそうなのかも知れない。向こうの言う事も最もなのだろう。他人の為に命を懸けれる人間がこの世界にどれだけ居るだろうか。
けど……本当にそうなのか? と強く想う心が僕には有るよ。そしてそれはリルレットにも……
「仲間……じゃないですか! 一時でも、一つに纏まった仲間ですよ私たちは! それでも繋がりが一つも無いんですか!?
何百万というプレイヤーが居るLROで今日出会えた奇蹟は繋がりじゃないんですか!? 真剣にゲームをしてる割には、それじゃあ随分と薄っぺらいじゃ無いですか!!」
広い空間に叫ぶリルレットの言葉が幾つも木霊する。柱の影響か分からないけど、発せられた言葉は何回も耳に届いた気がした。
そして動きが止まったみんなと同じように、僕もリルレットの言葉でハッとした。自分は時々、妙に潔くないかって。物事を割り切る事が他人よりなのかも知れない。
だってリルレットは知っている。一人じゃどうにも出来ない事を。そして僕だって、本当は気付いてる。二人でも例えエイルを救うのは難しいかも知れないと。
絶対に諦めはしないけど、あの謎の奴は手強いだろうし、さっきエイルを柱に変えたのは多分別人……ここで戦力が減ったらセツリの救出だって危うい。
それなのにどうして僕はリルレットの様に出来ないんだろう。僕はどこかで自意識過剰なのかも。何故かこういう時、自分だけが諦めなければどうにか成ると思ってしまう。
だから引き留めようとしない。実際はそんな訳無いのに……というか、身を持って実感してるじゃないか。みんなが来てくれなかったら既に巨神兵に僕はやられてた。
だから変な理屈をこねてる場合じゃない。リルレットと同じように言わなきゃ行けないんだ。それが例え理不尽な自分勝手な事でも、一人じゃどうにも出来ないから。
『命を賭けることに成るかも知れない。だけど一緒に戦ってください』
そう言わなきゃいけない。
リルレットの激しい呼吸音が聞こえていた。みんなの顔はそれでも……いいや、それを言われたから余計に暗い物に成ってるように見える。
「そんな事を言われたって……命は何よりも重いじゃないか! そんな易々と預けられない!」
「仲間なら、立ち上がってくださいよ! 私の友達を助けるのに協力してください!」
「だから無理だ! 俺達だって出来る事なら助けたい。だけど怖いんだ! あんな柱になって……リアルもどうなったか分からない。
このままじゃ次は自分がそうなるんじゃ無いかって思うだけで怖くて何も出来ねーよ!!」
そう叫んだ一人と同じように、誰もが僕とリルレットから視線を逸らす。みんな助けたくない訳じゃない……特にエイルはみんながちゃんと知ってる。
姿も知らないセツリとはみんなにとっても重みが違うだろう。だけどそれを凌駕するほどの恐怖がみんなにはのし掛かってる。だから歯を食いしばってでも逃げることを選択したんだ。
そしてそれを責めることは自分には出来ないよ……だけど、それじゃあ困ると僕は認めた。だからお願いしなきゃ行けない。
リルレットにもう次に出る言葉は無いようだ。大粒の涙をその頬に垂れ流し続けてる。そしてそんなリルレットを見まいとみんなが一斉に再びログアウトを目指す。
「待ってくれ!!」
僕はようやくその言葉を絞り出した。そして今度は僕に視線が集まる。泣いて居るリルレットの縋るような目も見えた。
「みんなが不安に成るのも分かる。だけどそれじゃあ困るんだ! みんなが居ないと、僕達だけじゃ誰も救えない。セツリも、エイルも」
「だから俺達の命を晒せってか? てか言ったろ、怖いんだよ。こんな俺達じゃ役になんて立たない」
「例え命を晒してでも……お願いします。無茶を言ってるのも分かってるし、僕は自分の目的の為にみんなを危険に促そうとしてるって事も分かってる。
軽蔑してくれてもいい……だけどそれでも、救いたい奴が居て……僕一人じゃそれは決して叶わないからお願いします!!」
僕は深々と頭を下げた。随分と自分勝手な事を言い放って。そして次に掛かった言葉は意外な物。
「本当に、こうなってようやくお前の凄さが分かる。尊敬すら出来る姿勢だ。だけどさ……そんなお前はやっぱり眩しすぎるんだ、俺達凡人にはさ。
出来ねーよ、そんな事……許してくれ」
それからみんなの指が『ログアウト』に触れる。僕には分からない。何が凄くて、何が尊敬で、何が眩しい? 誰にだってあるだろう、無くしたくない大切な物。だからこれは当然の事……僕は欲張りで寂しがり屋だから、手にした物、集めた物、その全てを無くしたくないだけなんだ!
砂の様に流れ消え去ったとしても、もう一度砂の山から奇蹟の粒を探し出そうと思う程に。
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
440
-
-
314
-
-
55
-
-
337
-
-
0
-
-
2265
-
-
32
-
-
4
-
-
2
コメント