命改変プログラム

ファーストなサイコロ

たった一人の戦い



「一体何で……イクシードが発動しない!?」


 洞窟だから? とかは思えない。何故か今まで掴めていた風が掴めない。この空間のせい? 思ってみればおかしいな場所なのは間違いないんだ。
 ここは元々タゼホには無かったとノウイは言っていた。ならこの空間はそもそも奴が用意したもの。イクシードを危険視した奴がそれを封じに掛かっていてもおかしくはない……と思う事にしよう。


「「「キィィアアァァァァァァァァァァ!!」」」
「――っつ、くあっ!」


 三体の巨神兵が同時にどこからか変な叫びを上げる。その瞬間平行感覚が狂うような立ちくらみが襲ってきた。脳を揺さぶるような叫びに膝を付き、頭を抑えながらも上を見るとそこには鮮烈な光が射していた。


(何だあれ? 揺れてる……振動か?)


 奴ら三体の背には何か円形のトゲトゲした物が生えて居てそれが光を放ちながら高速振動してるようだ。そしてこの音もそこから出てる。
 その時、その中の一番近い奴が腕を引くのが見えた。


(ヤバい!)


 そう思い、僕はとっさに地面を転がった。その直後大きな振動と共に破壊的な音が響いた。何とか避けれたみたいだけど、その攻撃の跡を見たら寒気がした。
 かなり抉れてる。大理石も粉々だ。するといつの間にか近づいていたらしいニ体目の体が僕に影を作った。


(間に合わない!)


 そう思い、武器を十字構えて防御を選択する。そして次の瞬間、巨神兵の拳がセラ・シルフィングにぶつかった。


「くっ! ぐあああああああああああ」


 受け止めれる……そう思った僕は甘かった。根本的な大きさの差か、あの質量を人一人で止めれる訳がない。僕は踏ん張る間も無く、一瞬で後方へ吹き飛ばされた。
 宙に飛ばされた事と、この妙な音のせいで僕の方向感覚は完全に失われた。過ぎゆく視界はただの線で、どっちが上か下かも分からない。
 このまま壁に激突するのを防ぐことも出来ないなんて最悪だ。今の勢いじゃ計り知れないダメージが予想できる。最悪、潰れたトマトの様になるかも知れない。


(こんな所で……いや、ここまで来てそんな結末許せるかよ!!)


 僕はセラシルフィングを闇雲に振りまくった。とにかく何でもいいんだ。何か縋る感触が欲しい。ここには柱がそれなりに有ったはずだ。運良くそれに触れさえすれば。
 その時、セラ・シルフィング何かを捉えた。その感触が切っ先から腕へと伝わった。


「届けぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 僕はその感触の方へ体を無理矢理回転させて、届くかも分からないその何かへ剣突き立てる。そして感触は確かにそこに有った。
 刃切りの良い音を立ててそれに突き刺さったセラ・シルフィングのおかげで何とか僕は止まることが出来た。でも危機は去ってなんか無い。
 特に足下とか……ニ体目の拳は地面すれすれから上へと向かう軌道を取っていたせいで僕の体はかなり上の方へ飛ばされてたらしいんだ。
 つまりはこのままじゃ地面に降りれない。さっきと同じようにここから飛んだら潰れたトマトに成りそうだ。それに更によくない事に下の方へ三体の巨神兵が向かってきてる。更に更にはこの音のせいで腕になかなか力が入りづらい。
 さっきからシルフィングにしがみつくだけでも精一杯って感じだ。


(本当に、何でこんな事に)


 そう思うと頭にさっき分かれた奴らの顔やらが浮かんでくる。リルレットやエイルとか……だけどそれらは頭を振って振り払う。今更だ。それにあいつ等に助けられたく何て……
 その時、柱に衝撃が走った。下を向くと巨神兵がこの柱に攻撃を加えている。今更だけど……マジでドデカい広さだここは。特に洞窟の癖にこの高さが信じられない。
 あの巨神兵だって十五メートルくらいは有りそうだったのにさここには届かない様なんだ。奴らが小さく見えるってどうなんだよ。
 でもここで達観してるわけにも行かないんだ。どの道この柱が壊されたら一環の終わりな訳だし、近くの柱へ跳び移るって事も今の状態じゃ厳しい。
 なら、後手に回るより先手を取った方が良いのかも知れない。今ならそれが出来そうだしな。


「イクシード発動」


 僕はもう一度そう呟いてみたけどやはり、イクシードは答えてくれない。僕の周りに風は集まらず、奴らの巻き上げる乱暴な風が肌を打つ位だった。
 僕は唇を噛みしめて別の言葉を口する。そして柱に刺していたセラ・シルフィングを引き抜き一気に下へと落ちていく。
 向かうべき場所を自分で決めてそこへ落ちるだけなら方向感覚なんて無くても行ける。後はタイミングだけだ。
 僕が柱から落ちてくるのを察した巨神兵達がこちらを見据えてその巨体を豪快に構え出す。三体でタイミングを合わせて同じ場所で攻撃する気みたいだ。
 でも、それならそれで好都合。連携ってのはタイミングを合わせて別の事をやるから驚異であって、同じ事を同時にしてくれるのなら読みやすいし避けやすい。
 まあそれでもあれだけ巨大な拳が三個も迫るのは迫力有るし、この感覚が狂わされっぱなしの状態で上手くかわせる保証も無い。
 だけどやるしかないんだ。僕しかもう居ないんだから。それにあの拳をかわせずにまともに受けたらきっとHPは残らないだろう。だから何が何でもかわす!
 三体の拳が目の前に迫る。僕はその瞬間、柱に足を付く。


「――っつ!」


 平行感覚の狂いで膝が折れそうになる。だけど何とか体を支えて、そして加速の為に一気に柱を蹴る。更にスピードが上がった僕へ対して狙いが狂った巨神兵。奴らの拳は僕が通った後に柱へ激突して、凄まじい音と共に柱を折った。
 後ろから柱が倒れた影響で粉塵が巻きあがる。これも有る意味好都合。僕の姿が奴らから見えなくなる。既に懐目前。一気に決めるためにセラ・シルフィングにありったけの力を込める。
 一体でも良い……このチャンスに倒さないといけない。


「食らええええええええええ!!」


 ドデカい図体へ幾重にも剣撃を重ねていく。そしてそれが確かに効いている様に、巨神兵が断末魔の叫びを上げる。だけど、まだまだだ! 
 まだ足りない……こんなんじゃ一体も倒せない。巨神兵の体から離れないようにデカい図体の起伏を利用して攻撃を続けるが一体後どれだけやればいいのか……途方も無く思えてくる。
 HPの減りが微弱。ボスクラスだろうしそれが当然だと分かってるのに、気にしてしまう。いつもなら倒すまでそんな事気にしてなくて、いつの間にか終わってる位に夢中に成れるのに今回は気持ちがそこまで入らない。
 だから少しずつしか減らない奴のHPを見てイライラして焦りが募る。集中力が持たない。そしていつしか単調に成っていた攻撃は防がれて……ミスへと繋がる。
 一番大きなダメージを狙える顔を斬ろうとしたときだ。巨神兵の腕がそれを阻んで、避けようと奴の肩部分から別の場所へ跳ぼうとした時に踏み損ねた。


「しまっ!」


 そう叫んだときには遅い。支えを失った体は落ちる事しか出来ないんだ。そしてその落ちゆく僕に追撃を防ぐ事は出来ない。
 巨神兵の開かれた手が、蠅を落とすような感じで僕の体を地面に叩きつけた。


「がっはっ!?」


 もしかしたらこの一撃で終わっていてもおかしくは無かったかも知れない。そう思えるほどの衝撃が全身を貫いたんだ。飛び散った血液が真っ白いこの場所には良く映えて見えた。
 でも……まだ僕は生きている。HPは僅かだが残っていた。本当に雀の涙程だけど、それでも助かった。


(いや、まだか)


 不意に視界に入ったのは両側に居た巨神兵の姿。奴らはこちらに拳を向けている。さっきまでは張り付いてたから二体は無視できたけどもうそうじゃないんだ。奴らもここで畳みかける気……というかそれはもう止めのレベル。
 受けるわけには行かない。防ぎきれる訳がない。まだ全然足りないがもう仕方ない。これしか奴等の気を引く方法は無いんだ。
 僕は立ち上がる事も出来ないままに叫ぶ。


「ライジングバースト!!」


 その瞬間中央に立つ巨神兵の体から無数の剣線が青い稲妻と共に吹き出した。それは外で獣人から吹き出した比じゃない。
 このスキルは使用条件に必ずニ撃入れる必要があるけど、積み重ねれば積み重ねるほどその威力をますという特徴がある。
 まあ、それだって大きさでやHPで限界も有るだろうけど、こういう色々な面で規格外な奴ならその効果は絶大だ。幾らだって切れるし。
 てな訳で、激しい稲妻が全身から吹き出しそれらは両側のニ体へも移る。これで三体が同時に攻撃された状態だ。激しい閃光と三体の合わさった叫びがこの空間に木霊する。


(逝ってくれ)


 僕は何とか膝を付いて剣で上体を支える態勢にまで持っていきそう願った。実際僕も今日初めて使ったスキルだし、これは明らかに予想外の威力。
 先の獣人戦で使える事は確信してたけど、これなら行けるかも知れない……が、奴等だってそんなに甘くは無さそうだった。
 中央の奴はHPが半分以上減ったがそこが限界らしかった。両側の奴等なんて影響を受けたといっても更に微々たる物だ。
 次第に小さくなっていく電撃……そして再び力強く地面を踏みしめる三体が減らずに目の前に居る事実……最悪だ。
 だけどその時、ある事に気づく。


(ん? 音が無い)


 あの平行感覚と三半規管を狂わすような不快な音が消えている。さっきまではスパークする電撃の音で聞こえないだけと思っていたがそうじゃない感じだ。何か致命的な物をさっきの攻撃で破壊出来たのかも知れない。
 すると中央の一番ダメージを食らってる巨神兵にそれは現れた。奴の背中で光っていた円形のトゲトゲした物体が光を失い地面へと無惨に落ちていった。
 半分以上のHPを削られた巨神兵は怒っているのか、両側のニ体よりも早く動き出す。だが……あの音が無いのならそんな直線的な攻撃、避けれない物じゃない!
 しっかりと地面を踏みつけ後ろに跳ぶ。それだけで事足りる。今のHPで攻めるのは危険すぎるし、横へ逃げれば両側のニ体が来ただろう。だからこれがベストな選択の筈だ。
 僕はかわした直後にウインドウを開き、アイテム欄から小瓶に入った黄色の飲み物を出して口に運ぶ。シュワシュワと口の中で炭酸が弾ける感覚。そしてHPがそれなりに回復する。
 それを続けざまにもう後ニ個飲んでなんとか安全圏へ。これでもう一度戦える。


「でも、おかしいな」


 僕はそう呟いて追撃を交わしつ巨神兵を考察する。そもそも何で音が止んだ? 一個を壊したからって後ニ個有るじゃないか。それにそのニ個はちゃんと光を放ち振動してる様に見える。


「元々三個が揃って共鳴した音にだけ効果が付いてたって事か?」


 そう考えるしかない。でもそのおかげで助かった訳だ。まともに動けないんじゃ戦いようが無いからな。それにこいつら、まともな技をあれ以外持ってないようだし。
 さっきから『殴る』しかしてこない。その図体でたった一人の人間を潰すのは逆に難しい様な気もする。柱を上手く使えば三対一でも何とかやる過ごせる。
 だけどこれはこれで怪しい気がするんだ。こんなたった一つの技しかないモンスターなんて作るだろうか? それにこいつら、三体いるのが味噌の様な気がする。微妙に造形違うし。
 そう一刻も早く一体を消した方が良いような……そんな感じが肌をピリピリと刺激するんだ。


「逃げててもしょうがない……か!」


 僕は拳をかわし、地面にめり込んで止まった腕を駆け上げる。狙うならやはりこいつ。さっきの攻撃で半分以上HPを減らしたからこいつが一番倒しやすい筈だ。
 腕から飛んで顔面へ斬撃を食らわせる。すると意外な程に効いてる? ライジングバーストを食らわせる前より、奴の装甲が薄くなってる感じだ。
 これなら一気に畳み掛けれるかも知れない。グラツく巨神兵に更なる斬撃を追随させる。確実にHPは目に見えて減っていく。
 だが巨神兵も自身の両手で僕を払おうとしてくる。だがそんな攻撃をかわすのはわけない。僕は装甲が薄い分……というか命に関わるから避けるのだけは常に磨いてきた事だ。


「よっとっはぁ!」


 執拗に頭を狙って切り続けてようやく、HPバーが黄色くなった一体の巨神兵。もう少し……後少しで倒せる。そう思った矢先だ。
 視界に入ったのは後二体の巨神兵。だけどこれだけ近づいてたら奴等は手出し出来ない。それは前の状況が証明している。だが手を出したのその二体じゃない。
 僕が攻撃してる奴が後の二体へ手を出した。というか腕を伸ばして背の輝いてる部分をもぎ取った。そしてそのもぎ取った部分が僕が攻撃してる奴の背で結びつく。


「何だ?」


 その瞬間強烈な光が視界を遮り、同時にその光の衝撃に体を強引に離された。大理石を擦って地面に降り立ち、前を見ると今度は三体が同時に光りだしている。
 背のアレを取られた奴等まで光ってるって事がよく分からないが、取り合えずイヤな予感がするのは確かだ。強烈な光のせいでよく見えないが二体のシルエットが変わってるような気がする。
 そして次の瞬間頭上から何かが振ってきた。


「ぐああああ!!」


 何とか間一髪でかわしたけど、衝撃で飛び散った破片やがら容赦なく体を打つ。何が起こったのか目をやるとそこには大きな白刃の剣がめり込んでいた。


「まさか……これって」


 視線を今度は前方へ。すると和らいできた光の中からその姿が徐々に鮮明に現れていく。白刃の巨剣を引き戻し、もう片方には巨大な白百の盾。それらを携えて勇猛に立つその姿はまるで――


「騎士」


 ――そう思わずにはいられない姿だ。そう言えばアルテミナス城の彫像に似たようなのがあった気がする。この巨神兵が三体で、しかも単調な攻撃しなかったのはこういう事か。
 元が三体で一体の騎士って事らしい。この剣も盾も両側の二体が姿を変えた物に違いない。元々デカい図体の割には良く減ると思っていたHPも一体を三つに分けてたから。
 だけどそれもこうなると無意味だった様だ。三位一体した巨神兵のHPは全回復してる。それに良く見ると三つのHP表示が本体・剣・盾とある。何これ? さっきの三倍位HPがありそうなんだけど。反則だろう。
 なら僕の努力の分を蓄積しとけと言いたい。まあ、ここからが本番……って感じかな。苦笑いがこみ上げて来そうだ。
 そうこうしてる内に巨神兵は剣を引き真っ直ぐに僕めがけて付いてきた。あんなの受けるわけには行かない。僕は横っ飛びでそれを回避。すると信じられない位勢い良く、剣は床へ突き刺さる。
 まるで大理石の床がスポンジケーキみたいに見えたよ。だが安心してる場合じゃ無かった。それだけ簡単に床へ刺さるほどの切れ味と攻撃力。そしてこれだけ巨大な剣をあの速さで振れる腕力……それらがあるから出来る規格外。
 突き刺さったまま剣はこちらに向かってくる。そしてその振動が足を奪う。そして床を抉って弾き出される刃を何とか剣で受け止めるのが限界。
 凄まじい衝撃は剣から腕へ伝わり、そのまま体は中へ浮く。そして不意に頭上に影が落ちる。衝撃に耐えながらも上をそこにはあの巨大な盾が待ちかまえて居たよう準備されている。


(不味い!!)


 そう思ったときには、そのドデカい盾は振り下ろされていた。受ければ確実に地面に叩きつけられる。かといってこれだけの広範囲をカバーする盾は避けられない。
 でも今のHP残量じゃ絶対に受けること何て出来ないんだ。回復役のヒーラーだって居ないんだ。これ以上攻撃を貰えばセツリの場所までたどり着けなくなる。魔法と違ってアイテムは有限だ。
 だからここはこれしかない。


「残影!」


 その瞬間自身の体が一瞬ブレる。そして振り下ろされた盾が僕の影の方を打ち払った。一分に一度の絶対回避スキル。僕には傷一つ付かない。
 丁度いいから下にある盾に攻撃を加える。すると横から凪ぎ払う形で剣が来る。とっさに盾に潜ってそれをかわす。だけど今度は巨神兵が盾を持ち上げたからそのまま地面へと落ちた。


「くそ、意地でも張り付いとくんだった」


 あれだけデカいんなら近くに居る方が安全だからな。でもそんなのは後の祭り。再び白刃は振り下ろされる。同じ様な軌道。今度は衝撃まで踏まえて少し前方斜めへ、そして背に受けた衝撃を利用して一気に加速。破片の痛さは我慢する。
 だがその時立ち塞がる壁が現れた。それは盾だ。


「どけえええええ!!」


 叫びながら僕は盾を切りつける。だけどその瞬間刃が届く前に何かに押し戻された。


「くあっ……何だコレ!?」


 切りつける事も出来ないなんて反則だろ。斥力でも張ってるのかあの盾。でもさっきは裏側には攻撃が通ったのに――って、それは裏側だからか。ようはあの盾の攻略法は裏側って事。でもそうそう裏えなんて回れない。
 だって基本攻撃は剣が、それをかわして目指すべき場所の前へ盾はある。一人でやってる今の状況で盾の裏を取るなんて分身でも出来ない限り無理だ。それかセラのあの特殊な武器。
 どんどん勝てる見込みが狭まる気がしていく。一人での限界……そんな物が見えだして来た気がする。
 後ろに飛ばされた僕へ再び剣が襲う。床を本当にサクサク斬りやがって寒気がする。あの柱だって三体いたときは何発も打ってようやくだったのに、あの剣なら一撃で切れる様だ。間違いなく攻撃力も桁違いにあがってる。
 そしてあの盾……どうしよう、糸口が全く見えない。盾は無駄な攻撃はしないが、来るときには絶妙なタイミングであの剣と連携してくるんだ。それがやっかい過ぎる。
 今はどうにかやり過ごしてるが、少しずつ確実に肌にまで届いて来てる。波の様に続く波状攻撃……これを僕は前にも見たことがある気がする。
 その瞬間、ついに盾が僕の体を捉えた。打ち出された盾の側面部分が凄まじい衝撃で僕を襲った。


「ぐあああああああ!!」


 ズドーンと柱に盾ごとめり込む形だ。不味い……動けない。このままじゃ今度はあの剣で刺されるだろう。動かない標的なら、当てるのなんて簡単だ。
 目の前に立つ巨神兵がその巨大な白刃をこちらに向ける。結局僕は何も出来なかった……人一人の力はこんなにも矮小なのかと嘆きたい。ただ一人でも助けたい人を救える力があっても良い筈じゃないか。


「イクシード! イクシード! イクシード!」


 だがやはり幾ら叫んでもここに風は生まれない。そして迫る白い刃。


(ごめんセツリ……)


 この場に地震の様な衝撃と轟音が響き、粉塵が大理石の床静かに漂う。そして僕はやられた……筈だった。


「スオウ……私はね、アギトに会えるって確かに思ったよ。でもそれだけじゃない! あの時……あの悪魔戦で助けられなかったあの子を今度こそって……今度こそ助けてあげられるって、私もエイルもちゃんと思ってるから……それじゃあダメですか?」
「リルレット……それに……みんな」


 目の前には別れた筈のみんながその白刃を受け止めてくれていた。そして後ろから暖かい光が僕の身を優しく癒してくれる。それから続いて複数の魔法が巨神兵へと直撃して奴を後ろへ後退させた。


「どうして……」
 そう呟いた僕に彼らは言う。


「別に……俺達はどこまで行ったってここをゲームとしか見れないし、それで良いと思ってる。お前から見たら覚悟が足りないのも遊び半分なのも認めるさ。
 だが俺達は俺達なりにこの遊びに真剣なんだよ。それだけじゃやっぱりダメか?」


 何でだろう……何でこんなに、この背中が暖かいと感じるのだろう。離した筈なのに……

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