命改変プログラム

ファーストなサイコロ

黒の叫び



「アギト……アギトアギトアギトアギトォォォ!! 貴様を今こそ完全に越えた! もう……並ぶべくも無い!」


 ビキッ――そんな音がガイエンの下半身を包む丸い球体から響き広がっていく。それと同時に夜より黒い影がガイエンを中心に広がりだした。


「――っつ!?」


 近くに居たモンスター共が吹き飛ばされ、その余波は俺達にまで届く。ただの影じゃない……これ自体に重さがあるみたいだ。
 そして球体の正面に何かがせり出してくる。あれは……


「カーテナ……」


 間違いない。


「ああ、その通り。王の証は我の一部……文句の付けようも無いだろう!」


 黒光りする腕が振られる。それだけで辺りのモンスター共が空へ上がり消えていく。カーテナと一体化したガイエンは全身が武器って事なのか? 
 防具も無く上半身を露わにしたのはそんな物必要ないから……唯一ガイエンが身につけてる物があるとすれば、それは指に光る小さな指輪だけ。


「ガイエン……お前、自分がどうなってるか分かってるのか!」
「クフフフフフ、ハハハハハハハハハ!! 分かっているさ。カーテナを取り込んだ私は、真の王と成っている。
 受け入れろアギト。これがエルフを統べる為に、エルフを越えた者の姿だ!」


 ガイエンはどうやら自身の姿を問題視してない様だ。だけどそれがおかしい。どうみてもガイエンは人ではないしましてエルフでもなくなってるんだ。
 幾らここがLROと言うゲームの中で、リアルの自分はどうにも成ってないと分かっていたって、ここで感じる事は本物だ。
 自身の変わり果てた姿に何も思わない筈はない。正常なら、GMコールが最優先だろ。
 揺らめく炎を背にして異形と化したガイエンは高笑い続けている。だけどそこに溢れ続けるモンスターが声を被せる様に叫びだした。
 覚醒はタゼホにいる全ての亀型獣人モンスターに発生しているみたいだな。後から現れる奴らも同様に体から怒りのオーラみたいなのを纏っている。
 モンスター共はもう僕らをみていない。奴らの狙いは一度に大量の仲間を消し去ったガイエン。元々ここに居た奴らと合流したモンスター共は俺達の目の前でガイエンへと襲いかかる。
 次から次へと積み上がっていくモンスターの山。これじゃガイエンだけじゃなく、下の仲間も圧迫死してそうだ。だがその時、山と成っていたモンスター共が弾けた。風船が割れる音を何十倍にもしたような音と共に、空へと飛ばされ大量の光が再び夜空へと昇っていく。


「ふん、無粋な奴らだ。雑兵が幾ら集まろうと意味はないと、その無い頭に分かるように刻んでやる」


 めげすにガイエンに向かい続けるモンスターの叫びの中で、そんな奴の声がねっとりと張り付く様に俺には届いていた。
 そして次の瞬間、俺の目の前で起こった事は完全なる“理不尽”の固まりだった。
 ガイエンが自身の口を裂く様に唇の端を引き上げる。そして腕を子供が癇癪を起こした時みたいにただ闇雲に振る。そしてその行為にガイエンだけじゃない笑いが混じってる事に気付く。
 こいつが出てくる時に響いたあの声……大量の子供の笑い声。


「くくくくくく、くはぁ~はっはっはははははははは!!」


 ガイエンは自分の声さえ飲み込むほどのその笑いが聞こえてないのかやたらと上機嫌だ。ガイエンが嬉しそうに腕を闇雲に振るう度に、その動きと併せてカーテナが力を振るう。それで十分なんだ。次々と起こっていくカーテナの力の嵐に、モンスター共はただ巻き込まれて行くだけ。
 けれど猪突猛進な彼らはそれでも止まろうとはしない。仲間の叫びに力を貰うように次から次へとカーテナへとその身を捧げ続けてる。
 ガイエンの周りはもう溢れだした光で埋め尽くされる程に成っている。だけどガイエン自身の体は段々と深く濃く成っていく感じがする。
 あたかも強い光で影がより濃く、より深く成る様に。


「やめろ……」


 俺は静かにそう呟いた。なんでそう言ったのか自分でも驚いた。だけど何だか悲しくなってイライラするんだ。今のガイエンを見てるとどうしても……
 その時、吹き荒れていた嵐がピタリと止まった。風のうねりも、モンスターの叫びも、ガイエンとそして無数の笑い声も無くなったこの場所はとても静かにあいなった。
 耳に届くは鳥の声と、はぜる炎の音。いつの間にかモンスターは綺麗に消え去っている。そして次に現れる様子も無い。出尽くしたみたいだ。
 それから大きく息を吐いて脱力したガイエンから、声が漏れてくる。


「くく、刻む事も出来ずに終わったか。しょせんは雑兵、学習すると言う機能も奴らには高尚過ぎた様だな。かはははは、がははははははははは!! 頭が高い、ここは王の御前だぞ」


 モンスターが居なくなってやけに広く感じられる場所に佇み、ガイエンはまた笑い出す。本当に上機嫌に……おかしな事を言いながら。
 何が王の御前だ!? 何が高尚だ!? 今のお前はそれらから最も遠い位置に居るだろう。


「ガイエェェェェェェン!!」


 俺の槍が叫びと共にガイエンの胸を貫いた。そして瞬間、槍とガイエンの体の隙間から子供の叫び聞こえてくる。後ろからは親衛隊のガイエンを心配する声もある。
 こんな状態の奴でもまだ付いていけるのだろうか。


「アギト……貴様……」
「お前は王なんかじゃねーよ。ノウイが居れば、その醜い姿を鏡に映して見せてやれたのにな。そして知れた……自分がただの化け物だと!
 目を覚ませよ! お前がこだわったエルフはそんなんじゃ無いはずだ!」


 俺は畳みかける様にガイエンに言葉を浴びせた。こんなんじゃ無かった筈と言い聞かせた。俺はそれを知っているんだ。だからそう言える。
 こいつは誰よりもエルフという種族に誇りを持ってた筈だ。それなのに……こんな姿を許せるだなんて思えない。


「言いたい事はそれだけか?」
「――っつ!!」


 その時問われ返されたガイエンの言葉に痛みや苦しみは無かった。ただ何気にそう言っただけの様な口調。おかしい……確かに俺の槍はガイエン体を貫通してるのに。それに間違いなんてない。
 けど確かに良く考えると変だった。ガイエンに槍を突き刺した時から感触が殆ど無かったんだ。まるで液体か、ゼリーでも刺してる感じ。
 そして確かに目では突き刺さってると視認出来るのに、ガイエンのHPは一ミリたりとも減ってはいない事がその証拠か。
 初めから効いてなんかいない……最初のアレは演技か。


「くくく、相変わらず知った風な口をきくガキだな。そんなんじゃない? 貴様は何も分かってない。言っただろう。この姿はエルフを越えた証だと」
「お前は結局……人の上に立ちたいってだけか?」
「浅いなアギト。それに貴様も頭が高いぞ」


 瞬間、俺の居た場所の地面が陥没して、周りの土が圧縮された分を吐き出すために割れ上がる。だけどそこに俺はいない。
 ガイエンの言葉で攻撃を悟った俺は、とっさに槍を引き抜いて後ろに飛んだ。そして直後、ガイエンは腕を振っていた。
 まさに間一髪……覚醒中のモンスター共をたかが数発で天に召す攻撃は一発でも当たればかなりやばいだろう。だが間一髪じゃ今のガイエンにはまだ甘かった。
 予想外だし、ガイエンもそれを考えてた訳じゃないだろうが、カーテナの余波だけで俺の体は数メートルは深く後ろに飛んでいた。


「ぐっ……」


 地面に接した靴が地面を滑る。止まったときには俺は膝を付く態勢に成っていた。


「そう、それでいい。貴様もへりくだった姿が似合うじゃないかアギト。そうしてれば少しはカワイ気があるぞ」
「テメーに可愛いなんて思われたくもない!」


 俺はそう言うと力強く立ち上がる。こいつにへりくだるなんて死んでもイヤな事だ。特に今の状態のガイエンに頭下げるなんて更に屈辱。
 それに何、気持ち悪い事言いやがるんだ。


「くくくく、王に頭を下げる事は自然の摂理だ。そしてお前がエルフであるのなら私に頭を下げるのは絶対法則。さあ、ひざまずけアギト」


 ゆっくりと両手を広げたガイエンの言葉が頭に響く。それと同時に何故か体が重くなった様な感覚が襲う。


(攻撃された?)


 そう思ったが何かが違う。体が勝手に動く?


「え? セラちゃんどうしたの?」
「体が……」


 後ろからの声に何とか振り返ると、セラが地面にひざまづいていた。有り得ない……アイツが敵と見なした相手にひざまづくなんて不可解の以外の何者でもない。
 視界の中には同じようにひざまづいている姿が見える。大多数は親衛隊……残りの奴もエルフと来てる。コレは一体どういう事だ?


「エルフである貴様等はその更に上位種へと成った私を崇める運命と言うことだ」
「な……んだと?」


 そんな事が強制出来る物なのか。そうこうしてる間に俺も地面に膝が付く。これは外より中のダメージが大きそうだ。マジでイヤだけど、体は奴へ頭を下げ様とする。


「くくははははははは! これでお前も認めざる得なくなる。貴様を常々そうさせたいと思っていたよアギト」
「はは……こんな形だけ頭下げさせて喜ぶなんて落ちたなガイエン。そんな風に成る前のお前なら、こんな事に意味なんて無いと分かったはずだ。
 例え頭を下げたって、俺はお前を王だなんて認めない。俺達が認めた奴はたった一人……アイツだけ何だからな」
「アレにもう力など残っていない。ただのカーテナの寄り代であればいい」


 寄り代? どう言うことだ。分からない事が多すぎる。次々とおかしな事が起こるから考える暇がない。それでも少しづつ繋げて行くしかない。
 頭が地面につきそうだ……考えろ、考えて、考え抜いてアイリを助け、ガイエンを倒すんだ。


「ふざけないでよ!! 聖典三機リリース!」


 その声と共に俺の上を何かが通っていく。そして前方でピンク色の閃光が走ると、ガイエンのいた部分が爆発した。
 その瞬間、呪縛が解けたかの様に体が自由を取り戻す。


「セラ!」
「ふざけた事をグダグダと! 男の嫉妬って本当に見苦しいわ! アギト様に嫉妬して……アイリ様に嫉妬して! 手に入れたのがその姿ならお似合いよ!」


 更にセラは畳みかけるように三機の聖典から光線を放ち続ける。収まらない爆発の渦が暴風を伴って辺りにまき散らされ、舞い上がる粉塵が俺達の視界を狭めて行く。


「「ガイエン様~~!!」」


 親衛隊のそんな悲痛な叫びが上がる。アイツ等はまだあんな姿になったガイエンに付く気なのか。一体何で親衛隊とガイエンを繋いでるのか気になる所だが、それよりも気になる声が煙の中心から聞こえてきた。


「安ずるな。お前達の王は倒れはしない」
「くっ!」


 その瞬間、内側から巻き起こった風が煙を晴らしていく。続いて聖典の一機が撃破されたのか、炎に包まれて消えていった。
 多分煙を晴らしたこの風はカーテナの力の影響なんだろう。ガイエンの狙いは間違いなく三機の聖典だった筈だ。だけど潰れたのは一機だけ、つまりセラはいち早くソレに気付いてたって事。
 さっき苦い顔して呟いた「くっ!」はその為だったようだ。残り二機の聖典は空を旋回してセラの元に戻って来る。


「すみませんアギト様。あんまり効いてないみたいです」
「と、言うかほぼ無傷みたいだけどな。でも助かった。アイツに頭下げるなんて死んでも嫌だからな」
「同感です」


 セラは戻ってきた聖典の胴体を労う様に撫でながら前を見る。そこには黒い腕を掲げてヒラヒラと振るガイエンの姿がある。


「聖典か。だが今の私には蠅と同じだな。私は王だ。群がる場所を間違えるなよ――」


 言葉に併せて黒い影が俺達の足下を浸食していく。そして言葉は続く。


「――叩き落とすぞ」
「セラ!」


 奴の言葉の終わりと同時にそれは起こっていた。足下にまで広がったガイエンの夜よりも暗い闇。それから刺の様な物が延びている。
 だけどそれすらもセラはとっさに交わしてる。聖典は思考で操るって言ってたが、どれだけ頭の回転が早いんだか。でもそれくらいでないと聖典は一機以上同時に操るなんて出来ないのも事実。
 だからこそ未だ聖典を扱ってるプレイヤーなんてセラ以外見たこと無い訳だ。
 最初の一撃を交わした聖典二機だが、直ぐに周りの影から大量の刺を空に伸ばして追撃しだした。


「なっ!? ちょっとこんなの……」


 思わず声をこぼすセラ。だけどそれも無理はない。だって聖典を追撃する刺の数は尋常じゃないんだ。無数の刺が地上から伸びすぎて俺達は一歩も動く事は出来ない。
 だけどこの刺がいつ俺達に向くかと思うと寒気がする。てかそれをすれば早い筈なのに、何故か刺は俺達を避けて飛び出してる。
 これで俺達を倒す気は無いって事なのか? 刺で遮られた視界ではガイエンの顔を伺うことも出来ない。見えるのは区切られた様な星空だけ。そこでは聖典二機がまだ無数の刺をかわし続けていた。


「やっぱスゲーなアイツ」


 思わずそんな言葉を呟いてしまう。だってそうだろう、あんな上下左右から無数に飛来する物をかわし続けれるか? それも自分の体を離れた物を二つ同時に操って・・俺は無理だと断言出来る。
 俺だって戦闘中に頭は使うけど、セラのそれとは性質的に大分違うだろう。その時後方の方から声が聞こえてきた。これはシルクちゃんとセラだろう。


「ダメだよピク。飛んじゃダメ! ブスッと刺されちゃうよ。セラちゃん、どうしよう……」
「ああ~もう! ちょっと静かにしてて貰えませんかシルク様。集中してるんです」
「んきゅ……ごめんね」


 てな会話が突き出た刺の向こう側から聞こえて来ていた。それに更に複数の言葉も聞こえる。セラ達は固まっていたからもしかしたら全員を囲んでるだけなのかも知れないな。
 俺は一人飛び出してたからこんな事になってる感じなんだろう。
 刺は幾ら攻撃してもビクともしない。ガイエンは二つの聖典を潰すまでコレを引っ込める気は無いだろうし、完全に立ち往生だ。


「流石は蠅だ。良く飛び回る」
「聖典は飛び回るだけじゃ無いわよ。私は今のアナタをガイエン様とは認めないわ。この化け物!」


 その瞬間僅かに覗く夜空に閃光が走った。コレまでの小さく一瞬で消える物じゃない。二機だから細いけど、あれは間違いなく聖典の特性技だ。
 聖典は操る数に比例して性能が向上する。そして重ねた技は陪乗だ。走った光は前方の影をケチらして一直線の走っている。その先は見えないが多分ガイエンを目指してるんだろう。
 そして三つの爆発が重なった。二つは空から……そして一つはガイエンがいた方だ。刺の隙間から噴煙がこちら側にも染み出してくる。


(やった?)


 とはとても思えない。たった二機の聖典のブラスト位で今のガイエンが倒れるとは到底考えられないからだ。だけど刺は次第に引いていき、闇の中へと全て消えていく。そして声は響いた。
「蠅退治は終了だな」


「そうかしら? 私の聖典は決して落ちないわ」
「ふふふははははは! 何が落ちないだ? 今しがた三機も落ちていったぞ。私が落としたのだ」


 ガイエンは楽しそうに、子供の様に得意気にそう言った。苛つくが、確かに間違いは無い。聖典は落とされた。だがセラはそうじゃないと言う。


「言ってなさい。必ず私の聖典がアンタを焼き殺してあげるから」
「ふふふ、王に向かってその豪気。お前がそんな奴とは知らなかった。面白い、気に入ったぞ。もう少し早ければ、お前も親衛隊に誘っていたのに」


 そんなガイエンの言葉に今度はセラが高笑いを始めた。ガイエンとは違い、気持ち良いぐらいの高笑いっぷりだ。


「あははははははは! やめてよねそういうの。知らないのも無理ないわ。だって私、アンタだけには媚び売ってなかったもの。興味なんて無いの。嫉妬に狂う男って特に」


 その言葉の後に二人は盛大に笑いあっていた。そしてしばらくするとガイエンは唐突に俺の方を向いて叫んだ。


「アギトォォォォ!!」
「何で俺だよ!」


 訳分からん。何で唐突にこっちに矛先が変わるんだよ。さっきまで会話してたのはセラだろ。だけど既に据わった目でガイエンは俺を睨んでいる。


「貴様が居るから……居るから……居るから……いつまでも目障りな奴・・消す消す消す!」


 どんどんガイエンの言葉が物騒に成っていってる。それに怒りに呼応してるのか地面の影が激しく揺れだしていた。


「みっともない……アギト様が居るから自分が、とか思ってる様だけど、単純にアンタにそれだけの力が無いとか思わないの? そろそろ認めなさいよ!」
「うるさい! 私は王だ! 王に成った! 全てで勝ることが証明出来る! なのに何故、お前はそっちにいる? アギトが居るからだろう!」


 セラの挑発めいた言葉で更に激しくいきり立つガイエン。こいつが俺を嫌いなのは知ってたが、まさかこれほどとは。いつからだったんだろうか……ガイエンがこうまでなった理由がコレなら、それは俺のせいなのか? 
 何で俺なんかと比べるんだよ。


「自分だけで吠える王なんて王じゃないわ。そんなの子供が憧れてるヒーローのグッズを手にして、自分もヒーローに成った気に成ってるのと同じよ。
 だけどアンタはもう子供じゃないんだから、私達は優しく受け流さない。それに私子供も嫌いだけど、子供のままの大人ってもっと嫌いなの。だからはっきり言ってあげる。
 私がここに居るのはアギト様が居るだけじゃ無いわよバカ!! 私、アンタの事大嫌いなの……それだけよ」


 一瞬でこの場が凍り付いたと感じた。まあ主に凍り付いてるのはガイエンと親衛隊の面々だけど、心がピュアなシルクちゃんもセラの言葉に幾分引き気味だ。
 彼女は嫌いな相手にも歩み寄ろうとする性格だからな。きっとセラの言葉が理解出来なかったのだろう。豪慨不遜な態度のセラは言い終わると自身の髪をさっと撫でてプイっと横向いた。
 俺は流石セラ……とか思ってたよ。あそこまで気持ちよく言ってくれるとなんだか笑いがこみ上げてくるな。いやマジで。実際俺だけじゃなく、セラの周りの何人かも腹を抑えてるのが見える。
 だってあれだけやりたい放題のガイエンを一喝したんだからな。見事で天晴れだ。
 だけど当然に言われた方は笑えるわけはない。奴の影が凄い勢いで震えだし、その影からかまたも無数の叫びが聞こえ出す。笑い声じゃない……今度は叫び。この声もガイエンの気持ちとシンクロしてるのかも知れない。


「私は……私を認めない世界などいらない! そうか貴様等は私を認める事が出来ないか……なら、私の国に私の世界に居場所は無いと知れ!」
「だからそういう性格が大嫌いなのよ!! それでも……前はまだマシだったのに」


 臆することのないセラ。その視線に耐えきれなくなったのかガイエンは更に叫ぶ。それはセラにではない。そして俺にでも無かった。
 ガイエンが求める物は一個の集団だ。


「親衛隊!! 貴様等何をしている! 王を侮辱するそいつ等を戦滅しろ! 認めさせてやるがいい……私が王だと!」
「「「はっ!!」」」


 親衛隊は武器を握ってセラ達へと構える。セラ達もそれに応戦するために親衛隊へ向いた。だがその時黒い影が親衛隊を覆うように被さる。そして轟く悲鳴が聞こえる。
 だけど次の瞬間にはその影がどこかへ吸い込まれるようにして消えていった。


「何が……」
「カーテナは、この地を守る騎士にその力を分け与える事が出来る。それこそが『カーテナの加護』と呼ばれる物だ。知ってるだろう?」


 現れた親衛隊は一様にその肌を黒く染めている。けどそれはとても俺の知ってる加護なんかじゃ無かった。

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