命改変プログラム

ファーストなサイコロ

駆け抜ける道



 奴の言葉と共に、タゼホにモンスター共の叫びが轟きわたる。解放の瞬間だ。関を切った様に動き出すモンスター共の足音が雪崩の様に迫り、今度は止まることが無いだろう。止めた奴が「もういい」と言ったんだから。
 我慢に我慢を重ねていたモンスターはうねりをあげて目の前に迫る。後少しで奴の居る建物なのにここに来て厚い壁が出来あがる。


「邪魔だ!」


 僕はシルフィングを振るい、迫りくるモンスターを切り伏せる。だけど流石に数が多すぎる。切っても切ってもゴキブリの様に沸いてくるんだ。これじゃあ切りがない。
 たどり着けない……直ぐそこなのに。
 その時、モンスターの魔法が僕に当たる。いや、捕らえられたと言う方が的確。拘束系魔法で体の動きが阻害された。


「しまっ!」


 迫りくる巨大な斧。そうだった、こいつらも僕らと同じように前後衛で分かれてるんだ。その程度のAIはこの獣人型のモンスターは持っている。
 亀が二足歩行しだした様な姿しやがって、やっかいなモンスターだ。
 一撃食らえばこの魔法は解けるだろうか? 一撃でやられる筈も無いし、その程度は我慢する! 普通のプレイヤーよりも痛みが直接的に来るんだけど、死にはしないさ。
 僕は歯を食いしばってその攻撃に備えた。けれどその時、後ろから小さな影が目の前を横切る。


「チェストー!!」


 そんな声が聞こえると、モンスターは後ろへと倒れて行く。倒れたモンスターの上には小さな人影が見えて、彼は自身サイズの小さな剣に輝きを乗せて再びジャンプした。
 そして迫り来る亀の急所を的確に突き動きを止めている。


「スオウ君先走り過ぎだよ!」
「テッケンさん」


 それはいつもどこでも頼りになる小さなヒーロー。本当に小さいのに格好良いなこの人。でも僕の拘束はまだ解けていない。
 後衛陣はまだまだ後ろ……というか、倒しても倒しても沸いてくるのは大きな武器を持った前衛部隊だから、これじゃたどり着けない。


「ふん、やっぱりお前まだまだだな」
「もうーいいから早く! エイルお願い!」


 更に後ろから聞こえた二つの声。視線を何とかその方へ向けた時、再び小さな影が迫っていた。そして僕の背中と頭を蹴ってモンスター共の頭上へ上がる。
 エイルはその間に詠唱を終わらせて装備した杖を振った。


「グラビティーウォール!!」


 すると突然、モンスターが地面に張り付くように倒れ伏した。そして同時に僕の魔法も解ける。どうやらエイルの魔法で術者まで巻き込めたようだ。
 助かった……そう思ったら今度は更に数人が横から飛び出してきてテッケンさんと共にモンスターに止めを刺していく。


「エイルの新しい重力魔法なの」
「重力魔法……」


 後ろからレイピアを携えたリルレットがそう説明してくれた。成る程ね、だからモンスターは地面に這い蹲る様に成ってる訳だ。
 でもこれで安心じゃない。既にエイルの魔法の範囲外からも迫りくるモンスターが見えている。流石に今倒れてる全部に止めを刺すのは不可能だ。
 それに目的の奴は這い蹲っていない。確実にエイルの魔法を受けてる筈なのに。


「アイツ、ムカつく」


 そんなエイルの言葉に珍しく賛成だ。あそこに行かなきゃ成らないけど、この建物も火の手が上がってる。まだ崩壊するまでじゃないが、建物に満ちた煙が窓から吐き出されてる。
 流石に中を通ることは無理っぽい。どうなるかわからないけどフィールド効果で死にたくはないからね。毒の沼とかああいうのでやられると腹立つんだよ。それと同じに見える。
 けどそれならどうやって……流石に屋根に飛び移れるだけの跳躍力は無いぞ。乱舞状態ならともかく。


「ほらほら~早く~☆ 鬼さんこっちだ、手の鳴る方へ~」


 ウキウキランランしながらそんな歌を歌って僕を誘う奴。


「そろそろ魔法も解けるぞ!」
「第二陣も到着する。スオウ君急ぐんだ」


 エイルとテッケンさんの叫びが耳に届く。確かに残ったモンスターが何とか立ち上がろうとしている。そして武器を振り回しながら迫り来るモンスターの群。
 僕が奴に追いつかない事にはまた、同じ事の繰り返しだ。屋根の上の奴を見上げて歯を食い絞めてると更なる声が届く。


「行けるっすよ! 俺のミラージュコロイドなら!」


 そして目の前に現れた透明な鏡。確かにこれならあんな距離一瞬だ。


「サンキューノウイ!」


 僕はすぐさま鏡に飛び込んでそして現れたのは奴の頭上。丁度いいからシルフィング浴びせてやる。だけど、切ったと思った奴は影の様に消えていった。


「何?」


 屋根に移動してきたみんなと共にタゼホの暗い道を見渡す。ここで見失う訳には行かない。なんとしても見つけないと。
 するとその時、仲間の肩に乗るテッケンさんが叫んだ。


「居た! 崖の方に続く道だ!」


 全員が一斉にそちらを向くと確かにブロンドの髪が揺れているのが見える。一瞬であんな所まで……一体どんなマジックだ? 
 すると奴は僕たちに自分の位置を知らせるように立ち止まって手を振りだした。


「きゃっほ~~☆ こっちだよ~~」


 明らかに遊んでる。楽しんでる。さっき鬼さんとか言ってたし、奴は鬼ごっこでもしてる感じなんだろう。こっちは真剣なんだけどな。
 奴のあの余裕を無くさなきゃ対等な戦いは始まらない気がする。それにはまず奴に追いつくこと。


「スオウ!!」


 轟いたのはアギトの声。振り返ると、モンスターを吹き飛ばしながら戦っているアギト達が見える。向こうにはセラやシルクちゃん後他十人位が残ってる。
 幾らこっちより人数多いからって喋れる状態には見えないけな。


「何だよアギト?」
「気をつけろ。奴は全く底が見えない。それに俺が見た時、髪の色が違ったんだ」
「は?」


 底が見えないとかは大いに分かる部分だが、髪の色はそう重要か? 何か意味があるのだろうかそれに。


「だから髪の色だよ。俺が見たときは黒かった。重要か分からないが、知ってたって損は無いだろ!」


 確かに損は無いけど、得があるのかも分からない情報だ。黒から金へ……イメチェンじゃねーの? と思う僕は浅はかなのかな。
 まあ頭には置いておこう。それにしてもアイツはまた何でもかんでも気にしすぎだ。まあそれがアギトらしいんだけどさ。


「受け取っとくよ。アギト、死ぬなよ」
「はっ、お前もな」


 僕達はそれから背を向けてそれぞれやるべき事に専念する。僕だってアギト側で気になることはあるけど……そっちは全て任せるしか出来ない。
 僕が知ってる情報以上の物をアギトは持ってるだろうしさ。これ以上あそこに居続けるのは信頼への裏切りだよ。信じてるからそれぞれの場所へ行けるんだ。
 だから僕も行かなきゃな。僕は僕を待ってる人の所へ。


「そういえば髪の色違うっすね~」


 とか何とか言ってるノウイに僕は聞く。そういえばこいつもあの時のアルテミナスに居たんだっけ?


「なあノウイ。ミラージュコロイドで後何回飛べる?」
「後そうっすね。今回はこの人数だし三回は余裕っす。だけど遠くに行きたいなら開けた場所からでないとっすから、屋根を伝った方がいいんすけどね」


 そういって周りを見渡すノウイ。このタゼホは家々も点々としてるし燃えてる家もあるからてじかな場所がない。それに奴の居る崖の方は大きな建物が一軒あるだけ。必ず地面に落ちる事になる。どのみち一緒だなこれなら。結局はモンスター共をケチらしながら進むしか無いって事だ。


「最初だけでいいよノウイ。てかミラージュコロイドなら一気に奴の場所まで行けるんじゃないか?」


 よくよく考えたらそれ出来そう。けどノウイは首を振った。


「ちょっと下で何枚か損傷したんでそれ無理っす。それに遠くに飛ばすには重量制限があるっすよ」


 成る程、アルテミナスから脱出したときは三人だったから出来たのか。


「モブリは二人で一人の計算っすけどね」


 て事は、あの時は二人半って事か。それを考えると今の人数は十人弱。五倍近い数じゃ無理がある。やっぱり楽は出来ないって事らしい。


「じゃあやっぱりなるべく奴に近い場所に一回でいい。後は強行突破だ」
「それしかないね」
「詠唱中はちゃんと守れよ」
「大丈夫だよエイル。さあ行こう!」


 いつものメンバーがそれぞれ言葉を発して残りの人たちも異論は無いようだ。建物を囲むモンスター共が崩そうと攻撃を繰り返してそろそろこの建物も持ちそうにない。
 なるべくモンスターが密集していない場所で一気に奴の場所まで抜けられる所。モンスターはこちらに向かって移動してるから上から見てると分かりやすい。
 松明あるし。けど、なんかやっぱり多い。次から次へとどこかから沸いてるんじゃないのかと思える程にモンスターの姿は途切れない。絶対的に飽和状態だよこんなの。


「どうするっすか?」


 迷うノウイの言葉はごもっともだ。村だから路地なんて物は無いし……どこも自然に満ちたそれなりの道に成っている。その全てにモンスターが居るよ。今行る場所は村でも入り口付近。
 崖の上から高さを活かさして一気に下ったのが仇に成ったのかな? ガイエン達が崖の直ぐしたまでたどり着くまで待っとけば良かったよ。まあそんな事考えても意味はないけど。
 今はこの状況をどうやって切り抜けて奴の場所まで行くのかが重要だ。どこも同じなら……せめて奴への道が最も近い場所へ。


「中央だ!」
「マジっすか?」
「大マジだ。直線で一気に抜けるぞ!」
「ええいここまで来たらヤケクソっす!」


 エイルが鏡を前に並べる。そして僕らそこに飛び込んだ。出たのは多分村の中央通り。僕らの足下には移動するモンスターがパーティーを組んで移動している。ワンパーティーに一つの松明を持っているって事だな。


「うおおおおおおお!!」


 明かりを弾き飛ばし、モンスターを吹き飛ばしてみんなの降りる場所を作る。そして全員が揃ったところで一気に行動開始だ。


「エイル!」
「分かってる。命令するな!」


 エイルは再び重力魔法を発動させる。指定した一体を対象として周囲のモンスター共が一斉に倒れ伏して道が開けた。僕らはそいつ等を踏みつけて、それぞれの武器にスキルを宿して先の敵に飛び込む。
 これでエイルの魔法が途切れたら挟み撃ちだな。だからその前に道を開く!


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 真っ先に敵の側まで迫ったのは僕とテッケンさんだ。セラ・シルフィングは装備効果に『加速』が、テッケンさんはきっと何らかのスキルでスピードを上げている。
 だから僕らが道を切り開くきっかけを作る役だ。敵が武器を構える前にまずは一体。飛び込んだ勢いで剣を振りかぶり、そのまま回転して続けざまにもう一方で追撃。
 痛みを伴った様な叫びをあげるモンスター。けれどまだ倒すまでには至らない。しかしすぐさま横から別の攻撃が降り懸かる。
 僕は勢いを止めないまま、下ろされる斧に左の剣を合わせて払い、そのまま右腕を突き立てる。だけど更に攻撃は続く。息を付かせぬ多段攻撃。こいつらはそんな事考えて無いだろうけど、確かにそうなっている。
 僕は突き刺した剣を引き抜き前の敵をもう一度切りつけて、更に迫る攻撃を何とかかわす。微かに肩を掠ってHPが僅かに減少した。


(くそっ……けど二撃はノルマだからな)


 心の中で呟きながら僕は敵の懐を抜ける時に二対の剣を同じように構えて同時に二撃を加えた。少し視線を向けるとテッケンさんの姿が見えたり消えたりしてる。
 彼はどうやらその小さな体を最大限に使って敵を翻弄してるようだ。それに豊富なスキルも彼にはある。それに対して僕が頼れるのはこのセラ・シルフィングと、十にも満たないスキルのみ。
 だけどそれでも……負けてやる事なんか出来ない! 避けて切って、時にはスキルですり抜けて舞うように群がるモンスター共に確実に二つの剣撃を浴びせていく。
 すると次第にセラ・シルフィングの刀身に星の輝きが集まり出す。浮かび上がるのは今日の夜空と同じ様な光景だ。
 モンスター共にはセラ・シルフィングで斬られた後が消えずに青い光を伴って残っている。それがこのスキルの罠。セラ・シルフィングが持っている力は『風』だけじゃない。
 リルレット達も追いついてきてそれぞれがモンスターを切りつけていくのが見える。ここしかない。セラ・シルフィングが『今だ!』と言ってるのが聞こえる気がする。
 左右から同時に振り下ろされる攻撃に合わせてその隙間に飛び込んだ。そして回転しながら左右の敵を同時に切りつける。浅い……けど充分後一撃だ。何も考えてないモンスターは斬られた事にいきり立ち、こちら側に一歩を踏み出した。
 その瞬間、更に深い剣線がこいつらを捕らえる。それは着地と同時に剣を左右に凪いだから。鳥が翼を広げるような体勢で、その瞬間僕を中心に風が全包囲に広がった。
 これでこいつらにも二撃目。その浅黒い体には青い線が縦と斜めに入っている。飛び交う魔法の光や、みんなの声とモンスターのうねりがこの空を満たしていく。
 そしてセラ・シルフィングが僅かに放電し、それは今までつけたモンスターの傷に呼応している。空を染めるうねりの中心で僕はそのスキルの名を口にする。


「ライジングバースト!!」


 その瞬間青い光がその場にスパークした。今まで斬ったモンスターの傷口からその雷撃は沸き立ち、セラ・シルフィングへと合流する。
 辺りに響きわたるモンスターの断末魔の叫び。電撃が全身を包んで弾けゆくモンスター達はまるで、セラ・シルフィングに命を吸われている様に見える。
 焦げ臭い様な匂いがその場に流れ出した。モンスター共はその突然の事に動きを止めている。そして全ての電撃がセラ・シルフィングに集まっていくと、辺りを覆っていた青い光と激しい音が不意に途切れた。
 そんな中、後方の炎の明かりを背に受けて佇む僕の周りだけが明るい。青い光は二対の刀身に集約されていた。僅かに後ずさるモンスター共。きっとこれから起きることでも本能で察したか……僕は左腕を奴らに向かって突きだした。


「通らせて貰うぞ。今度こそ!」


 その言葉を向けられたモンスターは理解したのかしてないのか分からないけど、一斉に吠えて大地を揺らした。そして一斉に僕へ向かって走り出す。


「スオウ君!」
「今度こそ抜けます。全員僕の後ろへ来てください!」


 みんなそれなりに消耗している。こんな所で足止め食ってる場合じゃないのにさ。だからみんなの為にも道を開こう。今のセラ・シルフィングにならそれが出来る筈だ。
 全員は戸惑いながらも僕の後ろに集まってくれた。そして僕がモンスター共に向かって走り出すのに合わせて付いて来てくれる。
 壁の様に押し寄せるモンスター。まだまだこんなに居たとはびっくりだ。


「おい! 本当に大丈夫なのかよお前! 死ぬ死ぬ死ぬぞ!」
「大丈夫だよ。お前も僕を信じろよエイル!」


 余りの敵の数に圧倒されてる様だけどさ、エイルにもこの状況は説明したはずだ。弱気なエイルに、僕は力強く声を返してやった。


「大丈夫、スオウ君ならやってくれるさ」


 テッケンさんが横からエイルにそう言ってくれる。するとエイルは何か少し震えた後に、こちらを向いた。


「テッケンさんがそう言うなら……おい! お前の力見せて見ろ!」
「はは、見逃すなよエイル!」


 言葉を返した後、少しだけ仲間との距離を開く。そして迫り来るモンスター共に一番に迫る。だけど僕はモンスターに届かない間合いで両の手を振りあげた。すると意志を汲み取るようにセラ・シルフィングがその刀身を青く放電させ始めた。
 その放電は青い光と共に強くなっていき、この言葉と共に内包されたエネルギーは解放される。


「ブレイク……バァァストォォォ!!」


 振り下ろした剣から青い斬撃が飛び出し、モンスター共の戦闘を走る奴らを吹き飛ばした。そして一気にそこに僕は踏み込んだ。あの一撃だけじゃない。まだこのスキルは続いている。
 左右の剣先からプラズマの様な物が線を帯びて地面に伸びていた。それは剣の動きに合わせるように付いてきて、地面を抉りながら進む。
 それに触れたモンスター共は断末魔の叫びをあげて一瞬で丸焦げになり霧散していく。余りの高圧電流で抉れた地面にまで炎を走らせて行くそれは、目の前に大挙していたモンスターを次々に倒していく。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 雷を宿したセラ・シルフィングにモンスターは為す術がない。このスキルは集めた命の分だけ威力を増す。無造作に大量発生しているだけ好都合だったんだよ。
 次第に向かってくるモンスター共に限りが見え始めていた。だけどこっちもそろそろヤバそうだ。この状態はそう長く持たないからな。
 剣先から延びるプラズマが次第に小さくなっている。これが切れた時がブレイクバーストの終わり。


(後少し……後少しでたどり着けるんだ! だから、持ってくれ!)


 地面を抉り、木を切り倒し、建物を崩しても雷撃は止まらない。前方に集うモンスターを、もう何度目かも分からないくらいに払うとその先が見えた。
 いや、実際はこのタゼホでならどこでも見えるけど、それが近くなり存在感を表している。このタゼホを囲む様にせりたっている崖……その大きさがマジマジと見えてきた。
 最後に残ったモンスター共はどれも後衛タイプ。そいつ等はシールドを張って最後の砦の役を担っていた。だが、僕はシルフィングを横一線に凪いだ。その瞬間道に二重に重なりシールドを張っていたモンスター共の上半身が傾く。
 そして半円を描く様にモンスターの後ろには炎が上る。僕達はその炎を飛び越えて遂に崖下にまで躍り出る。その瞬間セラ・シルフィングの糸が切れた。
 放たれてた青い光と放電の音が静かに消える。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 荒い呼吸を繰り返し酸素を体が求める。酸素がLROにあるかは知らないけど、体を巡る血の流れとかは感じるよ。
 僕達が通ってきた道を振り返るとそこは炎の線が上がり、無惨に燃えている木や建物が見える。そして無数の消え逝くモンスターの光。
 その数が余りにも尋常じゃないから、その通りが本当に黄泉とかいう所に繋がっててもおかしくはないかもと思えたりする。
 満点の星空に上る無数の小さな光……それは本当に幻想的な光景だった。


「パチパチパチー流石だねスオウ☆ ほらほらセツリはこっちだよ~」


 奴の声が一気に僕らをこちら側に引き戻す。振り向くと奴は大きな建物の方じゃなく、少し小高くなってる場所にいる。
 僕らもそちらへ急いで上がるとそこには大口を開ける洞窟があった。そしてそこへ奴は入っていく。


「え? こんな洞窟タゼホに無かったすよ」


 そう言ったのはノウイ。ノウイは散々潜入してるし間違いではないだろう。ならこれは罠? それでも、僕は逃げる訳には行かない。


「行こうスオウ君!」


 そう言ったテッケンさん。だけど僕はあることをずっと考えてた。そしてそれは今だろう。ここに入ると気軽に出れそうにないからな。


「テッケンさんとノウイは悪いけど入らないでください」
「ど、どういう事だいそれは!?」
「そうっすよ! 何すかそれは!?」


 僕の唐突な言葉に声を荒げる二人。けれどこれは必要な事だと思うんだ。だから真っ直ぐに二人を見て僕は言葉を紡ぐ。


「二人にはアイリを探して欲しいんです。そしてアギトの元へお願いします」


 沢山の光が昇る夜。遠くでは今だ炎が揺らいでる。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品